説明

水電解セル

【課題】水素及び酸素を気相中に生成させる水電解セルの水電解セルを提供する。
【解決手段】プロトン伝導性多孔質電解質の両側に、撥水性材料を含んで構成される陽極及び陰極が接合された構造を備えている。両電極の多孔質電解質との接合面の反対側面には、陰極室又は陽極室が形成される。かる構成により、多孔質電解質の隙間に水を充填した状態で両電極間に直流電流を通電することにより、陽極において気相状態下で酸素ガスが生成し、同時に生成する水素イオンは多孔質電解質を移動し、陰極において電子を得て気相状態下で水素ガスとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水電解セルに係り、特に、水素及び酸素を気相中に生成させる水電解セルの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギー利用、CO2排出量削減等を促進するため、エネルギー源としての水素の利用が注目されている。これに伴い、水素製造のため水電解技術の研究開発も広く進められている。水の電気分解の方法としては、アルカリ水電解(例えば特許文献1)や固体高分子電解質を用いた水電解が公知である(例えば特許文献2)。
【0003】
従来の固体高分子電解質膜を用いた水電解セル100は、図9に示すように触媒電極102,103を接合した固体高分子電解質膜101を挟んで、その両側に給電体104a,104b及び通電板105a,105bにより構成される。電解質膜101で仕切られた空間には、陰極室106と陽極室107が形成されている。
この水電解セル100による水電解の機構は、陰極室106及び陽極室107に水を供給し、電極102,103に直流電流を通電することにより、陽極室107において酸素と同時に生成する水素イオンは固体高分子電解質膜101を移動し、陰極室106で電子を得て水素ガスとなる。この場合、電解質材料としては、通常、緻密性のプロトン伝導性高分子膜が用いられる。なお、文献1の技術では、得られる水素、酸素の高純度化を図るため、電解質膜101の両面に白金族金属108をメッキした材料を用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−163059号公報
【特許文献2】特開平10−102273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のアルカリ水電解又は固体高分子電解質膜を用いる水電解では、水素や酸素はいずれも液相(水)中で気泡として発生することになる。この場合、気泡発生には大きな表面エネルギーを必要とする。また、気泡が大きく成長すると、反応場(触媒)に水が供給されなくなるため、反応進行が妨げられるという問題がある。
さらに、固体高分子電解質膜を用いる方式では、電解質膜の機械強度が極めて弱いため、加圧水素、酸素の製造が困難という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本願発明者は鋭意研究の結果、気相中で水素や酸素を発生させる水電解セルの構造を見出し、試験により確認して以下の発明を完成した。すなわち、
本発明に係る水電解セルは、
(1)プロトン伝導性多孔質電解質と、撥水性材料を含んで構成され多孔質電解質の両面にそれぞれ接合される電極(陽極及び陰極)と、多孔質電解質に水を供給する手段と、備えて成り、陽極又は陰極の多孔質電解質との接合面の反対側に、気相中にそれぞれ酸素ガス又は水素ガスを生成可能に構成したことを特徴とする。
【0007】
図1は、本発明に係る水電解セルの構造を模式的に示した図である。本発明に係る水電解セルは、プロトン伝導性多孔質電解質の両側に、撥水性材料を含んで構成される陽極及び陰極(以下、撥水性電極と略称することがある)が接合された構造を備えている。両電極の多孔質電解質との接合面の反対側面には、陰極室又は陽極室が形成される。
電解用の水は、水供給手段を介して供給される。この場合、多孔質電解質側のみに水が供給され、陰極室側又は陽極室側に浸入することのないように、必要に応じてシール剤等によりシールされる。なお、電解質はプロトン伝導性を持つので、アルカリ水電解のように供給する水自体が電解質である必要はない。
【0008】
本発明に用いる多孔質電解質材料としては、例えば含水酸化チタンナノ粒子を好適に用いることができる。また、撥水性電極(陰極及び陽極)は、触媒粒子を撥水性伝導性担体に担持させて構成されている。触媒材料としては、例えば白金担持カーボンを好適に用いることができ、また撥水性伝導性担体としては、例えばテフロン(登録商標)修飾多孔質カーボンを好適に用いることができる。
かかる構成により本発明に係る水電解セルは、多孔質電解質の隙間に水を充填した状態で、両電極間に直流電流を通電することにより、陽極において気相状態下で酸素ガスが生成し、同時に生成する水素イオンは多孔質電解質を移動し、陰極において電子を得て気相状態下で水素ガスとなる。
【0009】
さらに本発明による水電解セルは、加圧水素・酸素の製造が可能な構造を有する。すなわち、撥水性電極は水が浸入しにくい性質を有しているため、多孔質電解質に供給する水を加圧することができる。加圧状態において電極室を閉鎖すれば、発生した水素や酸素により電極室の圧力は上昇するが、多孔質電解質の水圧以下に維持すれば、水素や酸素が電解質に浸入することはない。このようにして、安定的な電気分解により、加圧水素ガスや加圧酸素ガスを得ることが可能となる。
