説明

水質評価方法及び水処理装置の運転管理方法

【課題】膜分離装置に供給される水に水溶性高分子が含まれる場合の分離膜に対する水の汚染度の指標を、高い精度で簡易に求めることができる水質評価方法を提供する。
【解決手段】RO透過水に代表される膜汚染物質を含まない清澄水をMF膜に通水して、清澄水の濾過性を測定した後に、膜分離装置に供給する試料水をMF膜に通水して、試料水の濾過性を測定する。この時の試料水の濾過性と清澄水の濾過性との比をもって、試料水に含まれる水溶性高分子による膜分離装置の分離膜に対する汚染度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を使用した膜分離装置へ供給される水の水質評価方法及びこの方法を使用して膜分離装置へ供給される水の膜前処理を行う膜前処理装置を有する水処理装置の運転管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
限外濾過膜(以下、UF膜という)、ナノ濾過膜(以下、NF膜という)、及び逆浸透膜(以下、RO膜という)のいずれかの分離膜を使用する膜分離装置で水処理を行うと、膜分離装置に供給される原水に含まれる粘土等の微粒子成分や有機物等の汚染物質により、分離膜が汚染されて透過流束が低下してしまうため、原水中の汚染物質を所定のレベルまで低下させる膜前処理を行う必要がある。膜前処理として、原水に凝集剤を用いて凝集処理を行い、重力による自然流下で濾過を行う重力式2層濾過等で原水を濾過し、被処理水を得る方法がある。
【0003】
このような膜前処理を行った被処理水の汚染度の指標として、ASTM D4189に定義されているSDI(Silt Density Index)値、JIS K 3802に定義されているFI(Fouling Index)値、MF値(Desalination,vol.20,p.353−364,1977)、及びMFF(MF Factor)値がある。これらの値は、いずれもRO膜への供給水を、細孔径0.45μmのセルロース系フィルタである精密濾過膜(以下、MF膜という)で所定の濾過を行った時の濾過時間測定値に基づいて求められる値である。なお、SDI値とFI値は同義であるので、以降、SDI値として説明する。
【0004】
ここで、MF値とは、−67kPa(−500mmHg)の減圧下で1Lの原水が、直径47mm(実質濾過面の直径35mm)のMF膜を透過するのに要する時間(秒)である。一方、MFF値は、1Lの原水を500mlずつに分けてMF膜を通水させ、それぞれの濾過時間T、Tを測定し、T/Tから求められる。RO膜へ供給される水として推奨されるMF値は120〜130秒以下とされており、同様に推奨されるMFF値は1.1以下とされている。
【0005】
しかしながら、このような値にはそれぞれ欠点があり、例えばMF値は、測定精度が低く、分離膜の個体差によって測定値にばらつきが出る(例えば、膜汚染物質のない清澄水で35秒から50秒)という問題がある。また、SDI値は、MF値を求める場合よりも多くの原水量を要するという問題や、水温の補正を行わないため原水の汚染の度合いを経時変化として把握するには適さないという問題がある。このために、例えば原水の汚染度を精度よく把握するために濾過液量や透過流束等から濾過係数を求めることが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−152192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、分離膜に供給される原水に含まれる汚濁物質として、微粒子の他に水溶性有機高分子、例えば中性多糖類が挙げられる。中性多糖類は、分子量が100万から1000万を超えることもある。このような中性多糖類が含まれる原水をMF膜で濾過すると、MF膜の細孔を通過する際に中性多糖類が濾過抵抗となり、微粒子が存在しなくてもMFF値が1.1を下回ることはできないことがある。これは、上述したSDI値、MF値、及びMFF値が、微粒子による原水の汚染度の指標であり、中性多糖類による原水の汚染度を検出する指標として適していないからである。
【0008】
