説明

水路の減圧要素および減圧構造ならびにそれを用いた水力発電用バイパスライン設置方法

【課題】低コストで設置できる水路の減圧構造とそれを用いた水力発電用バイパスライン設置方法を提供する。
【解決手段】既設の水力発電所のフランシス水車を挟む導水路と放水路の一部を新設の水力発電所のバイパス水路とし、その水車の渦巻状のケーシング1を残して水車を取り除き、バイパス水路に残されたケーシング1の中央部に、水路の下流側の水圧を上流側の水圧よりも低い圧力に調整する減圧要素として、円筒状に形成され、上流側からケーシング1に流入した水を通す孔2aが複数あけられた多孔部材2を設けて水路の減圧構造を形成する。このようにすれば、使用済みの水車のケーシング1を利用して、低コストで水路の減圧構造および水力発電用バイパスラインを設置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電設備のバイパスライン等の水路の減圧要素および減圧構造と、それを用いて水力発電用バイパスラインを設置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な水力発電設備では、発電所の水車としてフランシス水車が多く使用されている(例えば、特許文献1参照。)。このフランシス水車は、図5に一例を示すように、渦巻状のケーシング51の外周部に水圧管52を接続し、ケーシング51の中央部にランナ53を設けて、水圧管52からケーシング51に導入された水を、ケーシング51と一体のステーベーン54およびガイドベーン55を介してランナ53に流入させることによりランナ53を回転させ、その回転を発電機56に伝達して電力に変換するものである。なお、ランナ53の中央部から下方に流出した水は、ケーシング51の中央部の下面側に接続された吸出管57を介して排出されるようになっている。
【0003】
また、上記のようなフランシス水車を用いた水力発電設備では、通常、水車をメンテナンスする際の河川維持放流や負荷遮断時の緊急放流を行うために、水車を通る経路とは別の経路で水車の上流側の導水路と下流側の放水路とをつなぐバイパスラインが設けられ、このバイパスラインで導水路の水を減圧して放流するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−47089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、老朽化した発電所の導水路を分岐させて新たに別の発電所を建設する場合、既設の水路を利用してバイパスラインを形成することによって設備費や建設費の削減を図ることが考えられる。しかし、それを実現するには、バイパスラインで放流を行うための減圧構造を既設の水路へ低コストで設置する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、低コストで設置できる水路の減圧要素および減圧構造とそれを用いた水力発電用バイパスライン設置方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の水路の減圧要素は、使用済みのフランシス水車を取り除いた水路に残された前記水車の渦巻状のケーシングの中央部に設けられ、水路の下流側の水圧を上流側の水圧よりも低い圧力に調整するものとした。このようにすれば、使用済みのフランシス水車のケーシングをそのまま利用して設置できるので、設置にかかるコストを低く抑えることができる。
【0008】
その具体的な構成としては、円筒状に形成され、上流側から前記ケーシングに流入した水を通す孔が複数あけられた多孔部材を備えるものとすることができる。
【0009】
ここで、前記円筒状の多孔部材の内側と外側の少なくとも一方に、多孔部材の内周面または外周面と摺接する円筒状の弁部材を有し、この弁部材を軸心方向に移動させて前記多孔部材の孔を開閉するものとすれば、下流側へ流す水の量や圧力の調整が容易に行えるようになる。
【0010】
そして、本発明の水路の減圧構造は、使用済みのフランシス水車を取り除いた水路に残された前記水車の渦巻状のケーシングの中央部に、上記構成の減圧要素を設けたものとしたのである。
【0011】
また、本発明の水力発電用バイパスラインの設置方法は、既設の水力発電所のフランシス水車を挟む導水路と放水路の一部を、新設の水力発電所のバイパス水路とし、前記水車の渦巻状のケーシングを残して水車を取り除き、前記バイパス水路に残されたケーシングを利用して上記構成の水路の減圧構造を形成するものとした。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明は、使用済みフランシス水車のケーシングの中央部に設けられる水路の減圧要素と、そのケーシングと減圧要素によって形成される水路の減圧構造を提供するものであるから、既設の水路へ減圧構造を設置する際にかかるコストを低く抑えることができる。
【0013】
そして、本発明の水力発電用バイパスラインの設置方法は、既設のフランシス水車を挟む水路を利用するとともに、その水路に既設の水車のケーシングを利用した減圧構造を形成してバイパスラインを設置するものであるから、老朽化した発電所の導水路を分岐させて新たな発電所を建設する場合の設備費や建設費を大きく削減することができる。また、既設発電所の改造工事に伴うコンクリート等の廃棄物の発生を非常に少なくできるので、その工事による河川の汚染を最小限にとどめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の減圧要素および減圧構造の縦断正面図
【図2】第2実施形態の減圧要素および減圧構造の縦断正面図
【図3】第3実施形態の減圧要素および減圧構造の縦断正面図
【図4】図3の減圧構造の動作の説明図