【0010】
本発明の水電解セルにおける反応機構について、さらに詳細に説明する。図3を参照して、供給された水は、多孔質電解質粒子の隙間に充填される。プロトン(水素イオン、H+)は多孔質電解質粒子の表面、あるいは内部を通過することができる。触媒粒子は、撥水性担体と共に存在している。担体は電子伝導性を有し、触媒上で起こる電極反応で生じる/不足する電子を集電し、リード線に渡す/リード線から供給する機能を持つ。
【0011】
次に、図4を参照して、上記構造において水の電解反応は以下のプロセスにより起こる。
(a)陰極側
陰極では、カソード反応(2H++2e-→H2)が進行する。この反応は、リード線から担体を介して触媒に電子が供給され、かつ、電解質から触媒にプロトン(水素イオン、H+)が供給され、これらが反応して気体である水素(H2)を生成するものである(同図(a))。本発明においては、撥水性担体を用いているため、担体の集合体の中には水に濡れていない空間が存在し、水素はその空間に放出されることにより、電極反応が促進される。
【0012】
(b)陽極側
陽極では、アノード反応(2H2O→O2+2H++2e-)が進行する。カソード反応と同様に、液体の水が触媒上でプロトンと電子と酸素に分かれる(同図(b))。生じた酸素が、空間に放出されるため電極反応が速やかに起きる。
このように、本発明の水電解セルでは水を電解質側から供給する構造であるため、撥水性電極に水を通過させる必要がない。このため、発生した水素や酸素が円滑にガス抜けするように電極を設計することが可能である。
【0013】
(2)前記陽極及び前記陰極は、前記多孔質電解質との接合面側に、半撥水性材料と触媒の混合物により構成されるガス拡散電極層と、その外側に電気伝導性を有する撥水性材料により構成される集電体層と、の2層により構成されることを特徴とする。
半撥水性材料としては、例えば、ケッチェンブラックなどの中程度の親水性を有する炭素材料を好適に用いることができる。また、触媒としては、例えば白金担持カーボンを好適に用いることができる。なお、撥水性材料については、第一の発明と同一材料を用いることができる。
図2は、本発明に係る水電解セルの構造を模式的に示した図である。上記(1)の発明では、撥水性材料の影響により水が電極内部に浸透し難いため、触媒反応が界面近傍に限定される。本発明によれば、電極部が、半撥水性材料からなり反応場として機能するガス拡散電極層と、撥水性材料からなり電気伝導体として機能する集電体層と、の2層構造であるため、撥水性を確保しつつ、反応効率のさらなる向上が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水素や酸素を気相中に生成させる構造であるため、液相中で生成させる従来の水電解セルと比較して、気泡生成に必要なエネルギーが不要となり、その分、効率が向上するという効果がある。
また、電極材料として水の浸入を阻止しガスのみを通過させる撥水性材料を用いているため、多孔質電解質に供給する水を加圧することができる。これにより加圧水素、加圧酸素の製造が容易に可能という効果がある。この特性を利用して、例えば燃料電池自動車や水素自動車等への高圧水素の供給に際して、昇圧に要するエネルギーの大幅削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一の発明に係る水電解セルの構造を示す図である。
【図2】第二の発明に係る水電解セルの構造を示す図である。
【図3】多孔質電解質と撥水性電極の界面を模式的に示す図である。
【図4】界面において進行する電極反応を模式的に示す図である。
【図5】試験に用いた水電解セル(多孔質電解質、緻密電解質)の構造を示す図である。
【図6】試験装置の概要を示す図である。
【図7】水温25℃における電流−電圧曲線を示すグラフである。
【図8】水温60℃における電流−電圧曲線を示すグラフである。
【図9】従来の固体高分子電解質膜を用いた水電解セル100の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
多孔質電解質を用いた水電解セルの効果を確かめるために、多孔質電解質および緻密電解質を用いた水電解セルを作製し、水電解試験を行い、電流−電圧曲線を比較した。
多孔質電解質として、硫酸修飾含水酸化チタンをナフィオン(登録商標)分散液(デュポン社製)をバインダーとして加熱し、固定化したものを用いた。また、緻密電解質として、ナフィオン(登録商標)117(同社製市販品)を用いた。電極には同一のものを用い、電極を電解質に取り付けるために行うホットプレスの条件も同一とした。
【0017】
(1)試料作製
(a)電極
テフロン(登録商標)で撥水処理を施したカーボンペーパー(請求項のガス拡散電極層に該当)に、白金担持カーボンを塗布したもの(請求項のガス拡散集電体層に該当)を電極として用いた。白金担持カーボンはナフィオン(登録商標)(デュポン社製)と混合され、カーボンペーパーに固定されている。白金の担持量は、1mg/m2である。
【0018】
(b)電解質用材料
