説明

水電解システム

【課題】排出されるガス成分を良好に希釈するとともに、水質の劣化を確実に抑制することを可能にする。
【解決手段】水電解システム10は、水を電気分解することによって酸素及び高圧水素を製造する高圧水電解装置12と、前記水を前記高圧水電解装置12に循環させる水循環装置14と、前記高圧水電解装置12から排出されるガス成分を、前記水循環装置14内の水から分離し、前記水を貯留する気液分離装置16とを備える。気液分離装置16は、ガス成分及び水を導入する貯留器78と、前記貯留器78内に希釈用空気を供給するブロア86と、前記貯留器78内に配設され、該貯留器78内の水面位置に追従して上下動可能で且つ前記ガス成分を透過可能な可動壁部90とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水電解装置と、水を前記高圧水電解装置に循環させる水循環装置と、前記高圧水電解装置から排出されるガス成分を、前記水循環装置内の前記水から分離する気液分離装置とを備える水電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池を発電させるために、燃料ガスとして水素ガスが使用されている。一般的に、この水素ガスを製造する際に、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、アノード側給電体及びカソード側給電体を配設してユニットが構成されている。
【0003】
そこで、複数のユニットが積層された状態で、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側給電体に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素イオン(プロトン)と共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0004】
この種の水電解システムとして、例えば、特許文献1に開示された水電解装置の水循環装置(水電解システム)が知られている。図5に示すように、水電解システムでは、酸素側水槽1と水素側水槽2が水電解槽3の上方に設置されており、重力の力によって水供給配管4a、4bを通じて、自然に水電解槽3に水が給配されている。電源5は、サイリスタにより電流のON/OFFが可能なものとなっており、これにより、電解によって発生するガスの量及び発生間隔を任意に選択できる。
【0005】
酸素側水槽1と水素側水槽2には、消費された水を補給する系統6aと6bが設けられている。水は、発生したガスにより、排出管7aと7b内をリフトアップされている。
【0006】
ガスの発生は、電源5により断続的になされているため、ガスとガスの間に効果的に水が挟まれ、多量の水のリフトアップが可能になる。リフトアップされた水を補うため、水は、重力の力で水供給配管4a、4bから供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−291385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の水電解システムでは、酸素側水槽1に高濃度の酸素が滞留するとともに、場合により排出管7a側に透過した水素が滞留するおそれがある。特に、酸素よりも高圧な水素が生成される高圧水電解装置では、酸素側水素1に水素が滞留し易い。
【0009】
しかしながら、上記の酸素側水槽1には、高濃度の酸素や水素を希釈する工夫がなされておらず、直接排出している。このため、酸素側水槽1内に希釈用空気を供給することが考えられるが、前記酸素側水槽1内の純水中に、例えば、二酸化炭素等が溶解し、前記純水の水質が低下するという問題がある。
【0010】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、排出されるガス成分を良好に希釈するとともに、水質の劣化を確実に抑制することが可能な水電解システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な水素を発生させる高圧水電解装置と、前記水を前記高圧水電解装置に循環させる水循環装置と、前記高圧水電解装置の前記アノード側から排出されるガス成分を、前記水循環装置内の前記水から分離する気液分離装置とを備える水電解システムに関するものである。
【0012】
この水電解システムでは、気液分離装置は、下方に高圧水電解装置からのガス成分及び水を導入する導入口が設けられる貯留器と、前記貯留器の上方から該貯留器内に希釈用空気を供給する送風部と、前記貯留器内に配設され、該貯留器内の水面位置に追従して上下動可能で且つ前記ガス成分を透過可能な可動壁部とを備えている。
