説明

水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法

【課題】運転停止後に、シール部材の内部における水素の急膨張が発生することを阻止し、前記シール部材の破損を可及的に回避することを可能にする。
【解決手段】減圧速度設定方法は、高圧な水素をシールするための第1シール部材62dを、水電解装置10の運転時の設定水素圧力下に配置し、前記第1シール部材62dの内部に前記水素を取り込む工程と、前記水素を取り込んだ前記第1シール部材62dを、大気圧下に配置した状態で、前記第1シール部材62dの内部に取り込まれた前記水素が、該第1シール部材62dの外部に透過する透過時間を得る工程と、前記透過時間以上の減圧時間を設定し、前記減圧時間に基づいて、前記設定水素圧力から前記大気圧までの減圧速度を算出する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電圧を印加することにより、水を電気分解してアノード側電解室に酸素を発生させるとともに、カソード側電解室に常圧よりも高圧な水素を発生させる水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、アノード側電極に燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)が供給される一方、カソード側電極に酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)が供給されることにより、直流の電気エネルギを得ている。
【0003】
一般的に、燃料ガスである水素ガスを製造するために、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、給電体を配設してユニットが構成されている。すなわち、ユニットは、実質的には、上記の燃料電池と同様に構成されている。
【0004】
そこで、複数のユニットが積層された状態で、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素イオンと共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0005】
この種の水電解装置として、例えば、特許文献1に開示されている水素・酸素発生装置が知られている。この水素・酸素発生装置は、図10に示すように、環状の電極板1を備えており、この電極板1の両面には、電位が逆となる陰極室2及び陽極室3が形成されている。
【0006】
陽極室3には、純水供給経路3aを介して純水が供給されるとともに、前記陽極室3に連通する酸素ガス経路3bには、生成された酸素が排出されている。酸素ガス経路3bは、酸素ガス捕集室3cに連通している。一方、陰極室2には、水素ガス経路2aの一端が連通するとともに、前記水素ガス経路2aの他端には、水素ガス捕集室2bが連通している。
【0007】
酸素ガス捕集室3cの両側には、それぞれOリングからなるシール部材4a、4bが配置されるとともに、水素ガス捕集室2bの両側には、それぞれOリングからなるシール部材5a、5bが配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−239786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、通常、上記の水電解処理において、数十MPaの高圧水素を生成する場合がある。例えば、上記の特許文献1により高圧水素を生成しようとすると、水素ガス捕集室2bには、高圧水素が充填される一方、酸素ガス捕集室3cには、常圧の酸素及び水が存在している。
【0010】
このため、運転停止(生成水素の供給終了)時には、固体高分子電解質膜(図示せず)を保護するために、前記固体高分子電解質膜の両側の圧力差を解除する必要がある。具体的には、給電体への電力の供給を0にして水電解処理を停止した後、陰極室2、水素ガス経路2a及び水素ガス捕集室2bを含むカソード側の水素ガス通路系に充填されている水素の圧力を強制的に脱圧し、前記水素の圧力を常圧付近まで減圧させる処理が行われる。
【0011】
その際、水素圧力の減圧が急激に行われると、特に、シール部材5a、5bに対して損傷を与えるおそれがある。すなわち、シール部材5a、5bには、水電解処理時に内部に水素ガスが透過しており、カソード側が数十MPaから大気圧(常圧)まで急激に減圧されると、前記シール部材5a、5bの内部に透過した水素が急膨脹し易い。
【0012】
従って、シール部材5a、5bの内部から外部に水素が透過する速度以上に、減圧による水素の体積膨脹が促進されると、前記シール部材5a、5bの強度低下が惹起する。これにより、水電解処理と停止とが交互に行われてシール部材5a、5bの内部における水素の体積膨脹と収縮とが繰り返されると、前記シール部材5a、5bに機械的破損が惹起されるという問題がある。
【0013】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、運転停止後に、シール部材の内部における水素の急膨張が発生することを阻止し、前記シール部材の破損を可及的に回避することが可能な水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電圧を印加することにより、水を電気分解してアノード側電解室に酸素を発生させるとともに、カソード側電解室に常圧よりも高圧な水素を発生させる水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法に関するものである。
