説明

水電解装置用高性能カソード

金属基材及び実質的に純粋な酸化ルテニウムからなるコーティングを備える電解セルにおける水素生成用のカソードが開示される。本発明のカソードは、増大された性能と、太陽光発電セルのような不安定で間欠的なエネルギー供給下での長寿命を提供する。金属基材のコーティング方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水から水素及び酸素を得るための電解装置に関する。より具体的には、本発明は、特に不安定な及び/又は間欠的な電源と共に用いられたときに、高効率及び長寿命を実現することのできる水電解装置用の高性能カソードに関する。本発明はまた、上述のカソードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電解は、水から純粋な水素及び酸素を生成する方法として良く知られている。原理上、水は、電流により、下記全体反応に沿って、それを構成する元素に分解される。
2HO → 2H + O
この反応式は、水素と酸素が一定の体積比率(酸素の体積が1であるのに対して水素の体積は2)で生成されることを示す。
【0003】
この反応は、電解セル内で行われる。電解セルでは、2つの電極の間で、すなわち負極(アノード)と正極(カソード)との間で、電位の印加によって電界が形成される。水は、通常は適切な電解質(塩、酸又は塩基等)の水溶液の状態であり、電流を受けて、HO分子が上述の反応によって分解されて、カソードで水素が発生し、アノードで酸素が発生する。
【0004】
工程の見かけの単純さにもかかわらず、工業規模での実施は、電源の効率良い使用及び設備費用の抑制を含む、多くの問題を抱えている。
【0005】
水の電解は、水素(H)の状態で電力を蓄積及び移送する主要技術と見なされている。Hは、燃焼、又は燃料電池を用いた電力への再変換が、有毒物を実質的に生成しないので、第二次エネルギー担体として高く評価されている。水の電解は、特に、保存、移送、及び電力への効率的な再変換またはクリーンな燃料としての使用が可能である純粋な水素を供給することができるので、再生可能なエネルギー資源を開発する上で、非常に有望であると考えられている。化石燃料による汚染の進行及び価格の高騰により、再生可能なエネルギーによる水の電解技術の改良が強く求められている。好適な再生可能エネルギー資源は、太陽光発電、水力発電、地熱、風、バイオマスを含む。
【0006】
しかしながら、再生可能なエネルギー資源の多くは、不安定で間欠的な電力を供給するという欠点を有する。光電池(PV)セルまたは風力タービンによって動く発電機の場合、得られる電力は非連続であり、天候に強く依存する。
【0007】
このような不安定で間欠的な電力が、従来の水の電解装置に印加されると、電極反応は、それに応じて、広く、高速で変化する分極状態下で進行する。その結果、電極は応力状態下で動作し、異常な電位範囲に到達し、電極表面、基材、及び支持構造の激しい腐食、さらには破壊を引き起こす。アノード側では機械的な特性が損傷を受けるのに対して、カソードでは化学的な腐食を受けると主張されている。
【0008】
様々な分極状態下での水の電解装置の電極の重大な劣化についての上述の技術的問題点を低減または解決するために、いくつかの電極材料が提案されてきた。電極反応に伴う水素生成の過電圧を低減するために、一般的に、活性化材料の薄層で覆われた金属基材を有する電極を用いることが知られている。塗装された電極は、例えばDE−A−3612790に開示されている。
【0009】
より具体的には、アノードを保護する方法として、ニッケル基材に被着された触媒粒を覆い、多孔質の保護コーティングによる電気化学的めっき工程が知られている。他のアノード材料として、比較的長期間に渡る安定性という利点から、コバルトが挙げられる。NiOとCoとの混合物、又はNiCoに覆われたニッケルアノードは、有望な材料である。公知のデータによると、減圧プラズマスプレーによって被着されたラネーニッケルとCoとの混合物は、間欠作動下の長期試験において、安定性を有することが立証された。
【0010】
一方、カソードの保護は、困難である。
【0011】
ラネーニッケルコーティングは、定常状態における水の電解では良く使われ、多様な分極状態下で効果的であることが実証されているが、初期合金中でニッケルに関連する金属(通常はAl又はZn)の痕跡が存在するまでである。知られているように、ラネーニッケルの調製において、基材へのNi−Al又はNi−Zn合金の被着後、特にニッケル金属を残して、合金はアルカリにより洗脱される。洗脱されずに残ったAlまたはZnは、腐食性の電解液が用いられる場合に、カソードに比較的良好な安定性をもたらす、という者もいる。このタイプのカソードは、あきらかにほとんど利点がない。なぜなら、その寿命は限られているからである。
