説明

水質監視装置および方法

【課題】より低濃度の毒性を実用的に検知可能な水質監視装置および方法を提供する。
【解決手段】毒性物質検知手段として生物を使った水質監視装置において、監視対象となる検水を膜分離により事前に濃縮する、ナノフィルトレーション膜を用いた検水濃縮手段と、該検水濃縮手段により濃縮された検水を生物と接触させる手段とを有することを特徴とする水質監視装置および方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質監視装置および方法に関し、とくに、上水道取水源の安全管理、河川水や湖沼水等の汚染状態モニタリング、工場用水の安全性モニタリング、工場排水モニタリング等に利用可能な、生物を使った水質連続監視装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物を使った水質連続監視計器は上記のような分野で利用されてきつつあり、その検出手段としての生物には、魚類、ミジンコ、藻類や硝化菌等の微生物を含め各種のものが用いられてきた。
【0003】
監視計器の原理は、具体的には、検水を連続的に水槽に導入しながら水槽中に飼育している生物を監視し、生物の行動や反応に異常が生じた時に警報を発生させるように検出手段を設定した装置である。
【0004】
その検出手法としては、例えば魚類の映像をCCDカメラで画像として認識して、魚類の行動を数値化し、その数値または数値の推移に通常行動と異常行動の違いを認識させるプログラムを介して異常警報を発するという方法がある。また、他の検出手法として、上記の画像行動の代わりに生物の活動電位として認識する方法、生物増殖の程度を水中の濁度や吸光度としてとらえる方法、また生物の呼吸作用を酸素の移動量で認識させる方法等各種提案実施されている。
【特許文献1】特開2002−257815号公報
【特許文献2】特開2003−139764号公報
【特許文献3】特開2004−61158号公報
【特許文献4】特開2004−125753号公報
【特許文献5】特開2002−350423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の水質連続監視計器は、上記したように検出手段としての生物は魚類、ミジンコ、藻類や硝化菌等の微生物を含め各種用い、毒性のある検水が流入した時に警報を発生させるように検出手段を設定した装置である。すなわち、これらは一般的にはバイオアッセイによる連続検知と称される方式である。これらの装置においては、その原理により、生物が反応する濃度の毒性物質を含む毒性レベルは検出可能であるが、それ以下の濃度においては長期間の反応時間を有するかまたは反応しないのが通例である。
【0006】
これらの毒性物質反応レベルは、検水の毒性濃度が事故や何らかの原因等で、特異的に上昇した場合の検知には十分適応可能なものであり、例えば、当座の飲用に供するのが安全かどうかをチェックするには使用可能なものである。すなわち、水道原水や地下水等の事故や何らかの原因による異常、あるいは排水の特異的な事故のモニターとしての安全管理には使用可能なものである。
【0007】
一方、河川水、湖沼や海洋等の毒性物質を対象とした水質レベルで水質汚濁防止法の範疇で環境基準や排水基準値が設定されているが、これらの毒性物質濃度は上記の反応レベル濃度の1桁から2桁低濃度に位置付けられるものである。その理由は、環境基準等の設定時点に生物に対する反応濃度を考慮した上にある程度の余裕率を掛けて水質基準が決められているからである。
【0008】
バイオアッセイ方式ではない物理的あるいは化学的方法による分析により毒性物質を検知することは原理的には可能であるが、その方法は特定の物質を対象として分析するため何百万種類も有ると言われている化学物質一般毒性評価に対応できないことや、分析に長時間を要するため毒性物質のモニターとしては適当ではないと考えられる。
【0009】
したがって、環境基準や排水基準レベルの低濃度の毒性を特定物質ではなく一般の毒性として検知するのは、現状のバイオアッセイあるいは一般の物理的化学的分析法では実質的に困難な状況であり、より低濃度の毒性を検知できる技術が求められている。
【0010】
