説明

水門ゲート制御システム

【課題】 農業用水路・河川の幹線と接続する支線・分線の水域において、複数の農業従事者等で共同管理を行う場合に、幹線を管理する農業用水管理者と支線を管理する需要者との契約で使用水量が決められるため、たとえば共同管理を行う農業従事者のいずれかが契約した水量を超過してしまうと、すべての取水が止められてしまうという問題があった。
【解決手段】 農業用水路等の水域の水門ゲートに流量監視制御装置を設置して、いずれかの需要エリア系統に生じた使用水量の変動を検知することで、農業用水管理組合等との契約使用水量を超過しないように、各水域の水門ゲートの開度を制御することができる水門ゲート制御システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用水路や河川の幹線に接続された支線・分線のエリアにおいて、幹線から取水した農業用水を下位のエリアに適切に給水できるように、水門ゲートの開閉操作を行う水門ゲート制御システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、農業用水路や河川の幹線とその下流の支線・分線では、農業用水等の大口の需要者が複数の区域(需要エリア)を運用して、需要エリアにおける取水量が農業用水管理組合等との契約取水量を超過しないように監視し、契約取水量を超過する場合には、超過水量に見合う需要エリアの水門ゲートを閉じて、契約取水量内になるように監視制御が行われている。
【0003】
すなわち、需要エリア系統の水門ゲートの多くは単独で監視するが、図12に示す系統図のように、農業用水等の有効活用を考慮して、幹線・支線等に設置した水位監視制御装置を用いて共同で監視する場合がある。なお、本図の例では、幹線の第0の需要エリア10は農業用水管理組合等が管理し、支線の第1の需要エリア11と、分線の第2の需要エリア12,第3の需要エリア13,第4の需要エリア14,・・・,第nの需要エリア1nは、大口の需要者が管理する需要エリアとなっている。
【0004】
支線である第1の需要エリア11では、幹線の水門ゲートSW0を通して、第0の需要エリア10から流量WDの農業用水をまとめて受け取り、その後、分線の水門ゲートを通して、第2の需要エリア12,第3の需要エリア13,第4の需要エリア14,・・・,第nの需要エリア1nに、需要エリア1が受け取った流量WDの農業用水を、それぞれに分配して供給する形態である。
【0005】
第2の需要エリア12は、上記の第1の需要エリア11の支線と接続しており、水門ゲートSW1−0を通して第2の需要エリア12の流量W2として供給される。第3の需要エリア13は、第1の需要エリア11の支線と接続しており、水門ゲートSW1−1を通して第3の需要エリア13の流量W3として供給される。第4の需要エリア14は、第1の需要エリア11の支線と接続しており、水門ゲートSW1−2を通して第4の需要エリア14の流量W4として供給される。同様に第nの需要エリア1nは、第1の需要エリア11の支線と接続し、水門ゲートSW1−nを通して第nの需要エリア1nの流量Wnとして供給される。
【0006】
ここで、第2の需要エリア12,第3の需要エリア13,第4の需要エリア14,・・・,第nの需要エリア1nは、結果的にすべて第1の需要エリア11から農業用水の供給を受けているので、幹線である第0の需要エリア10から第1の需要エリア11への流量WDが、契約取水量内になるように監視制御を行う必要がある。具体的には、流量が契約取水量に到達すると、農業用水管理組合等により第0の需要エリア10と第1の需要エリア11の間に位置する幹線の水門ゲートSW0が閉じられる。なお、幹線の水門ゲートSW0の監視制御は、第1の需要エリア11を管理する大口の需要者が行うように設定することもできる。
【0007】
しかしながら、先述のように共同で農業用水を管理するため、農業用水管理組合等から流量WDを受ける第1の需要エリア11の取水量には、第2の需要エリア12への供給水量,第3の需要エリア13への供給水量,第4の需要エリア14への供給水量,・・・,第nの需要エリア1nへの供給水量も含まれている。そのため、農業用水管理組合等と契約を行った第1の需要エリア11で使用した水量が契約取水量を超過した場合でも、第2の需要エリア12や第3の需要エリア13等に供給した水量に起因することもある。
【0008】
したがって、第1の需要エリア11がより適切に使用水量を把握するためには、第1の需要エリア11内で使用した水量だけではなく、農業用水を供給した先である第2の需要エリア12における使用水量,第3の需要エリア13における使用水量,第4の需要エリア14における使用水量,・・・,第nの需要エリア1nにおける使用水量についても絶えず監視する必要がある。
【0009】
しかし、各需要エリアにおける使用水量には、上位の需要エリアから給水を受けた水量(流量)のほかに、自らの需要エリアにおける「貯水量の変動」という要素もあり、単に水門ゲートの流量を計測するだけでは、各需要エリアの使用水量を正確に把握することはできない。
【0010】
そのため、場合によっては、第1の需要エリア1における農業用水を十分に使用することなく、契約取水量の違反により農業用水管理組合との連絡用幹線の水門ゲートが閉じられてしまうという問題が生じていた。
【0011】
以上から、水門ゲートの効率的な制御を行うべく、水門の自動制御方法とその装置に関する技術(特許文献1)や、水位制御方法及び水位制御支援方法に関する技術(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平02−167912号公報
【特許文献2】特開2004−293199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1の水門の自動制御方法とその装置では、水門ゲートの上流から分岐した水流により小量の電力を発電して、その電力を二次電池に蓄積して、蓄積した電力を水門開閉制御装置に供給して水流の所要状態を監視し、水門の開閉を制御させることにより水門の開閉の自動化を図っている。
【0014】
しかしながら、水門の上流から微少の水を迂回させて下流に流し、その水流により小規模の水力発電機で発電して、水門ゲートの開閉を行う仕組みであり、水門ゲートの制御としては水深・水位量を加味しない自動制御方法で、十分に発電電力が確保できないという問題がある。