【0015】
この減圧速度設定方法は、カソード側電解室に発生する高圧な水素をシールするためのシール部材を、水電解装置の運転時の設定水素圧力下に配置し、前記シール部材の内部に前記水素を取り込む工程と、前記水素を取り込んだ前記シール部材を、大気圧下に配置した状態で、前記シール部材の内部に取り込まれた前記水素が、該シール部材の外部に透過する透過時間を得る工程と、前記透過時間よりも長い減圧時間を設定し、前記減圧時間に基づいて、前記設定水素圧力から前記大気圧までの減圧速度を算出する工程とを有し、前記水電解装置の運転停止時に、上記の工程により予め設定された前記減圧速度に沿って、カソード側電解室の減圧処理を行う。
【0016】
また、シール部材の内部に取り込まれた水素が、前記シール部材の外部に透過する透過時間は、高圧な前記水素を取り込んだ前記シール部材の径寸法の変化を検出することにより設定されることが好ましい。
【0017】
さらに、シール部材の内部に取り込まれた水素が、前記シール部材の外部に透過する透過時間は、高圧な前記水素を取り込んだ前記シール部材を透過する水素量を検出することにより設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、設定水素圧力から大気圧下に減圧された状態で、シール部材の内部に取り込まれた水素が、前記シール部材の外部に透過する透過時間を得た後、この透過時間よりも長い減圧時間を設定し、減圧速度が算出されている。このため、カソード側電解室の減圧時に、シール部材の内部に取り込まれた水素は、前記シール部材の外部に円滑に透過することができ、前記シール部材の内部で水素の急激な体積膨張が惹起されることを抑制することが可能になる。
【0019】
これにより、運転停止後の減圧処理時に、シール部材の内部における水素の急膨張が繰り返し発生することを阻止し、前記シール部材の機械的破損を可及的に回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る運転停止時における減圧速度設定方法が適用される水電解装置の概略構成説明図である。
【図2】前記水電解装置を構成する単位セルの分解斜視説明図である。
【図3】前記単位セルの断面説明図である。
【図4】第1の実施形態に係る水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法を説明するフローチャートである。
【図5】材質の相違による水素透過時間の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法を説明するフローチャートである。
【図7】材質の相違による水素吸着量の説明図である。
【図8】減圧処理に使用される他の機器の説明図である。
【図9】減圧処理に使用される別の機器の説明図である。
【図10】特許文献1に開示されている水素・酸素発生装置を構成する電極板の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る運転停止時における減圧速度設定方法が適用される水電解装置10は、純水を電気分解することによって高圧水素(常圧よりも高圧、例えば、1MPa以上)を製造する水電解機構12と、純水供給機構14を介して市水から生成された純水が供給され、この純水を前記水電解機構12に供給するとともに、前記水電解機構12から排出される余剰の前記水を、前記水電解機構12に循環供給する水循環機構16と、コントローラ(制御部)18とを備える。
【0022】
水電解機構12は、高圧水素製造装置(カソード側圧力>アノード側圧力)を構成しており、複数の単位セル20が積層される。単位セル20の積層方向一端には、ターミナルプレート22a、絶縁プレート24a及びエンドプレート26aが外方に向かって、順次、配設される。単位セル20の積層方向他端には、同様にターミナルプレート22b、絶縁プレート24b及びエンドプレート26bが外方に向かって、順次、配設される。エンドプレート26a、26b間は、一体的に締め付け保持される。
【0023】
ターミナルプレート22a、22bの側部には、端子部28a、28bが外方に突出して設けられる。端子部28a、28bは、配線29a、29bを介して電解用電源(電解電源)30に電気的に接続される。陽極(アノード)側である端子部28aは、電解用電源30のプラス極に接続される一方、陰極(カソード)側である端子部28bは、前記電解用電源30のマイナス極に接続される。
【0024】
図2に示すように、単位セル20は、円盤状の電解質膜・電極構造体32と、この電解質膜・電極構造体32を挟持するアノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36とを備える。アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36は、円盤状を有するとともに、例えば、カーボン部材等で構成され、又は、鋼板、ステンレス鋼板、チタン板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板をプレス成形して、あるいは切削加工した後に防食用の表面処理を施して構成される。
【0025】
電解質膜・電極構造体32は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38の両面に設けられるアノード側給電体40及びカソード側給電体42とを備える。
【0026】
