説明

水銀還元用触媒、水銀変換ユニットおよびこれを用いた排気ガス中の全水銀測定装置

【課題】 種々の金属酸化物や腐蝕性の強酸性ガスなどが共存する場合であっても、高い還元機能を維持できる水銀還元用触媒および水銀変換ユニットを提供すること。また、該水銀還元用触媒および水銀変換ユニットを用い、共存成分の影響を受けない、高精度で、かつ長期安定性の高い、連続測定が可能な排気ガス中の全水銀測定装置を提供すること。
【解決手段】 アルカリ金属のリン酸塩あるいは亜硫酸塩のいずれかまたはこれらを組合せた試剤を触媒成分の主剤とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀還元用触媒、水銀変換ユニットおよびこれを用いた排気ガス中の全水銀測定装置に関し、例えば、石炭燃焼排気ガス中の全水銀を測定する場合における、水銀還元用触媒、水銀変換ユニットおよびこれを用いた排気ガス中の全水銀測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃焼排気ガス中の全金属水銀の測定装置においては、JIS K 0222に規定される、連続測定法や金アマルガム捕集−濃縮操作を用いる稀釈測定法を用いた固定発生源用全水銀測定装置が使用されてきた。ここで、金アマルガムを用いる稀釈測定法とは、試料ガスを高温にて水銀化合物を金属水銀に還元後、稀釈して水銀を金アマルガムとして捕捉し、一定時間後高温にてアマルガム水銀を再気化させて紫外線吸光法で金属水銀を測定する方法である(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、昨今の用途の拡大に伴い、例えばごみ焼却炉などからの排気ガス中の水銀の測定においては、従前の方法では、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)や二酸化硫黄(SO)あるいは塩化水素(HCL)などの存在によって影響を受けることから、十分な精度を有する測定値を得ることが困難であった。現在、こうした測定方法の改善あるいは新たな測定方法の要請に対して、以下に示す種々の提案がなされている。
【0004】
具体的には、図7に示すように、汚泥や廃棄物の処理などの排気ガス中に含有されているガス状全水銀の連続分析法として、必要に応じ水銀含有ガスの加熱(約230℃)を行った後、水銀含有ガスをガス状のまま加熱(約200℃)した金属(金属錫、金属亜鉛等)からなる固体の還元触媒21で処理し、水銀含有ガス中の化合物水銀(塩化物、酸化物等)を金属水銀に還元し、フレームレス原子吸光分析装置22によって測定する方法が提案された(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、図8(A)および(B)に示すように、塩化第二水銀を含有するガス中の水銀を分析する装置31として、錫の粒子32の表面に塩化第一錫の被膜33を形成してなる還元剤34を還元反応器35内に充填し、還元装置36により、前記ガスを還元反応器35を通過させて、そのとき還元剤34により塩化第二水銀中のHg2+をHgに還元し、還元されたHgを分析器(フレームレス原子吸光分析装置)37で分析する。これにより、ガス中の塩化水素ガスの濃度が低い場合でも、正しく水銀分析を行うことができる(例えば特許文献2参照)。
【0006】
【非特許文献1】JIS K 0222−1997
【特許文献1】特公平1−54655号公報
【特許文献2】特開2001−33434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の測定方法あるいは測定装置を用いて、石炭燃焼排気ガス中の全水銀の測定を行った場合には、共存する排気ガス中の酸化セレンや酸化砒素(いずれも気体)などの金属酸化物による触媒の被毒や、共存するガス成分SO、NOおよび水分などによる触媒活性への影響など、正確な測定が困難であった。
【0008】
つまり、金属酸化物については、本発明者の検証によって、水銀化合物(2価水銀)の還元処理過程において、水銀化合物と同時に還元反応が起きて、水銀とアマルガムを作り易く、水銀が捕捉され、次第に測定値の低下をきたし、場合によっては水銀測定ができなくなることがあるとの知見を得た。特に、石炭燃焼排気ガスには、鉛(Pb)やセレン(Se)などの水銀とアマルガムを形成し易い金属の酸化物が比較的多く含まれていることから、その影響が無視できず、従前の方法では、その回避は困難であった。
【0009】
また、JIS K 0222に規定される金アマルガム捕集−濃縮操作を用いる稀釈測定法については、稀釈誤差が大きい、バッチ測定しかできない、高温還元触媒の性能劣化などの問題があった。さらに、これは高温触媒を使用するが、SOが高温度で酸化されSOミストを生成するため酸スクラバーを設置する必要があるという課題もあった。また、高温触媒に使用する接ガス材質例えばステンレス鋼(SUS)などにより元素水銀が再び酸化され易く触媒ユニットの構成部材の選定が必要である。
【0010】
このように、石炭燃焼排気ガスを対象とした全水銀測定装置に対する上記のような要請はあるものの、金アマルガム捕集−濃縮操作を用いる稀釈法以外の抽出サンプリング方式による水銀の連続測定装置は、実質的に未開発の状況であった。
【0011】
また、原子吸光分析法においては、紫外領域の光吸収を利用することから、石炭燃焼排気ガスに共存する数1000ppmレベルの高濃度のSOやNOの存在によって受ける干渉影響を無視することができない。