【0015】
特許文献2の水位制御方法及び水位制御支援方法では、河川の水門ゲートの操作を行い、水門直上流の水位を制御する方法、及びゲートの操作動作を指示し、水門上流の水位制御を支援する技術が提案されている。
【0016】
しかしながら、河川水門の開閉動作可能なゲートの開閉により水門上流の水位を制御する方法において、水門直上流の水位を計測する水位計測手段により水位計測を行う水位計測工程と、計測された水位があらかじめ定められた目標水位から外れる時に、目標水位になるまで水位履歴を参照軌道として与える参照軌道設定工程と、将来の所定区間を対象に参照軌道と水位予測値との誤差及び操作量であるゲート開度に関する評価関数を定める評価関数設定工程と、評価関数を最小にする現在の時刻から将来の予測される特定時刻までのゲート開度を算出する最適化計算工程と、ゲート開度のうち現在のゲート開度のみを用いてゲート開閉を行うゲート操作工程とにより実現することとするが、操作量の制約設定や目標水位の不感帯設定では、実際に十分な水位抑制効果を実現することは難しい。
【0017】
また、特許文献2は目標水位を実現するために水門ゲートの「流量」を制御する技術であって、複数の需要エリア系統における「使用水量」の合計が所定の数値を超過しないように水門ゲートの流量を調整する方法については何ら示されていない。
【0018】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、各需要エリア系統における単位時間あたりの実際の使用水量を算出することで、所定の水量を超過しないように各需要エリア系統の水門ゲートの開度を制御することができる水門ゲート制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の水門ゲート制御システムにおいて、上位の水路から所定水量の取水を受ける下位の水路は、1つ以上の水門ゲートで仕切られた複数の区画で構成されており、前記所定水量の数値が記憶された計算機と、前記複数の区画に夫々設置された水位計と、前記水門ゲートが備える開閉装置とを、ネットワークを介して接続して、前記計算機から送信される制御信号により前記水門ゲートの開閉装置の開度を変更することで、前記複数の区画への給水量を調整する水門ゲート制御システムであって、前記計算機には、前記複数の区画への給水開始に際して単位時間あたりの給水量の割合を規定する基準値と、前記給水量に対応して前記水門ゲートの開閉装置の開度を規定する開度データと、を保持し、前記基準値に基づき前記所定水量を配分することで、前記複数の区画への単位時間あたりの給水量である給水量設定値を算出して、前記給水量設定値と前記開度データとに基づき、前記水門ゲートの開閉装置を制御する信号を、ネットワークを介して送信するゲート調整手段と、前記水位計が計測した水位を受信して、計測した時刻と関連付けて記憶するデータ記憶手段と、単位時間の終了を検知して、該単位時間における前記給水量設定値に、前記データ記憶手段が計測した該単位時間の開始時の水位と終了時の水位とから算出した貯水量の増減値を加算することで、前記複数の区画において該単位時間に使用した水量である実績使用水量を算出するデータ演算手段と、終了した単位時間における前記給水量設定値と、該単位時間における前記実績使用水量と、を比較して、該実績使用水量が大きいと判定した場合に、該基準値を該実績使用水量に更新する設定値更新手段と、を備え、前記データ演算手段は、前記設定値更新手段により更新された前記基準値に基づき、終了した単位時間の次の単位時間における前記給水量設定値を算出することを特徴とする。
【0020】
ここで「水路」とは、河川・農業用水等であって、「上位の水路」は、たとえば農業用水管理組合等の公共団体が管理する水路等のことである。「複数の区画で構成」される「下位の水路」は、たとえば大口の需要家のもとで複数の農業従事者等が共同で管理を行うような形態をいう。「所定水量の取水」とは、たとえば農業用水管理組合と大口の需要家との間で交わされた契約により定められる取水量(以下「契約取水量」と言う。)等を含むものである。
【0021】
本発明によれば、運転時間内に契約取水量を等しく給水するようにしつつ、ある時間帯において、給水量の実績と比較して実際の使用水量に差異があった場合に、その次に続く時間帯から給水量が適正になるように迅速な調整が行われるので、契約取水量を効率的に利用することができる。
【0022】
さらに、本発明の水門ゲート制御システムにおいて、前記データ演算手段は、算出した前記実績使用水量を単位時間と関連付けて前記計算機に記憶し、前記給水開始時の基準値は、過去に記憶された前記実績使用水量に基づき算出されることを特徴とする。
【0023】
ここで「前記基準値は、記憶された前記実績使用水量に基づき算出」とは、たとえば直近(前日)の実績使用水量を取得して基準値とするような場合をいう。他にも前年同日の実績使用水量や、天候・気温等が近似した日の実績使用水量を用いるように設定しても良い。
【0024】
本発明によれば、当日の給水の基準となる基準値を、当日以前の実績使用水量に基づいて決定するので、当日の運転開始当初より確度の高い運転をすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水門ゲート制御システムによれば、1台の演算制御装置により複数の需要エリア系統の水門ゲートを開閉操作して、下位の需要エリアへの給水量(流量)の制御を行うとともに、各需要エリアの使用水量の実績に応じて、給水量の設定値を単位時間の終了ごとに更新することで、農業用水管理組合等と定めた所定水量(契約取水量)を効率的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の水門ゲート制御システム1を適用した需要エリア系統を示す図である。
【図2】本実施形態の水門ゲート制御システム1の機能ブロック図である。
【図3】本実施形態の水門ゲート制御システム1の演算制御装置51に備える水位テーブル541の構成例である。
【図4】本実施形態の水門ゲート制御システム1の演算制御装置51に備える実績使用水量テーブル542の構成例である。
【図5】本実施形態の水門ゲート制御システム1の演算制御装置51に備える給水量設定値テーブル543の構成例である。
