説明

水酸基含有化合物の製造方法

【課題】本発明の目的は、環境負荷、経済性悪化、産業廃棄物処理、低収率の少なくとも1つの問題が解決された新規な水酸基含有化合物の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物と、両親媒性溶媒および水の混合溶媒と、を反応させる工程を有し、前記ハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる炭化水素化合物である、水酸基含有化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸基含有化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィンの水和によるアルコール製造は、硫酸その他の酸触媒を用いる方法により行われてきた。硫酸を用いる方法では、オレフィンと水を硫酸の存在下で反応させ、硫酸エステルを生成したのち、これを加水分解して粗アルコールを生成する。得られた粗アルコールから、精留その他の方法により、未反応アルコール、水、副生成物を分離して精製アルコールを製造する。しかし、この製造方法においては、加水分解後に分離された硫酸水溶液は、濃縮したのち、反応工程にリサイクルしなければならず、これにともなう工程数の増加は建設費用を増大させ、また濃縮にかかる加熱用役費用を増大させるため、不経済である。また、硫酸が流通する工程においては、装置の腐食が大きいので、補修費用の増大につながる。また、場合によっては装置から硫酸が噴出することもあるため、プラントの安全性の低下にもつながる恐れがある。また、定常的に排出される硫酸廃液に対しては、水酸化ナトリウム等を用いた中和処理が必要となり、生成する硫酸塩は産業廃棄物として処理せざるを得ず、環境負荷が高くなる。
【0003】
そこで硫酸を用いる製造方法に代わり、水溶性のヘテロポリ酸を触媒に用いる方法が開発された。この方法では、オレフィンと水とをヘテロポリ酸の存在下で直接水和反応させて粗アルコールを生成する。この粗アルコールから精留その他の方法により、未反応オレフィン、ヘテロポリ酸、水、副生成物を分離して精製アルコールを製造する。ヘテロポリ酸は腐食性が低いため、装置の補修費用の面で改善はされているが、硫酸と同様にヘテロポリ酸を回収する工程が必要であり、建設費用は硫酸を用いる方法と大きく変わらない。また、同様に定常的に排出されるヘテロポリ酸廃液に対しては、中和処理が必要となり、生成するヘテロポリ酸塩を産業廃棄物として処理する必要がある。あるいは、廃液中から分離して再利用する場合には、この分離費用が大きい。
【0004】
ヘテロポリ酸以外にも、このような溶解性触媒を用いる方法が開発されており、例えば特許文献1では、トリフルオロメタンスルホン酸を用いる方法が開示されており、また特許文献2では、硫酸チタン水溶液を用いる方法が開示されている。しかし、いずれの方法においても、ヘテロポリ酸を用いる場合と同様の問題点を持つため、経済性、環境負荷ともに改善を要する。
【0005】
また、硫酸に対する別の改善の方法として、固体酸触媒を用いる方法も開発されている。この方法では、固体酸触媒を充填した反応器にてオレフィンと水とを直接水和反応させて粗アルコールを生成する。この粗アルコールから精留その他の方法により、未反応オレフィン、水、副生成物を分離して精製アルコールを製造する。固体酸触媒を用いることにより、硫酸あるいはヘテロポリ酸等の溶解性触媒を用いる方法で生じるような触媒回収工程は不要となり、また廃液中の酸性成分の中和処理等も不要となる。しかし、固体酸触媒を用いる方法においては、触媒の経時的な劣化が起こり、反応成績を維持するために、温度を上げるあるいは、生産量を落とすなどの対応が必要となる。このため、運転管理が煩雑になり、同時に経済性にも悪影響を及ぼす。劣化した触媒は再生しなければならず、ここでも経済性を悪化させる。再生不可能になった場合には、交換作業の必要が生じるが、この触媒交換には少なくない日数が必要であり、生産量を低下させる。また、大量に発生する廃触媒は産業廃棄物として処理せざるを得ない。
【0006】
固体酸触媒を用いる方法として、例えば特許文献3では、強酸型イオン交換樹脂を触媒
に用いる方法が開示されており、また特許文献4では、ZSM−5ゼオライトを触媒に用いる方法が開示されている。しかし、いずれの方法においても、触媒の経時劣化を避けることはできず、改善を要する。このように、これらの従来方法は、触媒を用いることに由来する経済性悪化、産業廃棄物処理等の問題を避けることはできないのが現状である。
【0007】
また一方で、特許文献5には、脂肪族二重結合を有する化合物と水とを、触媒の不存在下に、200〜600℃の反応温度および1〜100MPaの反応圧力下で、水和反応させて水酸基含有化合物を製造する方法が開示されている。しかしながら、目的物の収率がよくないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭52−133910号公報
【特許文献2】特開昭52−113904号公報
【特許文献3】特開昭54−30104号公報
【特許文献4】特開昭63−218251号公報
【特許文献5】特開2003−34657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来のいずれの文献においても、環境負荷、経済性悪化、産業廃棄物処理、低収率の問題があり、かような問題が解決された製造法は実用化されていない。
【0010】
したがって、本発明の課題は、かような問題の少なくとも1つを解決する、新規な水酸基含有化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物と、両親媒性溶媒および水の混合溶媒と、を反応させる工程を有し、前記ハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる炭化水素化合物である、水酸基含有化合物の製造方法を提供することによって、かかる課題を解決することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境負荷、経済性悪化、産業廃棄物処理、低収率の少なくとも1つの問題が解決された新規な水酸基含有化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、両親媒性溶媒の種類と、生成物収率および脱臭素化率との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、両親媒性溶媒のモル分率と、生成物収率および脱臭素化率との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、混合溶媒の液量(質量)と、生成物収率および脱臭素化率との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、ハロゲン化炭化水素化合物の質量と、生成物収率および脱臭素化率との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、反応の経時変化を示すグラフである。
【図6】図6は、反応時間−反応温度の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、Arrheniusプロット 一次反応速度定数の温度依存性を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例9で得られた、両親媒性溶媒のアセトンのモル分率と、生成物であるベンジルアルコールの収率および原料であるベンジルブロミドの脱臭素化率との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例10及び比較例9で得られた、ベンジルブロミドの仕込み量と、ベンジルブロミド反応率(脱臭素化率)および生成物収率であるベンジルアルコール収率との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例11−1で得られた、各反応温度における反応時間と、生成物収率であるベンジルアルコール収率との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例11−2で得られた、各反応温度、反応時間における生成物収率であるベンジルアルコール収率と、ベンジルブロミド反応率との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例11−3で得られた、各反応温度における反応時間と、ベンジルブロミド残存率(ベンジルブロミド未反応率)との関係を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例11−4で得られた、アーレニウス(Arrhenius)プロット ベンジルブロミド分解反応の反応速度定数の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物と、両親媒性溶媒および水の混合溶媒と、を反応させる工程を有し、前記ハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる炭化水素化合物である、水酸基含有化合物の製造方法である。以下、本発明を詳説する。
