説明

水電解消毒装置

【課題】水が貯留されている水槽内に設置される電極部2と、電極部に対し電解電圧を供給する制御部4と、を備え、水の電気分解により消毒成分を生成する水電解消毒装置1において、その処理能力の微調整を簡便に実現する。
【解決手段】電極部は、所定の大きさの電極面221を有する、少なくとも一対の電極板22が、所定の隙間を空けて電極面同士が相対するように、並んで配置されて構成された電極体21を有する。水電解消毒装置は、隣り合う電極板の間に着脱可能に取り付けられかつ、各電極板の電極面の一部を覆うことにより、当該各電極板の電極面の大きさを縮小させる能力調整部材5をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、水槽内に設置される電極部を備え、水の電気分解により消毒成分を生成することで、当該水槽内の水の消毒を行う水電解消毒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水は、河川等から取水された水に、浄水場において、ろ過や消毒等の処理を施すことによって作られている。しかしながら、浄水場から利用者に水が供給されるまでには、ある程度の時間がかかるため、仮に消毒効果が残留しない場合は、その供給途中で、水が雑菌等に汚染される虞がある。そのため、浄水場では、消毒効果に残留性のある塩素(つまり、有効塩素)を水に注入することによって水の消毒を行うようにしている。しかしながら、消毒効果のある有効塩素もまた、時間が経過するに従って次第に減少してしまうことから、従来より、水の供給途中に存在するポンプ場や配水池等の施設において、定量ポンプを利用して水に次亜塩素酸ナトリウムを、塩素消毒剤として注入することが行われている。
【0003】
しかしながら、次亜塩素酸ナトリウムは常温でも不安定な化合物であって、その保管中に自己分解し、有効塩素濃度が減少する一方、塩素酸ナトリウム濃度が増加してしまう。そのため、次亜塩素酸ナトリウムの保管中に、そうした分解が進んでしまうと、必要な有効塩素濃度を維持するために、次亜塩素酸ナトリウムの注入量を増やさなければならないものの、そうすると注入後の水の、塩素酸の濃度が高くなってしまう。また、塩素酸の濃度基準値が超えないように、次亜塩素酸ナトリウムの注入量を減らすと、必要な有効塩素濃度を維持することができなくなることにもなり得る。このように、分解しやすい次亜塩素酸ナトリウムは、例えば20℃以下で保管する等の制約が多く、その取り扱いが難しいという問題がある。
【0004】
そこで、従来より、少なくとも一対の電極板を水槽内に配置し、水の電気分解により消毒成分を発生させることで、水槽内の水の消毒を行う消毒装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。こうした消毒装置は、次亜塩素酸ナトリウム等の注入薬品を不要にするため、前述した薬品の取り扱いに関する問題も解消されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3357008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような水の電気分解により水槽内の水の消毒を行う消毒装置では、その消毒装置を設置する水槽の容積に応じた処理能力、言い換えると消毒成分の生成能力となるように、電極板の電極面積、電極板間の距離、及び、電解電圧等の設計パラメータの設定を行う。実際には、設置を行う水槽の容積に応じて個別に設計を行うのではなく、予め処理能力の異なる複数種類の規格を設定しておき、設置する水槽の容積に応じて、少なくとも当該容積以上の処理能力を有する規格の消毒装置を選択して、そこに設置することになる。
【0007】
ところが、本願発明者らは、消毒装置を設置する水槽によっては、設計値以上の電解電流が発生してしまい、消毒装置の運転に支障が生じることがあることを発見した。本願発明者らが検討したところ、この現象は、設置する水槽内の水の導電率に起因している。
【0008】
つまり、前述した電極板の電極面積等の設計パラメータを設定する際には、平均的な水の導電率に基づいて、所望の電解電流が発生するように設計パラメータを設定している。しかしながら、消毒装置を設置した水槽の水の導電率が、設計時に考慮した水の導電率よりも高い場合があり、その場合に、電極板間に設計値以上の電解電流が発生してしまい、消毒装置の運転に支障が生じる場合がある。
【0009】
