説明

水銀捕集剤、水銀捕集ユニットおよび水銀分析装置ならびにその方法

【課題】捕集効率を向上させる水銀捕集剤、水銀捕集ユニットおよび水銀分析装置ならびにその水銀捕集剤を用いた水銀捕集方法および水銀分析方法を提供し、水銀分析の感度と精度を向上させる。
【解決手段】水銀捕集剤11は、金または銀のナノ粒子と、前記金または銀のナノ粒子を担持する担体とを含み、ガス中の水銀を捕集する。水銀捕集ユニット1は、水銀捕集剤11をガラス、石英、セラミックス、などを材料とする所定の容器に充填している。原子吸光水銀分析装置70は水銀捕集ユニット1と、加熱気化装置45と、水銀ランプ41と、測定セル42と、検出器43と、検出処理部44とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含有される水銀を捕集する水銀捕集剤、水銀捕集ユニットおよび水銀分析装置ならびにその水銀捕集剤を用いた水銀捕集方法および水銀分析方法に関する。特に、原子吸光分析または原子蛍光分析の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から原子吸光分析法による水銀分析は、長年にわたり環境分析や品質管理分析などで広く使用されている。また、原子蛍光分析法による水銀分析もかなり以前から使用されている。しかし、産業の発展に伴い、水銀分析の感度および精度の向上への要望は益々高まっており、様々な方法が考えられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、水銀を吸着する吸着剤が充填されたカラムに試料ガスを注入し、試料ガス中の水銀を吸着剤に吸着捕集させた後、カラムを加熱気化装置に入れ、カラム内の吸着剤で吸着捕集した水銀を加熱気化させて水銀ガスを生成し、その水銀ガスを水銀分析装置に流して試料中の水銀の含有量を測定している。吸着剤は、金や銀などのアマルガムを形成する物質、または適切な担体に前記アマルガムを形成する物質をコーティングした物質などが用いられている。また、これらの吸着剤すなわち水銀捕集剤は水銀除去フィルタの充填剤としても用いられている。
【0004】
例えば、上記の担体にアマルガムを形成する物質をコーティングした物質として、テトラクロロ金(III)酸溶液を粒状の珪藻土などの担体に含浸させた物質、すなわち金を担持させた物質が用いられており、この物質を水銀捕集剤として充填された水銀捕集ユニットを用いて試料中の水銀を捕集し、捕集された水銀を加熱気化させて水銀ガスを生成し、水銀ガスを所定の流量で水銀分析装置に流して測定している。
【0005】
近年、装置の設置面積の小面積化や操作の容易性のための装置の小型化、特に水銀捕集ユニットの小型化などの要望が高まっている。そこで、小型化のために、水銀捕集ユニットの円筒容器の外径を小さくするとともに内径を1/2にし、上記のテトラクロロ金(III)酸溶液を粒状の珪藻土などの担体に含浸させた水銀捕集剤を充填した水銀捕集ユニットを用いて、従来と同じキャリアガス流量で水銀を捕集して測定したところ、予想を超える感度低下を起こすことが分かった。そこで、水銀捕集時のキャリアガス流量すなわちキャリアガスの流速をいろいろ変化させて水銀捕集効率の調査を行った。その結果、キャリアガスの流速の増加によって水銀の捕集効率が急激に低下することに気付いた。さらに、上記のテトラクロロ金(III)酸溶液を粒状の珪藻土などの担体に含浸させた水銀捕集剤を充填した水銀捕集ユニットを用いて、高濃度の水銀を捕集して測定したところ、低濃度の水銀に比べて水銀の捕集効率が低下することが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−221787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水銀捕集ユニットを小型化して従来の水銀捕集剤を用いてキャリアガスの流速を従来より速くして測定すると、大幅な感度低下が生じ、水銀分析の感度および精度の向上への要望に応えることができないとともに、高い濃度領域の測定においては水銀の捕集効率が低下して高精度の分析をすることができない。
【0008】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、水銀捕集時のキャリアガスの流速が速くなっても、また高い濃度領域の測定においても高い捕集効率を維持できる、すなわち捕集効率を向上させる水銀捕集剤、水銀捕集ユニットおよび水銀分析装置ならびにその水銀捕集剤を用いた水銀捕集方法および水銀分析方法を提供し、水銀分析の感度と精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の水銀捕集剤は、金または銀のナノ粒子と、前記金または銀のナノ粒子を担持する担体とを含み、ガス中の水銀を捕集する。
