説明

水酸化マグネシウム系粉体とその製造方法、及び樹脂組成物と成形体

【課題】 エステル系樹脂に配合した際に樹脂を加水分解しない、水酸化マグネシウム系粉体を提供する。
【構成】 BET比表面積が0.1m2/g以上1m2/g未満で、平均粒子径が5μm超20μm以下、 X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上の合成水酸化マグネシウム粒子に、Si化合物とAl化合物との混合被覆層を、SiO2とAl2O3換算の合計量で水酸化マグネシウム100質量%に対して、0.2〜10質量%の割合で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル系樹脂等に配合する水酸化マグネシウム系粉体やその製造方法、及び得られた樹脂組成物や成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル結合を有する合成樹脂(以下エステル系樹脂)には、ポリ乳酸樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等があり、エステル結合を有する合成エラストマーも含まれる。ところでノンハロゲン難燃剤や耐トラッキング剤には、一般に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが使用されているが、水酸化アルミニウムは樹脂の高温加工時の脱水分解による発泡が懸念される。また、アルカリ表面を有さないシリカは、エステル系樹脂の耐加水分解性は良いが、難燃剤や耐トラッキング剤としては、効果を発揮しない。次に発明者は、水酸化マグネシウムをエステル系樹脂に配合すると、水酸化マグネシウム表面がアルカリ性のため、樹脂を加水分解することがあることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の基本的課題は、エステル系樹脂を加水分解しない水酸化マグネシウム系粉体とその製造方法、及びこの水酸化マグネシウム系粉体を配合した樹脂組成物と成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明の水酸化マグネシウム系粉体は、BET比表面積が0.1m2/g以上1m2/g未満で、平均粒子径が5μm超20μm以下、 X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上の合成水酸化マグネシウム粒子に、Si化合物とAl化合物との混合被覆層を、SiO2とAl2O3換算の合計量で水酸化マグネシウム100質量%に対して、0.2〜10質量%の割合で形成したものである。
好ましくは、水酸化マグネシウム系粉体は、BET比表面積が0.1m2/g〜0.8m2/g、平均粒子径が5.5μm〜20μmとする。
なおこの明細書で、水酸化マグネシウム系粉体に関する記載は、文脈上不自然でない限り、その製造方法や樹脂組成物及び成形体にもそのまま当てはまる。
【0005】
好ましくは、前記Si化合物とAl化合物の混合被覆層を形成した水酸化マグネシウム粒子が、さらに硬化油、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、シリコンオイル、リン酸エステル、界面活性剤、高分子凝集剤の少なくとも1種により、水酸化マグネシウム100質量%に対して0.1〜10質量%の割合で表面処理されている。
【0006】
また好ましくは、前記Si化合物はケイ酸ソーダ、コロイダルシリカおよびこれらの前駆体からなる群の少なくとも1種の化合物であり、前記Al化合物は塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ソーダ、アルミナゾルおよびこれらの前駆体からなる群の少なくとも1種の化合物である。
【0007】
この発明の水酸化マグネシウム系粉体の製造方法では、
水酸化マグネシウム粒子の原料として、水酸化マグネシウムあるいは酸化マグネシウムの水懸濁液、もしくは、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムあるいは硝酸マグネシウムの水溶液を用い、
該水酸化マグネシウム粒子の原料が、水酸化マグネシウムあるいは酸化マグネシウムの水懸濁液の場合は、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムを、OH-/Mg2+のモル比で5以上添加して湿式粉砕し、
該水酸化マグネシウム粒子の原料が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムあるいは硝酸マグネシウムの水溶液の場合は、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムを、OH-/Mg2+のモル比で5以上添加し、
何れの場合も、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムの添加後に、200〜270℃で水熱処理することにより、
BET比表面積が0.1m2/g以上1m2/g未満で、平均粒子径が5μm超20μm以下、 X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上の合成水酸化マグネシウム粒子とし、
