説明

水銀ランプ

【課題】220〜300nmの短波長紫外線に、吸収波長域を有する光開始剤を含有した硬化材料を被照射物として使用した場合に、高い発光効率の照射を実現する。
【解決手段】紫外線透過性の材料からなる発光管11と、この発光管11内に封装されている一対の耐火性金属からなる電極121,122と、発光管11内にアーク放電を維持するのに十分な量の希ガス、水銀を封入して水銀ランプを構成する。この水銀ランプの安定点灯時の電位傾度D(V/cm)を14<D<25とした。これにより、220〜300nmに発光効率の高い紫外線を得ることができる。この水銀ランプを、220〜300nmの間に吸収波長域をもつ光開始剤が含有された硬化剤に照射させた場合に、硬化剤の硬化速度を早めることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外線の所定区間に吸収波長域をもつ光開始剤を高い発光効率で作用させる水銀ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紫外線蛍光ランプは、ソーダ石灰ガラスからなる発光管の内部に水銀および希ガスを含む放電媒体を封入し、発光管内部に低圧水銀蒸気放電を生起させるように一対の電極を配置している。さらに発光管の内面には波長が320〜400nmの近紫外線を発光するCe(MeBa)Al1119、YPO:Ce、LaPO:Ce等の蛍光体を少なくもと一つまたは組合せたもので、紫外線硬化形樹脂の内部―の浸透性の高いUV−A領域の光と紫外線硬化形樹脂の表面を硬化させる力の強いUV−Cの光を1本のランプで同時に得ることができる。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−358926公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1の技術は、紫外線硬化形樹脂の硬化を開始させる光開始剤が必要とする波長が長いことから、照度の絶対値が低い紫外線硬化剤を硬化させるための紫外線蛍光ランプとしては不適であった。
【0005】
この発明の目的は、220〜300nmの短波長紫外線に吸収波長域をもつ光開始剤が含有された硬化材料を被照射物として使用した場合に、高い発光効率で照射させることが可能な水銀ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、この発明の水銀ランプは、紫外線透過性の材料で気密性を有する放電空間を備えた発光管と、前記発光管の軸方向の該発光管内に対向して配置された一対の放電用の電極と、前記放電空間内でアーク放電させた状態を維持するために十分な量の希ガス、水銀からなる封入物と、からなる水銀ランプにおいて、安定点灯時のランプの電位傾度D(V/cm)を14<D<25としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、220〜300nmの短波長紫外線に吸収波長域をもつ光開始剤が含有された硬化材料の被照射物に対して照射させた場合に、発光効率の高い照射が可能となり、硬化剤の硬化速度を早めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の水銀ランプに関する一実施形態について説明するための基本構造図である。
【図2】図1の一部を拡大して示した構成図である。
【図3】光開始剤に対するこの発明と従来の水銀ランプが発生する紫外線の吸収波長との分光分布について説明するための説明図である。
【図4】この発明の水銀ランプの発光が紫外線硬化形樹脂の硬化を開始させる光開始剤であるアセトフェノンについて説明するための説明図である。
【図5】この発明の水銀ランプの発光が紫外線硬化形樹脂の硬化を開始させる光開始剤であるアントラセンについて説明するための説明図である。
【図6】この発明の水銀ランプの発光が紫外線硬化形樹脂の硬化を開始させる光開始剤であるベンゾフェノンについて説明するための説明図である。
【図7】この発明の水銀ランプの発光が紫外線硬化形樹脂の硬化を開始させる光開始剤であるベンゾインエチルエーテルについて説明するための説明図である。
【図8】従来とこの発明の水銀ランプの光開始剤を、ベンゾフェノンとした場合における硬化比率について説明するための説明図である。
【図9】電位傾度の値を変えた場合における良好な開始剤の硬化比率について説明するための説明図である。
【図10】この発明と従来の水銀ランプとの発光効率について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1、図2は、この発明の水銀ランプに関する一実施形態について説明するための、図1は基本構造図、図2は図1の一部を拡大して示した構成図である。
【0011】
図1、図2において、紫外線透過性を有する石英ガラス製で放電空間10が形成された発光管11の長手方向両端の内部には、例えばタングステン材で形成された電極121,122が間隔をおいて配置される。電極121,122は、それぞれインナーリード131,132を介してモリブデン箔141,142の一端に溶接される。モリブデン箔141,142の他端には、図示しないアウターリードの一端を溶接する。モリブデン箔141,142の部分は発光管11のインナーリード131,132からアウターリードの一端までの発光管11を加熱して封止する。
【0012】
なお、モリブデン箔141,142は、発光管11を形成する石英ガラスの熱膨張率に近い材料であれば何でもよいが、この条件に適したものとして一般的なモリブデンを使用する。
【0013】
モリブデン箔141,142に一端がそれぞれ接続されたアウターリードには、耐熱性で絶縁性を有する例えばセラミック製のソケット151,152の内部で電気的に接続された給電用のリード線161,162を絶縁封止するとともに、図示しない電源回路に接続される。
【0014】
発光管11内には、封入物としてアーク放電を維持させるための希ガスである十分な量のアルゴンガスが1.3kPaで、それに紫外線を発光させるための水銀が封入されている。
【0015】
ところで、水銀ランプの安定点灯時の電位傾度D(V/cm)は、14<D<25の値とする。これは、ランプを定電力駆動させた場合に、電位傾度Dが25を超えるとランプ電流が小さくなって不点灯となり、逆に電位傾度Dが14未満となると、硬化効率の低下を来たす。このような実験結果からも明らかなように、電位傾度Dの上限は25程度が上限で、下限は14程度が好ましい。
【0016】
この紫外線は、紫外線硬化性の樹脂組成物に照射させることで、この樹脂組成物の重合性樹脂の重合を開始させるための光開始剤を含有させている。
【0017】
図3は、図1で構成された水銀ランプをランプ入力1500Wの定電力で紫外線に対する従来とこの発明の光開始剤の吸収波長の分光分布について説明するための説明図である。
【0018】
図3は、従来の電位傾度Dを10とし、この発明の電位傾度Dを14<D<25の値の一例として[16]とした場合の220〜300nmの波長域における紫外線の強度を示したものである。
【0019】
すなわち、電位傾度Dが16の場合には、図3に示すように220〜300nmの波長域における電位傾度Dを10とした場合に比べて、強い紫外線強度の分布が得られていることが分かる。
【0020】
ここで、図4〜図7を参照して、この発明の水銀ランプからの紫外線が照射される被照射物に含有される220〜300nmの間に吸収波長域をもつ光開始剤の例について説明するための説明図である。
【0021】
図4は、光開始剤アセトフェノンの吸収波長域の吸収率を、図5は、光開始剤アントラセンの吸収率を、図6は、ベンゾインエチルエーテルの吸収率を、図7は、ベンゾフェノンの吸収率をそれぞれ示している。これらの光開始剤は、いずれも220〜300nmの間に吸収波長域をもち、250nm前後において吸収率のピークを有する吸収波長を備えている。
【0022】
上記構成の水銀ランプから220〜300nmの波長域における紫外線が、220〜300nmの間に吸収波長域をもつ図4〜図7の光開始剤が含有された硬化剤に照射させる。すると、光吸収率が高いほど光硬化剤が硬化しやすいことから、従来の水銀ランプに比して紫外線強度の高いこの実施形態の水銀ランプを用いた場合には光硬化剤の硬化速度を早めることが可能となる。
【0023】
次式は、発光スペクトル曲線をα(λ)、吸収スペクトル曲線をφ(λ)としたとき、使用の水銀ランプと光開始剤との反応とを数値化したものである。
【数1】

