説明

水酸化アルミニウムゲル粒子およびその製造方法

【課題】酸反応性が極めて良く、経時変化しにくい水酸化アルミニウムゲル粒子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】可溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸イオン供給化合物水溶液とをpH5.8〜6.8、温度10〜40℃の条件で反応させ、反応生成液を固液分離し、洗浄後乾燥することを特徴とする水酸化アルミニウムゲル粒子の製造方法およびこの方法で得られた、下記式(1)で表される水酸化アルミニウムゲル粒子。
Al(CO・mHO (I)
但し式(I)中、x、mは、それぞれ下記範囲を満足する。
0.1≦x≦0.7、0.5≦m<4.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸に対する反応速度が速く且つ経時変化しにくい水酸化アルミニウムゲル粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化アルミニウムゲルは従前より医薬用制酸剤として多用されている。しかしながら、従来の水酸化アルミニウムゲルは、胃酸に対する反応速度が遅く、しかも製造後比較的急速に老化が進み、制酸剤として要求される胃酸のpHを約3にまで中和するのに10分近く要する程度に老化し、更に、酸中和量が低くて制酸剤としての機能を十分満足し得ない難点がある。
【0003】
酸に対する反応速度が速く且つ経時変化しにくい水酸化アルミニウムゲルに関しては、例えば、特許文献1には、乾燥前のゲルの平均二次粒子径を4μm以下とし、
(MO)x1Al(CORz・mHO、(MO)x1(CaO)x2Al(CORz・mHO、(MO)x1(MgO)x3Al(CORz・mHO、(MO)x1(CaO)x2(MgO)x3Al(CORz・mH
(式中、Mは1価のアルカリ金属、Rは2価以上の有機酸)
の組成で示される水酸化アルミニウムゲルが提案されているが、不純物等が含まれているために本発明の水酸化アルミニウムゲルとは明らかに別の物質である。
【0004】
また、特許文献2には、
[(CaO)x1(MgO)x2(MO)x3]Al(CO・mH
(式中、Mはアルカリ金属)
の組成で示される水酸化アルミニウムゲルが提案されているが、多くの不純物が含まれることおよびその不純物がアルカリ金属、アルカリ土類金属であるために得られた水酸化アルミニウムの液性が中性でなく、日本薬局方第十五改正に不適合品であることより、本発明の水酸化アルミニウムゲルとは明らかに別物質である。

【特許文献1】特開平8−231557号公報
【特許文献2】特公平1−24731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸反応性が極めて良く、経時変化しにくい水酸化アルミニウムゲル粒子及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水酸化アルミニウムゲル製造において、反応で得られた水酸化アルミニウムゲル粒子を固液分離、洗浄・脱水後ケーキを再乳化しスプレー乾燥において高温で瞬時に乾燥することにより、水酸化アルミニウムゲル中の酸化アルミニウム含量を高くすることにより、また、脱水後ケーキを真空冷凍乾燥器を用いて低温で乾燥することにより、酸に対する反応性が極めて良く、且つ経時変化しにくい水酸化アルミニウムゲル粒子が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
下記式(I)で表わされる水酸化アルミニウムゲル粒子である。
Al(CO・mHO (I)
但し式(I)中、x、mは、それぞれ下記範囲を満足する。
1≦x≦0.7、0.5≦m<4.0である。
本発明の水酸化アルミニウムゲル粒子は、酸化アルミニウム量が式(1)化合物の重量に基づいて、60〜90%であり、日本薬局方第十五改正に適合するものである。
【0008】
