説明

水質推定装置および水質推定方法

【課題】評価対象の水のBODを実測することなく、より正確なBODを把握する。
【解決手段】水の濁度、電気伝導度(EC)、溶存酸素(DO)の濃度及び生物化学的酸素要求量(BOD)を受け付ける演算装置2を少なくとも備え、当該演算装置2は、比率算出部24と、時間帯選択部25と、BOD、濁度及びDOの濃度の各実測値を取得する実測値取得部26と、取得されたBOD及び濁度の各実測値を各座標とする第一累乗回帰式を作成する第一累乗回帰式作成部27と、第一累乗回帰式からBODの推定値を算出するBOD算出部28と、BODの推定値に対するBODの実測値の比率とDOの濃度の実測値とを各座標とする第二累乗回帰式を作成する第二累乗回帰式作成部29と、両式からBODの推定値を算出するためのBOD推定式を作成する推定式作成部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水時の水質を推定するための水質推定装置および水質推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道法施行令の改正により、合流式下水道について、省令で定める降雨による雨水の影響が大きいときにおける放流水の水質基準(生物化学的酸素要求量)が規定されると共に、基準値を満足する放流水質が得られていることを確認するために少なくとも年1回の水質検査を行うことが規定された。
【0003】
しかし、雨天時流出水のモニタリングは、降雨時に人手による採水を行う方法が一般的であり、自然現象の予測が難しい現状において、法令に定められた条件を満たす適切な採水を行うことは、時間的にも費用的にも、地方公共団体等の水質検査を義務づけられているものにとって大きな負担となっている。
【0004】
一方、今後、貯留施設・処理施設の導入及び分流化など、合流式下水道の改善対策の進捗に伴い、当該施設の運転管理や対策効果の把握を目的とした水質計測へのニーズが高まり、モニタリングの必要性はさらに増すものと考えられる。したがって、時間及び費用の低減を目的とする雨水時流出水のモニタリングの効率化は、喫緊の課題である。
【0005】
雨水時流出水のモニタリングの効率化の手法としては、濁度計を用いた生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand: BOD)の推定が、従来から検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、濁度が水の気泡等の影響を受けやすい短所を改善するために、濁度と電気伝導度との相関性を利用し、電気伝導度の検出に基づき水質汚濁を評価する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−125930(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−005863(特許請求の範囲、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、水の濁度とBODとの相関については、相関が高いところもある一方で、相関が極めて低いところもある。したがって、上記特許文献1の方法では、濁度によるBODの推定を正確に行うことは難しい。また、上記特許文献2の方法のように電気伝導度から濁度をより正確に求めることができたとしても、上記特許文献1の方法と同様、BODの推定を正確に行うことは難しい。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、評価対象の水のBODを実測することなく、より正確なBODを把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明の水質推定装置は、水の濁度、水の電気伝導度、水に溶存する溶存酸素の濃度、および生物化学的酸素要求量の各実測値を受け付けると共に、水の生物化学的酸素要求量を推定する式を作成するための演算装置を少なくとも備え、当該演算装置は、晴天時の電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の雨天時の電気伝導度の比率を算出する比率算出部と、その比率が所定値より少ない時間帯を選択する時間帯選択部と、選択された時間帯における生物化学的酸素要求量の実測値、濁度の実測値および溶存酸素の濃度の実測値を取得する実測値取得部と、取得した生物化学的酸素要求量および濁度の各実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第一累乗回帰式を作成する第一累乗回帰式作成部と、第一累乗回帰式に濁度の実測値を代入して、生物化学的酸素要求量の推定値を算出する生物化学的酸素要求量算出部と、生物化学的酸素要求量の推定値に対する生物化学的酸素要求量の実測値の比率と溶存酸素の濃度の実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第二累乗回帰式を作成する第二累乗回帰式作成部と、第一累乗回帰式と第二累乗回帰式を用いて、濁度および溶存酸素の濃度の各実測値から、生物化学的酸素要求量の推定値を算出するための生物化学的酸素要求量推定式を作成する推定式作成部とを備える。