【0012】
ラネーニッケルの安定性は、モリブデンの添加、すなわちプラズマスプレー技術下での純粋モリブデン粉体の前成形Ni−Al合金への添加により安定化されることで、向上可能であると考えられてきた。しかしながら、この技術は、非常に高価であり、さらに、電解中に、Moも合金から遊離することがある。
【0013】
貴金属も同様に試験されており、Ptは合金の分解を阻害することはできない一方で、Alが完全に除かれた後で、Ni/Al/Pt合金は非常に優れた初期過電圧データを示すことが示されている。また、これらの電極は、比較的多くのPtを必要とするので、非常に高価である。プラチナは、ガルバニ技術によって消失し、ニッケル電極において、低濃度(1〜2g/m)で、典型的な太陽光発電プラントによって供給される場合のように、昼‐夜電力サイクルのシミュレーション下では、長期運転において非常に優れた結果を示す。それでも、電源が切断されたときには分極電圧の下に、つまり望ましくない動力費を必要とする環境下に置かれることになる。
【0014】
つまり、公知技術は、不安定な及び/又は間欠的な電源下での水の電解装置のカソード保護の問題を解決することができる、信頼性が高く、費用効率のよい解決方法を実現することができていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の前提となる技術的課題は、不安定な及び/又は間欠的な電力供給下で動作する電解装置の性能及び寿命を向上させるために、従来技術の上述した制限を解決すること、つまり、水の電解装置のカソードを速く広い分極状態の変化による損傷から守ることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、電解セルにおける水素生成用の新規カソードによって解決され、カソードは、
‐金属の基材、及び
‐上記基材上に設けられ、実質的に純粋な酸化ルテニウムからなるコーティング層
を備える。
【0017】
実質的に純粋な酸化ルテニウムとは、合金ではなく、他の成分を添加されていない酸化ルテニウムを意味する。本発明によると、基材は、さらなるコーティング層を持たない。すなわち、実質的に純粋な酸化ルテニウムの上記コーティング層が、使用時に電解セルの電解液と接触する。
【0018】
コーティング層は、好ましくは0.1〜2mg/cm、より好ましくは0.4〜1mg/cmの薄膜である。
【0019】
電極基材は、選択された電解セルの構造によって、穴が開いているか、延伸されていてもよい平板又はシート状であってもよく、グリードであってもよい。電極基材の材料は、導電性のある材料であり、好ましくは、軟鋼、合金鋼、ニッケル及びニッケル合金からなる群より選択される。
【0020】
本発明にかかるカソードは、アルカリ媒体中で実行される水の電解の工程に特に有用である。
【0021】
本発明はまた、上記カソードを備える電解セルに関連し、また上記カソードを有する電解セル(複数であってもよい)を備える電解装置に関する。
【0022】
本発明によると、水素を生成する電解装置は適切な数の電解セルを有し、各セルは、上述したようにコーティングする酸化ルテニウム(RuO)を有するカソードを有し、好ましくは太陽光又は風のような再生可能なエネルギー源により作動する。
【0023】
本発明の他の側面は、実質的に純粋な酸化ルテニウムの電解セルの金属カソードのコーティングのための使用であり、上記電解セルにおける水素生成のための使用である。本発明は、例えば、セルが、出力が間欠的かつ変動する供給源の典型である、太陽光及び風力等の再生可能エネルギー源によって作動する場合のように、不安定かつ間欠的な電源下での電解セルの性能を向上させるために、特に、カソードのコーティング材料としての実質的に純粋な酸化ルテニウムの使用を開示する。
【0024】
よって、本発明の一側面は、カソードで水素が回収され、カソードは金属基材及び実質的に純粋な酸化ルテニウムのコーティングを備える電解セルを少なくとも備える適切な装置において、アルカリ性水溶液の電解によって、水から純粋な水素を製造する方法である。セルは、再生可能なエネルギー源によって作動することが好ましい。“再生可能なエネルギー源”とは、太陽光発電、水力発電、地熱、風力、バイオマス、又は他の再生可能なエネルギー源のいずれであってもよい。
【0025】
本発明は、同様に、上述の酸化ルテニウムコーティングの前駆体の適切な溶液を上記金属基材の表面に適用することによる、上述したカソードを製造する方法に関する。
【0026】