このため、SDI値、MF値、MFF値がRO膜へ供給される原水の汚染度の指標として不適切である場合の改善措置として、原水に含まれる微粒子を除去するのか、水溶性高分子を除去するのかという判断が困難である。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、膜分離装置に供給される水に水溶性高分子が含まれる場合の分離膜に対する水の汚染度の指標を、高い精度で簡易に求めることができる水質評価方法を提供することにある。さらに、このような水質評価方法を用いた水処理装置の運用管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するべく、請求項1の水質評価方法は、分離膜を用いた膜分離装置へ供給される被処理水の水質評価方法であって、清澄水を精密濾過膜に通水して該清澄水の濾過性を測定し、前記被処理水を前記精密濾過膜に通水して該被処理水の濾過性を測定し、測定された清澄水の濾過性、及び測定された被処理水の濾過性から、前記膜分離装置の分離膜に対する被処理水の汚染度を評価することを特徴とする。
【0011】
請求項2の水質評価方法では、請求項1において、前記分離膜に対する被処理水の汚染度の評価では、前記測定された清澄水の濾過性、及び前記測定された被処理水の濾過性を、予め定められた補正係数でそれぞれ補正し、補正後の清澄水の濾過性及び補正後の被処理水の濾過性から、前記膜分離装置の分離膜に対する被処理水の水質の汚染度を評価することを特徴とする。
【0012】
請求項3の水質評価方法では、請求項2において、前記補正係数は、清澄水及び被処理水の水温に対する水の粘性を補正する粘性補正係数であることを特徴とする。
【0013】
請求項4の水処理装置の運転管理方法は、原水に含まれる膜汚染物質を凝集剤を用いて凝集処理する前処理装置と、該前処理装置で凝集処理された被処理水を分離膜を用いて濾過する膜分離装置とを備える水処理装置の運転管理方法であって、前記前処理装置は、請求項1乃至3のいずれかに記載の水質評価方法により処理水の水質の汚染度を評価し、該評価結果に基づいて、前記前処理装置で使用する凝集剤としてフェノール樹脂アルカリ溶液の添加量を増減することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の水質評価方法によれば、清澄水の濾過性及び被処理水の濾過性を精密濾過膜で濾過することにより測定し、清澄水及び被処理水の濾過性から被処理水に含まれる水溶性高分子による膜の汚染度を評価する。被処理水に水溶性高分子が残存している場合には精密濾過膜における濾過抵抗が大きくなるため、被処理水の濾過性を清澄水の濾過性と比較して評価することにより、水溶性高分子の残留度が反映された汚染度を評価することができる。
【0015】
請求項2の水質評価方法によれば、清澄水の濾過性及び被処理水の濾過性をそれぞれ補正係数で補正して評価するので、精度よく水溶性高分子による膜の汚染度の評価結果を得ることができる。
請求項3の水質評価方法によれば、補正係数は、清澄水及び被処理水の水温に対する水の粘性を補正する粘性補正係数であるので、水温の違いによる粘性の差異を補正することができ、より精度の高い水質の評価結果を得ることができる。
【0016】
請求項4の水処理装置の運転管理方法によれば、被処理水に含まれる水溶性高分子による分離膜の汚染度の評価結果に基づいて、前処理装置で原水に含まれる水溶性高分子を凝集処理する凝集剤添加量を増減することにより、分離膜汚染の影響を、膜分離装置に供給される被処理水として適切な残留指標まで低減することができ、膜分離装置の膜洗浄を行う頻度を低減することができるので、安定して水処理装置の運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で使用するSFF及びMFF測定器の概略図である。
【図2】本発明の実施例1で得られた、ポリ硫酸第二鉄の添加量とSFF及びMFFとの関係を表すグラフである。
【図3】本発明の実施例2で得られた、ノボラック型フェノール樹脂の添加量とSFF及びMFFとの関係を表すグラフである。
【図4】本発明の実施例3で得られた、ポリ塩化アルミニウムの添加量とSFF及びMFFとの関係を表すグラフである。
【図5】本発明の実施例4で得られた、ノボラック型フェノール樹脂の添加量とSFF及びMFFとの関係を表すグラフである。
【図6】本発明の実施例5で得られた、ポリ塩化アルミニウムの添加量とSFF及びMFFとの関係を表すグラフである。
【図7】本発明の実施例6で得られた、ノボラック型フェノール樹脂の添加量とSFF及びMFFとの関係を表すグラフである。