このため、この水質推定装置を用いることにより、雨水時に水のBODを測定することなく正確なBODの情報を得るための推定式を作成することができる。
【0010】
本発明の水質推定装置は、さらに、比率算出部が晴天時の電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の測定対象となる雨天時の電気伝導度の比率を算出し、時間帯選択部が、その比率が所定値より少ない時間帯を選択し、実測値取得部が、測定対象時の選択された時間帯における濁度および溶存酸素の濃度の各実測値を取得し、推定式作成部にて作成された生物化学的酸素要求量推定式に、取得した濁度および溶存酸素の濃度の各実測値を代入し、測定対象となる雨天時の生物化学的酸素要求量を推定する生物化学的酸素要求量推定部を備える。このため、この水質推定装置を用いることにより、BODを測定したい雨水時の水の電気伝導度、濁度および溶存酸素濃度を実測するだけで、より正確かつ迅速にBODの情報を得ることができる。
【0011】
本発明の水質推定装置は、比率算出部により、雨天時から遡った過去の同じ曜日の晴天時の電気伝導度を用いて前記の比率を算出する。このため、天候以外の他の条件(例えば、測定対象の水への外部水の流出状況)が水の電気伝導度に与える影響をより低減できるので、主として天候の違いに依存した電気伝導度の比率が得られる。
【0012】
本発明の水質推定方法は、水質を推定するための演算を行うための演算装置を少なくとも備えた水質推定装置を用いて、水の生物化学的酸素要求量を推定するための水質推定方法であって、当該演算装置により、水の濁度、水の電気伝導度、水に溶存する溶存酸素の濃度、および生物化学的酸素要求量の各実測値を受け付ける第一受付ステップと、晴天時の電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の雨天時の電気伝導度の比率を算出する第一比率算出ステップと、上記比率が所定値より少ない時間帯を選択する第一時間帯選択ステップと、選択された時間帯における生物化学的酸素要求量、濁度の実測値および溶存酸素の濃度の各実測値を取得する第一実測値取得ステップと、取得された生物化学的酸素要求量および濁度の各実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第一累乗回帰式を作成する第一累乗回帰式作成ステップと、第一累乗回帰式に濁度の実測値を代入して、生物化学的酸素要求量の推定値を算出する生物化学的酸素要求量算出ステップと、生物化学的酸素要求量の推定値に対する生物化学的酸素要求量の実測値の比率と、溶存酸素の濃度の各実測値とを各座標とする複数の点を最近接で通る第二累乗回帰式を作成する第二累乗回帰式作成ステップと、第一累乗回帰式と第二累乗回帰式を用いて、濁度および溶存酸素の濃度の各実測値から、生物化学的酸素要求量の推定値を算出するための生物化学的酸素要求量推定式を作成する推定式作成ステップとを行う。このため、この水質推定方法を用いることにより、雨水時に水のBODを測定することなく正確なBODの情報を得るための推定式を作成することができる。
【0013】
本発明の水質推定方法は、推定式作成ステップの後に、演算装置により、晴天時の電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の測定対象である雨天時の電気伝導度の比率を算出する第二比率算出ステップと、その比率が所定値より少ない時間帯を選択する第二時間帯選択ステップと、測定対象時の選択された時間帯における濁度および溶存酸素の濃度の各実測値を取得する第二実測値取得ステップと、推定式作成ステップにて作成された生物化学的酸素要求量推定式に、取得した濁度および溶存酸素の濃度の各実測値を代入し、測定対象の雨天時の生物化学的酸素要求量を推定する生物化学的酸素要求量推定ステップを、さらに行う。このため、この水質推定方法を用いることにより、BODを測定したい雨水時の水の電気伝導度、濁度および溶存酸素濃度を実測するだけで、より正確かつ迅速にBODの情報を得ることができる。
