説明

水酸化カルシウムの水性スラリー組成物

【課題】水と接触する金属の腐食抑制等に用いる水酸化カルシウムの水性スラリー組成物であり、水酸化カルシウムの高い分散安定性を有する水酸化カルシウムの水性スラリー組成物を提供することを課題としている。
【解決手段】(A)微細粒子状の水酸化カルシウム、(B)マレイン酸重合体及び(C)グルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰返し構造の主鎖からなり、主鎖中の少なくとも一つのグルコースにラムノース、マンノース、フコースから選択される1個以上の単糖が分岐した構造からなっている多糖類を含むことを特徴とする水酸化カルシウムの水性スラリー組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の給水施設、排水施設の水系、開放循環式冷却水系、閉鎖式循環水系、一過式冷却水系などの工業用水系における水と接触する金属の腐食抑制等に有用な安定な水酸化カルシウムの水性スラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化カルシウムは、汚水に含まれる生物学的固体の処理、排ガス中の酸性成分等の除去のための吸収剤、その他、各種の排水処理用に使用されている。また最近では、水道管、建築物の給水・給湯配管、各種用水配管、排水用配管等の水供給用配管の金属の腐食を抑制するためにも用いられている。(非特許文献1参照)。
【0003】
水酸化カルシウムを開放循環式冷却水系における金属の腐食を抑制するために用いる場合、冷却塔における循環冷却水の蒸発により、循環冷却水は徐々に濃縮される(通常、2〜6倍の濃縮度を維持するように運転することが行なわれている)ため、重炭酸イオンやカルシウムイオンの濃度も徐々に高くなるが、そこへさらに水酸化カルシウムを添加すると、カルシウムイオンの増大とpH上昇によって、炭酸カルシウムの析出やケイ酸マグネシウムの析出によるスケール障害が生じるおそれがある。また冷却塔を有さない半密閉式の循環水系であっても、温度が高いシステムに水酸化カルシウムを添加すると、大気中の炭酸ガスを吸収して炭酸イオンが生成するため、同様に炭酸カルシウムのスケール障害が発生する。そのため、このような系では炭酸カルシウムスケールの析出を防ぐために、炭酸カルシウムの結晶成長を抑制するスレッショルド抑制剤が用いられる。しかし、水酸化カルシウムとスレッショルド抑制剤をそれぞれ別個に被処理水系に添加したのでは、炭酸カルシウムのスケールを有効に防止できない。
【0004】
そこで、スレッショルド抑制剤ならびに水酸化カルシウムスラリーの分散剤として各種の高分子系分散剤が提案されている。例えば、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを水媒体中で、高分子系分散剤の存在下に粉砕して、水酸化カルシウムスラリーを製造する方法において、液相に存在する高分子系分散剤の量が、水酸化カルシウム1g当り20mg以下になるよう、高分子系分散剤の添加量を調整しながら粉砕する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この方法では水酸化カルシウムの水性スラリーのスラリー分散効果を満足させる分散剤はいまだ見出されていない。
【特許文献1】特開2006−298732号公報
【非特許文献1】第51回材料と環境討論会予稿集、201〜202頁、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水と接触する金属の腐食抑制等に用いる水酸化カルシウムの水性スラリー組成物であり、水酸化カルシウムの高い分散安定性を有する水酸化カルシウムの水性スラリー組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、安定な水酸化カルシウムの水性スラリー組成物について種々検討した結果、特定の重合体系分散剤と特定の多糖類の使用が水酸化カルシウムの水性スラリーの安定性を向上させることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、(A)微細粒子状の水酸化カルシウム、(B)マレイン酸重合体及び(C)グルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰返し構造の主鎖からなり、主鎖中の少なくとも一つのグルコースにラムノース、マンノース、フコースから選択される1個以上の単糖が分岐した構造からなっている多糖類を含む水酸化カルシウムの水性スラリー組成物であることを特徴とする。
