説明

水電解装置

【課題】陰極又は陽極で発生した水素ガス又は酸素ガスが陽イオン交換膜を経て対極に透過することを抑制し、ガス純度を改善し、長期間安全に電解を行うことを可能にする水電解装置を提供する。
【解決手段】陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜1の両側面に、それぞれ陽極触媒を含有する陽極触媒層2及び陰極触媒を含有する陰極触媒層4を密着させた水電解装置において、前記陽極触媒層2及び陰極触媒層4の少なくとも一方の触媒層が、陽極触媒又は陰極触媒をフッ素樹脂含有樹脂中に分散させた多孔質構造体よりなり、前記多孔質構造体の表面の水の接触角が90°以上であることを特徴とする水電解装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換膜からなる固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させることで水電解を行う酸素・水素発生用又はオゾン発生用の水電解装置に関し、陰極又は陽極で発生した水素ガス又は酸素ガスが陽イオン交換膜を経て対極に透過することを抑制し、ガス純度を改善し、長期間安全に電解を行うことを可能にする水電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陽極及び陰極を陽イオン交換膜からなる固体高分子電解質隔膜の両側に密着させることで構成した電解装置は、電解電圧の低下、導電性が低く通常の電解方法では電解できない純水の直接電解が可能、装置の小型化等の利点があることから、優れた省エネルギー電解システムとして広く使用されており、電解酸素・水素発生用の水電解装置として実用化されている。また、フッ素系イオン交換膜を特異な性質を有する電解質として利用するオゾン発生用の水電解装置としても実用化されている。
このような水電解装置において、陽イオン交換膜と電極触媒、電極触媒と集電体の接合方法は、本電解システムの利点を有効に利用するために重要であり、大別して2つのタイプがある。
【0003】
第一のタイプは陽イオン交換膜表面に直接電極触媒を担時させたタイプであり、この方法は陽イオン交換膜表面に金属塩を吸着させた後、還元剤と接触させて金属を陽イオン交換膜表面に直接析出させる方法である(特許文献―1参照)。この方法で作製した陽イオン交換膜/電極触媒接合体においては、陽イオン交換膜と電極触媒の接触は良好であるが、電極触媒層が極めて薄く、また金属塩溶液の濃度や温度等の吸着条件によって陽イオン交換膜厚さ方向に電極触媒の濃度分布を持ちやすいこと、生成した電極触媒層が薄いため集電体との均一接触が困難であること、使用できる電極触媒は還元剤を使って生成可能な金属に限られること等の問題点がある。
【0004】
第二のタイプは集電体表面に電極触媒を担時させたタイプであり、第一のタイプで認められる欠点はなく、電極触媒の選択が広く行え、厚さ数十μmに及ぶ厚い電極触媒層も作製可能である。担時方法としては、電解めっきやCVD、スパッタ等の方法を用いて集電体上に直接金属や金属酸化物からなる電極触媒層を担持する方法、電極触媒粉を樹脂や有機溶媒と混合してペースト状にし、これを集電体表面に塗布して乾燥させ電極触媒層を担持する方法、金属塩溶液を集電体上に塗布した後熱分解を行い金属酸化物からなる電極触媒層を担持する方法等がある。
【0005】
これらの方法によって陽イオン交換膜と電極触媒、電極触媒と集電体を接合して構成された水電解装置を用いて、純水のような比抵抗の大きい液体の電解を行うと、電解反応は陽イオン交換膜/電極触媒/液体の3相が接する界面(3相界面)において主に進行する。例えば、陽極の電極触媒にイリジウム、陰極の電極触媒に白金担持カーボンを用いた場合、陽極では酸素発生反応、陰極では水素発生反応が進行し、3相界面では発生ガスの気泡が成長する。
【0006】
気泡は3相界面にてある程度の大きさに成長した後、三相界面から集電体内部を通過して電解装置外に排出されるが、気泡内圧力を駆動力とする濃度拡散により発生ガスの一部は、陽イオン交換膜を通過して対極へ移動する。例えば、ゼロギャップ水電解装置において、陰極触媒/陽イオン交換膜/水の三相界面で発生した水素が、陽イオン交換膜を通過して対極である陽極まで達し、酸素ガスに混合してセル外へ排出される現象である。