【0024】
ここで、上式のxを220、yを300とした場合、従来とこの発明の水銀ランプの光開始剤をベンゾフェノンとした場合の硬化比率は、図8に示すとおりとなる。つまり、この発明は従来の水銀ランプに比べて高い発光効率の照射が可能となるとなる。なお、x,yはそれぞれ波長(nm)を示している。
【0025】
図9は、Dが10,14,16,18,22,25の6種類の電位傾度における硬化率が、電位傾度Dが[10]を100%とした場合における光開始剤の硬化比率について示したものである。
【0026】
硬化比率が200%を超えた値となった場合を開始剤として良好なものであるがわかった。従って、図9に示すように、電位傾度Dが10,14の場合は硬化効率が悪く、電位傾度Dが16,18,22の場合は高い硬化効率が得られることがわかった。なお、電位傾度D25の場合は、ランプが不点灯となり、光開始剤としては不適当である。
【0027】
従って、ランプ安定点灯時の電位傾度D(V/cm)が、14<D<25の関係にあれば、220〜300nmの間に吸収波長域をもつ光開始剤が含有された硬化剤の硬化時間の短縮化を実現することができる。
【0028】
図10は、220〜300nmの波長領域における、この発明と従来の水銀ランプの発光長と電力を同じ値とした場合の、220〜300nm間の積算光量(μW/cm2/nm)を比較したものである。
【0029】
すなわち、従来は93.1(μW/cm2/nm)の積算光量しかないのに対し、この発明は248.9(μW/cm2/nm)の積算光量が得られた。従って、この発明の水銀ランプは、従来の水銀ランプに比べて高い発光効率での照射が可能であることが確認できた。
【0030】
この実施形態では、ランプ安定点灯時の電位傾度D(V/cm)を、14<D<25の値としたことにより、220〜300nmの波長域における紫外線強度の強い分布が得ることができ、220〜300nmの間に吸収波長域をもつ光開始剤が含有された硬化剤の硬化時間の短縮化を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
10 放電空間
11 発光管
121,122 電極
131,132 インナーリード
141,142 モリブデン箔
151,152 ソケット
161,162 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線透過性の材料で気密性を有する放電空間を備えた発光管と、
前記発光管の軸方向の該発光管内に対向して配置された一対の放電用の電極と、
前記放電空間内でアーク放電させた状態を維持するために十分な量の希ガス、水銀からなる封入物と、からなる水銀ランプにおいて、
安定点灯時のランプの電位傾度D(V/cm)を、14<D<25としたことを特徴とする水銀ランプ。
【請求項2】
220〜300nmの波長域における紫外線強度の強い分布を得ることを特徴とする請求項1記載の水銀ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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