説明

水酸基が導入された多孔性配位高分子を用いた水素吸蔵

【解決課題】
亜鉛四核クラスターとテレフタル酸の配位子から構成される多孔性配位高分子(MOF−5)に水酸基を導入して、水素貯蔵量を増大する。
【解決手段】
ZnOクラスターと配位子からなり、各々の配位子がBDC又はHBDC又はであり(但し、全ての配位子がBDCである場合は除く。)、該クラスターと配位子が交互に配位結合されてなる多孔性配位高分子。(ここで、BDCは、p−(OOC−Ph−COO)であり、HBDCは、p−(OOC−Ph(OH)−COO)であり、Phはフェニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛クラスター、及びテレフタル酸と水酸基を導入したテレフタル酸の配位子からなる多孔性配位高分子、およびその製造方法に関る。
【背景技術】
【0002】
多孔性配位高分子は、高い比表面積、均一なマイクロ孔を有する新規結晶状有機金属錯体であり、MOF(金属有機フレームワーク)とも呼ばれる。これらは触媒やガス貯蔵材料としての応用が期待され、特にナノ細孔を利用した水素の貯蔵に有効であると考えられている。しかし、多孔性配位高分子を用いた水素貯蔵は物理吸着を利用して行なわれるため、吸着/脱着は速いものの、貯蔵量が少ないという問題がある。そこで、ナノ細孔内に小分子気体との相互作用を高める吸着サイトとなる官能基を導入することで、吸着量を増大させることが期待される。
【0003】
多孔性配位高分子に官能基を導入する手法として、前駆体である有機配位子に官能基を有するものを用いる手法と、後処理によって官能基を導入する手法がある。これまで様々な官能基を導入したことが報告されているものの、いまだ実用的な水素貯蔵のレベルには達していない。
【0004】
官能基として水酸基を導入することにより水素吸着特性の増加だけではなく、イオン交換サイトとして有用であることが期待されるため、触媒などに応用することが考えられるが、これまでの研究で水酸基を導入した例は極めて少ない。
【0005】
即ち、水酸基を有する配位子は様々存在するが、これまで導入された例は極めて少なく、その理由として、水酸基自体が金属イオンと配位結合を形成するため、求める構造が得られない問題がある。例えば亜鉛塩とテレフタル酸ではMOF−5と呼ばれる結晶構造が得られるが、テレフタル酸に2つ水酸基が導入された2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を用いた場合、MOF−74という全く異なる結晶構造が得られる。この構造中では水酸基は亜鉛と配位結合を形成してMOF−74の結晶構造を構成している。
【0006】
また、水酸基を導入した例として2−ヒドロキシテレフタル酸を用いてMOF−5とは異なる構造を持つ多孔性配位高分子を合成した例が3報報告されている(非特許文献3〜5)。また、水酸基のプロトン(水素)を別の有機基で保護し一度多孔性配位高分子を合成した後、紫外光を照射して保護基を分解することで水酸基が導入された多孔性配位高分子を合成した例が1報報告されている(非特許文献6)。しかしながら、これら先行技術文献には、MOF−5構造に直接水酸基が導入されて、水素貯蔵量が増大した多孔性配位高分子については教示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.Li,M.Eddaoudi,M.O’Keeffe and O.M.Yaghi,Nature,1999,402,276−279.
【非特許文献2】S.S.Kaye,A.Dailly,O.M.Yaghi and J.R.Long,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,14176−14177.
【非特許文献3】H.Dieter,W.Dirk and H.Martin,Angew.Chem.Int.Ed.,2009,48,4639−4642.
【非特許文献4】Y.Zhao,H.Wu,T.J.Emge,Q.Gong,N.Nijem,Y.J.Chabal,L.Kong,D.C.Langreth,H.Liu,H.Zeng and J.Li,Chemistry−A European Journal,2011,17,5101−5109.
【非特許文献5】Z.Chen,S.Xiang,H.D.Arman,P.Li,D.Zhao and B.Chen,Eur.J.Inorg.Chem.,2011,2011,2227−2231.
