説明

水電解システム及びその運転方法

【課題】システム停止時に、気液分離装置から廃棄される水素量を可及的に抑制することができ、システム効率を良好に向上させることを可能にする。
【解決手段】水電解システム10を構成する制御装置82は、水位検出センサ64により気液分離装置52内の水位が排水を必要とする上限高さであると検出された時点から、高圧水素貯蔵タンク53が満タンになるまでの残余充填量を算出する残余充填量算出部84と、前記気液分離装置52内の水位が排水を停止させる下限高さから前記上限高さに至る排水周期の間に、水電解装置12により製造される水素量を算出する製造水素量算出部86と、前記残余充填量算出部84により算出された前記残余充填量が、前記製造水素量算出部86により算出された前記水素量よりも少ない場合に、前記水電解装置12による水電解処理を終了させる水電解終了判断部88とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる水電解装置を備える水電解システム及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、燃料電池の発電反応に使用される燃料ガスとして、水素が使用されている。この水素は、例えば、水電解装置により製造されている。水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、給電体を配設して単位セルが構成されている。
【0003】
そこで、複数の単位セルが積層されたセルユニットには、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側の給電体に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素と共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってセルユニットから排出される。
【0004】
上記の水電解装置は、通常、燃料電池車両の車載水素タンクに水素を供給するための水素供給システムに組み込まれている。例えば、特許文献1は、水を電気分解して高圧水素を発生させる水電解装置と、前記水電解装置から送られる前記水素を燃料電池車両に供給するために貯蔵する水素供給タンクとを備える水素供給システムにおいて、前記水素を前記燃料電池車両の車載水素タンクに供給する水素供給方法が開示されている。
【0005】
この水素供給方法では、水素供給タンク内の第1水素圧力と、車載水素タンク内の第2水素圧力とが検出され、前記第1水素圧力と前記第2水素圧力との差圧が、規定圧力よりも大きいと判断された際、前記差圧により前記水素供給タンク内の前記水素が前記車載水素タンクに供給されている。
【0006】
一方、第1水素圧力と第2水素圧力との差圧が、規定圧力よりも小さいと判断された際、水電解装置を運転して水素を発生させながら、発生した前記水素の圧力により車載水素タンクに前記水素が供給されている。
【0007】
このため、水電解装置の制御が簡素化するとともに、車載水素タンクへの水素の供給が迅速且つ確実に遂行され、燃料電池車両に水素を簡単且つ経済的に供給するとともに、設備全体の小型化及び簡素化を図ることが可能になる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−48599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の水電解システムでは、高圧水素側に水が発生(膜透過)するため、高圧気液分離器を用いて前記高圧水素から水を分離させるとともに、前記高圧気液分離器に貯留される水を排水する必要がある。
【0010】
そこで、水電解システムのシステム停止時には、減圧弁等への負荷を減少させるため、高圧気液分離器内の圧力を脱圧させる必要がある。その際、高圧気液分離器内の貯水量(水位)によっては、前記高圧気液分離器内に多量の水素が残存している場合がある。従って、高圧気液分離器内の圧力を脱圧させる時に、多量の水素が無駄に廃棄されるおそれがあり、システム効率が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、システム停止時に気液分離装置から廃棄される水素量を可及的に抑制することができ、システム効率を良好に向上させることが可能な水電解システム及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる水電解装置と、前記水電解装置から前記高圧水素を排出する水素配管に配設され、前記高圧水素に含まれる水分を分離する気液分離装置と、前記気液分離装置内の水量を検出する水量検出装置と、水が分離されて前記気液分離装置から排出された前記高圧水素を貯留する水素貯留装置と、水電解処理が終了した際に、前記気液分離装置内を脱圧及び排水する脱圧処理装置と、制御装置とを備える水電解システム及びその運転方法に関するものである。
【0013】
