説明

水酸化マグネシウム難燃剤及び難燃性ポリマー組成物

【課題】難燃性に優れ、樹脂やゴムなどのポリマーに容易に分散することができる水酸化マグネシウム難燃剤を得る。
【解決手段】(A)BET比表面積が10m/g未満であり、平均一次粒子径が0.5μm以上である水酸化マグネシウムと、(B)親油性の表面処理剤で表面処理した水酸化マグネシウムであって、BET比表面積が10m/g以上で、かつ水酸化マグネシウム(A)のBET比表面積の2.5倍以上であり、平均一次粒子径が0.4μm以下である水酸化マグネシウムとを、重量比(水酸化マグネシウム(A)/水酸化マグネシウム(B))で、10/90〜70/30となるように混合したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化マグネシウム難燃剤及びそれを含有した難燃性ポリマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水酸化物系の難燃剤には、主に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが用いられている。他にも、水酸化物としては、水酸化亜鉛、水酸化セリウム、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化チタン、水酸化バリウム、水酸化ベリリウム、水酸化マンガン、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ジルコニウムおよび水酸化ガリウムから選ばれる金属水酸化物などが挙げられるが、その脱水温度、燃焼時の吸収熱量、価格などから、難燃剤としては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが適当である。
【0003】
水酸化アルミニウム(Al(OH))は、構造水に富んで難燃効果に優れるばかりか耐酸性や耐アルカリ性にも優れ、コスト面でも有利であることから汎用されている。この水酸化アルミニウムの難燃特性については、脱水がおよそ200℃から徐々に始まり、230℃から250℃辺りで一気に脱水することが知られている。しかし、この脱水温度が低いことにより、熱可塑性樹脂などを加工する時の加工温度で脱水しやすく、樹脂成形品などの表面に凸凹が生じたり、燃焼時の難燃効果が低くなることがある。
【0004】
水酸化マグネシウム(Mg(OH))は、脱水温度のピークが約380℃と高く、また樹脂に配合したとき、燃焼時の発煙量が少なく、無毒である。また、水酸化マグネシウム粒子は、水酸化アルミニウム粒子にみられるような、樹脂の加工温度で、それ自体の一部が脱水分解し、樹脂成型体を発泡させるようなことがないため、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂など適応する樹脂の範囲は広い。
【0005】
難燃剤として使用されている水酸化マグネシウム粒子は、一般的に水熱処理工程を経て製造されているため、粒子が大きく、板状結晶のため、配向しやすい。水酸化マグネシウムを難燃剤として使用するためには、マトリックス中へ均一に分散させる必要があり、そのために粒子径を大きくし、分散しやすい状態にしている。
【0006】
しかし、近年、粒子径が小さい水酸化マグネシウムナノ粒子の開発などが進んでおり、その結果などについて報告されつつある。
【0007】
粒子が大きい水酸化マグネシウムについては、水熱反応で得た粒子にシリコーンなどで表面処理する方法が提案されている(特許文献1など)。実際に、現在難燃剤として使用されている大半の水酸化マグネシウムは、粒子が大きい水酸化マグネシウムである。
【0008】
粒子が小さい水酸化マグネシウムについては、リン酸塩、ホウ酸塩などを用いて水酸化マグネシウムを水熱処理して、微細な水酸化マグネシウムを得る方法(特許文献2)や、高純度の酸化マグネシウムを水和して微細な水酸化マグネシウムを生成させる方法(特許文献3)や、塩化マグネシウム溶液にアルカリを加えて粒子を生成させる方法(特許文献4)などが提案されている。
【0009】
しかしながら、さらに難燃性に優れ、樹脂やゴムなどのポリマー中に容易に分散させることができる水酸化マグネシウム難燃剤が求められている。
【特許文献1】特開2002−285162号公報
【特許文献2】特開2003−129056号公報
【特許文献3】特開2002−255544号公報
【特許文献4】特開平02−279515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、難燃性に優れ、樹脂やゴムなどのポリマー中に容易に分散させることができる水酸化マグネシウム難燃剤及びそれを用いた難燃性ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(A)BET比表面積が10m/g未満であり、平均一次粒子径が0.5μm以上である水酸化マグネシウムと、(B)親油性の表面処理剤で表面処理した水酸化マグネシウムであって、BET比表面積が10m/g以上で、かつ水酸化マグネシウム(A)のBET比表面積の2.5倍以上であり、平均一次粒子径が0.4μm以下である水酸化マグネシウムとを、重量比(水酸化マグネシウム(A)/水酸化マグネシウム(B))で、10/90〜70/30となるように混合したことを特徴としている。
