説明

水質浄化材

【課題】リンなどの環境汚染物質を環境水中から除去しつつ、長期間に亘って、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との接触状態を良好に保つことができる水質浄化材を提供する。
【解決手段】金属鉄と、炭素繊維強化樹脂複合材を取り付けたメッシュ状の支持体からなる水質浄化材であって、該炭素繊維強化樹脂複合材と該金属鉄との少なくとも一部が接触し、かつ該金属鉄を、該支持体により、該支持体上または中で摺動移動可能に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境水中のリンおよび窒素を除去するための、金属鉄と炭素繊維強化樹脂複合材を取り付けたメッシュ状の支持体からなる水質浄化材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンは、環境水汚染の原因元素で、湖沼や内湾などの水質の汚れの原因となる。河川などには工業排水や農薬の使用によって、水中にリンが多く含まれている。リンは、肥料としても農地に散布されている。畜産業では、家畜のし尿や糞から、リンが環境水に流れ込んでいる。また、公共下水処理場では、汚水処理過程でリンを汚泥中に濃縮しているが、処理水中にも高濃度のリンが含まれている。家庭では洗濯洗剤中にリンが含まれており、それらが河川などの環境水中に流出している。特に、湖沼・内湾等の閉鎖性水域での富栄養化は未だ存在していて、水環境の再生が大きな課題となっている。
【0003】
ここで、内水面の環境に目を転じてみると、内水面では、緑色の藻が大量に発生する。それらはアオコと呼ばれている。アオコの発生は、水中の窒素およびリンの濃度が高くなることに起因している。他方、海域では、赤潮が発生し、それによって魚介類が死滅する。これらはいずれもリンに関係した現象で、赤色プランクトンなどの発生による。そして、赤潮やアオコが発生すると、プランクトンの持つ毒素や、大発生したプランクトンの分解に酸素が消費されることによる酸素不足などから、魚介類が窒息死するなどの大きな被害が発生する。
【0004】
上記した環境水中のリン由来の問題に対し、例えば、特許文献1には、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの凝集処理剤を使用し、排水中のリン除去を行う技術が提案されている。
【0005】
特許文献2には、鉄塩またはアルミニウム塩とリン酸イオンとを反応させて排水処理を行う技術が提案されている。
【0006】
特許文献3には、リン酸イオンと反応して固体化する鉄塩またはアルミニウム塩で塊状化させて、排水浄化を行う技術が提案されている。
【0007】
特許文献4には、下水や工場排水中のリンを除去するために、ポリ硫酸第二鉄やポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を加えて、排水中のリンをリン酸鉄に化学変化させることで排水浄化を行う技術が提案されている。
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1〜4に記載の鉄塩等を用いたリンの除去方法では、いずれも鉄イオン等以外のイオンや成分が水中に残留してしまうという問題があった。すなわち、処理対象水への鉄塩等の添加に伴い、鉄イオン等と結合して鉄塩等を形成している塩化物イオンや硫酸イオン等の対イオンも処理対象水中に添加されることとなる。その結果、処理対象水中の塩化物イオン濃度や硫酸イオン濃度が上昇し、生態系に悪影響が生じるという問題があった。
また、上記した特許文献1〜4に記載のリンの除去方法では、いずれも対象溶液中の窒素の除去に関し、何らの考慮も払われていない。
【0009】
これらの問題に対し、発明者らは、特許文献5で、水中に溶解するリンを、鉄イオンあるいは亜鉛イオンと反応させて、水に不溶性のリン酸鉄あるいはリン酸亜鉛に変化させることで、水中のリンを沈殿物として回収する方法を提案した。
この技術は、金属鉄と炭素繊維とを接触させることで、水に溶解する鉄イオンを生成し、これと水中のリンと反応させ、水に不溶性のリン酸鉄に変化させて沈殿物として回収する技術である。
