説明

水配管用内面被覆鋼管の製造方法

【課題】被覆層として塩化ビニル樹脂を使用せず、幅広い温度領域にて被覆層の耐剥離性を高めた水配管用内面被覆鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼管の内面に化成処理皮膜層を有し、化成処理皮膜層の上面にプライマー層を有し、プライマー層の上面に変性ポリエチレン樹脂層を有する水配管用内面被覆鋼管の製造方法において、プライマー層を形成する前に化成処理皮膜層の上面を洗浄するために使用される最終洗浄水の懸濁物質濃度を120mg/L以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管とその内面に形成される被覆層との密着性に優れ、防食性を向上した水配管用内面被覆鋼管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
給排水用配管等の水配管として用いられる鋼管は、その内面に防食性を付与するために、鋼管の内面を樹脂で被覆したものが使用される。たとえば鋼管の内面に塩化ビニル樹脂を貼り付けたもの(いわゆる内面硬質塩ビ被覆鋼管)は、一般に広く使用されているが、配管工事現場にて寒冷な屋外に長時間保管されたり、寒冷地にて使用される場合に、低温での耐衝撃性が低いため塩化ビニル樹脂がダメージを受け、防食性を維持することが難しくなることがある。さらに、内面硬質塩ビ被覆鋼管を使用した後で廃却する際に、塩化ビニル樹脂から有害物質が発生しないように、鋼管と塩化ビニル樹脂を分離してそれぞれ個別に廃棄処理を行なう必要があるので、その負荷が大きくなる。
【0003】
そこで塩化ビニル樹脂を使用せず、鋼管の内面を被覆する技術が検討されている。
たとえば特許文献1には、架橋ポリエチレン管に形状復元性を付与し、鋼管内で加熱復元することによって拡径して、鋼管内面を被覆する技術が開示されている。この技術では、水配管として、使用前に管内面の湯洗を長時間行なわないと架橋剤からの溶出成分が水中に混入するので、飲料水等の配管に使用するものとするためには、かなり生産性の低いものとなる。
【0004】
特許文献2には、ポリエチレン管に形状復元性を付与して、鋼管内面を被覆する技術が開示されている。この技術では、ポリエチレン管を製作し、さらに形状復元性を付与する必要があるので、内面を被覆した鋼管(以下、内面被覆鋼管という)の製造コストが上昇する。しかも、鋼管内面を均一に被覆するのは難しい。
また、上記の問題点がないものとして鋼管の内側にポリエチレン系樹脂からなる層を粉体融着塗装により形成したものも市販されているが、水配管として使用中に管端部が水と接触することによって、被覆層が管端から剥離し易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-9912号公報
【特許文献2】特開2002-257265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水配管として用いられる内面被覆鋼管(以下、水配管用内面被覆鋼管という)は、鋼管とその内面の被覆層との界面が露出する管端から腐食が進行し易いので、配管工事の際には、防食性を有する継手(いわゆる管端防食継手)が使用される。しかし管端防食継手を使用しても、配管工事の際に生じた不具合や長期間の使用が原因となって、水配管用内面被覆鋼管の管端が水と接触するようになる。また、その使用環境に応じて低温から高温まで幅広い温度領域に曝されるので、被覆層の劣化が進行して、被覆層が剥離し易くなる。
【0007】
水配管用内面被覆鋼管の被覆層が剥離すると、母材である鋼管が露出し、水と接触して錆が生じる。その錆が成長すると、水配管用内面被覆鋼管の破断や水漏れが生じるばかりでなく、錆が水中に混入して赤水等の問題が生じる。
本発明は、被覆層として環境負荷が大きく、低温での耐衝撃性の低い塩化ビニル樹脂を使用せず、長期間にわたって幅広い温度領域にて被覆層の耐剥離性を高めた水配管用内面被覆鋼管の製造方法を提供し、従来の水配管用内面被覆鋼管の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋼管の内側にポリエチレン系樹脂からなる層を有する水配管用内面被覆鋼管を、母材である鋼管から製造する過程に存在する腐食因子とその影響について精査した。通常、鋼管の内側にポリエチレン系樹脂からなる層を有する水配管用内面被覆鋼管の製造においては、図4に示すような、鋼管(母材)→酸洗→水洗→化成処理→水洗あるいは湯洗→プライマー処理→ポリエチレン処理→水配管用内面被覆鋼管の順で行なわれる製造工程が採用される。このように、プライマー処理によってプライマー層を形成する前に化成処理層表面を洗浄(水洗あるいは湯洗)するが、この洗浄水(以下、最終洗浄水という)に混入して懸濁する固形物の濃度が被覆層の耐剥離性に多大な影響を及ぼすことが分かった。したがって、最終洗浄水の懸濁物濃度を制御することで被覆層の耐剥離性を高めることができ、ひいては水配管用内面被覆鋼管の防食性を向上できることを見出した。