【0014】
本発明の水質推定方法は、第一比率算出ステップまたは第二比率算出ステップが、雨天時から遡った過去の同じ曜日の晴天時の電気伝導度を用いて、前記比率を算出する。このため、天候以外の他の条件(例えば、測定対象の水への外部水の流出状況)が水の電気伝導度に与える影響をより低減できるので、主として天候の違いに依存した電気伝導度の比率が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、評価対象の水のBODを実測することなく、より正確なBODを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に係る水質推定装置の実施の形態を示す簡易外観図である。
【図2】図2は、図1に示す演算装置の構成を機能に分けて示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、本発明に係る水質推定方法の実施の形態であって、BOD推定式を作成するための主な処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、図3に示す各処理の過程で取得あるいは作成される情報例を示す図である。
【図5】図5は、図4に続いて、図3に示す各処理の過程で取得あるいは作成される情報例を示す図である。
【図6】図6は、本発明に係る水質推定方法の実施の形態であって、BODを推定するための主な処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、BOD推定式を用いて推定したBODが実測BODに近いことを説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0017】
1 水質推定装置
2 演算装置
21 表示部
22 入力部
23 情報受付部
24 比率算出部
25 時間帯選択部
26 実測値取得部
27 第一累乗回帰式作成部
28 BOD算出部(生物化学的酸素要求量算出部)
29 第二累乗回帰式作成部
30 推定式作成部
31 BOD推定部(生物化学的酸素要求量推定部)
32 記録部
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
1.水質推定装置
図1は、本発明に係る水質推定装置の実施の形態を示す簡易外観図である。
【0020】
この水質推定装置1は、演算装置2と、濁度検出器3と、電気伝導度検出器4と、溶存酸素濃度検出器5とを備える。濁度検出器3は、水(この実施の形態では、一例として「下水」とする。以下、同様である。)の濁度を検出するための検出器である。電気伝導度検出器4は、下水の電気伝導度(Electrical Conductivity: EC)を検出するための検出器である。溶存酸素濃度検出器5は、下水に溶存する溶存酸素(Dissolved Oxygen: DO)の濃度を検出するための検出器である。ただし、濁度検出器3、電気伝導度検出器4および溶存酸素濃度検出器5は、水質推定装置1に必須ではなく、水質推定装置1からこれらの検出器3,4,5の内の1または2以上の検出器を除外しても良い。その場合、演算装置2に、後述の入力部22を介して、各検出器で測定した実測値を入力できるようにするのが好ましい。
【0021】
演算装置2は、表示部21と、入力部22とを備えると共に、濁度検出器3、電気伝導度検出器4および溶存酸素濃度検出器5との間で、電気信号を受信可能に接続されている。また、演算装置2は、濁度検出器3、電気伝導度検出器4および溶存酸素濃度検出器5からの各種検出信号と、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand: BOD)の値の入力を受け付けると共に、下水のBODを推定する式を作成するための装置である。
【0022】
図2は、演算装置2の構成を機能に分けて示す機能ブロック図である。
【0023】
演算装置2は、上記の表示部21および上記の入力部22に加え、情報受付部23、比率算出部24、時間帯選択部25、実測値取得部26、第一累乗回帰式作成部27、BOD算出部28、第二累乗回帰式作成部29、推定式作成部30、BOD推定部31および記録部32を備える。
【0024】
表示部21は、使用者が入力した情報、上述の各種検出器3,4,5からの情報、各情報から演算により求めた情報等を表示する部分である。ただし、表示部21は、必須の構成ではなく、表示部21を備えていない演算装置2であっても良い。
【0025】