【0015】
従来、例えば、炭素数1〜5、あるいは、炭素数1〜3程度(例えば、エチレンやプロピレン)のような低級のオレフィン化合物については、高圧の環境下での熱水(例えば180℃)と反応させることによって比較的簡単に水和をする技術が知られている。しかしながら、炭素数が大きくなるにつれて、水和が進まないという問題があり、上記で説明したように、従来、オレフィンの水和によるアルコール製造は、硫酸その他の酸触媒を用いる方法により行われてきた。
【0016】
その後、ヘテロポリ酸を用いる方法、トリフルオロメタンスルホン酸を用いる方法(例えば特許文献1)、硫酸チタン水溶液を用いる方法(例えば特許文献2)、固体酸触媒を用いる方法(例えば特許文献3)、ZSM−5ゼオライトを触媒に用いる方法(例えば特許文献4)などが開発され、さらに、触媒の不存在下に、亜臨界水あるいは超臨界水(300℃超、特には、374℃以上)を用いて水和反応させて水酸基含有化合物を製造する方法(例えば特許文献5)が開発された。
【0017】
しかしながら、上記のように、いずれの文献に記載されている発明も、環境負荷、経済性悪化、産業廃棄物処理、低収率の問題があり、実用化には程遠いものがあった。
【0018】
本発明によれば、環境負荷、経済性悪化、産業廃棄物処理、低収率の少なくとも1つの問題が解決された新規な水酸基含有化合物の製造方法を提供することができる。
【0019】
より具体的には、本発明は、硫酸のような環境負荷の問題を有するものを使用しない。よって、本発明は、環境負荷の低い製造方法を提供することができる。
【0020】
また、本発明は、ヘテロポリ酸や、トリフルオロメタンスルホン酸や、硫酸チタン水溶液や、固体酸触媒の使用を必須としない。よって、本発明は、経済性が向上し、これらの産業廃棄物の処理も不要となる。
【0021】
また、本発明は、亜臨界水または超臨界水(つまり、300℃超、特には、374℃以上)を使用しない。本発明者らは、亜臨界水または超臨界水を使用するような過酷な条件下で反応を行わせると、反応温度が非常に高温となってしまうので、生成された水酸基含有化合物の水酸基の脱離が起こってしまい、目的物(生成物)の収率が非常に悪いことを見出した。本発明は、副反応が抑制され、高い収率で目的物を得ることができる。
【0022】
また、本発明において用いられる炭化水素化合物は、ハロゲン化されている。そのため、反応効率が向上し、目的物の収率が向上する。また、本発明においては、反応溶媒として、水だけではなく、両親媒性溶媒をも含む、混合溶媒が使用される。そのため、炭化水素化合物の炭素数が大きくなっても、反応溶媒中への溶解度が向上する。つまりは、本発明における両親媒性溶媒は、(水への溶解度が低い)炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物と、水と、のメディエータのような機能を果たす。そのため、ハロゲン化炭化水素化合物と、水と、の反応が有意に進行する。そのため、本発明においては、高い収率で、水酸基含有化合物を得ることができる。
【0023】
しかも、本発明によれば、反応のメカニズムが比較的単純であるため、脱ハロゲン化率と、目的物の収率(水酸基の付加率)とが同じような値を示す。つまりは、副反応が抑制され、副生物の生成を有意に抑えながら効率的に水酸基含有化合物を得ることができる。そのため、本発明は、実用化、工業化の観点からして好ましい。また、副反応が抑制され、副生物の生成を有意に抑えることができるため、精製工程が単純になるため、経済性や、生産性の観点からしても好ましい。
【0024】
以下、本発明の構成要件を詳説する。
【0025】
<炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物>
本発明において、炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物は、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる、炭素数6〜30の炭化水素化合物である。本明細書中では、単に「本発明のハロゲン化炭化水素化合物」とも称する。
【0026】
(炭素数6〜30の炭化水素)
本発明における炭化水素化合物の炭素数は6〜30であれば特に制限はないが、目的物を高い収率で得ることができるとの観点、あるいは、副生物の生成を有意に抑えられるという観点で、炭素数は6〜24であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜22であり、さらに好ましくは炭素数6〜20であり、特に好ましくは炭素数6〜16である。溶解度を考慮すると、炭素数が小さい方が好ましい。
【0027】
本発明のハロゲン化炭化水素化合物は、少なくとも1つの第1級炭素を有する。具体的には、炭素数6〜30の直鎖状のアルカン(単に「直鎖状のアルカン」とも称する)、炭素数6〜30の分枝状のアルカン(単に「分枝状のアルカン」とも称する)などが挙げられる。他にも、少なくとも1つの第1級炭素を有する置換基が導入された環状のアルカン、あるいは、少なくとも1つの第1級炭素を有する置換基が導入された芳香族炭化水素などが挙げられる。ただし、反応性(例えば、目的物の収率、反応選択性、反応速度)の観点を考慮すると、直鎖状のアルカン、分枝状のアルカンであることが好ましい。
【0028】
本発明のハロゲン化炭化水素化合物は、非置換のものでも、特定の置換基によって置換されているものであってもよい。特定の置換基としては、特に制限されないが、炭素数1〜8のアルキル基(特に「芳香族炭化水素」に対する置換基として想定)、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数1〜8のアルコキシカルボニル基などが好ましく、具体的には、
メチル基、エチル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、メトキシエトキシ基、エトキシ基などが好ましい。なお、この場合の炭素数はかかる置換基の炭素数も含めて考えるものとする。
【0029】
炭素数6〜30の直鎖状のアルカンとしては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ヘンイコサン、トリアコンタン、スクアランなどが挙げられる。中でも、反応性などの観点で、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカンなどが好ましい。
【0030】
炭素数6〜30の分枝状のアルカンとしては、例えば、2,3,5−トリメチルヘキサン、2,7,8−トリメチルデカン、5−メチル−4−プロピルノナン、4−エチル−3,3−ジメチルヘプタン、4−イソプロピル−5−プロピルオクタン、3,3−ジメチルヘプタン、5,5−ビス(1,1−ジメチルプロピル)−2−メチルデカン、7−(1,1−ジメチルブチル)−7−(1,1−ジメチルペンチル)トリデカンなどが挙げられる。
【0031】
少なくとも1つの第1級炭素を有する置換基が導入された環状のアルカンとしては、上記で列挙された直鎖状のアルカンを由来とするアルキル基(つまり、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基、トリデカニル基、テトラデカニル基、ペンタデカニル基、ヘキサデカニル基、ヘプタデカニル基、オクタデカニル基、ノナデカニル基、イコサニル基、ヘンイコサニル基、トリアコンタニル基、スクアラニル基)、または、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはペンチル基、あるいは、分枝状のアルカンを由来とするアルキル基(つまり、分枝状のアルカンの水素原子の1つが脱離した1価の置換基、あるいは、炭素数1〜5の分枝状のアルカンの水素原子の1つが脱離した1価の置換基)が、環状のアルカンに導入されているものが挙げられる。環状のアルカンとしては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、シクロトリデカン、シクロテトラデカン、シクロペンタデカン、シクロヘキサデカン、シクロヘプタデカン、シクロオクタデカン、シクロノナデカン、シクロイコサン、シクロヘンイコサン、シクロトリアコンタンなどが挙げられる。
【0032】
よって、例えば、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0033】
