説明

水質浄化方法

【課題】潮汐の干満の潮位差を利用することにより河川、運河など汚泥を除去し水質浄化をはかること。
【解決手段】上側ゲート1と下側ゲート3から構成される蝶番式ゲート水門において、上げ潮時に下側ゲート3を閉止した状態で、上側ゲートの上端を海側水位の上昇に追随して上昇させて、海側表層水を河川側へ越流させる間に上側ゲート上に沈積し、上側ゲートが垂直に近づくにつれ下方の溝15に滑り落ちた汚泥を溝から汚泥処理設備20へ送り処理し、引き潮時に上側ゲート上端を上げた状態で保ち海側水位が低下し河川側水位との差が所定値に達した時点で下側ゲートの下端を海側へ上げて河川側の水を海側へ流出させることにより水質浄化をはかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潮汐の干満の潮位差を利用することにより河川、運河及び港湾などの水質を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、川上からの流水量が少ないため汚水が停滞している河川の水質を浄化する方法として、他の河川より水を導入する方法、及び地下水を汲み上げて放流する方法により流水量を増量して汚水を押し流す方法が提案されている。また、潮汐の水位差を利用し港湾の湾口に配置した水門の開閉により港湾内海水浄化をはかる方法が提案されている。
【0003】
他の河川より水を導入する方法については、農業、漁業及び工業などの水利権により他の用途に水を振り分けることは既得権者の了解を得るのに長時間を要し容易ではない。又、導水路の建設には用地の取得および導水路工事に多額の費用と時間が必要である。
【0004】
地下水を汲み上げて放流する方法については、地下水位の低下による地盤沈下が生ずる恐れがある。
【0005】
上流から流入する河川水は海水に比較して密度が低いから表層を流れる。また、単に潮の満ち引きだけでは流速が小さいことから水の流れは層流となり上層の水と下層の水の混合が少ないため溶存酸素の少ない下層水は停滞し水質浄化は難しい。
【0006】
また、上流から流入する河川水と海水が混ざり合う感潮水域では、水中粒子の凝集が起こりやすい。個々の粒子が数個合併した凝集粒子は凝集する前の粒子より粒子径が大きいことから沈降速度は速くなり河川底部への堆積が促進される。このため、河川底部には凝集粒子の堆積物が多くなり停滞する為水質汚濁が進む。
【0007】
このような河川及び運河などの水質浄化を進める手段として、蝶番式ゲート水門が提案されており有効である。しかし、該水門では水中より汚泥を取り出すことには言及されていない。(特許文献1参照)
【0008】
河川、運河及び港湾などの底部水中より汚泥を取り出す方法として浚渫が知られている。該底部へ堆積した汚泥は浚渫により長期間経過した時点で取り除かれる。浚渫には多額の費用が必要であるから、浚渫と次の浚渫の間には数年、長ければ10数年かかり、この間水質汚濁は進行することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−274728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記従来技術の問題点を解決するべく、河川及び運河などの底部水中に堆積する汚泥を除去し、水質浄化をはかる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上流からの流水量が少ない河川及び運河などの感潮水域の水質浄化に関し、潮汐の水位差を利用することにより河川などの水質を清浄化する施設である蝶番式ゲート水門を用い、さらにこの蝶番式ゲート水門の上側ゲート上に沈積した汚泥等を該水門の海側底部に設置された溝に集め除去することにより河川などの水質浄化をはかるものである。
【0012】
つまり上げ潮時に水門の下側ゲートを閉止し、上側ゲートの上端を水門の上流側に倒し、上端より海側表層水を水門の上流側に越流させ、次いで上側ゲートの上端を海側水位の上昇に追随して上昇させて、上端より海側表層水を水門の上流側へ越流させ、引き潮時に上端を上げた状態で水門の上流側水位を海側水位より高く保ち、海側水位が低下して水門の上流側水位との差が所定値に到達した時点で下側ゲートの下端を海側へ上げて水門の上流側の水を海側へ流出させることにより河川の水質浄化をはかる。
【0013】
さらに上端が上昇する過程において上側ゲートの上面に沈積した汚泥等は、上側ゲートが垂直に近づくにつれ該水門の海側底部の溝へ滑り落ちるが、
この溝へ滑り落ちた汚泥等を水門の海側水位と上流側水位との差が所定値に達する間に溝から取り除くことにより河川などの水質浄化をはかるものである。
【0014】
溝から該汚泥等を取り除く手段としてはホースにより吸引装置に接続された吸引ノズルを溝の中を移動させて汚泥等を吸引除去する方法などがある。
【0015】
また、溝の端部に配置した汚泥ポンプへ汚泥等を掻き寄せ汚泥ポンプにより汚泥等を外部へ排出する方法などもある。
【0016】
水門の海側水位と上流側水位との差が所定値に達する間の時間中に、吸引ノズルなど溝中を移動する機器を低速度で動かすことにより、衝撃による溝中の汚泥等の水中への浮遊を防ぐことが出来る。
【0017】