【非特許文献6】K.K.Tanabe,C.A.Allen and S.M.Cohen,Angew.Chem.Int.Ed.,2010,49,9730−9733.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、多孔性配位高分子、より具体的には、亜鉛四核クラスターとテレフタル酸の配位子から構成されるMOF−5と呼ばれる多孔性配位高分子に水酸基を導入して、水素貯蔵量を増大することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、かかる課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、MOF−5の配位子であるテレフタル酸の一部をヒドロキシテレフタル酸に置換することにより、MOF−5に水酸基を導入することができ、これによりMOF−5に対して水素貯蔵量を顕著に増大させることができることを見出し、本発明を完成した。また、テレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸を特定の比率で混合した溶液と亜鉛塩を反応させることにより、MOF−5に水酸基を導入した多孔性配位高分子を効率的に調製することができることも見出した。
【0010】
しかして、本発明は、
(1)ZnOクラスターと配位子からなり、各々の配位子がBDC又はHBDCであり(但し、全ての配位子がBDCである場合は除く。)、該クラスターと配位子が交互に配位結合されてなる多孔性配位高分子(ここで、BDCはp−(OOC−Ph−COO)を表し、HBDCはp−(OOC−Ph(OH)−COO)を表し、Phはフェニル基を表す。)、
(2)ZnO(BDC)3−x(HBDC)で表される多孔性配位高分子(式中、xは、0より大きく、1.5以下である。)、
(3)xが0.7〜1.5である、(2)に記載の多孔性配位高分子、
(4)(1)〜(3)のいずれか1に記載の多孔性配位高分子を含む触媒またはガス貯蔵材料、
(5)亜鉛塩を溶媒に溶解して溶液1を調製し、別にテレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸を1:0より大きく0.3:0.7以下の比(モル)で溶媒に添加して溶解させて溶液2を調製する工程、
溶液1と溶液2を混合する工程、及び
熱処理を行なう工程、
を含む、多孔性配位高分子を製造する方法、
(6)亜鉛塩が硝酸亜鉛又はその水和物である(5)に記載の方法、
(7)溶媒がN,N’−ジメチルホルムアミド又はN,N’−ジエチルホルムアミドである(5)又は(6)に記載の方法、
(8)熱処理を60〜100℃の温度で行なう、(5)〜(7)のいずれか1に記載の方法、
(9)(5)〜(8)のいずれか1に記載の製造方法により得られる多孔性配位高分子、
(10)(9)に記載の多孔性配位高分子を含む触媒またはガス貯蔵材料、に関わる。
【発明の効果】
【0011】
本発明におけるMOF−5に水酸基を導入した多孔性配位高分子においては、表面積が最大3600m/gとなり、導入された水酸基により、ゲスト分子との相互作用が強くなり、貯蔵材料としての機能を向上することができる。実際、水酸基が未導入の多孔性配位高分子(MOF−5)の水素吸着量は77K、760torrにおいて1.32重量%であるが、本発明に関る多孔性配位高分子では1.96重量%程度にまで増加することが確認された。
【0012】
また、導入された水酸基はイオン交換サイトとして働くため、カチオンを導入することができ、これにより更なる水素貯蔵量の増加が見込まれる。即ち、水酸基を導入した多孔性配位高分子の水酸基の水素原子をリチウムとイオン交換することにより、実用化に必要な室温下においても水素貯蔵量が6.0重量%の材料の創製が可能になると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の水酸基を導入した多孔性配位高分子の構造の一部を示す模式図である。
【図2】実施例1で調製した多孔性配位高分子のX線回折パターンを示す。
【図3】実施例1で調製した多孔性配位高分子のHNMRの測定結果を示す。
【図4】実施例1で調製した多孔性配位高分子の窒素吸着等温線を示す。
【図5】実施例1で調製した多孔性配位高分子の水素吸着量の測定結果を示す。
【図6】実施例1で調製した多孔性配位高分子の水素吸着熱の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)MOF−5に水酸基を導入した多孔性配位高分子