ガスが対極へ移動することは、対極ガスとして発生するガス純度の低下や発生ガス電流効率の低下といった水電解装置の性能低下現象を引き起こす。更に酸素・水素発生を行っている水電解装置において対極ガス移動により爆発下限界を超えた水素・酸素混合ガスが生成する可能性があるため、水電解装置の安全な稼動のためには対極ガス混入を監視する機器や運用上の注意が必要となる。
気泡のサイズと液体の表面張力の関係はYoung−Laplace式 Pg−Pl=2γ/r(Pg:気泡内圧力、Pl:液体圧力、γ:液体の表面張力、r:気泡半径)で示される。本式によれば、液体圧力が一定の場合、気泡径が小さいほど平衡となる気泡内圧力は増加するため、対極へのガス透過駆動力が増加することがわかる。
【0007】
【特許文献1】特公平6−41639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明においては、電解によって発生するガスの純度を改善し、また長期間の稼動時においても、高電流効率のまま、安全に運転できる水電解装置を得るために、陽イオン交換膜を通過する対極ガス量を抑制することを目的として、電極触媒側の親疎水性の検討を行った。
その結果、本発明者は、気泡は生成時に大きな表面張力を有する水と接触し、Young−Laplace式で表される気泡内圧力と気泡周囲の液体の表面張力との圧力平衡を発生させるが、同時に電極触媒及び陽イオン交換膜とも接触しているため、水電解装置において水の表面張力を変えずに気泡内圧力を低下させる方法として、十分な疎水性を備えた電極触媒を使用すれば、気泡は水の表面張力に支配された気泡を生成せずに、電極触媒と広い接触面積をもって付着することを見出した。
更に、本発明者は、このとき気泡内圧力は水の表面張力からの支配を逃れるために低下することから、対極へのガス透過の駆動力が低下し、結果としてガス透過量が減少することとなり、特に陰極側の電極触媒層を疎水化することにより、分子サイズが小さいために濃度拡散しやすい性質を有する水素の透過を大幅に抑制することが出来ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜の両側面に、それぞれ陽極触媒を含有する陽極触媒層及び陰極触媒を含有する陰極触媒層を密着させた水電解装置において、前記陽極触媒層及び陰極触媒層の少なくとも一方の触媒層が、陽極触媒又は陰極触媒をフッ素樹脂含有樹脂中に分散させた多孔質構造体よりなり、前記多孔質構造体よりなる触媒層の表面の水の接触角が90°以上であることを特徴とする水電解装置を構成したことにある。
【0010】
また、第2の課題解決手段は、上記水電解装置において、前記多孔質構造体に使用するフッ素樹脂をポリテトラフルオロエチレンとしたことにある。
【0011】
また、第3の課題解決手段は、上記水電解装置において、前記多孔質構造体よりなる触媒層を陰極触媒を含有する陰極触媒層としたことにある。
【0012】
また、第4の課題解決手段は、上記水電解装置において、前記陰極触媒層を白金又は白金坦持カーボン粒子をフッ素樹脂含有樹脂中に分散させた多孔質構造体としたことにある。
【0013】
また、第5の課題解決手段は、上記水電解装置において、前記陽極触媒層を二酸化鉛又はイリジウムを含む陽極触媒を表面に含有する多孔質金属板又は金属繊維焼結体よりなる多孔質構造体としたことにある。
【0014】
また、第6の課題解決手段は、上記水電解装置において、前記多孔質構造体よりなる触媒層が前記陰極触媒層の表面にフッ素樹脂層を塗布した層を有することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水電解装置によれば、陰極又は陽極で発生した水素ガス又は酸素ガスが陽イオン交換膜を経て対極に透過することを抑制し、ガス純度を改善し、長期間安全に電解を行うことを可能にすることが出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1に示した水電解装置を参照して、本発明を詳細に説明する。
本発明の電解装置においては、1は、陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜であって、従来から知られている陽イオン交換膜が広く使用できるが、特にスルホン酸基を有し、化学安定性に優れるパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜が好適である。固体高分子電解質隔膜1の陽極側面には、表面に陽極触媒を含有する陽極触媒層2が担時された陽極集電体又は陽極基体3が密接して配置される。陽極集電体又は陽極基体3は導電性を有し、また酸化に対して耐食性があり、且つ発生ガスの放出及び電解液の流通が十分可能な構造のものが使用でき、例えば、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム等の金属を基材とした多孔体、網状体、繊維体、発泡体が使用できる。陽極触媒層2を構成する陽極触媒としては、酸素発生用としては、既知のものが使用できるが、例えば酸素過電圧の低いイリジウム及びその酸化物が使用できる。また、オゾン発生用としては、例えば二酸化鉛や導電性ダイヤモンド等の酸素過電圧の高い物質が使用できる。