固体高分子電解質膜38の両面には、アノード電極触媒層40a及びカソード電極触媒層42aが形成される。アノード電極触媒層40aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層42aは、例えば、白金触媒を使用する。
【0027】
アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、例えば、球状アトマイズチタン粉末の焼結体(多孔質導電体)により構成される。アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、研削加工後にエッチング処理される平滑表面部を設けるとともに、空隙率が10%〜50%、より好ましくは、20%〜40%の範囲内に設定される。
【0028】
単位セル20の外周縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、水(純水)を供給するための水供給連通孔46と、反応により生成された酸素及び使用済みの水を排出するための排出連通孔48と、反応により生成された水素(高圧水素)を流すための水素連通孔50とが設けられる。
【0029】
図2及び図3に示すように、アノード側セパレータ34の外周縁部には、水供給連通孔46に連通する供給通路52aと、排出連通孔48に連通する排出通路52bとが設けられる。アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、供給通路52a及び排出通路52bに連通する第1流路(アノード側電解室)54が設けられる。この第1流路54は、アノード側給電体40の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される(図1及び図3参照)。
【0030】
カソード側セパレータ36の外周縁部には、水素連通孔50に連通する排出通路56が設けられる。カソード側セパレータ36の電解質膜・電極構造体32に向かう面36aには、排出通路56に連通する第2流路(カソード側電解室)58が形成される。この第2流路58は、カソード側給電体42の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される(図1及び図3参照)。
【0031】
アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36の外周端部を周回して、シール部材60a、60bが一体化される。このシール部材60a、60bには、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0032】
図3に示すように、アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、第1流路54及びアノード側給電体40の外方を周回して第1シール部材62aを配設するための第1シール溝64aが形成される。面34aには、水供給連通孔46、排出連通孔48及び水素連通孔50の外側を周回して、第1シール部材62b、62c及び62dを配置するための第1シール溝64b、64c及び64dが形成される。第1シール部材62a〜62dは、例えば、Oリングである。
【0033】
カソード側セパレータ36の電解質膜・電極構造体32に向かう面36aには、第2流路58及びカソード側給電体42の外方を周回して、第2シール部材66aを配設するための第2シール溝68aが形成される。
【0034】
図2及び図3に示すように、面36aには、水供給連通孔46、排出連通孔48及び水素連通孔50の外側を周回して、第2シール部材66b、66c及び66dを配置するための第2シール溝68b、68c及び68dが形成される。第2シール部材66a〜66dは、例えば、Oリングである。
【0035】
図1に示すように、水循環機構16は、水電解機構12の水供給連通孔46に連通する循環配管72を備え、この循環配管72には、循環ポンプ74、イオン交換器76及び酸素側気液分離器78が配設される。
【0036】
酸素側気液分離器78の上部には、戻り配管80の一端部が連通するとともに、前記戻り配管80の他端は、水電解機構12の排出連通孔48に連通する。酸素側気液分離器78には、純水供給機構14に接続された純水供給配管82と、前記酸素側気液分離器78で純水から分離された酸素を排出するための酸素排気配管84とが連結される。
【0037】
水電解機構12の水素連通孔50には、高圧水素配管88の一端が接続され、この高圧水素配管88の途上には、背圧弁90が配設される。高圧水素配管88は、図示しないが、高圧水素供給部、例えば、高圧タンクや燃料電池自動車等に接続される。
【0038】
高圧水素配管88から脱圧配管88aが分岐するとともに、前記脱圧配管88aには、電磁弁92、流量調整弁94及び減圧弁96が配設される。
【0039】
このように構成される水電解装置10の動作について、以下に説明する。
【0040】
先ず、水電解装置10の始動時には、純水供給機構14を介して市水から生成された純水が、水循環機構16を構成する酸素側気液分離器78に供給される。
【0041】
水循環機構16では、循環ポンプ74の作用下に、循環配管72を介して純水が水電解機構12の水供給連通孔46に供給される。一方、ターミナルプレート22a、22bの端子部28a、28bには、電気的に接続されている電解用電源30を介して電解電圧が付与される。
【0042】
このため、図2に示すように、各単位セル20では、水供給連通孔46からアノード側セパレータ34の第1流路54に水が供給され、この水がアノード側給電体40内に沿って移動する。
【0043】