また、水中の鉄イオンは、金属鉄とイオン化傾向の高い金属とを接触させることによっても生成させることができる。従って、この技術は、水中のリンを、エネルギーを消費することなしに効率的に除去する、環境への負荷のない技術である。なお、この技術の対象とする水は、湖沼池、河川、ため池、湾、海域、産業排水、下水、畜産排水など、リンを含む水である。
【0010】
また、発明者らは、特許文献6で、環境水中のアオコの発生を防止するアオコ発生防止材として、炭素繊維と金属鉄とを接触させたものを提案した。この技術では、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状の炭素繊維、および、水の抵抗が少なくて、鉄イオンの溶出や不溶性のリン酸鉄の生成が容易となる、メッシュ状、網状、板状、貫通孔をもつ板状の金属鉄を使用した。
【0011】
さらに、特許文献5、6に記載の技術を、畜産関係に利用する技術として提案したものに特許文献7がある。この技術は、炭素繊維と鉄材とを混在させることで、し尿中のリンの除去効果を増大した方法および装置に関する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−205273号公報
【特許文献2】特開2006−281177号公報
【特許文献3】特開2008−68248号公報
【特許文献4】特開2003−340464号公報
【特許文献5】国際公開第2010/087050号
【特許文献6】特開2011−50878号公報
【特許文献7】特許第4572302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献5〜7に記載の技術は、いずれも炭素材として、種々の形態を提案しているが、中でも、前述したように、炭素繊維を用いることが最も好適であると記載している。というのは、炭素材の中でも炭素繊維は、平面上の金属鉄と密着させて接触面積を大きくすることができるだけでなく、金属鉄の形状の変化にも対応することができるからである。
【0014】
すなわち、特許文献5〜7に記載の技術は、実質的に、炭素繊維を用いる技術であって、炭素繊維の形状変形が良好なこと、および比表面積が大きいことを利用して、金属溶出部材との接触面積を大きく保ち、鉄イオンの溶出速度を高めた技術である。また、炭素繊維は機械的強度にも優れているので、自然環境下での使用に適している素材でもある。
【0015】
しかしながら、上述した利点を持ち、全体としては機械的強度に優れている炭素繊維でも、繊維の端末からの「ほごれ」は防ぐことができず、「ほごれ」を防止するためには特別の端末処理を必要とするところに問題を残していた。
例えば、フクオカ機業製の炭素繊維織物では、横糸を連続させて織り上げることで、「ほごれ」を防止している。それでも、炭素繊維織物の長手方向(経糸方向)では、「ほごれ」防止ができない。そのため、現状では、「ほごれ」防止のために端末を接着剤などで固定しているのが現状である。
【0016】
また、炭素繊維を自然環境下で使用した場合、大きな外力がかかることも想定される。このような場合、炭素繊維の破損、すなわち、炭素繊維の「ほごれ」が拡大して、炭素繊維の原形を維持することができなくなってしまう懸念がある。そして、このような破損が生じた場合には、環境水中に大量の炭素繊維が散乱することとなり、これを完全に回収することはとても困難な作業となる。
【0017】
さらに、炭素繊維は、鋭利な形状を持つものによって切断されることも考えられる。例えば、ギロチン状の歯をもつ魚類(例えば、フグやカワハギなど)、カメの歯およびアメリカザリガニのはさみなどである。炭素繊維は、これら鋭利な形状物によって切断された場合もやはり、環境水中に大量の炭素繊維が散乱して、これを完全に回収することは、上記同様とても困難な作業となる。
【0018】
また、炭素繊維の初期形状を維持することは難しい。というのは、海中などで炭素繊維を使用する際、炭素繊維には、波などによってねじれや回転などの複雑な動きが生じるので、炭素繊維の形状変形性の良いことが災いし、初期形状を維持することができなくなるからである。特に、水の流れが速く、流れが乱れている所が多い河川や湖沼では、より炭素繊維の初期形状を維持することが難しくなる、すなわち炭素繊維の「ほごれ」が発生しやすくなるという問題があった。
【0019】