【0012】
本発明の水酸化マグネシウム難燃剤は、難燃性に優れ、樹脂やゴムなどのポリマー中に容易に分散させることができる。
【0013】
本発明の水酸化マグネシウム難燃剤は、上記の水酸化マグネシウム(A)と、上記の水酸化マグネシウム(B)とを、上記所定の割合で混合したものであり、これにより、優れた難燃性が得られる。優れた難燃性が得られる理由の詳細については明らかではないが、一次粒子のサイズが異なる2種類の水酸化マグネシウムを混合することにより、これらの水酸化マグネシウムが含有されているポリマーが燃焼する際、水酸化マグネシウム粒子が細密充填構造に近い構造を形成し、これによって、燃焼熱が溶融及び気化して発生するガスの生成を抑制することができ、難燃性を向上させることができるものと思われる。
【0014】
水酸化マグネシウム(A)のBET比表面積は、10m/g未満であり、さらに好ましくは、1m/g以上10m/g未満であり、さらに好ましくは3〜9m/gの範囲である。
【0015】
水酸化マグネシウム(A)の平均一次粒子径は、0.5μm以上であり、さらに好ましくは0.5〜1.5μmの範囲であり、さらに好ましくは0.6〜1.0μmの範囲である。
【0016】
水酸化マグネシウム(B)のBET比表面積は、10m/g以上であり、さらに好ましくは10〜35m/gの範囲であり、さらに好ましくは15〜30m/gの範囲である。
【0017】
水酸化マグネシウム(B)の平均一次粒子径は、0.4μm以下であり、さらに好ましくは0.01〜0.4μmの範囲であり、さらに好ましくは0.05〜0.3μmの範囲である。
【0018】
水酸化マグネシウム(A)及び水酸化マグネシウム(B)のBET比表面積及び平均一次粒子径を、上記の範囲内とすることにより、優れた難燃性を得ることができる。
【0019】
なお、水酸化マグネシウム(B)のBET比表面積は、親油性の表面処理剤で表面処理された水酸化マグネシウムの状態で測定される値である。また、水酸化マグネシウム(A)のBET比表面積も、親油性の表面処理剤で表面処理されている場合、表面処理された水酸化マグネシウムのBET比表面積である。水酸化マグネシウム(B)の場合、微少粒子であるので、表面処理することにより表面処理前に比べBET比表面積は低くなる。しかしながら、水酸化マグネシウム(A)の場合には、表面処理前と表面処理後では、BET比表面積はほとんど同程度であるか、表面処理前に比べ若干低くなる程度である。
【0020】
また、水酸化マグネシウム(A)及び(B)の平均一次粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で測定することができるものであり、例えば、100個程度を測定した平均値として算出することができる。
【0021】
本発明においては、水酸化マグネシウム(B)のBET比表面積を、水酸化マグネシウム(A)のBET比表面積の2.5倍以上としている。BET比表面積を2.5倍以上とすることにより、優れた難燃性を得ることができる。
【0022】
本発明においては、水酸化マグネシウム(A)と水酸化マグネシウム(B)を、重量比(水酸化マグネシウム(A)/水酸化マグネシウム(B))で、10/90〜70/30の割合となるように混合している。このような範囲内とすることにより、優れた難燃性を得ることができる。混合割合としては、さらに20/80〜40/60の範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明において、水酸化マグネシウム(B)は、親油性の表面処理剤で表面処理されている。水酸化マグネシウム(B)は、粒子径が小さいものであるので、このように親油性の表面処理剤で表面処理することにより、樹脂やゴムなどのポリマー中に容易に分散させることができる。
【0024】
表面処理量としては、水酸化マグネシウム100重量部に対し、0.5〜20重量部の範囲であることが好ましく、0.5〜10重量部の範囲であることがさらに好ましい。表面処理量が少な過ぎると、ポリマー中で良好に分散させることができない場合がある。また、表面処理量が多過ぎると、ポリマー中の分散状態が処理量に対応して向上せず、経済的に不利なものとなる場合がある。
【0025】
本発明において、表面処理剤として用いることができるものは、高級脂肪酸類、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル類、脂肪酸と多価アルコールとのエステル類、及びカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。具体的なものとしては、以下のものが挙げられる。
【0026】
ステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸類;上記高級脂肪酸のアルカリ金属塩;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩;ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エステル結合硫酸エステル塩、エステル結合スルホネート、アミド結合スルホン酸塩、エーテル結合スルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリールスルホン酸塩、エステル結合アルキルアリールスルホン酸塩、アミド結合アルキルアリールスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤類;オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノまたはジエステルまたは両者の混合物であって、それらの酸型またはアルカリ金属塩またはアミン塩等のリン酸エステル類;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス−(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス−(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等のチタネート系カップリング剤類;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類、トリフェニルホスファイト、ジフェニル・トリデシルホスファイト、フェニル・ジトリデシルホスファイト、フェニル・イソデシルホスファイト、トリ・ノニルフェニルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル)−ジトリデシルホスファイト、トリラウリルチオホスファイト等、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールと脂肪酸のエステル類。
【0027】
本発明において用いる水酸化マグネシウム(A)は、表面処理されたものであってもよいし、表面処理されていないものであってもよい。しかしながら、ポリマー中での分散性を良好なものとするため、親油性の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。水酸化マグネシウム(A)の表面処理剤としては、上記の水酸化マグネシウム(B)の表面処理剤と同様のものを用いることができる。表面処理量も、上記の水酸化マグネシウム(B)の表面処理量と同様の範囲で処理することができる。水酸化マグネシウム(A)と水酸化マグネシウム(B)の表面処理剤の種類及び表面処理量は、当然のことながら、互いに異なっていてもよい。
【0028】
本発明における水酸化マグネシウム(A)のBET比表面積及び平均一次粒子径は、従来より難燃剤として用いられている一般的な水酸化マグネシウムの範囲内のものであるので、水酸化マグネシウム(A)としては、従来より一般的に用いられている難燃剤としての水酸化マグネシウムを用いることができる。
【0029】
本発明における水酸化マグネシウム(B)は、従来難燃剤として用いられている一般的な水酸化マグネシウムに比べ、BET比表面積が高く、かつ平均一次粒子径が小さい。このような水酸化マグネシウム(B)は、例えば、マグネシウム塩及び水酸化マグネシウムの種結晶を含むスラリーに、アルカリを添加することにより、水酸化マグネシウムの一次粒子が凝集した凝集粒子を生成させ、この水酸化マグネシウムの凝集粒子を湿式分散させた後、表面処理剤で表面処理することにより得ることができる。
【0030】
水酸化マグネシウムの粒子の表面には、水酸基が多く存在しており、水酸基同士の結合が強いため、水酸化マグネシウムは凝集しやすい。上記のように、マグネシウム塩及び水酸化マグネシウム種結晶を含むスラリーに、水酸化カルシウムなどのアルカリを添加することにより、水酸化マグネシウムを生成させている。このような水酸化マグネシウム凝集粒子は、微細な水酸化マグネシウムの凝集体であり、従来難燃剤として用いられている水酸化マグネシウムよりも微細な粒子である。このような水酸化マグネシウム粒子を湿式分散させた後、表面処理剤で表面処理している。これにより、微細な水酸化マグネシウム粒子に表面処理することができ、微細な水酸化マグネシウム粒子の状態で樹脂やゴムなどのポリマー中に分散させることができる。
【0031】
マグネシウム塩及び水酸化マグネシウム種結晶を含むスラリーに、アルカリを添加することにより、水酸化マグネシウム凝集粒子を生成させている。マグネシウム塩としては、例えば、海水や苦汁などの水溶液中に溶存したマグネシウムイオンの塩が挙げられる。また、硝酸、塩酸、硫酸などの鉱酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、またはそれらの混合物と、マグネシアと反応させた塩であってもよい。
【0032】
