説明

水質評価方法及びそれに用いられる基板接触器具

【課題】被評価水の水質評価を精度よく行うことが可能な水質評価方法と、この水質評価方法に用いられる基板接触器具とを提供する。
【解決手段】基板接触器具10は、内部を真空度−0.094MPa以下に維持することが可能な密閉性能を有している。基板接触器具10内に基板Wを収容して被評価水を通水し、通水停止後、基板接触器具10内部を密閉し、この基板接触器具10内に基板Wを収容したまま分析設備に搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において好適に使用される超純水の水質評価方法に係り、特に、半導体ウェハ等の基板に超純水を接触させ、この基板の表面分析を行うことにより超純水の水質を評価する場合に好適な評価方法に関するものである。また、本発明は、この水質評価方法に用いられる基板接触器具に関する。
【背景技術】
【0002】
電子産業分野で使用される超純水は、洗浄工程の最後にウェハに接触する物質であるため、超純水に含まれる不純物の濃度がシリコンをはじめとする基板表面の洗浄度に影響する。このため、半導体分野などでは、集積度の増加と共に、その製造工程で使用される超純水中の不純物濃度を低下させることが必要とされ、従来は超純水中に含まれる不純物の全てを低減させる努力がなされてきた。このため、水中の不純物を、高感度の分析装置を使用して超微量まで分析できるような技術開発が行われてきた。
【0003】
しかしながら、近年の半導体製品の急速な性能向上に伴い、超微量の不純物分析をクリアーした超純水を用いて洗浄した場合でも、製品の品質基準を満足できない事例が起こっている。
【0004】
この半導体製品に影響を及ぼす可能性が高い有機物の種類は極めて多く、特定するのが困難であり、また超純水に含有される量もng/Lオーダーと超微量で分析下限値以下であるため、水質として把握することができないという問題があった。また、超純水中に、ある物質が極微量しか存在しない場合であっても、例えば共存物質の影響により基板に付着し易い状況になっていると、その物質が基板に悪影響を及ぼすことになるが、超純水そのものを直接水質分析してもこのような状況は把握しにくく、適切な水質評価が行われていないことがあった。
【0005】
このような問題点を解決するために、半導体ウェハ等の基板を被評価水と接触させることにより被評価水中の不純物をこの基板に付着させ、この基板表面の付着物を分析、あるいは付着物を一旦溶離して溶離液を分析、あるいは基板表面の変化を分析するなどして、被評価水の水質を評価する水質評価法が開発されている。
【0006】
例えば、特開2001−208748号には、基板表面に付着した金属を全反射蛍光X線分析により検出することが記載されている。また、特開2005−274400号には、基板表面に付着した有機物をフーリエ変換赤外吸収分光法(FTIR)や熱脱離ガスクロマトグラフ法(TDGCMS)により検出することが記載されている。
【0007】
この水質評価方法によれば、実際に基板が被評価水から受ける影響を把握することができ、これにより基板に影響を与える被評価水中の不純物を特定することも可能である。
【0008】
なお、上記特開2001−208748号及び特開2005−274400号においては、基板を保持容器(基板接触器具)内に収容し、この保持容器内に被評価水を通水して被評価水と基板とを接触させた後、保持容器から基板を取り出し、この基板を密閉容器に入れて分析装置のある場所へ搬送し、分析を行う。
【特許文献1】特開2001−208748号
【特許文献2】特開2005−274400号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特開2001−208748号及び特開2005−274400号の評価方法においては、基板を保持容器から取り出した際に空気中の不純物が基板表面に付着するのを防止するために、保持容器への通水工程をクリーンルームのような清浄な雰囲気が形成される場所で行うか、又はこのような場所の近くで行わなければならない。
【0010】
また、クリーンルームで保持容器を開放し、容器中に基板を収容したり、容器内から基板を取り出したりするとき以外は、どの工程においても、この基板を収容する保持容器の密閉度が十分であることが望まれる。
【0011】
即ち、クリーンルームで保持容器内に基板を収容した後、被評価水とこの基板とを接触させる(保持容器内に被評価水を通水する)現場へ保持容器を移送するとき、保持容器内に被評価水を通水しているとき、さらに、通水停止後に保持容器内に基板を収容したままこの保持容器を分析機器がある場所まで搬送するときなどに、この保持容器内の基板と大気(外気)とが接触しないようにすることが望まれる。