硫酸修飾含水酸化チタンは、硫酸チタニルを水に溶解後、ホットプレートによって加熱し、生成する白色沈殿を濾別することにより調製した。アナターゼ相の酸化チタンのナノ粒子と硫酸が複合化した様態を有し、多孔質かつプロトン伝導性を持つ。
適量のイソプロパノールに硫酸修飾含水酸化チタンの粉末およびナフィオン(登録商標)分散液を加え、瑪瑙乳鉢にて混合した。ナフィオン(登録商標)分散液の量は、ナフィオン(登録商標)の量が含水酸化チタンの10重量パーセントとなるように調整した。イソプロパノールの量は、混合物がペースト状となるように調整した。
【0019】
(c)水電解セル
図5に、それぞれ多孔質電解質(同図(a))及び緻密電解質(同図(b))を用いた水電解セルの構造を示す。
多孔質電解質を用いたセルは、以下のようにして作製した。
10mm×10mm(同図のB)および20mm×20mm(同図のC)に揃えた上記電極(撥水カーボンペーパーに白金担持カーボンを塗布したもの)の上に、電解質用混合物のペーストをそれぞれ塗布し(同図のA)、乾燥した。20mm角電極の中央に、10mm角電極の試料を電解質面が接触するように重ね、これを140℃でホットプレスし、水電解セルとした。
一方、緻密電解質を用いたセルは、以下のようにして作製した。
25mm角のナフィオン(登録商標)117(同図のD)の片面に20mm角の電極(同図のE)を配置し、もう片面に10mm角の電極(同図のF)を配置した。白金担持カーボンがナフィオン(登録商標)117と接触するようにした。電極はどちらもナフィオン(登録商標)の中央に来るように配置した。これを140℃でホットプレスすることにより、水電解セルとした。
【0020】
(2)試験方法
図6に、試験装置1の概要を示す。多孔質電解質2a及びその両側の電極2b、2cにより構成される水電解セル2を、上蓋1a、下蓋1bにより挟持し、陰極2aを中蓋1cで覆うように構成されている。上蓋1aと中蓋1cで囲まれた空間には蒸留水が満たされる。両電極間に直流電流を通電することにより、中蓋1cと陰極2aで囲まれる空間に陰極室4が、下蓋1bと陽極2cで囲まれる空間に陽極室4が、それぞれ形成される。
上記のセルをそれぞれ集電金属網で挟み、蒸留水中に浸した状態で電圧を印加し、電流を測定した。電極面積は、10mm角の電極に規制されると仮定し、1cm2とした。流れた電流値を電極面積1cm2で除して、電流密度とした。
水の温度は、25℃および60℃の2条件にて測定を行った。
【0021】
(3)試験結果
図7,8に、多孔質電解質を用いた場合と緻密電解質を用いた場合の電流電圧曲線を示す。水の電気分解は、(水の1molあたりの生成自由エネルギー変化)/2F(F:ファラデー定数)で表される理論電解電圧以上の電圧を印加することによって進行しうる。
理論電解電圧に余分に加えられる電圧は過電圧と呼ばれ、電極反応が進行するために必要な電極過電圧と電解質中をイオンが動くために必要な電解質過電圧からなる。後者は(電解質抵抗)×(電流)で表される。理論電解電圧は約1.2Vであり、理論過電圧を超えて印加された分の電圧、すなわち(印加電圧)−(理論電解電圧)が過電圧に等しい。
水温が25℃(図7)、60℃(図8)いずれの場合も、印加電圧が1.4V以上においては、同じ電流密度を得るための印加電圧は多孔質電解質を用いた場合の方が小さい。すなわち、多孔質電解質を用いた場合の方が過電圧は小さい。
一方、別に測定した電解質の抵抗値は、
多孔質電解質セルの電解質抵抗:5.53Ω(25℃)、4.68Ω(60℃)
緻密電解質セルの電解質抵抗::0.95Ω(25℃)、1.16Ω(60℃)
すなわち、各々の実験は異なるサンプルで行われたため、サンプルの違いによるばらつきはあるが、電解質抵抗過電圧は緻密電解質セルの方が大きい。
以上より、同一の電極を用いているにもかかわらず、電極過電圧は多孔質電解質を用いた場合の方が小さい。これは、多孔質電解質を介して、水の供給が円滑に行われた結果であり、多孔質電解質セルの優位性が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、水電解による水素ガス、酸素ガスの製造装置用材料として広く利用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1・・・・試験装置
2・・・・水電解セル
2a・・・多孔質電解質
2b・・・陰極
2c・・・陽極
3・・・・陰極室
4・・・・陽極室



【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性多孔質電解質と、
撥水性材料を含んで構成され、多孔質電解質の両面にそれぞれ接合される電極(陽極及び陰極)と、
多孔質電解質に水を供給する手段と、備えて成り、
陽極又は陰極の多孔質電解質との接合面の反対側に、気相中にそれぞれ酸素ガス又は水素ガスを生成可能に構成したことを特徴とする水電解セル。
【請求項2】
前記陽極及び前記陰極は、前記多孔質電解質との接合面側に、半撥水性材料と触媒の混合物により構成されるガス拡散電極層と、その外側に電気伝導性を有する撥水性材料により構成されるガス拡散集電体層と、の2層により構成されることを特徴とする請求項1に記載の水電解セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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