そこで本発明の課題は、上記のような問題点や要望に鑑み、より低濃度の毒性を実用的に検知可能な水質監視装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の問題点を解決するには、物理的化学的分析法の適用範囲を広げるか、あるいはバイオアッセイの検知感度を向上させるのが有効であるが、前者は数百万種類に対応できる技術は現状不可能なことから、後者が現実的であると考えられる。そこで本発明者らは、具体的にバイオアッセイの感度向上手法について検討した結果、生物を使った水質連続監視計器において、監視対象となる検水を前段で濃縮し、有毒成分濃度をあらかじめ高めておいてから生物と接触させる手法を考案した。
【0012】
すなわち、本発明に係る水質監視装置は、毒性物質検知手段として生物を使った水質監視装置において、監視対象となる検水を膜分離により事前に濃縮する、ナノフィルトレーション膜を用いた検水濃縮手段と、該検水濃縮手段により濃縮された検水を生物と接触させる手段とを有することを特徴とする装置からなる。
【0013】
また、本発明に係る水質監視装置は、毒性物質検知手段として生物を使った水質監視装置において、監視対象となる検水を吸着により事前に濃縮する、溶媒脱離手段を備えた検水濃縮手段と、該検水濃縮手段により濃縮された検水を生物と接触させる手段とを有することを特徴とする装置からなる。
【0014】
本発明に係る水質監視方法は、毒性物質検知に生物を使う水質監視方法において、監視対象となる検水を、ナノフィルトレーション膜を用いた膜分離法により事前に濃縮した後、濃縮された検水を生物と接触させることを特徴とする方法からなる。
【0015】
また、本発明に係る水質監視方法は、毒性物質検知に生物を使う水質監視方法において、監視対象となる検水を、溶媒脱離手段を備えた吸着法により事前に濃縮した後、濃縮された検水を生物と接触させることを特徴とする方法からなる。
【0016】
すなわち、本発明においては、監視対象となる検水を事前に濃縮した後生物と接触させる。この検水事前濃縮手法は各種考えられるが、本発明者らの検討結果では、膜分離方式あるいは吸着剤方式が有効であることが確認されている。
【0017】
膜分離方式はMF膜(精密濾過膜)、UF膜(限外濾過膜)、RO膜(逆浸透膜)、イオン交換膜等各種膜の使用が考えられるが、本発明における目的の有毒成分の濃縮という点ではRO膜が最も適当である。なぜなら、MF、UFでは分離膜の孔径が大きすぎて目的とする有害成分も濃縮されずに透過してしまう。また、イオン交換膜はイオンに対する選択性が強すぎてイオン化していない毒性成分の濃縮には適さない。したがって、濃縮しようとする成分を有効に濃縮できるのはRO膜が最適である。ただし、RO膜はほとんどすべての成分を濃縮するため、あまり濃縮倍率を上げると濃縮水の塩濃度が上昇し、生物の生息に適さない範囲になる恐れがある。したがって、RO膜による濃縮方式を適用する場合はあまり濃縮倍率を上げすぎないように注意する必要がある。そこでRO膜の中でも、ナノフィルトレーション膜(いわゆるルーズRO膜、以下、NF膜と略称することもある。)といわれる比較的低分子イオンの透過性が低いタイプの膜が、毒性成分を濃縮しつつ塩分をあまり濃縮しないため有効である。
【0018】
膜分離技術振興協会編「水道用膜モジュール性能調査規定集」によれば、NF膜は「操作圧力1.5MPa以下で使用され、塩化ナトリウム濃度が500〜2000mg/Lで操作圧力が0.3〜1.5MPaの評価条件の下で塩化ナトリウム除去率が5%以上93%未満の膜」と定義されている。
【0019】
また、本発明に係る水質監視装置および方法において、対象となる有毒成分は比較的高分子であることが多く、NF膜は透過しない場合がほとんどであるから、NF膜を使用することにより有効に濃縮できる。その例としては、重金属、有機塩素化合物、農薬類、芳香族系炭化水素、ニトロ化合物等である。
【0020】
一方、本発明においては、吸着剤を使った濃縮方式も有効であり、検水を例えば吸着樹脂に通水し吸着剤中に毒性成分が選択的に濃縮されることを利用できる。この吸着方式は、少なくとも溶媒脱離工程(手段)を備えており、例えば、(1)吸着工程、(2)溶媒脱離工程、(3)溶媒分離工程の3工程を連続的に繰り返し行いながら、濃縮水を作る方式である。
【0021】