【0009】
本発明は、最終洗浄水の懸濁物濃度を制御することで被覆層の耐剥離性を高めることができ、ひいては水配管用内面被覆鋼管の防食性を向上することができるという知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、鋼管の内面に化成処理皮膜層を有し、化成処理皮膜層の上面にプライマー層を有し、プライマー層の上面に変性ポリエチレン樹脂層を有する水配管用内面被覆鋼管の製造方法において、プライマー層を形成する前に化成処理皮膜層の上面を洗浄するために使用される最終洗浄水の懸濁物濃度を120mg/L以下とする水配管用内面被覆鋼管の製造方法である。ここではリットルをLと記す。
【0010】
本発明の水配管用内面被覆鋼管の製造方法においては、最終洗浄水に固形物除去処理,希釈処理のうちの1種または2種を施すことによって、最終洗浄水の懸濁物濃度を120mg/L以下とすることが好ましい。また、固形物除去処理にて、フィルター,沈殿槽および遠心分離装置のうちの1種または2種以上を用いることが好ましい。さらに、最終洗浄水で洗浄した化成処理皮膜層の上面を乾燥した後、化成処理皮膜層の上面の乾燥むらの有無を検知して、乾燥むらが発生した場合に、固形物除去処理を施すことも可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐剥離性の高い水配管用内面被覆鋼管を安定して得ることができる。本発明を適用して得た水配管用内面被覆鋼管は、鋼管とその内面の被覆層との密着性に優れ、管端部においても長期間にわたって幅広い温度域で耐剥離性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用して水配管用内面被覆鋼管を得る製造工程の例を示すフロー図である。
【図2】本発明を適用して得られる水配管用内面被覆鋼管の例を模式的に示す断面図である。
【図3】図2の水配管用内面被覆鋼管を部分的に拡大して示す断面図である。
【図4】従来の水配管用内面被覆鋼管を得る製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1(a)(b)は、本発明を適用して水配管用内面被覆鋼管を得る製造工程の例を示すフロー図である。また図2は、本発明を適用して得られる水配管用内面被覆鋼管の例を模式的に示す断面図であり、水配管用内面被覆鋼管1は、鋼管6と、その内面に形成される被覆層5とを有する。その被覆層5を詳細に示すために、水配管用内面被覆鋼管1を部分的に拡大して図3に断面図として示す。
【0014】
鋼管6の寸法は、特に限定しないが、外径10〜170mm,肉厚1.0〜6.0mm,長さ4000〜6000mm程度が好ましい。鋼管6の表面には、その製造工程で生じた酸化物や粉塵等が付着しているので、酸洗を行なって、それらの付着物を除去する。
酸洗の条件は、特に限定せず、従来と同様に行なう。ただし、酸洗液は塩酸水溶液が好ましい。その理由は、鋼管6の表面を過剰に侵食せず、後述する化成処理皮膜層を安定して形成することが可能となるからである。
【0015】
酸洗を施した後で、鋼管6を水洗して酸洗液を洗い流す。水洗の条件も特に限定せず、従来と同様に行なう。
次いで、鋼管6の内面に化成処理皮膜層2を形成するために化成処理を施す。その際、リン酸亜鉛,リン酸亜鉛カルシウム等のリン酸塩系の化成処理を、併用しても良いし、あるいは、いずれかを単独で行なっても良い。化成処理では、処理液を鋼管6の内面に吹き付ける、または流し込むことによって、鋼管6の内面に化成処理皮膜層2を形成することができる。あるいは、処理液の浴中に鋼管6を浸漬しても良い。処理液の温度を80〜85℃に保持して化成処理を行なうと、化成処理皮膜層2を安定して形成できるので好ましい。また、処理液に、適宜、促進剤を添加しても良い。
【0016】
化成処理を施した後で、水洗あるいは湯洗による洗浄(以下、最終洗浄という)を行ない、処理液を洗い流す。この時、鋼管の内面にはリン酸系化合物等の化成処理残渣や化成処理皮膜からの剥離片からなる固形物が付着している。これら固形物が最終洗浄によって最終洗浄水に混入する。工業的には、この最終洗浄水は循環使用されるのが通常であり、そのため、循環使用する最終洗浄水には、上記したような固形物が徐々に蓄積されていき、その濃度が上昇し、特に小粒の固形物は最終洗浄水中で懸濁する。そして新たに洗浄処理しようとする鋼管内面の化成処理皮膜層2の表面に付着する。