【0012】
そこで、この発明の目的は、こうした要請に対応し、石炭燃焼排気ガスなどのように、種々の金属酸化物や腐蝕性の強酸性ガスなどが共存する場合であっても、高い還元機能を維持できる水銀還元用触媒および水銀変換ユニットを提供することにある。また、該水銀還元用触媒および水銀変換ユニットを用い、共存成分の影響を受けない、高精度で、かつ長期安定性の高い、連続測定が可能な排気ガス中の全水銀測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す水銀還元用触媒、水銀変換ユニットおよびこれを用いた排気ガス中の全水銀測定装置によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
本発明は、水銀還元用触媒であって、カリウム、ナトリウム、カルシウム、あるいはマグネシウムのうちのいずれかの亜硫酸塩あるいはリン酸塩またはこれらを組合せた試剤を触媒成分の主剤とすることを特徴とする。
【0015】
上記のように、従前の全水銀測定装置では、石炭燃焼排気ガスなどのように種々の金属酸化物や腐蝕性の強酸性ガスなどが共存する場合には、触媒性能を維持し、共存成分の影響を受けない連続測定を行うことは困難であった。つまり、水銀還元用触媒としては、(A)水銀化合物(2価)に対する還元作用の選択性に加え、(B)金属酸化物との非反応性、特に鉛(Pb)やセレン(Se)などとアマルガムを形成しにくい特性、および(C)強酸性ガスなどに対する耐蝕性、が求められる。本発明者は、こうした化学的な影響を受けずに水銀の還元機能を有する種々の触媒を検討した結果、カリウム、ナトリウム、カルシウム、あるいはマグネシウムのうちのいずれかの亜硫酸塩あるいはリン酸塩またはこれらを組合せた試剤(以下「本願試剤」という。)を主剤とする触媒成分が水銀の還元機能に非常に有効であることを見出した。
【0016】
つまり、(A)選択性については、水銀化合物(2価)と本願試剤を主剤とする触媒成分との反応によって、水銀化合物(2価)に対して選択的に還元作用が働くことが判った。また、本願試剤は、酸性物質との反応性が低く、石炭燃焼排気ガス中などに多量含まれるSO、NOなどの酸性物質によって生じる触媒の被毒作用を排除することができることが判った。本発明は、こうした知見を利用することによって、高い選択性を有する水銀還元用触媒を確保することが可能となった。
【0017】
還元反応の具体例には、下式のような、塩化水銀(HgCL)とKあるいはNaの亜硫酸塩(MSO)との反応を挙げることができる。詳細は後述する。
HgCL + MSO → Hg + 2MCL + SO + 1/2O
(300〜500℃)
ここで、M:KまたはNaを示す。
【0018】
また、(B)金属酸化物との非反応性については、実証においても殆どその影響を受けることはなかった。さらに(C)耐蝕性については、上記本願試剤自体が本来的に有する特性であり、実証においても問題なかった。本発明は、以上のような本願試剤が有する特性を活用することによって、高い還元機能を維持できる水銀還元用触媒を提供することを可能にしたものである。
【0019】
本発明は、上記水銀還元用触媒であって、前記触媒成分の結晶化抑制剤として、異種塩類を触媒成分に混合することを特徴とする。
【0020】
本願試剤は、亜硫酸塩やリン酸塩など水溶性化合物を主剤としていることから、水分の存在によって結晶水として触媒成分の結晶化を生じる可能性がある。結晶化が生じると触媒層のガス通過抵抗が増え、還元効率も低下するおそれがある。一方、本発明者の検証過程において、試剤の結晶化は、1成分あるいは同種の塩類からなる試剤において生じやすく、異種の塩類が混合すると生じにくいことが判った。本発明はこうした知見に基づき、本願試剤の結晶化抑制剤として、本願試剤と異種の塩類である塩基性塩を触媒成分に混合することによって、高温時の再結晶化を防ぎ、大きな反応表面積を維持することを可能にしたものである。これによって、石炭燃焼排気ガスなどのように、多量の水分などが共存する場合であっても、高い還元機能を維持できる水銀還元用触媒を提供することが可能となった。なお、ここでいう「異種塩類」とは、結晶構造の異なる塩類をいう。例えば、無水亜硫酸ナトリウム(NaSO)は、六方晶系であり、これに対する異種塩類として、例えば、炭酸カルシウム(CaCO)は三方晶系または斜方晶系、硫酸カルシウム(CaSO)は斜方晶系、炭酸バリウム(BaCO)は方解石型構造であり、これらが該当する。
【0021】
本発明は、上記水銀還元用触媒であって、前記試剤を主剤とする触媒成分を、無機多孔質粒子物質を触媒の担体とし、塩基性結合剤によって担持することを特徴とする。
【0022】
触媒活性を決定する要因としては、触媒を形成する試剤の特性と表面積の大きさなどを挙げることができる。石炭燃焼排気ガスなどの排気ガスを測定対象となる場合、試料中には多量のダストやミストなどを含むことが多く、水銀還元触媒として長期間使用する場合においては、触媒の有効表面積を如何に確保するかが重要となる。一方、本願試剤は本来粉体形状であることから、これを如何に効率の高い、取り扱いやすい形状の触媒とするかを検討した結果、無機多孔質粒子物質を触媒の担体とし、塩基性結合剤によって担持することによって、触媒表面積の確保とともに触媒の磨耗を防止し、長期間の高い還元機能を維持できる水銀還元用触媒を提供することが可能となった。
【0023】