また本発明は、可溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸イオン供給化合物水溶液とをpH5.8〜6.8、温度10〜40℃の条件で反応させ、反応生成液を固液分離し、洗浄後乾燥することにより得られる水酸化アルミニウムゲル粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
水酸化アルミニウムの理想的な化学組成式は、Al・3HOであるが、従前より市販されている水酸化アルミニウムゲル粒子の化学組成式はAl・4.0〜5.0HOである。前記式から、市販の水酸化アルミニウムゲル粒子は理想形の水酸化アルミニウムに比べてフリーの水(自由水)をAl1個に対して1.0〜2.0個多く含有していることが分かる。そして、このフリーの水が老化(経時変化)を促進することを見出した。さらに、乾燥時にこのフリーの水を品温が可能な限り低く、また、可及的速やかに飛ばすことにより、目的とする水酸化アルミニウムゲル粒子が得られることを見出し本発明を完成した。
本発明で得られる水酸化アルミニウムゲル粒子は、日本薬局方第十五改正に適合し、更に酸に対する反応性が極めて良く且つ経時変化しにくい物質である。
本発明の製造方法によれば、日本薬局方第十五改正に適合し、酸に対する反応性が極めて良く且つ経時変化しにくい水酸化アルミニウムゲル粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水酸化アルミニウムゲル粒子は、可溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸イオン供給化合物水溶液とをpH5.8〜6.8、温度10〜40℃の条件で反応させ、反応生成液を固液分離し、洗浄後乾燥することにより得られる。
【0011】
可溶性アルミニウム塩としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等が挙げられるが、硫酸アルミニウムが安価であり好ましい。
【0012】
炭酸イオン供給塩としては、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等が挙げられるが、炭酸ナトリウムが最も有効である。
【0013】
反応は、炭酸アルカリの水溶液の一定量を反応槽に投入しかき混ぜながら、可溶性アルミニウム塩の水溶液一定量を、一定の速度で注加する、また、逆に可溶性アルミニウム塩の水溶液の一定量を反応槽に投入しかき混ぜながら、炭酸アルカリの水溶液の一定量を一定の速度で注加するバッチ反応で行うことができる。更に、可溶性アルミニウム塩の水溶液と炭酸アルカリの水溶液を一定の割合で、予め一定量の水を投入したオーバーフロー付き反応槽に注加する連続反応等で行うこともできるが、生産性(反応能力)の良い連続反応方式が好ましい。
【0014】
反応pHは、5.8〜6.8、好ましくは6.4〜6.7である。反応pHが、5.8以下になると得られる水酸化アルミニウムゲル粒子の構造中に硫酸イオンが取り込まれ、この硫酸イオンを除くための洗浄が複雑となる。逆に、反応pHが6.8を超えると得られる水酸化アルミニウムゲルの構造中にナトリウムイオンが取り込まれ、このナトリウムイオンを除くための洗浄が複雑となる。
反応温度は、10〜40℃、好ましくは20〜30℃である。
【0015】
乾燥は、洗浄・脱水により得られたケーキを乾燥する工程であるが、本発明においてこの乾燥工程が最も重要な工程である。すなわち、同ケーキが含有するフリーの水を品温を上げずに瞬時に乾燥しなければならないことによる。
このための乾燥器としては、噴霧乾燥機(スプレードライヤー)、真空冷凍乾燥器が最も好ましい。従前より市販されている水酸化アルミニウムゲル粒子の乾燥もそのほとんどが噴霧乾燥機によるものであるが、乾燥温度(出口温度→排気温度)が低いために前記したように、多量のフリーの水を含有している。市販されている水酸化アルミニウムゲル粒子のスプレードライヤーにおける乾燥条件は、出口温度として100℃以下で乾燥されているが、本発明の水酸化アルミニウムゲル粒子を得るための、出口温度は120℃〜160℃、好ましくは125〜140℃である。乾燥温度(出口温度)を高くすることは品温が高くなり、得られる水酸化アルミニウム粒子の酸反応性が悪くなり不利となるが、スプレードライヤーによる乾燥は瞬時乾燥であるために、その影響が非常に少ない。