少なくとも1つの第1級炭素を有する置換基が導入された芳香族炭化水素としては、上記で列挙された直鎖状のアルカンを由来とするアルキル基(つまり、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基、トリデカニル基、テトラデカニル基、ペンタデカニル基、ヘキサデカニル基、ヘプタデカニル基、オクタデカニル基、ノナデカニル基、イコサニル基、ヘンイコサニル基、トリアコンタニル基、スクアラニル基)、または、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはペンチル基、あるいは、分枝状のアルカンを由来とするアルキル基(つまり、分枝状のアルカンの水素原子の1つが脱離した1価の置換基、あるいは、炭素数1〜5の分枝状のアルカンの水素原子の1つが脱離した1価の置換基)が、芳香族炭化水素に導入されているものが挙げられる。芳香族炭化水素としては、芳香族単環炭化水素であっても、多環式炭化水素であってもよい(アレーン)。また、多環式炭化水素は、メチレン基またはエチレン基のようなアルキレン基のようなもので結合されているものであっても、縮合多環式炭化水素であってもよい。また、ヘテロ原子(例えば、酸素原子、硫黄原子あるいは窒素原子など)が含まれる複素環であってもよい。
【0034】
芳香族炭化水素の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、クリセン、ピレン、ペリレン、コロネン、オヴァレン、ピラントレン、インデン、フラン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、チオフェン、ピラジン、キノリン、イソキノリンなどが挙げられる。
【0035】
よって、例えば、メチルベンゼン(トルエン)、エチルベンゼン、プロピルベンゼンなどが挙げられる。
【0036】
(ハロゲン原子)
本発明において用いるハロゲン原子としては特に制限されず、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれを用いてもよいが、目的物を高い収率で得ることができるとの観点、副生物の生成を有意に抑えられるという観点で、臭素原子または塩素原子が好ましく、特に、反応性の観点から臭素原子が好ましい。
【0037】
炭素数6〜30の炭化水素化合物に導入されるハロゲン原子の数は1つに制限されない。このように2つ以上のハロゲン原子が含まれる場合、かかるハロゲン原子の種類は、同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
本発明においては、炭素数6〜30の炭化水素化合物の少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されている。
【0039】
通常、直鎖状のアルカンであれば、第1級炭素は両末端に存在する。この場合、この両末端のうちの一方だけに少なくとも1つのハロゲン原子が導入されていてもよいし、両末端とも、少なくとも1つのハロゲン原子が導入されていてもよい(導入されていない部分は、通常は水素原子が結合している。無論、水素原子に限定されず、上記で説明した特定の置換基が導入されたり、別の置換基が導入されたりしてもよい。以下も同様であるため、その説明を割愛する)。
【0040】
また、通常、分枝状のアルカンであれば、両末端の他にも、第1級炭素が存在する場合がある。そのような場合にも、分枝状のアルカンの少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されていればよい。
【0041】
環状のアルカンであれば、通常、環状のアルカンには第1級炭素は存在しないため、導入される置換基が、少なくとも1つの第1級炭素を有する。かかる少なくとも1つの第1級炭素を有する置換基の具体例は、直鎖状のアルカンを由来とするアルキル基(つまり、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基、トリデカニル基、テトラデカニル基、ペンタデカニル基、ヘキサデカニル基、ヘプタデカニル基、オクタデカニル基、ノナデカニル基、イコサニル基、ヘンイコサニル基、トリアコンタニル基、スクアラニル基)、または、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはペンチル基であってもよいし、分枝状のアルカンを由来とするアルキル基(つまり、分枝状のアルカンの水素原子の1つが脱離した1価の置換基、あるいは、炭素数1〜5の分枝状のアルカンの水素原子の1つが脱離した1価の置換基)であってもよい。
【0042】
芳香族炭化水素であれば、通常、芳香族炭化水素には第1級炭素は存在しないため、導入される置換基が、少なくとも1つの第1級炭素を有する。かかる少なくとも1つの第1級炭素を有する置換基の具体例は、上記と同様のものが妥当する。
【0043】
本発明によれば、過酷な反応条件(例えば、反応温度300℃超)にする必要がなく、反応条件を穏やかなものとすることが可能である。そうであるので、炭化水素化合物の第
1級炭素にハロゲン原子が導入される場合であっても以下の利点がある。すなわち、反応の過程において、炭化水素化合物の第1級炭素に導入されているハロゲン原子が脱離した後、非常に高い選択性で、その第1級炭素に水酸基を導入することができる。つまり、本発明の製造方法においては、炭化水素化合物においてハロゲン原子が導入されている部位に、選択的に水酸基を導入することができる。一方、従来の方法では、反応条件が過酷であるため(例えば、反応温度300℃超)、ハロゲン原子が脱離して、水酸基が導入されても、かかる水酸基がすぐに脱離してしまい、その部分に二重結合が形成され、さらに、反応条件によってはその二重結合が末端から中心へと移動してしまうことがある(二重結合が移動しない場合もある)。
【0044】
さらに、本発明によれば、炭化水素化合物に対する溶解度が有意に高い両親媒性溶媒が含まれているため、反応速度が有意に高い。そして、脱離したハロゲン原子は水の中へと溶解して副反応を起こすこともない。一方、従来の方法では、選択的に(つまりハロゲン原子が導入されている部位に)水酸基を導入することができないということを鑑みると、かような選択性という観点の比較においても、本発明は画期的なものであるといえる。
【0045】
なお、本発明のハロゲン化炭化水素化合物を準備する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法を参照し、あるいは組み合わせて、適用することができる。例えば、具体的に、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入された直鎖状のアルカン、または、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入された分枝状のアルカンを準備したいのであれば、所定のオレフィンをハロゲン化する方法を使用することによって準備することができる。また、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入された環状のアルカン、あるいは、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入された芳香族炭化水素であれば、例えば、光照射ラジカル反応など方法を用いて準備してもよい。無論、これらの方法に限られることはない。あるいは例えば、市販品を購入することによって、これらを準備することができる。
【0046】
本発明によれば、これまで水和が難しかった長鎖炭化水素化合物について、長鎖オレフィンをハロゲン化し、両親媒性溶媒が添加された水と反応させることによって、脱ハロゲン化と水和を同時に行い、無触媒でアルコールを製造することができる。なお、本発明は、場合によっては、従来公知の触媒をさらに添加することができる。そのような好ましい形態によれば、さらに反応速度を高め、反応温度を低下できると考えられる。
【0047】
本発明のハロゲン化炭化水素化合物は、さらに具体的には、1−ブロモへキサン、1−ブロモヘプタン、1−ブロモオクタン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、1−ブロモヘキサデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモオクタデカン、1−ブロモノナデカン、1−ブロモへニコサン、1−ブロモトリコサン、1−ブロモテトラコサン、1−ブロモペンタコサン、1−ブロモヘキサコサン、1−ブロモヘプタコサン、1−ブロモオクタコサン、1−ブロモノナコサン、1−ブロモトリアコンタン、1−ブロモエイコサン、1−ブロモドコサン、1,1−ジブロモへキサン、1,9−ジブロモノナン、1,12−ジブロモドデカン、1,8−ジブロモオクタン、1,10−ジブロモデカン、1,11−ジブロモウンデカン、1,6−ジブロモヘキサン、などの、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つの臭素原子が導入されてなるアルカン、