【0012】
特に、基板表面の分析には高度な機器を必要とし、分析機器のある場所が限られているので、被評価水と基板との接触後に保持容器をこの分析機器のある場所まで移送するのに時間が掛かったり、この分析機器の使用可能時間に制限があったりして、基板を保持容器内に長時間保持しておかねばならないことがある。そのため、この保持容器は長時間にわたって密閉状態を維持することができることが望まれる。
【0013】
なお、内部を十分な真空度に維持できない保持容器を用いると、僅かながらも大気が保持容器内の基板と接触し、大気中からの汚染物、酸素によって基板の表面状態が変化してしまう。その結果、この基板の表面状態の変化が被評価水によるものなのか、大気との接触によるものなのかの特定ができなくなる。また、被評価水との接触により基板の表面状態が変化した上に、大気との接触によりさらに基板の表面状態が変化すると、被評価水の水質評価(被評価水中の金属や有機物の存在量の測定)を精度よく行うことが困難になる。
【0014】
例えば、被評価水中にアンモニア、アミンなどのアルカリ物質が存在すると、エッチング作用により基板の表面に凹凸が形成されるが、さらに基板の表面に大気が接触した場合、大気中の汚染物質が基板の表面に付着したり、あるいは大気中の酸素により基板の表面に酸化膜が形成され、この凹凸の高さが小さくなるという影響がある。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点を解消し、被評価水の水質評価を精度よく行うことが可能な水質評価方法と、この水質評価方法に用いられる基板接触器具とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明(請求項1)の水質評価用の基板接触器具は、内部に基板を収容し、該基板を被評価水と接触させることができる水質評価用の基板接触器具において、該内部を真空度で表して−0.094MPa以下に維持することが可能であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明(請求項2)の水質評価方法は、かかる本発明の基板接触器具内に基板を収容し、該基板接触器具に被評価水を通水して基板と接触させた後、被評価水の通水を停止し、該基板接触器具の内部を密閉して該基板接触器具を分析設備に搬送し、その後、該基板接触器具内から基板を取り出し、基板の表面状態を測定して被評価水の水質評価を行うことを特徴とするものである。
【0018】
請求項3の水質評価方法は、請求項2において、該基板の表面状態の測定は、該基板の表面の凹凸の測定であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項4の水質評価方法は、請求項3において、該基板の表面の凹凸を、走査プローブ顕微鏡を使用して測定することを特徴とするものである。
【0020】
請求項5の水質評価方法は、請求項4において、該走査プローブ顕微鏡は、原子間力顕微鏡であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項6の水質評価方法は、請求項2において、該基板の表面状態の測定は、該基板の表面に付着又は生成した物質の測定であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項7の水質評価方法は、請求項6において、該基板の表面に付着又は生成した物質を、蛍光X線分析、ガスクロマトグラフ質量分析又はオージェ電子分光分析を用いて測定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水質評価用の基板接触器具は、内部を−0.094MPa以下の真空度に維持することが可能な高い密閉性能を有している。そのため、大気(外気)がこの基板接触器具内に侵入して基板と接触することを十分に防止することができる。
【0024】
なお、本発明において、真空度とは、大気圧と基板接触器具内部の気圧の差(ゲージ圧として表す。)を指す。即ち、基板接触器具内部の気圧が大気圧と等しいときには真空度は0MPaであり、該基板接触器具内部が完全な真空状態である場合には、真空度は−0.1013MPaである。従って、この真空度は0〜−0.1013MPaの範囲内の値で示される。
【0025】
ただし、この真空度の測定においては、使用する真空ポンプによって差が生じるおそれがあるので、本発明では、到達真空度−0.1012MPa、排気速度20NL/minの真空ポンプを用いて基板接触器具の内部を真空引きすることとする。
【0026】