【0017】
陽極触媒層2は、前記陽極触媒をフッ素含有樹脂中に分散させた多孔質構造体よりなり、陽極集電体又は陽極基体又は陽極基体3に塗布法やホットプレス法で担持でき、またフッ素樹脂やナフィオン液等のバインダー成分と混合し、シート状に成形して使用することも出来る。その際、陽極触媒層2の表面を疎水化し、その水の接触角を90°以上となるように、特に疎水性が高いポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)の分散体が最表面に有効に機能するように、組成を配合し、構成配置することにより、水電解装置の構成を大きく変えることなく、ガスの透過を大幅に抑制し、ガス純度と電流効率を改善し、電解装置の安全性を確保するものである。尚、陽極触媒層2は、多孔質金属板または金属繊維焼結体よりなる基材に坦持させてもよい。また、陽極触媒層2は、電解めっき法や、熱分解法、塗布法、ホットプレス法等で形成することも出来る。
【0018】
また、前記多孔質構造体に使用するフッ素樹脂としては、各種のフッ素樹脂が使用できるが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0019】
尚、前記陽極触媒層2は、陽極集電体又は陽極基体3へ坦持させる代わりに、前記固体高分子電解質隔膜1の表面にホットプレス法により密着接合することも出来る。
【0020】
固体高分子電解質隔膜1の陰極側面には、表面に陰極触媒を含有する陰極触媒層4が担時された陰極集電体又は陰極基体5が密接して配置される。陰極集電対又は陰極基体5としては、ニッケル、ステンレス鋼、ジルコニウム、カーボン等の陽極集電体又は陽極基体と同様の多孔体が使用できる。陰極触媒層4を構成する陰極触媒としては、水素過電圧の低い白金、白金黒、白金担時カーボンが望ましい。
【0021】
陰極触媒層4は、前記陰極触媒をフッ素含有樹脂中に分散させた多孔質構造体よりなり、陰極集電体又は陰極基体5や基材に塗布法やホットプレス法で担持でき、またフッ素樹脂やナフィオン液等のバインダー成分と混合し、シート状に成形して使用することも出来る。その際、陰極触媒層4の表面を疎水化し、その水の接触角を90°以上となるように、特に疎水性が高いポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)の分散体が最表面に有効に機能するように、組成を配合し、構成配置することにより、水電解装置の構成を大きく変えることなく、ガスの透過を大幅に抑制し、ガス純度と電流効率を改善し、電解装置の安全性を確保するものである。尚、陰極触媒層4は、多孔質金属板または金属繊維焼結体よりなる基材に坦持させてもよい。また、陰極触媒層4は、電解めっき法や、熱分解法、塗布法、ホットプレス法等で形成することも出来る。
【0022】
また、前記多孔質構造体に使用するフッ素樹脂としては、各種のフッ素樹脂が使用できるが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0023】
また、前記陰極触媒層4の表面に更に、フッ素樹脂層を塗布した層を設けることにより、陰極触媒層4の表面を疎水化し、その水の接触角を90°以上にすることができる。
【0024】
尚、前記陰極触媒層4は、陰極集電体又は陰極基体5へ坦持させる代わりに、前記固体高分子電解質隔膜1の表面にホットプレス法により密着接合することも出来る。
【0025】
陽極触媒層2又は陰極触媒層4のうち、少なくともいずれか一方は、前記陽極触媒又は陰極触媒をフッ素含有樹脂中に分散させた多孔質構造体よりなり、陽極触媒層2又は陰極触媒層4の表面を疎水化し、その水の接触角を90°以上となるように、特に疎水性が高いポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)の分散体が最表面に有効に機能するように、組成を配合し、構成配置する必要がある。