本発明の実施態様の1つである、MOF−5に水酸基を導入した多孔性配位高分子(以下「MOF−5−OH」ともいう。)は、ZnOクラスターと配位子からなり、各々の配位子がBDC又はHBDCであり(但し、全ての配位子がBDCである場合は除く。)、該クラスターと配位子が交互に配位結合されてなる多孔性配位高分子である。ここで、BDCはp−(OOC−Ph−COO)を表し、HBDCはp−(OOC−Ph(OH)−COO)を表し、Phはフェニル基を表す。本発明においては、好ましくは、各配位子の何れかはBDCであり、全ての配位子がHBDCであることはない。図1は、本発明に関る多孔性配位高分子MOF−5−OHの構造の一部(単位格子)を示す模式図である。ZnOクラスターと配位子で取り囲まれている部分は細孔であり、この細孔にガスが吸着されると考えられる。なお、図1は、本発明に関る多孔性配位高分子の1つの単位格子を示しており、実際は、この単位格子が系統的に等網状につながった構造を有している。なお、多孔性配位高分子がZnOクラスターと配位子からなるとは、多孔性配位高分子が分子の構成要素としてZnOクラスターと配位子からなることを意味し、多孔性配位高分子に溶媒が溶媒和したものも本発明の多孔性配位高分子に含まれる。
【0015】
本発明の1つの実施態様においては、本発明の多孔性配位高分子は、その基本構成単位がZnO(BDC)3−x(HBDC)で表される。ここで、xは多孔性配位高分子全体での平均値であって、0より大きく、1.5以下であり、好ましくは、0.7〜1.5である。
【0016】
(2)多孔性配位高分子MOF−5−OHの合成
本発明の多孔性配位高分子MOF−5−OHの代表的な合成方法を以下に説明するが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、亜鉛塩を溶媒に溶解して溶液1を調製し、これとは別にテレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸を1:0より大きく0.3:0.7以下の比(モル)で溶媒に添加して溶解させて溶液2を調製し、次に、溶液1と溶液2を混合し、熱処理を行なうことにより、多孔性配位高分子MOF−5−OHを合成することができる。ここで、亜鉛塩を溶解する溶媒と、テレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸を溶解する溶媒は同じであっても異なっていてもよい。また、亜鉛塩を溶媒に溶解するときに水を添加してもよい。
【0018】
ヒドロキシフタル酸としては、好ましくは、2−ヒドロキシテレフタル酸を用いるのが好ましく、その製造方法としては公知の方法を使用することができる。
【0019】
また、本発明の別の側面においては、亜鉛塩を溶媒に溶解して調製した溶液に直接テレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸を1:0より大きく0.3:0.7以下の比(モル)で添加し、混合して、熱処理を行なうことにより、多孔性配位高分子MOF−5−OHを合成することもできる。
【0020】
溶媒に添加するテレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸の比(モル)については、テレフタル酸:ヒドロキシテレフタル酸が、1:0より大きく0.3:0.7以下であるが、より好ましくは、0.5:0.5〜0.3:0.7である。
【0021】
本発明においては、亜鉛塩として、硝酸亜鉛及びその水和物、酢酸亜鉛及びその水和物を使用することができる。本発明においては、亜鉛塩として、好ましくは、硝酸亜鉛又はその水和物、特に好ましくは、硝酸亜鉛六水和物を使用することができる。
【0022】
本発明においては、溶媒として、N,N’−ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒(水/DMF)、N,N’−ジエチルホルムアミド(DEF)を使用することができる。
【0023】
本発明においては、前記溶液1と溶液2を混合した液に、アミン類(例えば、トリエチルアミン等)などの有機物を添加することもできる。
【0024】
本発明においては、60〜100℃の温度で熱処理を行なうことが好ましい。熱処理の時間は適宜定めることができるが、通常は、24〜72時間行う。
【0025】
本発明の特に好ましい態様においては、亜鉛塩を水/DMF又はDEFに溶解して溶液1を調製し、これとは別にテレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸を1:0より大きく0.3:0.7以下の比(モル)でDMF又はDEFに添加して溶解させて溶液2を調製し、次に、溶液1と溶液2を混合し、熱処理を行なうことにより、多孔性配位高分子MOF−5−OHを合成することができる。ここで、亜鉛塩と、テレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸の合計のモル比としては、好ましくは、3である。また、添加する水/DMF又はDEFの量は、亜鉛塩1モルに対して、それぞれ、400〜600モル、40〜300モルであるのが好ましい。
【0026】
(3)リチウムを導入した多孔性配位高分子