本発明の水質評価方法にあっては、かかる本発明の基板接触器具内に基板を収容し、該基板接触器具に被評価水を通水して基板と接触させた後、被評価水の通水を停止し、該基板接触器具の内部を密閉して該基板接触器具を分析設備に搬送し、その後、該基板接触器具内から基板を取り出し、基板の表面状態を測定して被評価水の水質評価を行う。この基板接触器具は上記の通り高い密閉性能を有しているので、被評価水と基板とを接触させた後、大気がこの基板接触器具内に侵入して基板と接触することが防止ないし大幅に抑制される。そのため、基板が大気からの影響を全く又は殆ど受けることがなく、これにより被評価水の水質評価(被評価水中の金属や有機物の存在量の測定)を精度よく行うことが可能である。
【0027】
本発明においては、基板の表面状態の測定は、この基板の表面の凹凸の測定であることが好ましい。
【0028】
この基板の表面の凹凸は、走査プローブ顕微鏡を用いることにより詳細に測定することができる。この走査プローブ顕微鏡としては、特に原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopes;以下、AFMと略す。)が好ましい。
【0029】
また、本発明においては、基板の表面状態の測定は、この基板の表面に付着又は生成した物質の測定であってもよい。
【0030】
この基板の表面に付着又は生成した物質は、蛍光X線分析、ガスクロマトグラフ質量分析又はオージェ電子分光分析を用いて測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0032】
図1は実施の形態に係る水質評価方法に用いられる基板接触器具の縦断面図、図2はこの基板接触器具の底盤の斜視図、図3はこの基板接触器具への通水系の概略図、図4はこの基板接触器具の密閉性試験を行うための排気系の概略図、図5〜図7は実施例及び比較例の測定結果を示すグラフ、図8はこの基板接触器具への有機物注入試験を行うための通水系の概略図、図9は基板表面の凹凸の測定値と注入TOC量との相関関係を示すグラフである。
【0033】
[水質評価用の基板]
本発明の水質評価方法に用いられる基板としては、n型シリコン、p型シリコン又はシリコン単結晶のいずれかのインゴットから、該インゴットの(001)面に対して傾斜角度を持たせて切り出されたシリコンウェハが好適である。切り出されるシリコンウェハの傾斜角度は、前記(001)面に対して(011)方向へ3〜5°の範囲内であることが好ましい。例えば、4°Off型シリコンウェハを使用すれば、シリコン結晶を全体的に暴露した状態で評価することができるので、より厳格な評価を行うことが可能である。
【0034】
[基板接触器具10]
この実施の形態における基板接触器具10は、上面に基板Wを収容する円形の窪み12aを有した底盤12と、この窪み12aを閉鎖する上蓋13とからなる容器本体11を備えている。上蓋13の中央付近には、該窪み12a内に被評価水(超純水)を供給するための給水口14が設けられており、窪み12aの底面の中央付近には、該窪み12a内から被評価水を排出するための排水口15が設けられている。符号12bは、底盤12の下面から下方へ立設された脚を示している。なお、この脚12bは、基板接触器具10を略水平面上に配置したときに該基板接触器具10を略水平に支持するよう構成されている。
【0035】
該給水口14に給水管16が連なり、該排水口15に排水管17が連なっている。該給水管16の上流側は、導入管18と導出管19とに二叉に分岐している。なお、この実施の形態では、該導入管18と導出管19とは各々の軸心線が略一直線状となるように互いに反対方向に延在しており、給水管16はこれらと略直交方向に延在しているが、導入管18と導出管19とは二叉に分岐していれば、一直線状でなくともよい。また、この実施の形態では、排水管17は、排水口15から下方へ延出した後、途中から略直角に折れ曲がっているが、下方へ真っ直ぐに延在したものであってもよい。
【0036】
該導入管18、導出管19及び排水管17の延在方向の途中部にそれぞれ開閉バルブ20,21,22が設けられている。この実施の形態では、該開閉バルブ20〜22は、いずれも閉鎖時の密閉性が高いボールバルブよりなる。
【0037】
この実施の形態では、上蓋13、給水管16、導入管18、導出管19及び各開閉バルブ20,21のバルブハウジング20a,21aが一連一体に構成されている。また、底盤12、排水管17及び開閉バルブ22のバルブハウジング22aも一連一体に構成されている。ただし、これらの接続部における密閉性を十分に確保することが可能であれば、これらはそれぞれ別体に構成されてもよい。
【0038】