1−クロロへキサン、1−クロロヘプタン、1−クロロオクタン、1−クロロペンタデカン、1−クロロノナン、1−クロロデカン、1−クロロウンデカン、1−クロロドデカン、1−クロロトリデカン、1−クロロテトラデカン、1−クロロヘキサデカン、1−クロロヘプタデカン、1−クロロオクタデカン、1−クロロノナデカン、1−クロロへニコ
サン、1−クロロトリコサン、1−クロロテトラコサン、1−クロロペンタコサン、1−クロロヘキサコサン、1−クロロヘプタコサン、1−クロロオクタコサン、1−クロロノナコサン、1−クロロトリアコンタン、1−クロロエイコサン、1−クロロドコサン、1,1−ジクロロへキサン、1,9−ジクロロノナン、1,12−ジクロロドデカン、1,8−ジクロロオクタン、1,10−ジクロロデカン、1,11−ジクロロウンデカン、1,6−ジクロロヘキサン、などの少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つの塩素原子が導入されてなるアルカン、
ブロモトルエン、ブロモエチルベンゼン、ブロモプロピルベンゼン、ブロモブチルベンゼン、ジブロモジメチルベンゼン、ジブロモジエチルベンゼン、ブロモエチルメチルベンゼン、ブロモトリメチルベンゼンなどの少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つの臭素原子が導入されてなる芳香族炭化水素、
クロロトルエン、クロロエチルベンゼン、クロロプロピルベンゼン、クロロブチルベンゼン、ジクロロジメチルベンゼン、ジクロロジエチルベンゼン、クロロエチルメチルベンゼン、クロロトリメチルベンゼン、などの少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つの塩素原子が導入されてなる芳香族炭化水素、などが挙げられる。
【0048】
中でも、反応性などの観点で、好ましくは、1−ブロモへキサン、1−ブロモヘプタン、1−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘキサデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモオクタデカン、1−ブロモノナデカン、1−ブロモへニコサン、1−ブロモトリコサン、1−ブロモテトラコサン、1−ブロモペンタコサン、1−ブロモヘキサコサン、1−ブロモヘプタコサン、1−ブロモオクタコサン、1−ブロモノナコサン、1−ブロモトリアコンタンであり、
より好ましくは、1−ブロモへキサン、1−ブロモヘプタン、1−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘキサデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモオクタデカンであり、
さらに好ましくは、1−ブロモへキサン、1−ブロモヘプタン、1−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘキサデカンである。
【0049】
なお、上記の列挙のうち、「クロロ」「ブロモ」「フルオロ」「ヨード」は、相互に置換が可能である。例えば「1−ブロモへキサン」との開示がある場合、同時に「1−フルオロへキサン」の開示があるようにみなされる。
【0050】
<両親媒性溶媒および水の混合溶媒>
以下「両親媒性溶媒および水の混合溶媒」を本発明の混合溶媒とも称する。
【0051】
(両親媒性溶媒)
本発明において「両親媒性溶媒」とは、疎水性及び親水性の両方の性質あるいは中間の性質を有する溶媒であれば特に制限されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジアセチル、アセチルアセトンなどのジケトン類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;メチルアミン、エタノールアミンなどのアミン類;およびテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル類からなる群から選択される少なくとも1種であると、目的物を高い収率で得ることができるとの観点で好ましい。また、副生物の生成を有意に抑えられるという観点でも好ましい。
【0052】
中でも、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコール、ジオキサン、1−ブタノール、t−ブタノール、ジメチルホルムアミド、エタノールアミンおよびメチルエチルケトン(MEK)からなる群から選択される少なくとも1種であることが、上記の観点からより好ましい。
【0053】
中でも特に、アセトン、1−プロパノール、2−プロパノールおよびテトラヒドロフラン(THF)からなる群から選択される少なくとも1種であることが、副生物の生成をさらにより有意に抑えられるという観点で好ましい。例えば、実施例1−1〜1−8でもメタノール、エタノールの場合、収率は高くなく、1−プロパノール、2−プロパノールが高い。以上のことから、アルコールではプロパノールがよいといえる。これは、プロパノールの方が、メタノールやエタノールに比して反応性が低く、適度に水に溶解するのがよい理由と推測される。
【0054】
また、アセトン、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、および2−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種であることが、目的物をさらにより高い収率で得ることができるとの観点で好ましい。
【0055】
特に、アセトンであることが、特に高い収率で、かつ、副生成物の生成を特に抑制しながら得ることができるという観点で好ましい。
【0056】
(水)
本発明において用いられる水としては、工業水、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等、特に制限されないが、目的物を高い収率で得ることができるとの観点、また、副生物の生成を有意に抑えられるという観点で、蒸留水、純水、超純水であることが好ましい。
【0057】
(両親媒性溶媒および水の混合溶媒のモル分率)
本発明の混合溶媒における、「両親媒性溶媒」および「水」のモル分率においても特に制限はない。つまりは、本発明の混合溶媒中において、両親媒性溶媒のモル分率が0を超えるものであれば、従来の方法よりも、目的物の収率などが向上するため、特に制限はない。
【0058】
ただし、目的物の収率や脱ハロゲン化率をより高いレベルで求める場合、本発明の混合溶媒中の両親媒性溶媒のモル分率は、ハロゲン化炭化水素化合物の種類または反応温度によっても前後することがある。例えば、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、混合溶媒中の両親媒性溶媒のモル分率は、好ましくは0.05〜0.70、より好ましくは0.1〜0.5、さらに好ましくは0.1〜0.4、特に好ましくは0.15〜0.3である。かかるモル分率の範囲が好ましくなるにつれて、目的物の収率が向上し、また、脱ハロゲン化率も向上する。ここで、ハロゲン化炭化水素の種類としては、1−ブロモへキサン、1−ブロモヘプタン、1−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカンまたは1−ブロモヘキサデカンなどが好ましい。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、混合溶媒中の両親媒性溶媒のモル分率は、好ましくは0.01〜0.8、より好ましくは0.03〜0.5、さらに好
ましくは0.05〜0.3である。かかるモル分率の範囲が好ましくなるにつれて、目的物の収率が向上し、また、脱ハロゲン化率も向上する。ハロゲン化炭化水素の種類としては、ブロモメチルベンゼン(ベンジルブロミド)、ブロモエチルベンゼン、ブロモプロピルベンゼンなどが好ましい。
【0059】
かかるモル分率の範囲を設定する際の反応温度としては、例えば、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜250℃、さらに好ましくは150〜170℃である。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、かかるモル分率の範囲を設定する際の反応温度としては、好ましくは50〜300℃、より好ましくは70〜200℃、さらに好ましくは80〜150℃である。
【0060】