【0010】
本発明の水銀捕集剤によれば、試料中の水銀の捕集効率、特に高い濃度領域の水銀の捕集効率を向上させることができる。
【0011】
本発明の水銀捕集ユニットは、本発明の水銀捕集剤を、ガラス、石英、セラミックス、などを材料とする所定の容器に充填している。
【0012】
本発明の水銀捕集ユニットによれば、試料中の水銀の捕集効率、特に高い濃度領域の水銀の捕集効率を向上させることができる。
【0013】
本発明の水銀分析装置は、本発明の水銀捕集ユニットと、前記水銀捕集ユニットに捕集された水銀をガス状にする水銀ガス生成手段と、水銀の分析線を放射する水銀ランプと、前記水銀ガス生成手段によって生成された測定ガスが導入されるとともに、前記水銀ランプからの水銀の分析線が照射される測定セルと、前記測定セルに照射されて透過した水銀の分析線強度、または前記測定セル中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度を検出する検出器と、前記検出器が検出した水銀の分析線強度または水銀の蛍光強度により測定ガス中の水銀の含有量を算出する定量手段と、を有する。
【0014】
本発明の装置によれば、試料中の水銀の捕集効率、特に高濃度の水銀の捕集効率を向上させることができ、高感度および高精度の分析を行うことができる。
【0015】
水銀分析装置の測定セルは複数個であって、この複数の測定セルのそれぞれは互いに異なる濃度範囲を測定するのが好ましい。この場合、低濃度用から高濃度用の測定セルを備えることにより1回の測定で広範囲の濃度測定ができ、本水銀分析装置は特に高濃度の水銀の捕集効率を向上させることができるので、広範囲の濃度にわたって高精度の分析を行うことができる。
【0016】
水銀分析装置の測定セルと検出器はともに複数個であって、この複数の検出器は前記測定セルに照射されて透過した水銀の分析線強度、または前記測定セル中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度のいずれか一方のみを検出し、それぞれの検出器は互いに異なる濃度範囲を測定するのが好ましい。この複数個の測定セルと複数個の検出器を有する水銀分析装置とは、複数個の測定セルと複数個の検出器を有する原子吸光水銀分析装置、または原子蛍光水銀分析装置のことである。この場合、低濃度用から高濃度用の測定セルを備えるとともに検出器を複数個有しているので、低濃度と高濃度を同時に1回で測定できる。
【0017】
本発明の水銀捕集方法は、金または銀のナノ粒子と、前記金または銀のナノ粒子を担持する担体とを含み、ガス中の水銀を捕集する水銀捕集剤を用いて、試料中に含有される水銀を捕集する。
【0018】
本発明の水銀捕集方法によれば、試料中の水銀の捕集効率、特に高い濃度領域の水銀の捕集効率を向上させることができる。
【0019】
本発明の水銀分析方法は、本発明の水銀捕集方法によって捕集された水銀をガス状にして、試料中の水銀の含有量を算出する。
【0020】
本発明水銀分析方法によれば、試料中の水銀の捕集効率、特に高濃度の水銀の捕集効率を向上させることができ、高感度および高精度の分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態である原子吸光水銀分析装置の概略ブロック図である。
【図2】同装置の水銀捕集ユニットの概略断面図である。
【図3】本発明の水銀捕集剤と従来の水銀捕集剤との捕集効率を示した特性図である。
【図4】本発明の第2実施形態である原子蛍光水銀分析装置の概略ブロック図である。
【図5】本発明の第3実施形態である原子吸光水銀分析装置の概略ブロック図である。
【図6】本発明の第3実施形態である原子吸光水銀分析装置で標準物質(SRM)を測定した結果である。
【図7】本発明の第4実施形態である原子吸光水銀分析装置の概略ブロック図である。
【図8】本発明の水銀捕集剤を用いた低濃度範囲の検量線図である。
【図9】本発明の水銀捕集剤を用いた高濃度範囲の検量線図である。
【図10】従来の水銀捕集剤を用いた低濃度範囲の検量線図である。
【図11】従来の水銀捕集剤を用いた高濃度範囲の検量線図である。
【図12】従来の水銀捕集ユニットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1実施形態である原子吸光水銀分析装置について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る原子吸光水銀分析装置70の概略を示す。この原子吸光水銀分析装置70は、気中水銀を連続測定する装置であり、試料Sであるガスを連続吸引しながら測定する。そのため、試料ガスSが導入される試料導入部に試料ガスSを洗浄したり、除湿したりする洗浄・除湿装置55と、水銀測定部4とが設けられている。