【図6】本実施形態の水門ゲート制御システム1におけるゲート調整手段524のフロー図である。
【図7】本実施形態の水門ゲート制御システム1におけるデータ記憶手段521およびデータ演算手段522のフロー図である。
【図8】本実施形態の水門ゲート制御システム1における設定値更新手段523のフロー図である。
【図9】本実施形態の水門ゲート制御システム1の制御理論を示した図である。
【図10】本実施形態の変形例の水門ゲート制御システム1における予測目標値のタイムチャート図である。
【図11】本実施形態の水門ゲート制御システム1における動作を説明するタイムチャート図である。
【図12】従来の水門ゲート制御システム1における需要エリア系統の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明による水門ゲート制御システム1の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示す本実施形態の水門ゲート制御システム1は、農業用水路や河川の幹線と接続する系統の支線・分線の農業用水を、大口の需要者のもとでそれぞれ複数の農業従事者で利用するような場合に適用して、系統の支線・分線に設置した水門ゲートを、たとえば大口の需要者が備える演算制御装置で一括して制御することで、それぞれの支線・分線への農業用水の給水を管理する。なお、図1では先述した従来の技術を示す図12と同じ系統に適用した例を示している。
【0028】
本実施形態の水門ゲート制御システム1は、第0の需要エリア(幹線エリア)10の水門ゲートSW0−0の下流側に設置された水位検出器111と、第1の需要エリア(支線エリア)11の水門ゲートSW1−0〜1−nと、水門ゲートSW1−0〜1−nの下流側に設置された水位検出器112〜11nと、水位検出器111〜11nが検出した水位を監視する水位監視制御装置1DM〜nDMと、水位監視制御装置1DM〜nDMとネットワーク21を介して接続する演算制御装置51等で構成されている。
【0029】
演算制御装置51では、下位の需要エリアに必要な給水量を演算して、下位の需要エリアに向けた水門ゲートの流量が、演算した給水量になるように水門ゲートの開度を算出するとともに、ネットワーク21を介して水門ゲートSW1−0〜1−nと接続し、算出した開度のデータを、開閉動作を制御する信号として水門ゲートSW1−0〜1−nに送信する。
【0030】
水門ゲートSW1−0〜1−nは、演算制御装置51から送信された開閉動作を制御する信号に基づいて、たとえばローラーゲート方式の水門ゲートでは、開閉用ゲートの板を上下に開閉することでゲート開度を調整して、演算制御装置51が演算した給水量(流量)を実現する。
【0031】
なお、第0の需要エリア(幹線エリア)10の水門ゲートSW0−0および水位検出器110,水位監視制御装置0DMは、本実施形態においては農業用水管理組合等により管理が行われている。農業用水管理組合等では、自らが管理する第0の需要エリア(幹線エリア)10から水門ゲートSW0−0を経由して、第1の需要エリア(支線エリア)11への給水が行われる。農業用水管理組合等では、水門ゲートSW0−0の流量を計測して、その合計値が一日あたりの契約取水量を超過した場合に、水門ゲートSW0−0を閉じて第1の需要エリア(支線エリア)11への給水を終了する。なお、本実施形態においては、農業用水管理組合等との契約取水量を、需要エリアにおける運転時間に等しく分配されて取水することとする。
【0032】
また、図1に示す例では、各分線エリア12〜1nの区域内にある水門ゲートSW2〜nには水位検出器,水位監視制御装置等は設置されていないが、設置するように構成してもよい。
【0033】
ここで、演算制御装置51は、たとえば大口の需要者のもとに設置された電子計算機またはパーソナルコンピュータ、プログラマブルコントローラ等であり、各種演算処理を行う演算処理装置52と、外部からのプロセス入力を受け付ける入力装置53−1と、演算処理装置52からの出力信号を受けて外部のプロセスへ出力する出力装置53−2等で構成される。
【0034】
入力装置53−1は、各需要エリア10,11,12,13,14,・・・,1nの水門ゲートに設置した水位監視制御装置1DM,2DM,3DM,・・・,nDMから一定周期で送信される各需要エリアの水位のデータを、ネットワーク21を介して受信して、演算処理装置52に伝送する。
【0035】
出力装置53−2は、演算処理装置52が生成した各需要エリアの水門ゲートSW1−0〜1−nの開閉動作を制御する信号を、ネットワーク21を介して各需要エリアの水門ゲートSW1−0〜1−nの開閉装置に送信する。
【0036】
図2は、本実施形態の水門ゲート制御システム1の機能ブロック図である。
本実施形態の水門ゲート制御システム1を構成する演算処理装置52には、入力装置53−1が受信した各需要エリアの水位のデータや、出力装置53−2が送信した水門ゲートSW1−0〜1−nの開閉制御の履歴データ等を記憶するデータ記憶手段521、データ記憶手段521が記憶したデータから各需要エリアの使用水量の実績値を演算するデータ演算手段522、時間の経過とともに各需要エリアへの給水量の設定値を変動させる設定値更新手段523、データ演算手段522および設定値更新手段523が演算したデータを各需要エリアの水門ゲートSW1−0〜1−nの開閉装置を制御する信号として送信するゲート調整手段524等を備える。
【0037】
また、本実施形態の演算制御装置51に備える記憶装置54には、水門ゲートSW1−0〜1−nの制御に必要な各種のデータが記憶されている。
【0038】
はじめに、記憶装置54が保持するデータの概略を説明する。給水量設定値テーブル543(図5)には、大口の需要者と農業用水管理組合との契約等で定めた「契約取水量」のデータをあらかじめ備える。「契約取水量」とは、大口の需要者が管理する需要エリア系統が、農業用水管理組合等の管理する第0の需要エリア(幹線エリア)10から取水できる一日あたりの農業用水の水量を意味し、演算制御装置51が備えるキーボード等の入力装置53−1から入力される。
【0039】