真空冷凍乾燥器は、最も理想的な乾燥器である。すなわち、洗浄・脱水により得られたケーキに含まれるフリーの水を冷凍し、真空状態にすることにより氷を昇華する乾燥方法であることによる。また、乾燥に要する温度も30〜35℃と極低温であることによる。
【0016】
本発明の製造方法によれば、下記式(I)で表わされる水酸化アルミニウムゲル粒子が得られる。
Al(CO・mHO (I)
但し式(I)中、x、mは、それぞれ下記範囲を満足する。
0.1≦x≦0.7、0.5≦m<4.0
xの上限の制限はないが、0.7が好ましく、さらに好ましくは、0.5である。
xの下限が0.1以下になると経時変化しやすいものとなり目的とする水酸化アルミニウムゲル粒子を得ることができない。
mの好ましい下限は0.5、さらに好ましくは1.0、特に好ましくは1.8であり、mの上限は4.0未満、好ましくは3.5、さらに好ましくは3.2である。
mは、4.0以上となると得られる水酸化アルミニウムゲル粒子がフリーの水を含有することになり、本発明の目的物質を得ることができない。下限についての制限はないが、0.5以下とするためには乾燥温度を更に高くしなければならなく、製造コストの面から不利となる。
また、得られた水酸化アルミニウムゲル粒子の、酸化アルミニウム含有量は式(1)化合物の重量に基づいて、60〜90%となるが、好ましくは60〜70%である。
【0017】
得られた水酸化アルミニウムゲル粒子は、日本薬局方第十五改正に適合する。液性が中性であるのでNaが少なく腎障害、高血圧を引き起こすことがない。
第十五回正日本薬局方乾燥水酸化アルミニウムゲル規格は下記の通りである。
1)性状
色→白色、形状→無晶性の粉末、におい→なし、味→なし
2)溶解性
水→ほとんど溶けない、エタノール(95)→ほとんど溶けない、ジエチルエーテル→ほとんど溶けない、希塩酸→大部分溶ける、NaOH試液→大部分溶ける
3)確認試験
アルミニウム塩→適合
4)純度試験
液性→中性、塩化物→0.284%以下、硫酸塩→0.48%以下、硝酸塩→褐色の輪帯を生じない、重金属→10ppm以下、ヒ素→5ppm以下
5)制酸力→250mL以上
6)酸化アルミニウム→50.0%以上
【0018】
以下実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、得られた水酸化アルミニウムゲル粒子の特性は以下の方法により測定した。
(1)第十五改正日本薬局方乾燥水酸化アルミニウムゲル規格:日本薬局方乾燥水酸化アルミニウムゲルに準じて測定した。
(2)酸反応性試験
100mL容ビーカーに、濃度0.1モル/L塩酸50mLを正確に採り、37℃の恒温槽に浸し、液温を37℃に昇温する。つづいて、pHメータの電極を液に浸し、マグネティックスタラーによる攪拌下に、試料粉末1.0gを加え、同時にストップウオッチを作動させ、液pHが3.0および3.5に至るまでの時間および10分後のpHを測定する。
(3)炭酸ガス→AGK式 炭酸ガスの簡易精密定量法に準じた。
【実施例1】
【0019】
オーバーフロー付容量2.2Lのステンレス製反応槽に、予め水道水500mLを入れ攪拌下に、1.05モル/L硫酸アルミニウム水溶液を11.5mL/分および0.76モル/L炭酸ナトリウム水溶液を61.8mL/分の流速でそれぞれの定量ポンプを用いて供給し、反応温度22〜24℃で120分間反応した。なお、反応pHは終始6.51〜6.53であった。
得られた反応懸濁液を、ヌッチエを用いて吸引ろ過により固液分離し、得られたケーキを14Lの水道水を通水(洗浄)した。洗浄後ケーキに水を加えてAlとして250g/Lに再乳化し、ラボスケールのスプレードライヤーを用いて、入口温度(熱風温度)450℃、出口温度(排気温度)120℃で乾燥し、水酸化アルミニウムゲル粒子を得た。
得られた水酸化アルミニウムゲル粒子の化学組成式は以下の通りであった。
Al(CO0.24・2.77HOであった。
また、得られた水酸化アルミニウムゲルの特性を表1に、酸反応性試験結果を表2に示す。
【実施例2】
【0020】
実施例1において、ラボスケールのスプレードライヤー乾燥における出口温度を140℃とした以外は、実施例1と同じ方法で水酸化アルミニウムゲル粒子を得た。