本発明は、上記水銀還元用触媒であって、前記無機多孔質粒子物質として耐火物または/および活性アルミナを用い、前記塩基性結合剤として水ガラスまたは/およびリチウムシリケートを用いることを特徴とする。
【0024】
上記のような本発明の検証によって、触媒表面積の確保とともに触媒の磨耗を防止し、長期間の高い還元機能を維持するには、無機多孔質粒子物質を触媒の担体とし、塩基性結合剤によって担持することが有効であるとの知見を得た。さらに具体的に無機多孔質粒子物質および塩基性結合剤を検討した結果、無機多孔質粒子物質として耐火物または/および活性アルミナを用い、塩基性結合剤として水ガラスまたは/およびリチウムシリケートを用いて、粒状体あるいはハニカム形状に成形することによって、触媒表面積の確保とともに触媒の磨耗を防止し、長期間の高い還元機能を維持できることが判った。
【0025】
本発明は、上記いずれかの水銀還元用触媒をガラス、石英、セラミックスなどの無機質材料または金属として酸化処理したステンレス鋼、チタンを接ガス材料とする所定の容器に充填した水銀変換ユニットであって、該水銀還元用触媒の動作温度を300〜500℃とすることを特徴とする。
【0026】
一般に還元反応は高温ほど反応性高く、触媒作用も温度によって大きな影響を受けることから、所定の温度を維持することが好ましい。検証の結果、本願試剤を水銀還元用触媒として所定の還元効率を確保し維持させるには、動作温度を300℃以上とすることが好ましいことが判った。一方、更なる高温条件下においてはSOの生成など副次的な問題の発生を伴うことから、実稼動時においては約500℃を上限値とすることが好ましいことが判った。また、触媒を充填する容器の接ガス材料については、SUSなどは還元水銀が再び酸化され易く、ガラス、石英、セラミックスなどの無機質材料または金属として酸化処理したSUS、チタン(Ti)が好ましいことが判った。本発明は、水銀還元用触媒の動作温度を所定の範囲に維持し、接ガス材料を選定した水銀変換ユニットを提供できるようにすることによって、下記のような、共存成分の影響を受けない、高精度で、かつ長期安定性の高い、連続測定が可能な排気ガス中の全水銀測定装置に供することが可能となる。
【0027】
本発明は、上記いずれかの水銀還元用触媒または水銀変換ユニットを用いた排気ガス中の全水銀測定装置であって、試料採取流路の一部に該水銀還元用触媒または水銀変換ユニットを有し、その処理後の試料を紫外線吸光式分析計に導入することを特徴とする。
【0028】
上記のように、本発明に係る上記水銀還元用触媒または水銀変換ユニットは、種々の金属酸化物や腐蝕性の強酸性ガスなどが共存する場合であっても、高い還元機能を維持できるなど非常に優れた機能を有している。従って、試料採取流路の一部に水銀還元用触媒または水銀変換ユニットを設け、試料中の水銀化合物を元素水銀に還元・変換して紫外線吸光式分析計で測定する排気ガス中の全水銀測定装置に、こうした機能を適用すれば、非常に優れた全水銀測定装置を構成することが可能となる。特に、元素水銀に選択性を有する紫外線吸光式分析計を使用することによって、共存成分の影響を受けない、高精度で、かつ長期安定性の高い、連続測定が可能な排気ガス中の全水銀測定装置を提供することが可能となる。
【0029】
本発明は、上記排気ガス中の全水銀測定装置であって、前記試料採取流路の水銀還元用触媒または水銀変換ユニットの前段階に、ミスト捕集剤または中和剤を使用することを特徴とする。
【0030】
上記のように、本発明に係る水銀還元用触媒または水銀変換ユニットについては、長期間の還元機能を維持するように使用温度を制限する(500℃以下)などの措置を適用している。しかしながら、試料自身に既にSOミストやオイルミストなど試料採取流路を腐蝕する物質あるいは触媒を被毒する物質が含まれる場合には、こうした処理だけでは十分といえないことがある。本発明はこうした場合に、試料採取流路の水銀還元用触媒または水銀変換ユニットの前段階に、ミスト捕集剤または中和剤を使用することによって、水銀還元用触媒または水銀変換ユニットの機能を長期間維持し、高精度で、かつ長期安定性の高い、連続測定を可能とするものである。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、従来困難であった石炭燃焼排気ガスなどのように種々の金属酸化物や腐蝕性の強酸性ガスなどが共存する場合であっても、高い還元機能を維持できる水銀還元用触媒および水銀変換ユニットを提供することが可能となった。また、共存成分の影響を受けない、高精度で、かつ長期安定性の高い、連続測定が可能な排気ガス中の全水銀測定装置を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
<本発明に係る水銀還元触媒の基本的な構成>
本発明に係る水銀還元触媒は、本願試剤(「カリウム、ナトリウム、カルシウム、あるいはマグネシウムのうちのいずれかの亜硫酸塩あるいはリン酸塩またはこれらを組合せた試剤」に相当)を触媒成分の主剤とすることを基本的な構成とする。つまり、本願試剤が有する(A)水銀化合物(2価)に対する還元触媒作用の選択性と(B)共存する酸性物質との非反応性という特異な特性を活かすことによって、水銀化合物(2価)に対して選択的に還元作用が働き、元素水銀に変換されるものである。また、本願試剤は(C)SO、NOなどの酸性物質との反応性が低く、触媒の被毒作用を排除することができる(被毒排除機能)。なお、本発明は、広く本願試剤を主剤とする水銀還元用触媒をいい、共触媒として機能する物質や後述する触媒成分の結晶化抑制剤などを付加し、水銀還元用触媒としての特性を高めた触媒をも含むものとする。