超純水供給用配管1から開閉バルブ2を介して基板接触器具10に被評価水を供給するためのサンプリングチューブ3が分岐している。このサンプリングチューブ3がチューブ継手4に外嵌及びバンド留め、あるいは螺じ込み等によって接続されている。このサンプリングチューブ3及びチューブ継手4により被評価水供給用配管が構成されている。
【0039】
導入管18の上流側の接続口18aの内周面に雌ねじ(符号略)が形成されており、チューブ継手4の先端外周には、この雌ねじに螺号する雄ねじ4aが形成されている。チューブ継手4は、この導入管18の接続口18aに対し取り外し可能に螺合している。このように導入管18とチューブ継手4との接続を螺じ込みにより行うことにより、両者の接続部の密閉性が良好なものとなる。
【0040】
導出管19の下流側の接続口19a及び排水管17の下流側の接続口17aには、それぞれ、該導出管19及び排水管17からの流出水を排水系に導く排水用配管5,6が接続されている。これらの配管5,6と、導出管19及び排水管17の各接続口19a,17aとの接続も、螺じ込みにより行われている。即ち、該接続口19a,17aの内周面には雌ねじ(符号略)が形成されており、配管5,6の上流端外周には、それぞれ、これらの雌ねじに螺号する雄ねじ5a,6aが形成されている。これらの配管5,6も、各接続口19a,17aに対し取り外し可能に螺合している。
【0041】
ただし、これらの配管5,6は排水側であるので、各配管5,6と各接続口19a,17aとの接続についてはさほど気密性を考慮する必要はない。従って、各配管5,6と各バルブ21,22との接続は、螺じ込みによるものでなくてもよい。前記チューブ継手4とバルブ20との接続も、必ずしも螺じ込みによるものでなくてもよいが、こちらは給水側であるので、気密性の高い螺じ込み式であることが好ましい。
【0042】
前記底盤12の円形の窪み12aの内径は保持すべき基板Wの直径よりも充分に大である。窪み12aの底面上には、基板Wの保持手段として、円周方向に等間隔に複数(この実施の形態では3条)の放射状畝24が隆設されている。各放射状畝24は窪み12aの半径方向に延在している。
【0043】
基板Wは、板面を上に向けてこれらの放射状畝24の上に略水平に保持される。各畝24の外端部上には基板Wの周縁部が載置される段26を有する階段形の支持台25が設けられている。段26の段差は基板Wの厚さに対応している。また、各畝24の延在方向途中部には基板Wの半径方向の途中の下面を支持する支持部27が突設されている。
【0044】
底盤12の上面からは、上蓋13の位置決め用の複数の突起23が突設されている。これらの突起23は、窪み12aの周方向に略等間隔に配置されている。上蓋13の下面には、これらの突起23が係合する凹部(図示略)が設けられている。符号28bは、該上蓋13を底盤12に固定するためのボルト28aが螺じ込まれるボルト孔を示している。
【0045】
[基板接触器具10の密閉性能評価試験]
かかる構成の基板接触器具10の密閉性能評価試験の手順について次に説明する。
【0046】
図4に示すように、導入管18の接続口18aに、真空ポンプ30に連なる吸引管31を接続する。本発明においては、この真空ポンプ30として、到達真空度−0.1012MPa、排気速度20NL/minの真空ポンプを用いる。該吸引管31の途中部には、基板接触器具10内の気圧を測定するための圧力ゲージ32が設けられている。
【0047】
上蓋13を底盤12に被せて固定(密閉)した後、導出管19及び排水管17の各開閉バルブ21,22を閉とし、導入管18の開閉バルブ20を開とした状態にて真空ポンプ30を作動させ、該基板接触器具10の内部を真空引きする。そして、この基板接触器具10の内部の気圧の低下が実質的に停止したところで、圧力ゲージ32の計測値と大気圧との差を算出し、基板接触器具10内の到達真空度を求める。
【0048】
本発明の基板接触器具10にあっては、この到達真空度は−0.094MPa以下、好ましくは−0.101MPa以下となる。
【0049】
[超純水の水質評価手順]
次に、この基板接触器具10を用いた超純水の水質評価手順について説明する。
【0050】
まず、窪み12a内に基板Wを配置し、上蓋13を底盤12に被せてボルト28aで固定する。次に、図3に示すように、被評価水供給用のサンプリングチューブ3を、チューブ継手4を介して導入管18の接続口18aに接続する。また、導出管19及び排水管17の各接続口19a,17aに、排水用配管5,6を接続する。
【0051】
次いで、サンプリングチューブ3の開閉バルブ2と導入管18及び導出管19の各開閉バルブ20,21を開として該導入管18及び導出管19内に被評価水を流し、これらを清浄化する。
【0052】
次に、排水管17の開閉バルブ22を開として被評価水を基板接触器具10内(窪み12a内)に通水し、基板Wに被評価水を接触させる。
【0053】