従って、特許文献5〜7に記載の技術では、特に、水の流れが速く、流れが乱れている所が多い河川や湖沼において、水質浄化を開始した初期段階に、炭素繊維と金属鉄とが良好に接触して密着していても、時間の経過と共に、炭素繊維の「ほごれ」が発生して炭素繊維と金属鉄との間の接触面積が低下し、鉄イオンの溶け出し速度が低下することで、その水質浄化能力が低下してしまうという問題があった。
【0020】
また、炭素繊維織物と鉄メッシュから構成される水質浄化材を使用して環境水の浄化を行った際に、設置して3ケ月目までは、池水中のリン濃度が順調に低下したものの、4ケ月後以降、リン濃度が検出限界以下になることがないという実験結果を得た。
【0021】
この原因を探るために、上記の水質浄化材を池中から引き上げ、炭素繊維織物から鉄材を引き上げると、両者の間には、赤色物質が沈析していた。すなわち、この赤色物質によって炭素繊維と鉄との接触状態が不良になり、リンの除去速度が低下したものと推定された。ここに、炭素繊維織織物の組織を疎にする対策も考えられるが、析出物の除去は容易となるものの、水質浄化材自体の強度低下を引き起こし、好ましい対策ではない。
【0022】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、リンなどの環境汚染物質を環境水中から除去するために、長期間に亘って、炭素源と金属鉄との接触状態を良好に保つことができる水質浄化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明者らは、上記した炭素繊維の持つ諸問題を解決するために、鋭意検討を重ねた。
その結果、炭素繊維の「ほごれ」を防ぐため、さらには長期間に亘り炭素源と金属鉄との接触状態を良好に保つためには、長繊維の炭素繊維から作られた炭素繊維強化樹脂複合材を使い、さらに、金属鉄を摺動移動可能な状態とすることが有効であることが判明した。
本発明は、上記した知見に基づき完成されたものである。
【0024】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.金属鉄と、炭素繊維強化樹脂複合材を取り付けたメッシュ状の支持体からなる水質浄化材であって、該炭素繊維強化樹脂複合材と該金属鉄との少なくとも一部が接触し、かつ該金属鉄を、該支持体により、該支持体上または中で摺動移動可能に保持することを特徴とする水質浄化材。
【0025】
2.前記炭素繊維強化樹脂複合材は、引張り強度が200MPa以上であって、線状、棒状または板状のいずれかの形状であることを特徴とする前記1に記載の水質浄化材。
【0026】
3.前記炭素繊維強化樹脂複合材は、炭素繊維と樹脂とからなり、該炭素繊維は、連続した長繊維からなり、該樹脂は熱硬化性樹脂からなることを特徴とする前記1または2に記載の水質浄化材。
【0027】
4.前記金属鉄は、Fe含有率が80質量%以上である金属鉄であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の水質浄化材。
【0028】
5.前記支持体は、化学繊維からなることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の水質浄化材。
【発明の効果】
【0029】
本発明に従う水質浄化材によれば、長期間の使用によっても、炭素繊維の「ほごれ」が発生せず、また炭素源と金属鉄との接触状態を良好に保つことができるため、長期間に亘って、環境水からリンおよび窒素という汚染物質を、安定的に除去する効果を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に従う棒状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との組合せ要領を示した図である。
【図2】本発明に従う棒状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とメッシュ状の支持体の組合せ要領を示した図である。
【図3】本発明に従う円筒形の水質浄化材の構成を示した図である。
【図4】本発明に従う角柱状の水質浄化材の構成を示した図である。
【図5】本発明に従う炭素繊維強化樹脂複合材を斜めに配した水質浄化材の構成を示した図である。