入力部22は、使用者が情報を入力するための構成部であり、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル式のスイッチ、音声入力装置等の任意の形態を持つ部分である。入力部22は、例えば、使用者がBODの実測値を入力する際に使用可能である。また、使用者は、濁度、ECあるいはDOの濃度(以下、DO濃度という)の各データを入力部22から入力することもできる。
【0026】
情報受付部23は、上述の各種検出器3,4,5からの検出信号、入力部22から入力された信号を受け付ける構成部である。情報受付部23は、受け付けた各種信号に基づく情報の1種または2種以上を記録部32に送って記録する。
【0027】
比率算出部24は、晴天時のECに対するその晴天時と同時間帯の雨天時のECの比率(雨天時EC/晴天時EC)を算出する構成部である。晴天時のECは、使用者が晴天時に測定して得られたEC、あるいは晴天であることを湿度、気温その他の情報から自動的に判断して測定し得られたECなど、どのような方法で得られたものであっても良い。雨天時のECも同様である。好ましくは、天候とは無関係にECを一定時間毎に測定し、天候の情報については、使用者により入力し、上述のような自動的な判断により決定し、あるいは通信回線等を利用して外部から受信し、それによって得られた天候の情報を検出された一定時刻毎のECと対応付けるようにする。雨天時の下水は雨水に起因して外部から流入する水により希釈されるため、雨天時のECは、かかる希釈が少ない晴天時のECに比べて低い。このため、雨天時EC/晴天時ECは、0〜1の範囲の値をとる。
【0028】
時間帯選択部25は、比率算出部24によって算出した比率が所定値より少ない時間帯を選択する構成部である。ここで、所定値は、固定された特定の数値であるか、任意に設定可能な数値であるかを問わない。また、所定値は、特定の数値に限定されるものではないが、好ましくは、0.8〜0.95、より好ましくは0.85〜0.92、さらに好ましくは0.90である。比率が当該所定値より少なくなる時間帯は、下水が雨水の影響を受けている時間帯であり、BODの測定対象となる時間帯である。時間帯選択部25は、かかる時間帯を選択する。かかる時間帯は、適宜、記録部32に記録される。
【0029】
実測値取得部26は、時間帯選択部25により選択された時間帯におけるBODの実測値、濁度の実測値およびDO濃度の実測値を取得する構成部である。例えば、選択された時間帯が「午前9時〜午後2時」と仮定すると、実測値取得部26は、午前9時〜午後2時までの間のBOD、濁度およびDO濃度を選ぶことになる。BODは、通常、採水から約5日後にならないとその値がわからない。このため、推定式を作成する段階では、一定時間毎に採水して下水のBODを測定しておき、実測値取得部26が選択した時間帯のBODが不存在とならないようにしておくのが好ましい。濁度およびDO濃度については、BODと比べて短時間で測定できる。このため、一定時間毎の測定を継続し、実測値取得部26は、選択された時間帯におけるBOD、濁度およびDO濃度を取得すれば良い。取得したBOD、濁度およびDO濃度は、適宜、記録部32に記録される。
【0030】
第一累乗回帰式作成部27は、実測値取得部26により取得されたBODの実測値と濁度の実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第一累乗回帰式を求める構成部である。具体的には、第一累乗回帰式作成部27は、濁度をx軸、BODの実測値(実測BODとする)をy軸とするx−y平面に、上記複数の点をプロットし、各プロットに最も近接するような曲線の式であるY=a×X(Y:濁度推定BOD、a:係数、X:濁度、b:Xの乗数)を求め、当該式のaおよびbを特定する。
【0031】
BOD算出部28は、生物化学的酸素要求量算出部に相当し、上記第一累乗回帰式に上記濁度の実測値を代入して、BODの推定値(これを、濁度だけで推定したBODであることから、「濁度推定BOD」という)を算出する構成部である。
【0032】
第二累乗回帰式作成部29は、濁度推定BODに対する上記BODの実測値の比率(実測BOD/濁度推定BOD)と上記DO濃度の実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第二累乗回帰式を求める構成部である。具体的には、第二累乗回帰式作成部29は、DO濃度をx軸、実測BOD/濁度推定BODをy軸とするx−y平面に、DO濃度の実測値と実測BOD/濁度推定BODをそれぞれx座標およびy座標とする複数の点をプロットし、各プロットに最も近接するような曲線の式であるW=c×V(W:実測BOD/濁度推定BOD、c:係数、V:DO濃度の実測値、d:Vの乗数)を求め、当該式のcおよびdを特定する。