ここで、一日あたりの「契約取水量」に該当する農業用水は、農業用水管理組合等が管理する第0の需要エリア(幹線エリア)10から、大口の需要者が直接管理する第1の需要エリア(支線エリア)11に、水門ゲートSW0−0を経由してすべて取水される。また、本実施形態において、一日あたりの「契約取水量」は、需要エリア系統の運転時間に等しく分配されて取水することとし、その流量(取水量)の計測は、水門ゲートSW0−0を管理する農業用水管理組合等により行われる。すなわち、運転時間の経過により「契約取水量」を超過したときには、農業用水管理組合等により水門ゲートSW0−0が閉じられる。
【0040】
第1の需要エリア(支線エリア)11に取水された一日あたりの「契約取水量」は、大口の需要者が直接管理する第1の需要エリア(支線エリア)11における農業用水として使用されるほか、第1の需要エリア(支線エリア)11の下流の分線エリアである第2〜nの需要エリアにおける農業用水として使用されるため、第1の需要エリア(支線エリア)11からそれぞれの需要エリアに給水される。すなわち、一日あたりの「契約取水量」は、第1の需要エリア(支線エリア)11において使用された水量と、下流の分線エリアである第2〜nの需要エリアに給水された水量の合計である。
【0041】
なお、ここでは、大口の需要者が直接管理する第1の需要エリア(支線エリア)11が、上流の第0の需要エリア(幹線エリア)10から農業用水を受け取る場合を「取水」と、第1の需要エリア(支線エリア)11が下流の分線エリアである第2〜nの需要エリアに農業用水を受け渡す場合を「給水」として説明する。また「取水」および「給水」の量を示す「取水量」および「給水量(供給水量)」は、具体的には水門ゲートの「開度」により定められるため、水門ゲートの操作の説明においては、どちらも「流量」として説明する場合もある。
【0042】
次に、本実施形態の水門ゲート制御システム1において、各需要エリア系統が農作業を行うために、第0の需要エリア(幹線エリア)10から第1の需要エリア(支線エリア)11への取水や、下流の分線エリアである第2〜nの需要エリアへの給水が必要となる運転時間は、あらかじめ給水量設定値テーブル543(図5)の「単位時間」において定められており、たとえば演算制御装置51が備えるキーボード等の入力装置53−1から入力される。
【0043】
また、ここで「契約取水量」は、運転時間に等しく分配されて(本実施形態では30分単位)、給水量設定値テーブル543(図5)に「単位時間あたりの給水量合計」として記憶される。さらに、単位時間ごとの「単位時間あたりの給水量合計」は、大口の需要者が管理するすべての需要エリアにおいて、該当する単位時間に給水を受けられる量の合計なので、それぞれの需要エリアが、その単位時間に受ける給水の量(給水量設定値テーブル543(図5)における「各需要エリアの給水量設定値」)を算出する基礎として用いられる。
【0044】
本実施形態の水門ゲート制御システム1では、第1の需要エリア(支線エリア)11および下流の分線エリアである第2〜nの需要エリアにおいて、「契約取水量」を有効に使用するため、それぞれの需要エリアにおいて単位時間あたりで実際に使用した水量(実績使用水量)を記録するとともに、水門ゲートの給水量(流量)と記録した実績使用水量とを比較して、次の単位時間におけるそれぞれの水門ゲートの給水量(流量)を設定する。
【0045】
なお、本実施形態の水門ゲート制御システム1を最初に実行するため、第1の需要エリア(支線エリア)11および下流の分線エリアである第2〜nの需要エリアにおける給水量の設定初期値を、給水量設定値テーブル543(図5)の「給水量設定値算出テーブル」にあらかじめ保持する。ここで「給水量設定初期値」は、たとえば、オペレータによりそれぞれの需要エリアにおける農用地の規模等に比例して算出する。算出された「給水量設定初期値」は、演算制御装置51が備えるキーボード等の入力装置53−1から入力される。
【0046】
次に、本実施形態の演算制御装置51の記憶装置54が備える「水位テーブル541」(図3)、「実績使用水量テーブル542」(図4)、「給水量設定値テーブル543」(図5)のテーブル構成等について説明する。ここでは主に構成について説明し、データの流れについては後述する。
【0047】
図3に示す「水位テーブル541」では、入力装置53−1が水位監視制御装置1〜nDMから受信した、各需要エリアにおける定められた時刻ごと(本図の例では「単位時間」の開始(終了)時点である運転時間内の毎正時および毎時30分)の「水位」のデータを保持する。ここで「水位」とは、基準面からの高さを表す数値データである。また、該当する需要エリアが、上位の水域から所定の給水量を受けるために必要な「流量」のデータを備えるほか、その流量(給水量)を実現するため、水門ゲートSW1−0〜1−nの開度等を規定する「ゲート開度規定テーブル」をあらかじめ保持する。
【0048】
図4に示す「実績使用水量テーブル542」では、各需要エリアにおける単位時間あたりの使用水量の実績である「実績使用水量」等のデータを保持する。他にも、各需要エリアにおける水位ごとの「水域面積」や、その「水位差の水量」等のデータをあらかじめ保持する「貯水量テーブル」等を備える。
【0049】
図5に示す「給水量設定値テーブル543」では、先述の通り、各需要エリアが一日に取水することができる農業用水の量(契約取水量)のデータを保持するほか、各需要エリアにおける単位時間あたりの給水量設定値である「各需要エリアの給水量設定値」等のデータも保持する。
【0050】
また、本実施形態の水門ゲート制御システム1を最初に実行するときに必要な、各需要エリアの給水量の設定初期値等を記憶した「給水量設定値算出テーブル」をあらかじめ備える。なお、本図では「給水量初期設定値」をパーセントで示すが、「給水量」等であってもよい。
【0051】
[ゲート調整手段524]
図6では、本実施形態の水門ゲート制御システム1を最初に起動して、ゲート調整手段524により、「給水量設定値」を算出するフローを示す。
【0052】
はじめに、ゲート調整手段524は、演算制御装置51が備えるタイマが最初の「単位時間」の開始を検知すると起動し(S301)、「給水量設定値テーブル543」(図5)が保持する「契約取水量」のデータと「単位時間」のデータ数を取得して(S302)、「契約取水量」を「単位時間」のデータ数で除した数値を(S303)、「単位時間あたりの給水量合計」に記録する(S304)。
