説明

水門設備における機器の劣化診断装置

【課題】開閉装置の機器の劣化度合いを診断する。
【解決手段】水門1の開閉装置2は、一端側がドラム6に巻き付けられ、他端部を水門1に設けた滑車7a,7bを介して堤体に保持されて水門1を吊持するワイヤロープ8と、ドラム6を正逆回転させる電動機3とドラム6の間に設けられるブレーキ装置4と減速機5を備える。ワイヤロープ8の他端部に荷重検出器9を接続する。水門上昇時と水門下降時のワイヤロープ張力を荷重検出器9で検出してデータ収集装置10を介してデータ演算処理部11に取り込む。所定期間における前記ワイヤロープ張力の平均値をTu,Tdとした場合、ηs=(Tu/Td)1/2により組滑車効率ηsを算出する。この組滑車効率ηsを経年的に監視して、開閉装置2における機器の劣化度合いを診断する。
【効果】各種効率の動向を管理することにより、機器の更新の合理化に寄与したり、経年による機器の劣化度合いを定量的に評価したりできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にワイヤロープ式開閉装置で水門を開閉する水門設備の、前記開閉装置を構成する各種の機器の劣化度合いを診断する装置に関するものである。本明細書において、機器とは、前記開閉装置の構成要素、例えばワイヤロープ、滑車、電動機、減速機、ドラムなどをいう。
【背景技術】
【0002】
例えば水門を昇降させて水路を開閉する装置として、水門の上端に設けられた滑車を介して一端部を固定端に接続したワイヤロープの、他端部を巻き付けたドラムを正逆回転することにより行うワイヤロープ式開閉装置がある(例えば特許文献1,2)。
【0003】
このようなワイヤロープ式開閉装置を備えた水門設備は、水門及びこの水門の開閉装置のほか、ゲートの操作を行う機側操作盤、遠方からゲートの操作を行う遠方操作盤、操作の支援や故障が発生した際に原因を取り除くガイダンスが表示される運転支援システム等から構成されている。
【0004】
そして、前記機側操作盤は、水門の開度や、開閉装置を構成する電動機に流れる電流値等をその場で表示する。また、運転支援システムは、水門の動作状態や電流値などの各種データを蓄積する。
【0005】
上記運転支援システムの記録管理支援機能は、各種データを収集するのみであり、得られたデータの統計処理を行ったり、劣化指標のグラフを作成したりするといった機能も無く、一般的には故障等が発生した際に、その前後の状態を確認するのに利用されるケースが多い。
【0006】
従って、前記構成の水門設備における開閉装置の機器の劣化に対しては、定期的な点検や機器の更新等による予防保全措置が一般的である。また、得られたデータを保全員が定期的に確認し、その傾向を掴むことも可能であるが、データを長期的に亘り、傾向を管理するには相当の労力が必要である。
【0007】
さらに、近年、水門設備において効率的に維持管理を行うため、予防保全から状態監視保全にシフトする傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭61−17051号公報
【特許文献2】特開2002−180445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、水門設備におけるワイヤロープ式開閉装置の各種機器の計画的な保全を行うためには、各種機器の劣化度合いを診断する必要があるが、従来は、このような各種機器の劣化の診断を行う装置はなかったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記問題を解決すべく、水門設備のワイヤロープ式開閉装置を構成する各種の機器の劣化度合いを診断する装置を提供することを目的としてなされたものである。
【0011】
本発明の水門設備における機器の劣化診断装置は、
水路の途中に昇降可能に設けられた水門と、水路の堤体に設置され、前記水門を昇降させて水路の開閉を行う開閉装置を有し、
この開閉装置は、一端側がドラムに巻き付けられ、他端部を前記水門の上端に設けられた滑車を介して堤体側の支持部材に保持されて水門を吊持するワイヤロープと、前記ドラムを正逆回転させる電動機と、この電動機の回転軸と前記ドラムの回転軸との間に設けられるブレーキ装置及び減速機を備えた水門設備の開閉装置における機器の劣化度合いを診断する装置であって、
