説明

水質分析計

【課題】
広い濃度範囲の定量を可能にする。
【解決手段】
検出信号データはデータメモリ2に記憶されていく。ピーク形状検出部4は検出信号データからピークの形状を検出し、パラメータ決定部6はピーク形状検出部4が検出したピークの形状に応じた検出パラメータを決定する。ピーク面積算出部8はその検出パラメータを用いてデータメモリ2に記憶された検出信号データを少なくとも使用してピークの面積値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水、河川水、工場排水などに含まれる汚濁成分などの測定に用いる水質分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水質分析計としては、試料中に含まれる全有機体炭素(TOC)や全窒素(TN)をそれぞれ測定するものや、一台の測定装置でともに測定できるものがある。
それらの測定装置では、試料中の成分を検出した検出信号データに基づいてピークの面積値が求められる。定量を行なうために、TOC濃度やTN濃度と検出されるピークの面積値との関係を示す検量線を予め用意しておき、測定された検出信号データによるピークの面積値から検量線に基づいて成分濃度を定量する(特許文献1参照。)。
【0003】
検出信号データからピークの面積値を求めるには、ピークの開始点とピークの終了点を決定しなければならないが、ピークの開始点とピークの終了点を決定するための検出パラメータは、検出部の出力信号の範囲や測定に用いる検量線の測定条件に適したものに固定されていた。
【特許文献1】特開平11−352058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ある濃度範囲用に用意された検量線を用いて定量する場合、その検量線を適用する濃度に最適な検出パラメータが設定されているため、その範囲よりかなり低濃度の試料を測定した場合、その検出パラメータでピークの面積値を求めると測定の精度が悪くなったり、場合によってはその検出パラメータでは面積を求めることができなくなって検出ができないことも起こりうる。
本発明は、試料からの検出信号によるピークの面積値に基づく成分を定量する水質分析計において、広い濃度範囲の定量を可能にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水質分析計は、試料導入部と、試料導入部から導入された試料中の成分を検出する検出部と、その検出部からの検出信号データに基づくピークの面積値を求め、その面積値に基づいて成分を定量する演算部とを備えている。ここで、検出されるピークの形状は試料の成分濃度に応じて変化するということに注目し、ピークの形状に応じてピークの面積値を精度よく求めるための検出パラメータが存在するとの本発明者の知見に基づき、上記演算部は、ピークの面積値を求める際の検出パラメータをそのピークの形状に応じて決定するようにした。
【0006】
演算部の好ましい一例は図1に示されたものであり、検出信号データを記憶するデータメモリ2と、検出信号データからピークの形状を検出するピーク形状検出部4と、ピーク形状検出部4が検出したピークの形状に応じた検出パラメータを決定するパラメータ決定部6と、その検出パラメータを用いてデータメモリ2に記憶された検出信号データを少なくとも使用してピークの面積値を求めるピーク面積算出部8とを備えている。
【0007】
ピーク形状検出部4の好ましい一例は、ピークの形状として検出信号データの最高値からピークの高さを検出するものである。
また、パラメータ決定部6の好ましい一例は、検出パラメータとしてピーク終了のスロープとピーク終了の検出開始を判断するドリフトラインを決定するものである。ここでドリフトラインとは、検出ピークにおけるベースラインである。
【0008】
演算部はピークの形状に応じた複数種類の検出パラメータを記憶しているパラメータ保持部10を備えることができる。その場合、パラメータ決定部6はピーク形状検出部4が検出したピークの形状に応じた検出パラメータをパラメータ保持部10から読み出すことにより検出パラメータを決定する。
【発明の効果】
【0009】
ピークの面積値を求める際の検出パラメータは、そのピークの形状に応じて演算部によって決定されるので、広い濃度範囲の試料についてピークの面積値を精度よく求めることができるようになり、異なる濃度に共通の検量線を使用した場合にも検出精度が向上する。
【0010】
検出パラメータを決定するためのピークの形状としてピークの高さを用いるようにすれば、検出パラメータの決定を容易に行なうことができるようになる。
ピークの形状に応じた複数種類の検出パラメータを記憶しておき、ピークの形状が検出されるとそのピークの形状に応じた検出パラメータを読み出すようにすれば、検出パラメータを容易に決定できるようになる。
【0011】
ピークの形状が検出され、それに基づいて検出パラメータが決定されたとき、その検出パラメータにより求まるピーク開始点からその時点までの面積値をデータメモリに記憶されている検出信号データに基づいて算出し、その後、その検出パラメータにより求まるピーク終了点まで検出部からの検出信号データを加算することによってピークの面積値を求めるようにすれば、ピーク検出を終えた時点で面積値が求められていることになるため、ピーク検出終了とほぼ同時に定量結果を出力することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を詳細に説明する。