得られた合成水酸化マグネシウムを表面処理し、Si化合物とAl化合物との混合被覆層を、SiO2とAl2O3換算の合計量で水酸化マグネシウム100質量%に対して、0.2〜10質量%の割合で形成する。
【0008】
またこの発明の樹脂組成物は、エステル結合を有する合成樹脂100質量部に対し、請求項1〜3のいずれかに記載の水酸化マグネシウム系粉体を5〜500質量部配合したものである。
またこの発明は、請求項5に記載の樹脂組成物の成形体にある。
【発明の効果】
【0009】
水酸化マグネシウム粒子のBET比表面積は0.1m2/g以上で1m2/g未満に限られ、好ましくは0.1m2/g〜0.8m2/gとする。BET比表面積が0.1m2/g未満の場合は、充分な難燃性が得られない。逆に、1m2/g以上の場合は、表面処理剤による均一な被覆が施されないため、水酸化マグネシウム粒子のpHが高く、水酸化マグネシウム表面のアルカリ性によってエステル系樹脂が加水分解してしまい、樹脂組成物のハンドリングが低下し、樹脂本来の特性(耐衝撃性等)の低下も懸念される。また、耐酸性も低い。
【0010】
水酸化マグネシウム粒子の平均粒子径は5μm超で20μm以下に限られ、好ましくは5.5μm〜20μmとする。平均粒子径が20μmを超える場合は、充分な難燃性が得られず、逆に、5μm以下の場合は、表面処理剤による均一な被覆が施されないためpHが高く、水酸化マグネシウム表面のアルカリ性によって、エステル系樹脂が加水分解してしまい、樹脂組成物のハンドリングが低下し、樹脂本来の特性(耐衝撃性等)の低下も懸念される。また、耐酸性も低い。
【0011】
X線回折における[101]/[001]ピーク強度比は0.9以上に限られる。X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.9未満の場合は、表面処理剤による均一な被覆が施されないためpHが高く、水酸化マグネシウム表面のアルカリ性によって、エステル系樹脂が加水分解してしまい、樹脂組成物のハンドリングが低下し、樹脂本来の特性(耐衝撃性等)の低下も懸念される。また、耐酸性も低い。
【0012】
表面処理については、シリカとアルミナを混合した無機物で水酸化マグネシウム粒子を予め表面処理すれば、エステル系樹脂の耐加水分解性や耐トラッキング性が向上する。さらに耐酸性、加工性、金型離型性等を向上させる目的で、Si化合物とAl化合物との混合被覆層の上に、硬化油、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、シリコンオイル、リン酸エステル、界面活性剤、高分子凝集剤の少なくとも1種で表面処理してもよい。
【0013】
硬化油としては、牛脂硬化油、ヒマシ硬化油等がある。
脂肪酸エステルとしては、例えば多価アルコールの脂肪酸エステルや高級脂肪酸エステルがある。多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、グリセリン−モノステアレート、グリセリン−ジステアレート、グリセリン−モノオレート、グリセリン−ジオレート、が挙げられる。高級脂肪酸エステルとしてはステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等のメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル、ラウリルエステル、ステアリルエステル、ベヘニルエステル等が挙げられる。
【0014】
シリコンオイルとしては、未変性シリコンオイルと変性シリコンオイルがある。未変性シリコンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基であるメチルフェニルシリコンオイル、ポリシロキサンの側鎖の一部が水素原子であるメチルハイドロジェエンシリコンオイル等が挙げられる。また、変性シリコンオイルとしてはとしては、アルコキシ変性、アミノ変性、カルボキシ変性、エポキシ変性、シラザン変性、フェノール変性、カルビノール変性、メタクリル変性、メルカプト変性、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性、親水性特殊変性等が挙げられる。上記シリコンオイルは、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
シランカップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ系、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等のビニル系、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ系、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系がある。上記シランカップリング剤は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
