説明

水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートおよびその製造方法

【課題】簡便な方法により製造することができ、かつ電極材料として求められる性能を満足しうる水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】結晶構造がβ型であり、厚さが20〜500nmである、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートおよびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートおよびその製造方法に関する。さらに詳細には、二次電池の正極材料やキャパシタに用いられうる新規な水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、またはニッケル鉄電池などの実用的な二次電池の正極材料には水酸化ニッケルが用いられている。通常、用いられる水酸化ニッケルは、密度が高い数μmレベルの粒子径を有する球状の水酸化ニッケル粒子が用いられる。一方、セラミックスの特性を活かし、材料として用いるためには、様々なサイズレベルでの形態制御が有効であることが知られている。これまで、水酸化ニッケルのナノレベルでの構造体の合成に関する報告があり(例えば非特許文献1参照)、ロッド状(例えば非特許文献2、3参照)、フレーク状およびディスク状(例えば非特許文献4、5参照)、または球状(例えば非特許文献6参照)など、種々の構造を有する水酸化ニッケルが報告されている。基本格子が六角形である水酸化ニッケル結晶は、その構造に起因して、シート状構造または板状構造になることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M.Akinc et al.,Journal of European Ceramic Society,18,1559−1564(1998)
【非特許文献2】K.Matsui et al.,Advanced Materials,14,1216−1219(2002)
【非特許文献3】J.Liang et al.,Chemistry Letters,32,1126−1127(2003)
【非特許文献4】D.Chen et al.,Chemical Physics Letters,405,159−164(2005)
【非特許文献5】X.Liu et al.,Materials Letters,58、1327−1330(2004)
【非特許文献6】M.Oshitani et al.,Journal of Electrochemical Society,136,1590−1593(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の非特許文献1〜6に記載の技術では、得られる水酸化ニッケル粒子はフレーク状あるいはディスク状のものが得られるが、製造方法は、錯体の形成を経由するため煩雑であるという問題があった。また、得られる水酸化ニッケル粒子が、電極材料として求められる性能のいくつかを満足し得ないという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、簡便な方法により製造することができ、かつ電極材料として求められる性能を満足しうる水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、ニッケル塩をアルカリ水溶液にゆっくり添加する簡便な方法によって、高い比表面積を有する水酸化ニッケルが
得られることがわかった。さらに、得られた前記水酸化ニッケルを、150℃を超え230℃以下の温度で水熱処理することにより、電極材料としての性能を満足しうる水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートが製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、結晶構造がβ型であり、厚さが20〜500nmである、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートである。
【0008】
また、本発明は、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下して水酸化ニッケルを合成する工程と、水酸化ニッケルを水に分散させ150℃を超え230℃以下の温度で水熱処理する工程と、水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程と、を含む、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便な方法により製造することができ、かつ電極材料として求められる性能を満足しうる水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートおよびその製造方法が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】実施例1で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率5万倍で撮影した写真である。
【図1B】実施例1で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率2万倍で撮影した写真である。
【図1C】実施例1で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万倍で撮影した写真である。
【図2】実施例1で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体の窒素吸着・脱離等温線と(上段)、前記の窒素吸着・脱離等温線を解析して得られた細孔径分布曲線である(下段)。
【図3】100℃で水熱処理して得られる水酸化ニッケルナノシート集合体のX線回折チャート(a)および実施例1で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体のX線回折チャート(b)である。
【図4A】実施例2で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率9千倍で撮影した写真である。
【図4B】実施例2で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万5千倍で撮影した写真である。
【図4C】実施例2で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万8千倍で撮影した写真である。