【0013】
また、この水電解システムでは、可動壁部は、高圧水電解装置から排出されるガス成分が、水面側から空間側に前記可動壁部を透過するガス圧力を、送風部から空気が供給される貯留器内の前記空間側のガス圧力よりも高圧に設定するための多孔シート部材を備えることが好ましい。
【0014】
さらに、この水電解システムでは、可動壁部は、水に浮遊するとともに、多孔シート部材を支持するフロート部材を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、貯留器の上方から希釈用空気が供給されるため、前記貯留器内に導入されるガス成分(酸素ガス及び水素ガス)は、良好に希釈されて外部に排出される。
【0016】
しかも、貯留器内には、ガス成分を透過可能な可動壁部が配設されている。従って、希釈用空気が貯留器内に滞留している純水に接触する面積が大幅に削減され、前記純水中に、例えば、炭酸イオン等が混入することを阻止することができる。これにより、水循環装置に設けられているイオン交換器内のイオン交換樹脂の劣化が進行することを確実に阻止することが可能になる。
【0017】
さらに、可動壁部は、貯留器内の水面位置に追従して上下動可能である。このため、水面と可動壁部との間には、酸素ガスと水素ガスとの混合ガスが滞留する空間部が形成されることがなく、前記混合ガスの処理が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【図2】前記水電解システムを構成する単位セルの分解斜視説明図である。
【図3】前記水電解システムを構成する貯留器の要部斜視説明図である。
【図4】前記貯留器の動作説明図である。
【図5】特許文献1に開示されている水電解システムの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る水電解システム10は、水(純水)を電気分解することによって酸素及び高圧水素(酸素よりも高圧な水素)を製造する高圧水電解装置12と、前記水を前記高圧水電解装置12に循環させる水循環装置14と、前記高圧水電解装置12から排出されるガス成分(酸素ガス及び水素ガス)を、前記水循環装置14内の水から分離し、前記水を貯留する気液分離装置16と、前記気液分離装置16に市水から生成された純水を供給する水供給装置18と、コントローラ20とを備える。
【0020】
高圧水電解装置12は、複数の単位セル24を積層して構成される。単位セル24の積層方向一端には、ターミナルプレート26a、絶縁プレート28a及びエンドプレート30aが外方に向かって、順次、配設される。単位セル24の積層方向他端には、同様にターミナルプレート26b、絶縁プレート28b及びエンドプレート30bが外方に向かって、順次、配設される。エンドプレート30a、30b間は、一体的に締め付け保持される。
【0021】
ターミナルプレート26a、26bの側部には、端子部34a、34bが外方に突出して設けられる。端子部34a、34bは、配線36a、36bを介して電源(直流電源)38に電気的に接続される。
【0022】
図2に示すように、単位セル24は、円盤状の電解質膜・電極構造体42と、この電解質膜・電極構造体42を挟持するアノード側セパレータ44及びカソード側セパレータ46とを備える。アノード側セパレータ44及びカソード側セパレータ46は、円盤状を有するとともに、例えば、カーボン部材又は金属板等で構成される。
【0023】
電解質膜・電極構造体42は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜48と、前記固体高分子電解質膜48の両面に設けられるアノード側給電体50及びカソード側給電体52とを備える。
【0024】
固体高分子電解質膜48の両面には、アノード電極触媒層50a及びカソード電極触媒層52aが形成される。アノード電極触媒層50aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層52aは、例えば、白金触媒を使用する。アノード側給電体50及びカソード側給電体52は、例えば、球状アトマイズチタン粉末の焼結体(多孔質導電体)により構成される。
【0025】
単位セル24の外周縁部には、積層方向に互いに連通して、水(純水)を供給するための水供給連通孔56と、反応により生成された酸素及び未反応の水(混合流体)を排出するための排出連通孔58と、反応により生成された水素を流すための水素連通孔60とが設けられる。
【0026】
アノード側セパレータ44の電解質膜・電極構造体42に向かう面44aには、水供給連通孔56に連通する供給通路62aと、排出連通孔58に連通する排出通路62bとが設けられる。面44aには、供給通路62a及び排出通路62bに連通する第1流路64が設けられる。この第1流路64は、アノード側給電体50の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。