溝から取り除かれた汚泥等は汚泥処理施設で凝集、沈殿、加圧浮上および脱水などの処理をする。例えば既存の下水処理場等の汚泥処理施設へ汚泥等を移送し汚泥処理をすることは有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の河川感潮水域の浄化方法の適用は河川の河口付近に限定されるものではなく、潮汐の他には流入する水の少ない運河および港湾の海への出口などに適用することにより、河川、運河および港湾などの水質浄をはかることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】蝶番式ゲート水門の概略構造を示す斜視図
【図2】蝶番式ゲート水門の作用を示す側面図
【図3】蝶番式ゲート水門の作用を示す側面図
【図4】蝶番式ゲート水門の底部海側に溝を配し、該溝中の汚泥を汚泥処理設備へ移送する設備の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ本発明に係る感潮水域の水質浄化方法の実施形態例を説明する。
図1は本発明に係る蝶番式ゲート水門の一実施形態を示す斜視図である
図1に示すように、本発明に係る蝶番式ゲート水門は水門8に水平に配置した蝶番軸2を支点として、上下方向に可動する上側ゲート1および下側ゲート3より構成される。上側ゲート先端には浮遊物の侵入を防ぐための格子9が配置されている。上げ潮時に下側ワイヤーロープウインチ4,5を操作して下側ゲート3を閉めたままにして、左方の海面水位の上昇に追随して上側ゲート用ワイヤーロープウインチ6により上側ゲート1を引き上げる。上側ゲート1が垂直に近づくにつれて上側ゲート1の上に沈積した汚泥は下方の溝15へ滑り落ちる。
満潮になり左方の海側から右方の河川側への潮の流れが止まったら上側ゲートを上側ゲートストッパー7に接触するまで引き上げて保持し、引き潮時に海側水位が低下し河川側水位との水位差が所定の位置に達するまでの間に溝15の中の汚泥を取り除く。
水位差が所定値に達した時点で下側ゲート用ワイヤーロープウインチ4,5を操作して下側ゲートを海側へ開き河川側の水を放流する。放流完了後、上側ゲート用ワイヤーロープウインチを緩めて上側ゲート1を自重により水門底部まで倒す。
【0021】
図2は上げ潮時に海側から河川側への水の流入を示す側面図である。図2において10は上げ潮時の海側水位を示し、11は河川側水位を示す。図2に示すように下側ゲートを閉止し、上側ゲート1を矢印のように海側水位の上昇に追随して引き上げ海側表層水を河川側へ流入させる。上側ゲート先端の格子9により海側浮遊物の河川側への侵入は阻止される。また、海側水中の粒子は傾斜している上側ゲート上へ沈積し上側ゲートが垂直に近づくにつれ溝15へ滑り落ちる。
【0022】
図3は引き潮時に河川側から海側への水の放流を示す側面図である。図3において12は引き潮時の海側水位を示し、13は河川側水位を示す。図3に示すように上側ゲート1を満潮時に引き上げた状態で、引き潮により海側水位12が下がり河川側水位13との水位差Hが所定値に達した時点で下側ゲート3を開き河川側の水を海側へ放流する。また、蝶番軸2を水門設置前の河川底部と同じ高さに配置するように水門底部を構築し、船舶の航行に支障がないようにする。
【0023】
図4は蝶番式ゲート水門の下側ゲート下方の水門底部に溝を配し、該溝中の汚泥をピットに掻き寄せて汚泥ポンプで汚泥処理設備へ移送する設備の正面図である。
図4において、溝15の左端から溝15の中をワイヤー21により移動するバスケット16により、溝中の汚泥を掻き寄せ溝15の右端にあるピット17へ落とし、汚泥ポンプ18により汚泥処理設備20へ送る。
汚泥をピット17へ落としたバスケット16は溝15の左端へ移動させておく。バスケット16の移動はワイヤーウインチ22によって行う。
【符号の説明】
【0024】
1 上側ゲート
2 蝶番軸
3 下側ゲート
4 下側ゲート用ワイヤーロープウインチ
5 下側ゲート用ワイヤーロープウインチ
6 上側ゲート用ワイヤーロープウインチ
7 上側ゲートストッパー
8 水門
9 上側ゲート先端格子
10 上げ潮時海側水位
11 上げ潮時河川側水位
12 引き潮時海側水位
13 引き潮時河川側水位
14 水門底部
15 溝
16 バスケット
17 ピット
18 汚泥ポンプ
19 汚泥移送パイプ
20 汚泥処理設備
21 ワイヤー
22 バスケット用ワイヤーウインチ
23 滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潮汐による水位変化を利用して海へ流入する河川及び運河などの水質浄化をはかる方法であって、
水平に配置した蝶番軸を支点として上下方向に可動する上側ゲートと下側ゲートから構成され、該下側ゲート下方の海側底部に該下側ゲートに沿って溝を配した水門を、上げ潮時に、下側ゲートを閉止した状態で、上側ゲート上端を水門の上流側に倒すことによって、該上端より海側表層水を水門の上流側へ越流させ、次いで上側ゲートの上端を海側水位の上昇に追随して上昇させることによって、該上端より海側表層水を水門の上流側に越流させ、引き潮時に、上側ゲートの上端を上げた状態で水門より上流側の水位を保ち、海側水位が低下し水門より上流側との差が所定値に達する間に該上側ゲート上から滑り落ち該溝の中に沈積する汚泥等を取り除き、該差が所定値に達した時点で下側ゲート下端を海側へ上げて水門より上流側の水を海側へ放流させることによる水質浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202152(P2012−202152A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69249(P2011−69249)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(501319276)