リン酸エステルとしては、モノ及びジ−飽和アルコールのリン酸エステル、例えば、モノ−ステアリルアシッドホスフェイト、ジ−ステアリルアシッドホスフェイト、モノ−ラウリルアシッドホスフェイト、ジ−ラウリルアシッドホスフェイト、モノ−ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−ミリスチルアシッドホスフェイト、モノ−パルミチルアシッドホスフェイト、ジ−パルミチルアシッドホスフェイト、モノ−アラキルアシッドホスフェイト、ジ−アラキルアシッドホスフェイト、モノ−ベヘルアシッドホスフェイト、ジ−ベヘルアシッドホスフェイト、モノ−リグノセリルアシッドホスフェイト、ジ−リグノセリルアシッドホスフェイトやその金属塩(Na、K、Al、Ca、Mg、Zn、Ba)等があり、モノ及びジ−飽和アルコールのリン酸エステルの1種類もしくはそれらの混合物を使用しても良い。
【0017】
界面活性剤 としては、例えば、アニオン系のステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩、ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エステル結合硫酸エステル塩、エステル結合スルホネート、アミド結合スルホン酸塩、エーテル結合スルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリルスルホン酸塩、エステル結合アルキルアリルスルホン酸塩、アミド結合アルキルアリルスルホン酸塩等や、非イオン系のグリセリン脂肪酸エステルまたはソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0018】
高分子凝集剤は、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の3種類に大別される。ノニオン系高分子凝集剤は、例えばポリアクリルアミド等が挙げられる。アニオン系高分子凝集剤は、例えばアクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物等が挙げられる。カチオン系高分子凝集剤は、例えばアクリルアミド・ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩の共重合物等が挙げられる。
【0019】
この発明の水酸化マグネシウム系粉体をエステル系樹脂に配合すると、優れた難燃性が得られると共に、エステル系樹脂を加水分解することが無く、従って樹脂本来の特性を活かすことができ、また樹脂組成物のハンドリング性も低下せず、さらに耐酸性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
水酸化マグネシウム粒子をSi化合物とAl化合物の混合被覆層で被覆したサンプル粉末を製造した後、エステル結合を有する樹脂に配合して、樹脂組成物にする場合の樹脂の加水分解性を調べた。さらに、この樹脂組成物を成形する場合のハンドリング性や成形体の難燃性および耐トラッキング性を評価した。
【0022】
実施例1
サンプル粉末の製造
BET比表面積が30m2/g、平均粒子径が5.3μmの水酸化マグネシウム100gが含まれる水懸濁液に、NaOHフレークを800g添加して(OH-/Mg2+モル比=11.7)、さらに純水を加えて1.5Lの液量に調整した。これに直径3mmのジルコニアボールを1kg投入して、攪拌下に回転数650rpmで15分間湿式粉砕した。その後、懸濁液よりジルコニアボールを取り除いて、2L容量ニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で270℃、10時間の水熱処理を行った。水熱処理後のスラリーを真空ろ過後、固形分に対し20倍容以上の水で充分洗浄した。その後、再び水に戻して乳化し、室温、攪拌下にて、アルミン酸ナトリウム及びコロイダルシリカの混合水溶液を固形分に対し、Al2O3換算で1質量%およびSiO2換算で1質量%添加して1時間表面被覆処理した。その後、真空ろ過、水洗(固形分に対して20倍容以上)、乾燥、粉砕して水酸化マグネシウム系粉体のサンプル粉末を得た。Si化合物やAl化合物の存在形態は主としてSiO2とAl2O3あるいはこれらの水酸化物である。以下この試料を実施例1とする。
【0023】
難燃性樹脂組成物および成形体の製造
ポリ乳酸樹脂100質量部に対し、前記したサンプル粉末100質量部を配合して混合した後に、ラボプラストミル(東洋精機株式会社製)を用いて、180℃で5分間、回転数50rpmで混練し、150℃で金型プレス成形を行い、酸素指数法による燃焼試験用の成形体A-1号形(長さ150mm、幅6.5mm、厚さ3mm)を得た。難燃性樹脂成形体の製造条件は、以下共通である。
【0024】
耐トラッキング性樹脂組成物および成形体の製造
PBT樹脂100質量部に対し、前記したサンプル粉末30質量部を配合して混合した後に、ブレンダーで20分混合した後、射出成形機にて340℃で長さ100mm、幅100mm、厚さ3mmのシートを成形した。耐トラッキング性樹脂成形体の製造条件は、以下共通である。
【0025】
分析・評価方法
サンプル粉末、樹脂組成物および成形体について、以下のようにして分析および評価を行った。実施例1および後述の実施例2〜10について結果を表1に示し、後述の各比較例について結果を表2に示す。
【0026】
BET比表面積、平均粒子径および[101]/[001]ピーク強度比の測定