【図4D】実施例2で得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率3万倍で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0012】
本発明は、結晶構造がβ型であり、厚さが20〜500nmである、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートである。本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、高い比表面積を有する水酸化ニッケルから合成され、均一な形状を有する。したがって、例えば、本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを一次電池または二次電池の正極活物質として用いた場合、電池の高性能化に繋がると考えられる。特に、充電可能な二次電池の正極活物質として本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを用いた場合、エネルギー密度の向上が期待できる。
【0013】
ここで、本発明において、「水酸化ニッケルヘキサゴナルプレート」とは、ニッケルイオンを六方最密充填した水酸化物イオンの層が、上下から挟み込み八面体配位した積層構造を基本ユニットとし、このユニットが二次元平面状に広がるとともに、厚さが分子レベル(数十ナノメートル)から積層構造が発達して数百ナノメートルまでのものであることを意味する。
【0014】
上記の形状および上記の範囲の大きさを有する本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、ニッケル塩の水溶液を強アルカリ性水溶液に滴下して得られる無定形部分を含む高比表面積β型水酸化ニッケルを水熱処理することにより得られ、β型の結晶構造となる。β型の結晶構造を有する水酸化ニッケルは、オキシ水酸化ニッケルと同様な、[NiO2]∞の二次元網目層を積み重ねた層状構造を有する。その層構造を維持したまま、層
間への水素イオンの出入りによって酸化還元反応が進行するため、水素イオンの出入りによる結晶構造の変化が小さいと考えられ、β型の結晶構造を有する水酸化ニッケルは、電極材料として好ましいと考えられる。
【0015】
本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの厚さは、20〜500nmである。該厚さは、好ましくは30〜400nmであり、より好ましくは50〜300nmである。厚さが20nm未満の場合、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの物理的・化学的安定性が低下する場合がある。また、厚さが500nmを超える場合、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの収率が低下する場合があり、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの細孔径の均一性が低下する場合がある。前記厚さは、温度などの水熱条件を制御することにより制御されうる。なお、本発明において、前記厚さは、走査型電子顕微鏡により測定した値を採用するものとする。
【0016】
本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、少なくとも1辺の長さが0.05μm〜5μmであることが好ましい。全ての辺の長さが0.05μm未満の場合、ヘキサゴナルプレートの形状になりにくく球状粒子に近くなり、ヘキサゴナルプレートの形状に起因する特性などが得られにくくなる場合がある。また、全ての辺の長さが5μmを超える場合、極端に収率が低下する場合がある。前記長さは、処理時間などの水熱条件を制御することにより制御されうる。なお、本発明において、前記の1辺の長さは、走査型電子顕微鏡により測定した値を採用するものとする。
【0017】
本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの形態は、特に制限されない。前記水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、1枚ずつのプレートの形態であってもよいし、一枚ずつのプレートが凝集または集合して形成される集合体の形態であってもよい。また、本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、結晶状であってもよいし、顆粒状であってもよいし、粉末状であってもよい。
【0018】
本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの製造方法は、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下して水酸化ニッケルを合成する工程と、前記水酸化ニッケルを水に分散させ150℃を超え230℃以下の温度で水熱処理する工程と、水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程と、を含む。以下、かような製造方法について、工程順に詳細に説明するが、本発明は、下記の形態のみに制限されるものではない。
【0019】
[高比表面積水酸化ニッケルを合成する工程]
本工程においては、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下し、加水分解反応を行うことにより高比表面積水酸化ニッケルを得る。ここで水酸化ニッケルは、下記に詳述するように、比表面積が大きいものとして得られ、以下では「高比表面積水酸化ニッケル」とも称する。
【0020】
上記の形状および上記の範囲の大きさを有する本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを得るという観点から、前記水酸化ニッケルの比表面積は、150m2/g以上で
あることが好ましい。前記比表面積が150m2/g未満の場合、後段の水熱処理によっ
て水酸化ニッケルが凝集し、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートが得られにくい場合がある。該比表面積は180〜240m2/gであることがより好ましく、200〜240
2/gであることがさらに好ましい。
【0021】
上記のような範囲の比表面積を有する高比表面積水酸化ニッケルは、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下し、加水分解により合成する。この加水分解の工程は、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる工程と、前記水酸化ニッケルの沈殿をろ過、乾燥して、高比表面積水酸化ニッケルを得る工程と、を含むことが好ましい。以下、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる工程と、前記水酸化ニッケルの沈殿をろ過、乾燥する工程とについて説明する。