【0008】
本発明で用いられる(B)マレイン酸重合体として好ましくは、重量平均分子量が300〜20,000である。また、マレイン酸重合体として、より好ましくはホモマレイン酸重合体である。
【0009】
本発明で用いられる(C)多糖類として好ましくは、ダイユータンガム、ウェランガム、アルカリゲネス レータスB−16株細菌産生多糖類があり、これらの1種以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水酸化カルシウムの水性スラリー組成物により、水酸化カルシウムの安定性が大きく改善され、当該水性スラリー組成物の流動性や水酸化カルシウムの分散性の経時安定性が著しく向上し、当該水性スラリー組成物の取扱性が向上する。また、当該水性スラリー組成物の添加により水酸化カルシウムの被処理水系への添加でカルシウム系スケールの生成を助長することなく、各種の排水処理、水道管、建築物の給水・給湯配管、各種用水配管、排水用配管等の水供給用配管、開放循環式冷却水系、閉鎖式循環水系、一過式冷却水系などの工業用水系における水と接触する金属の腐食を抑制し、操業の安定化に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の水酸化カルシウムの水性スラリー組成物(以下「水性スラリー組成物」とする)は、(A)微細粒子状の水酸化カルシウムに特定の(B)マレイン酸重合体と特定の(C)多糖類を用いることにより経時安定性が著しく向上した微細粒子状の水酸化カルシウムの水性スラリー組成物である。また、水性スラリー組成物を被処理水系に添加することにより水性スラリー組成物中の特定の重合体が、当該水酸化カルシウム由来及び被処理水系に用いる工業用水由来又は当該被処理水の水質に由来するカルシウム系スケールの生成抑制効果を有している。
【0013】
本発明における水系は、水と接触して金属腐食が問題となる水系が対象であり、特に限定されるものではなく、例えば石油精製工業、石油化学工業、紙パルプ製造業、繊維工業、塗料工業、合成ゴムラテックス工業などの各種製造業、発電プラント、空調システム等における各種の給水施設、排水施設の水系、開放循環式冷却水系、閉鎖式循環水系、一過式冷却水系などの工業用水系等が挙げられる。
【0014】
水系に用いられる用水としては、河川、湖水、地下水、雨水等から工業用水、水道水、井水などを取り入れて使用される。
【0015】
本発明の水性スラリー組成物中の(A)微細粒子状の水酸化カルシウム(以下、「(A)水酸化カルシウム」とする)は、水系中で分散する微粒子状やパウダー状の水酸化カルシウムである。水酸化カルシウムは特に限定されるものではなく、微粒子状やパウダー状の水酸化カルシウムあるいは酸化カルシウムが水と反応して生じた微細な水酸化カルシウム等があり、これらのいずれであっても何ら構わなく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。
【0016】
水酸化カルシウムの粒子径は、水性スラリーが調整できる粒径であれば良く、通常、粒子径3〜50μm、好ましくは10〜20μmである。水酸化カルシウムの粒子径は、小さいほど水性スラリー組成物の安定性が良くなる(沈降抑制及び分離防止性が向上する)が、粒子径が3μm以下では水性スラリー組成物の安定性が良くなるが、得られた水性スラリー組成物の粘度が高く、取り扱いが悪くなる場合がある。水酸化カルシウムの粒子径が、粒子径が50μmを超えると水性スラリー組成物の安定性が悪く、水酸化カルシウムの分離や沈降が生じる場合がある。この場合、分離を防止して、水性スラリーの安定性を維持するために、通常、多糖類の配合量を増す必要が生じ、その結果、水性スラリー組成物の粘度が高くなり、取り扱いが悪くなる場合がある。
【0017】
また、微粒子状やパウダー状の水酸化カルシウムを水に分散させて調製した水酸化カルシウムスラリーよりも酸化カルシウムの水和反応により生成した水酸化カルシウムスラリーの方が粒子径を小さくでき、好ましい場合がある。酸化カルシウムを水和させる場合の水和条件に特に限定されないが、通常、粒子径3〜50μmの酸化カルシウムを50〜100℃の温度に保ちながら10〜120分の間、十分に攪拌、混合して水和させる。
【0018】
本発明に用いる(B)マレイン酸重合体(以下、「(B)マレイン酸重合体」とする。)は、マレイン酸と、マレイン酸と共重合可能な不飽和単量体との共重合体を含む水溶性の共重合体である。重合に用いるマレイン酸は、マレイン酸及びその水溶性塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の複合塩、完全中和塩及び部分中和塩等がある。)(B)マレイン酸重合体の重量平均分子量は、通常300〜20,000が用いられる。好ましくは重量平均分子量400〜2,000である。また、(B)マレイン酸重合体におけるマレイン酸の比率は30〜100重量%であり、好ましくはホモマレイン酸重合体である。