【0034】
以下、こうした本願試剤の有する機能を基に、水銀還元用触媒として要求される、(A)還元触媒作用の選択性、(B)金属酸化物との非反応性、および(C)被毒排除機能について実証した内容を説明する。
【0035】
(A)本願試剤の還元触媒機能
本願試剤の水銀還元触媒機能については、水銀化合物(2価)に対する還元作用の選択性が要求される。ここでは、石炭燃焼排気ガス中の主成分であるHgCLが触媒作用によって還元される場合を説明する。
【0036】
(A−1)還元触媒反応の動作原理
固体−ガス反応系においては、より安定な化合物を生成する状態に水銀の還元反応が進行するものと考えられる。つまり、本願試剤の水銀化合物(2価)との反応性の高さは、上述のように600℃以上の高温条件下を除き、HgCLを例にとると、本願試剤を構成するカチオンとHgCLを構成する塩素(CL)との反応性と、本願試剤を構成するアニオンとHgとの反応性が関与する。従って、反応の難易は、想定される生成系と生成系物質の生成エネルギー(ΔH、kJ/mol)比較、作用物質の生成エネルギーの大小などを解析することで、進行の目安を判定することができる。
【0037】
(A−2)本願試剤の種類
以上の解析を基に検証した結果、触媒成分の主剤となる本願試剤としては、耐熱性の試薬であって、カチオンとして、アルカリ金属であるカリウム(K)やナトリウム(Na)、あるいはアルカリ土類金属であるカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)の塩類が好適であることが判った。アニオンとして、特に、亜硫酸塩やリン酸塩が好ましいことが判った。これらの組合せから、具体的な試剤名を、表1に例示する。
【0038】
【表1】

【0039】
(A−3)評価試験
本願試剤として挙げた上記塩類について、(A−1)の解析内容に検証および実証試験に行い、以下のような新たな知見を得た。
【0040】
(a)試験方法
(a−1)温度300〜500℃において、標準液塩化第二水銀(HgCL)を気化させて触媒カラムを通過させた時のHgの回収率を求める。
(a−2)本願試剤のいずれも試薬特級を用い、粉末の場合は耐火系多孔質体粒子で約30%(wt/wt)程度稀釈して用いた。NaSOは、多孔質体粒状物質に付着させて用いた。
(a−3)排気ガス中には高濃度のSOが含まれるので、本願試剤とSOとの反応性あるいは反応性生物の安定性によって、本願試剤とHgCLとの反応性が影響され、本願試剤の還元効率に影響を及ぼす。反応温度400℃、SO共存下において、(a−1)の方法によって検証した。
【0041】
(b)試験結果
(b−1)亜硫酸塩について
アルカリ金属塩であるNaSOとKSOおよびアルカリ土類金属塩であるCaSOとMgSOの各亜硫酸塩について有効な還元効率が得られた。具体的には、400℃、SV=1000hr-1においていずれも95%以上の還元効率を確認した。または、これらの混合物を用いても同様であった。
(b−2)リン酸塩について
上記亜硫酸塩以外の化合物で有効な物質として、リン酸塩NaPOとKPOおよびCaSOとMgSOが同じ温度域でHgCLの還元効率95%以上が判明した。
(b−3)その他の高温安定塩類について
硫酸ナトリウム(NaSO)、NaCL、KCL、塩化カルシウム(CaCL)、塩化バリウム(BaCL)などの高温安定塩類は、全く反応しないことが判った。
(b−4)SO共存下での還元反応について
反応温度400℃、SO共存下では、NaSOとKSOおよびCaSOとMgSOが、HgCLの還元反応に寄与することが判った。
【0042】
(A−4)還元反応の機構
(a)以上の知見を基に、還元反応の機構を下記に整理する。(a−1,2)アルカリ金属(M:例えばNa、K)の亜硫酸塩(MSO)、(a−3,4)アルカリ土類金属(M’:例えばCa、Mg)の亜硫酸塩(M’SO)の2グループに分類した。いずれも、反応温度は400℃である。
(a−1)反応式:
HgCL + MSO → Hg + 2MCL + SO + 1/2O
(300〜500℃)
ここで、M:KまたはNaを示す。例えば、亜硫酸カリウム(KSO)を反応させた場合は、より安定な塩化カリウム(KCL)を、亜硫酸ナトリウム(NaSO)の場合は塩化ナトリウム(NaCL)を生成する。
(a−2)反応式:
3HgCL + 2MPO → 3Hg + 6MCL + P + 3/2O (300〜500℃)
ここで、M:KまたはNaを示す。例えば、リン酸カリウム(KPO)を反応させた場合は、より安定な塩化カリウム(KCL)を、亜硫酸ナトリウム(NaPO)の場合は塩化ナトリウム(NaCL)を生成する。
(a−3)反応式:
HgCL + M’SO → Hg + 2M’CL + SO + 1/2O
(300〜500℃)
ここで、M’:CaまたはMgを示す。例えば、亜硫酸カルシウム(CaSO)を反応させた場合は、より安定な塩化カリウム(CaCL)を、亜硫酸マグネシウム(MgSO)の場合は塩化ナトリウム(MgCL)を生成する。
(a−4)反応式:
3HgCL + M’(PO → 3Hg + 3M’CL + P +3/2O (300〜500℃)
ここで、M’:CaまたはMgを示す。例えば、リン酸カルシウム(Ca(PO)を反応させた場合は、より安定な塩化カリウム(KCL)を、亜硫酸マグネシウム(Mg(PO)の場合は塩化ナトリウム(NaCL)を生成する。