【0023】
図1に示されているように、水銀測定部4は、水銀捕集ユニット1が収容され、この水銀捕集ユニット1に捕集された水銀を加熱気化させて水銀ガスを生成する水銀ガス生成手段である加熱気化装置45と、生成された水銀ガスを所定の流量の空気Gで測定セル42に導入するポンプ46と、空気Gの流量を計測する流量計47と、測定セル42に水銀の分析線を照射する水銀ランプ41と、測定セル42を透過した水銀の分析線強度を検出する検出器43と、その検出強度に基づいて試料中の水銀の含有量を算出する定量手段である検出処理部44とを備えている。
【0024】
水銀捕集ユニット1には、金のナノ粒子が高濃度(例えば、50〜90wt%)で分散された酸性の水溶液に20〜30メッシュの粒状の珪藻土を入れて珪藻土に金のナノ粒子を含浸させ、風乾後、加熱炉により850℃で30分間加熱して溶媒を飛散させて加熱処理した水銀捕集剤11が充填されている(図2参照)。金のナノ粒子の粒径は10〜50nm(ナノメータ)が好ましい。珪藻土は金のナノ粒子を担持する担体であり、その粒径については上記に限らず、適宜に選択すればよい。金のナノ粒子を担持する担体に限らず、銀のナノ粒子が高濃度(例えば、50〜90wt%)で分散された酸性の水溶液に20〜30メッシュの粒状の珪藻土を含浸させた担体であってもよい。水銀捕集剤11において、珪藻土の表面に担持された金のナノ粒子は金属水銀とアマルガムを形成して金属水銀を捕集し、多孔質である珪藻土の孔によって2価水銀が捕集される。したがって、水銀捕集剤11によって捕集される水銀は金属水銀と2価水銀である。金または銀のナノ粒子を担持する担体としては海砂を用いてもよい。
【0025】
珪藻土に含浸させて付着させる金のナノ粒子の付着量としては、3〜30%が好ましく、7〜14%がより好ましい。
【0026】
図2に示すように、水銀捕集ユニット1は、例えば石英で形成された円筒容器15の入口と出口に石英ウール12が詰められ、これらの石英ウール12の中間に前記水銀捕集剤11が充填されている。例えば、円筒容器15の外径は6mm、内径は4mmである。水銀捕集ユニット1の円筒容器15は石英に限らず、ガラス、セラミックス、などの水銀を吸着しない材料でよく、これらのいずれか一つの材料で形成される。なお、小型化された装置では上記の円筒容器15の外径は4mm、内径は2mmのものが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態の原子吸光水銀分析装置70を用いた分析方法について説明する。先ず、前記ポンプ46の駆動により、試料ガスSを0.5L/min程度の流量で吸引しながら、洗浄・除湿装置55を経て水銀捕集ユニット1を通過するとき、これにより試料ガスS中の水銀が捕集される。この後、加熱気化装置45の加熱炉の中で水銀捕集ユニット1内の水銀捕集剤11で捕集した水銀を加熱気化させて、生成された水銀ガスを測定セル42に導入し、測定セル42に水銀ランプ41から水銀の分析線を照射し、検出器43で測定セル42を透過した水銀の分析線強度を検出し、その検出強度に基づいて検出処理部44で試料ガスS中の水銀の含有量を算出して、試料ガスS中の水銀の含有量を定量する。
【0028】
本発明の水銀捕集剤11と従来の水銀捕集剤111との捕集効率について実験を行った結果について、以下に説明する。
【0029】
前記したテトラクロロ金(III)酸溶液を粒状の珪藻土の担体に含浸させ金を担持させた水銀捕集剤を従来の水銀捕集剤111として用いている。外径が4mm、内径が2mmの石英製のそれぞれの円筒容器に、本発明の水銀捕集剤11と従来の水銀捕集剤111とをそれぞれ石英ウールの中間に充填して本発明の水銀捕集ユニット1と従来の水銀捕集ユニット101(図12参照)とを必要個数準備した。
【0030】
それぞれの水銀捕集ユニット1および水銀捕集ユニット101の下流側に別個の水銀捕集ユニットを連結し、水銀を1、1.5、2、2.5、3、4および5μg含有するそれぞれの標準溶液を還元気化法によって還元気化させ、その気化したガスを本発明の水銀捕集ユニット1と従来の水銀捕集ユニット101にそれぞれ捕集させながら連結された別個の水銀捕集ユニットに水銀捕集ユニット1および水銀捕集ユニット101からリークした水銀をそれぞれ捕集させ、このリークした水銀を捕集した水銀捕集ユニットを加熱して加熱気化された水銀を測定した。
【0031】