この際、導入管18側の開閉バルブ20を一定開度とした状態にて、導出管19側の開閉バルブ21の開度を調節することにより、被評価水の流速を調節する。なお、導入管18側の開閉バルブ20の開度を調節することにより被評価水の流速を調節することも考えられるが、このようにすると、バルブ操作の際に各部の摩擦等によりバルブ構成材料が被評価水中に溶出したり、微粒子が被評価水中に混入するおそれがある。これに対し、導出管19側の開閉バルブ21の開度を調節して被評価水の流速を調節した場合には、仮に開閉バルブ21から被評価水に構成材料の溶出や微粒子の混入が生じても、この開閉バルブ21は給水管16よりも下流側に位置しているので、基板接触器具10への供給水が汚染されることがない。
【0054】
所定時間、被評価水を基板接触器具10内に通水した後、各バルブ2,20〜22を閉とすることにより、この通水を終了すると共に、該基板接触器具10内を密閉する。そして、チューブ継手4を接続口18aから取り外す。
【0055】
その後、基板Wを基板接触器具10内に収容したまま、該基板接触器具10を基板分析設備に搬送する。そして、基板分析設備に到着後、クリーンルームにて該基板接触器具10内から基板Wを取り出し、この基板Wの表面状態を分析する。
【0056】
[基板Wの表面状態の測定方法]
基板Wの表面状態の測定方法としては、被評価水との接触により基板Wの表面に生じた凹凸の測定、基板Wの表面に付着した付着物の測定、あるいは基板Wの表面に生成した酸化膜の測定などがある。
【0057】
(1)基板Wの表面の凹凸の測定
基板表面の凹凸は、AFM,STM,MFMなどの走査プローブ顕微鏡を用いて測定することができる。なかでも、AFMを用いるのが好ましい。
【0058】
このAFMによる測定方式として、ノンコンタクトモード、コンタクトモード及びタッピングモードの3種のモードが知られており、任意のモードを採用することができるが、なかでもタッピングモードは、基板に損傷を与えることがなく、測定能力が高いことから、好ましい。
【0059】
基板表面の凹凸の測定指標としては、
(a)基板表面の凹凸のうち最も高い部分と最も低い部分との間の高低差(Rmax,単位nm)
(b)基板表面の凹凸の高低差の平均(Ra,単位nm)
(c)基板表面の凹凸の2乗平均粗さ(Rms)
が挙げられる。このうちのいずれか1個の指標により評価を行ってもよく、2個以上の指標を組み合わせて評価を行ってもよい。
【0060】
(2)基板Wの表面に付着した付着物又は基板Wの表面に生成した酸化膜の測定
基板Wの表面の付着物の測定では、基板Wに悪影響を及ぼす全ての物質が対象となるが、代表的なものとしては、金属(Na、K、Ca、Al、Fe、Cu、Niなど)及び有機物(各種アミン、ポリスチレンスルフォン酸など)がある。
【0061】
基板Wの表面に付着した付着物は、蛍光X線分析、ガスクロマトグラフ質量分析又はオージェ電子分光分析を用いて測定することができる。蛍光X線分析は基板Wの表面に付着した金属の測定に適しており、ガスクロマトグラフ質量分析は有機物の測定に適しており、オージェ電子分光分析は金属、有機物双方の測定に使用できる。また、オージェ電子分光分析は、基板Wの表面に生成した酸化膜の測定にも使用できる。
【0062】
基板Wの表面に付着した付着物を測定するに当っては、基板W上の付着物を直接測定してもよく、あるいは付着物を一旦溶離して回収し、この溶離液を分析してもよい。
【0063】
ただし、上記以外の測定方法により基板Wの表面状態を分析してもよい。
【0064】
[基板接触器具10を用いた水質評価方法の効果]
本発明の基板接触器具10を用いた被評価水の水質評価方法にあっては、該基板接触器具10は、内部を−0.094MPa以下の真空度に維持することが可能な高い密閉性能を有しているので、基板Wを収容した基板接触器具10内に被評価水を通水して該被評価水と基板Wとを接触させた後、この基板接触器具10内に大気が侵入して基板Wに大気が接触することが防止ないし大幅に抑制される。このため、基板Wが大気からの影響を全く又は殆ど受けることがない。この結果、被評価水の水質評価(被評価水中の金属や有機物の存在量の測定)を精度よく行うことが可能である。
【0065】
また、本発明では、被評価水と接触した基板Wの表面状態を測定するため、実際に被評価水が基板Wに与える影響(基板Wの表面における凹凸の形成、汚染物質の付着、あるいは酸化膜の生成など)を把握することができる。
【0066】
即ち、例えば、ある物質が被評価水中に極微量しか存在していないのに、共存物質の影響により基板Wに悪影響を与えた場合、被評価水の水質を直接分析したときにはこのような状況は把握できないことがあるが、基板Wの表面状態を実際に分析することにより、このような状況を把握することが可能である。