また、水槽内の水温が変化することに応じて、水の導電率が変化してしまう場合もある。例えば冬場の水温の低いときには導電率が相対的に低く、設計通りの運転が実現する一方で、夏場の水温の高いときには導電率が高くなってしまい、必要以上の電解電流が発生してしまう場合がある。
【0010】
このように、水の電気分解により水槽内の水の消毒を行う消毒装置では、消毒装置を設置する水槽の水質に応じて処理能力を微調整したり、季節によって処理能力を微調整したいという要求があり、そうした微調整を簡易に実現することが求められている。
【0011】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水の電気分解により、消毒成分を生成する水電解消毒装置において、その処理能力の微調整を簡便に実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここに開示する技術は、水が貯留されている水槽内に設置される電極部と、前記電極部に対し電解電圧を供給する制御部と、を備え、前記水の電気分解により消毒成分を生成する水電解消毒装置に係る。
【0013】
ここで、前記電極部は、所定の大きさの電極面を有する、少なくとも一対の電極板が、所定の隙間を空けて電極面同士が相対するように、並んで配置されて構成された電極体を有する。
【0014】
そして、前記水電解消毒装置は、隣り合う電極板の間に着脱可能に取り付けられかつ、前記各電極板の電極面の一部を覆うことにより、当該各電極板の電極面の大きさを縮小させる能力調整部材をさらに備えている。
【0015】
この水電解消毒装置は、水中の塩化物イオンを原料として、消毒成分としての有効塩素、つまり次亜塩素酸イオン及び次亜塩素酸を生成する装置としてもよい。
【0016】
この構成によると、消毒対象となる水槽内に設置された電極部は、少なくとも一対の電極板が並んで配置されて構成された電極体を有している。各電極板は、所定の大きさの電極面を有すると共に、複数の電極板は、電極面同士が相対するように所定の隙間を空けて配置されている。このように電極板の大きさ及び電極板間の隙間の大きさが定められており、それによって、この水電解消毒装置は、所定の処理能力、つまり、消毒成分の生成能力を有することになる。
【0017】
この水電解消毒装置は、能力調整部材をさらに備えている。能力調整部材は、隣り合う電極板の間に着脱可能に取り付けられかつ、各電極板の電極面の一部を覆うことにより、当該各電極板の電極面の大きさを縮小させる。こうして、能力調整部材を電極体に取り付けたときには、各電極板の電極面の大きさが縮小するため、電極板間に発生する電解電流が低下し、水電解消毒装置の処理能力が、電極面の縮小面積分だけ低下する。
【0018】
従って、水電解消毒装置を設置するとき、又は、設置した後に、その水槽内の水の導電率の大きさに応じて、例えば導電率が比較的高くて、発生する電解電流値が高すぎるようなときには、能力調整部材を電極体に取り付ける。このことによって、電解電流値を低下させて、処理能力を低下させることが可能になる。一方、水槽内の水の導電率が高くなく、水電解消毒装置の能力調整が不要なときには、能力調整部材を電極体に取り付けないことで、設計値通りの処理能力を発揮することが可能になる。
【0019】
また、冬場の、水温が低くて水の導電率が相対的に低いときには、能力調整部材を電極体に取り付けず、設計値通りの処理能力を確保する一方で、夏場の、水温が高くて水の導電率が相対的に高いときには、能力調整部材を電極体に取り付けることによって、必要以上の電解電流が発生してしまうことを防止することが実現する。
【0020】
また、能力調整部材の大きさを変更したり、電極体に取り付ける能力調整部材の数を変更したりすることで、各電極板の電極面を覆う面積の大きさを変更するか、能力調整部材の取り付け位置の調整により、全ての電極板の電極面を覆うのではなく、面積を縮小する電極板の数を変更するかすれば、水電解消毒装置の処理能力の低下量を変えることも可能である。
【0021】
このように、能力調整部材を電極体に対して着脱したり、その装着位置を変更したりすることだけで、電極面の大きさを変更して水電解消毒装置の処理能力を変更することが可能であり、処理能力の微調整が簡便に実現する。
【0022】
前記能力調整部材は、前記各電極板を板厚方向に挟持するように並んで配置されかつ、前記電極板の並び方向に直交する方向から、前記電極体に差し込まれることにより、その各々が隣り合う前記電極板の間に取り付けられる複数の挿入部を有する櫛歯状に構成されている、としてもよい。