本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、かかるモル分率が前記範囲であると、目的物の収率が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上になる。つまり、従来の技術(例えば、特許文献5)のような数%しか収率を得られないことと比較すると、本発明は非常に画期的と言える。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、かかるモル分率が前記範囲であると、目的物の収率が30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上になる。
【0061】
上記も述べたが、特許文献5に記載されているような、過酷な反応条件で反応を行うと、生成された水酸基含有化合物の水酸基が脱離してしまう反応も起きるため、結果として、高い収率を得ることはできない。本発明によれば、水には溶解しない、炭素数の高いハロゲン化炭化水素化合物を両親媒性溶媒に溶解させて反応を促進させるため、穏やかな条件であっても、効率よく目的物を得ることができる。
【0062】
<反応させる工程>
上記のように本発明の水酸基含有化合物の製造方法は、炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物と、両親媒性溶媒および水の混合溶媒と、を反応させる工程を有し、前記ハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる炭化水素化合物である。以下では、「反応させる工程」について説明する。
【0063】
本発明の製造方法における反応の方法としては、回分式(バッチ式)でも連続式でもどちらでもよい。つまりは、回分式(バッチ式)のように、投入、反応、回収の工程を順番にひとつずつ行ってもよいし、工業化を考慮するのであれば、投入、反応、回収を全て同時に行い、途切れなく行ってもよい。また、反応器にも特に制限はない。回分式(バッチ式)であっても、連続式であっても、従来公知の反応器を適宜選択し、あるいは組みあわせ、必要に応じて改良して使用すればよい。
【0064】
本発明においては、本発明のハロゲン化炭化水素化合物と、本発明の混合溶媒との反応は、例えば、固液接触でも行うものであっても、液液接触で行うものであってもよい。固
液接触であれば、一方の液体形態の方に、他方の固体形態を混合すればよい。液液接触であれば、一方の液体形態の方に、他方の形態を混合すればよい。つまり、かように接触させて水酸基が導入することができる方法であれば特に制限されない。
【0065】
本発明のハロゲン化炭化水素化合物と、本発明の混合溶媒と、の混合割合にも、水酸基含有化合物を製造することができる割合であれば特に制限はないが、本発明の混合溶媒100質量部とした際に、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜8質量部、さらに好ましくは0.3〜7質量部、特に好ましくは0.4〜6質量部である。かような範囲であると、目的物の収率、脱ハロゲン化率、選択性などが向上する。
【0066】
本発明において反応温度は、水酸基含有化合物が製造できれば特に制限はないが、反応性や生産性を考慮すると、例えば、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは85〜250℃であり、さらに好ましくは90〜230℃であり、よりさらに好ましくは100〜210℃であり、特に好ましくは110〜200℃であり、より特に好ましくは115〜185℃である。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、反応温度は、好ましくは60〜300℃、より好ましくは70〜180℃、さらに好ましくは80〜150℃である。
【0067】
また、本発明において反応時間は、水酸基含有化合物が製造できれば特に制限はないが、反応性や生産性を考慮すると、例えば、好ましくは0.5〜300分であり、より好ましくは1.0〜200分であり、さらに好ましくは3.0〜100分であり、よりさらに好ましくは4.0〜80分である。
【0068】
また、反応温度および反応時間の組み合わせとしては、水酸基含有化合物を製造できるように、適宜選択すればよい。例えば、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、160℃で10分間反応を行う場合と同等の、生成物収率(%)(単に「生成物収率」を「収率」とも称する)や、脱臭素化率(%)を得たい場合は、100〜145℃程度であれば、20〜315分程度であることが好ましく、150〜200℃程度であれば、1.5〜17分程度であることが好ましく、205〜250℃程度であれば、0.2〜1.4分程度であることが好ましく、255〜300℃程度であれば、0.05〜0.22分程度であることが好ましい。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、100℃で10分間反応を行う場合と同等の、生成物収率(%)(単に「生成物収率」を「収率」とも称する)や、原料の反応率(%)を得たい場合は、70〜300℃程度であれば、0.005〜70分程度であることが好ましく、80〜180℃程度であれば、0.2〜35分程度であることが好ましく、90〜120℃程度であれば、1〜20分程度であることが好ましい。
【0069】
また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、160℃で80分間反応を行う場合と同等の、生成
物収率(%)や、脱臭素化率(%)を得たい場合は、100〜145℃程度であれば、172〜2500分程度であることが好ましく、150〜200℃程度であれば、13〜133分程度であることが好ましく、205〜250℃程度であれば、2〜11分程度であることが好ましく、255〜300℃程度であれば、0.4〜1.7分程度であることが好ましい。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、80℃で60分間反応を行う場合と同等の、生成物収率(%)(単に「生成物収率」を「収率」とも称する)や、原料の反応率(%)を得たい場合は、70〜300℃程度であれば、0.005〜120分程度であることが好ましく、80〜180℃程度であれば、0.5〜60分程度であることが好ましく、90〜150℃程度であれば、1〜35分程度であることが好ましい。
【0070】
これらは、反応器の種類や、生産性を考慮して適宜決定すればよい。
【0071】
つまりは、流通式のように、被反応物を高速で流せる反応器を使用すれば、多少高い温度で反応を行っても、瞬時に冷却を行なうことができる。かような場合、反応時間が有意に短いので、目的の水酸基含有化合物を効率よく製造することができる。一方で、回分式のように反応時間が比較的長くなるような場合であっても、それに対応するように反応温度を低くすることによって、目的の水酸基含有化合物を、効率よく製造することができる。
【0072】
他方、反応終了後に目的物を回収する方法にも特に制限はなく、当業者であれば、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせることによって、目的物を単離、精製することにより行うことができる。例えば、目的物がアルコールである場合、アルコールは比較的沸点が高く、一方で、例えば、両親媒性溶媒としてアセトンを使用する場合、アセトンは比較的沸点が低いため、これらの沸点の差を利用して蒸留操作をすることによって、目的物を単離すればよい。あるいは、事後的に分析が必要な状況であれば、その際に利用される溶媒などを用いて適宜抽出作業をすればよい。その他の方法として、膜分離を用いて行ってもよい。
【0073】
<水酸基含有化合物>
水酸基含有化合物は、本発明の製造方法における目的物である。本発明の製造方法においては、本発明のハロゲン化炭化水素化合物と、水とが使用される。つまり、本発明の水酸基含有化合物は、本発明のハロゲン化炭化水素化合物におけるハロゲン原子が脱離して、水に由来する(あるいは両親媒性溶媒に由来する)水酸基が導入されることによって製造されてなるものであれば特に制限されない。例えば、炭素数6〜30の脂肪族アルコール、炭素数6〜30のヒドロキシアルキルアレーン、脂肪族ジオールなどであることが好ましい。
【0074】
高級アルコールは、界面活性剤、可塑剤、潤滑剤として工業的に有用である。しかし、上記のように、従来においては、高級オレフィンからの環境負荷の低い製造法は実用化されていなかった。また、特に、炭素数10〜12程度の原油の精留留分は化学原料として十分活用されておらず、種々の原料への転換が望まれている。
【0075】
本発明によれば、かような高級アルコールを含めて、所望の水酸基含有化合物を非常に容易に、高い収率で、また、高い脱ハロゲン化率で、製造することができる。
【0076】
なお、本明細書中、目的物(生成物)の収率と、脱ハロゲン化率とは、以下の数式で算出される。
【0077】
【数1】