1) 前記ワイヤロープの他端部に接続した荷重検出器と、
水門上昇時のワイヤロープ張力と水門下降時のワイヤロープ張力を前記荷重検出器で検出してデータ収集装置を介して取り込むデータ演算処理部を有し、
このデータ演算処理部では、
所定期間における水門上昇時のワイヤロープ張力の平均値をTu、所定期間における水門下降時のワイヤロープ張力の平均値をTdとした場合、ηs=(Tu/Td)1/2によりワイヤロープを介することで生じる複数の滑車の抵抗に起因する組滑車効率ηsを算出し、
この算出した組滑車効率ηsを経年的に監視して、劣化度合いを診断する、
或いは、
2) 前記ワイヤロープの他端部に接続した荷重検出器と、
ワイヤロープの張力、水門の開度、電動機の電流値及び電源の電圧値を、データ収集装置を介して取り込むデータ演算処理部を有し、
このデータ演算処理部では、
所定期間におけるワイヤロープ張力から算出される水門自重と、単位時間当たりの水門開度の変化により算出される開閉速度を乗算して得られる理論電動機容量Ptと、
負荷試験から算出する電動機の特性曲線をもとに負荷状態における電流値と電圧値から得られる実際電動機容量Prをそれぞれ算出し、
これら算出した理論電動機容量Ptを実際電動機容量Prで除して全機械効率ηaを算出し、
この算出した全機械効率ηaを上記の1)で求めた組滑車効率ηsで除することで、機械効率ηmを算出し、
これら組滑車効率ηs、全機械効率ηa、機械効率ηmを経年的に監視して、劣化度合いを診断する、
ことを最も主要な特徴としている。
【0012】
上記の本発明では、組滑車効率ηs、全機械効率ηa、機械効率ηmを経年的に監視することで、ワイヤロープ及び滑車の劣化度合いや減速機及びドラムギヤの効率の劣化度合いを評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、水門設備における機器の劣化度合いを判断できるので、各種効率の動向を管理することにより、機器の更新の合理化に寄与したり、経年による機器の劣化度合いを定量的かつ統一的な基準により評価したりすることができる。また、各種機器の劣化度合いを監視して、次回点検時の調整作業計画を組み込むことで、突発的な故障による事故の未然防止を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の機器の劣化診断装置を適用する水門設備のワイヤロープ式開閉装置の概略構成図である。
【図2】本発明の機器の劣化診断装置における処理の流れを説明する図である。
【図3】本発明の機器の劣化診断装置において機械効率を算出する処理流れを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、水門設備を構成するワイヤロープ式開閉装置の各種の機器の劣化度合いを診断する装置を提供するという目的を、組滑車効率ηs、全機械効率ηa、機械効率ηmを経年的に監視することで実現した。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図3を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の機器の劣化診断装置を適用する水門設備のワイヤロープ式開閉装置の概略構成を示した図である。
【0017】
1は水路に設けられた水門であり、この水門1を開閉装置2で昇降させて水路の開閉を行う。この開閉装置2は、例えば電動機3からブレーキ装置4、減速機5を介して一対のドラム6を正逆回転させることで、一端部を水門1の上端両側に設けられた滑車7a,7bを介して固定端に接続したワイヤロープ8の、それぞれのドラム6に巻き付けた他端側を巻き取ったり巻き戻したりして水門1を昇降する。なお、図1中の6aはドラムの一端に取り付けられるドラムギヤ、6bはドラムギヤ6aに噛み合うピニオン、7cは堤体に設置された固定滑車である。
【0018】
上記構成のワイヤロープ式開閉装置2において、本発明では、ワイヤロープ8の一端部に荷重検出器9を設置するのである。そして、これら荷重検出器9で水門1が水圧の影響を受けない開度において、水門上昇時と水門下降時にワイヤロープ8に作用する張力を検出し、データ収集装置10を介してデータ演算処理部11に取り込むのである(図2参照)。12は減速機5の出力軸の回転により水門1の開度を測定する開度計である。