図3は、その測定結果であり、黒四角印で表示されている本発明の水銀捕集ユニット1では3μgまで100%の捕集効率であり、4μgで99.9%、5μgで99.7%の捕集効率である。一方、黒三角印で表示されている従来の水銀捕集ユニット101では4μgで98.0%の捕集効率である。図3には示されていないが、本実験によると本発明の水銀捕集ユニット1では20μgで98.3%の捕集効率であった。このように本発明の水銀捕集剤11は従来の水銀捕集剤111に比べて高い濃度領域においても高い捕集効率有していることが分かる。
【0032】
これは、本発明の水銀捕集剤11は従来の水銀捕集剤111に比べて水銀を捕集するときの水銀との衝突断面積が大きいことを示している。従来の水銀捕集剤111では、多孔質である珪藻土の孔に金が詰まった状態で珪藻土に点在していると思われるが、本発明の水銀捕集剤11では、10〜50nm(ナノメータ)である金のナノ粒子が珪藻土の孔だけではなく、表面に一様に担持されているとものと思われる。
【0033】
従来の水銀捕集剤111と本発明の水銀捕集剤11を用いて、検出下限値を比較した結果、従来の水銀捕集剤111では0.016ngであり、本発明の水銀捕集剤11では0.0098ngであり、約2倍の感度上昇になっている。
【0034】
本実施形態では、金のナノ粒子を用いたが、銀のナノ粒子を珪藻土や海砂に担持させてもよい。
【0035】
本実施形態によれば、高い捕集効率を有しているので水銀捕集ユニットの小型化にともなう水銀捕集時のキャリアガスの流速が速くなっても高い捕集効率を維持することができる、すなわち捕集効率を向上させて水銀分析の感度と精度を向上させることができる。
【0036】
以下、本発明の第2実施形態である水銀分析装置である原子蛍光水銀分析装置について説明する。図4に示すように、この原子蛍光水銀分析装置80は、加熱気化装置45の内部に設けられた水銀捕集ユニット1、加熱気化装置45によって生成されたガス状の水銀を運ぶキャリアガスであるアルゴンガスAを所定の流量に制御するマスフローメータ85と、ガス状の水銀を測定する測定セル42と、測定セル42に水銀の分析線を照射する水銀ランプ41と、水銀ランプ41から放射される分析線が入射しない位置であり、かつ測定セル42に導入された試料ガスS中に存在する水銀が水銀ランプ41から照射された分析線によって励起されて発生する水銀の蛍光強度を検出できる位置に配置された検出器43と、検出器43が検出した水銀の蛍光強度に応じて試料ガスS中の水銀の含有量を定量する検出処理部44を備えている。水銀原子蛍光分析方法はこのような水銀原子蛍光分析装置80を用いて分析する。
【0037】
本実施形態の装置の動作について説明する。公知の方法によって水銀捕集管1に試料S中の水銀を捕集し、その水銀捕集管1を加熱気化装置45に挿入する。この後、アルゴンガスAの供給源(図示なし)から供給されるアルゴンガスAをマスフローメータ85によって所定の流量に制御してキャリアガスとして流しながら、加熱気化装置45の加熱炉の中で水銀捕集ユニット1内の水銀捕集剤11で捕集した水銀を加熱気化させて、生成された水銀ガスを測定セル42に導入し、測定セル42に水銀ランプ41から水銀の分析線を照射し、検出器43で照射された分析線によって励起された水銀が発生する蛍光強度を検出し、その検出強度に基づいて検出処理部44で試料S中の水銀の含有量を算出して、試料S中の水銀の含有量を定量する。
【0038】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。
【0039】
以下、本発明の第3実施形態である原子吸光水銀分析装置について説明する。図5は本発明の第3実施形態に係る原子吸光水銀分析装置90の概略を示す。この原子吸光水銀分析装置90は、固体または液体の試料Sを加熱分解して試料S中の水銀を測定する装置である。そのため試料Sを加熱分解する試料加熱分解装置49と、試料加熱分解装置49によって発生した化合物水銀(HgClなど)を0価の水銀に分解する触媒炉48と、水銀測定部4とが設けられている。原子吸光水銀分析装置90は、試料Sをセラミックスや石英製の試料ボート91に入れ、試料加熱分解装置49の試料投入口49aから試料加熱炉49bの中に挿入し、ポンプ46による所定の流量(例えば0.5L/min)のキャリアガスGを流しながら、試料加熱炉49bで試料Sを加熱分解し、触媒炉48の中の触媒C(酸化銅、酸化マンガンなど)によって化合物水銀を0価の水銀にして試料S中の水銀を加熱気化装置45の水銀捕集管1で捕集する。次に、水銀捕集管1を加熱気化装置45で加熱して水銀をガス状にし、これを測定セル42に導入して測定する。
【0040】