【0026】
このように、陽極触媒層2又は陰極触媒層4の表面を疎水化し、その水の接触角を90°以上とすると、水電解装置の構成を大きく変えることなく、対極へのガスの透過を大幅に抑制し、ガス純度と電流効率を改善し、電解装置の安全性を確保することができるが、前記水の接触角が90°以下では、このような効果が十分でなく、ガスの透過の抑制、ガス純度の改善を行うことが出来なかった。
【0027】
陽極触媒層2又は陰極触媒層4の表面の水の接触角は、固体表面の親疎水性を表現するための指標として用いられる数値であり、図2に示したように、固体表面に水滴を形成させ、水滴表面と固体表面のなす角度を水の接触角として分度器や接触角計を用いて測定して接触角値を得る。接触角が低いほど親水性、高いほど疎水性又は撥水性であると一般的に言われており、例えば、末端基がフッ素で覆われた疎水性材料の代表であるテフロン(登録商標)では114°、同様に疎水性が強いことで知られるシリコン樹脂では90−110°と高い値を示し、水との親和性が高い水酸基が表面に存在するフェノール樹脂では60°と樹脂であってもやや親水性を示す。また、表面を酸化物が覆っている金属やガラスは一般には低い値を示し、例えば有機物汚染のない清浄な表面を有するガラスの接触角は5°以下であり、ガラス表面の汚染状態評価にも利用される。
図2は水の接触角の具体的な測定方法を示している。基体と液滴表面の交点Xにおける、液滴の接線Yと基材とがなす角θが接触角であるが、接触角測定計を用いて目視により接触角θを測定する際は、接線Yを正確に得ることが困難なため、交点Xと液滴頂点Zを結ぶ線と基体とがなす角θ1を測定する。液滴を円弧の一部と仮定した場合、幾何学的にθ=2θ1が成り立つため、目視観察においても容易に接触角θを求めることが出来る。本明細書における実施例及び比較例に記載された接触角は本方法により測定している。
【0028】
従って、陽極触媒層2のみを前記多孔質構造体よりなる触媒層とし、その表面の水の接触角が90°以上とすれば、陽極側のガスの陰極側への透過を大幅に抑制し、陰極側のガス純度と電流効率を改善し、電解装置の安全性を確保することができ、陰極触媒層4のみを上記の構成にすれば、陰極側のガスの陽極側への透過を大幅に抑制し、陽極側のガス純度と電流効率を改善し、電解装置の安全性を確保することができ、陽極触媒層2及び陰極触媒層4の両方を上記の構造とすれば、陰極側及び陽極側両方のガス純度と電流効率を改善し、電解装置の安全性を確保することができるものである。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
<実施例1>
厚さ1mmのチタン製びびり繊維焼結体(東京製綱(株)製)を中性洗剤にて洗浄し脱脂した後、20重量%の50℃塩酸溶液にて1分間酸洗して前処理を行い、次いでチタン製びびり繊維焼結体上に、白金−チタン−タンタル(25−60−15モル%)からなる被覆を熱分解法により形成し表面に下地層を形成した陽極集電体又は陽極基体とした。
該陽極集電体又は陽極基体を陽極として、400g/Lの硝酸鉛水溶液を電解液にて、60℃、1A/dm2の条件で60分間電解を行い、陽極触媒であるβ−二酸化鉛の被覆層を陽極集電体又は陽極基体表面に形成した。
陽イオン交換膜としては、市販のパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換膜(商品名:ナフィオン117、デュポン社製)を使用し、煮沸純水中に30分間浸漬し、含水による膨潤処理を行った。
一方、PTFEディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル(株) 30−J)と、白金担持カーボン触媒を水に分散させた分散液を混合した後、乾燥させ、これにソルベントナフサを加えて混練した後、圧延工程と乾燥工程及び焼成工程を経て、PTFE40重量%、白金担持カーボン触媒60重量%で膜厚120μm、空隙率55%の多孔質構造体よりなる陰極シートAと得た。陰極シートA表面の接触角を接触角計((株)エルマ 型番G−I)で測定したところ、92°であった。
これらと、厚さ2.5mmの陰極集電体であるステンレス繊維焼結体(東京製綱(株))を、陽極室/陽極集電体/二酸化鉛面/陽イオン交換膜/陰極シートA/陰極集電体/陰極室、の順にチタン製電解装置に組み込み、電解液である純水の冷却を行いながら、純水電解を行ったところ、陽極からはオゾンと酸素の混合ガス、陰極からは水素ガスが生成し、陽極発生ガス中のオゾン濃度は11.0体積%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.05体積%、セル電圧3.3Vであった。電解条件は、電流密度1A/cm2、電解液温度30±5℃とした。以下の実施例及び比較例における電解条件は、全て実施例1と同一とした。