【図5】一般的なフランシス水車の設置状態の縦断正面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。下記の各実施形態の水路の減圧構造は、いずれも既設の水力発電所のフランシス水車を挟む導水路と放水路の一部を新設の水力発電所のバイパス水路とし、その水車の渦巻状のケーシングを残して水車を取り除いたバイパスラインに設けられるもので、図1はそのうちの第1の実施形態を示す。
【0016】
第1実施形態の減圧構造は、バイパス水路に残された水車の渦巻状ケーシング1の中央部に、水路の下流側の水圧を上流側の水圧よりも低い圧力に調整する減圧要素として、円筒状に形成され、通水孔2aが複数あけられた多孔部材2を設けたものである。そのケーシング1には、外周部に既設の導水路を形成していた水圧管3が接続され、中央部の下面側に既設の放水路を形成していた吸出管4が接続されている。これにより、水圧管3すなわちバイパス水路の上流側からケーシング1に流入した水が、多孔部材2の通水孔2aを通って減圧されて、吸出管4すなわちバイパス水路の下流側へ流れていくようになっている。
【0017】
前記円筒状多孔部材2は、その外径がケーシング1の上面側の開口の内径より小さい寸法に形成され、ケーシング1中央部に嵌め込まれるようになっている。その下端はシールプレート5の上面に、上端はシール蓋6の下面にそれぞれ接合されており、シールプレート5およびシール蓋6は、それぞれベースプレート7およびリテナープレート8を介して既設の基礎(コンクリート)9に固定されている。
【0018】
この減圧構造は、上述したように、使用済みのフランシス水車のケーシング1の中央部に減圧要素としての円筒状多孔部材2を設けたものなので、低コストで設置できる。従って、この減圧構造を用いた水力発電用バイパスライン設置方法は、新発電所の設備費や建設費を削減できるとともに、既設発電所の改造工事に伴うコンクリート等の廃棄物の発生を少なくすることができる。
【0019】
図2は第2の実施形態の水路の減圧構造を示す。この実施形態は、第1実施形態の減圧要素を二重構造にしたもので、第1実施形態の多孔部材2の外側に、この多孔部材2の孔2aよりも大きな通水孔10aが複数あけられた円筒状の外筒10を設けている。その外筒10は、ケーシング1の内周側と隙間をおいて配され、下端をベースプレート7に、上端をリテナープレート8にそれぞれ接合されている。
【0020】
この第2実施形態では、多孔部材2を外筒10と事前組立可能としたので、第1実施形態のように精度良く多孔部材2をケーシング1に嵌め込む必要がない。従って、据え付けの際には、予め組み立てておいた減圧要素の組立品をケーシング1に挿入することができ、据付作業が容易に行える。
【0021】
図3および図4は第3の実施形態の水路の減圧構造を示す。この実施形態は、第1実施形態のシール蓋6をなくして、多孔部材2の上端部を上シールプレート11を介してリテナープレート8に取り付け、多孔部材2の内側に多孔部材2の内周面と摺接する円筒状の弁部材12を配して減圧要素を形成している。弁部材12は、上端側が蓋部12aで塞がれ、この蓋部12aに軸方向に延びるステム13が連結されている。そして、図示省略したモータで減速機14を介してステム13を上下動させることにより、弁部材12がステム13と一体に軸心方向に移動して多孔部材2の孔2aを開閉し、下流側へ流す水の量や圧力の調整を容易に行えるようになっている(図4参照)。なお、多孔部材と摺接する弁部材は、多孔部材の外側または両側に設けるようにしてもよい。
【0022】
また、この第3実施形態では、弁部材12を全閉することにより、減圧要素とバイパスライン上流側の既設のバタフライ型入口弁(図示省略)との間に水をため、入口弁の1次側と2次側の差圧をほとんどなくすことができる。従って、入口弁を開くときに必要な動力が小さくなり、入口弁を開閉するモータや減速機を小型化してコストを削減できるようになる。なお、弁部材12は、その移動方向と直交する方向に水圧を受けるので、開閉に必要な動力がバタフライ弁に比べて小さく、大型のモータや減速機を必要としない。
【符号の説明】
【0023】
1 ケーシング
2 多孔部材
3 水圧管
4 吸出管
9 基礎
10 外筒
12 弁部材
13 ステム
14 減速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みのフランシス水車を取り除いた水路に残された前記水車の渦巻状のケーシングの中央部に設けられ、水路の下流側の水圧を上流側の水圧よりも低い圧力に調整する水路の減圧要素。
【請求項2】
円筒状に形成され、上流側から前記ケーシングに流入した水を通す孔が複数あけられた多孔部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の水路の減圧要素。
【請求項3】
前記円筒状の多孔部材の内側と外側の少なくとも一方に、多孔部材の内周面または外周面と摺接する円筒状の弁部材を有し、この弁部材を軸心方向に移動させて前記多孔部材の孔を開閉するものであることを特徴とする請求項2に記載の水路の減圧要素。
【請求項4】
使用済みのフランシス水車を取り除いた水路に残された前記水車の渦巻状のケーシングの中央部に、請求項1乃至3のいずれかに記載の減圧要素を設けた水路の減圧構造。
【請求項5】
既設の水力発電所のフランシス水車を挟む導水路と放水路の一部を、新設の水力発電所のバイパス水路とし、前記水車の渦巻状のケーシングを残して水車を取り除き、前記バイパス水路に残されたケーシングを利用して請求項4に記載の水路の減圧構造を形成する水力発電用バイパスラインの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−162953(P2012−162953A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25632(P2011−25632)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)