スラリー中のマグネシウム塩の濃度は、0.01〜10重量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜5.0重量%の範囲である。スラリーは、炭酸マグネシウムが生成しないように、脱炭酸した溶液であることが好ましい。このような溶液を、反応槽に供給し、アルカリ溶液をこれに添加してアルカリを反応させることができる。好ましくは、生成した水酸化マグネシウムスラリーをシックナーに回収し、その一部を反応槽にフィードバックし、循環して使用することが好ましい。このようにして、フィードバックした水酸化マグネシウムの結晶を種結晶として用いることが好ましい。循環させる割合は、反応系に循環する水酸化マグネシウムと、反応系で生成する水酸化マグネシウムの循環比(循環する水酸化マグネシウム:生成する水酸化マグネシウム)が、7〜20:1の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、9〜18:1の範囲である。
【0033】
スラリーに添加するアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの水酸化物やアンモニア水など、水酸化マグネシウムより強いアルカリであればよい。アルカリの使用量は、マグネシウムイオンに対して、当量点を100%として90〜120%の範囲であることが好ましい。
【0034】
水酸化マグネシウム凝集粒子を湿式分散させるための装置としては、ローラーミル、ビーズミル、ハンマーミルなどの高速回転衝撃せん断粉砕機、振動ミル、遊星型ミルなどのボールミル、湿式ジェットミルなどの装置が挙げられる。特に、ビーズミル、ボールミル、サンドミルなどの媒体を用いた攪拌ミルが好ましく用いられる。媒体としては、アルミナ、ジルコニア、ガラスなどを用いることができる。特に、平均粒子径が0.001〜5.0mmのジルコニアを媒体として用いることが好ましい。
【0035】
溶媒としては、水系が好ましく用いられるが、水系に限定されるものではなく、有機溶媒を用いても良好に分散させることが可能である。また、分散時に分散媒などを併用してもよい。
【0036】
湿式分散させた後の水酸化マグネシウム粒子を、表面処理剤で表面処理している。表面処理の方法としては、湿式法であってもよいし、乾式法であってもよい。例えば、湿式法としては、水酸化マグネシウム粒子のスラリーに、表面処理剤を液状またはエマルジョン状態で添加し、約100℃までの温度で機械的に十分混合することが好ましい。
【0037】
また、乾式法としては、水酸化マグネシウムスラリーを乾燥して粉末状にし、この粉末状の水酸化マグネシウム粒子をヘンシェルミキサー等の混合機により、十分攪拌しながら、表面処理剤を、液状、エマルジョン状、または固形状の状態で加え、加熱または非加熱下で十分混合すればよい。表面処理剤の処理量としては、上述のように、水酸化マグネシウム粒子100重量部に対して、0.5〜20重量部とすることが好ましく、さらに好ましくは、0.5〜10重量部である。
【0038】
表面処理した水酸化マグネシウム粒子は、必要により、例えば水洗、脱水、造粒、乾燥、粉砕、分級等を行い、最終製品の形態とすることができる。
【0039】
本発明の難燃性ポリマー組成物は、上記本発明の水酸化マグネシウム難燃剤を、樹脂またはゴムに対し含有させることを特徴としている。
【0040】
配合量としては、樹脂またはゴム100重量部に対し、1〜200重量部の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、67〜150重量部である。
【0041】
配合する樹脂及びゴムの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・4−メチルペンテン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体等のようなオレフィンの重合体または共重合体;ポリスチレン、ABS、AA、AES、AS等のようなスチレンの重合体または共重合体、;塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体のような塩化ビニル、酢酸ビニル系の重合体または共重合体;フェノキシ樹脂、ブタジエン樹脂、フッソ樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリケトン樹脂、メタクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、またSBR、BR、CR、CPE、CSM、NBR、IR、IIR、フッ素ゴム等のゴム類を例示できる。
【0042】
また、合成樹脂の中では、熱可塑性樹脂に配合することが好ましい。熱可塑性樹脂に配合することにより、水酸化マグネシウム粒子による難燃効果、熱劣化防止効果、及び機械的強度保持の効果を得ることができる。
【0043】
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレンホモポリマー、エチレンプロピレン共重合体のようなポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレン・アクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレン・アクリル酸共重合樹脂)、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン系樹脂、およびポリブテン、ポリ4−メチルペンテン−1等のC2〜C6のオレフィン(α−エチレン)の重合体もしくは共重合体などが挙げられる。またPETやPBTなどのポリエステルも挙げることができる。