【図6】本発明に従う棒状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との接触要領を示した図である。
【図7】本発明に従う水質浄化材の環境水への投入形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における水質浄化材は、金属鉄と、炭素繊維強化樹脂複合材を取り付けたメッシュ状の支持体からなり、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との少なくとも一部が接触し、かつ金属鉄を、支持体により、支持体上または中で摺動移動可能に保持するものである。
【0032】
ここに、炭素繊維強化樹脂複合材の長所を列記する。
力学的性質に優れる(強度、弾性率が高い、比強度や比弾性率がきわめて高い、疲労特性に優れる、クリープ特性に優れる、金属に比して振動減衰特性が良い)。
潤滑性に優れる(耐磨耗性が良く、摩擦係数が小さい、繊維配列と摺動面の相対的方向により著しく挙動が異なる)。
熱的性質が優れる(熱的寸法安定性が良い、設計により、ゼロ熱膨張材料が可能である、耐熱性、極低温性に優れる)。
化学的性質が優れる(耐薬品性に優れる、強酸や強アルカリなど溶剤に強い、耐海水性に優れる)。
電磁気的性質が優れる(電導性がある、非磁性である、X線の透過性が大きい、電磁遮藪(EMI)およびラジオ波遮藪(RFI)に利用可能である)。
【0033】
以上述べた特性を活用して、炭素繊維強化樹脂複合材は、宇宙航空機材料、スポーツ材料、建築材料、医療材料、自動車材料など幅広く使用されている。さらに、炭素繊維強化樹脂複合材は、耐水性、特に海水に対する耐久性が高く、船舶、潜水艇などにも使用されている。
【0034】
本発明のように、海や河川、産業用水の排水口付近などの水の動きの激しい分野で使用する場合、炭素源は、高強度、高耐久性、高弾性率を持つことが重要であるが、特に、炭素繊維強化樹脂複合材は、上述したように優れた特性を有するために、流動性の激しい水環境下でも破損することなく、形状を維持し、水質浄化機能を持続的に発揮することが可能である。
【0035】
本発明における水質浄化材は、金属鉄と、炭素繊維強化樹脂複合材を取り付けたメッシュ状の支持体からなっているが、本発明に用いる炭素繊維強化樹脂複合材としては、流動性の激しい水環境下でも破損のおそれがないように、炭素繊維強化樹脂複合材の引張り強度で200MPa以上が好ましい、より好ましくは300MPa以上である。
また、引張り弾性率を100GPa以下とすると、形状を維持する能力が一段と向上するため好ましい。より好ましくは、40GPa以下である。なお、下限は、特に制限はないが、製造性の観点から20GPa程度である。
【0036】
また、炭素繊維強化樹脂複合材は、線状、棒状または板状のいずれかの形状であることが好ましい。というのは、後述する摺動移動の作用によって、金属鉄などに沈析する赤色物質を効果的に除去することができるからである。
なお、本発明において、線状または棒状とは、半径:1cm〜1mの円の中にその断面が収まるものが好適である。従って、断面形状は、円形でも多角形でも四角形状でも、その他、半球状、U型状、V型状および波形状などでもかまわない。また、支持体に取り付けられるものであれば、特に、炭素繊維強化樹脂複合材の形状は限定されず、上述した板状や、箱型状、シート状、円錐状、多角錐状であってもよい。
【0037】
前記炭素繊維強化樹脂複合材は、炭素繊維と樹脂とからなり、該炭素繊維は、連続した長繊維からなり、該樹脂は熱硬化性樹脂からなることが好ましい。
すなわち、上記した炭素繊維は、長繊維が、一方向に配列したもの若しくは一方向に配列したシートを積層したもの、または長繊維を、経糸、緯糸とした織物を積層したもの、若しくは長繊維を芯材料に巻き付けたフィラメントワインデイング材などからなることが好ましい。どの材料を使用するかは、対象とする水の流れなど状態を把握して決めることができる。なお、上記材料を複数同時に使用しても良い。
また、フィラメントワインデイング材は、特定の角度で芯材料に長繊維を巻き付けたものであるが、この角度は、芯材に対して25〜75度程度が好ましい。
【0038】
また、炭素繊維強化樹脂複合材の母材となる樹脂は、一般的な熱硬化性樹が使用される。代表的な樹脂は、エポキシ樹脂である。その他、耐久性の高い樹脂であるならば、いずれも使用可能である。