得られた水酸化アルミニウムゲル粒子の化学組成式は以下の通りであった。
Al(CO0.20・2.12HOであった。
また、得られた水酸化アルミニウムゲルの特性を表1に、酸反応性試験結果を表2に示す。
【実施例3】
【0021】
実施例1において、固液分離により得られたケーキをラボスケールの真空乾燥機を用いて乾燥した以外は、実施例1と同じ方法で水酸化アルミニウムゲル粒子を得た。なお、乾燥終了時の品温は33℃であった。
得られた水酸化アルミニウムゲル粒子の化学組成式は以下の通りであった。
Al(CO0.45・1.95HOであった。
また、得られた水酸化アルミニウムゲルの特性を表1に、酸反応性試験結果を表2に示す。
(比較例1)
【0022】
実施例1において、ラボスケールのスプレードライヤー乾燥時の出口温度(排気温度)を90℃とした以外は、実施例1と同じ方法で水酸化アルミニウムゲル粒子を得た。
得られた水酸化アルミニウムゲル粒子の化学組成式は以下の通りであった。
Al(CO0.33・4.30HOであった。
また、得られた水酸化アルミニウムゲルの特性を表1に、酸反応性試験結果を表2に示す。
(比較例2)
【0023】
市販の水酸化アルミニウムゲル粒子(協和化学工業株式会社製、銘柄S−100)の化学組成式はその一例として以下の通りである。
Al(CO0.31・4.15HOであった。
また、同水酸化アルミニウムゲルの特性を表1に、酸反応性試験結果を表2に示めす。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表1より、本発明の水酸化アルミニウムゲル粒子は日本薬局方第十五改正に適合し、酸化アルミニウム含有量が60〜70%の範囲にあることが分かる。また、表2より本発明の水酸化アルミニウムゲル粒子は酸反応性が極めて良く、更に、経時変化しにくいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の水酸化アルミニウムゲル粒子は、従前より市販されている水酸化アルミニウムゲル粒子に比して、酸に対する反応速度が速く且つ経時変化しにくい。よって、医薬用制酸剤としての利用に多くの改善が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表わされる水酸化アルミニウムゲル粒子。
Al(CO・mHO (I)
但し式(I)中、x、mは、それぞれ下記範囲を満足する。
0.1≦x≦0.7、0.5≦m<4.0
【請求項2】
式(1)において、酸化アルミニウム量が式(1)化合物の重量に基づいて、60〜90%である請求項1記載の水酸化アルミニウムゲル粒子
【請求項3】
日本薬局方第十五改正に適合する、請求項1記載の水酸化アルミニウムゲル粒子。
【請求項4】
式(1)のxおよびmが下記範囲を満足する請求項1記載の水酸化アルミニウムゲル粒子。
0.1≦x≦0.5、1.8≦m≦3.2
【請求項5】
可溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸イオン供給化合物水溶液とをpH5.8〜6.8、温度10〜40℃の条件で反応させ、反応生成液を固液分離し、洗浄後乾燥することを特徴とする請求項1記載の水酸化アルミニウムゲル粒子の製造方法。
【請求項6】
可溶性アルミニウム塩が、硫酸アルミニウムである請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
炭酸イオン供給化合物が、炭酸ナトリウムである請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
乾燥方法が、噴霧乾燥(スプレードライヤー)である請求項5記載の製造方法。
【請求項9】
乾燥方法が、真空冷凍乾燥である請求項5記載の製造方法。


【公開番号】特開2010−95398(P2010−95398A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266523(P2008−266523)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】