【0044】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。一般的に熱硬化性樹脂は、それ自体で難燃性が高いものが多く、また樹脂加工温度も熱可塑性樹脂に比べて高いため、水酸化マグネシウムが用いられないこともある。
【0045】
合成ゴムとしては、EPDM、ブチルゴム、イソプレンゴム、SBR、NBR、クロロスルホン化ポリエチレン、NIR、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムを例示することができる。
【0046】
また、本発明の難燃性ポリマー組成物においては、難燃助剤を添加してもよい。難燃助剤としては、リン系化合物や炭素粉末、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。リン系化合物としては、赤リンやリン酸エステルなど成分としてリンが含まれている物質であれば使用できる。また炭素粉末としては、活性炭や黒鉛、カーボンブラックを用いることできる。また、これら以外にも、ペンタエリストールや三酸化アンチモンなどを使用することができる。しかし、これらの物質は、近年の環境問題のからみから、樹脂組成物内に含まれない方が好ましい。
【0047】
また上記以外の難燃助剤として、炭酸カルシウムやシリカ、アルミナ、タルクなどを用いることにより、樹脂燃焼時の細密充填構造を形成する目的で添加することも可能である。
【0048】
難燃助剤の配合量は、樹脂またはゴム100重量部に対し、0.5〜30重量部であることが好ましく、さらに好ましくは、1〜20重量部の範囲内であることが好ましい。
【0049】
また、本発明の難燃性ポリマー組成物には、酸化防止剤、銅害防止剤、可塑剤などを添加してもよい。
【0050】
本発明の難燃性ポリマー組成物を用いて、成形したものについても同様の難燃効果が得られる。成形品としては、電線の被覆材、ケーブル、シース材、建材、人造大理石や電化製品の樹脂部分、また半導体素子などの封止材、繊維(繊維加工品)、塗料、接着材などに用いることができる。
【0051】
本発明の水酸化マグネシウム難燃剤は、ポリマーなどに添加する前に水酸化マグネシウム(A)と水酸化マグネシウム(B)を予め混合し、この混合物をポリマーなどに添加してもよいし、水酸化マグネシウム(A)と水酸化マグネシウム(B)をそれぞれ別個にポリマーなどに添加し、ポリマー中などで水酸化マグネシウム(A)と水酸化マグネシウム(B)を混合してもよい。
【0052】
ポリマーなどに添加する前の難燃剤の混合方法としては、ヘンシェルミキサーなどを用いて、バッチ方式で水酸化マグネシウム(A)と水酸化マグネシウム(B)とを所定量ずつ計量し、混合してもよいし、連続的に混合器や粉砕機などを通過させることにより混合する方法でもかまわない。また混合後、表面処理剤などで処理してもよい。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、難燃性に優れ、樹脂やゴムなどのポリマー中に容易に分散させることができる水酸化マグネシウム難燃剤とすることができる。
【0054】
また、本発明の難燃性ポリマー組成物は、優れた難燃性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔水酸化マグネシウムB1の調製〕
本発明における水酸化マグネシウム(B)として、以下のようにして水酸化マグネシウムB1を調製した。
【0057】
マグネシウムイオンを0.12重量%含有する、脱炭酸した海水を、攪拌機及びpHメータを備えた40リットルの反応容器に、80リットル/時間の速度で導入した。この反応容器に、Ca(OH)を5重量%となるように調製したアルカリ液を、マグネシウムイオンに対して95%当量となるように6リットル/時間の速度で導入した。
【0058】
この反応液を、230リットルのシックナーに回収し、濃縮した水酸化マグネシウム液の一部を反応容器へ戻し、循環させた。循環比は12.3:1となるようにし、反応系内の固形分濃度を6.0重量%になるようにした。ここで、循環比は、反応系に循環する水酸化マグネシウムと反応系で生成する水酸化マグネシウムの重量比のことである。
【0059】
シックナーから水酸化マグネシウムを抜き出し、15倍量の脱炭酸した淡水で水洗し、水酸化マグネシウム原料スラリーを調製した。
【0060】
この水酸化マグネシウム原料スラリーを、40リットルの容器内に入れ、20リットルで20重量%となるように濃度調整した後、直径2mmのジルコニアボ―ルを20kg投入して、回転数800rpmで20分間攪拌し、湿式分散した。
【0061】
その後、ジルコニアボールを取り除き、得られた水酸化マグネシウム分散スラリーを80℃に加温した。その後、加熱溶融したオレイン酸とリン酸エステルを、水酸化マグネシウム100重量部に対し、それぞれ5重量部となるように添加し、30分間攪拌して、水酸化マグネシウムをオレイン酸とリン酸エステルで表面処理した。
【0062】
その後、脱水、乾燥、粉砕し、水酸化マグネシウムB1を得た。
【0063】