上記前駆体は、可溶塩として用いられ得、後で酸化物の状態に変換される。前駆体の溶液は、好ましくは水和三塩化物(RuCl・nHO)の状態で、好ましくは、イソプロパノール又は2‐プロパノールをベースとし、蒸留水及び塩酸水溶液が添加されたアルコール溶液に、塩化ルテニウムを溶解させることによって調製される。
【0027】
酸化ルテニウムによる金属基材のコーティングは、基材の活性化とも呼ばれる。本発明の好ましい実施形態において、基材の活性化処理は、主に以下の4つのステップ:
a)金属基材の前処理;
b)酸化ルテニウムの適切な前駆体を溶媒へ溶解させることによる、活性溶液の調製;
c)金属基材への上記活性溶液の塗布;
d)金属基材へコーティングを固定するための最終熱処理の実行
を含む。
【0028】
好ましくは、前処理は、金属表面の脱脂及び洗浄を含む。本発明の他の好ましい側面によると、活性溶液は酸化ルテニウムの適切な前駆体の溶媒への溶解により調製され;塗布は、余剰の溶液を滴下除去する処理、及び必要に応じて部分的にコートされたカソードを乾燥させる処理を挟んだ繰り返し処理によって実行される。繰り返し処理の回数は、好ましくは5〜15である。
【0029】
上述の処理ステップのより好ましい詳細は、次の通りである。金属基材は、サンドブラスト又は化学エッチングによる表面処理に続いて、脱脂及び洗浄され;活性溶液は、塩化ルテニウムの溶解によって、好ましくは水和三塩化物(RuCl・nHO)の状態で、好ましくはイソプロパノール又は2‐プロパノールをベースとし、蒸留水及び塩酸水溶液が添加されたアルコール溶液に、塩化ルテニウムを溶解させることによって調製される。
【0030】
前駆体溶液は、例えば前処理された基材の溶液への浸漬、ブラッシング、又は基材への上記溶液のスプレー等の公知の方法によって塗布され、最も良い方法は、カソードの寸法及び/又は形状によって選択される。塗布は、所定の量の活性基質が基材に被着するまで繰り返され、好ましくはカソードの両面に対して行われる。塗布の連続した繰り返しの間に、説明の通り、必要に応じて、余剰の溶液は滴下除去されるか、穏やかな送風によって除去される。
【0031】
溶液の層が塗布された基材は、各塗布ステップの後に炉で乾燥される。乾燥は、150℃〜350℃、好ましくは250℃〜300℃の熱風によって実行され、乾燥時間は数分であり、通常3〜12分である。その後、カソードは、摘出され、次の溶液の塗布の前に冷却される。生産性を充分に高めるため、多くのカソードは、適切な支持フレームによって、一緒に炉に運ばれる。
【0032】
完成した部材の表面の単位面積当たりの重量で表される所望の量の活性材料が堆積されるまでの、溶液の塗布の繰り返し回数は、基材として用いられる部材の表面の性質又は形状に応じて選択される。
【0033】
最終的に、電極の熱処理は、炉で行われる。炉は、活性溶液の繰り返し塗布の間に使われたものと同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。カソードは、炉内で、穏やかな熱風循環下、1〜2時間、250〜400℃、好ましくは300〜350℃の温度下に置かれる。
【0034】
熱処理の完了後、所望に応じて、活性化表面において、基材を構成する電極成分の重量の増加が、活性材料の堆積に対応して、0.1〜2mg/cm、0.4〜1mg/cmの範囲で生じる。
【0035】
本発明のカソード(水素生成電極)は、驚くべきことに、ほとんどの再生可能エネルギー資源のような広く高速な電力変動下においても、非常に優れた電力効率及び長寿命を示す。さらに、発明のカソードは、安定な条件下であっても、アルカリ性の水の電解処理において、高い効率を示すことがわかった。他の利点としては、電源が中断したときの保護分極電圧の適用が不要である。
【0036】
カソードを製造するための上述の処理はまた、商業的な規模に充分適用できる程度に低コストであるという利点を有する。
【0037】
本発明は同様に、再生可能なエネルギー資源を用いた水(又は適切な水溶液)の分解による清浄な水素(H)を得るための、信頼性があって、コスト率の良い方法を提供する。
【0038】
非限定的な目的で、以下に詳細な例を挙げ、本発明の実施の形態をいくつか示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[実施例1]
水の電解装置は、100cmの作用表面を有し電極を収容する、60個の双極セルを備えるセルスタックと共に用いられた。電極を、円形状を有しており、微細孔を有する厚さ0.2mmのニッケルシートから切り出した。目打ち孔は、0.5mmの直径及び1mmの三角形ピッチを有する。各セルのカソード及びアノードは、厚さ0.5mmのポリスルフォン布の隔壁の介在によって分離される。薄いナイロンネットは、各電極と隔壁との間に挿入される。双極セルは、厚み0.5mmのニッケルシートの双極プレートによって互いに分離される。ニッケルの電極コレクタによって、電極と双極プレートとの間の良好な接触が維持される。
