説明

水道水浄化装置および水道水浄化方法

【課題】 水道水中のトリハロメタンやカビ臭の元となる有機物等を分解し除去し、処理後の水道水に塩素を有することで細菌の繁殖が抑制でき、メンテナンスの容易な水道水浄化装置と水道水浄化方法を提供する。
【解決手段】 マイクロフィルターで水道水を濾過するフィルター部と、前記フィルターにて濾過された濾過水を処理する光触媒処理部とを有し、該光触媒処理部は、前記濾過水を一方向に流動させる流動槽と該流動槽内に設置された光触媒フィルターと紫外線の発光源とを有し、前記濾過水が光触媒フィルターを通過する際に、紫外線が照射されるように構成されていることを特徴とする水道水浄化装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水道水の浄化装置および浄化方法に関するものである。さらに詳しくは水道水中からマイクロフィルターにて異物を除去し、さらに光触媒処理を行うことで有機物を除去する水道水の浄化装置および、浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に伴う水源水質の悪化によって、浄水場で処理された水道水にも様々な不純物が残留しており、カルキ臭やカビ臭等の異臭味被害が発生している。特に、塩素に起因して生成する発ガン性物質のトリハロメタンは微量残留でも問題であり、より安全でおいしい飲料水・調理用水を得る為に、使用前の水道水を高度処理する方法や機器が開発されている。
【0003】
例えば、水道水を浄化する方法の一つとして、活性炭で濾過処理を行う方法が多用されている。さらに高度処理をする方法として、ナノ濾過膜(以下「NF膜」と表記)等の分離膜を用いるもの(特許文献1)や光触媒反応等を用いて高度処理を行う方法(特許文献2)等が考案、実用化されている。NF膜や逆浸透膜(以下「RO膜」と表記)は水中の有機物、無機イオン、細菌、ウイルス等多くの不純物を除去することが可能であり、それらを使用することで不純物が殆ど残留しない水を得ることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-154362号公報
【特許文献2】特開平6-170360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、活性炭を使用して高度浄化を行う場合は、吸着物質によって充填量を変更する必要が生ずることや、水温、電気伝導度、使用量が使用場所毎に異なることから活性炭の交換時期を各自で判断するのが難しく、小型のものでは交換頻度が高くなることや、活性炭に細菌が繁殖して処理した水が細菌に汚染されるという問題を抱えている。
【0006】
また、NF膜や逆浸透膜で処理する方法では、これらの膜は、単位膜面積あたり単位圧力あたりの膜濾過処理水量が低いため、膜濾過処理水量を高める為には、広い膜面積や昇圧ポンプが必要となるが、小型の膜濾過装置では膜面積を広く取ることが困難な問題を抱えている。また、RO膜やNF膜は水道水に添加されている塩素も除去する為、膜濾過後の水は雑菌等により汚染されやすいという問題を抱えている。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、水道水中のトリハロメタンやカビ臭の元となる有機物等を分解し除去し、処理後の水道水に塩素を有することで細菌の繁殖が抑制でき、メンテナンスの容易な水道水浄化装置と水道水浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記、目的を達成する為、本発明は以下の構成を採用する。
【0009】
即ち、本発明は、マイクロフィルターで水道水を濾過するフィルター部と、前記フィルターにて濾過された濾過水を処理する光触媒処理部とを有し、該光触媒処理部は、前記濾過水を一方向に流動させる流動槽と該流動槽内に設置された光触媒フィルターと紫外線の発光源とを有し、前記濾過水が光触媒フィルターを通過する際に、紫外線が照射されるように構成されていることを特徴とする水道水浄化装置に関する。
【0010】
前記光触媒フィルターは、光触媒機能を有する光触媒繊維の不織布からなることが好ましい。
【0011】
さらに、前記光触媒繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記光触媒繊維の不織布が平板状であり、該不織布の平面が被処理水の流動方向に対して垂直になるように配置されていることを特徴とする。
さらにまた、本発明は、前記水道水浄化装置が水道水の高度浄化装置であって、前記濾過水が照射される紫外線の波長が220nm以上のみであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、水道水をマイクロフィルターで濾過し、該マイクロフィルターで濾過された濾過水を紫外線の照射下、光触媒機能を有する光触媒繊維の不織布に接触させることを特徴とする水道水浄化方法に関する。
さらにまた、前記水道水浄化方法が水道水の高度浄化方法であって、前記濾過水が照射される紫外線の波長が220nm以上のみであることを特徴とする。
【0014】
前記水道水浄化方法において、前記光触媒繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
マイクロフィルターを用いることで水道水の圧力で異物を除去することが可能であり、ポンプを増設することも膜面積を広くする必要がない為装置がコンパクトに出来る。またマイクロフィルターではイオンは除去されない為、水道水中に殺菌目的で添加されている塩素が除去されず、高度処理後の水道水が直ちに細菌等に汚染される問題を回避できる。そして、マイクロフィルターを用いることで光触媒フィルターに極微量含まれる異物が付着することによる劣化を防止し、光触媒フィルターの寿命を長く保つことが出来る。また、紫外線を発光する光源を内蔵した光触媒処理部を通過させることで水道水中に極微量に含まれるトリハロメタンやカビ臭等の有機物を分解することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る水道水浄化装置の概略フロー図である。
【図2】本発明の水道水浄化装置に用いられる光触媒処理部の概念図である。