【0039】
炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とがリンを含む排水に置かれると、リン酸鉄が生成する。さらに、赤色の生成物(酸化鉄など)も生成する。これらが炭素繊維強化樹脂複合材と鉄材との接触部に生成することで、両者の密着性は低下し、リンの除去能力は低下する。炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とは、接着していることが重要であるが、連続的でなくても、間欠的に接触することでも効果は持続できる。
さらに、反応によって生じた生成物が、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄の接触部から取り除かれることによって、より活性な状態を維持できる。その際、面状の炭素材と面状の鉄材とが固定されて接触していると、生成物を除去することができない。
【0040】
そこで、本発明では、メッシュ状の支持体により、金属鉄が、支持体上または中で摺動移動可能に保持されているのである。
ここに、メッシュ状の支持体は、金属鉄を支持し、炭素繊維強化樹脂複合材を取り付けられるものであれば、特に限定はないが、化学繊維から成っていることが好ましく、金属鉄と炭素繊維強化樹脂複合材との接触および摺動移動可能な状態の保持という役割を担っている。すなわち、本発明では、金属鉄が、支持体上または中で摺動移動することで、金属鉄と炭素繊維強化樹脂複合材とを適度に接触させると同時に、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄の接触部の反応によって生じた赤色生成物を効果的に取り除いているのである。
なお、摺動移動可能な状態とは、上記の生成物が除去されれば、特に限定はないが、金属鉄が、メッシュA上を上下左右前後に関係なく0.5〜5mm程度動くことが好ましく、円筒形のものであれば回転するだけでも良い。また、流速:0.1〜500m/min程度の流れで動くこと、また海域の場合、繰り返される波の力によって動くこと、産業排水等の浄化処理の場合には、逆洗操作によって水質浄化材が動揺することなどで、金属鉄が摺動することが好ましい。
そのためには、面状でなく、面の中に孔をもつ、溝を持つ、凹凸を持つ、空間をもつことなども好ましい。これは炭素繊維強化樹脂複合材でも、金属鉄でも同様である。
【0041】
支持体のメッシュサイズは、水質浄化材の設置環境によって、また金属鉄や炭素繊維強化樹脂複合材の大きさ等によって、適宜決めることができるが、3〜10mm程度の範囲が好ましい。
また、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との反応による生成物を除去するために、炭素繊維強化樹脂複合材の取り付け間隔は、1mm〜50cmまでの範囲、また炭素繊維強化樹脂複合材および化学繊維製のメッシュに絡ませる結合糸の間隔は、2mm〜20cmの範囲が好ましい。さらに、炭素繊維強化樹脂複合材をメッシュ状の支持体(メッシュA)で結合した後、このメッシュAを、さらに大きなメッシュ状の支持体(メッシュB)で、金属鉄共々支持することもできる。
その際のメッシュAは、メッシュAに取り付ける炭素繊維強化樹脂複合材の大きさなどを考慮してその大きさを決めればよく、メッシュサイズは4mm程度が好ましい、またメッシュBは、設置場所などを考慮してその大きさを決めればよく、メッシュサイズは12.6mm程度であると、それぞれ実用性が高く好ましい。
金属鉄と、炭素繊維強化樹脂複合材を化学繊維製の結合糸で取り付けたメッシュ状の支持体とから作られる水質浄化材は、上記の構成を取ることで、乱流状態の水環境下でも形状を維持しつつ、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との接触状態を保持できるので、水質浄化機能を持続することができる。
【0042】
また、炭素繊維強化樹脂複合材を支持体に取り付ける方法は、特に限定はないが、例えば、板状の場合、水中で使える衝撃や振動に強い高強度接着剤などを選択すると良い。