【0040】
セルスタックは、制御された温度で、スタック自身の全体に渡って、26%濃度の水酸化カリウム水溶液を安定的に循環させるシステムに含まれる。
【0041】
アノードを、溶媒ブラッシングによる脱脂及び洗浄、その後の乾燥及び塩酸溶液での短時間のエッチングが施された、純粋なニッケルで作製した。
【0042】
カソードを、アノードについて説明されたのと同様に、基材を洗浄することによって作製し、活性溶液に浸漬した。
【0043】
溶液の調製において、まず、開始物質である41.55%Ru含有の水和塩化ルテニウム36.5gを、室温で、機械的に撹拌しながら、1リットルのイソ‐プロパノールに溶解させた。10mlの25%塩酸溶液及び100mlの水も添加した。溶液を、30分継続して撹拌した。これらの条件は、Ru塩が完全に溶解し、得られた溶液の安定性が確保されるように選択した。
【0044】
前処理されたカソードを、10個のカソードを一組として鉛直方向に収容する支持体に挿入した状態で、溶液に1分間浸漬してから、余剰の溶液を滴下除去するように、適切な平容器の上で数分間放置し、270℃で10分間、わずかな空気循環下で炉に入れた。この操作の最後に、カソードを収容した支持体を炉から取り出し、開放空気中、室温下に放置して冷却した。
【0045】
溶液の塗布、及び冷却を伴う炉での乾燥ステップを、6回繰り返した。その後、10個のカソードを支持体ごと、320℃に調整された炉中で、穏やかな空気循環下で1.5時間熱処理し、その後、支持体を取り出し、開放空気中で冷却した。
【0046】
一度に、他に1組10個のカソードを5組、同じ操作によって準備した。
【0047】
処理が完了したカソードの秤量は、基材上への0.8mg/cmの活性化材料の堆積に対応する重量の増加を示した。この増加は、堆積が、定格の100cm2の電極に相当し、各カソードの両面に分布することを示した。
【0048】
60個のセルを有するセルスタックを、上述の通りに準備されたアノード及びカソードを、セルのフレームに挿入することで組み立てた。スタックを、電解液の循環機能の全てを発揮し、処理温度を制御し、電解液から生成されたガスを分離し、所望の動作圧力を維持できるように、水分解装置内に設置した。
【0049】
表1.1に、算出され、記録された動作データを示す。
【0050】
【表1】

【0051】
観察されたスタック電圧は、関連する平均セル電圧と同様に、従来のアルカリ性電解装置の効率よりも実質的に高い電力効率を示す。
【0052】
これは、後述の比較例によって証明される。表1.2に、上述したのと同じ電解装置であって、同種のセルスタックを備えるが、市販のラネーニッケルコーティングの堆積によって活性化されたカソードが装着された装置についてのデータを示す。カソードは、カソード基材上へラネーAl−Ni合金のNiのフレームスプレー堆積し、その後、KOM溶液中で煮沸することによって、アルミニウムを洗脱することで得られたものである。
【0053】
【表2】

【0054】
[実施例2]
本実施例の水の電解装置は、600cmの作用領域の電極を収容する48個の双極セルを備えるセルスタックを主体とする。電極は、円形であり、延伸された厚み0.2mmのニッケルシートから切り出され、横軸ピッチが1.3mmで縦軸ピッチが0.65mmであり、進展が0.25mmであるひし形の開口を有する。
【0055】
電解セルは、ゼロ‐ギャップ構造を有する。これは、各セルのアノード及びカソードが、セルの隔壁の対向面と直接接することを意味する。隔壁は厚さ0.6mmのZirfon(登録商標)材料である。電極は、ニッケルの電流コレクタを通して双極プレートとの接触が維持される。
【0056】
重力システムにより調整された温度で循環される30%濃度の水酸化カリウム水溶液がセルスタックを横断する。
【0057】
アノードは純粋なニッケルであり、脱脂し、市販のS/6分類の結晶シリカを用いてサンドブラストし、最終的には圧縮空気を吹き付けることで清掃した。
【0058】
カソードの作製では、柔らかなブラシを用いて、活性溶液を2つの面に塗布する前は、アノードについて説明された処理と同様の処理を実行した。体積2.7リットルの活性溶液を、開始物質である41%Ru含有の市販の水和塩化ルテニウム100gに、充分なイソプロパノール、蒸留水270ml、及び25% HCl27mlを添加することで調製した。
24個のカソードを一組として鉛直方向に収容する支持体にカソードを挿入した。余剰の溶液を滴下除去した後、炉に入れて、300℃に保ち、6分間、わずかな空気循環下で乾燥させた。この操作の最後に、カソードを収容する支持体を炉から出し、開放空気中、室温下に放置して冷却した。