従って、水は、アノード電極触媒層40aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜38を透過してカソード電極触媒層42a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0044】
このため、カソード側セパレータ36とカソード側給電体42との間に形成される第2流路58に沿って水素が流動する。この水素は、水素連通孔50を流れて水電解装置10の外部に取り出し可能となるとともに、高圧水素配管88に配設されている背圧弁90の設定圧力(例えば、35MPa)により、水供給連通孔46よりも高圧に維持されている。
【0045】
一方、第1流路54には、反応により生成した酸素と、使用済みの水とが流動しており、これらが排出連通孔48に沿って水循環機構16の戻り配管80に排出される(図1参照)。この使用済みの水及び酸素は、酸素側気液分離器78に導入されて分離された後、水は、循環ポンプ74を介して循環配管72からイオン交換器76を通って水供給連通孔46に導入される。水から分離された酸素は、酸素排気配管84から外部に排出される。
【0046】
次いで、本発明の第1の実施形態に係る水電解装置10の運転停止時における減圧速度設定方法について、図4に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0047】
先ず、カソード側電解室(第2流路58)に発生する高圧の水素をシールするためのシール部材、すなわち、第1シール部材62d及び第2シール部材66d(以下、単に第1シール部材62dについて記載する)が、水電解装置10の運転時の設定水素圧力(例えば、35MPa)の条件下に配置される(ステップS1)。
【0048】
第1シール部材62dは、実際の水素生成処理時の雰囲気下に配置されており、この第1シール部材62dの内部には、水素が透過する。なお、第1シール部材62dは、水電解装置10の運転時の温度と同等の温度に維持されることが好ましい。
【0049】
第1シール部材62dは、設定水素圧力下に、所定の時間だけ保持されると(ステップS2中、YES)、ステップS3に進む。このステップS3では、第1シール部材62dの圧力状態が、設定水素圧力から大気圧下に減圧されるとともに、水素の透過時間の計時が開始される。
【0050】
その際、第1シール部材62dの内部には、設定水素圧力下で水素が透過している。このため、第1シール部材62dが大気圧下に配置されることにより、前記第1シール部材62の内部に取り込まれた水素が外部に透過する速度以上に、減圧による水素の体積膨脹が惹起される。
【0051】
ここで、第1シール部材62dは、水素の体積膨脹によって、直径が拡径するとともに、前記第1シール部材62dの材質によって直径の増加量が変動している。図5に示すように、材質M1、M2及びM3では、それぞれの直径の増加量が変動している。
【0052】
次いで、第1シール部材62dは、大気圧下に配置されるため、時間の経過に伴ってこの第1シール部材62dの内部に取り込まれた水素が外部に透過し、前記第1シール部材62dの直径の増加量が減少(縮径)していく。そして、第1シール部材62dの直径の変化量が0、すなわち、水素が外部に透過して初期の直径に戻った際(ステップS4中、YES)、ステップS5に進む。ステップS5では、第1シール部材62dの内部に取り込まれた水素が、この第1シール部材62dの外部に透過するまでの透過時間t0が測定される。
【0053】
さらに、ステップS6に進んで、透過時間t0よりも長い減圧時間T0が設定され、この減圧時間T0に基づいて、設定水素圧力から大気圧までの減圧速度Vが算出される。減圧速度Vは、V=(Ph−Pl)/T0から得られる。Phは設定水素圧力であり、P1は大気圧である。
【0054】
そこで、図1に示すように、水電解装置10の運転が停止される際には、電解用電源30からの電圧印加が停止されるとともに、循環ポンプ74の駆動が停止される。そして、脱圧配管88aに配置されている電磁弁92が開放される一方、流量調整弁94の開度が調整される。これにより、第2流路58を含む高圧水素経路では、上記のように予め設定された減圧速度Vに沿って、減圧処理が行われる。
【0055】
このように、第1の実施形態では、設定水素圧力から大気圧下に減圧された状態で、第1シール部材62dの内部に取り込まれた水素が外部に透過する透過時間t0を得た後、この透過時間t0よりも長い減圧時間T0を設定し、減圧速度Vが算出されている。
【0056】
このため、実際に水電解装置10の運転停止時における減圧時に、第1シール部材62dの内部に取り込まれた水素は、前記第1シール部材62dの外部に円滑に透過することができ、該第1シール部材62dの内部で水素の急激な体積膨脹が惹起されることを抑制することが可能になる。
【0057】
これにより、水電解装置10の運転停止後の減圧処理時に、第1シール部材62dの内部における水素の急膨脹が繰り返し発生することを阻止し、前記第1シール部材62dの機械的破損を可及的に回避することが可能になるという効果が得られる。
【0058】
次に、本発明の第2の実施形態に係る減圧速度設定方法について、以下に説明する。
【0059】
なお、第2の実施形態は、上記の第1の実施形態と同様に、水電解装置10の運転停止時における減圧速度設定方法である。
【0060】
Oリングである第1シール部材62dの直径をL、この第1シール部材62dの水素吸着容量をC、前記第1シール部材62dの透過係数をμとする。この第2の実施形態では、第1シール部材62dの内部に吸着されている水素の吸着容量Cの測定が行われる。
【0061】