【0067】
また、例えば、被評価水の水質分析では、濃度が測定下限値以下であるなどの理由により、この凹凸を形成する物質を測定できなくても、そしてこの物質が未知の物質であっても、基板Wの表面の凹凸を測定することができれば、被評価水の水質評価を行うことが可能である。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明する。
【0069】
[実施例1,2及び比較例1]
【0070】
実施例1
到達真空度−0.094MPaの基板接触器具内に、基板としてSiウェハを収容し、上記実施の形態の手順に従って、該基板接触器具内に超純水を通水してこの超純水とSiウェハとを接触させた後、各バルブを閉にして通水を停止し、該基板接触器具内を密閉状態にした。その後、この基板接触器具内にSiウェハを収容したまま保管した。保管時の外気温は25℃であった。
【0071】
通水停止後1日目、2日目及び3日目に、それぞれ、Siウェハの表面に形成された凹凸のうち最も高い部分と最も低い部分との間の高低差(Rmax)を測定した。この測定結果を図5に示す。
【0072】
実施例2
到達真空度−0.101MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容して超純水を通水したこと以外は実施例1と同様にして、通水停止後1日目、2日目及び3日目におけるSiウェハの表面のRmaxを測定した。この測定結果を図5に示す。
【0073】
比較例1
到達真空度−0.090MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容して超純水を通水したこと以外は実施例1と同様にして、通水停止後1日目、2日目及び3日目におけるSiウェハの表面のRmaxを測定した。この測定結果を図5に示す。
【0074】
[実施例3,4及び比較例2]
【0075】
実施例3
実施例1と同様に、到達真空度−0.094MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容し、該基板接触器具内に超純水を通水した後、該基板接触器具内を密閉し、この基板接触器具内にSiウェハを収容したまま保管した。保管時の外気温は25℃であった。
【0076】
通水停止後3日目に、TD−GC/MSにより、Siウェハの表面に付着した有機物の量を測定した。結果を図6に示す。なお、図6には、通水停止直後に、Siウェハの表面の付着有機物量を測定した結果も併せて示す。
【0077】
実施例4
到達真空度−0.101MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容して超純水を通水したこと以外は実施例3と同様にして、通水停止後3日目におけるSiウェハの表面の付着有機物量を測定した。この測定結果を図6に示す。
【0078】
比較例2
到達真空度−0.090MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容して超純水を通水したこと以外は実施例3と同様にして、通水停止後3日目におけるSiウェハの表面の付着有機物量を測定した。この測定結果を図6に示す。
【0079】
[実施例5,6及び比較例3]
【0080】
実施例5
実施例1と同様に、到達真空度−0.094MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容し、該基板接触器具内に超純水を通水した後、この基板接触器具内にSiウェハを収容したまま密閉して保管した。保管時の外気温は25℃であった。
【0081】
通水停止後3日目に、全反射蛍光X線により、Siウェハの表面に付着したCaの量を測定した。結果を図7に示す。なお、図7には、通水停止直後に、Siウェハの表面の付着Ca量を測定した結果も併せて示す。
【0082】
実施例6
到達真空度−0.101MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容して超純水を通水したこと以外は実施例5と同様にして、通水停止後3日目におけるSiウェハの表面の付着Ca量を測定した。この測定結果を図7に示す。
【0083】
比較例3
到達真空度−0.090MPaの基板接触器具内にSiウェハを収容して超純水を通水したこと以外は実施例5と同様にして、通水停止後3日目におけるSiウェハの表面の付着Ca量を測定した。この測定結果を図7に示す。
【0084】
図5〜7図から明らかなように、到達真空度−0.094MPa以下の高い密閉性を有した基板接触器具であれば、超純水通水停止後、時間が経過してもSiウェハの表面状態(凹凸の大きさ、並びに付着有機物及び付着金属の量)が殆ど変化しないか又はこの変化の度合いが小さいため、基板接触器具内に比較的長時間基板を保管しておくことが可能である。