本発明においては、MOF−5−OHを用いて、その水酸基の一部の水素原子がリチウムにイオン交換された多孔性配位高分子を調製することができる。当該多孔性配位高分子(以下「MOF−5−OLi」ともいう。)は、ZnOクラスターと配位子からなり、各々の配位子がBDC、HBDC又はLi−HBDCであり(但し、全ての配位子がBDCである場合は除く。)、該クラスターと配位子が交互に配位結合されてなる多孔性配位高分子である。ここで、BDCはp−(OOC−Ph−COO)を表し、HBDCはp−(OOC−Ph(OH)−COO)を表し、Li−HBDCはp−(OOC−Ph(OLi)−COO)を表し、Phはフェニル基を表す。本発明においては、好ましくは、各配位子の何れかはBDCであり、また、全ての配位子がHBDCあるいはLi−HBDCであることはない。
【0027】
本発明の多孔性配位高分子MOF−5−OLiの代表的な合成方法を以下に説明するが、これに限定されるものではない。
【0028】
上記に記載した方法で調製したMOF−5−OHを溶媒(アセトニトリル、クロロホルム、テトラヒドロフラン)などに添加し、リチウム塩溶液を加えて所定時間静置して、水酸基の一部の水素原子がリチウムにイオン交換された多孔性配位高分子(MOF−5−OLi)を調製する。ここで、リチウム塩としては、リチウムtert-ブトキシドなどが挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
[試薬]
実施例では以下の試薬を使用した。
【0031】
テレフタル酸(和光純薬工業株式会社)
硝酸亜鉛六水和物(和光純薬工業株式会社)
ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社)
ジエチルホルムアミド(東京化成工業株式会社)
トリエチルアミン(和光純薬工業株式会社)
また、以下に記載の2−ヒドロキシテレフタル酸の合成に使用した試薬は全て和光純薬工業株式会社から購入した。
【0032】
Li導入用試薬
アセトニトリル(和光純薬工業株式会社)
テトラヒドロフラン(和光純薬工業株式会社)
クロロホルム(和光純薬工業株式会社)
リチウムtert−ブトキシド 溶液(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)
[測定方法]
(1)XRD
X線回折測定はM03X−HF22(Mac Science Co.)によりCuKα線源(λ=1.5418Å,40kV,30mA)を用いて行った。
【0033】
(2)NMR
H NMRスペクトルの測定はJNM−270(JEOL)により270.45MHzで行った。合成したMOF−5−OHをDCl/DOを少量加えたDMSO−dに添加し溶解させ5mmNMRチューブの底から4cmに液面が来るように注入した。さらにテトラメチルシランを基準物質として数滴加え、測定を行った。得られたH NMRスペクトルからヒドロキシフタル酸の導入量を算出した。
【0034】
(3)BET表面積
窒素吸着測定をAUTOSORB 1−MP(Quantachrome Instrument社)によって行った。測定圧力Pを窒素の77Kにおける飽和蒸気圧Pで割った相対圧P/P=0.01〜0.05の領域の吸着量を以下のBET吸着等温式に代入し、BET表面積Aを得た。
【0035】
BET吸着等温式
【数1】

【0036】
ここでP/Pは相対圧、vは吸着量、vは単分子吸着量、CはBET定数である。
【数2】

【0037】
ここでNはアボガドロ数、aは窒素分子の吸着分子断面積(0.162nm)である。
【0038】
(4)細孔容量
窒素吸着測定によって得られた相対圧P/P=0.99での吸着量を液体窒素の体積Vliqに換算し、その値を細孔容量とした。換算式は以下のとおり。
【数3】

【0039】
ここでPは測定圧力、vは吸着量、Vは液体窒素のモル容積、Rは気体定数、Tは絶対温度である。
【0040】
(5)水素吸着量
水素吸着測定をAUTOSORB 1−MP(Quantachrome Instrument社)によって77K及び87Kで0.1〜760mmHgまでの圧力領域で行った。以下に記載される水素吸着量は77K,760mmHgでのサンプル1gあたりの水素吸着量(g/g)をサンプルの重量あたり密度(wt%)に換算してある。サンプルの重量あたり密度(wt%)
=水素吸着量(g/g)/(1+水素吸着量(g/g))×100
(6)水素吸着熱
水素吸着熱はVirial式と呼ばれる以下の式に77K及び87Kでの個々の圧力における水素吸着量を代入し、水素吸着熱Qstを得た。以下に記載される水素吸着熱は最大値と最小値である。
【0041】
Virial式
【数4】

【0042】
2−ヒドロキシテレフタル酸の合成
2−ヒドロキシテレフタル酸は、既報(H.Dieter,W.Dirk and H.Martin,Angew.Chem.Int.Ed.,2009,48,4639−4642.)に従って、以下のとおり合成した。