他方、棒状の炭素繊維強化樹脂複合材であれば、後述するように、接着剤または化学繊維製の結合糸を用いれば良い。支持体に安定して取り付けることができるからである。なお、炭素繊維強化樹脂複合材は、支持体に直接取り付けてもよいが、上述したように間接的に支持させることもできる。
【0043】
上述した結合糸は、ナイロン糸系、ポリエチレン糸系、ナイロンモノフィラメント糸=ナイロンテグス系、ポリエステル糸系、ビニロン糸系などを使用することができる。
【0044】
本発明では、上述したように、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との少なくとも一部が接触している必要がある。ここで、図1〜6に、本発明に従う水質浄化材を具体的に示す。
図1には、棒状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との組合せ要領を、図2には、本発明に従う棒状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とメッシュ状の支持体の組合せ要領を、それぞれ示している。
また、本発明では、図3に示すように円筒形だけでなく、図4に示すような角柱状の水質浄化材でもよい。
さらに、本発明は、図5に示すように、炭素繊維強化樹脂複合材を斜めに配した水質浄化材とすることができるだけでなく、図6に示すように、下から金属鉄を支える形としても良い。なお、下から金属鉄を支える形の場合は、金属鉄の落下防止のために結合糸などを用いて、金属鉄を支持することが望ましい。
【0045】
本発明に用いる金属鉄としては、Fe含有量で80質量%以上の合金鉄または純鉄であれば、鉄イオンの流出が良好なため、特に好適に使用することができる。ここに、Fe含有量が80質量%に満たないと、金属鉄の表面におけるFe組織の専有面積が下がり、炭素繊維強化樹脂複合材との接触状態が不十分となるおそれがある。また、環境水への不要なイオンの溶け出しも起こる。なお、かような金属鉄としては、純鉄を始めとして、Fe-ニッケル合金やFe-クロム合金等の合金が有利に適合するが、純鉄がとりわけ有利である。
【0046】
本発明に用いる金属鉄の形状は、板状、棒状、筒状、鉄筋状、塊状、網状など、メッシュ状の支持体で保持されるものであれば、特に限定はなく、本発明における金属鉄として使用可能である。なお、好ましい形状としては棒状であり、その大きさは、直径:1〜50cm程度であり、長さは5cm〜10m程度である。
また、使用する鉄棒は、鉄棒1本をメッシュでつつむだけでなく、直径:1〜10cmの鉄棒を数十本を束にしたものを使用することもある。
【0047】
本発明に従う水質浄化のメカニズムは、以下のとおりである。
一般的に、排水浄化は、生物処理によって行われる。これは廃水中に空気をバブリングさせることで、水中の好気性菌を活性にし、好気性菌によって有機物を二酸化炭素あるいは水に分解する。また、窒素化合物は、一般的には好気性菌で硝酸イオンに分解される。好気性菌のみでは、水質浄化はできないので、還元性条件下、嫌気性菌の作用によって硝酸イオンを分解して窒素ガスとし、大気中に放出する。この反応を起させるには、硝酸イオンから酸素原子を除去しなければならないが、嫌気性菌の作用だけでは不十分である。
【0048】
ここで、硝酸イオンから酸素原子を取除くことを一種の化学反応と見れば、還元反応と考えられる。すなわち、上記したような、環境水中の窒素を除去するためには、強力な還元剤が必要となるが、一般的な還元剤は環境に与える負荷も大きく、実際に用いることのできる還元剤はほとんどない。
【0049】
そこで、本発明では、以下に説明するメカニズムで、リンおよび窒素を環境水中から取り除くのである。
まず、金属鉄のみを水中に加えたとしても、金属鉄の溶解はほとんどおこらない。そこで、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とを接触させて水中に加えると、鉄の溶解が促進される。これは、炭素繊維強化樹脂複合材中の炭素材と金属鉄との間に、一種の局部電池が形成され、それによって鉄イオンが生成するためである。その後、この鉄イオンと水中のリン酸イオンとで反応が起こり、リン酸が、以下の反応式のように不溶性のリン酸鉄となり、環境水中から除去することが可能となる。
3Fe2+ + 2PO3− = Fe(PO
Fe3+ + HPO = Fe(PO