この水電解システムでは、制御装置は、水量検出装置により気液分離装置内の水量が排水を必要とする水量上限値であると検出された時点から、水素貯留装置が満タンになるまでの残余充填量を算出する残余充填量算出部と、前記気液分離装置内の水量が排水を停止させる水量下限値から前記水量上限値に至る排水周期の間に、水電解装置により製造される水素量を算出する製造水素量算出部と、前記残余充填量算出部により算出された前記残余充填量が、前記製造水素量算出部により算出された前記水素量よりも少ない場合に、前記水電解装置による前記水電解処理を終了させる電解終了判断部とを備えている。
【0014】
また、この運転方法では、制御装置は、水量検出装置により気液分離装置内の水量が排水を必要とする水量上限値であると検出された時点から、水素貯留装置が満タンになるまでの残余充填量を算出する工程と、前記気液分離装置内の水量が排水を停止させる水量下限値から前記水量上限値に至る排水周期の間に、水電解装置により製造される水素量を算出する工程と、前記算出された前記残余充填量が、前記算出された前記水素量よりも少ない場合に、前記水電解装置による前記水電解処理を終了させる工程とを営んでいる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、気液分離装置内の水量が水量上限値になった際、前記気液分離装置の排水周期の間に製造される水素量が、水素貯留装置が満タンになるまでの残余充填量よりも多い場合には、該気液分離装置から排水を行ってシステムが停止される。
【0016】
一方、気液分離装置内の水量が水量上限値になった際、前記気液分離装置の排水周期の間に製造される水素量が、水素貯留装置が満タンになるまでの残余充填量よりも少ない場合には、該気液分離装置から排水を行った後、水電解処理による水素製造作業が継続される。
【0017】
このため、気液分離装置内の水量が水量上限値未満の状態では、システム停止がなされることはなく、前記気液分離装置から排水処理が行われない。そして、気液分離装置内の水量が水量上限値になった際にのみ、すなわち、前記気液分離装置内の残存水素量が最小限である際にのみ、排水処理が行われている。これにより、システム停止時に気液分離装置から廃棄される水素量を可及的に抑制することができ、システム効率を良好に向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【図2】前記水電解システムの通常運転時の説明図である。
【図3】前記水電解システムの運転方法を説明するフローチャートである。
【図4】前記水電解システムの気相脱圧及び水電解装置脱圧時の説明図である。
【図5】前記水電解システムの排水及び水電解装置脱圧時の説明図である。
【図6】前記水電解システムの排水時の説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【図9】前記水電解システムの運転方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る水電解システム10は、水(純水)を電気分解することによって、酸素及び高圧水素(常圧である酸素圧力よりも高圧、例えば、1MPa〜70MPaの水素)を製造する差圧式水電解装置(高圧水素製造装置)12を備える。
【0020】
水電解装置12は、複数の単位セル14を積層したセルユニットを備える。単位セル14の積層方向一端には、ターミナルプレート16a、絶縁プレート18a及びエンドプレート20aが外方に向かって、順次、配設される。単位セル14の積層方向他端には、同様にターミナルプレート16b、絶縁プレート18b及びエンドプレート20bが外方に向かって、順次、配設される。エンドプレート20a、20b間は、一体的に締め付け保持される。
【0021】
ターミナルプレート16a、16bの側部には、端子部22a、22bが外方に突出して設けられる。端子部22a、22bは、電解電源24に電気的に接続される。
【0022】
単位セル14は、円盤状の電解質膜・電極構造体26と、この電解質膜・電極構造体26を挟持するアノード側セパレータ28及びカソード側セパレータ30とを備える。アノード側セパレータ28及びカソード側セパレータ30は、円盤状を有する。
【0023】
電解質膜・電極構造体26は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜32と、前記固体高分子電解質膜32の両面に設けられるアノード側給電体34及びカソード側給電体36とを備える。
【0024】
固体高分子電解質膜32の両面には、アノード電極触媒層34a及びカソード電極触媒層36aが形成される。アノード電極触媒層34aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層36aは、例えば、白金触媒を使用する。
【0025】
単位セル14の外周縁部には、積層方向に互いに連通して、水(純水)を供給するための水供給連通孔38と、反応により生成された酸素及び未反応の水(混合流体)を排出するための排出連通孔40と、反応により生成された水素を流すための水素連通孔42とが設けられる。
【0026】