この方式は上記のようにやや煩雑な工程の繰り返しが有るのが欠点ともいえるが、濃縮倍率が自由に上げられる利点を有している。つまり、所望の濃縮倍率を設定でき、その濃縮倍率に容易に調整できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有毒成分を事前に濃縮することで、従来はバイオアッセイ方式で検出不可能であった低濃度でも生物反応が得られるようになった。したがって、環境水等の低濃度毒性の検知が可能になり、一般環境管理分野等への適用も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る水質監視装置および方法の概略構成を示している。図1において、監視対象となる検水1は、例えば高圧ポンプ2により、ナノフィルトレーション膜を用いた検水濃縮手段としてのNF膜濃縮設備3に送られ、ここで膜分離により事前に濃縮される。透過水はブロー水4として放出され、濃縮された検水としての濃縮水5が、毒性物質検知手段として生物を使った水質連続監視設備6に送られ、検水中の毒性物質が生物を用いて連続的に検知され監視される。検知後の検水は連続的に排出されるが(排水7)、必要に応じて、生物の状態や挙動が映像信号8や警告信号9として発せられる。
【0024】
図2は、本発明の別の実施態様に係る水質監視装置および方法の概略構成を示している。図2において、監視対象となる検水11は、例えば吸着剤として樹脂を用いた吸着工程12に送られ、吸着工程12で検知すべき毒性物質が樹脂に吸着され、吸着した樹脂13とともに一部の検水が次工程に送られ、残りの排水14は排出される。次工程では、脱離液15と溶媒16を用いて、脱離工程17と分離工程18を繰り返し、脱離工程17から、吸着されていた毒性物質が脱離された樹脂19が吸着工程12に戻される。分離工程18で吸着されていた毒性物質が分離された検水は濃縮水20(濃縮された検水)として、毒性物質検知手段として生物を使った水質連続監視設備21に送られ、検水中の毒性物質が生物を用いて連続的に検知され監視される。検知後の検水は連続的に排出されるが(排水22)、必要に応じて、生物の状態や挙動が映像信号23や警告信号24として発せられる。
【0025】
このような吸着方式による水質監視装置および方法において、吸着剤としては例えば”アンバーライト”XADシリーズ等の樹脂、脱離液としては例えばアセトン、ジメチルスルホキシド等の溶媒、更に分離工程としては例えば蒸留式による加熱分離方式が使用できる。これらの方式を組み合わせ、濃縮装置を組み立てることにより、任意の濃縮倍率が得られるが、連続検出装置の通水量は1L/min程度であり、前処理装置容量を考慮すると装置的には100倍程度までの濃縮倍率が妥当と考えられる。なお、生物による検出装置を工夫し容量を小さくすることにより更なる高濃縮倍率の適用も考えられる。
【0026】
図3は、比較のための従来の水質監視装置および方法の概略構成を示している。図3において、監視対象となる検水31は、毒性物質検知手段として生物を使った水質連続監視設備32に送られ、検水中の毒性物質が生物を用いて連続的に検知され監視される。検知後の検水は連続的に排出されるが(排水33)、必要に応じて、生物の状態や挙動が映像信号34や警告信号35として発せられる。
【実施例】
【0027】
以下に、図1に示した方式による実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
実施例1、比較例1、2
実施例1におけるバイオアッセイによる水質連続監視設備は、約10匹のヒメダカの映像をCCDカメラで画像として認識して、魚類の活動度を数値化し、その数値または数値の推移に通常行動と異常行動の違いを認識させるプログラムを介して異常警報を発するという方式である。具体的な画像解析の手法は以下の通りである。
【0029】
ヒメダカの動きをCCDカメラで捕えて活動量を測定し、この活動量の推移をモニターする。活動量は模式的には下記のような原理で測定する。この活動量が急激に低下したときおよび変化が見られたとき、水質異常の警報を発信する。
【0030】
パソコンソフトウェアで活動量を統計処理し、警報発信を行うと共に履歴を保存しトレーサビリティー確保を行っている。具体的には、10匹のヒメダカを飼育している水槽をCCDカメラで撮像し、その信号を画像解析ユニットに送り、上記処理を行う。
【0031】