【0017】
最終洗浄が終了した後、乾燥して最終洗浄水を除去する。その際、最終洗浄水に混入していた懸濁物は、化成処理皮膜層2の表面に付着したまま残留して、錆の発生を助長する。つまり、化成処理皮膜層2の表面に付着した懸濁物は、後述するプライマー層や変性ポリエチレン層の密着性を劣化させる原因になる。
最終洗浄水中の懸濁物は、乾燥の過程で、最終洗浄水の蒸発が遅れる部分に凝集され、最終洗浄水が全て蒸発した後も、狭い領域に凝集した状態で化成処理皮膜層2の表面に残留する。懸濁物が高濃度で残留している箇所の色調は、周辺の化成処理皮膜層2とは異なるので、その色調の変化は所謂むら(以下、乾燥むらという)として視認できる。つまり、乾燥むらの発生は、その部分に最終洗浄水中の懸濁物が高濃度で存在することを意味する。ひいては、乾燥前に懸濁物等が化成処理皮膜層2の表面に比較的高濃度で残留していたことを意味する。
【0018】
最終洗浄水の懸濁物濃度が120mg/Lを超えた最終洗浄水を使用すると、化成処理皮膜層2を形成するにも関わらず防食性が低下する。したがって、最終洗浄水の懸濁物濃度は120mg/L以下とする必要がある。なお、懸濁物濃度が110mg/Lを超えると、明瞭な乾燥むらが生じて、容易に検知することができる。
最終洗浄水の懸濁物濃度が低下するに連れて、乾燥むらが目立たなくなり、検知が困難になる。懸濁物濃度が70mg/L以下になると、乾燥むらが目立たなくなり、防食性も向上するため、懸濁物濃度は70mg/L以下が好ましい。特に、懸濁物濃度が5mg/L以下では乾燥むらは全く認められなかった。
【0019】
最終洗浄水の懸濁物濃度を所定の範囲に維持するために、最終洗浄水中の固形物を除去する処理(以下、固形物除去処理という)を行なう必要がある。固形物除去処理は、フィルターを用いて固形物を分離する、沈殿槽を用いて固形物を沈降分離する、遠心分離装置を用いて固形物を遠心分離する、清浄な水により希釈する等の従来から知られている技術が使用できる。
【0020】
また、固形物除去処理を常時行なうことによって、最終洗浄水の懸濁物濃度を所定の範囲に安定して維持できる。ただし、乾燥むらの発生と錆の発生は密接な関係があるので、乾燥むらを常時検知して、乾燥むらが認められたときに固形物除去処理を行なっても良い。
このようにして化成処理皮膜層2の上面の洗浄が終了した後、化成処理皮膜層2の上面にプライマー層3を形成する。図1では、この処理をプライマー処理と記す。プライマー層3の平均厚みが10μm未満では、鋼管6の内面の被覆層5の密着性が低下する。一方、50μmを超えるプライマー層3を形成すると、その塗布および乾燥にかかる所要時間が長くなるので、水配管用内面被覆鋼管1の生産性が低下する。したがって、プライマー層3の平均厚みは10〜50μmが好ましい。
【0021】
プライマー層3を形成する工程では、鋼管6内面に形成された化成処理皮膜層2の上面に、エポキシ樹脂と硬化剤とを溶剤で希釈したプライマー液を塗布し、さらに乾燥してプライマー層3を形成する。そのエポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。また硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させるものであり、ジシアンジアミドもしくはその誘導体、あるいは酸無水物系化合物もしくはその誘導体が好ましい。溶剤は、エポキシ樹脂、および硬化剤を溶解できるものであれば、アルコール系溶剤,エーテル系溶剤,エステル系溶剤,セロソルブ系溶剤,炭化水素系溶剤等の通常使用されるものの中から適宜選ぶことができる。
【0022】
プライマー液に占めるエポキシ樹脂,硬化剤,溶剤の比率は、エポキシ樹脂と硬化剤を合計20〜30質量%、溶剤を70〜80質量%の割合が好ましい。
そのプライマー液を鋼管6内面の化成処理皮膜層2上面に塗布する手段は、特に限定しないが、プライマー液を流し込む、あるいはスプレーする等の手段が使用できる。
また、プライマー液を塗布する前に、鋼管6を加熱しておくと、エポキシ樹脂を迅速に硬化させて、プライマー層3を安定して形成することが可能である。あるいは、プライマー液を塗布した後で、鋼管6を加熱しても同様の効果が得られる。鋼管6を加熱する手段は、熱風,高周波誘導加熱等が好ましい。
【0023】