【図3】本発明の水道水浄化装置に用いられる光触媒フィルターの構造を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水道水浄化装置の概略フローを図1に示す。本発明の水道水浄化装置は、水道水を濾過するマイクロフィルターを備えたフィルター部(13)と、前記フィルター部にて濾過された濾過水を処理する光触媒処理部(14)とを有する。フィルター部(13)は、内部にマイクロフィルターを有し、水道水をマイクロフィルターで濾過するようになっている。マイクロフィルターは、精密濾過法に使用されるフィルターであり、原水中に含まれる懸濁質、コロイド粒子を精度良く濾過分離する。しかし水中に溶解した物質やイオン、細菌やウイルスといったものは分離できない。マイクロフィルターは1〜100μmの粒子を除去することを目的としており、材質としては、ステンレスなどの金属製、セラミック製、樹脂製のマイクロフィルターを挙げることが出来るが、目的の大きさの粒子を除去できるものであれば、特に限定されるものではない。1μmよりも小さい粒子を除去するようなフィルターを使用すると、圧力損失が大きくなり昇圧ポンプを必要とし大型化したり、フィルターの目詰まりが発生しやすくなるなど、また、塩素を除去すると本発明の効果が得られないなど、好ましくない。また、100μm以下の粒子を通過するようなフィルターを使用すると、後段の光触媒処理部の活性が劣化するなどし、本発明の効果が得られないので好ましくない。
【0018】
図2に、光触媒処理部の概念図を示す。光触媒処理部は、前記濾過水を一方向に流動させる流動槽(21)と該流動槽内に設置された光触媒フィルター(22)と紫外線の発光源(23)から成る。光触媒フィルターはその面が水の流れに対し垂直に成るように配置することが望ましい。光触媒処理部は、前記濾過水が光触媒フィルターを通過する際に、紫外線が全面に照射されるように紫外線の発光源が配置されている。
【0019】
被処理水(12)はマイクロフィルターを備えたフィルター部(13)で処理され、そのときに被処理水中に含まれる微細な異物が除去される。その後異物を取り除かれた濾過水は光触媒処理部(14)にて有機物を分解する浄化処理を行い処理水(15)となる。これにより、異臭味の原因となる有機物を分解除去しつつ、殺菌効果を持つ塩素は水道水中に残留させることで、ウイルスや細菌等の増殖を抑え、おいしくてかつ安全な水を提供することができる。
【0020】
図3は本発明の水道水浄化装置に用いられる光触媒フィルターの構造を表す概念図である。光触媒フィルターは光触媒繊維の平板状不織布(31)と一対の金網(32)から成り、このような形状にすることにより金網をサポート材とすることができ、またカートリッジ状にすることが出来るので容易に交換することができる。
【0021】
光触媒フィルターに使用する光触媒は一般的に酸化チタンが用いられる。その中でも好ましくはアナターゼ型の酸化チタンである。光触媒の形状は粉末、繊維、薄膜、厚膜の形態をとることが出来る。その中でも繊維形態の場合、大別して3種類の光触媒繊維が存在する。酸化チタンで構成される繊維、表面が酸化チタンで内部が高強度のシリカの傾斜構造を有する繊維、またはガラス繊維等を基材とし、表面に酸化チタンをコーティングしたものである。酸化チタンで構成されている場合、繊維自体の強度が低いため、流水圧による破断が生じやすく、またコーティングの場合、コーティング相が流水により剥がれ落ちるという問題がある。本発明者らは、すでに特許3465699に示すように、繊維同士のブリッジングが全くなく、1本1本の繊維表面に酸化チタンをはじめとする光触媒成分が緻密に析出した構造の光触媒繊維を開発している。この光触媒繊維は、従来のコーティングという手法によらないために繊維表面の光触媒成分が脱落するという問題点も解決されている。この不織布の成型物は繊維1本1本がある程度の空隙を有して分散した構造となっているために、処理流体は繊維1本1本の隙間を通るために、処理流体と光触媒との接触面積が非常に大きいことが特徴である。
【0022】
次に、本発明の水道水浄化装置に用いられる光触媒繊維からなる平板状不織布21の好ましい例について詳細に説明する。光触媒繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(以下、第1相という。)とチタンを含む金属酸化物相(以下、第2相という。)との複合酸化物であるシリカ基複合酸化物繊維からなることが好ましい。
【0023】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質でも結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0024】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98質量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95質量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0025】
一方、第2相は、チタンを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、チタンが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60質量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50質量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のチタンを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0026】
第2相に含まれる金属酸化物のチタンの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の質量%を示している。
【0027】
水道水はマイクロフィルターを備えたフィルター部(13)から光触媒処理部(14)内に入り、(14)の光触媒フィルターを通過する。この光触媒フィルターはシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維で構成されており、1本1本がある程度の空隙を有して分散して存在する構造の為、処理水との接触面積が非常に大きい。この為光触媒フィルターにて生成したOHラジカルと効率的に反応させることが出来、こうして発生したOHラジカルによって有機物等が分解される。また、光触媒フィルター(14)はその面が水の流れ方向に対し垂直になるように配置されることが望ましいが、水の流れ方向に対し10°前後傾いて配置されても良い。