【0059】
溶液の塗布、及び冷却を伴う炉での加熱ステップを、8回繰り返した。
【0060】
その後、カソードを支持体ごと、滞留時間2時間、350℃、穏やかな空気循環下の、連続する炉のベルトに乗せた。炉の出口で、カソードを冷却するため、開放空気中に放置した。
【0061】
熱処理の完了時の、1個のカソードの平均重量増加量は、430mgであり、効果的なカソード表面(両面を考慮する)の全体で0.36mg/cm、カソード領域については約0.72mg/cmに等しかった。
【0062】
48個のセルを有するセルスタックを、上述の通りに準備されたアノード及びカソードを、セルのフレームに挿入することで組み立てた。
【0063】
セルスタックを収容する水の電解装置は、必要な全ての機能を備え、処理温度、圧力、液量、ガス分析等の全ての処理パラメータを管理する。
【0064】
セルスタックは、300個のPVパネルを備える30kWp−定格太陽光発電フィールドに、一連の3つのパネルの100本の線に接続される、直接接続で電力供給される。最大DC電流は300Aの範囲内であり、これはセルのピーク電流密度の5000A/mに相当する。
【0065】
DC電流のインプットが30A未満になると、生成された水素が充分に純粋でなくなることを防ぐため、電界装置への電力供給が自動的に中断される。従って、夜間だけでなく、雲によって日光の照射量が減少することで、日中でもセルへの電力供給は中断し得る。セルへの電力供給は、DC電流が充分大きくなると(>30A)、自動的に再開する。
【0066】
緯度41.5°Nにおける、4月中旬から5月中旬までの30日間の可動中、1日に最大で45回の異なる強度のピークを伴う、72回のDC電流の中断が記録された。
【0067】
様々なDC電流で、最初の数日の可動日及び可動期間の終端のそれぞれにおいて様々なタイミングで記録され、一定の圧力15バールで、電解液の温度が70℃±1℃に対応する、平均的なデータを、下記表2.1に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
これらの結果により、良好な性能安定性が示された。
[実施例3]
室内実験を、100cmの電極領域を有する10個の双極型の電解セルを備えるセルスタックを用いて準備した。スタックは、電解試験台に組み込まれ、電解試験台は、電源供給シミュレータを通じて120AまでのDC電流を供給可能である。再生可能であり、20分の期間中に圧縮された風力タービンの出力は、24時間の期間で記録された。実際、風力タービンの出力は、電解セルにおける高い様々な負荷を含み、対応する応力を伴う太陽光発電の出力よりも時間の制限が少ない。瞬間的な負荷は、DC電界全体における偏位を含み、不純物の混ざった水素の生成を避けるための、DC電流が5A未満に低下したときの自動中断を含む。試験期間における負荷中断は4回であった。
【0070】
電極基材は、実施例2と同じで、サンドブラストされたが、前駆体の塗布技術は異なった。
【0071】
アノードを酸化コバルト(Co)の堆積によって活性化し、カソードの活性化は、上述の実施例と同じ手技により調製した、2−プロパノール(Fluka 59300)を溶媒とする0.15Mの水和三塩化ルテニウム(Fluka 84050)溶液を塗布することによって、実行した。塗布は、各カソードの両面に溶液をエアスプレーすることで行った。
【0072】
カソードから余剰の溶液を除くために穏やかな風を吹きつけた後、カソードを支持体に収容して、330℃のマッフル炉に5〜6分導入した。
【0073】
溶液の塗布及びマッフル炉での加熱を8回繰り返し、最終的には、カソードを収容した支持体は、330℃下に1時間置かれた。
【0074】
活性化による、1個のカソードにおける増量の平均値は、105mgであった。
【0075】
電解セルへの組み込み及びセルスタックの組み立て後、システムを電解液としての30%濃度のKOHで満たし、適切な循環下に保持した。
【0076】
風力タービンシミュレータにより生成されたDC電流は、50日連続で、連続して繰り返しセルスタックへ供給され、上述したように圧縮された。これは、サイクルが24時間で72回、計3600回繰り返して行われたことを意味し、装置の10年動作のシミュレーションに相当する。DC負荷中断の合計は、14000回以上起きた。
【0077】
分極電圧防護は、DC電流中断の間、セルに適用されなかった。
【0078】
全期間中、処理圧力を10バールで一定に保った。温度は電流密度の変動の結果として変動するままとし、85℃に達した場合のみ冷却することで制限した。
【0079】