【0023】
こうすることで、複数の電極板を有する電極体に対して、複数の挿入部を有する櫛歯状の能力調整部材を差し込むことだけで、全ての電極板について、その電極面の一部を覆うことが可能になる。また、櫛歯状の能力調整部材を電極面の法線方向にずらして取り付けることで、一部の電極板の電極面を覆って、面積を縮小する電極板の数を少なくすることが可能になる。また、能力調整部材を取り外すときには、電極体に差し込まれている能力調整部材を抜き取ればよい。従って、電極体に対する、能力調整部材の取り付け及び取り外しを、それぞれ容易に行うことが可能になる。
【0024】
前記電極部は、前記電極体を保持する保持体をさらに有し、前記保持体には、前記電極板の並び方向に対し直交する方向に開口が形成されており、前記能力調整部材は、前記保持体の前記開口を通じて前記電極体に差し込まれるよう構成されている、としてもよい。
【0025】
こうすることで、例えば電極部の分解を行わなくても、電極体に対する、能力調整部材の取り付け及び取り外しを、保持体の開口を通じて行うことが可能になる。従って、電極体に対する、能力調整部材の取り付け及び取り外しを、それぞれ、極めて容易に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、前述した水電解消毒装置は、能力調整部材を電極体に取り付けたときには、各電極板の電極面の一部が覆われて各電極板の電極面の大きさが縮小することにより、水電解消毒装置の処理能力を低下させることができるから、水槽内の水の導電率の大きさや、水温に応じて能力調整部材を取り付けたり、取り外したりすることで、水電解消毒装置の処理能力を、簡便に微調整することが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】水電解消毒装置を示す全体図である。
【図2】水電解消毒装置の電極部の平面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】能力調整部材の(a)側面図、(b)正面図、(c)その先端部分の拡大図である。
【図5】図4とは異なる形状の能力調整部材の(a)側面図、(b)正面図であり、(c)は、該能力調整部材を電極部に取り付けた状態の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、水電解消毒装置の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。図1は、水電解消毒装置1の全体構成図を示している。水電解消毒装置1は、水が貯留されている水槽(図示省略)内に設置される電極部2と、水槽外に設置されかつ、電極部2に対しケーブル41を介して電解電圧を印加する制御部4と、を備えて構成されている。この水電解消毒装置1は、水中の塩化物イオン(Cl)を原料にして、水の電気分解により、消毒成分としての有効塩素(つまり、次亜塩素酸イオン(ClO)及び次亜塩素酸(HClO))を生成する装置である。こうした水電解消毒装置1は、例えば学校、病院及びビル等の各種施設における高架水槽、及び、加圧ポンプ場や配水池等の水道施設といった、浄水場から遠く離れた場所において、水の残留塩素濃度を適正に保つために設置される装置である。この水電解消毒装置1は、水槽中に薬品を注入する代わりに利用される装置であって、消毒用の薬品が不要になることから、薬品管理が不要になると共に、ランニングコストが安いという利点がある。
【0029】
電極部2は、図1〜図3に示すように、電極体21と、電極体21を保持する保持体3とを備えて構成されている。尚、図2は、電極部2の平面図、図3は、図2の電極部2におけるIII−III断面図である。
【0030】
電極体21は、複数枚の(図例では5枚であるが,電極板の枚数とは無関係に変更可能である)電極板22を有している。各電極板22は、図3に端的に示すように、横長でかつ厚みの薄い矩形平板であり、所定の大きさの電極面221を有している。5枚の電極板22は、後述するように保持体3の係合支持部32に支持されることによって、その電極面221同士が水平方向に相対するように、所定の等間隔を空けて並んで配置されている。これにより、隣り合う電極面221同士の間に形成される4つの隙間は、電極体21の上端側と下端側とのそれぞれに開口することになる(例えば図2参照)。
【0031】