【図8】(A)本発明の実施例7から得られたSFF−補正MF値の関係を表すグラフ、(B)本発明の実施例7から得られたMFF−補正MF値の関係を表すグラフである。
【図9】(A)本発明の実施例8から得られたSFF−補正MF値の関係を表すグラフ、(B)本発明の実施例8から得られたMFF−補正MF値の関係を表すグラフである。
【図10】(A)本発明の実施例9から得られたSFF−補正MF値の関係を表すグラフ、(B)本発明の実施例9から得られたMFF−補正MF値の関係を表すグラフである。
【図11】本発明の実施例7〜9のデータに基づく、SFFと補正MF値との相関関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の水質評価方法及びこの方法を使用する水処理装置の運転管理方法について詳細に説明する。
【0019】
従来、水処理装置における膜分離装置に供給される被処理水に含まれる汚濁物質の残留量を把握するための指標として、SDI値、MF値、MFF値等が使用されているが、これらの指標は主として被処理水中に存在する微粒子の指標であり、上述したように、被処理水に含まれる水溶性高分子を把握する指標としては適していなかった。
【0020】
そこで、本発明では、膜分離装置に供給される被処理水に含まれる汚濁物質、特に水溶性高分子の残留量を把握するための指標(以下、SFFという)を使用する。なお、以下に説明するSFFの測定では、同時にMFFも測定可能である。
【0021】
(水溶性高分子の残留指標)
以下、本発明で使用する、被処理水中に含まれる水溶性高分子の残留指標を表すSFF(Soluble Fouling Factor)について説明する。
【0022】
SFF測定方法について、図1に示すSFF及びMFF測定器1の概略図に基づいて説明する。
SFF及びMFF測定器1には、被処理水を濾過する濾過器10、濾過器10で濾過された被処理水が供給される濾過槽12、及び濾過槽12を減圧する減圧装置14を備える。濾過器10には、濾過膜16が備えられている。
【0023】
SFFの測定には、SDI値、MF値、及びMFF値の測定で使用するMF膜を濾過膜16として使用することができる(以下、MF膜16)。具体的に、MF膜16は、直径47mm、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを使用する。
【0024】
このように構成されたSFF及びMFF測定器1を使用して、SFFを測定する。
まず、清澄水500mlをMF膜16に透過させ、濾過時間Tを測定する。濾過時間Tの測定に使用する清澄水は、RO透過水、または蒸留水等の膜汚染物質を含まない水を用いる。水道水等をイオン交換して得られた純水は、MF膜に対し非イオン性の濾過抵抗物質(例えば、中性多糖類等の水溶性高分子)を含むことがあるため、好ましくない。上述した膜分離装置に設けられている分離膜がRO膜である場合には、清澄水としてRO透過水を用いることが実用的である。これは、RO膜等を汚染する被処理水中に含まれる膜汚染物質は、RO膜で阻止されるため、RO膜を透過した透過水中には膜汚染物質は存在しないからである。
【0025】
清澄水の濾過条件として、減圧装置14で濾過槽12を−67kPa(−500mmHg)で減圧して濾過する。また、清澄水を濾過する直前に、清澄水の水温Tmを測定し記録する。
【0026】
次に、試料水(被処理水)500mlを清澄水透過時と同様にMF膜16で減圧濾過し、試料水の濾過時間Tを測定する。なお、試料水を濾過する直前に、試料水の水温Tmを測定し、記録する。
【0027】
測定する試料水は、凝集、濾過処理を行った処理水であり、上述した膜分離装置に供給される水である。濾過性としては、濾過時間の他、濾過速度(濾過流束)等が挙げられるが、本実施形態では濾過時間を使用するものとする。
【0028】
次に、上述した試料水と同じ試料水500mlを減圧濾過し、濾過時間Tを測定する。これにより、MFF値をT/Tから求めることができる。SFFの求め方については以下に説明する。
【0029】