【0033】
推定式作成部30は、上記第一累乗回帰式(Y=a×X)と上記第二累乗回帰式(W=c×V)を用いて、濁度の実測値とDO濃度の実測値から、BODの推定値を算出するためのBOD推定式を作成する構成部である。この結果、「実測BOD=a×X×c×V」というBOD推定式が得られる。ここで、「実測BOD」は、推定しようとするBODに相当する。
【0034】
BOD推定部31は、生物化学的酸素要求量推定部に相当し、取得した上記濁度の実測値および上記DO濃度の実測値を、それぞれ、BOD推定式(実測BOD=a×X×c×V)のXおよびVに代入することによって、測定対象の雨天時のBODを推定する構成部である。ここで推定されるBODは、濁度のみならずDO濃度も考慮されている。BOD推定部31の上記処理に先立ち、情報受付部23、比率算出部24、時間帯選択部25および実測値取得部26は、次のような処理を行う。
【0035】
情報受付部23は、測定対象である雨天時のEC、濁度およびDO濃度と、それより以前の晴天時のECを受け付ける。当該雨天時のEC、濁度およびDO濃度は、通常、その当日に測定したデータである。一方、晴天時のECは、当該雨天時より以前に測定されたデータである。比率算出部24は、晴天時のECに対するその晴天時と同時間帯の測定対象である雨天時のECの比率(雨天時EC/晴天時EC)を算出する。時間帯選択部25は、その比率が所定値(例えば、0.9)より少ない時間帯を選択する。実測値取得部26は、測定対象時の選択された時間帯における濁度の実測値およびDO濃度の実測値を取得する。その後、先に説明したように、BOD推定部31は、これらの取得した濁度の実測値およびDO濃度の実測値を、BOD推定式に代入し、BODをわざわざ実測することなく推定することができる(この推定されたBODを、「推定BOD」という)。
【0036】
記録部32は、濁度、DO濃度、EC、推定BODなどの1以上を記録しておく構成部である。記録部32は、上記以外のデータ、例えば、グラフ化する場合の画像、天候、気温、湿度、各種プログラムを記録することができる。
【0037】
演算装置2は、コンピュータであり、以下のハード構成を少なくとも備える。すなわち、演算装置2は、中央処理装置(Central Processing Unit: CPU)、読み出し専用のメモリ(Read Only Memory: ROM)、読み書き可能なメモリ(Random Access Memory: RAM)を少なくとも備える。ROMは、EEPROMも含み得る。CPUは、MPUも含み得る。情報受付部23、比率算出部24、時間帯選択部25、実測値取得部26、第一累乗回帰式作成部27、BOD算出部28、第二累乗回帰式作成部29、推定式作成部30およびBOD推定部31の各処理は、主にCPUと記録部32に格納されるコンピュータプログラムとの協働によって行われる処理である。CPUは、受け付けた情報および記録部32に記録されている種々の情報に基づき、そのコンピュータプログラムを読みながら後述の図3および図6に示す各処理を実行する。記録部32は、ROMおよび/またはRAMを含む広義のメモリに相当し、上述のコンピュータプログラムを格納する。入力部22は、キーボード、ポインティングデバイス等の前述の入力手段に相当する。演算装置2がディスプレイを有する場合には、表示部21は、CPUおよび当該ディスプレイに相当する。なお、表示部21は必須の構成部ではないことから、ディスプレイが存在していなくても良い。
【0038】
2.水質推定方法
2.1 推定式の作成
図3は、本発明に係る水質推定方法の実施の形態であって、BOD推定式を作成するための主な処理の流れを示すフローチャートである。図4および図5は、図3に示す各処理の過程で取得あるいは作成される情報例を示す図である。
【0039】
情報受付部23は、濁度検出器3、電気伝導度検出器4および溶存酸素濃度検出器5からの各種信号および入力部22からBODのデータを受付ける(ステップS101:第一受付ステップ)。ステップS101は、好適には、BODのデータの受付けと、各種信号の受け付けとを時を変えて行う。例えば、情報受付部23は、最初に1回だけBODのデータを受け付け、その後、毎日あるいは隔日、計測各種検出器3,4,5からの信号を受け付けることができる。電気伝導度検出器4からの検出信号(EC信号)は、晴天時および雨天時の両天候時のものである。この実施の形態では、一例として、晴天時ECおよび雨天時ECを、共に24時間にわたって1時間毎に測定したものとする。また、晴天時ECの測定日は、雨天時ECの測定日の一週間前の日とする。なお、雨天時の一週間前が晴天で無い場合には、情報受付部23は、さらにその一週間前の日を検索して、過去の晴天の日のECを探すことができる。図4のグラフAおよびBに示すように、午前0時から午後12時までの24時間の晴天時ECは、同時間の雨天時ECよりも高い。雨天時の下水は雨水の影響を受けやすく、そのときにはECが低下するからである。また、濁度検出器3および溶存酸素濃度検出器5からの検出信号を、雨天時ECの測定日のものとし、BODのデータも、雨天時ECの測定日のものとする。
