説明

水面施用農薬製剤

【目的】 本発明は散布機が不要で省力的防除ができ、しかも水面で農薬活性成分を速やかに拡散する水面施用農薬製剤を提供する。
【構成】 農薬活性成分、平均粒子径100μm以下のガラス質中空体、界面活性剤としてラウリル硫酸塩とラウリル硫酸塩を除く陰イオン界面活性剤および無機質固体担体または有機質固体担体からなり、平均粒子径が100μm以下である粉末状組成物の10g〜100gを水溶性高分子フィルムにより包装してなることを特徴とする水面施用農薬製剤。
【効果】 本発明の水面施用農薬製剤は、水田に10アール当り約5〜20個を投入するだけでよく、省力的であると同時に、散布機が不要であり、経済的である。しかも水田に投入された本発明の農薬製剤は、水面に速やかに農薬活性成分を拡散し、均一な処理層を作るため、慣行の粒剤などの使用の場合と比べて高い効果を発現し、薬害も軽減される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は水面施用農薬製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、農薬活性成分の効果を高める目的で、水稲田の水面に浮遊させる農薬製剤の研究が行われてきた。例えば、焼成パ−ライトにポリブテンを用い、殺虫成分を固着させたもの(特公昭47−1240号公報)、軽石粒やパーライト粒などが水面に浮く担体に糊状物質で殺菌成分を付着させたもの(特公昭48−1179号公報)、発泡させた真珠岩または黒曜石に硬化油、パラフィン石油樹脂で殺虫成分を付着させたもの(特公昭48−1181号公報)、パーライトなど水に浮く無機担体に殺草成分を担持させたもの(特公昭48−1182号公報)、パーライトなどの粒状担体にセルロースエーテル、ポリカルボン酸型高分子活性剤と主剤を保持したもの(特公昭48−15612号公報)、エチレン酢酸ビニル共重合物、ポリプロピレンおよび殺虫成分を混合し、粒剤に成型したもの(特公昭49−24222号公報)、殺虫成分を撥水性物質と混合し、粒基剤の表面に付着させたもの(特開昭47−39638号公報)、農薬成分を含浸した合成樹脂発泡体の細粒体を水溶性高分子フイルムによって密封したもの(特開昭53−99327号公報)、農薬成分をロウ状物質に溶解もしくは分散させ、水溶性もしくは水分散性物質と押し出し造粒機で粒剤に成型したもの(特開昭56−30901号公報)、多孔質体ないし中空体に農薬活性成分を合成樹脂あるいは石膏で付着させたもの(特公平2−56323号公報)、水溶性担体、無機または有機のフイルム形成物質及び農薬活性成分を粒剤化したもの(特公昭63−30281号公報)などが挙げられる。
【0003】また、最近になって農薬散布の省力化の方法の一つとして、除草粒剤を水溶性高分子の袋に入れるか、発泡剤を入れて大型の錠剤に成型するなどして、手で水田水中に投げ込む方法が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記した従来の浮遊性を付与する技術は、■水面に浮遊しても水中への農薬活性成分の拡がりが十分ではなく、十分な効果が得られない、■製造コストが高く、経済的でない、■浮遊製剤に使用している担体が合成品であるため、分解されずに長期間残留する、■水田に均一に散布するには、散布機を必要とする場合がある、などの理由により、必ずしも満足すべき技術とはいいがたい。また、最近提案されている水田へ大型粒剤や錠剤を手で投げこむ方法は、水田水中に農薬活性成分が均一に、かつすみやかに拡散するには不十分である。したがって、このような欠点のない製剤の開発が望まれている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究した。その結果、農薬活性成分、平均粒子径100μm以下のガラス質中空体、界面活性剤としてラウリル硫酸塩とラウリル硫酸塩を除く陰イオン界面活性剤とを併用した界面活性剤および無機固体担体または有機固体担体からなり、平均粒子径が100μm以下である粉末状組成物の10g〜100gを水溶性高分子フィルムにより包装することにより、前記した課題を解決しうることを見いだし、本発明を完成させた。
【0006】次に本発明の水面施用農薬製剤について具体的に説明する。
【0007】本発明の農薬活性成分は、通常水田に使用されるものであれば何れも使用でき、1種または2種以上を併用してもよい。このような農薬活性成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0008】(殺虫剤)MPP、MEP、ピリミホスメチル、ダイアジノン、イソキサチオン、ピリダフェンチオン、クロルピリホスメチル、バミドチオン、マラソン、PAP、ジメトエート、エチルチオメトン、モノクロトホス、BRP、CVMP、ジメチルビンホス、プロパホス、DEP、EPN、NAC、MTMC、MIPC、BPMC、PHC、MPMC、XMC、ベンダイオカルブ、カルボスルファン、ベンフラカルブ、チオジカルブ、シクロプロトリン、エトフェンプロックス、カルタップ、チオシクラム、ベンスルタップ、ブプロフェジン、など。