本発明では、清澄水の濾過時間T、及び試料水の濾過時間Tを補正係数を用いて補正し、補正後の濾過時間Tc、Tcを求める。この補正係数として、粘性補正係数を用いる。粘性補正係数を用いるのは、温度によって水の粘性が異なり、粘性の違いにより濾過性、即ち、濾過時間、濾過速度、単位時間当たりの濾液量等も異なるためである。本発明では、水の温度と粘性係数との変化率を1℃当たり約1.024とし、水の温度を25℃として補正する。従って、補正後の清澄水の濾過時間Tcは、Tc=T×(1/1.024(25−Tm0))となり、試料水の補正後の濾過時間Tcは、Tc=T×(1/1.024(25−Tm1))となる。なお、補正する水の温度は25℃に限られず、所定の温度となるように補正するようにしてもよい。ここで、SFF値は、Tc/Tcから求められる。膜分離装置へ供給する水として適しているか否かの指標として、SFF値が1.1以下、好ましくは1.05以下である。なお、SFFは、原水の電気伝導率で若干変動することがある。
【0030】
このように、SFF及びMFF測定器1を使用してSFFを求めることにより、上述した膜分離装置に供給される被処理水に含まれる水溶性高分子の残留指標を簡易的に求めて、被処理水に含まれる膜汚染物質による膜分離装置の分離膜に対する汚染度を評価することができる。
【0031】
(水溶性高分子の残留指標の変形例)
水溶性高分子の残留指標の変形例として、SFFとは異なる、処理水中に含まれる水溶性高分子の残留指標を表す補正MF値について、以下に説明する。なお、上記実施形態と共通する箇所の説明は省略し、相違点のみ説明する。
【0032】
補正MF値とは、上述したMF値を、使用したMF膜の個体差に基づいて補正するものである。例えば、清澄水を500ml透過させたときの濾過時間Tを水温25℃で補正した場合の濾過時間Tcの標準値を40秒として、清澄水がMF膜16を透過する濾過時間Tが48秒である場合、40/48≒0.833がMF膜補正係数となる。従って、上述した粘性補正係数で補正された濾過時間Tc、Tcに0.833を乗じて補正MF値を求める。即ち、補正MF値は、(Tc+Tc)×0.833から求められる。なお、MF膜16としてミリポア社製の0.45μmのものを使用した場合のTcのばらつきは、最小が35秒、最大が50秒で、MF膜補正係数は0.80〜1.14であった。
【0033】
これにより、MF膜の個体差に起因する濾過時間の違いから評価指標として不適であったMF値から、信頼性を有する水質の評価指標を求めることができる。さらに、補正MF値を、被処理水に残留する水溶性高分子の残留指標として使用することができる。
【0034】
上述したSFF値、または補正MF値を用いて行う、水処理装置の管理方法について以下に説明する。上述したように、SFF値または補正MF値を求めることにより、被処理水中に含まれる水溶性高分子による分離膜の汚染度が評価できるので、この評価結果に基づいて膜分離装置へ供給される被処理水の前処理を行う前処理装置で、被処理水へ添加する凝集剤の添加量を増減させて適切に凝集処理を行うことができる。
【0035】
ここで使用する凝集剤として、フェノール樹脂アルカリ溶液が好ましく、特にノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液が好ましい。これにより、膜分離装置へ供給される被処理水は水溶性高分子による汚染度が低減された水となり、膜分離装置に使用されている分離膜の汚染が低減されて透過流束の低下を防止することができる。また、分離膜の汚染が低減されるので、分離膜の膜洗浄を行う頻度を低減することができ、安定して水処理装置を運転させることができる。
【実施例】
【0036】
以下に示す実施例に従って、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
(生物処理水の凝集処理及びSFF、MFFの評価)
<実施例1>
液晶製造工程排水を脱窒素までを含む生物処理を行った処理水を原水とし、原水の水温を22±2℃に調整した。調整後の原水を1100mlビーカーに取り、ジャーテスター(宮本製作所製のMJS−6)でジャーテストを行った。反応条件は、凝集剤としてポリ硫酸第二鉄を所定量添加して150rpmで10分間撹拌した。また、ポリ硫酸第二鉄を添加後のpHが5.0未満の場合には苛性ソーダを所定量添加してpH5.0に調整した後、50rpmで7分間撹拌して反応させた。このように反応させた凝集処理水を約15分沈殿させた後、No5Aの濾紙を使用して凝集フロックを含む全量を濾過した。得られた濾過水1000mlを500mlずつ2本のシリンダーに取り、試料水とした。
【0038】