保持体3は、電極体21を囲むように形成された、横長でかつ矩形箱状の本体31を有している。本体31の上端部と下端部とにはそれぞれ、各電極板22の上端縁部と下端縁部とに係合しかつ、各電極板22を起立状態で支持する係合支持部32が設けられている。係合支持部32は、横長の各電極板22における一端部及び他端部と、中間部との合計3箇所に形成されている。これによって、本体31の上端及び下端には、3箇所の係合支持部32の間に、本体31の内外を連通させる上端開口33及び下端開口34が、それぞれ2つずつ形成されている。この上端開口33及び下端開口34を通じて、電極体21の各電極板22の上端縁及び下端縁、並びに、電極板22同士の隙間が、本体31の外部に露出することになる。
【0032】
また、本体31の一端部、すなわち図2及び図3における右端部には、詳細な図示は省略するが、水密の端子部35が形成されていると共に、本体31の一側面(図2及び図3における右側面)には、制御部4から延びるケーブル41のコネクタ37が取り付けられている。図示は省略するが、この端子部35内において各電極板22に、ケーブル41の電送線が電気的に接続されている。
【0033】
本体31の一端部及び他端部のそれぞれには、この本体31よりも幅広となるように形成された脚部36、36が取り付けられており、この2つの脚部36、36によって電極部2は、水槽の底部に安定的に設置されることになる。
【0034】
このような構成の水電解消毒装置1は、処理対象となる水槽内に電極部2が配置され、制御部4からケーブル41を介して電極部2に電解電圧が印加される。これによって、電極部2では、各電極板22の間に直流電流が流れて水の電気分解が行われる。つまり、水中の塩化物イオン(Cl)を原料にして次亜塩素酸イオン(ClO)及び次亜塩素酸(HClO)が生成され、そのことによって、水槽中の水の有効塩素濃度が、所定量以上に維持されるようになる。水電解消毒装置1は、例えばタイマーを利用して定期的に、又は、水槽の水質をモニタリングした結果に応じて作動させればよい。
【0035】
ここで、図に示す水電解消毒装置1は、所定の処理能力となるように、言い換えると、水槽の容積等に応じて、有効塩素の生成能力が所定となるように、電極板22の電極面221の大きさ、電極板22の枚数、電極板22同士の距離、及び電解電圧の大きさ等が設計される。例えば比較的容積の小さい水槽に設置するために、図例の水電解消毒装置1よりも処理能力を低下させるのであれば、各電極板22の電極面221の大きさを小さくしたり、電極板22の数を減らしたり、及び/又は、電極部2に印加する電解電圧を低くしたりすればよい。逆に、例えば比較的容積の大きい水槽に設置するために、図例の水電解消毒装置1よりも処理能力を高めるのであれば、各電極板22の電極面221の大きさを大きくしたり、電極板22の枚数を増やしたり、及び/又は、電極部に22印加する電解電圧を高くしたりすればよい。
【0036】
このような水電解消毒装置1は、予め処理能力の異なる複数種類の規格を設定しておき、設置する水槽の容積に応じて、少なくとも当該容積以上の処理能力を有する装置を選択して、そこに設置することになる。
【0037】
ここで、水電解消毒装置1の設計時は、平均的な水の伝導率に基づいて各電極面221の大きさの設定等を行っているが、水の伝導率は、水電解消毒装置1の設置場所によって大きく変化する場合がある。装置を設置した水槽の水の伝導率が比較的高いときには、電極板22間に発生する電解電流が設計値よりも高くなってしまい、水電解消毒装置1の運転に支障が生じる場合がある。
【0038】
また、水の伝導率は水温によっても変化する。例えば冬場の、相対的に低水温で水の伝導率が低いときにおいても所望の処理能力が確保できるように、水電解消毒装置1を選択し、設置したときには、夏場に水温が高くなって水の伝導率が高くなったときには、電極板22の間に必要以上の電解電流が流れるようになり、この場合も、水電解消毒装置1の運転に支障が生じる場合がある。
【0039】
そこで、この水電解消毒装置1は、その処理能力の微調整を簡便に実現するために、電極体21に対し着脱可能に取り付けられる能力調整部材5をさらに備えている。能力調整部材5は、図1、4に示すように、電極体21を構成する電極板22の枚数に対応するように、複数枚(図例では6枚)の縦長帯状の平板が、その間にスペーサを介在させて接合されることによって、櫛歯状に形成されている。
【0040】