【0022】
<水酸化ニッケルの沈殿を析出させる工程>
本工程においては、ニッケル塩の水溶液およびpHが12以上であるアルカリ水溶液を準備した後、ニッケル塩をアルカリ水溶液に添加し、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる。
【0023】
まず、ニッケル塩を準備する。前記ニッケル塩は、特に制限されず、その具体的な例としては、例えば、酢酸ニッケル、蓚酸ニッケル、酪酸ニッケルなどの有機酸塩、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、リン酸ニッケルなどの無機酸塩などが挙げられる。これらは単独でも、または2種以上の組合せでも使用することができる。
【0024】
前記ニッケル塩の形態は、アルカリ水溶液中での反応を効率よく行うという観点、およびニッケル塩の添加速度を制御するという観点から、水溶液の形態であることが好ましい。
【0025】
前記ニッケル塩の水溶液を用いる場合、その濃度は、アルカリ性水溶液中へのニッケルイオンの拡散および加水分解されて水酸化ニッケルが析出してくる速度の兼ね合い、および生産性の観点から、0.001〜0.5mol/lであることが好ましく、0.01〜0.2mol/lであることがより好ましい。
【0026】
次に、pHが12以上であるアルカリ水溶液を準備する。pHが12未満の場合、高い比表面積を有する水酸化ニッケルを得ることができない場合がある。前記pHは、好ましくは13以上である。
【0027】
前記アルカリ水溶液に含まれる化合物は、pHが12以上となるように水溶液を調製することができれば、その種類は特に制限されない。化合物の具体的な例としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、またはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)などが挙げられる。これらは単独でも、または2種以上の組合せでも使用することができる。
【0028】
前記アルカリ水溶液の濃度は、加水分解速度の観点から、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。
【0029】
次に、ニッケル塩をpHが12以上であるアルカリ水溶液に添加し、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる。
【0030】
前記ニッケル塩と前記アルカリ水溶液との混合比は、ニッケル塩の加水分解の速度および加水分解反応の収率という観点から、化学量論比でニッケルイオン1に対して、水酸化物イオンが好ましくは2〜20、より好ましくは5〜10である。
【0031】
前記ニッケル塩の水溶液を前記アルカリ水溶液に添加する場合、高い比表面積を有する水酸化ニッケルを得るという観点から、ゆっくりと添加することが好ましい。具体的には、前記ニッケル塩の水溶液の添加速度は、0.1〜10.0ml/分であることが好ましく、0.5〜5.0ml/分であることがより好ましく、1.0〜2.0ml/分であることがさらに好ましい。前記添加速度が0.1ml/分未満である場合、製造工程に時間がかかり過ぎて、水酸化ニッケルの生産性が低下する場合がある。また、添加速度が10.0ml/分を超える場合、高い比表面積を有する水酸化ニッケルが得られない場合がある。
【0032】
前記ニッケル塩の水溶液の添加方法は、添加速度が前記範囲にあれば特に制限されず、ニッケル塩の水溶液の液滴を間欠的に添加してもよいし、液滴を連続的に添加してもよい。
【0033】
前記ニッケル塩の水溶液を添加した後、加水分解反応を終結させるという観点から、ニッケル塩の水溶液とアルカリ水溶液との混合物は静置するほうが好ましい。静置温度は特に制限さないが、均一に加水分解反応が起こるようにするという観点から、10〜30℃であることが好ましく、15〜25℃であることがより好ましい。また、静置時間も特に制限されないが、加水分解反応を終結させるという観点や、静置中に起こる水酸化ニッケルの粒子同士の凝集を防ぐという観点から、0.5〜24時間であることが好ましく、0.8〜12時間であることがより好ましく、1〜5時間であることがさらに好ましい。
【0034】
<水酸化ニッケルの沈殿をろ過、乾燥する工程>
本工程では、上記工程で得られた水酸化ニッケルの沈殿をろ過し、その後沈殿に含まれている水分を乾燥させて、高比表面積水酸化ニッケルを得る。水酸化ニッケルの沈殿のろ過方法は特に制限されず、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過など従来公知の方法が適宜採用されうる。ろ過後の乾燥方法も特に制限されず、オーブンを用いる乾燥、減圧乾燥機を用いる乾燥、ホットプレートを用いる乾燥、ドライヤーを用いる乾燥など、従来公知の方法が適宜採用されうる。また、この段階で、水酸化ニッケルが十分に乾燥されていなくても後工程で乾燥を行えばよいため、水分を完全に乾燥させる必要はない。ただし、この後の水熱処理の工程で、水酸化ニッケルと水との混合比を制御するという観点から、前記水酸化ニッケル中の水分の含有量の制御を行うほうが好ましい。
【0035】
乾燥温度は特に制限されないが、水酸化ニッケルの酸化ニッケルへの変化を防ぐという観点から、好ましくは10〜180℃であり、より好ましくは60〜120℃である。また、乾燥時間も特に制限されないが、粒子の凝集を防ぐという観点および生産性の観点から、好ましくは3〜48時間であり、より好ましくは6〜24時間である。
【0036】
上記のようにして、高い比表面積を有する水酸化ニッケルを得ることができる。
【0037】
また、上述したように、本工程で得られる高比表面積水酸化ニッケルの結晶構造はβ型であることが好ましい。
【0038】
[水酸化ニッケルを水に分散させ水熱処理する工程]
続いて、前記水酸化ニッケルを水に分散させ、水熱処理を行う。
【0039】
高比表面積を有する水酸化ニッケルを分散させるために用いる水の量は特に制限されな
い。ただし、高比表面積を有する水酸化ニッケルの溶解と再析出とに伴ってヘキサゴナルプレート構造が形成されると考えられる。本工程において用いる水の量があまりに少ないと、ヘキサゴナルプレートの構造が十分に発達しない可能性があり、逆に多い場合には単なる微粒子になってしまう可能性がある。こうした観点から、本工程において用いる水の量は、質量比で水酸化ニッケル1に対して、好ましくは10〜500であり、より好ましくは50〜200である。