【0009】(殺菌剤)塩基性硫酸銅、塩基性塩化銅、水酸化第二銅、有機硫黄ニッケル塩、チウラム、キャプタン、TPN、フサライド、IBP、EDDP、チオファネートメチル、ベノミル、イプロジオン、メプロニル、フルトラニル、テフロフタラム、ペンシクロン、メタラキシル、トリフルミゾール、ブラストサイジンS、カスガマイシン、ポリオキシン、バリダマイシンA、オキシテトラサイクリン、ヒドロキシイソキサゾール、メタスルホカルブ、MAF、MAFA、ベンチアゾール、ジクロメジン、プロベナゾール、イソプロチオラン、トリシクラゾール、ピロキロン、オキソニック酸、グアザチン、フェリムゾン、など。
【0010】(除草剤)2,4−D、MCP、MCPB、フェノチオール、クロメプロップ、ナプロアニリド、CNP、クロメトキシニル、ビフェノックス、MCC、ベンチオカーブ、エスプロカルブ、モリネート、ジメピペレート、DCPA、ブタクロール、プレチラクロール、ブロモブチド、メフェナセット、ダイムロン、ベンスルフロンメチル、シメトリン、プロメトリン、ジメタメトリン、ベンタゾン、オキサジアゾン、ピラゾレート、ピラゾキシフェン、ベンゾフェナップ、トリフルラリン、ピペロホス、ACN、など。
【0011】(植物調節剤)イナベンフィド、オキシエチレンドコサノール、ニコチン酸アミド、ベンジルアミノプリン、など。
【0012】これらの農薬活性成分の製剤中への添加量は、特に限定されるものではないが、一般的には製剤全量の0.01〜90%(重量%)であり、農薬活性成分の種類により、10アールあたりの必要散布量となるように添加すればよい。
【0013】なお、これらの農薬活性成分名は、「農薬ハンドブック」(1992年版、社団法人 日本植物防疫協会発行)に記載の一般名である。
【0014】本発明に使用するガラス質中空体は平均粒子径が100μm以下のものであればよく、特に限定されないが、次のものが挙げられる。例えば、黒曜石、真珠岩、松脂岩などの天然ガラス質の岩石を加熱して発泡させたパーライト、およびシラスをこれと同様に加工したシラスバルーン(商品名)などである。ガラス質中空体には1つの気泡を有するものと2つ以上の独立した気泡を有するものとがあり、両者とも使用できるが、製造場面で必要な耐圧性の面で後者の方がより望ましい。ガラス質中空体の平均粒子径は100μmより大きくなると水面での拡散性が悪くなり、100μm以下が必須である。
【0015】このようなガラス質中空体は1種または2種以上を併用して用いることができ、製剤中に1〜80重量部、好ましくは5〜50重量部添加するのが望ましい。
【0016】本発明で界面活性剤として使用するラウリル硫酸塩としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0017】ラウリル硫酸塩を除く陰イオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カルシウムが挙げられる。
【0018】ただし、ラウリル硫酸塩とラウリル硫酸塩を除く陰イオン界面活性剤との比率は1:0.2〜10であるのが好ましく、かつラウリル硫酸塩の製剤中の含有量が0.1〜10重量部であればよい。
【0019】また、ラウリル硫酸塩を除く陰イオン界面活性剤の使用にあたっては、これらの1種または2種以上を併用しても何ら問題はない。
【0020】必要に応じ非イオン界面活性剤を用いても何ら問題はなく、非イオン界面活性剤の種類についても何ら限定されない。
【0021】本発明に使用する無機質固体担体または有機質固体担体は特に限定されないが、例えばクレー、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ジークライト、セリサイト、酸性白土、珪石、ケイソウ土、軽石、パーライト、ゼオライト、バーミキュライト、塩化カリウム、尿素、ホワイトカーボン、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどの無機質固体担体およびグルコース、マルトース、シュークロース、ラクトース、デキストリン、デンプン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、アラビアゴム、キサンタンガムなどの有機質固体担体が挙げられる。
【0022】これらの無機質固体担体または有機質固体担体は1種または2種以上を併用することができる。もちろん、無機質固体担体と有機質固体担体を併用してもよい。
【0023】本発明の水面施用農薬製剤には、農薬活性成分の安定化剤、溶剤、物理性改良剤などの補助剤を添加してもよい。