次に、プライマー層3の上面に変性ポリエチレン樹脂層4を形成する。図1では、この処理をポリエチレン処理と記す。変性ポリエチレン樹脂は、直鎖状低密度ポリエチレン、もしくは高圧法低密度ポリエチレン、もしくは高密度ポリエチレンを、定法によって無水マレイン酸等の酸無水物によりグラフト変性したものが好ましく、変性量は6質量%以下が好ましい。変性物のメルトインデックスは2〜8の範囲内のものが好ましい。メルトインデックスは、通常、メルトマスフローレイトと呼ばれている値でJIS規格K6922-1,K7210 に準拠して測定した値である。なお、他の樹脂を添加してもよく、必要に応じて酸化防止剤や顔料を添加しても良い。
【0024】
変性ポリエチレン樹脂層4は、鋼管6を210℃以上に加熱して、内面のプライマー層3の上面に変性ポリエチレン粉末を粉体塗装、融着することによって形成する。変性ポリエチレン粉末を塗装した後、必要に応じて140℃以上に保熱しても良い。
変性ポリエチレン樹脂層4の平均厚みが0.3mm未満では、配管工事中に疵が生じた場合に変性ポリエチレン樹脂層4が部分的に欠落し、透水性の高いプライマー層3(すなわちエポキシ樹脂)が露出するので、錆が発生し易くなる。一方、1.0mmを超える変性ポリエチレン樹脂層4を形成すると、その所要時間が長くなるので、水配管用内面被覆鋼管1の生産性が低下する。したがって、変性ポリエチレン樹脂層4の平均厚みは0.3〜1.0mmが好ましい。より好ましくは0.5〜0.8mmである。
【0025】
このようにして変性ポリエチレン樹脂層4を形成した後、さらにその変性ポリエチレン樹脂層4の上面にポリエチレン樹脂層(図示せず)を形成しても良い。その場合、変性ポリエチレン樹脂層とポリエチレン樹脂層の平均厚みは合計0.5〜1.0mmが好ましい。ポリエチレン樹脂層は、変性ポリエチレン樹脂層4の上面に、直鎖状低密度ポリエチレン,高圧法低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン等のポリエチレン粉末を粉体塗装、融着して形成する。なお、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂,エチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂等の、エチレンと不飽和結合を有するモノマーとの共重合樹脂は、その軟化温度が低すぎるので、使用できない。
【0026】
以上に説明した通り、鋼管6の内面に、化成処理皮膜層2,プライマー層3,変性ポリエチレン樹脂層4からなる被覆層5を密着させて形成することができ、幅広い温度領域にて耐剥離性の高い水配管用内面被覆鋼管1を安定して得ることができる。しかも鋼管6と被覆層5が密着し、かつ被覆層5を形成する化成処理皮膜層2,プライマー層3,変性ポリエチレン樹脂層4も密着しているので、管端部においても長期間にわたって幅広い温度域で耐剥離性を維持できる。
【0027】
水配管用内面被覆鋼管1は、その内部を水の流路として使用するものであるから、鋼管6の内面に被覆層5を形成したものが広く使用されている。ただし、水配管用内面被覆鋼管1を水中に浸漬して鋼管6の外面も水に接触する状態で使用する場合は、鋼管6の外面にも同様の手順で被覆層5を形成して使用することが好ましい。
【実施例】
【0028】
図4に示す工程で実験的に最終洗浄水の懸濁物濃度を種々変更して、図2に示すような水配管用内面被覆鋼管を製造し、その水配管用内面被覆鋼管から試験片を採取して防食性能を調査した。その手順を以下に説明する。以下は例示のための一例であり、本発明はこれに限られるものではない。
鋼管6(外径48.6mm,肉厚3.5mm,長さ4000mm)の内面を27質量%の塩酸水溶液で酸洗した後、水洗して酸洗液を洗い流した。次に、鋼管6をリン酸亜鉛カルシウム系化成処理液(85℃)に浸漬することによって化成処理を施して化成処理皮膜層2を形成し、さらに鋼管内面の最終洗浄(湯洗80℃)を行なった。この最終洗浄では、80℃に加熱した種々の洗浄度の最終洗浄水を鋼管6内に15秒間流し込んで処理液を洗い流した。その後、管端から高圧エアを吹き込む(いわゆるエアブロー)ことによって最終洗浄水を乾燥させ、さらに鋼管内面の乾燥むらの発生状況を目視で調査した。その結果を表1に示す。なお、使用した最終洗浄水の懸濁物濃度は表1に示す通りである。
【0029】
次いで、鋼管6内面に形成された化成処理皮膜層2の上面にプライマー液を塗布し、170〜190℃で加熱硬化させてプライマー層3(平均厚み25〜30μm)を形成した。プライマー液は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とジシアンジアミド系硬化剤とを、酢酸エチルとメチルエチルケトンからなる溶剤で希釈したものを使用した。希釈の割合は、ビスフェノール型エポキシ樹脂と硬化剤との合計20質量%,溶剤80質量%とした。