【0050】
一方、金属鉄は酸化して酸化鉄にもなる。この酸化鉄生成に使用される酸素は、環境水中にある窒素酸化物から供給されるため、窒素酸化物は、酸素が脱離して窒素ガスとなる。その結果、環境水中の窒素の除去ができるのである。
【0051】
本発明に従う水質浄化材は、例えば、以下の手順で製作し、使用することができる。
a)炭素繊維樹脂複合材棒(東レ(株)製、炭素繊維を一方向に引きそろえて、エポキシ樹脂で硬化させた棒、直径:2mm、長さ:30cm)を、所定間隔でメッシュA(幅:25mm、長さ:150mm)に接着剤で固定する。鉄棒は、直径:3cm、長さ:10cmで、この大きさに合致するメッシュAを用いた。なお、メッシュAは鉄パイプあるいは鉄棒の太さによって変更することができる。
b)炭素繊維樹脂複合材棒の片端も、前述したように所定間隔でメッシュAに接着剤で固定する。
c)両端にメッシュAを接着した炭素繊維樹脂複合材棒は、メッシュB(幅:300mm、長さ:500mm)の中央部に置いた。なお、メッシュBは、鉄パイプの太さおよび長さによって適宜変更できる。
d)メッシュAの片端は、メッシュBに結合糸(ポリエチレン)を用いて綴じ合わせた。この場合、接着剤を使用することができる。
e)所定本数の炭素繊維樹脂複合材棒の上に、上記した寸法の鉄棒(あるいは鉄パイプ)を置き、鉄棒を包み込むようにメッシュBの両端を合わせて水質浄化材とした。
f)水質浄化材を包んで筒状にしたメッシュBの両サイド(鉄管補充口)を結束バンドなどで閉じる。
g)水質浄化材は、図7に示すように、吊り下げ用ロープ(ポリエチレンとビニロンの混撚ロープ)をメッシュBの周囲2箇所に巻き付け、所望の環境水中に吊り下げる。
【0052】
上述した手順を経ることで、本発明の水質浄化材は、池、湖沼、河川、海、養魚場などに設置することができ、長期間の使用によっても、炭素繊維の「ほごれ」が発生せず、炭素源と金属鉄との接触状態を良好に保つことができるだけでなく、魚介類の蝟集効果をも示す。
【実施例】
【0053】
発明例として使用した炭素繊維樹脂複合材棒(東レ(株)製)は、直径:2mm、長さ:30cmで、炭素繊維を一方向に曳きそろえた炭素繊維の一方向材とした。炭素繊維樹脂複合材棒の両端に、メッシュA(幅:25mm、長さ:150mm)をそれぞれ置き、接着剤を使用して両者を固定した。使用した炭素繊維樹樹脂複合材棒は、20本、メッシュAとの結合箇所は、片面20箇所、両面で40箇所であった。これをメッシュB(幅:300mm、長さ:500mm)の中央部に置き、メッシュAとメッシュBとを結合糸(ポリエチレン製)を用いて絡ませて行った。
【0054】
メッシュB上の炭素材の中央部に金属鉄(直径:3cm、長さ:10cm)を置き、メッシュBで包むように、外側から細いロープを巻き付けた。従って、この構成は、中心部から{(金属鉄/炭素繊維樹脂複合材/メッシュA)/結合糸}/メッシュBである。ここで、メッシュBと金属鉄との空隙は、いずれの箇所でもほぼ5mmであった。
なお、金属鉄は、一般構造用圧延鋼材(朝日工業(株)、SS400)を、メッシュAは、朝日もじ網(株)製、ナイロン本もじ網(4×4、120経、4m/4m、角目)を、メッシュBは、朝日もじ網(株)製、ナイロン本もじ網(16×16、38経、12.6m/12.6m、角目)をそれぞれ用いた。また、その大きさは、金属鉄が直径:3cm、長さ:10cmを、メッシュAは幅:25mm、長さ:150mmを、メッシュBは幅:300mm、長さ:500mmをそれぞれ用いた。
【0055】
ビーカー(2L)中にリン酸を含む溶液をいれ、その中に上記の水質浄化材を吊り下げ、マグネチックスターラで攪拌した。鉄材の溶解状況、リン濃度の低下状況、生成物の除去状況を確認した。所定時間経過後、水溶液中の全リン濃度および鉄濃度を、パックテスト法で測定した。
測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
同表に示したとおり、時間経過とともに水中の全リン濃度は徐々に低下し、鉄濃度は、増加した。実験開始直後は5mg/Lあった全リン濃度は、3日後には検出限界以下になった。
全リン濃度が検出限界以下になったので、再度リン溶液を加えた。添加直後の全リン濃度は、5mg/Lであった。1週間後に全リン濃度を測定すると検出限界以下となった。
