説明

水面廃棄物処分場の安定化促進システム

【課題】適正な水面廃棄物処分場を建設し、水面下に埋め立てる廃棄物の分解・浄化を促進して安定化し易くし、周囲環境に悪影響を及ぼすことなく運用できるようにする。
【解決手段】貯水域内に設定した埋立エリアを取り囲むように、水面上から水底の難透水性地盤内に達する遮水壁10を設置すると共に、埋立エリア全体の上方を屋根構造物12で覆って、外部からの水の流入を抑制するクローズド型水面廃棄物処分場を形成する。埋立エリア内の貯留水もしくは保有水を汲み上げるポンプアップ手段20と、汲み上げた水を排水基準に適合するまで浄化処理する水処理設備22と、浄化処理した水の少なくとも一部を前記埋立エリア内に散水する散水手段24を設け、それによって貯留水もしくは保有水をポンプアップし、浄化処理し、散水するように循環する水の流れを作ることで浄化を進め埋立廃棄物の安定化を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖や池などを利用する水面廃棄物処分場を安全に運用するための安定化促進システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般家庭から排出される生活廃棄物や工場から排出される産業廃棄物などは、分別回収や可燃物の焼却処理などを経て、最終処分として廃棄物処分場への埋め立てが行われている。この埋め立ては、以前は、山間の谷部などを利用して下流側に堰堤を設けたオープン型の廃棄物処分場を造成して行われていた。しかし、近年、周辺環境等への配慮から、クローズド型の廃棄物処分場(特許文献1など参照)が採用されることが多くなっている。これは、内陸部で画成した埋立エリアを屋根構造物で覆って処分場とするものであり、それによって、降雨による廃棄物からの浸出水の発生を防ぎ、しかも廃棄物の散乱や臭気の拡散を防止できる利点があるとされている。
【0003】
しかしながら、廃棄物処分場の造成に適した場所は必ずしも多くなく、それに対して廃棄物の排出量は膨大となり、そのため最終処分場を沿岸部に求めることが種々検討されている。これは、海面域を護岸で締め切って形成した廃棄物用埋立エリアに廃棄物を投入して埋立処分する管理型の廃棄物処分場である。しかし、海面廃棄物処分場の場合は、波浪や潮位などの影響を考慮しなければならず、堅牢な遮水構造の構築を必要とするなど、莫大なコストがかかるばかりでなく、技術的にも困難が伴う。そのようなこともあって、我が国では、廃棄物処分場の90%以上が陸上部に造成されているのが現状である。
【0004】
ところで、採石場や鉱山の跡地などには窪地が点在し、雨水等が溜まったま放置されて池となっている場所が多く存在する。そこで、これらの池を処分場として有効利用することが考えられる。一般に、このような池は、底部が難透水性の粘土層であるので、埋立エリアを遮水壁で取り囲めば周囲と遮断できるし、上部を屋根構造物で覆ってクローズド型にすれば雨水等の浸入を防げる。
【0005】
しかし、ここで問題になるのは、静かな水面下にある埋立廃棄物は、水につかり嫌気的状態となるため、浄化が遅く、なかなか安定な物質に変化しないと言うことである。廃棄物処分場は、埋立開始から埋立終了まで、更にはその後も維持管理基準を満たしていることが必要であり、廃止基準に達した段階で廃止となる。水面下にある埋立廃棄物は安定化し難いため、極めて長期間にわたって管理し続けなければならず、維持管理コストが高くなり,その間、跡地利用が妨げられるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−236488号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、適正な水面廃棄物処分場を建設でき、水面下に埋め立てる廃棄物の分解・浄化を促進して安定化し易くし、周囲環境に悪影響を及ぼすことなく運用でき、それによって維持管理コストの削減と跡地の早期有効利用が図れるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、貯水