【0028】
紫外線の発光光源には水銀ランプが用いられる。さらに好ましいのは低圧水銀ランプである。この際ランプのガラス部分の材質には石英ガラスが用いられるが、その中でも合成石英ガラスは紫外線透過率が高いのでこれを使用するのが望ましい。
【0029】
また本発明の水道水浄化装置は、水道水の高度浄化処理を行う高度浄化装置としても用いることができる。
【0030】
従来の浄水処理は、一般的には、凝集沈殿処理と、その後に行われる急速砂濾過処理と、少なくとも急速砂濾過処理の前後に行われる塩素消毒処理とからなる。本発明における水道水の高度浄化処理とは、このような従来の浄水処理では十分に処理できない臭気物質やトリハロメタン、陰イオン界面活性剤、アンモニア態窒素などを処理するために、従来の浄水処理に追加して行われる処理のことで、急速砂濾過処理とその後に行われる塩素消毒処理との間に追加して行われる水道水の浄化処理のことである。
【0031】
本発明の水道水浄化装置を水道水の高度浄化装置として用いる場合は、本発明の水道水浄化装置のマイクロフィルター部にて濾過された濾過水が照射される紫外線の波長が220nm以上のみであることが望ましい。前記濾過水が照射される紫外線の波長を220nm以上のみとすることで、220nm未満の波長の紫外線が塩素を含有する水道水に照射された場合に生成する、人体に吸収されると血中の鉄分濃度低下による貧血を起こす可能性がある塩素酸の生成を抑えることができる。
【0032】
本発明の水道水浄化装置を水道水の高度浄化装置として用いる場合、紫外線の発光光源として特に好ましいのは、オゾンレス仕様の低圧水銀ランプである。低圧水銀ランプからは、通常186nmと254nm付近にピークを持つ紫外線が放射されるが、オゾンレス仕様の低圧水銀ランプからは、220nm未満の波長の光がカットされた紫外線の放射が可能になり、本発明の水道水浄化装置を水道水の高度浄化装置として好適に用いることができる。
【0033】
本実施の形態に係る光触媒処理部において、光触媒フィルターの平板状不織布に照射される平均紫外線強度は、1〜10mW/cmであることが好ましく、さらに2〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。この平均紫外線強度が1〜10mW/cmとなるような範囲にするには、紫外線ランプと光触媒フィルターとの配置と距離を適当な範囲になるようにすればよい。ここで表す平均紫外線強度は、平板状不織布表面の中央部から端部までの9箇所で測定した紫外線強度の平均値である。
【0034】
シリカ基複合酸化物繊維からなる光触媒繊維は、次の製造方法により得ることができる。
(溶融紡糸法)
シリカ基複合酸化物繊維は、下記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランあるいは変性ポリカルボシランと有機金属化合物との混合物を溶融紡糸し、不融化処理後、空気中又は酸素中で焼成することにより、シリカ基複合酸化物繊維を製造することができる。以下、これらを第1工程乃至第4工程に分けて詳細に説明する。
【0035】
【化1】

【0036】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示し、nは1より大きい整数を示す。)
(第1工程)
シリカ基複合酸化物繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。これについて以下に概説する。
【0037】
出発原料である変性ポリカルボシランは、主として上記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR’)nあるいはMR”m(Mは金属元素、R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基又はフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0038】
傾斜構造を有するシリカ基複合酸化物繊維を製造するには、前記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で、不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、有機金属化合物は、ポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0039】
尚、2官能基以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、1官能基しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0040】
傾斜構造を有するシリカ基複合酸化物繊維を製造するには、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物あるいは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に出発原料として使用できる。
【0041】
(第2工程)
第1工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下、前駆体という場合がある。)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれを濾過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けてもよい。尚、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0042】
前記溶融紡糸の他に、第1工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれを濾過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により紡糸し、巻き取り速度を制御して目的とする繊維を得ることができる。
【0043】