試験開始時と試験終了時とでスタックの電気的特性を比較することでカソード効率を評価した。測定は、温度80±2℃、圧力10バール、電解液30%KOHの定常状態で行った。結果は次の通りである。
【0080】
【表4】

【0081】
このように、セルの効率は、試験期間中に減少したが、その減少は、商業的な適用が可能な程度に限定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解セルでの水の電解に用いられるカソードであって、
‐金属の基材、及び
‐前記基材上に設けられ、実質的に純粋な酸化ルテニウムからなるコーティング層
を備える
カソード。
【請求項2】
前記コーティング層は、0.1〜2mg/cm、好ましくは0.4〜1mg/cmの範囲である
請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
前記金属基材は、軟鋼、合金鋼、ニッケル及びニッケル合金からなる群より選択される材料で作られる
請求項1又は2に記載のカソード。
【請求項4】
前記カソードの形状は、板、穴の開いた又は延伸されたシート、グリードから選択されるいずれかである
請求項1〜3のいずれか1項に記載のカソード。
【請求項5】
アノード及び請求項1〜4のいずれか1項に記載のカソードを少なくとも備える、水の電解用の電解セル。
【請求項6】
水の電気分解から純粋な水素を生成する電解装置であって、
請求項5に記載の電解セルを少なくとも備える、
電解装置。
【請求項7】
不安定で間欠的な電力供給下における電解セルの性能を向上させるために、水の電解用の電解セルの金属カソードのコーティングにおける、実質的に純粋な酸化ルテニウムの使用。
【請求項8】
前記不安定で間欠的な電力は、再生可能なエネルギー源によって供給される、
請求項7に記載の実質的に純粋な酸化ルテニウムの使用。
【請求項9】
水から水素(H)を製造する方法であって、
少なくとも1つの電解セル中でアルカリ性水溶液の電解を行うステップを備え、
水素はカソードで発生し、
前記セルは請求項1〜4のいずれか1項に記載のカソードを備える、
水素の製造方法。
【請求項10】
前記電解セルは、再生可能エネルギー源によって電力供給を受ける、
請求項9に記載の水素の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のカソードを製造する方法であって、少なくとも下記ステップ:
a)金属基材の前処理;
b)酸化ルテニウムの適切な前駆体を溶媒へ溶解させることによる活性溶液の調製;
c)金属基材への前記活性溶液の塗布;
d)金属基材へのコーティングを固定させる最終的な熱処理の実行;
を含む方法。
【請求項12】
ステップb)を、塩化ルテニウムをアルコール溶液へ溶解させることによって実行する、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記塩化ルテニウムは、水和三塩化物RuCl・nHOであり、
前記溶液は、イソプロパノール又は2‐プロパノールをベースとし、蒸留水及び塩酸水溶液が添加されている
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップc)は、活性溶液を金属基材に塗布する一連の操作によって実行され、
塗布する毎に、余剰の溶液を金属基材から滴下除去し、次の塗布までにカソードを乾燥させる中間ステップを行う
請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
乾燥を、150℃〜350℃の間の熱風を出すことのできる熱風炉中で行い、基材が炉に留まる時間は3〜12分である、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
活性溶液の塗布を、5〜15回繰り返す、
請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップd)における最終的な熱処理を、熱風炉で、温度250℃〜400℃、処理時間1〜2時間で行う、
請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−511158(P2011−511158A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544627(P2010−544627)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000521
【国際公開番号】WO2009/095208
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(506024858)カサーレ ケミカルズ エス.エー. (4)
【Fターム(参考)】