【0019】
ところで、前記水門上昇時と水門下降時にワイヤロープ8に作用する張力には、ワイヤロープが通過する滑車7a〜7cの効率が影響している。従って、荷重検出器9で検出したこれら水門上昇時と水門下降時にワイヤロープ8に作用する張力を用いて、データ演算処理部11では、ワイヤロープ8を介することで生じる複数の滑車7a〜7cの抵抗に起因する組滑車効率ηsを、下記の簡易的な効率算出式により算出する。
【0020】
所定期間における水門上昇時のワイヤロープ8の張力の平均値をTu、所定期間における水門下降時のワイヤロープ8の張力の平均値をTdとした場合、組滑車効率ηsは簡易的にTu/ηs、Td×ηsで表せる。
【0021】
前記水門上昇時のワイヤロープ8の張力の平均値Tuを水門下降時のワイヤロープ8の張力の平均値Tdで除すると、ηs2となる。よって、組滑車の簡易的な効率ηsの算出式は、ηs=(Tu/Td)1/2により表すことができる。
【0022】
この算出した組滑車効率ηsを、図2に示すように表或いはグラフ化して経年的に監視することで、ワイヤロープ8及び滑車7a〜7cの劣化度合いを判断することができる。なお、図2中の13は開閉装置2の操作を行う機側の操作盤を示す。これが本願の請求項1に係る発明である。
【0023】
一方、全機械効率ηaは、電動機3の電流値と電動機3の特性線図から算定することができる。
【0024】
全機械効率ηaは、開閉装置2の減速機5、ドラムギヤ6a等の機械部分の総合効率である機械効率ηmに組滑車効率ηsを乗じたものであるため、これを逆算することで機械効率ηmの算出が可能になる。これらの演算は、ワイヤロープ8の張力、水門1の開度、電動機3の電流値、電源の電圧値を、データ収集装置10を介してデータ演算処理部11に取り込んで、次のようにして行う。
【0025】
(所定期間におけるワイヤロープ8の張力から算出される水門1の自重W)
所定期間(例えば1日)の水門上昇時における図1の紙面右側のワイヤロープ8の張力の平均値をTuR、図1の紙面左側のワイヤロープ8の張力の平均値をTuLとする。同じく水門下降時における図1の紙面右側のワイヤロープ8の張力の平均値をTdR、図1の紙面左側のワイヤロープ8の張力の平均値をTdL、ロープ掛け本数をnとすると、水門1の自重Wは、W={(TuR+TuL+TdR+TdL)/2}×nで表すことができる。
【0026】
(水門1の開閉速度vの算出)
水門1の開閉速度vは、開度計12によって測定した水門1の単位時間(Δt)当たりの開度(Δh)の変化より、v=Δh/Δtで算出することができる。
【0027】
以上により算出された水門1の自重Wと、水門1の開閉速度vを乗算(W×v)して理論電動機容量Ptを得る。
【0028】
次に、電動機3の無負荷試験、負荷試験から算出された電動機3の特性曲線より得られた近似式に、負荷状態における電流値Iと電圧値Vを代入して実際電動機容量Prを算出する。この特性曲線は、実際に無負荷試験、負荷試験を行って算出しても良いが、電動機メーカのテストレポートを採用しても良い。なお、電動機3の種類・規模によって、電動機3の特性曲線や特性曲線より得られた近似式が異なることは言うまでもない。
【0029】
これら算出した理論電動機容量Ptを実際電動機容量Prで除すことで(Pt/Pr)、全機械効率ηaを算出することができる。以上の処理流れを図3に示す。
【0030】
この算出した全機械効率ηaを前記のように求めた組滑車効率ηsで除することで、機械効率ηmを算出し、これら組滑車効率ηs、全機械効率ηa、機械効率ηmを、図2に示すように表或いはグラフ化して経年的に監視することで、ワイヤロープ8及び滑車7a〜7cの劣化度合いや減速機5及びドラムギヤ6aの効率の劣化度合いを評価することができる。これが本願の請求項2に係る発明である。
【0031】
このような本発明によれば、各種効率の動向を管理することにより、機器の更新の合理化に寄与したり、経年による機器の劣化度合いを定量的かつ統一的な基準により評価したりすることができる。また、各種機器の劣化度合いを監視し、次回点検時の調整作業計画を組み込むことで、突発的な故障による事故の未然防止を図ることもできる。