【0031】
<実施例2>
PTFEディスパージョンと、白金担持カーボン触媒を水に分散させた分散液を、厚さ100μmのカーボンペーパー表面に刷毛で塗布し乾燥させる工程を3回繰り返し、厚さ110μmのカーボンペーパーを基体とする多孔質構造体よりなる陰極シートBを得た。陰極シートBの触媒塗布面の接触角は95°であった。
実施例1と同様に電解試験を実施したところ、陽極発生ガス中のオゾン濃度は11.4体積%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.10体積%、セル電圧は3.3Vであった。
【0032】
<実施例3>
厚さ1mmのチタン製びびり繊維焼結体を中性洗剤にて脱脂した後、20重量%の50℃塩酸溶液にて1分間酸洗して前処理を行い、次いでチタン製びびり繊維焼結体上に、PTFEディスパージョンに200メッシュアンダーのイリジウム粉を分散させたイリジウム分散液を、イリジウム量で250g/m2の最終塗布量になるよう刷毛で繰り返し塗布し、更に乾燥させチタン製びびり繊維焼結体を基体とするイリジウム被覆陽極を得た。
この陽極を用いて実施例1と同様に電解試験を実施したところ、陽極では酸素、陰極では水素を発生し、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.07体積%、セル電圧は2.5Vであった。尚、陰極には多孔質構造体よりなる陰極シートAを使用し、触媒塗布面の接触角は95°であった。
【0033】
<比較例1>
PTFEディスパージョンと、白金担持カーボン触媒をエタノールに分散させた分散液にナフィオン液(シグマアルドリッチ(株))を添加し、これを厚さ100μmのカーボンペーパー表面に刷毛で塗布し乾燥させる工程を5回繰り返し、厚さ110μmのカーボンペーパーを基体とする陰極シートCを得た。多孔質構造体よりなる陰極シートCの触媒塗布面の接触角は77°であった。
実施例1と同様に電解試験を実施したところ、陽極発生ガス中のオゾン濃度は11.4体積%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.55体積%、セル電圧は3.2Vであった。
【0034】
<比較例2>
PTFEディスパージョンと、白金担持カーボン触媒をエタノールに分散させた分散液にナフィオン液(シグマアルドリッチ(株))を添加し、これを厚さ0.5mmのステンレス繊維焼結体(日本精線(株))表面に刷毛で塗布し乾燥させる工程を5回繰り返し、ステンレス繊維焼結体を基体とする陰極シートDを得た。多孔質構造体よりなる陰極シートDの触媒塗布面の接触角は45°であった。
実施例1と同様に電解試験を実施したところ、陽極発生ガス中のオゾン濃度は11.0体積%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.84体積%、セル電圧は3.1Vであった。
【0035】
<比較例3>
厚さ2mmの多孔質カーボン板の片面に、塩化白金酸を白金量として50g/Lとなるようにイソプロピルアルコールに溶解した液を刷毛で塗布し、還元炎中で熱分解を行い、白金被覆カーボン陰極触媒を得た。白金被覆カーボン陰極の白金被覆面の接触角は28°であった。
実施例1と同様に電解試験を実施したところ、陽極発生ガス中のオゾン濃度は11.0体積%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は1.55体積%、セル電圧は3.4Vであった。
【0036】
<実施例4>
実施例1及び比較例1の電解装置の1年間の長期連続電解を、実施例1と同じ電解条件で実施し、1年後の電解性能を比較したところ、表2の結果が得られ、電極触媒の水に対する接触角が90°以上になるように電極表面を調製することが電解性能の長期安定化に極めて有効であることがわかった。
【0037】
<実施例5>
陰極シートC上にエタノールにより10倍希釈したPTFEディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル(株) 30−J)を刷毛により2回塗布・乾燥を繰り返し、多孔質構造体よりなる陰極シートEを得た。多孔質構造体よりなる陰極シートEの触媒塗布面の接触角は91°に改善された。