【0043】
(b)SO、NO、塩素化合物などの酸性物質は、石炭燃焼排気ガス中に多量含まれることから、還元触媒がSO、NOなどの還元作用を有すると、実質的にHg2+の還元機能の低下を招来することになる。また、例えば無機炭酸塩のような触媒にあっては、炭酸塩を構成する基部が硫酸塩やハロゲン化物あるいは硝酸塩に置換する反応が徐々に進捗し、長期的な使用において酸性物質による触媒の被毒作用は著しくなり還元反応特性が低下するためである。
【0044】
(A−5)塩類の還元反応性の指標について
以上検証結果からみると、塩類が還元反応性を有するか否かを判断する具体的な指標としては、(水溶液中の)イオン解離定数(pKa)を挙げることができる。具体的には、表2に示す代表的な化合物の酸解離定数との関係から、表2の太枠内に示す、pKa≦5のときに塩類の還元反応性が高いと推考することができる。例えば、亜硫酸塩のpK値1.91に対するリン酸塩2.15が相当し、上記のようにNaPO又はKPOが95%以上の還元効率を得たとの結果からも実証されている。
【0045】
【表2】

【0046】
(A−6)触媒温度と還元効率
上記のように、本願試剤が水銀還元触媒として機能するためには、Hg−CL結合が切断する必要がある。つまり、この結合を切断する解離エネルギーの供給、特に結合エネルギー以上のエネルギーが必要とされる。Hg2+は、理論的には約600℃から熱分解して一部元素水銀を生成するといわれている。化学量論的に反応が進むといわれているが、実験的には反応速度が遅く、全水銀測定装置の前処理用として熱分解による水銀変換部として用いるには、850〜900℃の高温度条件での使用が必要となる。そこで、温度を指標として本願試剤の水銀還元触媒として機能する場合のHgCLの還元効率を追跡した。本願試剤KSOおよびNaSOを用い、SV=1000−1hr付近において実証した結果は、図1に例示するように、300℃以上において80%以上の効率を有することが判った。CaSOやMgSOおよびNaPOやKPOあるいはCa(POやMg(POについても、SV=1000hr-1において同様の結果を確認した。しかしながら、500℃を超える高温条件下においては、亜硫酸塩の劣化などの副次的な問題の発生を伴うことから、亜硫酸塩の安定性維持のために実稼動時においては約500℃を上限値とすることが好ましい。また、つまり、本願試剤を用いた水銀変換ユニットは、温度300〜500℃程度において水銀化合物、例えばHgCLの還元反応手段として好適であることが判った。また、触媒の動作温度を中温度域(300〜500℃)とすることによって、酸化セレン(SeO)を還元せずにHg2+を選択的に還元する温度範囲で使用することができるとともに、SOガスなどの被毒作用を受けずに、触媒の寿命を大きく伸ばすことができる。
【0047】
(B)金属酸化物との非反応性
上記のように、排気ガス中の全水銀測定装置においては水銀化合物の元素水銀への還元は不可欠である一方、石炭燃焼排気ガスなどの排気ガス中には、PbやSeなどの金属酸化物が比較的多く含まれていることから、水銀化合物の還元処理過程において、同時に金属酸化物との還元反応が起きて水銀とアマルガムを作り、水銀が捕捉されて正しい水銀測定ができなくなる。つまり、水銀還元触媒に対しては、こうした金属酸化物との非反応性、特にPbやSeなどとアマルガムを形成しにくい特性が必要となる。本願試剤を主剤とする本発明に係る水銀還元用触媒であっては、従前の触媒に比較し非常に優れた金属酸化物との非反応性を有することを実証することができた。ここでは、特に問題となるSeOについて、HgCLとSeOの共存状態でのHg還元効率試験を行った。
【0048】
(B−1)試験方法
SeOが存在しない状態とSeOが共存する状態について、HgCLの還元効率の差異について検証した。触媒温度を400℃とし、水銀還元用触媒として本願試剤KSOを使用した。予めHgCLの発生濃度を確定した標準ガスを作製し触媒に導入してHg還元効率を確認する。次に、HgCLとSeOを所定量混合し各発生濃度を確定した試料ガスを作製し(HgCL:50μg/mを基準とし、SeO濃度を変化させる)、両者が共存する状態で触媒に試料ガスを導入し、Hg還元効率に対するSeO濃度の影響について試験を行った。
【0049】
(B−2)試験結果
Hg還元効率に対するSeO濃度の影響を同じく図2に示す。HgCLのみの還元効率と比べ、SeO共存状態でも効率に極端な低下は見られなかった。SeO共存状態でも、HgCLの還元機能に影響を及ぼさないことが判った。
【0050】
(C)触媒の被毒排除機能
石炭燃焼排気ガス中には含まれるSOなどの強酸性ガスは、触媒活性の長期的な被毒作用を与えることがある。これに対して本発明者は、リン酸塩や亜硫酸塩あるいは亜硫酸を形成する塩基性物質などの「高温安定塩類」は、こうした被毒を長期にわたり抑制することができるとの知見を得ていた。つまり、本発明においては、本願試剤自身がこうした被毒排除機能を有することによって、水銀還元用触媒としての高い還元機能を維持することが可能である。また、300〜500℃においても、化学的・物理的に安定な化合物であることから、水銀還元用触媒として適している。
【0051】