【0058】
本発明の水質浄化材は、炭素繊維樹脂複合材棒と金属鉄との間に空間部があることから、生成物の除去が容易であり、再度リン溶液を加えてもリン除去の効果が低下していないことが分った。なお、本実施例では、空間部のメッシュの大きさは、縦横共に5mmであったが、さらに大きくすることも、小さくすることも可能である。
【0059】
比較例として、鉄棒に炭素繊維織物を巻きつけたリン除去材を使用し、リン除去実験を行った。ビーカー(2L)中にリン酸を含む池水をいれ、その中に鉄棒に炭素繊維織物を巻きつけたリン除去材(鉄材/炭素繊維織物)を吊り下げ、マグネチックスターラで攪拌した。鉄材の溶解状況、リン濃度の低下状況、生成物の除去状況を確認した。所定時間経過後、水溶液中の全リン濃度および鉄濃度を、上記と同様の方法で測定した。
測定結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
同表に示したとおり、時間経過とともに水中のリン濃度は徐々に低下し、鉄濃度は、増加した。実験開始直後は5mg/Lあった全リン濃度は、3日後には検出限界以下になった。
リン酸濃度が検出限界以下になったので、再度リン溶液を加えた。添加直後のリン濃度は、5mg/Lであった。1週間後にリン酸濃度を測定すると2mg/Lであり、2週間後でも2mg/Lであった。
【0062】
以上の結果から、リン酸の除去速度が、著しく低下していることが分かる。2週間後、比較例のリン除去材を水中から取り出し、炭素繊維織物を鉄棒から引き剥がしたところ、両者の間には、赤色物質が沈析していた。炭素繊維織物の組織が緻密であることから、析出した赤色沈殿物が、蓄積されたものと考えられる。この赤色物質は、リン酸鉄あるいは酸化鉄で電気伝導性を持たないことから、炭素繊維と鉄棒との接触を阻害するために、鉄の溶け出しが低下し、その結果、リン酸イオンの除去速度が著しく低下したのである。
すなわち、炭素繊維織物を使用した場合のリン除去実験では、生成物が鉄と炭素材との反応を阻害することから、本発明の水質浄化材のように生成物を除去することが必要であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に従う水質浄化材を利用することにより、環境水中のリンや窒素の濃度を効果的に抑制し、その抑制効果を、長期間維持することができ、もって環境水汚染防止等の環境の維持に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鉄と、炭素繊維強化樹脂複合材を取り付けたメッシュ状の支持体からなる水質浄化材であって、該炭素繊維強化樹脂複合材と該金属鉄との少なくとも一部が接触し、かつ該金属鉄を、該支持体により、該支持体上または中で摺動移動可能に保持することを特徴とする水質浄化材。
【請求項2】
前記炭素繊維強化樹脂複合材は、引張り強度が200MPa以上であって、線状、棒状または板状のいずれかの形状であることを特徴とする請求項1に記載の水質浄化材。
【請求項3】
前記炭素繊維強化樹脂複合材は、炭素繊維と樹脂とからなり、該炭素繊維は、連続した長繊維からなり、該樹脂は熱硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の水質浄化材。
【請求項4】
前記金属鉄は、Fe含有率が80質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水質浄化材。
【請求項5】
前記支持体は、化学繊維からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水質浄化材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−91025(P2013−91025A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234394(P2011−234394)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(508174687)石井商事株式会社 (8)
【出願人】(511258215)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】