【0043】
蒸留水60mLに2−アミノテレフタル酸4.0gを加え攪拌し、ここに50重量%の塩化ナトリウム水溶液を5.0g加えた。2−アミノテレフタル酸が全て溶解した後、2.3gの亜硝酸ナトリウムを3.3gの蒸留水に溶解した水溶液を徐々に加えた。32mLの水を加え希釈し、5M塩酸24mLを加え10〜15℃で4時間攪拌した。攪拌後、少量の硫酸銅五水和物を加え、85℃にゆっくり昇温し、12時間加熱した。得られた黄色固体を濾取し、蒸留水で洗浄を行った後、真空乾燥を100℃で12時間行い2−ヒドロキシテレフタル酸を得た。
【0044】
[実施例1]
テレフタル酸(HBDC)0.025g(0.15mmol)と2−ヒドロキシテレフタル酸(HHBDC)0.028g(0.15mmol)をジメチルホルムアミド14.0g(191.5mmol)に溶解した。別に硝酸亜鉛六水和物0.273g(0.92mmol)と蒸留水0.61g(34.12mmol)をジメチルホルムアミド7.0g(95.8mmol)に溶解した。これらの溶液を50mLガラスバイアルで混合し、更に全量が30mLになるようにジメチルホルムアミド7.5g(102.6mmol)を加えた。十分攪拌した後、85℃で24時間熱処理を行い、MOF−5−OHを得た。
【0045】
上記合成において使用した各成分のモル比は以下の通りである。
【0046】
BDC:HHBDC:Zn(NO:HO:DMF=0.5:0.5:3:129:1408
[実施例2]
テレフタル酸0.024g(0.144mmol)と2−ヒドロキシテレフタル酸0.026g(0.144mmol)をジメチルホルムアミド5.26g(72mmol)に溶解した。別に硝酸亜鉛六水和物0.257g(0.86mmol)と蒸留水0.575g(32.0mmol)をジメチルホルムアミド3.16g(43.2mmol)に溶解した。これらの溶液を30mLガラスバイアルで混合し、更に全量が20mLになるようにジメチルホルムアミド12.0g(180.8mmol)を加えた。十分攪拌した後、85℃で24時間熱処理を行い、MOF−5−OHを得た。
【0047】
上記合成において使用した各成分のモル比は以下の通りである。
【0048】
BDC:HHBDC:Zn(NO:HO:DMF=0.5:0.5:3:129:1083
[実施例3]
テレフタル酸0.014g(0.083mmol)と2−ヒドロキシテレフタル酸0.015g(0.083mmol)をジメチルホルムアミド3.04g(41.65mmol)に溶解した。別に硝酸亜鉛六水和物0.149g(0.50mmol)と蒸留水0.333g(18.51mmol)をジメチルホルムアミド1.83g(25.0mmol)に溶解した。これらの溶液を30mLガラスバイアルで混合し、更に全量が20mLになるようにジメチルホルムアミド15.8g(216.6mmol)を加えた。十分攪拌した後、100℃で24時間熱処理を行い、MOF−5−OHを得た。
【0049】
上記合成において使用した各成分のモル比は以下の通りである。
【0050】
BDC:HHBDC:Zn(NO:HO:DMF=0.5:0.5:3:129:1700
[実施例4]
反応の全容量が150mLになるようにスケールupして合成を行なった。
【0051】
テレフタル酸0.179g(1.079mmol)と2−ヒドロキシテレフタル酸0.197g(1.079mmol)をジメチルホルムアミド39.43g(539.5mmol)に溶解した。別に硝酸亜鉛六水和物1.926g(6.474mmol)と蒸留水4.316g(239.8mmol)をジメチルホルムアミド23.66g(323.7mmol)に溶解した。これらの溶液を500mLガラスバイアルで混合し、更に全量が150mLになるようにジメチルホルムアミド90.26g(1.234mol)を加えた。十分攪拌した後、85℃で24時間熱処理を行い、MOF−5−OHを得た。
【0052】
上記合成において使用した各成分のモル比は以下の通りである。
【0053】
BDC:HHBDC:Zn(NO:HO:DMF=0.5:0.5:3:129:1083
[実施例5]
反応の全容量が300mLになるようにスケールupして合成を行なった。
【0054】
テレフタル酸0.358g(2.158mmol)と2−ヒドロキシテレフタル酸0.393g(2.158mmol)をジメチルホルムアミド78.86g(1.08mol)に溶解した。別に硝酸亜鉛六水和物3.852g(12.95mmol)と蒸留水8.632g(479.6mmol)をジメチルホルムアミド47.32g(647.4mmol)に溶解した。これらの溶液を500mLガラスバイアルで混合し、更に全量が300mLになるようにジメチルホルムアミド180.6g(2.470mol)を加えた。十分攪拌した後、85℃で24時間熱処理を行い、MOF−5−OHを得た。
【0055】
上記合成において使用した各成分のモル比は以下の通りである。
【0056】