アノード側セパレータ28の電解質膜・電極構造体26に対向する面には、水供給連通孔38及び排出連通孔40に連通する第1流路44が設けられる。この第1流路44は、アノード側給電体34の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。第1流路44には、反応により生成された酸素及び未反応の水が流通する。
【0027】
カソード側セパレータ30の電解質膜・電極構造体26に向かう面には、水素連通孔42に連通する第2流路46が形成される。この第2流路46は、カソード側給電体36の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。第2流路46には、反応により生成された高圧水素が流通する。
【0028】
水素連通孔42には、水電解装置12から高圧水素を排出するための水素配管50の一端が接続されるとともに、前記水素配管50の他端は、気液分離装置52に接続される。
【0029】
気液分離装置52は、水電解装置12から排出される高圧水素に含まれる水分を除去する。気液分離装置52には、水から分離された高圧水素を高圧水素貯蔵タンク(水素貯留装置)53に導出する高圧水素導出配管54と、分離された前記水を排出するための排水ライン56とが接続される。
【0030】
気液分離装置52の出口には、前記気液分離装置52から排水ライン56に排水を行う前に、前記気液分離装置52内の脱気を行うための気相脱圧ライン58が設けられる。気相脱圧ライン58は、実質的に気液分離装置52の近傍で高圧水素導出配管54から分岐する。
【0031】
水素配管50には、気液分離装置52の上流側で、前記水素配管50から分岐するとともに、水電解装置12の脱圧を行うための水電解装置脱圧ライン60が設けられる。
【0032】
気液分離装置52は、水を貯留するためのタンク部62を備える。タンク部62には、前記タンク部62内の水位WSが上限高さH(水量上限値)であるか否か、及び下限高さL(水量下限値)であるか否かを検出する水位検出センサ(水量検出装置)64が設けられる。水位検出センサ64は、水位による検出の他、タンク部62の重量を検出して水量上限値及び水量下限値を検出することもでき、また、水電解時間を計時して水量上限値及び水量下限値を検出することも可能である。
【0033】
水素配管50には、水電解装置脱圧ライン60の分岐部位と気液分離装置52との間に、第1背圧弁66a及び第1逆止弁68aが配置される。
【0034】
高圧水素導出配管54には、気相脱圧ライン58の分岐部位よりも下流に、第2背圧弁66b及び第2逆止弁68bが配置される。この第2逆止弁68bの下流には、除湿器70が設けられる。
【0035】
水素配管50には、水電解装置12の出口側近傍に、第1圧力計72aが配置される。高圧水素導出配管54には、第2背圧弁66bと気相脱圧ライン58の分岐部位との間に、第2圧力計72bが配置される一方、高圧水素貯蔵タンク53には、第3圧力計72cが配置される。気相脱圧ライン58には、第1減圧弁74a、絞り76及び第1開閉弁78aが配設される。絞り76は、例えば、オリフィスやニードル弁等により構成される。
【0036】
排水ライン56には、第2減圧弁74b及び第2開閉弁78bが配置されるとともに、水電解装置脱圧ライン60には、第3減圧弁74c及び第3開閉弁78cが配置される。第1減圧弁74a〜第3減圧弁74c、絞り76及び第1開閉弁78a〜第3開閉弁78cにより、脱圧処理装置80が構成される。
【0037】
これらの弁を含む各種デバイス及びシステム全体は、システムECU(Electronic Control Unit)等の制御装置82により制御される。
【0038】
制御装置82は、水位検出センサ64により気液分離装置52内の水位(水量)が排水を必要とする上限高さH(水量上限値)であると検出された時点から、高圧水素貯蔵タンク53が満タンになるまでの残余充填量を算出する残余充填量算出部84と、前記気液分離装置52内の水位(水量)が排水を停止させる下限高さL(水量下限値)から前記上限高さHに至る排水周期の間に、水電解装置12により製造される水素量を算出する製造水素量算出部86と、前記残余充填量算出部84により算出された前記残余充填量が、前記製造水素量算出部86により算出された前記水素量よりも少ない場合に、前記水電解装置12による水電解処理を終了させる水電解終了判断部88とを備える。
【0039】
ここで、残余充填量とは、高圧水素貯蔵タンク53内に水素が途中まで充填された状態から、又は前記高圧水素貯蔵タンク53内が略空の状態から、満タンになるまでに充填される水素量をいう。
【0040】
このように構成される水電解システム10の動作について、以下に説明する。
【0041】
先ず、水電解システム10の通常運転時には、図2に示すように、第1開閉弁78a〜第3開閉弁78cが閉塞される。そして、水電解装置12には、図示しない水循環装置を介して純水が供給されるとともに、ターミナルプレート16a、16bの端子部22a、22b間には、電気的に接続されている電解電源24を介して電圧(電流)が印加される。
【0042】