【0019】
マレイン酸と共重合可能な不飽和単量体としては、モノエチレン性不飽和スルホン酸の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸;共役ジエンスルホン化物のイソプレンスルホン酸;スチレンスルホン酸;スルホアルキル(メタ)アクリレートエステルのスルホエチル(メタ)アクリレートエステル、スルホプロピル(メタ)アクリレートエステル;スルホアルキル(メタ)アリルエーテルのスルホメチル(メタ)アリルエーテル、スルホエチル(メタ)アリルエーテル、スルホフェニル(メタ)アリルエーテル;(メタ)アリルスルホン酸;(メタ)アクリル酸エステルの(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸プロピルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステルの(メタ)アクリル酸ヒドロキシルエチルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシルプロピルエステル;(メタ)アクリルアミド;N−アルキル置換(メタ)アクリルアミドのN−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、;炭素数2〜8のオレフィンのエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテ ン、イソオクテン等;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステルのマレイン酸エチルエステル、マレイン酸プロピルエステル及びその水溶性塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の複合塩、完全中和塩及び部分中和塩等がある。)などが挙げられ、それらの1種又は2種以上が用いられる。
【0020】
(B)マレイン酸重合体の配合量は、水性スラリー組成物全量に対して、通常1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%である。配合量が15重量%を超えても分散剤としての効果は得られるが、配合量の増加に見合う効果の向上が得られず、コスト的に好ましくない。また配合量が1重量%未満では、十分なスケール抑制効果が得られないため、好ましくない。
【0021】
マレイン酸重合体の製造方法は、有機溶媒中ないし水性溶媒中で無水マレイン酸又はマレイン酸を遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより製造することができる。例えば特許2964154号公報、特公平7−49450号公報、特開平6−298874号公報等で開示されている。
【0022】
市販の(B)マレイン酸重合体としては、BWA社よりBELCLENE200LA(商品名)、BELCLENE200S(商品名)、BELCLENE283(商品名)、東亞合成(株)よりアロンA−6520(商品名)、BASF社よりSOKALAN PM−10(商品名)、日本油脂(株)よりノンポールPMA−50W(商品名)、ALCO社よりAQUATREAT AR−980(商品名)等があり、これらが使用できる。
【0023】
本発明に用いる(C)多糖類(以下、「(C)多糖類」とする。)は、水に溶解又は分散して粘稠性を生じる多糖類であり、グルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰返し構造の主鎖からなり、主鎖中の少なくとも一つのグルコースにラムノース、マンノース、フコースから選択される1個以上の単糖が分岐した構造からなっている多糖類である。本発明者は、(C)多糖類が、水酸化カルシウムの水性スラリー中で溶解又は分散状態を保つことで、水酸化カルシウム粒子を水中で分散安定化させる効果を発揮すること、そして(B)マレイン酸重合体との相乗効果により、優れた水酸化カルシウムの分散安定化作用が発揮されること、更に、このような多糖類としては、グルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰返し構造の主鎖からなり、主鎖中の1つのグルコースにラムノース、マンノース、フコース等が分岐した構造からなっている多糖類であることを見出した。具体的には、ダイユータンガム(商品名)、ウェランガム(商品名)、アルカリゲネス レータスB−16株細菌の産生多糖類(アルカシーガム(商品名))等が挙げられ、それらの1種又は2種以上が用いられる。