【0030】
次に、230℃に加熱した後、プライマー層3の上面に、直鎖状低密度ポリエチレンを無水マレイン酸で変性した粉状の変性ポリエチレン樹脂(密度0.923,メルトインデックス4.9)を粉体塗装し、さらに180〜220℃の炉内で保熱して、変性ポリエチレン樹脂層4(平均厚み0.6〜0.8mm)を形成した。
このようにして得た試験片(水配管用内面被覆鋼管1)を屋外に30日保管した後、長さ500mmに切断し、試験パイプとした。試験パイプを食塩水(濃度3質量%,温度60℃)に56日浸漬した後、取り出して、管端部の被覆層5の剥離状況を調査した。剥離状況の調査では、各試験パイプの管端部の被覆層5が、管端よりどの程度奥まで鋼管から剥離しているかを調査し、最も深く剥離している部分の剥離深さを測定し、最大剥離深さとした。最大剥離深さは水配管用内面被覆鋼管1の防食性能を示す指標となるものであり、最大剥離深さが浅いほど防食性能が優れており、深いほど防食性能が劣ることを意味する。
【0031】
そこで各試験片の最大剥離深さを測定し、最大剥離深さが0mm(すなわち剥離が認められないもの)あるいは最大剥離深さが1mm未満の試験片を優(◎),最大剥離深さが1mm以上3mm未満の試験片を良(○),最大剥離深さが3mm以上7mm未満の試験片を可(△),最大剥離深さが7mm以上の試験片を不可(×)として防食性能(耐温水性)を評価した。その結果を表1に示す。なお、最大剥離深さが小さいほど、防食性能が高くなる。
【0032】
【表1】

【0033】
表1中の発明例(試験片No.1〜4)は、最終洗浄水の懸濁物濃度が本発明の範囲を満足する例であり、比較例(試験片No.5,6)は、懸濁物濃度が本発明の範囲を外れる例である。
表1から明らかなように、発明例の防食性能は優(◎)または良(○)または可(△)と評価されたが、比較例は全て不可(×)であった。
【0034】
既に説明した通り、表1に示した試験片は、いずれも、屋外に保管した後、60℃の食塩水に浸漬した水配管用内面被覆鋼管である。試験片の中には、No.1のように防食性能が優(◎)と評価された試験片があり、優れた防食性能が幅広い温度領域で発揮された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、耐剥離性の高い水配管用内面被覆鋼管を安定して得ることができる。本発明を適用して得た水配管用内面被覆鋼管は、鋼管とその内面の被覆層との密着性に優れ、管端部においても長期間にわたって幅広い温度域で耐剥離性を維持できるので、産業上格段の効果を奏する。
【符号の説明】
【0036】
1 水配管用内面被覆鋼管
2 化成処理皮膜層
3 プライマー層
4 変性ポリエチレン樹脂層
5 被覆層
6 鋼管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の内面に化成処理皮膜層を有し、該化成処理皮膜層の上面にプライマー層を有し、該プライマー層の上面に変性ポリエチレン樹脂層を有する水配管用内面被覆鋼管の製造方法において、前記プライマー層を形成する前に前記化成処理皮膜層の上面を洗浄するために使用される最終洗浄水の懸濁物濃度を120mg/L以下とすることを特徴とする水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記最終洗浄水に固形物除去処理、希釈処理のうちの1種または2種を施すことによって、前記最終洗浄水の懸濁物濃度を120mg/L以下とすることを特徴とする請求項1に記載の水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記固形物除去処理にて、フィルター、沈殿槽および遠心分離装置のうちの1種または2種以上を用いることを特徴とする請求項2に記載の水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記最終洗浄水で洗浄した前記化成処理皮膜層の上面を乾燥した後、前記化成処理皮膜層の上面の乾燥むらの有無を検知して、該乾燥むらが発生した場合に、前記固形物除去処理を施すことを特徴とする請求項2または3に記載の水配管用内面被覆鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154441(P2012−154441A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14989(P2011−14989)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】