【0027】
カソード側セパレータ46の電解質膜・電極構造体42に向かう面46aには、水素連通孔60に連通する水素排出通路66が設けられる。面46aには、水素排出通路66に連通する第2流路68が形成される。この第2流路68は、カソード側給電体52の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。
【0028】
アノード側セパレータ44及びカソード側セパレータ46の外周端部を周回して、シール部材70a、70bが一体化される。このシール部材70a、70bには、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0029】
図1に示すように、水循環装置14は、高圧水電解装置12の水供給連通孔56に連通する循環配管72を備える。この循環配管72は、循環ポンプ74及びイオン交換器76を配置するとともに、気液分離装置16を構成する貯留器78の底部に設けられた導出口78aに接続される。貯留器78の底部に設けられた導入口78bには、戻り配管80の一端部が連通する一方、前記戻り配管80の他端部は、高圧水電解装置12の排出連通孔58に連通する。
【0030】
貯留器78には、水供給装置18に接続された純水供給配管84と、希釈用空気を供給するブロア(送風部)86に接続された送風配管87と、前記貯留器78で純水から分離されたガス成分(酸素ガス及び水素ガス)を排出するための酸素排気配管88とが連結される。
【0031】
貯留器78内には、前記貯留器78内の水面WSの位置に追従して上下動可能で且つガス成分を透過可能な可動壁部90が配設される。図3に示すように、可動壁部90は、貯留器78の内壁形状に対応して長方形状(又は正方形状や円形状等)を有する多孔シート部材92と、前記多孔シート部材92を支持して水面WS上に浮遊する複数個、例えば、4個のフロート部材94とを備える。フロート部材94は、例えば、鉄系材料(SUS材)やチタン等により形成される。
【0032】
多孔シート部材92は、例えば、金属製メッシュやパンチングメタルにより構成される。多孔シート部材92の開口面積は、高圧水電解装置12から排出されるガス成分が、水面WS側から空間SP側に前記多孔シート部材92を透過する排出圧力を、ブロア86から空気が供給される貯留器78内の前記空間SP側のガス圧力よりも高圧になるように設定される。
【0033】
具体的には、図4に示すように、高圧水電解装置12で生成された酸素及び固体高分子電解質膜48を透過した水素の流量により発生する圧力損失ΔPH2+O2 は、ブロア86による希釈後の総ガス流量による圧力損失ΔPALL よりも大きく設定される(ΔPH2+O2 >ΔPALL )。
【0034】
図1に示すように、高圧水電解装置12の水素連通孔60には、高圧水素配管96の一端が接続される。この高圧水素配管96の他端は、図示しない高圧水素供給部(燃料タンクや燃料電池自動車等)に接続される。
【0035】
このように構成される水電解システム10の動作について、以下に説明する。
【0036】
先ず、水電解システム10の始動時には、水供給装置18を介して市水から生成された純水が、気液分離装置16を構成する貯留器78に供給される。一方、水循環装置14では、循環ポンプ74の作用下に、貯留器78内の水が循環配管72を介して高圧水電解装置12の水供給連通孔56に供給される。また、ターミナルプレート26a、26bの端子部34a、34bには、電気的に接続されている電源38を介して電圧が付与される。
【0037】
このため、図2に示すように、各単位セル24では、水供給連通孔56からアノード側セパレータ44の第1流路64に水が供給され、この水がアノード側給電体50内に沿って移動する。
【0038】
従って、水は、アノード電極触媒層50aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜48を透過してカソード電極触媒層52a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0039】
これにより、カソード側セパレータ46とカソード側給電体52との間に形成される第2流路68に沿って水素が流動する。この水素は、水供給連通孔56よりも高圧に維持されており、水素連通孔60を流れて高圧水電解装置12の外部に高圧水素配管96を介して取り出し可能となる。
【0040】