能力調整部材5は、図1、3に示すように、保持体3の本体31に形成されている上端開口33を通じて本体31内に挿入されることで、電極体21に対し上下方向に差し込まれる。前述した各平板は、図4(c)から明らかなように、電極板22同士の間に挿入される挿入部51を構成する。但し、幅方向に並んだ複数の平板の内の、両側に位置する2つの平板はそれぞれ、電極板22同士の間には挿入されず、電極体21を構成する幅方向に並んだ複数の電極板22の内の、両側に位置する2つの電極板22それぞれの外表面に当接するが、ここでは、便宜上、挿入部51と呼ぶことにする。
【0041】
ここで、能力調整部材5を構成する6枚の挿入部51の内、幅方向の中央付近に配置された挿入部51((図4(b)の例では、左から3番目に配置された挿入部)は、その長さが、他の挿入部51よりも長い板材によって構成されている。この長い挿入部51は、能力調整部材5において上方に突出する突出部を構成し、この突出部は、能力調整部材5を電極体21に対し取り付けるとき、また、能力調整部材5を電極体21から取り外すときに把持するための、把持部52として機能する。
【0042】
また、各挿入部51の下端部は、図4(c)に拡大して示すように、それぞれ先細となるよう形成されており、これによって、能力調整部材5を電極体21に取り付けるときに、各挿入部51を電極板22同士の間に差し込みやすくしている。
【0043】
そうして能力調整部材5を、電極体21に対して取り付けた状態では、図3に示すように、把持部52が、保持体3の本体31の上端よりも上方に突出した状態となる一方、各挿入部51の下端は、本体31に形成されている下端開口34を通過して、本体31の下端から下向きに突出するようになる。こうして、各挿入部51は、各電極板22の各電極面221に当接をして、各電極面221の長さ方向の一部分を、上下方向の全域に亘って覆うようになり、それによって、各電極面221の大きさを実質的に縮小させることになる。こうして能力調整部材5を電極体21に取り付けたときには、電極面221が縮小する分だけ、電極板22の間に発生する電解電流が低下するようになり、水電解消毒装置1の処理能力が低下することになる。ここで、電極面221の面積の縮小量は、挿入部51の幅(図4(a)における紙面左右方向の幅)の大きさに依ることになる。
【0044】
能力調整部材5はまた、電極体21に対し、図例で示すように全ての電極板22の電極面221を覆うように取り付けるのではなく、電極面221の法線方向にずらして取り付けることで、面積を縮小する電極板22の数を少なくしてもよい。このように取り付けた場合は、電極面221の面積の縮小量は、挿入部51の幅の大きさ及び挿入部51が当接する電極面221の数に依ることになる。本体31の上端開口33及び下端開口34はそれぞれ、電極体21の幅より十分に広いため、能力調整部材5をずらすことも可能である。
【0045】
各挿入部51は、前述の通り、電極板22同士の間に介在するものであるから絶縁性を有しかつ、飲用の水中に電極部2と共に浸漬されるため、無毒性であることが要求される。能力調整部材5を構成する各挿入部51及びスペーサはそれぞれ、例えば、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)によって構成してもよい。
【0046】
従って、水電解消毒装置1を設置するとき、又は、設置した後に、水槽内の水の導電率の大きさに応じて、例えば導電率が比較的高くて、電極板22間に発生する電解電流値が高すぎるようなときには、能力調整部材5を電極体21に取り付けるようにする(図1の矢印参照)。このことによって、各電極板22の電極面221の大きさが縮小するため、その分、電解電流値が低下するようになり、有効塩素の生成能力を低下させることが可能になる。尚、能力調整部材5の取り付け位置は、特に制限はなく、適宜の位置に取り付ければよい。一方、水槽内の水の導電率が高くなく、水電解消毒装置の能力調整が不要なときには、能力調整部材5を電極体21に取り付けないか、能力調整部材5を電極面221の法線方向にずらして取り付けることで、一部の電極面221の面積を縮小させる。このことで、設計値通りに有効塩素を生成することが可能になる。
【0047】
また、夏場の、水温が高くて水の導電率が相対的に高いときには、能力調整部材5を電極体21に取り付けるようにしてもよいし、電極面221の法線方向の位置を調整して、面積を縮小させる電極面221の数を増やしてもよい。こうすることで、夏場に必要以上の電解電流が発生してしまうことを防止し、水電解消毒装置1の処理能力の微調整が有効に行われる。また、冬場の、水温が低くて水の導電率が相対的に低いときには、夏場に取り付けた能力調整部材5を取り外すか、能力調整部材5を電極面221の法線方向にずらして取り付けることで、面積を縮小させる電極面221の数を減らすことによって、水電解消毒装置1の処理能力を元に戻すことも容易に可能である。