このため、各単位セル14では、水供給連通孔38からアノード側セパレータ28の第1流路44に水が供給され、この水がアノード側給電体34内に沿って移動する。従って、水は、アノード電極触媒層34aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜32を透過してカソード電極触媒層36a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0043】
これにより、カソード側セパレータ30とカソード側給電体36との間に形成される第2流路46に沿って水素及び透過水分が流動する。この水素は、水供給連通孔38よりも高圧に維持されており、水素連通孔42を流れて水電解装置12の外部に取り出し可能となる。
【0044】
次いで、第1の実施形態に係る運転方法について、図3に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0045】
水電解システム10では、上記のように、通常運転(水素製造工程)が行われている(ステップS1)。このため、高圧水素は、水素配管50を通って気液分離装置52に送られ、前記気液分離装置52のタンク部62には、前記高圧水素に含まれる水分が分離されて貯留される。
【0046】
一方、高圧水素は、気液分離装置52から高圧水素導出配管54に排出され、第2背圧弁66bの設定圧力を超えると、除湿器70を介してドライ高圧水素が得られる。このドライ高圧水素は、高圧水素貯蔵タンク53に充填され、前記高圧水素貯蔵タンク53内の前記ドライ高圧水素の水素量は、第3圧力計72cにより検出される。
【0047】
水電解装置12による水電解処理が継続されると、タンク部62内の水位WSが上昇する。そして、タンク部62に設けられている水位検出センサ64を介して前記タンク部62の水位WSが検出される。この水位WSが、上限高さHに至ると(ステップS2中、YES)、ステップS3に進んで、次回の排水サイクル(次サイクル)で製造される水素量が、高圧水素貯蔵タンク53内の残余充填量よりも多いか否かが判断される。
【0048】
すなわち、残余充填量算出部84は、第3圧力計72cにより高圧水素貯蔵タンク53内に充填されている水素量を検出している。そして、残余充填量算出部84は、タンク部62の水位WSが上限高さHに至った時点から、高圧水素貯蔵タンク53が満タンになるまでの残余充填量を算出する。
【0049】
一方、製造水素量算出部86は、気液分離装置52内が排水を停止させる下限高さLから上限高さHに至る排水周期(排水サイクル)の間に、水電解装置12により製造される水素量を算出する。
【0050】
具体的には、タンク部62の容量a、定常運転時にカソード側に透過する単位時間当たりの水透過量b、定常運転時の単位時間当たりの水素製造量c及び高圧水素貯蔵タンク53の容積dから、排水1サイクルzは、z=a/bとなる。
【0051】
そして、排水1サイクルzの水素製造量eは、e=c×zから算出される。さらに、水素製造量e及び高圧水素貯蔵タンク53の満タン圧力gでの水素量xに基づいて、前記高圧水素貯蔵タンク53が排水1サイクル内で満タンにならない上限圧力fが、上限圧力f=(x−e)/d/圧縮因子から求められる。なお、水素量xは、x=d×g×圧縮因子から得られる。
【0052】
次回の排水サイクルで製造される水素量が、高圧水素貯蔵タンク53内の残余充填量よりも多いと、すなわち、第3圧力計72cによる検出圧力PT3>上限圧力fであると判断されると(ステップS3中、YES)、ステップS4に進む。このステップS4では、第1開閉弁78a及び第3開閉弁78cが開放される一方、第2開閉弁78bが閉塞される(図4参照)。さらに、水電解装置12に印加される電解電流が制限されて、微小電解運転が行われる。
【0053】
従って、気液分離装置52のタンク部62内の気相が減圧されるとともに、水電解装置12のカソード側が減圧される。その際、第2圧力計72bは、タンク部62内の圧力PT2を検出しており、この検出された圧力PT2が、設定圧力以下(Low)となるか否かが検出される(ステップS5)。
【0054】
タンク部62内の圧力PT2が、設定圧力以下であると判断されると(ステップS5中、YES)、ステップS6に進んで、第2開閉弁78bが開放される一方、第1開閉弁78aが閉塞される。このため、図5に示すように、タンク部62内の水は、排水ライン56を介して排水される。その際、タンク部62には、水電解装置12により製造される水素が導入されており、この水素は、前記タンク部62内に残留する水を排水ライン56に押し出す機能を有する。
【0055】
さらに、ステップS7に進んで、タンク部62内の水位WS(LS1)が下限高さL以下であるか否か、すなわち、前記タンク部62内が空であるか否かが検出される。タンク部62内が略空であると検出されると(ステップS7中、YES)、ステップS8に進む。ステップS8では、第2開閉弁78bが閉塞される。
【0056】
次いで、ステップS9に進んで、第1圧力計72aにより検出された圧力PT1が設定圧力以下(Low)であるか否かが判断される。圧力PT1が設定圧力以下であると判断されると(ステップS9中、YES)、ステップS10に進んで、第3開閉弁78cが閉塞される。これにより、水電解システム10による水電解処理が停止される(システム停止)。
【0057】