一方、第1流路64には、反応により生成した酸素と、未反応の水とが流動しており、これらの混合流体が排出連通孔58に沿って水循環装置14の戻り配管80に排出される(図1参照)。さらに、第2流路68の水素は、第1流路64の混合流体よりも高圧に維持されており、前記水素の一部が固体高分子電解質膜48を透過して前記第1流路64にリークする。
【0041】
未反応ガスの水及びガス成分(酸素ガスと透過した水素ガス)は、貯留器78に導入されて気液分離された後、水は、循環ポンプ74を介して循環配管72からイオン交換器76を通って水供給連通孔56に導入される。水から分離されたガス成分は、ブロア86から供給される希釈用空気によって希釈された後、酸素排気配管88から外部に排出される。
【0042】
この場合、本実施形態では、図4に示すように、貯留器78内には、前記貯留器78内の水面WSの位置に追従して上下動可能で且つガス成分を透過可能な可動壁部90が配設されている。そして、高圧水電解装置12で生成された酸素及び透過した水素の流量により発生する圧力損失ΔPH2+O2 は、ブロア86による希釈後の総ガス流量による圧力損失ΔPALL よりも大きく設定されている。
【0043】
従って、貯留器78の下部に導入されたガス成分は、多孔シート部材92を透過して上部側(空間SP側)に移動した後、希釈用空気により希釈されて酸素排気配管88から外部に排出されている。このため、貯留器78内に導入されるガス成分は、良好に希釈された後、外部に排出されている。
【0044】
しかも、貯留器78内に供給される希釈用空気は、空間SP側から水面WS側に可動壁部90を通過することがない。これにより、希釈用空気が貯留器78内に滞留している純水に接触する面積を大幅に削減することができ、前記純水中に、例えば、炭酸イオンが混入することを阻止することが可能になる。従って、水循環装置14に設けられるイオン交換器76内のイオン交換樹脂(図示せず)の劣化が進行することを確実に阻止することができ、経済的であるという効果が得られる。
【0045】
さらに、可動壁部90は、複数のフロート部材94を介して貯留器78内の水面WSの位置に追従して上下動可能である。このため、水面WSと可動壁部90との間には、酸素ガスと水素ガスとの混合ガスが滞留する空間部が形成されることがなく、前記混合ガスの処理が不要になるという利点がある。
【符号の説明】
【0046】
10…水電解システム 12…高圧水電解装置
14…水循環装置 16…気液分離装置
18…水供給装置 20…コントローラ
24…単位セル 38…電源
42…電解質膜・電極構造体 44…アノード側セパレータ
46…カソード側セパレータ 48…固体高分子電解質膜
50…アノード側給電体 52…カソード側給電体
56…水供給連通孔 58…排出連通孔
60…水素連通孔 64、68…流路
66…水素排出通路 72…循環配管
74…循環ポンプ 76…イオン交換器
78…貯留器 80…戻り配管
84…純水供給配管 86…ブロア
88…酸素排気配管 90…可動壁部
92…多孔シート部材 94…フロート部材
96…高圧水素配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側に給電体が設けられ、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な水素を発生させる高圧水電解装置と、
前記水を前記高圧水電解装置に循環させる水循環装置と、
前記高圧水電解装置の前記アノード側から排出されるガス成分を、前記水循環装置内の前記水から分離する気液分離装置と、
を備える水電解システムであって、
前記気液分離装置は、下方に前記高圧水電解装置からの前記ガス成分及び前記水を導入する導入口が設けられる貯留器と、
前記貯留器の上方から該貯留器内に希釈用空気を供給する送風部と、
前記貯留器内に配設され、該貯留器内の水面位置に追従して上下動可能で且つ前記ガス成分を透過可能な可動壁部と、
を備えることを特徴とする水電解システム。
【請求項2】
請求項1記載の水電解システムにおいて、前記可動壁部は、前記高圧水電解装置から排出される前記ガス成分が、水面側から空間側に該可動壁部を透過するガス圧力を、前記送風部から前記空気が供給される前記貯留器内の前記空間側のガス圧力よりも高圧に設定するための多孔シート部材を備えることを特徴とする水電解システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水電解システムにおいて、前記可動壁部は、前記水に浮遊するとともに、前記多孔シート部材を支持するフロート部材を備えることを特徴とする水電解システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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