この実施例1においては、図1における水量を、Q1=10L/min、Q2=9L/min、Q3=1L/minに設定した。なお実際には、高圧ポンプ2には、膜通水方式で循環運転を行うため、Q1よりも大容量のポンプが必要である。本方式によるヒメダカ監視装置の警報発報状況を図4に示す。検知対象毒性物質としては、工業用水に界面活性剤(LAS)を20mg/L添加してヒメダカ監視装置に通水した.このLASは、直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸を示しており、ABS洗剤等として用いられる陰イオン界面活性剤である。事前濃縮を行わない従来方式(比較例1)では工業用水に界面活性剤を20mg/L添加してヒメダカ監視装置に通水したが、図4に示したようにヒメダカの行動には異常が無く警報の発報も見られなかった。
【0032】
一方本方式で市販のNF膜(日東電工社製、スパイラルモジュール型、クロスフロー通水)10倍濃縮条件で連続濃縮しながら、濃縮水をメダカ監視装置に通水した結果、図4に示すように約30分で予備警報の注意1(注意ランク付けした中のランク1)から注意3を発信し約50分で警報の発信(本警報の発信、異常警報の発信))が見られた。このように事前濃縮を組み合わせることで、従来検知できなかった濃度の有害物質を検知できることがわかった。
【0033】
本実施例1における水質測定データを表1に示す。表1によれば、濃縮側に有機物の指標であるTOC(全有機体炭素)は高度に濃縮されているが、導電率の測定結果によれば塩分はあまり濃縮していないことが観察される。表1から、濃縮された検水では、LASが効率よく高濃度に濃縮されており、毒性物質検知を効果的に行うことができることが分かる。
【0034】
また、比較例2として実施したRO膜(NF膜ではないRO膜)による濃縮テスト結果を表2に示す。本結果によれば導電率も有機物指標と同様に約10倍濃縮されているため、塩濃度が表1よりも高くなり、魚類生息条件としては好ましくない傾向を示していることが分かる。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施態様に係る水質監視装置の概略構成図である。
【図2】本発明の別の実施態様に係る水質監視装置の概略構成図である。
【図3】従来の水質監視装置の概略構成図である。
【図4】実施例1、比較例1における結果を示す経過時間と警報レベルとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 検水
2 高圧ポンプ
3 NF膜濃縮設備
4 ブロー水
5 濃縮された検水としての濃縮水
6 生物を使った水質連続監視設備
7 排水
8 映像信号
9 警告信号
11 検水
12 吸着工程
13 毒性物質を吸着した樹脂
14 排水
15 脱離液
16 溶媒
17 脱離工程
18 分離工程
19 毒性物質が脱離された樹脂
20 濃縮された検水としての濃縮水
21 生物を使った水質連続監視設備
22 排水
23 映像信号
24 警告信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毒性物質検知手段として生物を使った水質監視装置において、監視対象となる検水を膜分離により事前に濃縮する、ナノフィルトレーション膜を用いた検水濃縮手段と、該検水濃縮手段により濃縮された検水を生物と接触させる手段とを有することを特徴とする水質監視装置。
【請求項2】
毒性物質検知手段として生物を使った水質監視装置において、監視対象となる検水を吸着により事前に濃縮する、溶媒脱離手段を備えた検水濃縮手段と、該検水濃縮手段により濃縮された検水を生物と接触させる手段とを有することを特徴とする水質監視装置。
【請求項3】
毒性物質検知に生物を使う水質監視方法において、監視対象となる検水を、ナノフィルトレーション膜を用いた膜分離法により事前に濃縮した後、濃縮された検水を生物と接触させることを特徴とする水質監視方法。
【請求項4】
毒性物質検知に生物を使う水質監視方法において、監視対象となる検水を、溶媒脱離手段を備えた吸着法により事前に濃縮した後、濃縮された検水を生物と接触させることを特徴とする水質監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−266922(P2006−266922A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86657(P2005−86657)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】