【0040】
電池の正極材料としてβ型水酸化ニッケルを用いる場合、水酸化ニッケルの層間に水素イオンが出入りするが、水熱処理の工程で層間に各種のイオンまたは分子を挿入することが可能であるため、水熱処理に用いる水には、適量のアンモニアや炭酸イオンなどの化学種を共存させてもよい。前記のような化学種を共存させることにより、前記化学種が水酸化ニッケルの層間に入り込み、水酸化ニッケルの層間距離を制御することが可能になる。これにより、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートに対して種々のイオンが取り込まれやすくなる。この際、前記のような化学種の添加量は、水酸化ニッケル100モル%に対して、5〜100モル%であることが好ましい。ただし、β型水酸化ニッケルが溶解するようなpH領域になる条件や、化学種が水酸化ニッケルの層間に入り込んで、層と層を剥離させてしまうような条件は選択しないことが好ましい。
【0041】
水熱温度は、150℃を超え230℃の範囲である。水熱温度が150℃以下である場合、最終的に得られる水酸化ニッケルの構造はナノシート型となる。水熱温度が230℃を超える場合、水酸化ニッケルが分解して酸化ニッケルとなる。該水熱温度は、好ましくは180〜220℃である。また、水熱時間は、好ましくは3〜340時間であり、より好ましくは6〜170時間である。水熱時間が3時間未満の場合、水熱処理による六角板状結晶の成長が十分でなく、ヘキサゴナルプレートの構造になりにくい場合がある。また、水熱時間が340時間を超える場合、生産性が低下するとともに、粒子間の強い凝集が起こる場合がある。
【0042】
水熱処理の方法は特に制限されず、例えばオートクレーブなどの密閉容器を用いて行う方法など、従来公知の方法が適宜採用されうる。
【0043】
本工程により、水酸化ニッケルはヘキサゴナルプレートの形状を有するようになる。また、本工程により、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、集合または凝集して集合体となりうる。
【0044】
[水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程]
次に、水熱処理後に得られた生成物をろ過し、その後生成物に含まれている水分を乾燥させて、本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを得る。水熱処理後に得られた生成物のろ過方法は特に制限されず、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過など従来公知の方法が適宜採用されうる。ろ過後の乾燥方法も特に制限されず、オーブンを用いる乾燥、減圧乾燥機を用いる乾燥、ホットプレートを用いる乾燥、ドライヤーを用いる乾燥など、従来公知の方法が適宜採用されうる。
【0045】
乾燥温度は特に制限されないが、水酸化ニッケルの酸化ニッケルへの変化を防ぐという観点から、好ましくは10〜180℃であり、より好ましくは60〜120℃である。また、乾燥時間も特に制限されないが、粒子の凝集を防ぐという観点および生産性の観点から、好ましくは3〜48時間であり、より好ましくは6〜24時間である。
【0046】
本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、その性能を低下させない範囲で、他の成分を含むことができる。前記他の成分の具体的な例としては、例えば、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、または鉄(Fe)などが
挙げられる。これらの成分は、いずれの元素の場合も水酸化物または酸化物の状態で含まれる。
【0047】
本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、様々な用途に用いることができ、下記のような効果が期待できる。
【0048】
(1)アルカリ一次電池、アルカリ二次電池、ニッケル−水素二次電池、またはニッカド(ニッケル−カドミウム)電池、ニッケル−鉄電池などの各種電池の電極材料として本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを用いた場合、得られる電極は性能が格段に向上したものとなり得、各種電池の高性能化が実現されうる。
【0049】
(2)本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを含む電気抵抗体やキャパシタは、従来に比べて物質移動が容易になり、電極の利用効率の飛躍的な上昇をもたらすことが期待される。
【0050】
(3)本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを含む導電性ペーストは、従来の材料に比べてより均質な導電性ペーストとなりうる。
【0051】
また、この他にも、本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートは、マイクロリアクターの構成部材、電子貯蔵材料などの用途に用いることができる。
【実施例】
【0052】
本発明を、下記の実施例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、比表面積、細孔容積、および平均細孔径を求めるための窒素吸着・脱離等温線は、トライスター3000(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。また、細孔径分布の解析にはBJH法を用いた。
【0053】
(実施例1)
濃度0.1mol/lの塩化ニッケル(NiCl2)水溶液100mlを、濃度1質量
%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(pH13.0)1000mlに、1.5ml/minの速度でビュレットを用いて滴下し、室温(20℃)で1時間静置した。次いで、得られた淡緑色の沈殿をろ過、乾燥して粉末状試料を得た。得られた粉末状試料の比表面積は、227m2/gであった。前記粉末状試料0.2gを20mlの水に分
散させて密閉容器に移し、密閉した状態で200℃まで昇温して、そのまま12時間処理した。得られた生成物をろ過し、オーブンを用い60℃で乾燥させ淡緑色の粉末を得た。
【0054】