しかる後、実施例1と同様に電解試験を実施したところ、陽極発生ガス中のオゾン濃度は11.4体積%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.15体積%、セル電圧は3.4Vであった。この結果から、前記接触角が90°以上になると、セル電圧の上昇も無く、陽極ガス中の水素濃度が0.15体積%以下となり、陽極ガスの純度が極めて良好であった。
実施例5の結果から、接触角77°、陽極ガス中の水素濃度0.55体積%であった陰極シートCの表面にPTFEディスパージョンを塗布して、表面のPTFE濃度を増加させ、接触角を91°まで大きくした結果、陽極ガス中の水素濃度も0.15体積%まで抑制できることが示された。
【0038】
上記実施例1、2、3及び5並びに比較例1、2及び3の結果を、表1に示した。この結果から、前記接触角が90°以上になると、セル電圧の大幅な上昇も無く、陰極又は陽極で発生した水素ガス又は酸素ガスが陽イオン交換膜を経て対極に透過することを抑制し、ガス純度を改善し、長期間安全に電解を行うことができた。
【0039】

【0040】

【0041】

【0042】
上記実施例4の結果を表2に示した。その結果、前記接触角が92°の場合、前記接触角が77°の場合に比較して、1年間の長期電解後においても、セル電圧の上昇が無く、陽極ガス中の水素濃度もきわめて低い値に維持することが出来た。
【0043】

【0044】
上記実施例1、2、3及び5並びに比較例1、2及び3の結果のうち、陰極シート4の表面の接触角と陽極ガス中の水素濃度との関係を表3及び図3に示した。この結果から、前記接触角が90°以上になると、陽極ガス中の水素濃度が0.15体積%以下となり、陽極ガスの純度が極めて良好であった。
【0045】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、陰極又は陽極で発生した水素ガス又は酸素ガスが陽イオン交換膜を経て対極に透過することを抑制し、ガス純度を改善し、長期間安全に電解を行うことを可能にする酸素・水素発生用又はオゾン発生用の水電解装置に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による水電解装置の一例を示す全体図。
【図2】水の接触角を示す図。
【図3】水の接触角と陽極ガス中の水素濃度の関係を示す図。
【符号の説明】
【0048】
1:陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜
2:陽極触媒層
3:陽極集電体又は陽極基体
4:陰極触媒層
5:陰極集電体又は陰極基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜の両側面に、それぞれ陽極触媒を含有する陽極触媒層及び陰極触媒を含有する陰極触媒層を密着させた水電解装置において、前記陽極触媒層及び陰極触媒層の少なくとも一方の触媒層が、陽極触媒又は陰極触媒をフッ素樹脂含有樹脂中に分散させた多孔質構造体よりなり、前記多孔質構造体の表面の水の接触角が90°以上であることを特徴とする水電解装置。
【請求項2】
前記多孔質構造体に使用するフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の水電解装置。
【請求項3】
前記多孔質構造体よりなる触媒層が陰極触媒を含有する陰極触媒層である請求項1に記載の水電解装置。
【請求項4】
前記陰極触媒層が白金又は白金坦持カーボン粒子をフッ素樹脂含有樹脂中に分散させた多孔質構造体よりなる請求項2に記載の水電解装置。
【請求項5】
前記陽極触媒層が二酸化鉛又はイリジウムを含む陽極触媒を表面に含有する多孔質金属板又は金属繊維焼結体よりなる多孔質構造体よりなる請求項1に記載の水電解装置。
【請求項6】
前記多孔質構造体よりなる触媒層が前記陰極触媒層の表面にフッ素樹脂層を塗布した層を有する請求項3に記載の水電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274326(P2008−274326A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116670(P2007−116670)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【Fターム(参考)】