一方、ステップS3において、次回の排水サイクルで製造される水素量が、高圧水素貯蔵タンク53内の残余充填量よりも少ないと判断されると(ステップS3中、NO)、ステップS12に進む。ステップS12では、第1開閉弁78aが開放されて気液分離装置52のタンク部62内の気相が減圧される。そして、第2圧力計72bにより検出された圧力PT2が、設定圧力以下(Low)となると(ステップS13中、YES)、ステップS14に進む。
【0058】
ステップS14では、第1開閉弁78aが閉塞される一方、第2開閉弁78bが開放される。このため、図6に示すように、タンク部62内の水は、排水ライン56を介して排水される。さらに、タンク部62内の水位WS(LS1)が下限高さL以下になると(ステップS15中、YES)、ステップS16に進んで、第2開閉弁78bが閉塞される。そして、ステップS16からステップS1の通常運転に戻る一方、ステップS12〜ステップS16では、微小電解運転が行われる。
【0059】
この場合、第1の実施形態では、気液分離装置52のタンク部62内の水量が水量上限値(水位WSが上限高さH)になった際、前記気液分離装置52の排水周期の間に製造される水素量が、高圧水素貯蔵タンク53が満タンになるまでの残余充填量よりも多いか否かが判断される(ステップS3)。
【0060】
その際、気液分離装置52の排水周期の間に製造される水素量が、高圧水素貯蔵タンク53が満タンになるまでの残余充填量よりも多いと判断されると、ステップS4以降の工程に進む。このため、水電解システム10では、気液分離装置52からの排水が行われた後、システム停止処理がなされる。
【0061】
一方、気液分離装置52のタンク部62内の水量が水量上限値になった際、前記気液分離装置52の排水周期の間に製造される水素量が、高圧水素貯蔵タンク53が満タンになるまでの残余充填量よりも少ないと判断されると、ステップS12以降の工程に進む。従って、気液分離装置52から排水が行われた後、水電解処理による水素製造作業(通常運転)が継続される。
【0062】
このように、気液分離装置52内の水量が水量上限値未満の状態では、システム停止がなされることはなく、前記気液分離装置52から排水処理が行われない。そして、気液分離装置52内の水量が水量上限値になった際にのみ、すなわち、タンク部62内の残存水素量が最小限である際にのみ、排水処理が行われている。
【0063】
これにより、システム停止時に、気液分離装置52から廃棄される水素量を可及的に抑制することができ、システム効率を良好に向上させることが可能になるという効果が得られる。
【0064】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る水電解システム90の概略構成説明図である。
【0065】
なお、第1の実施形態に係る水電解システム10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0066】
水電解システム90は、高圧水素導出配管54に、除湿器70の下流に位置して第2背圧弁66bが配設される。従って、第2の実施形態では、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0067】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る水電解システム100の概略構成説明図である。
【0068】
水電解システム100は、ノズル102により燃料電池車両(燃料電池電気自動車)104の燃料タンク(水素貯留装置)106にドライ水素を、直接、充填するように構成される。燃料タンク106には、圧力計108が設けられ、車載ECU等の車両側制御装置110により前記燃料タンク106内の水素圧力が検出される。
【0069】
水電解システム100と燃料電池車両104との間では、情報通信が行われる。水電解システム100を構成するシステム側制御装置82aは、システム側通信部112を備えるとともに、前記システム側通信部112には、システム側アンテナ114が設けられる。
【0070】
燃料電池車両104を構成する車両側制御装置110は、車両側通信部116を備えるとともに、前記車両側通信部116には、車両側アンテナ118が設けられる。システム側通信部112には、車両側通信部116から、例えば、燃料タンク106の圧力、前記燃料タンク106の容積及び該燃料タンク106の満タン圧力等の情報が送られる。
【0071】
このように構成される水電解システム100の運転方法について、図9に示すフローチャートに沿って以下に説明する。なお、図3に示す第1の実施形態に係る運転方法と同一の工程については、その詳細な説明は省略する。
【0072】
水電解システム100を構成するシステム側制御装置82aでは、燃料電池車両104を構成する車両側制御装置110から燃料タンク106の容積d及び前記燃料タンク106の満タン圧力g等のデータが通信により送られる。また、システム側制御装置82aには、燃料タンク106の水素圧力PT4が継続的に送られている。
【0073】