本発明の水銀捕集剤11と従来の水銀捕集剤111とを用いてロブスター(認証 0.27ppm)とアップルリーブス(認証値 0.044ppm)の標準物質(SRM)を測定した結果について、以下に説明する。本発明の水銀捕集剤11を用いた測定には原子吸光水銀分析装置90を用い、従来の水銀捕集剤111を用いる測定には原子吸光水銀分析装置90の水銀捕集ユニット1を水銀捕集ユニット101に入れ換えた装置を用いた。
【0041】
測定方法としては、ロブスターを10点連続測定後に、水銀標準溶液6ngを測定して水銀標準溶液の回収率を測る。その後にアップルリーブス3〜5点を測定した。
その測定結果を図6に示す。この測定結果によると、本発明の水銀捕集剤11ではロブスター、アップルリーブスともに高い精度で測定されているが、従来の水銀捕集剤111ではアップルリーブスの測定値が認証値よりかなり低い値になっていることが分かる。従来の水銀捕集剤111を用いてアップルリーブスだけを測定した場合には、このような異常な測定値になることはないが、ロブスターを測定した後にアップルリーブスを測定すると、このような異常な測定値になる。この測定結果から分かるように本発明の水銀捕集剤11を用いると、異種の試料を連続して測定してもその影響はほぼないと思われる。
【0042】
また、本発明の水銀捕集剤11と従来の水銀捕集剤111とを用いて尿(認証値 0.105ppm)の標準物質(SRM)5点を上記と同様にして原子吸光水銀分析装置90で測定して変動計数(CV%)を求めた結果、本発明の水銀捕集剤11では3.5%であり、従来の水銀捕集剤111では6.3%であった。
【0043】
したがって本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用・効果を奏することができるとともに、高い精度の分析を行うことができる。
【0044】
以下、本発明の第4実施形態である原子吸光水銀分析装置について説明する。図7は本発明の第4実施形態に係る原子吸光水銀分析装置100の概略を示す。原子吸光水銀分析装置100は水銀測定部104と試料導入部110とを備えている。水銀測定部104は光路長の異なる第1と第2の測定セル142、152と、長光路長の第1の測定セル142を透過した分析線強度を検出する第1の検出器143と、短光路長の第2の測定セル152を透過した分析線強度を検出する第2の検出器153とを備え、その他の構成は前記の水銀測定部4とほぼ同様である。試料導入部110は、試料加熱分解装置49や煙道排ガスや大気中の水銀の測定において、水銀捕集ユニット1に煙道排ガスや大気を吸引ポンプで直接に導入して水銀捕集剤11に水銀を捕集する構成要素であってもよい。試料導入部110は必要に応じて水銀測定部104に接続され、必要がなければ接続されなくてもよい。
【0045】
長光路長の第1の測定セル142は低濃度測定に適しており、短光路長の第2の測定セル152は高濃度測定に適している。高濃度の試料を測定した場合、低濃度用の測定セルのみを有している従来の水銀分析装置ではオーバースケールしてしまい試料Sの含有量を求めることできず、何らかの試料処理後に再測定をしなければならない。しかし、本実施形態の装置では第1の測定セル142を通過したガス状の水銀が下流側の第2の測定セル152に導入され、第1および第2の測定セルに対応した第1および第2の検出器143,153がそれぞれの測定セルからの分析線強度を検出し、低濃度と高濃度の範囲を同時に1回で測定することができる。
【0046】
本発明の水銀捕集剤11と従来の水銀捕集剤111とを用いて原子吸光水銀分析装置100において第1の測定セル142で低濃度範囲の標準試料(0〜20ng)を、第2の測定セル152で高濃度範囲の標準試料(0〜2000ng)を測定し検量線を作成した。その結果を図8〜11に示す。図8は本発明の水銀捕集剤11を用いた低濃度範囲の検量線を示している。図9は本発明の水銀捕集剤11を用いた高濃度範囲の検量線を示している。図10は従来の水銀捕集剤111を用いた低濃度範囲の検量線を示している。図11は従来の水銀捕集剤111を用いた高濃度範囲の検量線を示している。低濃度範囲の検量線はともに直線性は良好である。高濃度範囲の検量線においては、従来の水銀捕集剤111を用いた検量線は1000ng以上の濃度では曲線状になっており良好ではないが、本発明の水銀捕集剤11を用いた検量線の直線性は良好である。
【0047】
高濃度範囲を測定することができる本実施形態によれば、第3実施形態と同様の作用・効果を奏することができるとともに、検量線の直線性が良好であり高い精度の分析を行うことができる。
【0048】