域内に設定した埋立エリアを取り囲むように、水面上から水底の難透水性地盤内に達する遮水壁を設置すると共に、該埋立エリアの上方を屋根構造物で覆って、外部からの水の流入を抑制するクローズド型水面廃棄物処分場を形成し、前記埋立エリア内の貯留水もしくは保有水を汲み上げるポンプアップ手段と、汲み上げた水を排水基準に適合するまで浄化処理する水処理設備と、浄化処理した水の少なくとも一部を前記埋立エリア内に散水する散水手段を設け、それによって前記埋立エリア内の貯留水もしくは保有水を汲み上げて浄化処理し、その少なくとも一部を前記埋立エリア内に散水することで循環水の流れを形成して浄化を進め埋立廃棄物の安定化を促進させることを特徴とする水面廃棄物処分場の安定化促進システムである。
【0009】
屋根構造物に降った雨水は処分場外に自然放流すると共に、水処理設備で浄化処理し散水に供しない剰余水も処分場外に放流する。散水手段は、屋根構造物の下方に張り巡らされたシャワー装置とし、処理水を埋立エリア全体に散布するのが好ましい。また、埋立エリア内の水位が常に処分場外の水位よりも低くなるように、ポンプアップ手段で制御することで、貯溜水もしくは保有水の処分場外への漏洩を,より一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水面廃棄物処分場は、池などの貯水域内に遮水壁を構築し、屋根構造物で覆ったクローズド型であり、内部の貯留水や保有水を浄化循環させるシステムを備えていることから、周囲環境に悪影響を及ぼすことなく運用でき、水面下に埋め立てる廃棄物の分解・浄化を促進して安定化し易くし、維持管理コストの削減と跡地の早期利用を図ることができる。また、本発明によれば、採石場や鉱山の跡地などに点在する窪地に雨水等が溜まったままとなって放置されている池などが有効利用でき、内陸部での適正な廃棄物処分場の建設が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】水面廃棄物処分場を建設する前の池の状態を示す説明図。
【図2】本発明に係る水面廃棄物処分場とその安定化促進システムの説明図。
【図3】その運用状況の経時的な変化を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水面廃棄物処分場は、例えば、採石場や鉱山の跡地などに点在する窪地に雨水等が溜まったまま放置されて池となっている場所などに構築される。具体的には、池などの貯水域内に設定した埋立エリアを取り囲むように、水面上から水底の難透水性地盤内に達するように遮水壁を設置すると共に、該埋立エリア全体の上方を屋根構造物で覆ってクローズド型水面廃棄物処分場を形成する。ここでは、周辺からの表流水や地下水などの流入水は遮水壁により抑制し、雨水の流入は屋根構造物で防ぐ。そして、このように区画した埋立エリアに廃棄物を投棄し、埋め立てを行う。
【0013】
しかし、前述のように、静かな水面下にある廃棄物は、そのままでは浄化が遅くなかなか安定な物質に変化しない。そこで、本発明者等は、静かな水面下にある廃棄物の浄化について、様々な条件下で物質の濃度変化の数値シミュレーションを行った。その結果、埋立エリアの内部の水が定常的に集排水されるような流れのある水面下では、浄化が比較的進み、安定化が促進されることが判明した。本発明の水面廃棄物処分場の安定化促進システムは、かかる事実に着目し、埋立エリア内部の水が定常的に集排水されるような流れを強制的に形成して安定化が促進されるように工夫したものである。
【0014】
そのために本発明では、埋立エリア内の貯留水もしくは保有水を汲み上げるポンプアップ手段と、汲み上げた水を排水基準に適合するまで浄化処理する水処理設備と、浄化処理した水の少なくとも一部を前記埋立エリア内に散水する散水手段を設ける。それによって前記埋立エリア内の貯留水もしくは保有水をポンプアップ手段で汲み上げ、汲み上げた水を水処理設備で浄化処理し、浄化した処理水の少なくとも一部を散水手段により前記埋立エリア内に散水するようにし、処理水を循環させる定常的な水の流れを作ることで浄化を進め埋立廃棄物の安定化を促進させる。なお、処分場周辺の雨水等は、集排水管などを利用して自然放流させる。