先ず、第1シール部材62dが、設定水素圧力の雰囲気下に配置された状態で(図6中、ステップS11)、所定の保持時間だけ保持される(ステップS12)。そして、ステップS13に進んで、第1シール部材62dが設定水素圧力下から大気圧下に減圧されるとともに、前記第1シール部材62dの内部からの外部に透過する水素濃度の検出が行われる。
【0062】
この濃度検出処理では、例えば、一定の流量で流通する窒素ガスに、第1シール部材62dの内部から外部に透過する水素を混合させ、その濃度をガスクロマトグラフィー(図示せず)により検出することによって行われる。
【0063】
検出された水素濃度が0になると(ステップS14中、YES)、ステップS15に進んで、第1シール部材62dに吸着されていた水素ガスの吸着容量Cが測定される。水素ガスの吸着容量Cは、第1シール部材62dの材質により異なっている。例えば、図7には、それぞれ異なる材質M4、M5、M6及びM7における吸着容量Cが示されている。
【0064】
そこで、t0=f(L,C,μ)の関係式から、透過時間t0が算出され(ステップS16)、この透過時間t0よりも長い減圧時間T0が設定される(ステップS17)。次に、V=(Ph−Pl)/T0から減圧速度Vが設定される(ステップS18)。
【0065】
このように、第2の実施形態では、所望の材質からなる第1シール部材62dの水素の吸着容量Cを測定し、前記第1シール部材62dの減圧速度Vが設定されている。従って、運転停止後の減圧処理時に、第1シール部材62dの内部における水素の急膨脹が繰り返し発生することを阻止し、前記第1シール部材62dの機械的破損を可及的に回避することができる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
なお、水電解装置10では、水素ガス経路の減圧速度を調整するために、脱圧配管88aに電磁弁92、流量調整弁94及び減圧弁96を設けているが、これに限定されるものではない。
【0067】
例えば、図8に示すように、脱圧配管88aに電磁弁92、第1減圧弁96a及び第2減圧弁96bを配設してもよい。この構成では、減圧処理時に、電磁弁92が開放されるとともに、所望の減圧速度Vが得られるように、第1減圧弁96aと第2減圧弁96bとを多段に設置し、且つそれぞれの設定圧が調整される。
【0068】
さらにまた、図9に示すように、脱圧配管88aに電磁弁92とMFC(マスフローコントローラ)98とを配設してもよい。減圧時に、電磁弁92が開放されるとともに、MFC98は、所望の減圧速度Vが得られるように、設定流量を調整することができる。
【符号の説明】
【0069】
10…水電解装置 12…水電解機構
14…純水供給機構 16…水循環機構
18…コントローラ 20…単位セル
30…電解用電源 32…電解質膜・電極構造体
34…アノード側セパレータ 36…カソード側セパレータ
38…固体子分子電解質膜 40…アノード側給電体
42…カソード側給電体 46…水供給連通孔
48…排出連通孔 50…水素連通孔
54、58…流路 56…排出通路
62a〜62d、66a〜66d…シール部材
88…高圧水素配管 88a…脱圧配管
90…背圧弁 92…電磁弁
94…流量調整弁 96、96a、96b…減圧弁
98…MFC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電圧を印加することにより、水を電気分解してアノード側電解室に酸素を発生させるとともに、カソード側電解室に常圧よりも高圧な水素を発生させる水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法であって、
前記カソード側電解室に発生する高圧な前記水素をシールするためのシール部材を、前記水電解装置の運転時の設定水素圧力下に配置し、前記シール部材の内部に前記水素を取り込む工程と、
前記水素を取り込んだ前記シール部材を、大気圧下に配置した状態で、前記シール部材の内部に取り込まれた前記水素が、該シール部材の外部に透過する透過時間を得る工程と、
前記透過時間よりも長い減圧時間を設定し、前記減圧時間に基づいて、前記設定水素圧力から前記大気圧までの減圧速度を算出する工程と、
を有し、
前記水電解装置の運転停止時に、上記の工程により予め設定された前記減圧速度に沿って、前記カソード側電解室の減圧処理を行うことを特徴とする水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法。
【請求項2】
請求項1記載の減圧速度設定方法において、前記シール部材の内部に取り込まれた前記水素が、該シール部材の外部に透過する透過時間は、高圧な前記水素を取り込んだ前記シール部材の径寸法の変化を検出することにより設定されることを特徴とする水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法。
【請求項3】
請求項1記載の減圧速度設定方法において、前記シール部材の内部に取り込まれた前記水素が、該シール部材の外部に透過する透過時間は、高圧な前記水素を取り込んだ前記シール部材を透過する水素量を検出することにより設定されることを特徴とする水電解装置の運転停止時における減圧速度設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−208260(P2011−208260A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79328(P2010−79328)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】