図2は、本発明が適用される水質分析計として、TOCとTNをともに測定できるようにしたTOC/TN計の概略構成図である。
【0013】
環境水などの試料が連続して流れる採水管1には、その試料の一部をTOC/TN計本体内の分岐部3を経てドレン出口12へ排出する流路が接続されている。分岐部3には、採水した試料を分析部に導くために、試料注入機構18の8ポートバルブ14の1つのポートが接続されている。
【0014】
試料注入機構18は8ポートバルブ14とそれに接続されたマイクロシリンジ16によって構成されており、マイクロシリンジ16は8ポートバルブ14のいずれのポートとも接続できるように共通ポートに接続されている。8ポートバルブ14のそれぞれのポートには、分岐部3のほか、無機炭素(IC)を測定するときに試料を酸性にするために添加する酸添加部20、校正用の標準液22、希釈や洗浄に使用するための希釈水24、オフライン試料26、試料中の炭素成分の全てをCO2に変換する触媒を備えたTC(全炭素)酸化反応部32の試料注入部34、不要な気体を排出するためのドレン出口28、及び不要な液体を排出するためのドレン出口12が、それぞれ接続されている。
【0015】
40はガス精製・流量制御部であり、空気入口42から取り込んだ空気から炭素成分を除去して精製ガスを生成し、流量を調節して送り出すために設けられている。このガス精製・流量制御部40のガス出口には、ガス精製・流量制御部40で生成された精製ガスをスパージガス又はキャリアガスとしてマイクロシリンジ16に供給する流路41a、キャリアガスとしてTC酸化反応部32に供給する流路41b、及びオゾン発生部50に精製ガスを供給する流路41cが接続されている。
【0016】
TC酸化反応部32は、試料中の炭素成分をCO2に変換し、窒素成分をNOに変換する酸化触媒が充填されたTC燃焼管36、そのTC燃焼管36に試料とキャリアガスを導入する試料注入部34、及びTC燃焼管36を加熱する加熱炉38から構成されている。
TC燃焼管36の下流部は、水分を除去する除湿器やハロゲン成分を除去するハロゲンスクラバーなどを備えた除湿・ガス処理部44を経て、CO2を検出する赤外線ガス分析部46に接続されている。赤外線ガス分析部46の下流部はNOを検出するための化学発光分析部48に接続されている。化学発光分析部48にはオゾン発生部50からオゾンが供給されている。化学発光分析部48の下流部は、オゾンキラー52を介してドレン出口54に接続されている。
【0017】
赤外線ガス分析部46の出力及び化学発光分析部48の出力は演算部56に入力される。演算部56には、キーボード60及びレコーダ62が接続されている。演算部56は制御部58に接続されており、制御部58は8ポートバルブ14及びマイクロシリンジ16の動作を制御し、演算部56からの出力に応じて赤外線ガス分析部46及び化学発光分析部48の検出器感度を制御する。
【0018】
演算部56と制御部58はCPU(中央処理装置)と記憶装置により実現される。演算部56は、図1に示されたデータメモリ2、ピーク形状検出部4、パラメータ決定部6、ピーク面積算出部8及びパラメータ保持部10の機能を実現している。
【0019】
次に同実施例におけるTC測定、TN測定及びTOC測定の動作を説明する。
(TC測定及びTN測定)
制御部58からの制御信号により、8ポートバルブ14によりマイクロシリンジ16が分岐部3に接続され、マイクロシリンジ16が駆動されてマイクロシリンジ16に一定量の試料が採水される。所定の希釈率が設定されている場合は、マイクロシリンジ16が希釈水24に接続されて、マイクロシリンジ16中の試料に所定量の希釈水が加えられる。
【0020】
次に、マイクロシリンジ16中の試料がTC酸化反応部32の試料注入口34を経てTC燃焼管36に注入され、試料中の炭素成分はCO2に変換され、窒素成分はNOに変換される。
TC燃焼管36で発生したCO2及びNOは、ガス精製・流量制御部40から流路41bを経て、供給されたキャリアガスとともに除湿・ガス処理部44に送られ、冷却、除湿及びハロゲン除去された後、赤外線ガス分析部46でCO2が検出され、続いて化学発光分析部48でNOが検出される。それらの検出信号は演算部56に送られ、その信号からピークの面積値が求められて検量線に基づいてTC濃度とTN濃度が求められる。
【0021】
(IC測定、TOC測定)
TC測定及びTN測定の時と同様にして、マイクロシリンジ16に一定量の試料が採水される。所定の希釈率が設定されている場合は、マイクロシリンジ16が希釈水24に接続されて、マイクロシリンジ16中の試料に所定量の希釈水が加えられる。
【0022】
次に、マイクロシリンジ16は酸添加部20に接続されてマイクロシリンジ16中の試料に少量の酸が加えられる。その後、マイクロシリンジ16は試料注入口34に接続され、ガス精製・流量制御部40から流路41aを経てスパージガスがマイクロシリンジ16に供給される。試料中のICから発生したCO2はスパージガスとともにTC燃焼管36を経て除湿・ガス処理部44に送られ、冷却、除湿及びハロゲン除去された後、赤外線ガス分析部46でCO2が検出される。検出信号は演算部56に送られ、その信号からピークの面積値が求められて検量線に基づいてIC濃度が求められる。
演算部56では、TC濃度とIC濃度の差からTOC濃度も求められる。
【0023】
次に、図3と図4を参照して検出ピークの面積値を求めるときの動作を説明する。