なお、リン酸エステルとしては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸を用いた。
【0064】
得られた水酸化マグネシウムB1のBET比表面積は25.0m/gであり、平均一次粒子径は0.2μmであった。
【0065】
〔水酸化マグネシウムB2の調製〕
上記の水酸化マグネシウムB1の調製において、得られた水酸化マグネシウム原料スラリーを湿式分散後、純水を加え、5リットルの分散スラリーを調製し、これに対してオートクレーブ中の撹拌下で150℃、3時間の水熱処理を行い、その後表面処理する以外は同様にして、水酸化マグネシウムB2を得た。
【0066】
得られた水酸化マグネシウムB2のBET比表面積は、16.0m/gであり、平均一次粒子径は0.3μmであった。
【0067】
〔水酸化マグネシウムA1及びA2〕
本発明における水酸化マグネシウム(A)として、水酸化マグネシウムA1及び水酸化マグネシウムA2を用いた。
【0068】
水酸化マグネシウムA1は、市販の難燃剤用水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、商品名「キスマ5AL」、高級脂肪酸表面処理品)であり、BET比表面積は6.2m/gであり、平均一次粒子径は0.8μmである。
【0069】
水酸化マグネシウムA2は、市販の難燃剤用水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、商品名「キスマ5B」、高級脂肪酸表面処理品)であり、BET比表面積は5.0m/gであり、平均一次粒子径は0.8μmである。
【0070】
(実施例1〜2及び比較例1〜3)
ここでは、水酸化マグネシウム(A)として水酸化マグネシウムA1を用い、水酸化マグネシウム(B)として水酸化マグネシウムB1を用いた。
【0071】
実施例1においては、水酸化マグネシウムA1と水酸化マグネシウムB1を、重量比20/80の割合となるように混合して用いた。
【0072】
実施例2においては、水酸化マグネシウムA1と水酸化マグネシウムB1を、40/60の割合となるようにして混合して用いた。
【0073】
比較例1においては、水酸化マグネシウムA1のみを用いた。
【0074】
比較例2においては、水酸化マグネシウムB1のみを用いた。
【0075】
比較例3においては、水酸化マグネシウムを添加せずに樹脂組成物を作製した。
【0076】
〔樹脂組成物の調製〕
ポリエチレン樹脂に、2軸押出機を用いて、水酸化マグネシウムの配合割合が40重量%となるように、水酸化マグネシウムを配合し、コンパウンドを作製した。そのコンパウンドから、射出成形機を用いて、各種試験用試験片を作製し評価した。比較例3については、水酸化マグネシウムを添加せずにコンパウンドを作製し、これを用いて試験片を作製した。
【0077】
コンパウンドの加工条件及び成形の加工条件を以下に示す。
【0078】
(1)コンパウンド:装置:東芝機械社製 同方向2軸押出機
TEM−35B (φ:37mm L/D:31.9)
温度:210℃〜195℃、スクリュ回転数:300rpm、
吐出量:20.079 kg/h
(2)成形 :装置:東芝機械社製 射出成形機 IS 30EPN−1A
温度:220℃、射出圧力:1854 kgf/cm
射出速度:33.6 cm/sec、 型締力:28ton
【0079】
〔樹脂組成物の評価〕
得られた樹脂組成物について、酸素指数の測定、引張試験、曲げ試験を以下のようにして行った。
【0080】
(1)酸素指数
JIS K 7201プラスチック酸素指数による燃焼法の試験方法に準拠して、水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物の酸素指数を測定した。試験片は、ISO多目的試験片とし、試験片10〜15個を測定し、平均値を求めた。なお、シーズニングは、特に行わなかった。
【0081】
(2)引張試験
JIS K 7113プラスチックの引張試験方法に準拠して、水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物の引張強度と伸びを測定した。試験片は、1号ダンベル試験片とし、試験片3個を測定し、平均値を求めた。なお、シーズニングは、気温23℃、湿度50%の条件で48時間以上の条件で行った。
【0082】
(3)曲げ試験
JIS K 7203硬質プラスチック曲げ試験方法に準拠して、水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物試験片の曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。試験片は、ISO多目的試験片とし、試験片3個を測定し、平均値を求めた。試験速度は2mm/minで行った。なお、シーズニングは、気温23℃、湿度50%の条件で48時間以上の条件で行った。
【0083】
評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、本発明に従う実施例1及び実施例2においては、比較例1〜3に比べ高い酸素指数が得られており、難燃性に優れることがわかる。また、機械的強度においても、特に問題がないことがわかる。