サンプル粉末のBET比表面積は、試料粉末を窒素吸着法によって測定し、粒度分布は、試料粉末をエタノールに懸濁させ、超音波で3分間分散処理した後に、レーザー回折法により測定した。また、X線回折における[101]/[001]ピーク強度比は、理学電気株式会社製X線回折装置(CuのKα線、40kV、50mA)を用い、[101]のピーク強度(2θ=38.0°)及び[001]のピーク強度(2θ=18.6°)を測定して求めた。
【0027】
サンプル粉末のpHおよび耐酸性評価
サンプル粉末のpHおよび耐酸性試験は、電位差滴定法を用いた。即ち、実施例1で調製したサンプル粉末1.0gを、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(n=25)の0.1質量%水溶液100ml中に添加し、スターラーで5分間攪拌後、超音波で10分間分散処理して懸濁液を調製した。この懸濁液を恒温槽で25℃に保持し、N2ガスでバブリングしながら、自動滴定装置(京都電子工業株式会社製AT-400)を用いて、0.1mol/L硝酸水溶液を0.1ml/min(水酸化マグネシウム1molに対して、水素イオンとして0.6mmol/min)の速度で滴下し、ガラス電極を用いて滴定溶液中のpHを測定することにより、滴定曲線を得た。硝酸滴下前のpHはサンプル粉末本来のpHを意味し、このpHが低い程、水酸化マグネシウムのアルカリ表面が表面処理剤で緻密に被覆されており、結果的に樹脂の耐加水分解性を効率的に抑制する。硝酸滴下前のpHは7.0以下であることが好ましい。一方、硝酸10ml滴下後のpHは粉末の耐酸性を示しており、硝酸10ml滴下後のpHは3.0以下であると耐酸性が高く、好ましい。
【0028】
樹脂の加水分解性評価
前記したポリ乳酸樹脂とサンプル粉末をラボプラストミルで混練する際の混練トルクを測定し、ポリ乳酸樹脂の加水分解性を評価した。加水分解が進行すると、樹脂そのものの混練トルクよりも樹脂組成物の混練トルクが低下して、樹脂組成物が液状になる。具体的には、混練開始時から5分後のトルクが、19N・m以上なら加水分解は進行しておらず○とし、19N・m以下なら加水分解が進行しており×とした。
【0029】
樹脂組成物のハンドリング性評価
前記したポリ乳酸樹脂あるいはPBT樹脂とサンプル粉末を配合した樹脂組成物の成形時のハンドリング性を評価した。樹脂の加水分解が進行したものは、高温での樹脂組成物が液状となり、チキソ性が高く、ハンドリング性が悪化する。ハンドリング性が良いものは○、ハンドリング性が悪いものは×とした。
【0030】
成形体の酸素指数
前記したポリ乳酸樹脂組成物の成形体について、JISK 7201に準拠して酸素指数を測定した。酸素指数が高いと難燃性が高いことを意味し、例えば、前記の配合において、UL-94規格の垂直燃焼試験(V-1)に合格できる酸素指数の目安としては、38.0以上であることが好ましい。
【0031】
成形体の耐トラッキング性
前記したPBT樹脂組成物の成形体について、IEC60112に準拠して相対トラッキング指数(CTI値)を測定した。CTI値は発火に至るまでの電圧を表し、数値が大きいほど電気特性が良好で、絶縁性が高く発火しにくい材料であるので好ましい。
【0032】
実施例2
MgCl2・6H2Oを360g秤量し、純水1Lを加えて攪拌し、MgCl2水溶液を調製した。このMgCl2水溶液を攪拌下に、NaOHフレークを790g添加し(OH-/Mg2+モル比=11.2)、さらに純水を加え、1.5Lのサスペンジョンを調製した。このサスペンジョンを2L容量ニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で250℃、10時間の水熱処理を行った。水熱処理後のスラリーを真空ろ過後、固形分に対し20倍容以上の水で充分洗浄した。その後、再び水に戻して乳化し、室温、攪拌下にて、アルミナゾル及び珪酸ソーダの混合水溶液を水酸化マグネシウム換算固形分に対し、Al2O3換算で1質量%およびSiO2換算で1質量%添加して1時間表面被覆処理した以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0033】
実施例3
BET比表面積が40m2/g、平均粒子径が3.2μmの酸化マグネシウム69gと、LiOH・H2Oを400g添加して(OH-/Mg2+モル比=5.6)、水を加えて1.5L液量に調整した。これに直径3mmのジルコニアボールを1kg投入して、攪拌下に回転数650rpmで15分間湿式粉砕した。その後、懸濁液よりジルコニアボールを取り除いて、2L容量ニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で200℃、10時間の水熱水和反応を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0034】
実施例4
実施例1でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面被覆処理した液を80℃に加温後、さらに温度80℃で濃度1質量%の牛脂硬化油水懸濁液を用いて、牛脂硬化油を固形分に対して1質量%添加して表面処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0035】
実施例5