【0024】
ダイユータンガム(商品名)は、Sphingomonas属の一種であるXanthomonas campestris ATCC53159としてATCCより入手可能な菌株を管理された条件下で発酵することにより製造されるヘテロポリサッカライドS−657として入手可能である。ヘテロポリサッカライドS−657は、炭水化物、タンパク質12%、及びO−アセチル基約7%からなる。この炭水化物部分は、グルクロン酸約19%、並びにラムノースとグルコースのそれぞれの概略モル比が2:1の中性糖を含む。細菌株、発酵条件、反応物質、及びこのポリマーの単離については、Peikらの米国特許第5,175,278号に詳しく開示されている。また、ダイユータンガム(商品名)は、米国CP Kelco社よりK1C626という商品名で市販されている。ダイユータンガム(商品名)の一般構造は、下記一般式(化1)で表される。
【0025】
【化1】

【0026】
(ここでMは、それぞれ独立に水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、アミンから選択される一種以上、nは整数である)で示される化合物である。
で表される。
【0027】
ウェランガム(商品名)は、アルカリゲネス(Alcaligenes )属の一種であるATCC31555としてATCCより入手可能な菌株を管理された条件下で発酵することにより製造されるヘテロポリサッカライドである。その製造方法は、Kangらの米国特許第4,342,866号に詳しく開示されている。このヘテロポリサッカライドは主に、グルクロン酸約11%〜約15%、並びにそれぞれの比が約1:2:2である糖、マンノース、グルコース、及びラムノースからなる炭水化物ポリマーである。このポリマーはO−アセチル基を約2.8%〜7.5%有する。ウェランガム(商品名)は、米国CP Kelco社よりK1A96という商品名で市販されている。
【0028】
アルカリゲネス レータスB−16株細菌の産生多糖類(アルカシーガム(商品名))について、アルカリゲネス・レイタスB−16株の菌学的性質、培養方法が特公平6−37521号公報に詳しく記載されている。アルカリゲネス レータスB−16株細菌は、通常の微生物の培養方法で培養され、例えば、炭素源にフルクトース、グルコース、シュークロースなどの糖類、ヘミセルロース、デンプン、コーンスターチなどの天然高分子、オリーブ油などの油脂類を、窒素源に尿素、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどの無機態窒素源、トリプトン、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、麦芽エキスなどの有機態窒素源を、その他リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムなどの無機塩類を加えた培地を用いて、初発pHが4〜10、培養温度が15〜40℃で通気攪拌液体培養を3〜10日間行なう。培養後、該培養液に約2倍量(容量)以上のアセトン、エタノール、イソプロピルアルコールなどの有機溶媒を入れ、培養産生物を不溶性の凝集物として回収する。一方、グルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰返し構造の主鎖のみから構成され、分岐した構造を有さないジェランガム等は、十分な分散安定化効果を示さない。
【0029】
(C)多糖類の配合量は、水性スラリー組成物全量に対して通常0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲である。0.01重量%未満では十分な水性スラリー組成物の分離防止、沈降抑制効果が得られない。また、1重量%を超えると、多糖類を十分に分散させることができないうえに、溶液の粘度が高くなり取り扱いが困難となる場合がある。
【0030】
本発明の水性スラリー組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、通常のスラリー組成物の手順に準じて製造される。具体的には、容器に水をいれ、撹拌下、(B)マレイン酸重合体、(C)多糖類を順次加えて十分に溶解、分散させる。その後、撹拌下、(A)微細粒子状の水酸化カルシウムを加えて水酸化カルシウムを十分に分散させて本発明の水性スラリー組成物が得られる。(A)微細粒子状の水酸化カルシウムを加える際に予め、親水性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等で湿潤させて水に添加することで分散が容易になる。