【0078】
【数2】

【0079】
本発明の製造方法における目的物(生成物)の収率は、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上であることが好ましい。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、目的物(生成物)の収率は、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上であることが好ましい。
【0080】
本発明の製造方法における脱ハロゲン化率(原料の反応率)は、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上であることが好ましい。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、脱ハロゲン化率(原料の反応率)は、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上であることが好ましい。
【0081】
本発明の製造方法における選択率(目的物(生成物)の収率/脱ハロゲン化率(原料の反応率))は、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる直鎖状のアルカンおよび分枝状のアルカン、並びに少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された環状のアルカンの場合、好ましくは0.2〜1、より好ましくは0.6〜1、さらに好ましくは0.8〜1である。また、本発明のハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる置換基が導入された芳香族炭化水素の場合、選択率(目的物(生成物)の収率/脱ハロゲン化率(原料の反応率))は、好ましくは0.2〜1、より好ましくは0.6〜1、さらに好ましくは0.8〜1である。
【0082】
(その他成分)
また、本発明の製造方法においては、反応速度を高め、反応温度を低下する目的で、従来公知の触媒を用いてもよい。本発明で用いることができる触媒としては特に制限はないが、例えば、ゼオライト、無機酸などの酸性基を付加したカーボン、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの塩基性基を付加したカーボンなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種類以上で用いてもよい。
【0083】
また、触媒の他にも、本発明の所期の目的を害さない範囲で、別の添加剤を含んでもよく、例えば、無機塩または無機イオンなどを含んでもよい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例および比較例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0085】
<実施例1:両親媒性溶媒の種類と、生成物収率および脱臭素化率との関係>
(実施例1−1)
所定のハロゲン化炭化水素化合物として1−ブロモドデカン 20mgと、両親媒性溶媒としてアセトン(Acetone)および超純水の混合溶媒(両親媒性溶媒のモル分率:0.2)2.0gと、をステンレス製回分式反応管(内容積3.5mL)に仕込み、かかる反応管を閉じた。かかる反応管を設定温度(160℃)に保った溶融塩浴に浸し、30分間反応(反応時間)させた。所定時間経過後、水浴で反応管を急冷することによって反応を停止させ、反応生成物を得た。
【0086】
かかる反応液をアセトンで回収し、得られた回収液をGC−FIDを用いて生成物の定量を行い、下記に示す定義に基づき、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0087】
【数3】

【0088】
【数4】

【0089】
(実施例1−2)
両親媒性溶媒をエタノール(EtOH)に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0090】
(実施例1−3)
両親媒性溶媒を1−プロパノール(1−PrOH)に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0091】
(実施例1−4)
両親媒性溶媒を2−プロパノール(2−PrOH)に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0092】
(実施例1−5)
両親媒性溶媒をテトラヒドロフラン(THF)に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0093】
(実施例1−6)
両親媒性溶媒をメタノール(MeOH)に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0094】
(実施例1−7)
両親媒性溶媒を1−ブタノール(1−BuOH)に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0095】
(実施例1−8)
両親媒性溶媒をt−ブタノール(t−BuOH)に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0096】
(比較例1−1)
両親媒性溶媒を添加しない(つまり、溶媒が超純水のみ;モル分率0)以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
上記の表1および図1から分かるように、両親媒性溶媒を含むいずれの形態も、従来の方法(特許文献5では数%であることが示されている)によるものに比して生成物収率(%)が非常に高いことが示唆される。特に、アセトン、1−プロパノールおよび2−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種を両親媒性溶媒として用いると、生成物収率(%)が格段に高いことが示唆される。
【0099】
特に、アセトンを両親媒性溶媒として用いると、生成物収率(%)が70%を超えており、非常に好ましいことが示唆される。なお、両親媒性溶媒を添加せず、水のみの場合は、生成物収率(1−ドデカノール収率)がほぼゼロであり反応が起きていないことが示唆される。
【0100】
一方で、脱臭素化率(%)については、アセトン、1−プロパノール、2−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種を両親媒性溶媒として用いると、非常に高いことが示唆される。なお、脱臭素化率(%)についても、両親媒性溶媒を添加せず、水のみの場合、ほぼゼロであり反応が起きていないことが示唆される。
【0101】
他方、アセトン、メタノールおよびテトラヒドロフラン(THF)からなる群から選択される少なくとも1種を両親媒性溶媒として用いると、生成物収率(%)と、脱臭素化率(%)とが同等であるという観点で、副生物の生成をより有意に抑えられるということが示唆される。
【0102】
<実施例2:両親媒性溶媒のモル分率と、生成物収率および脱臭素化率との関係>
(実施例2−1)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.05に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0103】
(実施例2−2)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.10に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0104】
(実施例2−3)
実施例2−3は、実施例1−1と同様の方法である。結果を表2および図2に示す。
【0105】
(実施例2−4)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.25に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0106】
(実施例2−5)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.29に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0107】
(実施例2−6)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.35に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0108】
(実施例2−7)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.40に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0109】
(実施例2−8)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.50に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0110】
(実施例2−9)
混合溶媒における両親媒性溶媒のモル分率を0.60に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
上記の表2および図2から分かるように、両親媒性溶媒が含まれているいずれの形態のモル分率であっても、従来の方法(特許文献5では数%であることが示されている)によるものに比して生成物収率(%)が非常に高いことが示唆される。特に、両親媒性溶媒のモル分率が0.1〜0.4である際に、特に、その効果が顕著であることが示唆されている。
【0113】
<実施例3:仕込み全体の液量(質量)と、生成物収率および脱臭素化率との関係>
(実施例3−1)
1−ブロモドデカンの質量を11mgとし、アセトン(Acetone)の質量を0.486gとし、超純水の質量を0.603gとした以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した(仕込み全体の質量;1.1g)。結果を表3および図3に示す。
【0114】
(実施例3−2)
1−ブロモドデカンの質量を15mgとし、アセトン(Acetone)の質量を0.663gとし、超純水の質量を0.822gとした以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した(仕込み全体の質量;1.5g)。結果を表3および図3に示す。
【0115】
(実施例3−3)
1−ブロモドデカンの質量を20mgとし、アセトン(Acetone)の質量を0.884gとし、超純水の質量を1.100gとした以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した(仕込み全体の質量;2.0g)。結果を表3および図3に示す。
【0116】
(実施例3−4)
1−ブロモドデカンの質量を25mgとし、アセトン(Acetone)の質量を1.100gとし、超純水の質量を1.370gとした以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した(仕込み全体の質量;2.5g)。結果を表3および図3に示す。
【0117】
【表3】

【0118】
上記の表3および図3から分かるように、混合溶媒の液量を変化させた場合であっても、生成物収率および脱臭素化率に殆ど影響を及ぼさないことが分かる。これを換言すると、本発明の製造方法において行われている反応は「液相中」で起こっていることが示唆され、さらに言い換えると、上相の気相の量が変化してもほとんど影響が見られないということが言える。つまりは、本発明の製造方法において行われている反応は「気相中」ではなく「液相中」で進行していることが分かる。
【0119】
<実施例4:ハロゲン化炭化水素化合物の質量と、生成物収率および脱臭素化率との関係>
(実施例4−1)
ハロゲン化炭化水素化合物の質量を10mgに変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表4および図4に示す。
【0120】
(実施例4−2)
ハロゲン化炭化水素化合物の質量を20mgに変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表4および図4に示す。
【0121】
(実施例4−3)
ハロゲン化炭化水素化合物の質量を50mgに変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表4および図4に示す。
【0122】
(実施例4−4)
ハロゲン化炭化水素化合物の質量を100mgに変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表4および図4に示す。
【0123】
【表4】