実施例1でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面被覆処理した液を80℃に加温後、さらに温度80℃で濃度1質量%のステアリン酸モノグリセライド水懸濁液を用いて、ステアリン酸モノグリセライドを固形分に対して1質量%添加して表面処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0036】
実施例6
実施例1でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面被覆処理した液を80℃に加温後、さらに温度80℃で濃度1質量%のモノステアリル燐酸ナトリウムとジステアリル燐酸ナトリウム混合物水溶液を用いて、モノステアリル燐酸ナトリウムとジステアリル燐酸ナトリウム混合物を固形分に対して1質量%添加して表面処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0037】
実施例7
実施例1でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面被覆処理した液に、さらに酢酸でpH=3に調製した濃度1質量%のγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン水溶液を用いて、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを固形分に対して1質量%添加して表面処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0038】
実施例8
実施例1でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面処理した液に、さらにメチルハイドロジェンシリコンオイルを用いて、メチルハイドロジェンシリコンオイルを固形分に対して1質量%添加して表面処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0039】
実施例9
実施例1でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面被覆処理した液に、さらにアクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物を用いて、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物を固形分に対して1質量%添加して表面処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0040】
比較例1
BET比表面積が40m2/g、平均粒子径が3.2μmの酸化マグネシウム69gと、LiOH・H2Oを150g添加して(OH-/Mg2+モル比=2.1)、水を加えて1.5L液量に調整した。これに直径3mmのジルコニアボールを1kg投入して、攪拌下に回転数650rpmで15分間湿式粉砕した。その後、懸濁液よりジルコニアボールを取り除いて、2L容量ニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で190℃、10時間の水熱水和反応を行った以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0041】
比較例2
BET比表面積が2.5m2/g、平均粒子径が13.7μm、X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.21の天然ブルーサイト粉砕品100gを純水1Lに攪拌下に懸濁した。この懸濁液に、室温、攪拌下にて、アルミン酸ナトリウム及びコロイダルシリカの混合水溶液を固形分に対し、Al2O3換算で1質量%およびSiO2換算で1質量%添加して1時間表面被覆処理した液を80℃に加温後、さらに温度80℃で濃度1質量%の牛脂硬化油水懸濁液を用いて、牛脂硬化油を固形分に対して1質量%添加して表面処理を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0042】
比較例3
MgCl2・6H2Oを360g秤量し、純水1Lを加えて攪拌し、MgCl2水溶液を調製した。このMgCl2水溶液を攪拌下に、8.3NのNaOH水溶液を383mL添加し(OH-/Mg2+モル比=1.8)、さらに純水を加え、1.5Lのサスペンジョンを調製した。このサスペンジョンを2L容量ニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で140℃、5時間の水熱処理を行った。水熱処理後のスラリーを真空ろ過後、固形分に対し20倍容以上の水で充分洗浄した。その後、再び水に戻して乳化し、室温、攪拌下にて、アルミン酸ナトリウム及びコロイダルシリカの混合水溶液を固形分に対し、Al2O3換算で1質量%およびSiO2換算で1質量%添加して1時間表面被覆処理し、さらにメチルハイドロジェンシリコンオイルを用いて、メチルハイドロジェンシリコンオイルを固形分に対して1質量%添加して表面処理を行いサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0043】
比較例4
表面被覆処理をしなかった以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0044】
比較例5