【0032】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0033】
例えば、データ演算処理部11で、本願の請求項1に係る発明と、本願の請求項2に係る発明を共に行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0034】
1 水門
2 開閉装置
3 電動機
4 ブレーキ装置
5 減速機
6 ドラム
6a ドラムギヤ
6b ピニオン
7a〜7c 滑車
8 ワイヤロープ
9 荷重検出器
10 データ収集装置
11 データ演算処理部
12 開度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路の途中に昇降可能に設けられた水門と、水路の堤体に設置され、前記水門を昇降させて水路の開閉を行う開閉装置を有し、
この開閉装置は、一端側がドラムに巻き付けられ、他端部を前記水門の上端に設けられた滑車を介して堤体側の支持部材に保持されて水門を吊持するワイヤロープと、前記ドラムを正逆回転させる電動機と、この電動機の回転軸と前記ドラムの回転軸との間に設けられるブレーキ装置及び減速機を備えた水門設備の開閉装置における機器の劣化度合いを診断する装置であって、
前記ワイヤロープの他端部に接続した荷重検出器と、
水門上昇時のワイヤロープ張力と水門下降時のワイヤロープ張力を前記荷重検出器で検出してデータ収集装置を介して取り込むデータ演算処理部を有し、
このデータ演算処理部では、
所定期間における水門上昇時のワイヤロープ張力の平均値をTu、所定期間における水門下降時のワイヤロープ張力の平均値をTdとした場合、ηs=(Tu/Td)1/2によりワイヤロープを介することで生じる複数の滑車の抵抗に起因する組滑車効率ηsを算出し、
この算出した組滑車効率ηsを経年的に監視して、劣化度合いを診断することを特徴とする水門設備における機器の劣化診断装置。
【請求項2】
水路の途中に昇降可能に設けられた水門と、水路の堤体に設置され、前記水門を昇降させて水路の開閉を行う開閉装置を有し、
この開閉装置は、一端側がドラムに巻き付けられ、他端部を前記水門の上端に設けられた滑車を介して堤体側の支持部材に保持されて水門を吊持するワイヤロープと、前記ドラムを正逆回転させる電動機と、この電動機の回転軸と前記ドラムの回転軸との間に設けられるブレーキ装置及び減速機を備えた水門設備の開閉装置における機器の劣化度合いを診断する装置であって、
前記ワイヤロープの他端部に接続した荷重検出器と、
ワイヤロープの張力、水門の開度、電動機の電流値及び電源の電圧値を、データ収集装置を介して取り込むデータ演算処理部を有し、
このデータ演算処理部では、
所定期間における水門上昇時のワイヤロープ張力の平均値をTu、所定期間における水門下降時のワイヤロープ張力の平均値をTdとした場合、ηs=(Tu/Td)1/2によりワイヤロープを介することで生じる複数の滑車の抵抗に起因する組滑車効率ηsを算出し、
所定期間におけるワイヤロープ張力から算出される水門自重と、単位時間当たりの水門開度の変化により算出される開閉速度を乗算して得られる理論電動機容量Ptと、
負荷試験から算出する電動機の特性曲線をもとに負荷状態における電流値と電圧値から得られる実際電動機容量Prをそれぞれ算出し、
これら算出した理論電動機容量Ptを実際電動機容量Prで除して全機械効率ηaを算出し、
この算出した全機械効率ηaを前記組滑車効率ηsで除することで、機械効率ηmを算出し、
これら組滑車効率ηs、全機械効率ηa、機械効率ηmを経年的に監視して、劣化度合いを診断することを特徴とする水門設備における機器の劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44650(P2013−44650A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182749(P2011−182749)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】