【0031】
水性スラリー組成物中の水酸化カルシウムの配合量は通常1〜60重量%の範囲で、好ましくは5〜40重量%である。この配合量が60重量%を超えると、水性スラリー組成物の粘度が高くなり、取り扱いが悪くなる場合がある。また、配合量が1重量%未満では、得られた水性スラリー組成物が分離し易くなるうえに水酸化カルシウムの必要量を添加するための水性スラリー組成物の使用量が多くなり、作業性が低下し好ましくない場合がある。
【0032】
水性スラリー組成物の製造工程における(B)マレイン酸重合体の添加時期は特に限定されないが、(B)マレイン酸重合体が水酸化カルシウム粒子の分散を促進し、水酸化カルシウムスラリーの粘度を低下させる作用を十分に発揮させるために、水酸化カルシウムを加える前の水に添加するのが好ましい。
【0033】
水性スラリー組成物の製造工程における(C)多糖類の添加時期は特に限定されないが、(C)多糖類はスラリーの粘度を増加させて水酸化カルシウム粒子の水への分散を妨害する作用があるため、水に酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを加えてスラリー状態となった後に添加する方が好ましい場合がある。
【0034】
水性スラリー組成物の製造工程において、必要により水酸化カルシウムスラリー中の粗大粒子を除去することができるが、粗大粒子の分離方法として篩分離、重力分離、遠心分離などが挙げられる。水酸化カルシウムスラリー中の未水和酸化カルシウム、酸化カルシウム由来の原石やガラなどの比較的大きなサイズで、スラリー中に分散し難いような固形分を分離するには、篩分離が好ましく、水酸化カルシウムスラリーに分散している粗大粒子と微粒子を分離し、微細な水酸化カルシウムスラリーを得るには遠心分離装置を用いることが好ましい。また、これら分離方法を併用させても良い。遠心分離装置は、デカンタや液体サイクロンのいずれでも良い。水酸化カルシウムスラリー中の固形分を篩分離操作にて取り除く操作を事前、または工程内いずれにおいても設けることができる。
【0035】
本発明の水性スラリー組成物に対して本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を配合することに何ら制限を加えるものではない。例えば、アクリル酸重合体はマレイン酸重合体に比べて、水酸化カルシウムスラリーの安定性を向上させる効果は低いが、被処理水系のスケールや汚れを抑制する目的でアクリル酸重合体を本発明のスラリー組成物中に配合することができる。このようなアクリル酸重合体の例として、アクリル酸とスルホン酸基を有するモノエチレン性不飽和単量体との共重合体が挙げられる。このようなアクリル酸と共重合可能なスルホン酸基を有するモノエチレン性不飽和単量体としては、モノエチレン性不飽和スルホン酸の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸;共役ジエンスルホン化物のイソプレンスルホン酸;スチレンスルホン酸;スルホアルキル(メタ)アクリレートエステルのスルホエチル(メタ)アクリレートエステル、スルホプロピル(メタ)アクリレートエステル;スルホアルキル(メタ)アリルエーテルのスルホメチル(メタ)アリルエーテル、スルホエチル(メタ)アリルエーテル、スルホフェニル(メタ)アリルエーテル;(メタ)アリルスルホン酸などが挙げられ、それらの1種又は2種以上が用いられる。
【0036】
被処理水系に銅合金が用いられている場合には、本発明の水性スラリー組成物中に銅合金の腐食抑制剤である芳香族アゾール化合物を配合することができる。このような芳香族アゾール化合物の例としては、例えばトリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、ハロ置換ベンゾトリアゾール、ハロ置換トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0037】
水性スラリー組成物の添加量は、対象とする水系の腐食抑制の要求の程度を考慮して適宜決定すれば良いが、通常、対象とする水系の水1リットルに対して水酸化カルシウム量として0.05mg〜500mgである。
【0038】
水性スラリー組成物の添加方法は、特に限定されるものではなく、通常、薬品注入ポンプ等の注入装置を用いて、連続添加あるいは間歇添加を行う。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウム
酸化カルシウム(試薬)(関東化学(株)製、鹿1級、純度97.0%以上)
2.重合体
(マレイン酸重合体)
A−1:ポリマレイン酸ナトリウム塩(「アロンA−6520」(商品名);東亞合成
(株)製)
〔重量平均分子量1,000〕
A−2:PMA−2:ポリマレイン酸(「BELCLENE200LA」(商品名);
BWA社製)
〔重量平均分子量500〕
A−3: マレイン酸とアクリル酸メチルと酢酸ビニルの共重合体
(「BELCLENE283」(商品名);BWA社製)
(アクリル酸重合体)
A−4:ポリアクリル酸ナトリウム塩〔重量平均分子量2,200〕
A−5:アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS) の共重合体のナトリウム塩
〔重合比(重量)アクリル酸:AMPS=60:40、重量平均分子量10,000〕
3.多糖類
B−1:ダイユータンガム(「KIC626」(商品名);CP Kelco社製)
B−2:ウェランガム(「K1A96」(商品名);CP Kelco社製)
B−3:B−16多糖類(「アルカシーラン」(商品名)、INCIname:Alcaligenes Polysaccharides;伯東(株)製)
B−4:ジェランガム(「ケルコゲルCG−HA」(商品名);CP Kelco社製)
B−5:カルボキシメチルセルロース(「セロゲンWS−A」(商品名);第一工業製薬 (株)製)
B−6:グアーガム
B−7:アルギン酸ナトリウム
B−8:ザンサンガム(「ケルザン」(商品名);CP Kelco社製)
B−9:ヒドロキシエチルメチルセルロース
(「メトローズSEB−15T」(商品名);信越化学(株)社製)
B−10:ガラクトマンナンガム
(「EMCO GUM」(商品名);Meyhall Chemical社 製)
B−11:カルボキシビニル系ポリマー(「カーボポール934」(商品名);グッド リッチ社製)
〔水酸化カルシウムスラリー組成物分離安定性試験〕
所定量の水と所定量の重合体を混合した水溶液に酸化カルシウム(関東化学(株)製、鹿1級、純度97.0%以上)の所定量を加えて、撹拌下で80〜90℃に加温して水和反応を行わせて、水酸化カルシウムの水性スラリーを得た。あらかじめ1重量部の多糖類を100重量部の水に撹拌溶解した多糖類の1%溶液を調製しておき、多糖類の1%溶液の所定量を前記水性スラリーに加えて撹拌混合して、水性スラリー組成物を得た。重合体及び/又は多糖類を添加しない組成物も同様の方法により調製した。水性スラリーのpHは、いずれも13以上であった。水性スラリー組成物を室温で1週間静置して、分離安定性を調べた。結果を表‐1に示す。
【表−1】

○:分離なし ×:分離あり
【0040】
本発明の水酸化カルシウムとマレイン酸重合体及び多糖類を用いた水性スラリー組成物である実施例1〜15は、本発明の多糖類を用いていない比較例1〜8、14〜16、及び、本発明で用いられるマレイン酸重合体を用いていない比較例9〜13と比較して、水性スラリー組成物の分離が無く、優れた安定性を示していることが分かる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)微細粒子状の水酸化カルシウム、(B)マレイン酸重合体及び(C)グルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰返し構造の主鎖からなり、主鎖中の少なくとも一つのグルコースにラムノース、マンノース、フコースから選択される1個以上の単糖が分岐した構造からなっている多糖類を含むことを特徴とする水酸化カルシウムの水性スラリー組成物。
【請求項2】
(B)マレイン酸重合体の重量平均分子量が300〜20,000である請求項1記載の水酸化カルシウムの水性スラリー組成物。
【請求項3】
(B)マレイン酸重合体がホモマレイン酸重合体である請求項1又は2記載の水酸化カルシウムの水性スラリー組成物。
【請求項4】
(C)多糖類が、ダイユータンガム、ウェランガム、アルカリゲネス レータスB−16株細菌産生多糖類から選ばれた1種以上である請求項1乃至3記載の水酸化カルシウムの水性スラリー組成物。


【公開番号】特開2009−249735(P2009−249735A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103136(P2008−103136)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】