【0124】
上記の表4および図4から分かるように、いずれのハロゲン化炭化水素化合物の質量による形態においても、従来の方法(特許文献5では数%であることが示されている)によるものに比して生成物収率(%)が非常に高いことが示唆される。ただ、より高い生成物
収率や脱臭素化率が必要な場合であれば、ハロゲン化炭化水素化合物の質量を低下させるか、混合溶媒の質量を高くすることがよいことが示唆される。
【0125】
<実施例5:反応の経時変化>
(実施例5−1)
反応時間を 5分に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表5および図5に示す。
【0126】
(実施例5−2)
反応時間を10分に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表5および図5に示す。
【0127】
(実施例5−3)
反応時間を15分に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表5および図5に示す。
【0128】
(実施例5−4)
反応時間を40分に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表5および図5に示す。
【0129】
(実施例5−3)
反応時間を60分に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表5および図5に示す。
【0130】
【表5】

【0131】
上記の表5および図5から分かるように、いずれの温度においても、生成物収率と脱臭素化率とがほぼ同じであることが分かり、換言すれば、選択的に脱臭素とアルコール生成がほぼ同時に起きていることが分る。これより、本方法は高い選択性でアルコールが生成し、副反応がほとんど起きない有効な方法であることが分る。つまりは、時間の経過に伴い、反応は進行し、1−ドデカノール収率と脱臭素化率は常にほぼ等しいため、これより反応は脱臭素化とアルコールの生成が同時に起きていると考えられる。
【0132】
<実施例6:反応時間−反応温度の関係>
(実施例6−1):120℃
(実施例6−1−1)
反応時間を10分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。なお、かかる収率は反応液をGC−FIDに注入し、クロマトグラムのピーク面積から1−ブロモドデカン量(未反応量)を測定した。
【0133】
(実施例6−1−2)
反応時間を20分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0134】
(実施例6−1−3)
反応時間を30分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0135】
(実施例6−1−4)
反応時間を40分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0136】
(実施例6−1−5)
反応時間を50分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0137】
(実施例6−1−6)
反応時間を60分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0138】
(実施例6−1−7)
反応時間を90分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0139】
(実施例6−1−8)
反応時間を120分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0140】
(実施例6−1−9)
反応時間を180分とし反応温度を120℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0141】
(実施例6−2):140℃
(実施例6−2−1)
反応時間を10分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0142】
(実施例6−2−2)
反応時間を20分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0143】
(実施例6−2−3)
反応時間を30分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0144】
(実施例6−2−4)
反応時間を40分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0145】
(実施例6−2−5)
反応時間を50分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0146】
(実施例6−2−6)
反応時間を60分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0147】
(実施例6−2−7)
反応時間を70分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0148】
(実施例6−2−8)
反応時間を80分とし反応温度を140℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0149】
(実施例6−3):160℃
(実施例6−3−1)
実施例5−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0150】
(実施例6−3−2)
実施例5−2と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0151】
(実施例6−3−3)
実施例5−3と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0152】
(実施例6−3−4)
実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0153】
(実施例6−3−5)
実施例5−4と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物
」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0154】
(実施例6−3−6)
実施例5−5と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0155】
(実施例6−4):170℃
(実施例6−4−1)
反応時間を5分とし反応温度を170℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0156】
(実施例6−4−2)
反応時間を10分とし反応温度を170℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0157】
(実施例6−4−3)
反応時間を15分とし反応温度を170℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0158】
(実施例6−4−4)
反応時間を20分とし反応温度を170℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0159】
(実施例6−4−5)
反応時間を30分とし反応温度を170℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0160】
(実施例6−4−6)
反応時間を40分とし反応温度を170℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0161】
(実施例6−5):180℃
(実施例6−5−1)
反応時間を3分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0162】
(実施例6−5−2)
反応時間を4分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0163】
(実施例6−5−3)
反応時間を5分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法
を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0164】
(実施例6−5−4)
反応時間を10分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0165】
(実施例6−5−5)
反応時間を15分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0166】
(実施例6−5−6)
反応時間を20分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0167】
(実施例6−5−7)
反応時間を25分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0168】
(実施例6−5−8)
反応時間を30分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0169】
(実施例6−5−9)
反応時間を40分とし反応温度を180℃に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、「反応されずに残ったハロゲン化炭化水素化合物」の収率を計算した。結果を表6および図6に示す。
【0170】
【表6−1】

【0171】
【表6−2】

【0172】
<実施例7:Arrheniusプロット 一次反応速度定数の温度依存性>
脱臭素化を擬一次反応と仮定し、各温度における反応速度定数を求めるとプロットは直線性を示し、脱臭素化反応は擬一次反応で記述することができた。図7に求めた擬一次反応速度定数のアーレニウスプロットを示す。近似直線の傾きから反応における活性化エネルギーは77kJmol-1と得られた。
【0173】
【表7】

【0174】
<実施例8>
(実施例8−1)
1−ブロモドデカンを1−ブロモデカンに変更に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0175】
(実施例8−2)
1−ブロモドデカンを1−ブロモテトラデカンに変更し、さらに、モル分率を0.21に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0176】
(実施例8−3)
1−ブロモドデカンを1−ブロモヘキサンに変更に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0177】
(比較例8−1)
1−ブロモドデカンを1−ブロモデカンに変更に変更した以外は、比較例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0178】
(比較例8−2)
1−ブロモドデカンを1−ブロモテトラデカンに変更した以外は、比較例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0179】
(比較例8−3)
1−ブロモドデカンを1−ブロモヘキサンに変更に変更した以外は、比較例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0180】
(比較例8−4)
1−ブロモドデカンを1−ドデセンに変更に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0181】
(比較例8−5)
1−ブロモドデカンをブロモシクロヘキサンに変更に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0182】
(比較例8−6)
1−ブロモドデカンをブロモシクロヘキサンに変更に変更した以外は、比較例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0183】
(比較例8−7)
1−ブロモドデカンをブロモベンゼンに変更に変更した以外は、実施例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0184】
(比較例8−8)
1−ブロモドデカンをブロモベンゼンに変更に変更した以外は、比較例1−1と同様の方法を行って、生成物収率および脱臭素化率を計算した。結果を表8に示す。
【0185】
【表8】

【0186】
<実施例9〜11の実験について>
実施例9〜11及び比較例9では、芳香族アルキルであるベンジルブロミドについて実験を行った。
【0187】
【化1】

【0188】
実施例9〜11及び比較例9は、回分式反応器による実験で、反応装置および実験方法
は実施例1と同様である。以下に記す実施例9〜11とも混合溶媒量(アセトン水溶液)=2.0g一定とした。また比較例9ではアセトン無添加溶媒量(水)=2.0g一定とした。
【0189】
実施例9〜11及び比較例9の反応条件(反応温度、反応時間、ベンジルブロミド仕込み量、アセトンモル分率)は、以下に個別に記述する。
【0190】
<収率定義式について>
収率定義式についても、実施例1で定義した収率定義式中のブロモドデカンをベンジルブロミドに変更した以外は同じで、下記の通りである。
【0191】
【数5】