原水とは別に、回収した排水をRO膜に通水させた逆浸透膜透過水を水温22±2℃に調整して十分量準備し、そのうち500mlを清澄水の濾過時間T測定用水として取り分けた。T測定用の逆浸透膜透過水500mlを、ミリポア社製 孔径0.45μm、直径47mmのニトロセルロース製メンブレンフィルターを使用し、−67kPaの減圧下で濾過し、濾過時間Tを計測する。続いて、試料水500mlを2本減圧濾過し、濾過時間T、Tを計測し、SFF及び比較例としてMFFを求めた。
【0039】
得られた結果を図2のグラフに示す。図2から判るように、凝集剤のポリ硫酸第二鉄の添加量が320mg/lでのSFF値は1.80であり、添加量を660mg/lにすると、SFF値は1.60まで低下するものの、MFF値よりも大きい値となっている。従って、本実施例で使用した試料水は、微粒子汚濁より水溶性高分子による汚濁に寄与するところが非常に大きいことが判る。また、ポリ硫酸第二鉄の添加量を増加させることによって、微生物代謝生産物である水溶性高分子を少しではあるが除去できるものの、ポリ硫酸第二鉄のみでの水溶性高分子の改善効果は限られており、SFF=1.1以下にするためにはポリ硫酸第二鉄の添加量を増加させても不可能であることがわかる。
【0040】
<実施例2>
実施例1と同一の原水及びジャーテスターを使用してジャーテストを行った。反応条件は、凝集剤としてノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液(栗田工業製 クリバーターBP201)を使用し、原水に所定量添加して150rpmで3分間反応させた。その後、ポリ硫酸第二鉄を480ppm添加して150rpmで10分間撹拌して反応させた。さらに、pH5.0未満の場合には、苛性ソーダを添加してpH5.0に調整し、50rpmで7分間反応させた。このように反応させた凝集処理水を実施例1と同様に試料水として取り分けた。そして、実施例1と同様に逆浸透膜透過水を使用して清澄水の濾過時間Tを測定した後、試料水の濾過時間T,Tを測定してSFF及びMFFを求めた。なお、濾過時間の測定は実施例1と同様である。
【0041】
得られた結果を図3のグラフに示す。図3に示すように、SFF値は、ノボラック型フェノール樹脂の添加量が0mg/lの時には1.71であるが、ノボラック型フェノール樹脂の添加量が6mg/lの時には1.11になり、ノボラック型フェノール樹脂の添加量を増やすことで改善された数値幅は0.60である。
【0042】
一方、MFF値でもノボラック型フェノール樹脂の添加量の増加に伴い、添加量が0mg/lの時には1.29であった、添加量が6mg/lの時には1.10に改善される。しかし、改善幅をSFFと比較してみると、MFFの改善幅は0.19であるのに対し、SFFの改善幅は0.60であるので、SFFはMFFの約3倍改善されていることが判る。
【0043】
以上から、ノボラック型フェノール樹脂の添加量を増加させることで、SFF>MFFであった汚染指標がSFF≒MFFとなり、水溶性高分子による汚染指標が大きく減少したことを確認することができた。また、逆浸透膜処理に先立って、前処理として凝集処理を行いSFFを求めることで、逆浸透膜処理に供給される水としての適否を鋭敏に判定することができ、水溶性高分子の凝集剤の添加量を適正に調整することができることが確認できた。
【0044】
(藻類繁殖の多い湖水系工業用水の凝集処理及びSFF、MFFの評価)
<実施例3>
茨城県北浦の藻類繁殖の多い鹿島地区の工業用水について、特に藻類繁殖の多い9月に採取した原水に、凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(以下、PACという)を使用し、pHを6.1に調整して、実施例1と同様に試料水として取り分けた。そして、実施例1と同様に逆浸透膜透過水を使用して清澄水の濾過時間Tを測定した後、試料水の濾過時間T、Tを測定し、SFF及び比較例としてMFFを求めた。
【0045】
得られた結果を図4のグラフに示す。図4に示すように、PACの添加量を60mg/lから120mg/lまで増加させると、SFF値は1.76から1.35まで低下し、明らかに原水中の汚染度が改善されていることが認められる。しかし、逆浸透膜への供給水としての水準である1.10以下を達成するために、PACの添加量は200mg/lを要する。一方、MFF値は、PACの添加量を60mg/lから120mg/lまで増加させても1.20付近でほとんど変化はなく、PACの添加量を20mg/lまで増加させることで、1.10まで低減した。