【0053】
次に、ゲート調整手段524は、「給水量設定値テーブル543」(図5)が備える「単位時間あたりの給水量合計」の最初の数値を、「給水量設定値算出テーブル」(図5)の「給水量設定初期値」における需要エリアごとの比率で配分することで、それぞれの需要エリアに給水を行う量を算出して(S305)、最初の「単位時間」における「各需要エリアの給水量設定値」として記録する(S306)。
【0054】
ゲート調整手段524は、需要エリアごとに最初の単位時間における「各需要エリアの給水量設定値」を、単位時間の分数(30分)で除することで、上位の水域から所定の給水量を受けるための分あたりの「流量」をそれぞれ算出して(S307)、「水位テーブル541」(図3)の「単位時間の流量」に記録する(S308)。
【0055】
次に、ゲート調整手段524は、水位テーブル541の「ゲート開度規定テーブル」(図3)から、各需要エリアの「流量」に対応する「ゲート開度」のデータを取得して(S309)、各需要エリアの水門ゲートSW1−0〜1−nにおける開閉装置を制御する信号を送信して処理を終了する(S310)。
【0056】
各需要エリアの水門ゲートSW1−0〜1−nの開閉装置は、受信した制御信号に応じて水門ゲートSW1−0〜1−nの開閉動作を行い、それぞれ上位の需要エリアから下位の需要エリアに、設定された給水量の給水を開始する。
【0057】
なお、本例においては、それぞれの水門ゲートSW1−0〜1−nが所定の「給水量」(流量)を実現するために、「ゲート開度規定テーブル」を備えて「流量」に対応する「ゲート開度」を規定することとしたが、水門ゲートSW1−0〜1−n自体に、所定の「給水量」(流量)を実現するためのゲート開閉機能を備える場合には、かかる機能を用いてもよい。
【0058】
また、各需要エリアの運転時間を同じとしたため、「単位時間あたりの給水量合計」を、単に「契約取水量」を「単位時間」のデータ数で除した数値としたが、それぞれの需要エリアの運転状況を反映させて、単位時間ごとに異なる数値とすることもできる。
【0059】
たとえば、支線エリアである第1の需要エリア11に十分な貯水量がある場合には、一時的に増加した給水量を第1の需要エリア11の貯水でまかない、最終的に「契約取水量」の範囲内になるように設定することもできる。
【0060】
[データ記憶手段521,データ演算手段522]
次に、図7では、データ記憶手段521によりデータを「水位テーブル541」(図3)に記憶するフロー、および、データ演算手段522による「実績使用水量テーブル542」(図4)のデータ演算を行うフローを示す。
【0061】
はじめに、データ記憶手段521は、演算制御装置51が備えるタイマが単位時間の終了を検知すると起動して(S101)、水位監視制御装置1〜nDMから送信された水位データを「水位テーブル541」(図3)に記録した後(S102)、データ演算手段522を起動して処理を終了する(S103)。
【0062】
データ演算手段522は、「水位テーブル541」(図3)に入力された水位データを取得して、「実績使用水量テーブル542」(図4)の、終了した「単位時間」における「終了時の水位」、および、次の「単位時間」における「開始時の水位」の欄に入力するとともに(S104)、該当する需要エリアの貯水における開始時と終了時の「変動した貯水量」を算出する(S105)。具体的には、本実施形態の水門ゲート制御システム1では、「単位時間」の「開始時の水位」と「終了時の水位」の差に対応する水量を、「貯水量テーブル」の「水位差の水量」から取得して合計値を算出する。
【0063】
次に、データ演算手段522は、「水位差の水量」から算出した水量の合計値を、該当する「単位時間」の「変動した貯水量」(図4)に記録する(S106)。
データ演算手段522は、「水位テーブル541」(図3)が備える「単位時間の給水量」と単位時間の分数(30分)とを積算して、その結果を「実績使用水量テーブル542」(図4)の「単位時間の給水量合計」に記録する(S107)。
【0064】
なお、本実施形態では、演算した給水量になるように水門ゲートSW1−0〜1−nの開度を算出できるので、かかる値は「給水量設定値テーブル543」(図5)が備える「各需要エリアの給水量設定値」としてもよい。また、データ記録手段521により、実際に水門ゲートSW1−0〜1−nが計測した流量(給水量)の履歴データを取得するようにすることで、より正確な値とすることができる。
【0065】
次に、データ演算手段522は、「単位時間の給水量合計」と「変動した貯水量」とを合算して(S108)、「実績使用水量テーブル542」(図4)における該当する「単位時間」の「実績使用水量」に記憶するとともに、設定値更新手段523を起動して処理を終了する(S109)。
【0066】
ここで「実績使用水量」は、単位時間において給水を受けた量(単位時間の給推量合計)に、該当する需要エリアにおける貯水量の増減値を加えた水量なので、該当する需要エリアにおいて、単位時間に実際に使用した農業用水の水量を示している。
【0067】
なお、支線エリアである第1の需要エリア11については、農業用水管理組合等が管理する第0の需要エリア10から、一括して取水を受ける以外に給水は受けていないので、「変動した貯水量」がそのまま「実績使用水量」となる。
【0068】
[設定値更新手段523]
次に、図8では、設定値更新手段523により、「給水量設定値テーブル543」の「給水量設定値」(図5)を更新するフローを示す。
【0069】
はじめに、図7のS108で起動した設定値更新手段523は、「実績使用水量テーブル542」(図4)において、終了した「単位時間」における各需要エリアの「実績使用水量」のデータを参照する(S201)。次に、設定値更新手段523は、「給水量設定値テーブル543」(図5)において、該当する「単位時間」の「各需要エリアの給水量設定値」のデータを参照して(S202)、「実績使用水量」のデータと「各需要エリアの給水量設定値」のデータとの比較判定を行う(S203)。
【0070】
判定の結果、「実績使用水量」のデータの方が大きいと判定された場合にのみ(S204において「YES」)、設定値更新手段523は、「給水量設定値算出テーブル」(図5)において、「実績使用水量」のデータを、該当する需要エリアの「給水量設定値の基準値」に記憶する(S205)。