【0085】
[基板表面の凹凸の測定値と被評価水中の有機物量との相関関係]
図8の給水系を用いて、被評価水と接触した基板表面の凹凸の測定値と、被評価水中の有機物量との相関関係を調べた。
【0086】
図8の給水系においては、超純水(被評価水)の給水ライン40の上流側に、有機物タンク41からポンプ42を介して有機物(アミン系化合物)が注入される。給水ライン40の途中部(有機物注入ポイントよりも下流側)にはラインミキサー43が設けられている。給水ライン40の該ラインミキサーよりも下流側は二又に分かれており、一方が基板接触器具10に接続され、他方がTOC計に接続されている。
【0087】
この給水系を用い、机上計算にて超純水への注入TOC量が0.1μg/L、0.075μg/L、0.05μg/L及び0.025μg/Lとなるようにポンプ42の吐出量を調整してそれぞれ基板接触器具10に通水した。各注入TOC量における超純水通水後の基板表面の凹凸(Rmax)の測定結果を図9に示す。また、各注入TOC量にて通水を行った際のTOC計44の計測値も図9に示す。
【0088】
図9の通り、TOC計44の計測値は、注入TOC量が増加しても必ずしもこれに追従せず、計測精度があまり高くないのに対し、基板表面の凹凸(Rmax)の測定値は、注入TOC量の増加にほぼ比例して増大し、注入TOC量を如実に反映したものとなっている。このことから、基板表面の凹凸を測定することにより被評価水の基板への影響を把握することが可能であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施の形態に係る水質評価方法に用いられる基板接触器具の縦断面図である。
【図2】基板接触器具の底盤の斜視図である。
【図3】基板接触器具への通水系の概略図である。
【図4】基板接触器具の密閉性能試験を行うための排気系の概略図である。
【図5】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【図8】基板接触器具への有機物注入試験を行うための通水系の概略図である。
【図9】基板表面の凹凸の測定値と注入TOC量との相関関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0090】
3 サンプリングチューブ
4 チューブ継手
10 基板接触器具
11 基板接触器具本体
12 底盤
13 上蓋
14 給水口
15 排水口
16 給水管
17 排水管
18 導入管
19 導出管
20〜22 開閉バルブ
30 真空ポンプ
32 圧力ゲージ
41 有機物タンク
42 ポンプ
44 TOC計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に基板を収容し、該基板を被評価水と接触させることができる水質評価用の基板接触器具において、
該内部を真空度で表して−0.094MPa以下に維持することが可能であることを特徴とする水質評価用の基板接触器具。
【請求項2】
請求項1に記載の基板接触器具内に基板を収容し、該基板接触器具に被評価水を通水して基板と接触させた後、被評価水の通水を停止し、該基板接触器具の内部を密閉して該基板接触器具を分析設備に搬送し、その後、該基板接触器具内から基板を取り出し、基板の表面状態を測定して被評価水の水質評価を行うことを特徴とする水質評価方法。
【請求項3】
請求項2において、該基板の表面状態の測定は、該基板の表面の凹凸の測定であることを特徴とする水質評価方法。
【請求項4】
請求項3において、該基板の表面の凹凸を、走査プローブ顕微鏡を使用して測定することを特徴とする水質評価方法。
【請求項5】
請求項4において、該走査プローブ顕微鏡は、原子間力顕微鏡であることを特徴とする水質評価方法。
【請求項6】
請求項2において、該基板の表面状態の測定は、該基板の表面に付着又は生成した物質の測定であることを特徴とする水質評価方法。
【請求項7】
請求項6において、該基板の表面に付着又は生成した物質を、蛍光X線分析、ガスクロマトグラフ質量分析又はオージェ電子分光分析を用いて測定することを特徴とする水質評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−46087(P2008−46087A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224401(P2006−224401)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】