BDC:HHBDC:Zn(NO:HO:DMF=0.5:0.5:3:129:1083
[実施例6]
テレフタル酸0.0075g(0.045mmol)と2−ヒドロキシテレフタル酸0.0192g(0.106mmol)をジメチルホルムアミド9.42g(128.8mmol)に溶解した。別に硝酸亜鉛六水和物0.135g(0.454mmol)と蒸留水0.30g(16.8mmol)をジメチルホルムアミド6.0g(82.1mmol)に溶解した。これらの溶液を30mLガラスバイアルで混合した。さらにトリエチルアミン0.01gを加え、十分攪拌した後、85℃で24時間熱処理を行い、MOF−5−OHを得た。
【0057】
上記合成において使用した各成分のモル比は以下の通りである。
【0058】
BDC:HHBDC:Zn(NO:HO:DMF=0.3:0.7:3:129:1400
[比較例1](MOF−5の合成)
テレフタル酸0.100g(0.60mmol)と硝酸亜鉛六水和物0.539g(1.81mmol)を30mLガラスバイアル中でジエチルホルムアミド13.8g(135.6mmol)に溶解した。十分混合した後、80℃で5日間熱処理を行い、MOF−5を得た。
【0059】
[測定結果]
実施例1で調製した多孔性配位高分子について、X線回折パターン及びHNMRの測定結果を図2及び図3に、窒素吸着等温線、水素吸着量、水素吸着熱の測定結果を図4〜6に示す。また、実施例1〜6及び比較例1で調製した多孔性配位高分子について、各物性を測定した結果を以下の表にまとめて記載する。全ての実施例で2−ヒドロキシテレフタル酸が導入されたことがHNMRによって確認され、その割合は最大44.9%であった。また、水酸基を未導入のMOF−5に比べて、水酸基を導入した実施例では水素吸着量及び/又は吸着熱が顕著に増大したことを示した。また、実施例4の試料について77Kで高圧測定を行ったところ、2.67Mpaにて5.2重量%の水素吸着量を示した。この水素貯蔵量は水酸基を未導入のMOF−5とほぼ同等の値ではあるが、より低圧で最大値に達した。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の水酸基を導入した多孔性配位高分子、及びその水酸基の一部の水素原子をリチウムでイオン交換した多孔性配位高分子は、高い水素吸着量と水素吸着熱を示すことから、触媒やガス貯蔵材料に使用することができ、特にクリーンエネルギー自動車用の水素貯蔵材料への適用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOクラスターと配位子からなり、各々の配位子がBDC又はHBDCであり(但し、全ての配位子がBDCである場合は除く。)、該クラスターと配位子が交互に配位結合されてなる多孔性配位高分子。(ここで、BDCはp−(OOC−Ph−COO)を表し、HBDCはp−(OOC−Ph(OH)−COO)を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項2】
ZnO(BDC)3−x(HBDC)で表される多孔性配位高分子。
(式中、xは、0より大きく、1.5以下である。)
【請求項3】
xが0.7〜1.5である、請求項2に記載の多孔性配位高分子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔性配位高分子を含む触媒またはガス貯蔵材料。
【請求項5】
亜鉛塩を溶媒に溶解して溶液1を調製し、別にテレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸を1:0より大きく0.3:0.7以下の比(モル)で溶媒に添加して溶解させて溶液2を調製する工程、
溶液1と溶液2を混合する工程、及び
熱処理を行なう工程、
を含む、多孔性配位高分子を製造する方法。
【請求項6】
亜鉛塩が硝酸亜鉛又はその水和物である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶媒がN,N’−ジメチルホルムアミド又はN,N’−ジエチルホルムアミドである請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
熱処理を60〜100℃の温度で行なう、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法により得られる多孔性配位高分子。
【請求項10】
請求項9に記載の多孔性配位高分子を含む触媒またはガス貯蔵材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40119(P2013−40119A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177294(P2011−177294)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】