【0071】
一方、判定の結果、「実績使用水量」のデータの方が小さい、または、同じと判定された場合には(S204において「NO」)、「給水量設定値の基準値」を更新しない。すなわち、該当する需要エリアの「給水量設定値の基準値」には、前の単位時間における「各需要エリアの給水量設定値」のデータが記憶されているため、そのまま数値を変更しない。
【0072】
「給水量設定値の基準値」が記憶されると、設定値更新手段523は、すべての需要エリアの「給水量設定値の基準値」の合計から、それぞれの需要エリアの構成比を算出して(S206)、該当する「単位時間」に続く「単位時間」の「単位時間あたりの給水量合計」に、それぞれの需要エリアの構成比を乗じて算出し(S207)、「給水量設定値算出テーブル」(図5)の「各需要エリアの給水量設定値」の該当する「単位時間」に、算出した数値を記憶する(S208)。
【0073】
次に、需要エリアごとに「各需要エリアの給水量設定値」を、単位時間(30分)で除することで、上位の水域から給水を受ける分あたりの「給水量」(流量)をそれぞれ算出して「水位テーブル541」(図3)に記憶するとともに、ゲート調整手段524を起動して処理を終了する(S209)。
【0074】
その後、ゲート調整手段524は、図6に示すS309〜311の処理を行う。具体的には、水位テーブル541の「ゲート開度規定テーブル」(図3)から、各需要エリアの「流量」に対応する「ゲート開度」のデータを取得して(S309)、各需要エリアの水門ゲートSW1−0〜1−nにおける開閉装置を制御する信号を送信して処理を終了する(S310)。
【0075】
なお、本実施形態では、単位とする時間を「30分」とするが、用途に応じて任意に設定することができる。また、時間帯あたりの目標使用水量の算出を一律に行うこととしたが、各需要エリアの各時間帯を単位として個別に行うように設定することで、よりきめ細かく管理をすることもできる。
【0076】
また、図6において、本実施形態の水門ゲート制御システム1を最初に起動するときに、「給水量設定値算出テーブル」にあらかじめ備える「給水量初期設定値」を用いて、最初の単位時間における「各需要エリアの給水量設定値」を算出することとしたが(図5・図6)、2回目以降の起動では、たとえば、前日の最後の単位時間における「給水量設定値の基準値」の合計から各需要エリアの構成比を算出して、翌日の最初の単位時間における「単位時間あたりの給水量合計」を前記構成比で案分した値を、翌日の最初の単位時間における「各需要エリアの給水量設定値」に設定することもできる。これにより、直近の運転実績に応じた数値とすることができるので、より精度の高い農業用水の配分とすることができる。
【0077】
図9は、先述の契約取水量に基づいて給水量設定値(目標使用水量)が設定された後において(図5・図6)、水門ゲート制御システム1の制御原理を示したものであり、第1の需要エリア1の水位監視制御装置1DM,それぞれの水位監視制御装置2DM,3DM,4DM,・・・,nDMは、給水量設定値(目標使用水量)の範囲内になるように監視が行なわれる(図3・図4・図7)。なお、ここでは、「給水量設定値」を使用水量の「目標値」という意味から、「目標使用水量」の用語を用いて説明する。また、ここでは給水量設定値(目標使用水量)の更新については先述しているので説明しない。
【0078】
はじめに「LPD」とは、使用水量の需要(以下「需要使用水量」と言う。)が、契約取水量の範囲にあるか否かの判定基準となるべく基準とする「需要使用水量判定線」であり、「PT」は現在までの実績使用水量の合計(以下「累積使用水量」と言う。)、「P」は予測使用水量、「t」は現在時点までの時限(時間)であり、一般に予測使用水量(P)は、
P=PT+ΔPT(T−t) (1)
で表される。
【0079】
ただし、ΔPTは時限(時間)「t」における累積使用水量の合計である。したがって、時間差(T−t)内に使用水量の値を目標使用水量(PD)のレベルに制御するための調整使用水量(PC)は以下に示される。
PC=(P−PD) (2)
【0080】
(2)より、調整使用水量(PC)>0の場合はP>PDであり、予測使用水量(P)が目標使用水量(PD)より大きいので、見込まれる使用水量が契約取水量を超過すると判断することにより、水門ゲートを閉じた場合に節約できる使用水量と比較して水門ゲートの開閉が行われる。
【0081】
上記の需要使用水量の調整方法の制御原理によれば、水門ゲートの開閉は農業用水管理組合等との契約取水量のみに基づくことになり、実績使用水量が目標使用水量を超過すると、幹線・支線・分線の水門ゲートを閉じてしまうことになる。
【0082】
そのため、本実施形態の水門ゲート制御システム1では、各需要エリア系統の単位時間あたりの目標使用水量が設定された後に、たとえば堤防の決壊や降雨・日照等の気象条件により、目標使用水量と実績使用水量との間に差異が生じた場合に調整を行うことを特徴とする。以下にその調整方法を説明する。
【0083】
なお、本図で説明する実施形態の水門ゲート制御システム1は、第1の需要エリア(支線エリア)11においては農業用水を使用することはなく、すべての農業用水を下流の分線エリアである第2〜nの需要エリアに給水している。
【0084】
本実施形態の水門ゲート制御システム1では、演算処理装置52に設定値更新手段523を備え、各需要エリアにおける実績使用水量のデータに基づき、あらかじめ設定された需要エリアごとの目標使用水量を自動更新することができる。
【0085】
すなわち設定値更新手段523は、先述のデータ演算手段522が記憶した各需要エリアの単位時間あたりにおける実績使用水量の合計値と、あらかじめ設定された各需要エリアにおける単位時間あたりの目標使用水量の合計値とを比較演算し、実績使用水量の合計値の方が大きいと判定される場合に、以降における単位時間あたりの目標使用水量を再度算出して、給水量設定値テーブル543(図5)が保持する数値を更新する。次にゲート制御手段524により、その結果に応じて水門ゲートの開度を制御する信号が出力装置53−2に出力される。
【0086】