【0040】
比率算出部24は、晴天時ECに対する雨天時ECの比率(雨天時EC/晴天時EC)を算出する(ステップS102;第一比率算出ステップ)。その算出結果を、図4のグラフCに示す。グラフCは、深夜から朝にかけて、当該比率は低下し、それ以降はその低下した比率を維持するグラフである。次に、時間帯選択部25は、上記比率が所定値(ここでは、0.9とする)より少ない時間帯(下水に与える雨水の影響が大きい時間帯)を選択する(ステップS103:ステップ第一時間帯選択ステップ)。この結果、図4のグラフCに示すように、当該比率が0.9より小さくなる午前4時から午後12時までの時間帯が選択される。次に、実測値取得部26は、記録部32に記録されている実測値の中から、選択された上記時間帯におけるBODの実測値、濁度の実測値およびDO濃度の実測値を取得する(ステップS104:第一実測値取得ステップ)。
【0041】
第一累乗回帰式作成部27は、取得したBODの実測値(実測BOD)および濁度の実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第一累乗回帰式(濁度推定BOD=a×濁度)を作成する(ステップS105:第一累乗回帰式作成ステップ)。各点およびそれらを最近接で通る曲線の一例は、図5のグラフAに示すとおりである。次に、BOD算出部28は、上記第一累乗回帰式に濁度の実測値を代入して、BOD推定値を算出する(ステップS106:生物化学的酸素要求量算出ステップ)。これにより、濁度によって推定されたBOD(濁度推定BOD)が得られる。
【0042】
濁度のみでは、正確なBODを推定することが難しいため、次に、DO濃度の実測値を用いた補正を行う。上記濁度推定BODに対するBODの実測値(実測BOD)の比率と、DO濃度の実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第二累乗回帰式(実測BOD/濁度推定BOD=c×DO)を求める(ステップS107:第二累乗回帰式作成ステップ)。各点およびそれらを最近接で通る曲線の一例は、図5のグラフBに示すとおりである。次に、上記第一累乗回帰式と上記第二累乗回帰式を用いて、濁度の実測値とDO濃度の実測値から、BODの推定値を算出するためのBOD推定式(BOD=a×濁度×c×DO)を作成する(ステップS108:推定式作成ステップ)。これらの一連の処理をもって、BOD推定式の作成が終了する。
【0043】
2.2 BODの推定
図6は、本発明に係る水質推定方法の実施の形態であって、BODを推定するための主な処理の流れを示すフローチャートである。
【0044】
情報受付部23は、BODの測定を行う雨天時に、濁度検出器3、電気伝導度検出器4および溶存酸素濃度検出器5からの各種信号を受付ける(ステップS201:第二受付ステップ)。比率算出部24は、測定日から例えば一週間前の晴天時のECに対する、上記ステップで受け付けた電気伝導度検出器4からの検出信号(雨天時EC)の比率を算出する(ステップS202:第二比率算出ステップ)。測定日(雨天)の一週間前が晴天で無い場合には、情報受付部23は、さらにその一週間前の日を検索して、過去の晴天の日のECを探すことができる。次に、時間帯選択部25は、上記比率が所定値(ここでは、0.9とする)より少ない時間帯(下水への雨水の影響が大きい時間帯)を選択する(ステップS203:第二時間帯選択ステップ)。
【0045】
次に、実測値取得部26は、上記選択された時間帯における濁度の実測値およびDO濃度の実測値を記録部32から取得する(ステップS204:第二実測値取得ステップ)。ステップS201〜ステップS204は、記述のBOD推定式を作成する際のステップS101〜ステップS104に類似するが、BODの実測値を取得しない点で異なる。次に、BOD推定部31は、記録部32に格納されたBOD推定式を読み出し、当該BOD推定式にステップS204にて取得した濁度の実測値およびDO濃度の実測値を代入し、測定対象の雨天時のBODを推定する(ステップS205:生物化学的酸素要求量推定ステップ)。これらの一連の処理をもって、BODの推定が終了する。