【0048】
さらに、前述の通り、予め処理能力の異なる複数種類の規格を設定し、設置する水槽の容積に応じて、少なくとも当該容積以上の処理能力を有する装置を選択して設置した場合に、必要に応じて能力調整部材5を取り付けることにより、水電解消毒装置1の処理能力を、設置した水槽の容積に応じて最適化することが可能になる。
【0049】
ここで、能力調整部材5として、図示は省略するが、幅の大きさ、すなわち電極板22の電極面221を覆う大きさが異なる複数種類の能力調整部材を予め準備しておき、水槽の水の導電率の大きさに応じて、最適幅の能力調整部材を電極体に取り付けるようにしてもよい。
【0050】
また、図3に二点鎖線で示すように、電極体21に対して複数個の能力調整部材5、5を取り付けることによって、その能力調整量を変更してもよい。ここで、複数個の能力調整部材は、互いに同じ幅を有するものとしてもよいし、異なる幅を有するものとしてもよい。
【0051】
こうしてこの水電解消毒装置1では、能力調整部材5を電極体21に対して着脱することだけで、電極面221の面積を変更して電解電流を変更し、水電解消毒装置1の処理能力を変更することが可能であり、有効塩素の生成能力を、水質や水温に応じて、簡便に微調整することが実現する。
【0052】
また、能力調整部材5を、前述の通り、複数の挿入部51を含む櫛歯状に形成していることで、電極体21に対する、能力調整部材5の取り付け及び取り外しを容易に行うことが可能である。また、挿入部51の数を、電極板22の数−1枚以上に設定した能力調整部材5を電極体21に取り付けたときには、全ての電極板22の対向する電極面221について、その一部を覆うことが可能になる。このことは、複数の電極板22について、対向する電極面221の面積を均等に減らすことになり、能力調整に際し片寄りを無くすことができる。尚、挿入部51の数は、電極板22の数に対応して、図例のように電極板22の数+1枚とする必要はなく、電極板22の数+1枚よりも少なくしてもよいし、電極板22の数+1枚よりも多くしてもよい。このような対応は、前述のように、水電解消毒装置1が、その規格によって異なる枚数の電極板22を有しているような場合に、できるだけ少ない種類の能力調整部材5によって、複数規格の水電解消毒装置1に対応することを可能にする。
【0053】
さらに、能力調整部材5は、保持体3の上端開口33を通じて挿入されて、電極体21に取り付けられるため、能力調整部材5の取り付けや取り外しに際して電極部2の分解等を行う必要がなく、能力調整部材5の取り付け及び取り外しが容易化する。
【0054】
図5は、能力調整部材の変形例を示している。この変形例に係る能力調整部材6は、電極板22同士の間に挿入される挿入部611を備えた本体部61と、電極体21に差し込まれた本体部61の下端部に取り付けられ、本体部61の抜け止めをする抜止部62とを備えて構成されている。
【0055】
図5に示す本体部61は、図1等とは異なり、3枚の電極板22によって構成される電極体21の全ての電極面221について、その一部を覆うことができる4枚の挿入部611が、スペーサ613を介在させて接合されることによって、櫛歯状に形成されているが、この能力調整部材6は、3枚の電極板22を有する水電解消毒装置の専用品ではなく、全ての電極面221に挿入部を当接させる必要が無ければ、4枚以上の電極板22を有する水電解消毒装置に使用することも可能である。本体部61の上端に配置されている各スペーサ613の下側には、弾性変形可能な、合成樹脂製の弾性部614が取り付けられており、後述するように、本体部61を電極体21に差し込んだときには、各電極板22の上端が、この弾性部614に当接するように構成されている。
【0056】
各挿入部611の下端部には、後述するように、抜止部62を固定するためのボルト63が挿通されるボルト孔612が、板厚方向に貫通して形成されている。
【0057】
抜止部62は、本体部61の下端側から、挿入部611同士の間に差し込まれる、平板状の差込部621を備えており、図5に示す抜止部62は、4枚の挿入部611を有する本体部61に対応して、3つの差込部621を有している。各差込部621にはまた、その厚み方向に貫通する貫通孔が形成されており、図5(c)に示すように、各貫通孔は、抜止部62を本体部61の下端部に取り付けたときに、各挿入部611のボルト孔612に連通することで、これらのボルト孔612と共にボルト63を挿通するための、ボルト孔622を構成する。