図1は、実施例1で最終的に得られた淡緑色の粉末を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。図1Aは倍率5万倍、図1Bは倍率2万倍、図1Cは倍率1万倍である。図1A〜図1Cより、最終的に得られた淡緑色の粉末が、厚さが20〜500nmである水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートが集合した水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体であることが確認された。また、図1A〜図1Cからわかるように、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体を形成する水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの多くは、その側面が外側に向いた形状になっている。二次電池の充放電の鍵となる水素イオンの出入りは、この側面で起こると考えられる。よって、この形状からも、本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートが、二次電池の正極活物質として極めて有用であることが示唆される。
【0055】
図2の上段は、実施例1で得られた本発明の水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体の窒素吸着・脱離等温線であり、図2の下段は、図2の上段の窒素吸着・脱離等温線を解析して得られた細孔径分布曲線である。前記窒素吸着・脱離等温線から算出した水酸
化ニッケルヘキサゴナルプレートの比表面積は39m2/gであり、前記細孔径分布曲線
から得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートのBJH法による細孔径分布曲線から求めた平均細孔径は19.6nmであった。
【0056】
図3は、実施例1の水熱処理を行う前に得られる中間生成物のX線回折チャート(図3の(a))、100℃で水熱処理して得られる水酸化ニッケルナノシートのX線回折チャート(図3の(b))、および実施例1で得られた最終生成物である水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体のX線回折チャート(図3の(c))をそれぞれ示したものである。実施例1で得られる中間生成物のX線回折チャート(a)は、100℃で水熱処理して得られる水酸化ニッケルナノシート集合体のX線回折チャート(b)とほぼ一致し、結晶構造のみならず、X線回折チャートから読み取れる微細構造にもほとんど変化がないことがわかる。実施例1で得られた最終生成物である水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体のX線回折チャート(c)は、図3の(a)のチャートと比較すると、結晶構造が変化していないことがわかるが、すべてのピークがシャープになって半値幅が減少している。特に、(001)面、(101)面、(102)面、および(111)面に帰属されるピークの半値幅が大幅に減少することがわかった。このことは、すべての結晶面が成長しており、特に上記の4面の成長が著しいことを示唆している。また、最終的に得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体のX線回折チャート(c)の分析結果から、結晶構造がβ型であることがわかる。
【0057】
(実施例2)
濃度0.1mol/lの塩化ニッケル(NiCl2)水溶液100mlを、濃度1質量
%の水酸化ナトリウム水溶液(pH13.0)1000mlに、1.5ml/minの速度でビュレットを用いて滴下し、室温(20℃)で1時間静置した。次いで、得られた淡緑色の沈殿をろ過、乾燥して粉末状試料を得た。得られた粉末状試料の比表面積は、227m2/gであった。この粉末状試料0.2gを20mlの水に分散させて密閉容器に移
し、密閉した状態で200℃まで昇温して、そのまま170時間反応させた。得られた生成物をろ過し、オーブンを用い60℃で乾燥させて淡緑色の粉末を得た。
【0058】
走査型電子顕微鏡による観察を行い(図4A〜図4D参照)、最終的に得られた粉末は、厚さ20〜500nmの水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートが集合した水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体であることが確認された。また、最終的に得られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体の比表面積は27m2/gであり、最終的に得
られた水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの集合体のBJH法による細孔径分布曲線から求めた平均細孔径は23.6nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下して水酸化ニッケルを合成する工程と、
水酸化ニッケルを水に分散させ150℃を超え230℃以下の温度で水熱処理する工程と、
水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程と、
を含む、水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの製造方法。
【請求項2】
前記水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートの結晶構造がβ型であり、厚さが20〜500nmであり、かつ少なくとも1辺の長さが0.05μm〜5μmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを含む電池用電極。
【請求項4】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを含む電気抵抗体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを含むキャパシタ。
【請求項6】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された水酸化ニッケルヘキサゴナルプレートを含む導電性ペースト。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公開番号】特開2013−75826(P2013−75826A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−285129(P2012−285129)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2008−203377(P2008−203377)の分割
【原出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】