【0046】
3.BOD推定の実験データ
次に、第一回目の実験で図3に示す処理によりBOD推定式を構築し、第二回目の実験で当該推定式を利用して図6に示す処理によりBODを推定したときの推定精度を検証した。その検証結果を図7に示す。従来法および本法ともに第一回目および第二回目の各実験を行った。
【0047】
図7のグラフAは、第一回目の実験で得た濁度と実測BODとをプロットし、従来法により最近接の直線を引き、濁度と実測BODの一次式(y=ax+b、y:実測BOD、x:濁度、a:0.3323、b:27.217)を求めたグラフである。また、同図のグラフBは、上述の一次式の実測BODを推定BODとし、第二回目の実験で得た濁度に基づいて当該推定BOD(「従来法推定BOD」という)と実測BODとの相関を調べたグラフである。一方、同図のグラフCは、第一回目の実験で得た濁度と実測BODとをプロットし、本法により最近接の累乗回帰曲線を引き、第一累乗回帰式(y=7.2037x0.4678、y:実測BOD、x:濁度)を作成したものである。また、同図のグラフDは、DO濃度による補正を行う趣旨で、第一回目の実験で得たDO濃度の実測値と実測BOD/濁度推定BODの比(ここで、濁度推定BODは、第一累乗回帰式により推定したBOD)とをプロットし、第二累乗回帰式(y=1.6472x-0.4182、y:実測BOD/濁度推定BOD、x:DO濃度)を求めたグラフである。同図のグラフEは、上記第一累乗回帰式と上記第二累乗回帰式から推定式を作成して、第二回目の実験に基づき、当該推定式から求めた推定BOD(「DO補正濁度推定BOD」という)と、実測BODとの相関を調べたグラフである。
【0048】
図7のグラフBとグラフEを比較すると明らかなように、グラフEの方がグラフBに比べて、推定BODと実測BODとの相関が高い。すなわち、グラフEでは、プロットした点が推定BOD:実測BOD=1:1の直線上に、より近い。この結果から明らかなように、DO濃度による補正を行うことにより、より正確なBODを推定できることが実証された。
【0049】
4.その他の実施の形態
本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形を施して実施することができる。上述の水質推定装置1は、推定式の作成とその後にBODの推定を行うことができる装置であるが、本発明の水質推定装置は、推定式を作成する装置のみであっても良い。その場合、BOD推定部31を水質推定装置1に備えず、図2に示す他の構成部も、ステップS201〜ステップS204の処理を行わなくても良い。さらに、本発明の水質推定装置は、別の装置にて作成した推定式を外部から入力して、当該推定式を利用してBODの推定を行う装置であっても良い。
【0050】
また、水量値が入力可能な場合あるいは高い精度が要求されない場合には、電気伝導度検出器4を備えず水量のデータを用いて、BODを推定しても良い。その場合、雨天時EC/晴天時ECを雨天時水量/晴天時水量に替えて、比率算出部24は雨天時水量/晴天時水量の比率を算出し、時間帯選択部25はその比率が所定値より少ない時間帯を選択する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、水質検査、水質のモニタリングに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の濁度、水の電気伝導度、水に溶存する溶存酸素の濃度、および生物化学的酸素要求量の各実測値を受け付けると共に、水の生物化学的酸素要求量を推定する式を作成するための演算装置を少なくとも備え、
当該演算装置は、
晴天時の上記電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の雨天時の上記電気伝導度の比率を算出する比率算出部と、
上記比率が所定値より少ない時間帯を選択する時間帯選択部と、
選択された上記時間帯における上記生物化学的酸素要求量の実測値、上記濁度の実測値および上記溶存酸素の濃度の実測値を取得する実測値取得部と、
取得した上記生物化学的酸素要求量および上記濁度の各実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第一累乗回帰式を作成する第一累乗回帰式作成部と、
上記第一累乗回帰式に上記濁度の実測値を代入して、上記生物化学的酸素要求量の推定値を算出する生物化学的酸素要求量算出部と、