先述の通り、農業用水路の幹線と直接接続する支線のエリア(第1の需要エリア11)では、農業用水管理組合との契約による取水量が固定して設定されている。一方、第2の需要エリア12の使用水量,第3の需要エリア13の使用水量,第4の需要エリア14の使用水量,・・・,第nの需要エリア1nの使用水量については、上記第1の需要エリア11で設定された契約取水量を上限として、目標使用水量が設定されて監視が行われている。
【0087】
なお、第1の需要エリア11の目標使用水量は、ある単位時間の予測制御修了ごとに演算処理装置52で自動更新していく。このような目標値の自動更新のタイムチャートを、図10を参照して具体的に説明する。
【0088】
図10(a)は、第2の需要エリア12における30分ごとの使用水量である。(b)は、第3の需要エリア13における30分ごとの使用水量である。(c)は、第nの需要エリア1nにおける30分ごとの使用水量である。
【0089】
予測制御スタート時、データ演算手段522は、0分から30分までの単位時間における目標値を、この系統設備全体の目標使用水量PDである目標使用水量(Σ1)を単位時間(本例では6)で分割して得られる第1の需要エリア11の単位時間分の契約取水量W1−1に設定しておき、ゲート調整手段524により、契約取水量W1−1を超過することがないように水門ゲートの開度を調整する。そして30分終了時点で、第2の需要エリア12の使用水量W2−1,第3の需要エリア13の使用水量W3−1,・・・,第nの需要エリア1nの使用水量Wn−1である場合に、30分から60分までの2番目の使用水量Σ2は、次のように決定する。
【0090】
すなわち、設定値更新手段523は、1つ前の単位時間における目標使用水量Σ1(=第1の需要エリア11の単位時間分の契約取水量W1−1)と、同じ単位時間における第2から第nの各需要エリアにおける使用水量の合計値ΣWk−1(k=2,3,・・・,n)とを比較する。この比較する状態を図9(d)に示している。
Σ1<ΣWk−1の場合、目標使用水量Σ2を合計値ΣWk−1に更新する(Σ2=ΣWk−1)。一方、Σ1>ΣWk−1の場合、目標使用水量Σ2は更新せずにΣ2=Σ1とする。
【0091】
同様に60分から90分までの3番目の単位時間における目標使用水量Σ3は、1つ前の2番目の単位時間における目標使用水量Σ2(第2では、Σ2=ΣWk−1)と同じ単位時間における使用水量の合計値ΣWk−2とを比較する。
【0092】
図10に示すように、Σ2>ΣWk−2の場合は、目標使用水量Σ3を更新せずにΣ2=Σ3とする。一方、Σ2<ΣWk−2の場合は、目標使用水量Σ3を前記の値に更新する。すなわちΣ3=ΣWk−2である。
【0093】
90分から120分までの4番目の単位時間における目標使用水量Σ4は同様な手法で、目標使用水量Σ3と合計値ΣWk−3とを比較して、Σ3<ΣWk−3の場合は、目標使用水量Σ4を前記の合計値に更新する。すなわちΣ4=ΣWk−3とする。
【0094】
更に120分から150分までの5番目の単位時間における目標使用水量Σ5については同様な手法で、目標使用水量Σ5と合計値ΣWk−4とを比較して、Σ4<ΣWk−4の場合は、目標使用水量Σ4を前記の合計値に更新する。すなわちΣ5=ΣWk−4となる。
【0095】
このように、設定値更新手段523は、第1の需要エリア11での任意の単位時間における目標使用水量ΣMについては、1つ前の単位時間における目標使用水量ΣM−1と、その単位時間における目標使用水量の合計値ΣWk−(M−1)と比較して、合計値ΣWk−(M−1)が目標使用水量ΣM−1より大きいときにこの合計値に更新され、等しい場合には更新されない。
【0096】
図11では、第1から第nの需要エリア11〜1nを稼動して、設定値更新手段523が予測制御を行う動作を説明する。
需要使用水量判定線LPDは、0分から150分までに目標使用水量PDを、各単位時間において均等に使用するとした需要使用水量判定線である。また、需要使用水量判定線LPD−2,LPD−4,LPD−5は、それぞれ各2番目,4番目,5番目の単位時間に設定した使用水量Σ2,Σ4,Σ5が、それぞれ該当する単位時間から最後まで継続するとした場合の需要使用水量判定線である。
【0097】
具体的には、各需要使用水量判定線LPD−2,LPD−4,LPD−5は、それぞれ該当する単位時間の開始時刻において、自己より値の小さい各単位時間における各目標値の合計値に自己の目標値を加算し、使用水量及び最終時刻における目標使用水量PDを通過するように作図される。
なお、3番目の単位時間の目標使用水量Σ3は、2番目の単位時間における目標使用水量Σ2と等しいので省略している。
【0098】
したがって各単位時間において、設定値更新手段523は、累積使用水量が該当する単位時間に対応する各需要使用水量判定曲線LPD−2,LPD−4,LPD−5を超えないように制御すればよい。
【0099】
具体的には、予測制御が開始され、第1の単位時間において累積使用水量が需要使用水量判定線LPDを越えていても、各需要エリアの水門ゲートに対して閉信号を送出しない。しかし、30分から始まる第2の単位時間が開始されると、この第2の単位時間に対応する目標使用水量Σ2から得られる需要使用水量判定線LPD−2を累積使用水量が超過するので、この第2の単位時間が開始される時刻に各需要エリアL1,L2,L3,・・・,Lnの水門ゲートの開閉装置に、出力装置53−2から閉信号を送出する。
需要エリアの水門ゲートの開閉装置が閉じられると、累積使用水量の増加率が低下して需要使用水量判定線LPD−2未満となる。
【0100】
次に、90分から120分までの第4の単位時間において、目標使用水量Σ4に対する需要使用水量判定線LPD−4を用いて判定する。この第4の単位時間において累積使用水量が需要使用水量判定線LPD−4をb点で超過すると、運転中の各需要エリアに対して水門ゲートの開閉装置に閉信号を送出する。
【0101】
同様に、120分から150分までの第5の単位時間において、目標使用水量Σ5に対する需要使用水量判定線LPD−5を用いて判定する。この第5の単位時間において実績使用水量が需要使用水量判定線LPD−5をc点で超過すると、運転中の各需要エリアに対して水門ゲートの開閉装置に閉信号を送出する。
【0102】