【0058】
この本体部61と抜止部62とを備えた能力調整部材6は、次のようにして、電極体21に取り付けられる。先ず本体部61を、前記と同様に、保持体3の本体31に形成されている上端開口33を通じて本体31内に挿入することで、電極体21に対し上下方向に差し込む。尚、能力調整部材6の、電極体21に対する法線方向の挿入位置は、適宜変更可能である。このときに本体部61は、弾性部614が電極板22の上端に当接するまで差し込むようにする(図5(c)参照)。これにより、本体部61の上端部は、上端開口33よりも上方に突出した状態となる一方、各挿入部611の下端部、より具体的には、ボルト孔612を含む挿入部611の下端部は、本体31に形成されている下端開口34を通過して、本体31の下端から下向きに突出するようになる。
【0059】
次いで、抜止部62の差込部621を、本体部61の下端から、挿入部611同士の間に差し込む。これによって、本体部61のボルト孔612と抜止部62のボルト孔622とが互いに連通するようになるから、このボルト孔612に対しボルト63を挿通し、ナット64を締め付ける。このことにより、各差込部621の上端が電極板22の下端に当接又は実質的に当接する。また、このときに弾性部614が、電極板22に押されることによって弾性変形をする場合がある。こうして、抜止部62を本体部61の下端部に取付固定することによって、本体部61が電極体21から外れてしまうことが確実に回避されるようになると共に、能力調整部材6が各電極板22を上下に挟持するようになるから、能力調整部材6が、電極体21の横方向(図2、3における紙面左右方向に対応)に移動してしまうことが抑制され、能力調整部材6を、電極体21に対して安定的に取り付けることが可能になる。このことは、水電解消毒装置の動作の安定化に有利になる。尚、抜止部62の構成は、前記のボルト・ナットに限定されるものではなく、種々の構成を採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、ここに開示した水電解消毒装置は、水質や水温に応じた能力調整を、簡便に実現する上で有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 水電解消毒装置
2 電極部
21 電極体
22 電極板
221 電極面
3 保持体
33 開口
4 制御部
5 能力調整部材
51 挿入部
6 能力調整部材
611 挿入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が貯留されている水槽内に設置される電極部と、前記電極部に対し電解電圧を供給する制御部と、を備え、前記水の電気分解により消毒成分を生成する水電解消毒装置であって、
前記電極部は、所定の大きさの電極面を有する、少なくとも一対の電極板が、所定の隙間を空けて電極面同士が相対するように、並んで配置されて構成された電極体を有し、
隣り合う電極板の間に着脱可能に取り付けられかつ、前記各電極板の電極面の一部を覆うことにより、当該各電極板の電極面の大きさを縮小させる能力調整部材をさらに備えている水電解消毒装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水電解消毒装置において、
前記能力調整部材は、前記各電極板を板厚方向に挟持するように並んで配置されかつ、前記電極板の並び方向に直交する方向から、前記電極体に差し込まれることにより、その各々が隣り合う前記電極板の間に取り付けられる複数の挿入部を有する櫛歯状に構成されている水電解消毒装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水電解消毒装置において、
前記電極部は、前記電極体を保持する保持体をさらに有し、
前記保持体には、前記電極板の並び方向に対し直交する方向に開口が形成されており、
前記能力調整部材は、前記保持体の前記開口を通じて前記電極体に差し込まれるよう構成されている水電解消毒装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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