【0015】
なお、本発明の水面廃棄物処分場は、人工の池のみならず、天然の池や沼、湖などにも建設できる。
【実施例】
【0016】
図1は、水面廃棄物処分場を建設するのに好適な貯水域の例を示している。これは、採石場や鉱山の跡地などに点在する窪地が放置されたままとなっている場所である。例えば採石場の跡地などでは、幅数十〜数百m、深さ10m程度の窪地も多く見られ、その底部が難透水性地盤(難透水性の粘土層など)であると、雨水や表流水等が流入し、それが溜まって池を形成している。
【0017】
図2は、そのような貯水域内に建設した水面廃棄物処分場を示しており、Aは断面を、Bは平面を示している。貯水域内に設定した埋立エリアを取り囲むように、水面上から水底の難透水性地盤内に達するまで鉛直遮水壁10を打設し、埋立エリアの内外の貯水を完全に分離する。そして、埋立エリア全体の上方に屋根構造物12を設けて覆い、降雨の流入を抑制する。このようにして、クローズド型の水面廃棄物処分場を形成する。埋立エリアは、四角形状や円形状などの他、池(貯水域)の形状に合わせた形状など任意であってよい。鉛直遮水壁10の外周(貯水域内)には割栗石14を投入・充填することにより鉛直遮水壁10を補強する。
【0018】
このようなクローズド型の水面廃棄物処分場に、前記埋立エリア内の貯留水もしくは保有水を汲み上げるポンプアップ手段20と、汲み上げた水を排水基準に適合するまで浄化処理する水処理設備22と、浄化処理した水の少なくとも一部を前記埋立エリア内に散水する散水手段24を設ける。
【0019】
ポンプアップ手段20は、埋立エリアで立ち上げた集排水パイプなどからなり、埋立エリアの面積などにもよるが、1本でもよいし複数本でもよいが、設置位置を移動でき、且つ下端あるいは中間部の集排水口の高さ位置を自由に調整できる構造が望ましい。集排水パイプは、処分場の外に設けた汲み上げポンプを介して水処理設備22に接続される。水処理設備22は、汲み上げた水を排水基準に適合するまで浄化処理するものであり、従来から使用されている一般的なものでよい。散水手段24は、屋根構造物12の下方に張り巡らせた散水パイプからなる散水シャワー装置であり、前記水処理設備22に接続されている。この散水手段24によって、浄化処理水を埋立エリア全体に散布するように構成する。また、処分場の外周の割栗石14を投入・充填した部分の貯水が自然放流されるように、地下水集排水管26を敷設する。なお、地下水集排水管26には、放流水の水質チェックができるように採水用人孔28を設ける。
【0020】
埋立エリア内に廃棄物を投棄する。埋立廃棄物30は水面下に沈み、埋め立てられていく。その間も、埋立エリア内の貯留水もしくは保有水は、ポンプアップ手段20で汲み上げられ、汲み上げた水は水処理設備22で浄化処理され、浄化した処理水の少なくとも一部は散水手段24により前記埋立エリア内に散水される。このように浄化処理水を循環させて水の流れを作り、この定常的な水の流れによって、浄化を進め埋立廃棄物の安定化を促進させる。
【0021】
屋根構造物12に降った雨水は、該屋根構造物12を伝って処分場外(鉛直遮水壁の外周の割栗石を投入・充填した部分)に流れ込み、地下水集排水管26を通って自然放流される。また、水処理設備22で浄化処理し、散水しない残りの剰余水も処分場外に放流する。ここで、埋立エリア内の水位が常に埋立エリア外の水位よりも低くなるようにポンプアップ手段20で制御すれば、貯溜水もしくは保有水の処分場外への漏洩をより一層抑制することができるため好ましい。
【0022】
図3は、埋立時期の異なる4段階における処分場の概要を示している。各構成要素は図2に対応しており、説明を簡略化するために、同じ部材・手段には同一符号を付す。
【0023】
Aは埋立初期の状態を示している。クローズド型処分場であることから、屋根構造物12に降った雨水は処分場外に導いて、地下水として放流する。埋立エリア内の底部に埋立廃棄物30が集まるが、大部分に貯留水32が存在する。ポンプアップ手段20により貯留水32をポンプアップし、水処理設備22で浄化した後、その大部分を散水手段24で天井から散水することにより、浄化処理水を循環させ、定常的な流れを維持する。