そこで、水電解システム100が通常運転され(ステップS101)、タンク部62の水位WSが上限高さHに至ると(ステップS102中、YES)、ステップS103に進む。このステップS103では、排水1サイクルの水素製造量eが算出され、この水素製造量eから燃料タンク106が排水1サイクル内で満タンにならない上限圧力fが求められる。
【0074】
次回の排水サイクルで製造される水素量が、燃料タンク106内の残余充填量よりも多いと、すなわち、圧力計108による検出圧力PT4>上限圧力fであると判断されると(ステップS103中、YES)、ステップS104以降に進む。一方、次回の排水サイクルで製造される水素量が、燃料タンク106内の残余充填量よりも少ないと判断されると(ステップS103中、NO)、ステップS112以降に進む。
【0075】
このように、第3の実施形態では、気液分離装置52内の水量が、水量上限値未満の状態では、前記気液分離装置52から排水処理が行われることがない。そして、気液分離装置52内の水量が水量上限値になった際にのみ、すなわち、タンク部62内の残存水素量が最小限である際にのみ、排水処理が行われている。
【0076】
これにより、システム停止時に、気液分離装置52から廃棄される水素量を可及的に抑制することができ、システム効率を良好に向上させることが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0077】
10、90、100…水電解システム 12…水電解装置
14…単位セル 24…電解電源
26…電解質膜・電極構造体 28…アノード側セパレータ
30…カソード側セパレータ 32…固体高分子電解質膜
34…アノード側給電体 36…カソード側給電体
38…水供給連通孔 40…排出連通孔
42…水素連通孔 44、46…流路
50…水素配管 52…気液分離装置
53…高圧水素貯蔵タンク 54…高圧水素導出配管
56…排水ライン 58…気相脱圧ライン
60…水電解装置脱圧ライン 62…タンク部
64…水位検出センサ 66a、66b…背圧弁
72a〜72c、108…圧力計 74a〜74c…減圧弁
76…絞り 78a〜78c…開閉弁
80…脱圧処理装置 82、82a、110…制御装置
84…残余充填量算出部 86…製造水素量算出部
88…電解終了判断部 102…ノズル
104…燃料電池車両 106…燃料タンク
112、116…通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる水電解装置と、
前記水電解装置から前記高圧水素を排出する水素配管に配設され、前記高圧水素に含まれる水分を分離する気液分離装置と、
前記気液分離装置内の水量を検出する水量検出装置と、
水が分離されて前記気液分離装置から排出された前記高圧水素を貯留する水素貯留装置と、
水電解処理が終了した際に、前記気液分離装置内を脱圧及び排水する脱圧処理装置と、
制御装置と、
を備える水電解システムであって、
前記制御装置は、前記水量検出装置により前記気液分離装置内の水量が排水を必要とする水量上限値であると検出された時点から、前記水素貯留装置が満タンになるまでの残余充填量を算出する残余充填量算出部と、
前記気液分離装置内の水量が排水を停止させる水量下限値から前記水量上限値に至る排水周期の間に、前記水電解装置により製造される水素量を算出する製造水素量算出部と、
前記残余充填量算出部により算出された前記残余充填量が、前記製造水素量算出部により算出された前記水素量よりも少ない場合に、前記水電解装置による前記水電解処理を終了させる電解終了判断部と、
を備えることを特徴とする水電解システム。
【請求項2】
水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる水電解装置と、
前記水電解装置から前記高圧水素を排出する水素配管に配設され、前記高圧水素に含まれる水分を分離する気液分離装置と、
前記気液分離装置内の水量を検出する水量検出装置と、
水が分離されて前記気液分離装置から排出された前記高圧水素を貯留する水素貯留装置と、
水電解処理が終了した際に、前記気液分離装置内を脱圧及び排水する脱圧処理装置と、
制御装置と、
を備える水電解システムの運転方法であって、
前記制御装置は、前記水量検出装置により前記気液分離装置内の水量が排水を必要とする水量上限値であると検出された時点から、前記水素貯留装置が満タンになるまでの残余充填量を算出する工程と、
前記気液分離装置内の水量が排水を停止させる水量下限値から前記水量上限値に至る排水周期の間に、前記水電解装置により製造される水素量を算出する工程と、
前記算出された前記残余充填量が、前記算出された前記水素量よりも少ない場合に、前記水電解装置による前記水電解処理を終了させる工程と、
を営むことを特徴とする水電解システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−241252(P2012−241252A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114303(P2011−114303)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】