図3は赤外線ガス分析部46又は化学発光分析部48での検出信号による1つのピークを示したものである。開始点Sから終了点Eへの方向(横軸)は時間軸を表わし、縦軸は検出信号の強度を表わしている。hは最高値Hにおけるピークの高さであり、ピークの形状を表わすものとする。ピークの面積値を求めるための検出パラメータとして、ピーク開始点Sのスロープ(SLP−S)とピーク終了点Eのスロープ(SLP−E)とピーク終了点判定用ドリフトライン(DRIFT)を用いる。ここでのスロープとは、開始点S,終了点Eにおける傾きであり、ドリフトラインとは検出ピークにおけるベースライン変動の許容範囲である。
演算部56のパラメータ保持部10は、検出パラメータとしてピークの高さhに応じた複数のSLP−S、SLP−E及びDRIFTを保持している。
【0024】
図4は、ピークの面積値を求めるときの動作を説明するフローチャートである。
測定開始後、演算部56はデータメモリ2に検出信号を保存していく。ピーク検出の条件は、検出信号データのスロープや高さなどにより演算部56に予め設定されている。演算部56は検出信号がその条件を満たしてピークであると判定した後、その検出信号が最高値Hを検出したときに、そのピークの高さhをピークの形状として決定する。
【0025】
演算部56はピークの高さhに対応したSLP−S、SLP−E及びDRIFTをパラメータ保持部10から読み出して検出パラメータとする。演算部56はSLP−Sにより面積値を求めるピーク開始点Sを決定し、開始点Sから最高値Hまでのピークの面積値を計算する。
【0026】
その後、演算部56は、最高値H以降の検出信号を最高値Hまでのピークの面積値に加算しながら、検出信号がDRIFTより低いかの判定を行う。DRIFTより高い場合、検出信号がDRIFTよりも低くなるまで検出信号の加算を続ける。検出信号がDRIFTまで低下すると、検出信号の傾きがSLP−Eより小さいかを判定する。SLP−Eより大きい場合は検出信号の加算を続け、SLP−Eまで小さくなった点を終了点Eとする。
ピークが終了点Eに達すると開始点Sと終了点Eからピークの面積値を算出し、演算部56はそのピークの面積値により検量線に基づいて濃度を算出し、出力して、そのピークに関する成分の定量が終了する。
【0027】
上記の実施例では、検出パラメータとしてSLP−S、SLP−E及びDRIFTを予め用意して保持しておき、ピークの高さhに応じてこれらのパラメータを読み出すようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、SLP−Sに応じてピークの高さhや他のパラメータを読み出すようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、下水、河川水、工場排水などに含まれる汚濁成分などの測定に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一実施例における演算部の機能を示すブロック図である。
【図2】同実施例が適用される水質分析計を示す概略構成図である。
【図3】同実施例におけるピークを示す波形図である。
【図4】同実施例における面積値を求めるときの動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
2 データメモリ
4 ピーク形状検出部
6 パラメータ決定部
8 ピーク面積算出部
10 パラメータ保持部
56 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料導入部と、
前記試料導入部から導入された試料中の成分を検出する検出部と、
その検出部からの検出信号データに基づくピークの面積値を求め、その面積値に基づいて成分を定量する演算部と、を備えた水質分析計において、
前記演算部は、ピークの面積値を求める際の検出パラメータをそのピークの形状に応じて決定するものであることを特徴とする水質分析計。
【請求項2】
前記演算部は、検出信号データを記憶するデータメモリと、
検出信号データからピークの形状を検出するピーク形状検出部と、
前記ピーク形状検出部が検出したピークの形状に応じた検出パラメータを決定するパラメータ決定部と、
その検出パラメータと前記データメモリに記憶された検出信号データとを少なくとも使用してピークの面積値を求めるピーク面積算出部と、を備えている請求項1に記載の水質分析計。
【請求項3】
前記ピーク形状検出部は、ピークの形状として検出信号データの最高値からピークの高さを検出するものである請求項2に記載の水質分析計。
【請求項4】
前記パラメータ決定部は、検出パラメータとしてピーク終了のスロープとピーク終了の検出開始を判断するドリフトラインを決定するものである請求項2又は3に記載の水質分析計。
【請求項5】
前記演算部はピークの形状に応じた複数種類の検出パラメータを記憶しているパラメータ保持部を備え、
前記パラメータ決定部はピーク形状検出部が検出したピークの形状に応じた検出パラメータをパラメータ保持部から読み出すことにより検出パラメータを決定するものである請求項2から4のいずれかに記載の水質分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−24717(P2007−24717A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208429(P2005−208429)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】