実施例5でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面被覆処理しなかった以外は(ステアリン酸モノグリセライドでのみ表面処理した)、実施例5と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0045】
比較例6
実施例9でアルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカの混合水溶液で表面被覆処理しなかった以外は(アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物でのみ表面処理した)、実施例9と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0046】
比較例7
比較例7のサンプル粉末は、市販の亜鉛固溶型複合水酸化マグネシウム(ZnO含有量で25質量%)を用いて樹脂組成物の成形体を製造した以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0047】
比較例8
比較例8のサンプル粉末は、市販の球状シリカ(電気化学株式会社製FB-910) を用いて樹脂組成物の成形体を製造した以外は、実施例1と同様な操作を行ってサンプル粉末および成形体を製造し、分析および評価を行った。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が0.1m2/g以上1m2/g未満で、平均粒子径が5μm超20μm以下、 X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上の合成水酸化マグネシウム粒子に、Si化合物とAl化合物との混合被覆層を、SiO2とAl2O3換算の合計量で水酸化マグネシウム100質量%に対して、0.2〜10質量%の割合で形成した水酸化マグネシウム系粉体。
【請求項2】
前記Si化合物とAl化合物の混合被覆層を形成した水酸化マグネシウム粒子が、さらに硬化油、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、シリコンオイル、リン酸エステル、界面活性剤、高分子凝集剤の少なくとも1種により、水酸化マグネシウム100質量%に対して0.1〜10質量%の割合で表面処理されていることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム系粉体。
【請求項3】
前記Si化合物はケイ酸ソーダ、コロイダルシリカおよびこれらの前駆体からなる群の少なくとも1種の化合物であり、前記Al化合物は塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ソーダ、アルミナゾルおよびこれらの前駆体からなる群の少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム系粉体。
【請求項4】
水酸化マグネシウム粒子の原料として、水酸化マグネシウムあるいは酸化マグネシウムの水懸濁液、もしくは、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムあるいは硝酸マグネシウムの水溶液を用い、
該水酸化マグネシウム粒子の原料が、水酸化マグネシウムあるいは酸化マグネシウムの水懸濁液の場合は、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムを、OH-/Mg2+のモル比で5以上添加して湿式粉砕し、
該水酸化マグネシウム粒子の原料が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムあるいは硝酸マグネシウムの水溶液の場合は、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムを、OH-/Mg2+のモル比で5以上添加し、
何れの場合も、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムの添加後に、200〜270℃で水熱処理することにより、
BET比表面積が0.1m2/g以上1m2/g未満で、平均粒子径が5μm超20μm以下、 X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上の合成水酸化マグネシウム粒子とし、
得られた合成水酸化マグネシウムを表面処理し、Si化合物とAl化合物との混合被覆層を、SiO2とAl2O3換算の合計量で水酸化マグネシウム100質量%に対して、0.2〜10質量%の割合で形成する、水酸化マグネシウム系粉体の製造方法。
【請求項5】
エステル結合を有する合成樹脂100質量部に対し、請求項1〜3のいずれかに記載の水酸化マグネシウム系粉体を5〜500質量部配合したことを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物の成形体。

【公開番号】特開2007−261923(P2007−261923A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93009(P2006−93009)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】