さらに、上記検証データから、pKaが2から大きく乖離する化合物は、300〜500℃の範囲において強酸性ガスSOなどと中和反応を生じやすくまたは分解しやすいことが判った。つまり、pKa≦5さらにはpKaが2近傍あるいはそれ以下の塩類が、石炭燃焼排ガス中に含まれる強酸性ガスの影響を受けずにHgCLの還元反応を行う触媒物質として適し、具体的には亜硫酸塩及びリン酸塩の各塩類に代表される物質である。
【0052】
また、SOなどの強酸性ガスに対する被毒抑制剤としては、リン酸塩や亜硫酸塩を主剤とし、さらに亜硫酸を形成する塩基性物質を1種類または2種類以上混同して用いることが好ましい。こうした高温安定塩類2種類以上混同して用いることによって、SO以外のNOやCLなど排気ガス中に共存する強酸性ガスに対する被毒抑制効果が期待できる。
【0053】
<触媒の結晶化抑制対策>
本願試剤は、リン酸塩あるいは亜硫酸塩など水溶性化合物を主剤としていることから、試料ガス中に共存する水分の存在によって結晶水として触媒成分の結晶化または再結晶化を生じる可能性がある。結晶化が生じると触媒層のガス通過抵抗が増え、還元効率も低下するおそれがある。これに対して、本発明者は、試剤の結晶化または再結晶化は1成分あるいは同種の塩類からなる試剤において生じやすく、異種の塩類が混合すると生じにくいとの知見を得た。つまり、本願試剤の結晶化抑制剤として、本願試剤と異種の塩類である塩基性塩を触媒成分に混合することによって、高温時の再結晶化を防ぎ、大きな反応表面積を維持することが可能となり、高温時安定性を有する異種塩類を一部混合すると再結晶化が起こり難く、亜硫酸塩触媒の有効面積を長時間維持できる。異種塩類としては、Kに対してNa塩、Ca塩の塩基性塩が有効である。
【0054】
<水銀変換ユニット>
上記の処理によって作製された水銀還元用触媒3は、図3に例示するような容器2に充填された水銀変換ユニット1を用いて、例えば、後述する排気ガス中の全水銀測定装置の試料処理流路に設置される。容器2は、堅牢で、耐蝕性・耐熱性がある素材で構成され、接ガス材料は、SUSなどは還元水銀が再び酸化され易いことから、無機質材料としてガラス、石英、セラミックスなどが好ましく、また金属として酸化したSUS、Tiが好ましい。また、排気ガス中のダスト等が多い場合には、除塵用のフィルタ(図示せず)を設けることも可能である。水銀変換ユニット1には、所望の水銀還元効率を確保できるように、水銀還元用触媒3を最適な温度に制御する加熱手段4が設けられている。石炭燃焼排気ガス中の全水銀測定装置に用いる場合には、水銀還元用触媒3として本願試剤が充填され、動作温度を300〜500℃に維持される。
【0055】
このとき、触媒は、本願試剤が本来粉末であることから、粒子状または顆粒状に成形することが好ましい。つまり、無機多孔質粒子物質を触媒の担体として塩基性結合剤によって担持し、粒子状または顆粒状に成形することによって、触媒表面積の確保とともに触媒の磨耗を防止し、長期間の高い還元機能を維持することできる。次項にその方法について詳述する。
【0056】
<触媒粒子の造粒または顆粒化方法>
本願試剤は、粉状体であるとともに、上記のように結晶水を保持し結晶化しやすい特性を有することから、通常の造粒化または顆粒化のように、水溶液に溶解した試剤を担体に含浸させる方法は適さない。つまり、本発明においては、無機多孔質粒子物質として耐火物または活性アルミナなどを用い、結合剤に水ガラス、リチウムシリケートなどの塩基性結合剤を使用することによって、本願試剤の表面活性を維持した状態で、成形体として取り扱い操作の行いやすい触媒粒子または顆粒を作製する。
【0057】
(A)触媒物質の造粒化方法
亜硫酸塩等のいずれかあるいはその組合せである本願試剤を、担体である無機多孔質体に対して重量比10〜30%を含浸または付着させて使用する。
(A−1)無機多孔質体の選定
担体としてパミスター(商品名:大江化学工業株式会社)、活性アルミナの他、自ら触媒性能を持っている活性炭、モレキュラシーブなどの使用が可能である。本願試剤の特性および結合剤から選定することが好ましい。例えば、亜硫酸塩の場合、粉末の付着量の多さや保持力の強さからパミスターが好適である。
(A−2)無機多孔質体に付着させる方法
本願試剤のいずれもが水溶性であることから、溶解による空気酸化を防ぐため、塩基性結合剤として水ガラス(化学式、NaO・nSiO・xHO)、リチウムシリケート(化学式、LiO・nSiO・xHO)などを使用する。リチウムシリケートとしては、タイプ35、45、75(日産化学工業製)がある。
【0058】
(B)造粒化手順について
例えば、本願試剤としてKSO、結合剤としてリチウムシリケート、担体としてパミスターを用いて造粒化する場合の手順を、図4(A)に例示し、このときの粒子の状態を、図4(B)に例示する。この場合、KSO3cは水に溶解した状態で空気酸化されると、硫酸塩となり水銀還元能力はなくなることからドライ状態で付着させる方法が好ましい。具体的な造粒化の手順は、以下の通りである。
(1)パミスター3aを準備する。このとき、前処理として600〜800℃にて6時間以上加熱処理を行ったものを使用する。
(2)パミスター3aにリチウムシリケートを含浸させる。このとき図4(B)に示すように、パミスター3aの表面にリチウムシリケートの薄層3bができる。
(3)含浸したパミスター3aにKSO3cを加え、混合する。このとき図4(B)に示すように、リチウムシリケートの薄層3b表面にKSO3cがほぼ均等に付着する。
(4)混合後すぐに恒温槽に入れ、約1時間常温真空乾燥する。その後、50℃にて真空乾燥する。