【0046】
<実施例4>
実施例3と同一の原水を使用し、凝集剤としてノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液を所定量添加して、150rpmで3分間反応させた。その後、PACを80mg/l添加して150rpmで10分間撹拌して反応させて、実施例1と同様に試料水として取り分けた。そして、実施例1と同様に逆浸透膜透過水を使用して清澄水の濾過時間Tを測定した後、試料水の濾過時間濾過時間T、Tを測定してSFF及びMFFを求めた。
【0047】
得られた結果を図5のグラフに示す。図5に示すように、ノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液の添加量が0mg/lの時のSFF値は1.63であるが、添加量が5mg/lになるとSFFは1.07になり、改善幅は0.58となる。一方、MFF値は、ノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液の添加量が0mg/l時には1.19であるが、5mg/lに増加させると、1.09に改善される。しかしながら、MFFの改善幅は0.10であり、SFFの改善幅がMFFの改善幅より5倍以上大きくなることが確認できた。
【0048】
(藻類繁殖のほとんどない河川系工業用水の凝集処理及びSFF、MFFの評価)
<実施例5>
川崎地区で使用している藻類が殆ど繁殖していない河川を水源とする工業用水を原水とし、凝集剤としてPACを使用して、pH6.2に調整して実施例1と同様に試料水として取り分けた。その後、実施例1と同様に逆浸透膜透過水を使用して清澄水の濾過時間Tを測定した後、試料水の濾過時間T、Tを測定し、SFF及びMFFを求めた。
【0049】
得られた結果を図6のグラフに示す。図6に示すように、PACの添加量が20mg/lでSFF値、MFF値共に1.03となり、日本の水道水に匹敵する清澄さ、若しくはそれより良好な清澄な処理水を得ることができる。また、MFF値よりもSFF値が下回っていることから、微生物代謝に由来する水溶性高分子が殆ど存在していないことがわかる。
【0050】
<実施例6>
実施例5と同一の原水に、凝集剤としてノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液を所定量添加して反応させ、その後PACを20mg/l添加して反応させて実施例1と同様に試料水として取り分けた。そして、実施例1と同様に逆浸透膜透過水を使用して清澄水の濾過時間Tを測定した後、試料水の濾過時間T、Tを測定しSFF及びMFFを求めた。
【0051】
得られた結果を図7のグラフに示す。図7に示すように、藻類が殆ど繁殖していない河川系の工業用水に、PAC20mg/lに加えてノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液を0.6mg/lを添加して凝集処理及び濾過することにより、膜分離装置に供給する被処理水として十分適合するSFF値の低下が認められた。
【0052】
(補正MF値とSFFの相関評価)
<実施例7>
実施例1、2で使用した原水に凝集剤を添加して得た凝集処理水を、吸光光度計で、波長650nm、スリット幅50mmで測定して、セル吸光度が0.000または0.001となる凝集処理水から計測した濾過時間からSFF及び補正MF値を求め、SFF及び補正MF値の関係を図8(A)に示した。また、比較例として図8(B)に、同様の凝集処理水から濾過時間を計測し、MFFを求めて、MFF及び補正MF値との関係をグラフに示した。
【0053】
図8(A)に示すように、SFFと補正MF値との関係は直線で表され、SFFと補正MF値との相関係数は0.998となり、非常に高い相関であることが判る。一方、図8(B)に示すMFFと補正MF値との相関係数は約0.95となり、十分に相関があると言えるが、MFF値が1.0である場合の補正MF値は、図8(B)に記載されている式から補正MF値の最良値である80秒からのずれが大きくなってしまうことが判る。
【0054】
<実施例8>