第4実施形態では第1の測定セル142からの分析線強度を検出する検出器143と第2の測定セル152からの分析線強度を検出する検出器153とを2個備えているが、第1と第2の測定セル142、152とを直列に配置して両測定セルからの分析線強度を検出する1つの検出器のみを備えていてもよい。この場合、第1の測定セル142を通過したガス状の水銀をバイパスさせるバッファタンクを設け、ガス状の水銀がこのバッファタンクを通過後に第2の測定セル152に導入されるのが好ましい。第4実施形態では測定セルおよび検出器はそれぞれ2個備えているが、3個以上であってもよい。
【0049】
また、原子蛍光水銀分析装置であってもよく、この場合、第1の検出器143は水銀ランプ41から放射される分析線が入射しない位置であり、かつ第1の測定セル142に導入された試料ガスS中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度を検出できる位置に配置され、第2の検出器153は水銀ランプ41から放射される分析線が入射しない位置であり、かつ第2測定セル152に導入された試料ガスS中に存在する水銀が水銀ランプ41から照射された分析線によって励起されて発生する水銀の蛍光強度を検出できる位置に配置される。原子蛍光水銀分析装置においても測定セルおよび検出器は3個以上備えていてもよい。
【0050】
上記の第1〜4実施形態では、波長非分散型の分析装置を図示しているが、本発明においては波長分散型の分析装置であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 水銀捕集ユニット
11 水銀捕集剤
41 水銀ランプ
42 測定セル
43 検出器
44 検出処理部
45 加熱気化装置
70 90 100 原子吸光水銀分析装置
80 原子蛍光水銀分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金または銀のナノ粒子と、
前記金または銀のナノ粒子を担持する担体と、
を含み、ガス中の水銀を捕集する水銀捕集剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水銀捕集剤を、ガラス、石英、セラミックス、などを材料とする所定の容器に充填している水銀捕集ユニット。
【請求項3】
請求項2に記載の水銀捕集ユニットと、
前記水銀捕集ユニットに捕集された水銀をガス状にする水銀ガス生成手段と、
水銀の分析線を放射する水銀ランプと、
前記水銀ガス生成手段によって生成された測定ガスが導入されるとともに、前記水銀ランプからの水銀の分析線が照射される測定セルと、
前記測定セルに照射されて透過した水銀の分析線強度、または前記測定セル中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度を検出する検出器と、
前記検出器が検出した水銀の分析線強度または水銀の蛍光強度により測定ガス中の水銀の含有量を算出する定量手段と、
を有する水銀分析装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記測定セルを複数個有し、この複数の測定セルのそれぞれは互いに異なる濃度範囲を測定する水銀分析装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記検出器を複数個有し、この複数の検出器は前記測定セルに照射されて透過した水銀の分析線強度、または前記測定セル中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度のいずれか一方のみを検出し、それぞれの検出器は互いに異なる濃度範囲を測定する水銀分析装置。
【請求項6】
金または銀のナノ粒子と、
前記金または銀のナノ粒子を担持する担体と、
を含み、ガス中の水銀を捕集する水銀捕集剤を用いて、
試料中に含有される水銀を捕集する水銀捕集方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって捕集された水銀をガス状にして、
試料中の水銀の含有量を算出する水銀分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−96753(P2010−96753A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215246(P2009−215246)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(599102310)日本インスツルメンツ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】