(5)真空乾燥機にて150℃で12時間乾燥する。これによって、図4(B)に示すように、KSO3cが表面した粒状体が完成する。
【0059】
<排気ガス中の全水銀測定装置の構成>
図5は、上記水銀還元用触媒あるいは水銀変換ユニット1を用いた排気ガス中の全水銀測定装置の1つの構成を例示する。本構成においては、2価の水銀(Hg2+)と元素水銀(Hg)などのように同一元素を含む相互に変換可能な複数の成分の全水銀(Hg2++Hg)を測定対象とする場合に適している。つまり、試料ガス中のHg2+を上記水銀還元用触媒あるいは水銀変換ユニット1を用いて最初に測定対象となるHg全量に変換した後、このガスからHgを選択的に除去したガスとの比較によって、他の共存成分の影響やバックグランドを排除することが可能となる。以下、具体的な実施態様として、測定手段として紫外線吸光式分析計10を用いた排気ガス中の全水銀測定装置に本発明を適用した場合を、その一例として説明する。
【0060】
本構成は、Hg2+およびHgを測定対象とし、
(1)試料処理手段として、Hg2+を選択的にHgに変換する水銀変換ユニット1、試料ガス流路aを分岐した一方の流路cにHgを選択的に除去する精製器11を備え、
(2)校正手段として、Hg2+およびHgを含まないゼロガスを供給する手段、所定濃度のHgを供給する手段を備え、
(3)測定手段として、Hgの濃度を選択的に検出する紫外線吸光式分析計10を備え、
演算処理手段(図示せず)において、Hgの検出機能、校正機能、および試料処理手段の処理機能のチェックを行うとともに、各機能に基づく処理を行う。
【0061】
試料は、試料入口(試料採取手段に相当)13から紫外線吸光式分析計10の下流側に設けられた吸引ポンプ14によって吸引採取される。採取された試料は、ダストフィルタ15によって清浄にした後、バルブV1を介して流路aに設けられた水銀変換ユニット1を経由して二分され、一方(流路c)は精製器11によって試料中のHgが除去されて流路抵抗16aを経由して紫外線吸光式分析計10に導入され、他方(流路b)は何も処理されずに流路抵抗16b,16aを経由して紫外線吸光式分析計10に導入される。吸引ポンプ14を配設した流路には、これと並列的に圧力調整器14aを設けることによって、常に上流側から吸引可能な状態を形勢することによって吸引ポンプ14の負荷を軽減し、吸引圧力を安定に調整することができる。このとき、接ガス材としては、安価なガラス、石英、セラミックスなどのほか金属としてTi、酸化処理SUSを使用することができる。
【0062】
通常の測定時は、流路bと流路cが周期的に切り換えられ、両者の差異からHg2+が紫外線吸光式分析計10によって検出される。両流路の切換は、紫外線吸光式分析計10の上流に設けられた電磁弁(バルブ)Vfによって行われる。ゼロ校正時は、ゼロガスが校正ガス入口17aから導入され、流路dを経由して紫外線吸光式分析計10に導入される。スパン校正時は、校正ガス入口12aからゼロガスが導入された発生器12bから発生した所定濃度のスパンガスが、流路dを経由して紫外線吸光式分析計10に導入される。バルブVfの切り換えは、通常0.5秒〜30秒程度の周期で行われる。測定時、校正時およびチェック時の詳細は、後述する。
【0063】
紫外線吸光式分析計10は、図示しないが、紫外線光源部、試料セル部、紫外線検出器および光学フィルタからなる光学系を形成し、試料セル部に導入された試料中のHgによる紫外領域の光の吸収量を紫外線検出器によって検出することによって、試料中のHgの濃度を測定することができる。
【0064】
精製器11としては、例えば活性炭などの吸着剤を用いることによって、試料中のHgを選択的に吸着・除去することができる。また、例えばPt−シリカ系やPd−アルミナ系あるいはVなどの触媒を用いて、試料中のHgを紫外線吸光式分析計10が検出できないHg2+に酸化することによって、Hgを選択的に除去することができる。このとき、精製器11として酸化触媒を用いた場合には、動作温度を水銀変換ユニット1と同じ中温度域(例えば300〜400℃)とすることが可能であり、両者を同一ユニット内に収納でき、温度制御機構の統一、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0065】
校正あるいはチェック用の所定濃度のHgガスは、高圧ガスとして準備することができず、発生器7を用いることが必要である。例えば、ゼロガスを所定温度に維持されたHgの表層を通過させる方法、あるいはパーミエーションチューブをHg液槽に浸し浸透するHgをゼロガスに混入させることによって、所定濃度のHgガスを得ることができる。また、これをゼロガスにより希釈することによって低濃度のHgガスを得ることができる。
【0066】
図6は、本発明に係る水銀還元用触媒あるいは水銀変換ユニット1を用いた排気ガス中の全水銀測定装置の他の構成を例示する。上記排気ガス中の全水銀測定装置の試料採取流路の水銀変換ユニット1の前段階に、ミスト捕集剤または中和剤を充填したスクラバユニット17を配設したことを特徴とする。
【0067】
試料中にSOミストやオイルミストなど試料採取流路を腐蝕する物質あるいは触媒を被毒する物質が多く含まれる場合において、スクラバユニット17を用いてこれらを除去することによって、水銀変換ユニット1の水銀還元機能を長期間維持し、高精度で、かつ長期安定性の高い、連続測定を可能とするものである。
【0068】