【0024】
Bは埋立中期の状態を示している。埋立エリア内の半分程度が埋立廃棄物30となり、その上部には未だ多くの貯留水32が存在する。ポンプアップ位置を上昇させて、貯留水32をポンプアップし、浄化処理して散水する。
【0025】
Cは埋立後期の状態を示している。埋立エリア内の大部分が埋立廃棄物30となり、その上部にはかなり少なくなった貯留水32が存在する。ポンプアップ位置を上昇させて、貯留水32をポンプアップすると共に、他のポンプアップ手段のポンプアップ位置を下降させて、埋立廃棄物30の保有水をポンプアップし、それらを浄化処理して散水する。
【0026】
Dは埋立最終期の状態を示している。埋立エリア内は埋立廃棄物30で完全に埋め立てられており(埋め立て終了)、その上方に貯留水は存在しない。ポンプアップ位置を下げて、埋立廃棄物の保有水のみをポンプアップし、それを浄化処理して散水する。これを、埋め立て終了後も続け、廃止基準が達成されるまで行う。廃止基準が達成された時点で、処分場は廃止となる。
【0027】
なお、難透水性地盤に食い込むように遮水壁を打設していても、処分場内の貯留水・保有水の水位(あるいは水圧)が高いと、長期間経過後には貯留水・保有水の回り込みによる漏洩が生じる恐れがある。そこで、全ての期間におけるポンプアップにおいて、処分場内が処分場外よりも低い水位(あるいは水圧)になるように調整する。それによって、周辺への廃棄物含有物質の漏洩を抑制することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 鉛直遮水壁
12 屋根構造物
20 ポンプアップ手段
22 水処理設備
24 散水手段
30 埋立廃棄物
32 貯留水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水域内に設定した埋立エリアを取り囲むように、水面上から水底の難透水性地盤内に達する遮水壁を設置すると共に、該埋立エリアの上方を屋根構造物で覆って、外部からの水の流入を抑制するクローズド型水面廃棄物処分場を形成し、前記埋立エリア内の貯留水もしくは保有水を汲み上げるポンプアップ手段と、汲み上げた水を排水基準に適合するまで浄化処理する水処理設備と、浄化処理した水の少なくとも一部を前記埋立エリア内に散水する散水手段を設け、それによって前記埋立エリア内の貯留水もしくは保有水を汲み上げて浄化処理し、その少なくとも一部を前記埋立エリア内に散水することで循環水の流れを形成して浄化を進め埋立廃棄物の安定化を促進させることを特徴とする水面廃棄物処分場の安定化促進システム。
【請求項2】
屋根構造物に降った雨水を処分場外に自然放流すると共に、水処理設備で浄化処理し散水に供しない剰余水も処分場外に放流する請求項1記載の水面廃棄物処分場の安定化促進システム。
【請求項3】
散水手段は、屋根構造物の下方に張り巡らされたシャワー装置であり、処理水を埋立エリア全体に散布するようにした請求項1又は2記載の水面廃棄物処分場の安定化促進システム。
【請求項4】
埋立エリア内の水位が常に処分場外の水位よりも低くなるようにポンプアップ手段で制御し、貯溜水もしくは保有水の処分場外への漏洩を抑制する請求項1乃至3のいずれかに記載の水面廃棄物処分場の安定化促進システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−11351(P2012−11351A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152150(P2010−152150)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(509260835)財団法人日本環境衛生センター (2)
【出願人】(509260846)株式会社環境地質 (3)
【出願人】(501494551)株式会社建設工学研究社 (4)
【Fターム(参考)】