上記生物化学的酸素要求量の推定値に対する上記生物化学的酸素要求量の実測値の比率と上記溶存酸素の濃度の実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第二累乗回帰式を作成する第二累乗回帰式作成部と、
上記第一累乗回帰式と上記第二累乗回帰式を用いて、上記濁度および上記溶存酸素の濃度の各実測値から、上記生物化学的酸素要求量の推定値を算出するための生物化学的酸素要求量推定式を作成する推定式作成部と、
を備えることを特徴とする水質推定装置。
【請求項2】
さらに、
前記比率算出部は、晴天時の前記電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の測定対象となる雨天時の前記電気伝導度の比率を算出し、
前記時間帯選択部が、その比率が所定値より少ない時間帯を選択し、
前記実測値取得部が、測定対象時の選択された上記時間帯における前記濁度および前記溶存酸素の濃度の各実測値を取得し、
前記推定式作成部にて作成された前記生物化学的酸素要求量推定式に、取得した前記濁度および前記溶存酸素の濃度の各実測値を代入し、測定対象となる雨天時の前記生物化学的酸素要求量を推定する生物化学的酸素要求量推定部を、備えることを特徴とする請求項1に記載の水質推定装置。
【請求項3】
前記比率算出部は、前記雨天時から遡った過去の同じ曜日の晴天時の前記電気伝導度を用いて、前記比率を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の水質推定装置。
【請求項4】
水質を推定するための演算を行うための演算装置を少なくとも備えた水質推定装置を用いて、水の生物化学的酸素要求量を推定するための水質推定方法であって、
当該演算装置により、
水の濁度、水の電気伝導度、水に溶存する溶存酸素の濃度、および生物化学的酸素要求量の各実測値を受け付ける第一受付ステップと、
晴天時の上記電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の雨天時の上記電気伝導度の比率を算出する第一比率算出ステップと、
上記比率が所定値より少ない時間帯を選択する第一時間帯選択ステップと、
選択された上記時間帯における上記生物化学的酸素要求量、上記濁度の実測値および上記溶存酸素の濃度の各実測値を取得する第一実測値取得ステップと、
取得された上記生物化学的酸素要求量および上記濁度の各実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第一累乗回帰式を作成する第一累乗回帰式作成ステップと、
上記第一累乗回帰式に上記濁度の実測値を代入して、上記生物化学的酸素要求量の推定値を算出する生物化学的酸素要求量算出ステップと、
上記生物化学的酸素要求量の推定値に対する上記生物化学的酸素要求量の実測値の比率と上記溶存酸素の濃度の各実測値を各座標とする複数の点を最近接で通る第二累乗回帰式を作成する第二累乗回帰式作成ステップと、
上記第一累乗回帰式と上記第二累乗回帰式を用いて、上記濁度および上記溶存酸素の濃度の各実測値から、上記生物化学的酸素要求量の推定値を算出するための生物化学的酸素要求量推定式を作成する推定式作成ステップと、
を行うことを特徴とする水質推定方法。
【請求項5】
前記推定式作成ステップの後に、
前記演算装置により、
晴天時の前記電気伝導度に対するその晴天時と同時間帯の測定対象である雨天時の前記電気伝導度の比率を算出する第二比率算出ステップと、
その比率が所定値より少ない時間帯を選択する第二時間帯選択ステップと、
測定対象時の上記選択された上記時間帯における前記濁度および前記溶存酸素の濃度の各実測値を取得する第二実測値取得ステップと、
前記推定式作成ステップにて作成された前記生物化学的酸素要求量推定式に、取得した前記濁度および前記溶存酸素濃度の各実測値を代入し、測定対象の雨天時の前記生物化学的酸素要求量を推定する生物化学的酸素要求量推定ステップを、さらに行うことを特徴とする請求項4に記載の水質推定方法。
【請求項6】
前記第一比率算出ステップまたは前記第二比率算出ステップは、前記雨天時から遡った過去の同じ曜日の晴天時の前記電気伝導度を用いて、前記比率を算出することを特徴とする請求項4または5に記載の水質推定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−169598(P2010−169598A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13685(P2009−13685)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(397028016)株式会社日水コン (18)