ミスト捕集剤としては、多孔質性のシリカ/アルミナ系の吸着剤などを用いることによって、排ガス中のSOミストやオイルミストなどを除去することができる。さらに、リン酸はミスト捕集能力を高める機能があり、ミスト捕集剤にリン酸付着処理を行うことも好ましい。また、強酸性ガスに対する中和剤としては、前記還元触媒として機能する亜硫酸塩を形成する塩基性物質を用いることによって、排ガス中のHCLやCLなどを除去することができる。SOミストが多い高温燃焼排ガスの測定においては、この中和剤濃度を(含有量)を増やして対応することができる。このように、本発明の本質の1つは、亜硫酸塩およびリン酸塩が、触媒機能のほかにも被毒作用防止機能という優れた特性を有する点にあり、排気ガス中の全水銀測定装置に適用し、優れた技術的効果を生み出すことができる点にある。
【0069】
以上のような排気ガス中の全水銀測定装置によって、従前実用化が困難であった石炭排気ガス中の全金属水銀の正確かつ高感度での計測を実現することが可能となった。また、従前のバッチ測定に代え、完全連続測定を実現することができる。特に、水銀還元用触媒の動作温度を中温度域(300〜500℃)とすることができることにより、排気ガス中の金属酸化物の還元反応が起きず、アマルガムが発生しないため、排気ガス中の水銀の連続測定が妨害されることがない。また、従前の標準測定法とされてきた金アマルガム捕集−濃縮操作を用いる稀釈法に比べて、稀釈エア源や定流量装置が不要となり、サンプリング系がシンプルであり、メンテナンスが容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上においては、本発明を、主として石炭燃焼排気ガス等の排気ガス中の水銀還元用触媒、水銀変換ユニットおよび全水銀測定装置に適用する場合について述べたが、プロセスガス等において組成が類似する試料や各種プロセス研究用などについても、適用することが可能である。また、SOや金属酸化物などが共存する試料を測定する場合には、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本願試剤の還元効率についての温度特性を示す説明図。
【図2】Hg還元効率に対する共存する酸化セシウム(SeO)の影響を示す説明図。
【図3】水銀変換ユニットの構成を概略的に例示する説明図。
【図4】亜硫酸塩を用いた水銀還元触媒の造粒化手順を概略的に例示する説明図。
【図5】排気ガス中の全水銀測定装置の1つの構成を例示する説明図。
【図6】排気ガス中の全水銀測定装置の他の構成を例示する説明図。
【図7】従来技術に係る排気ガス中のガス状全水銀の連続分析法の1つの構成を例示する説明図。
【図8】従来技術に係る排気ガス中のガス状全水銀の連続分析法の他の構成を例示する説明図。
【符号の説明】
【0072】
1 水銀変換ユニット
2 容器
3 水銀還元用触媒
4 加熱手段
10 紫外線吸光式分析計
11 精製器
18 スクラバユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム、ナトリウム、カルシウム、あるいはマグネシウムのうちのいずれかの亜硫酸塩あるいはリン酸塩またはこれらを組合せた試剤を触媒成分の主剤とすることを特徴とする水銀還元用触媒。
【請求項2】
前記触媒成分の結晶化抑制剤として、異種塩類を触媒成分に混合することを特徴とする請求項1記載の水銀還元用触媒。
【請求項3】
前記試剤を主剤とする触媒成分を、無機多孔質粒子物質を触媒の担体とし、塩基性結合剤によって担持することを特徴とする請求項1または2記載の水銀還元用触媒。
【請求項4】
前記無機多孔質粒子物質として耐火物または/および活性アルミナを用い、前記塩基性結合剤として水ガラスまたは/およびリチウムシリケートを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水銀還元用触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水銀還元用触媒をガラス、石英、セラミックスなどの無機質材料または金属として酸化処理したステンレス鋼、チタンを接ガス材料とする所定の容器に充填した水銀変換ユニットであって、該水銀還元用触媒の動作温度を300〜500℃とすることを特徴とする水銀変換ユニット。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の水銀還元用触媒または請求項5記載の水銀変換ユニットを用いた全水銀測定装置であって、試料採取流路の一部に該水銀還元用触媒または水銀変換ユニットを有し、その処理後の試料を紫外線吸光式分析計に導入することを特徴とする排気ガス中の全水銀測定装置。
【請求項7】
前記試料採取流路の水銀還元用触媒または水銀変換ユニットの前段階に、ミスト捕集剤または中和剤を使用することを特徴とする請求項6記載の排気ガス中の全水銀測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−268426(P2007−268426A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97630(P2006−97630)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(599102310)日本インスツルメンツ株式会社 (20)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】