このように、単位時間ごとに実績使用水量が該当の単位時間で設定された目標使用水量ΣMで得られる需要使用水量判定線LPD−Mを超えないように、運転中の各需要エリアの使用水量を減少させることで、最終的に単位時間の時限の終了点において実績使用水量が目標使用水量PDを超えることを防止することができる。具体的には、設定値更新手段523は、修正した目標使用水量になるように、ゲート調整手段524に対して、運転中の各需要エリアに水門ゲートの閉信号を送出させる。
【0103】
また、単位時間における目標使用水量を固定値ではなく、1つ前の単位時間における実績の合計値に基づいて更新することとしている。これにより、時宜に遅れることなく、適切なタイミングで水門ゲートの開閉操作を行うことができる。
【0104】
したがって、累積使用水量が各需要使用水量判定線を超過する確率を低下することができ、各需要エリアへの供給を停止する水門ゲートが、強制的に閉される確率を低下することができる。
【0105】
なお、本実施形態のゲート制御手段524による水門ゲートの開閉操作は、給水量設定値の変動に応じて同じ比率で水門ゲートの開度を調整することで行う。
【0106】
しかし、演算制御装置51の演算処理装置52において、水門ゲートに接続されている需要エリア、緊急に水門ゲートを閉してもよい需要エリア、及び、閉してはいけない需要エリアに分類するようにしてもよい。これにより、水門ゲートを閉する優先順位を常時閉可能、緊急時に閉可能な需要エリア、及び閉不能な需要エリアに分類することで、累積使用水量が給水量設定値を超える可能性が発生した場合に、全体に及ぼす影響を最小限に抑制できる。
【0107】
また、給水量設定値以下に低減するためには、各々の需要エリアに接続されている水門ゲートを閉する場合に、演算処理装置52より各需要エリアに警報を出力することが好ましい。
【0108】
なお、本実施形態においては、各需要エリアの実績使用水量の合計値に基づいて、需要エリア系統全体の給水量設定値を更新させることとしたが、各需要エリアの実績使用水量の変動を検知して、支線・分線エリアにおける水門ゲートを個別に開閉させるように設定することもできる。
【0109】
具体的には、実績使用水量の合計値には変動が見られないが、個別の需要エリアにおいて一定範囲を超えた実績使用水量の増減が検知された場合に、設定値更新手段523が起動して、単位時間あたりの実績使用水量の合計値(図4)を基に、各需要エリアの給水量設定値の配分を再計算する(図5)。ここで、設定値更新手段523はゲート調整手段524を起動して処理を終了し、ゲート調整手段524は、更新された各需要エリアの給水量設定値に応じて、各需要エリアの水門ゲートの開閉信号を生成して送出する。
これにより、きめ細かく契約取水量を各需要エリアに分配することができるので、さらに適切な各需要エリアの運用を行うことができる。
【0110】
上述の通り、本実施形態の水門ゲート制御システム1によれば、複数の農業従事者等で共同管理を行うような農業用水路等の水域において、契約取水量を効率的に使用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 水門ゲート制御システム
10 第0の需要エリア
11 第1の需要エリア
12 第2の需要エリア
13 第3の需要エリア
14 第4の需要エリア
1n 第nの需要エリア
21 ネットワーク
51 演算制御装置
52 演算処理装置
53−1 入力装置
53−2 出力装置
54 記憶装置
110,111,112,113,114,・・・,11n 水位検出器
521 データ記憶手段
522 データ演算手段
523 設定値更新手段
524 ゲート調整手段
541 水位テーブル
542 実績使用水量テーブル
543 給水量設定値テーブル
SW0,SW1,SW2,SW3,SW4,・・・,SWn 水門ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位の水路から所定水量の取水を受ける下位の水路は、1つ以上の水門ゲートで仕切られた複数の区画で構成されており、
前記所定水量の数値が記憶された計算機と、前記複数の区画に夫々設置された水位計と、前記水門ゲートが備える開閉装置とを、ネットワークを介して接続して、前記計算機から送信される制御信号により前記水門ゲートの開閉装置の開度を変更することで、前記複数の区画への給水量を調整する水門ゲート制御システムであって、
前記計算機には、前記複数の区画への給水開始に際して単位時間あたりの給水量の割合を規定する基準値と、前記給水量に対応して前記水門ゲートの開閉装置の開度を規定する開度データと、を保持し、
前記基準値に基づき前記所定水量を配分することで、前記複数の区画への単位時間あたりの給水量である給水量設定値を算出して、前記給水量設定値と前記開度データとに基づき、前記水門ゲートの開閉装置を制御する信号を、ネットワークを介して送信するゲート調整手段と、
前記水位計が計測した水位を受信して、計測した時刻と関連付けて記憶するデータ記憶手段と、
単位時間の終了を検知して、該単位時間における前記給水量設定値に、前記データ記憶手段が計測した該単位時間の開始時の水位と終了時の水位とから算出した貯水量の増減値を加算することで、前記複数の区画において該単位時間に使用した水量である実績使用水量を算出するデータ演算手段と、
終了した単位時間における前記給水量設定値と、該単位時間における前記実績使用水量と、を比較して、該実績使用水量が大きいと判定した場合に、該基準値を該実績使用水量に更新する設定値更新手段と、
を備え、
前記データ演算手段は、前記設定値更新手段により更新された前記基準値に基づき、終了した単位時間の次の単位時間における前記給水量設定値を算出することを特徴とする
【請求項2】
前記データ演算手段は、算出した前記実績使用水量を単位時間と関連付けて前記計算機に記憶し、
前記給水開始時の基準値は、過去に記憶された前記実績使用水量に基づき算出されることを特徴とする請求項1記載の水門ゲート制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−117278(P2012−117278A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267778(P2010−267778)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】