【0024】本発明の製剤には農薬活性成分を溶解したり、製剤の物性を改良したりするために、溶剤として、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジデシル、トリメリット酸2−エチルヘキシル、トリメット酸トリイソデシルなどの多塩基酸アルコールエステル、2−エチルヘキサン酸セチル、ヤシ脂肪酸セチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸オクチルなどの脂肪酸アルコールエステル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエートなどの多価アルコール脂肪酸エステル、オクチルアルコール、ラウリルアルコールなどの高級アルコールおよび1,2−ジメチル−4−エチルベンゼン、メチルナフタレン、1−フェニル−1−キシリルエタン、1−キシリル−1,3−ジフェニルブタンなどの芳香族炭化水素などを使用してもよい。
【0025】本発明の水面施用農薬製剤の調製は、特に限定されないが、次の方法によって行えばよい。例えば、農薬活性成分をガラス質中空体と界面活性剤および無機質固体担体または有機質固体担体と、必要があれば農薬活性成分の安定化剤、溶剤、その他物理性改良剤などを加え、サンプルミル(不二パウダル株式会社製)にて混合し、目開き100μmの篩で篩別し、平均粒子径100μm以下である粉末状組成物を得る。
【0026】さらに、この粉末状組成物の10g〜100gを水溶性高分子フィルムにより包装し、本発明の水面施用農薬製剤を得る。
【0027】本発明の水面施用農薬製剤を散布するには、水田に入ることなく畦畔より手で水田の水面上に投げ込むだけでよい。また本発明の農薬製剤の1個あたりの重量は、10g以下では単位面積あたりの投入個数が多くなるため好ましくなく、100gを超えると投入時に包装袋が自重のため田面土壌に埋もれてしまい、薬剤の水面上での拡散性が悪くなる。したがって、1個あたり10〜100g、好ましくは30〜60gとなるように製剤化するのが好都合である。
【0028】本発明で使用する水溶性フイルムは、本発明の農薬製剤を水田の水面に投げ込んだ後、多量の水に速やかに溶解するものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、プルランなどが挙げられる。
【0029】
【作用】本発明で使用する平均粒径100μm以下のガラス質中空体とラウリル硫酸塩は、粉末状組成物を浮上させるはたらきがあり、ラウリル硫酸塩を除く陰イオン界面活性剤は、水面上で粉末状組成物を崩壊させ、無機質固体担体または有機質固体担体に担持させた農薬活性成分を水中に広く拡散させるはたらきをする。
【0030】
【実施例】次に実施例で本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】なお、以下に「部」とあるのはすべて重量部を示す。
【0032】実施例1プロベナゾール原体 20部、シラスバルーン(平均粒子径60μm、イヂチ化成株式会社製、商品名「ウインライト」)60部、ラウリル硫酸ナトリウム4部、リグリンスルホン酸ナトリウム 5部、ゼオライト 11部をハンマーミル(不二パウダル株式会社製、商品名「サンプルミルK▲2▼−1型」)で混合し、平均粒子径100μm以下の粉末状組成物を得る。次に、このようにして得た粉末状組成物 50gをポリビニルアルコールのフィルム(厚さ40μm)で包装し、本発明の水面施用農薬製剤を得る。
【0033】次に試験例により本発明の水面施用農薬製剤の有用性を示す。
【0034】
【試験例】
試験例 拡散性試験1区画の面積が100m2(10m×10m)の試験区(湛水深3cm)を作り、その中央(1カ所)に実施例1に準じて調製した試料を1個(50g)処理した。処理1.5時間後に試験区の中央(A区)および四隅(B区〜E区)の水深1.5cmの5か所より水を各50ml採取し、水中の農薬活性成分の濃度をHPLC法によって分析した。
【0035】なお、比較剤として用いた市販粒剤は水田の全面に散布した。その結果を表1〜表4に示す。
【0036】
【表1】


【0037】
【表2】


【0038】
【表3】


【0039】
【表4】


【0040】
【発明の効果】本発明の実施により、次のような効果がもたらされる。第1に、本発明の水面施用農薬製剤は水田に10アール当り約5〜20個を投入するだけでよく、省力的であると同時に、散布機が不要であり、経済的である。第2に、水田に投入された本発明の農薬製剤は水中に速やかに農薬活性成分を拡散し、均一な処理層を作るため、慣行の粒剤などの使用の場合と比べて高い効果を発現し、薬害も軽減される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 農薬活性成分、平均粒子径100μm以下のガラス質中空体、界面活性剤としてラウリル硫酸塩とラウリル硫酸塩を除く陰イオン界面活性剤および無機質固体担体または有機質固体担体からなり、平均粒子径が100μm以下である粉末状組成物の10g〜100gを水溶性高分子フィルムにより包装してなることを特徴とする、水面施用農薬製剤。