【0192】
【数6】

【0193】
【数7】

【0194】
実施例9:アセトンのモル分率の影響
ベンジルブロミド仕込み量を一定(80mg単位;ブロモドデカンの場合に合わせる)とし、反応温度を100℃、反応時間を30分として、溶媒組成を変化させたとき(溶媒量は2.0g一定)の生成物であるベンジルアルコール収率と原料であるベンジルブロミド反応率(=脱臭素化率)を表9及び図8に示す。
【0195】
【表9】

【0196】
上記表9及び図8より、ブロモドデカンの場合と同じように、生成物収率(ベンジルア
ルコール収率)はアセトンモル分率に大きく依存している。この場合、アセトンモル分率が0.10付近でベンジルアルコールは最大収率(約90%)を得るが、ブロモドデカンは、図2よりアセトンモル分率が0.25付近で最大収率(約80%)である。これはベンジルブロミドの方が水への溶解度が高いため、溶解度が極めて低いブロモドデカンの場合と比べて、低アセトンモル分率の0超〜0.20付近でも生成物収率(ベンジルアルコール収率)が高いと考えられる。アセトンモル分率が上昇するとブロモドデカンの場合と同様にベンジルブロミド反応率(=脱臭素化率)、生成物収率(ベンジルアルコール収率)ともに低下する。
【0197】
実施例10:回分式反応器で、100℃、30分、反応を行った場合の、ベンジルブロミドの反応率とベンジルアルコールの生成量(収率)に及ぼすベンジルブロミド仕込量の影響
溶媒組成と溶媒仕込み量を一定にし(アセトンモル分率=0.20、溶媒仕込み量=2.0g)、反応温度を100℃、反応時間を30分として、原料であるベンジルブロミドの仕込み量を0.01〜0.1gまで変化させた場合の原料のベンジルブロミドの反応率と生成物のベンジルアルコールの収率に及ぼすベンジルブロミド仕込み量の影響を表10及び図9に示す。
【0198】
比較例9:回分式反応器で、100℃、30分、反応を行った場合の、ベンジルブロミドの反応率とベンジルアルコールの生成量(収率)に及ぼすベンジルブロミド仕込量の影響
溶媒組成と溶媒仕込み量を一定にし(アセトンモル分率=0.00、溶媒仕込み量=2.0g)、反応温度を100℃、反応時間を30分として、原料であるベンジルブロミドの仕込み量を0.010〜0.149gまで変化させた場合の原料のベンジルブロミドの反応率と生成物のベンジルアルコールの収率に及ぼすベンジルブロミド仕込み量の影響を表10及び図9に示す。
【0199】
【表10】

【0200】
実施例10のアセトン添加(アセトンモル分率=0.2)と比較例9の無添加の場合の、ベンジルブロミド反応率とベンジルアルコール収率との比較について
図9に、アセトン添加と無添加の場合の、ベンジルブロミド反応率とベンジルアルコール収率に及ぼすベンジルブロミド添加量の影響を示す。上記表10及び図9より、アセトン添加、無添加の両場合ともベンジルブロミド仕込量の増加に伴い、ベンジルブロミド反応率は減少し、また、アセトン添加、無添加の両場合とも、ベンジルブロミド反応率に大きな差は見られない。しかしながら、生成物であるベンジルアルコール収率はアセトン添加、無添加で顕著な差が認められる。アセトン添加(実施例10)の場合、ベンジルアルコール収率はベンジルブロミド反応率と比べて、同じかあるいは僅かに低い値で、反応したベンジルブロミドがほぼベンジルアルコールに変換されている。しかし、アセトン無添加の場合(比較例9)、ベンジルアルコール収率はベンジルブロミド反応率よりかなり低い値を示し、反応したベンジルブロミドのうち、ベンジルアルコールに変換された分はわずかであることがわかる。特に、本手法を実用化する場合、効率を上げるために試料のベンジルブロミドの仕込量はなるべく多くすべきであるが、ベンジルブロミド仕込量が最小の0.01g付近を除いて、仕込量が0.02g以上ではベンジルアルコール収率は10〜20%程度で、アセトン添加の場合の60〜80%と比べてはるかに低収率であり、アセトンの添加はベンジルアルコール収率の増加に極めて効果的である。
【0201】
実施例11:各温度におけるベンジルアルコール収率の経時変化
最大生成物収率を示したアセトンモル分率=0.20における、70〜100℃の温度範囲での各温度についての生成物のベンジルアルコールの収率の経時変化を表11及び図10に示す。いずれもベンジルブロミド仕込み量は20mg、アセトンモル分率は0.20である。
【0202】
【表11】

【0203】
1)生成物収率の経時変化について
上記表11及び図10より、いずれの温度においても反応時間と反応温度の増加ととも
にベンジルアルコール収率は増加する。反応温度100℃においてはほぼ20分で収率90%超えるが、それ以後の収率の増加はゆっくりである。70℃の低温では90分で収率60%程度で頭打ちとなることがわかった。
【0204】
2)各反応温度、反応時間におけるベンジルアルコール収率とベンジルブロミド反応率との関係について
各反応温度、反応時間におけるベンジルアルコール収率と原料のベンジルブロミドの反応率との関係を図11に示す。表11及び図10に示したデータをプロットし直したものである。
【0205】
表11及び図11より、反応温度、反応時間にかかわらず、反応率全域において、原料のベンジルブロミドの反応率と生成物のベンジルアルコールの収率は、ほぼ±10%以内で等しい。よって、副反応の割合は少なく、ベンジルブロミドが高選択的にベンジルアルコールに変換されていることがわかる。
【0206】
3)反応速度について(ベンジルブロミド残存率の経時変化について)
ブロモドデカンの場合と同様、原料のベンジルブロミドの消失速度は、図12に示すように、ベンジルブロミド残存率(=ベンジルブロミド未反応率;表11の反応率より、反応率[%]=1−未反応率[%]に代入して求めた。図12では残ベンジルブロミド[%]と表示した。)についての一次反応速度式で表される。
【0207】
4)反応速度定数について
図11の直線の傾きから求めた反応速度定数(下記表12に示す)についてのアーレニウスプロット(ベンジルブロミド分解反応の速度定数)を図13に示す。
【0208】
【表12】

【0209】
図13より、70〜100℃の温度範囲で反応速度定数は片対数プロットで直線関係を示し、活性化エネルギーは67.6kJ/molと得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6〜30のハロゲン化炭化水素化合物と、
両親媒性溶媒および水の混合溶媒と、
を反応させる工程を有し、
前記ハロゲン化炭化水素化合物が、少なくとも1つの第1級炭素に少なくとも1つのハロゲン原子が導入されてなる炭化水素化合物である、水酸基含有化合物の製造方法。
【請求項2】
前記炭化水素化合物が、直鎖状または分枝状のアルカンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記両親媒性溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコール、ジオキサン、1−ブタノール、t−ブタノール、ジメチルホルムアミド、エタノールアミンおよびメチルエチルケトン(MEK)、ジアセチル、アセチルアセトンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン原子が、臭素原子または塩素原子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−77075(P2012−77075A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194390(P2011−194390)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 化学工学会第42回秋季大会(2010)研究発表講演プログラム集
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】