実施例3、4で使用した原水に、上記実施例7と同様のセル吸光度となる凝集処理水から計測した濾過時間からSFF及び補正MF値を求め、SFF及び補正MF値の関係を図9(A)に示した。また、比較例として、図9(B)に、同様の凝集処理水を試料水として取り、試料水の濾過時間T、Tを計測し、MFFを求めて、MFF及び補正MF値の関係をグラフに示した。
【0055】
図9(A)に示すように、SFFと補正MF値との関係は直線で表され、SFFと補正MF値との相関係数は約0.996となり、非常に高い相関であることが判る。一方、図9(B)からは、相関係数が0.788と相関が小さいことが判る。
【0056】
<実施例9>
実施例5、6で使用した河川系工業用水よりも、若干藻類繁殖が多く見られる北九州地区の工業用水を原水とし、上記実施例7と同様のセル吸光度となる凝集処理水から計測した濾過時間からSFF及び補正MF値を求め、SFF及び補正MF値の関係を図10(A)に示した。また、比較例として、図10(B)に、同様の凝集処理水を試料水として取り、試料水の濾過時間T、Tを計測し、MFFを求めて、MFF及び補正MF値の関係をグラフに示した。
【0057】
図10(A)に示すように、SFFと補正MF値との関係は直線で表され、相関係数は約0.99と非常に高い。一方、MFFと補正MF値との相関係数は約0.97に下がる。
【0058】
<実施例10>
上記実施例7〜9で取得したSFFと補正MF値の全データの相関関係を図11に示す。微生物代謝に由来する水溶性高分子を含む3種類の異なる原水を、所定の処理条件で凝集処理及び濾過を行った処理水のSFFと補正MF値の相関関係は図11に示すようになり、相関係数も0.99を超えて、高精度の相関が得られた。即ち、補正MF値もSFFと同様に、水溶性高分子の残留指標として精度の高い管理指標として使用することが可能であることが確認できた。
【0059】
このように、逆浸透膜へ供給される処理水に含まれる水溶性高分子の残留指標として、SFFが非常に有効であることが判明した。逆浸透膜へ供給される水の汚染指標として従来から使用されているMFFに対し、SFFは3〜5倍以上の感度で簡易且つ正確に判定することが可能である。また、従来行われていたMF値に対し、MF膜の個体差を上述のように補正することによって、SFFと同程度の精度で水溶性高分子の残留指標として使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 SFF及びMFF測定器
10 濾過器
16 MF膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜を用いた膜分離装置へ供給される被処理水の水質評価方法であって、
清澄水を精密濾過膜に通水して該清澄水の濾過性を測定し、
前記被処理水を前記精密濾過膜に通水して該被処理水の濾過性を測定し、
測定された清澄水の濾過性、及び測定された被処理水の濾過性から、前記膜分離装置の分離膜に対する被処理水の汚染度を評価することを特徴とする水質評価方法。
【請求項2】
前記分離膜に対する被処理水の汚染度の評価では、前記測定された清澄水の濾過性、及び前記測定された被処理水の濾過性を、予め定められた補正係数でそれぞれ補正し、補正後の清澄水の濾過性及び補正後の被処理水の濾過性から、前記膜分離装置の分離膜に対する被処理水の水質の汚染度を評価することを特徴とする請求項1に記載の水質評価方法。
【請求項3】
前記補正係数は、清澄水及び被処理水の水温に対する水の粘性を補正する粘性補正係数であることを特徴とする請求項2に記載の水質評価方法。
【請求項4】
原水に含まれる膜汚染物質を凝集剤を用いて凝集処理する前処理装置と、該前処理装置で凝集処理された被処理水を分離膜を用いて濾過する膜分離装置とを備える水処理装置の運転管理方法であって、
前記前処理装置は、
請求項1乃至3のいずれかに記載の水質評価方法により処理水の水質の汚染度を評価し、
該評価結果に基づいて、前記前処理装置で使用する凝集剤としてフェノール樹脂アルカリ溶液の添加量を増減することを特徴とする水処理装置の運転管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−213676(P2012−213676A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79008(P2011−79008)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】