これらの紡糸工程において、必用ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、あるいは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0044】
(第3工程)
第2工程で得られた紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力または無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。この工程は、後工程の焼成の際に繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に限定されないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えてもよい。
【0045】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。尚、同第2工程並びに第3工程の際に、原料中に含まれている低分子量化合物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えられる。
【0046】
(第4工程)
第3工程により不融化された繊維を、張力または無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が傾斜的に増大するシリカ基複合酸化物繊維を得る。この工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障を来さない場合はそのまま使用されるが、支障を来す場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成並びに結晶構造に問題が生じない温度、処理時間が選択されなければならない。
【0047】
第4工程により得られた光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維を短繊維にした後、ニードルパンチ等を行い、平板状不織布(21)とすることができる。
【0048】
(メルトブロー法)
また、他の製造方法としては、シリカ基複合酸化物繊維からなる平板状不織布は、メルトブロー法を用いて、前記前駆体を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出するとともに、紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、その不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することができる。
【0049】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。また、窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、前記前駆体を紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより安定して紡糸を行うことができる。
【0050】
紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら紡糸することが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0051】
得られた不織布に上記溶融紡糸の場合と同様の不融化処理及び焼成を行うことにより、シリカ基複合酸化物繊維の不織布とすることができる。上記メルトブロー法により製造されるシリカ基複合酸化物繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50mm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルター等に加工する際に十分なプリーツ加工性を有する。
【0052】
平板状不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが、通常目付けが50〜500g/m、厚みは好ましくは0.5〜20mmのものが用いられる。厚みは、必要に応じて不織布を積層することにより調整できる。厚みは、0.5mmよりも薄い場合には、光触媒量そのものが少なすぎて水の浄化効果が十分に得られない。20mmよりも厚い場合は平板状不織布が抵抗となり、圧力損失が増大し、水処理が難しくなる。平板状不織布の形状は特に制限はないが、平板状不織布34を挿入する流動槽の形状に合わせて、丸型、角型などにすることができ、平板状不織布34の表面積を大きくするために波板状にすることもできる。
【0053】
上記のような平板状不織布の製造方法によれば、繊維同士のブリッジングが全く無く、一本一本の繊維表面に酸化チタンを始めとする光触媒成分が緻密に析出した構造の光触媒繊維からなる平板状不織布(31)が得られる。また、この光触媒繊維は、従来のコーティングという手法によらないため、繊維表面の光触媒成分が脱落するという問題がない。さらにこの繊維からなる平板状不織布34は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、処理流体と光触媒との接触面積が非常に大きくなる。一般に、光触媒の機能を十分に引き出すためには、光触媒への光の照射効率と処理流体との接触効率を高めることが必要である。
【0054】
上記光触媒繊維の表面は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうち少なくとも1以上の金属が担持しているのが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明に係る水浄化装置の実施例を説明する。
【0056】
(製造例1)
先ず、実施例に用いられる平板状不織布としてチタニア/シリカ繊維を製造した。すなわち、5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿を濾過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを、水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0057】
ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0058】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、チタニア/シリカ繊維を得た。
【0059】
(実施例1)
製造例1で得られたチタニア/シリカ繊維を用いて、図2に示される平板状不織布を含む光触媒フィルターを作成し、図1に示される水道水浄化装置を作製した。紫外線の発光光源にはヘレウス社製NIQ60/35XLを使用した。実施例1で用いた紫外線ランプは、合成石英ガラス製のガラス管を持つ低圧水銀ランプで、186nmおよび254nmにピーク波長をもつ紫外線を放射するものである。紫外線ランプと光触媒カートリッジの距離は最短部で50mmとし、平板状不織布表面の平均紫外線強度は2mW/cmであった。紫外線強度は浜松ホトニクス社製C9536紫外線照度計を用いて測定し、平板状不織布表面の中央部から端部まで9箇所を測定し、この平均値を平均紫外線強度とした。
【0060】
試料水を試験装置に通水し試験を行った。試料水は水道水を用いた。サンプリングした水は水道水基準50項目について測定した。その結果を表1に示すが、臭い成分とされるジオスミンや悪味とされるトリハロメタンを始めとする数種類の物質を有効に除去していることが確認された。本発明の水道水浄化装置では、マイクロフィルターと紫外線および光触媒フィルターを用いているため、塩素はそのまま残留し、人体に悪影響を及ぼすウイルス(インフルエンザウイルス等)、細菌(赤痢やコレラ等)は増殖しない。また、マイクロフィルターを使用することで他のフィルターに比べて圧力損失が少なく、図1に示すように、増圧用のポンプが必要なく、小型化が可能である。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
(実施例2)
前記試験装置のうち、紫外線の発光光源をヘレウス社製NNI60/35XLに変更した以外は、実施例1と同様の浄化方法にて処理を行った。実施例2で用いた紫外線ランプは、220nm未満の波長の紫外線の放射がカットされたオゾンレス仕様の低圧水銀ランプで、254nmのピーク波長の紫外線のみを放射するものである。
【0065】
試験結果を表2に示す。実施例1と同様に、臭い成分とされるジオスミンや悪味とされるトリハロメタンを始めとする数種類の物質を有効に除去していることが確認された。本発明の水道水浄化装置では、マイクロフィルターと紫外線および光触媒フィルターを用いているため、塩素はそのまま残留し、人体に悪影響を及ぼすウイルス(インフルエンザウイルス等)、細菌(赤痢やコレラ等)は増殖しない。また、試験開始5ヶ月後であっても、以上の効果が持続しており、光触媒フィルターの性能が維持されていることが確認された。さらに、254nmのピーク波長の紫外線のみを放射する低圧水銀ランプの適用によって、塩素酸の増加が抑制されることが確認された。
【0066】
(比較例1)
光触媒フィルターの光触媒不織布をガラスウールに変更し、それ以外の条件は実施例2と同様の浄化方法にて処理を行った。光触媒不織布をガラスウールに変更した結果を表3に示す。この状態では実施例1で低減できていたジオスミン等の数種類の有機物分解能力が大きく劣ることが確認された。
【0067】
(比較例2)
前記試験装置のうちマイクロフィルターを取り外した状態とし、それ以外は、全て実施例2と同様の浄化方法にて処理を行った。マイクロフィルターを使用しない場合、表3の通り装着直後の性能は実施例2とほぼ同等であったが、翌月の時点で有機物分解能力が低下していることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
11 水道管
12 被処理水
13 フィルター部
14 光触媒処理部
15 処理水
21 流動槽
22 光触媒フィルター
23 紫外線発光源
31 光触媒不織布
32 金網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水道水を濾過するマイクロフィルターを備えたフィルター部と、前記フィルター部にて濾過された濾過水を処理する光触媒処理部とを有し、該光触媒処理部は、前記濾過水を一方向に流動させる流動槽と該流動槽内に設置された光触媒フィルターと紫外線の発光源とを有し、前記濾過水が光触媒フィルターを通過する際に、紫外線が照射されるように構成されていることを特徴とする水道水浄化装置。
【請求項2】
前記光触媒フィルターは、光触媒機能を有する光触媒繊維の不織布からなることを特徴とする請求項1記載の水道水浄化装置。
【請求項3】
前記光触媒繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることを特徴とする請求項2記載の水道水浄化装置。
【請求項4】
前記光触媒繊維の不織布が平板状であり、該不織布の平面が被処理水の流動方向に対して垂直になるように配置されていることを特徴とする請求項2記載の水道水浄化装置。
【請求項5】
前記水道水浄化装置が水道水の高度浄化装置であって、前記濾過水が照射される紫外線の波長が220nm以上のみであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の水道水浄化装置。
【請求項6】
水道水をマイクロフィルターで濾過し、該マイクロフィルターで濾過された濾過水を紫外線の照射下、光触媒機能を有する光触媒繊維の不織布に接触させることを特徴とする水道水浄化方法。
【請求項7】
前記水道水浄化方法が水道水の高度浄化方法であって、前記濾過水が照射される紫外線の波長が220nm以上のみであることを特徴とする請求項6記載の水道水浄化方法。
【請求項8】
前記光触媒繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることを特徴とする請求項6または7記載の水道水浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213760(P2012−213760A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−64631(P2012−64631)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】