【0086】
(実施例3〜7及び比較例4〜5)
表2に示すように、水酸化マグネシウムの混合割合(A)/(B)を変化させる以外、上記実施例と同様にして、コンパウンドを作製し、このコンパウンドを用いて成形し、樹脂組成物の酸素指数を測定した。結果を表2に示す。なお、表2には、実施例1〜2及び比較例1〜2の結果を併せて示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示す結果から明らかなように、水酸化マグネシウムの混合割合(A)/(B)を、10/90〜70/30の範囲内とすることにより、優れた難燃性が得られることがわかる。
【0089】
(実施例8〜9及び比較例6〜7)
実施例8においては、水酸化マグネシウム(A)として、水酸化マグネシウムA2を用いる以外、上記実施例2と同様にしてコンパウンドを作製し、このコンパウンドを用いて成形し、酸素指数を測定した。
【0090】
実施例9においては、水酸化マグネシウム(B)として、水酸化マグネシウムB2を用いる以外は、上記実施例2と同様にして、コンパウンドを作製し、このコンパウンドを用いて成形し、酸素指数を測定した。
【0091】
比較例6においては、水酸化マグネシウムA2と水酸化マグネシウムA1を40/60の重量比となるように混合したものを水酸化マグネシウム難燃剤として用い、上記実施例と同様にしてコンパウンドを作製し、このコンパウンドを用いて成形し、酸素指数を測定した。
【0092】
比較例7においては、水酸化マグネシウムB2と水酸化マグネシウムB1を40/60の重量比で混合して用いる以外は、上記実施例と同様にしてコンパウンドを作製し、このコンパウンドを用いて成形し、酸素指数を測定した。
【0093】
測定結果を表3に示す。なお、表3には実施例2の測定値も併せて示す。
【0094】
また、表3には、各水酸化マグネシウムのBET比表面積及び平均一次粒子径を示す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3に示す結果から明らかなように、本発明に従う実施例2、8及び9においては、高い酸素指数が得られた。従って、本発明に従うことにより、優れた難燃性が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)BET比表面積が10m/g未満であり、平均一次粒子径が0.5μm以上である水酸化マグネシウムと、
(B)親油性の表面処理剤で表面処理した水酸化マグネシウムであって、BET比表面積が10m/g以上で、かつ水酸化マグネシウム(A)のBET比表面積の2.5倍以上であり、平均一次粒子径が0.4μm以下である水酸化マグネシウムとを、
重量比(水酸化マグネシウム(A)/水酸化マグネシウム(B))で、10/90〜70/30となるように混合したことを特徴とする水酸化マグネシウム難燃剤。
【請求項2】
水酸化マグネシウム(A)が、親油性の表面処理剤で表面処理されていること特徴とする請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤。
【請求項3】
親油性の表面処理剤が、高級脂肪酸類、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル類、脂肪酸と多価アルコールとのエステル、及びカップリング剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の水酸化マグネシウム難燃剤。
【請求項4】
水酸化マグネシウム(B)及び/または水酸化マグネシウム(A)において、水酸化マグネシウム100重量部に対し、表面処理剤が0.5〜20重量部表面処理されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水酸化マグネシウム難燃剤。
【請求項5】
水酸化マグネシウム(B)が、マグネシウム塩及び水酸化マグネシウム種結晶を含むスラリーに、アルカリを添加することにより、水酸化マグネシウムの一次粒子が凝集した凝集粒子を生成させ、この水酸化マグネシウムの凝集粒子を湿式分散させた後、表面処理剤で表面処理して得られる水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水酸化マグネシウム難燃剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水酸化マグネシウム難燃剤を、樹脂またはゴム100重量部に対し、1〜200重量部含有させたことを特徴とする難燃性ポリマー組成物。
【請求項7】
樹脂として、熱可塑性樹脂を用いることを特徴とする請求項6に記載の難燃性ポリマー組成物。

【公開番号】特開2009−249389(P2009−249389A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94636(P2008−94636)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(593119527)白石カルシウム株式会社 (17)
【Fターム(参考)】