説明

氷層を活用した冷温倉庫の建設方法

【課題】低コストで運用することができる冷温倉庫の建設方法を提供することである。
【解決手段】堰と地山によって周囲を囲み地山の表面に保護材を設置して氷層を作る空間を形成する工程と、堰内に空洞を設け、堰に外部と空洞を連通させる上下部通気口を設け、空洞内に垂直方向に延びるように多数の枡を設けて、アイスタワーを形成する工程と、空間に、冷温倉庫の構造部材及び搬入路用骨組を組み立てる工程と、空間に氷層の造成を行う工程と、氷層の氷を切り出して、冷温倉庫及び搬入路の必要空間を形成する工程とを含み、氷層造成工程において、冬期の初期に水を張って薄い氷層を形成することを繰り返し行って所要厚の氷層を形成するとともに、アイスタワーの枡に水を張ってアイスタワーの運用を開始し、冬期の終期に、氷層の表面に養生水を湛水して氷層の融解を抑制することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷層を活用した冷温倉庫の建設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の見地から、雪氷熱エネルギーの利用が注目されている。このような中、平成14年に、いわゆる新エネルギー法(新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)の施行令が改正され、雪氷熱エネルギーの積極的な導入が図られている。
【0003】
従来、雪氷熱エネルギーの利用態様としては、冬期に降り積もった雪や、湖に張った氷を切り出して運搬したものを冷熱源とし、断熱された倉庫に保管して夏期に倉庫内に農産物を保存するのに利用したり、公共施設等の冷房に活用したりする事例が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような雪氷熱エネルギーの利用例は、徐々に増加してはいるが、平成20年度時点で50施設程度しかなく、十分に活用されているとは言い難い。その理由は、施設の建設に要するイニシャルコストが大きいこと、大きな効果を発揮するには大量の雪や氷を毎年運搬する必要があるためランニングコストがかかること、等があげられる。したがって、雪氷熱エネルギーの利用は、二酸化炭素の削減等の環境負荷の軽減についての効果はあるものの、コスト削減効果が少ないため、大規模な雪氷熱エネルギーの活用には至っていないのが現状である。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、コスト削減に配慮した、氷層を活用した冷温倉庫の建設方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
寒冷地の山間部の土木掘削工事において、稀に、永久凍土が出現することがある。本発明者は、このような事象を人工的に創設し、そのような場所に倉庫を建設することにより、年間を通して低温を確保し、雪や氷を毎年運搬する必要をなくし、ランニングコストの低減を図ることができる冷温倉庫の建設方法を開発した。
【0007】
本発明の冷温倉庫の建設において、解決すべき技術的課題として、(1)厚い氷層をどのように形成するか、(2)氷層の融解をどのように抑制するか、(3)融解した氷をどのように再生するか、(4)倉庫の安全性をどのように確保するか、(5)氷層内にどのように倉庫を建設するか、という点が考えられる。本発明者は、これらの点に関して以下のような解決策を提案する。
【0008】
(1)厚い氷層をどのように形成するか
数cmから数十cm程度の水を張って薄い氷層を形成し、これを繰り返すことによって、厚い氷層を人工的に形成する。氷層が1年で所要の厚さに達しない場合には、凍結した氷の表面に水を張り、春から秋にかけて養生することにより、氷の融解を抑制し、次年度、養生水を放流し、冬期に氷の表面に水を張り、越年により融解した分を再生し、氷層を更に厚くする。これを数年繰り返すことにより、所要厚の氷層を形成する。
(2)氷層の融解をどのように抑制するか
氷層の上面、下面(地盤に接する面)、および側面に分けて考察する。
まず、氷層の上面については、表面に水を張ることにより、融解を抑制する。これは、水が4°Cにおいて最大密度となり、氷層の表面に貯水して攪拌しない状態を保持することにより、氷層の上面の水が常に氷で冷やされて0°C程度の被膜となり、氷の融解の抑制を期待することができるからである。
また、氷層の下面については、冷温倉庫の建設後は、地盤は常に氷層で覆われ、地盤が凍土状態になることが予想されるが、冷温倉庫の建設当初に湛水した水が漏水し、地熱により融解する可能性も考えられるため、断熱材と防水材を保護材の上面に敷設する。或いは、万全を期すため、地盤内に、後述するようなヒートパイプを敷設するのも好ましい。
さらに、氷層の側面については、後述するような、いわゆるアイスタワーを設置することにより、氷層の融解を抑制する。
(3)融解した氷をどのように再生するか
冬期の初期に氷層上面の湛水を放流し、冬期に水を薄く張って氷層を作成する。この作業を毎年行う。なお、氷層の再生が困難である場合には、水張りの深さを調整して、氷層の再生を繰り返し行い、所定厚に達したら、氷層上面に湛水して養生する。
また、氷層の側面については、秋期にアイスタワーの枡の水を交換し、冬期にアイスタワーの上下部の通気口を開放して枡の水を凍結させ、春期にアイスタワーの通気口を閉鎖する。
(4)倉庫の安全性をどのように確保するか
倉庫を、氷層とは独立して、鋼材等の構造材で構築することにより、地震等による氷の緩みやひび割れに対する安全性を確保する。
(5)氷層内にどのように倉庫を建設するか
氷層の形成には複数年要することが予想されるため、建設途中に倉庫空間を設置した状態で越年した場合、倉庫壁周辺の氷層の融解を誘発する可能性がある。そこで、氷層の形成時に倉庫の内部も一緒に凍結させ、完成後に倉庫内部の氷を切り出すこととする。或いは、倉庫の内部を発泡スチロール等の断熱材や土砂で埋めておき、完成後に断熱材等を取り出すようにしてもよい。
【0009】
本願請求項1に記載された氷層を活用した冷温倉庫の建設方法は、堰と地山によって周囲を囲み、前記地山の表面に保護材を設置して、氷層を作る空間を形成する工程と、前記堰内に空洞を設け、前記堰の上部と下部に外部と前記空洞を連通させる通気口を設け、前記空洞内に垂直方向に延びるように多数の枡を設けることによって、アイスタワーを形成する工程と、前記空間に、冷温倉庫の構造部材及び搬入路用骨組を組み立てる工程と、前記空間に氷層の造成を行う工程と、前記氷層の氷を切り出して、冷温倉庫及び搬入路の必要空間を形成する工程とを含み、前記氷層造成工程において、冬期の初期に水を張って薄い氷層を形成することを繰り返し行って所要厚の氷層を形成するとともに、前記アイスタワーの枡に水を張ってアイスタワーの運用を開始し、冬期の終期に、氷層の表面に養生水を湛水して氷層の融解を抑制することを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項2に記載された氷層を活用した冷温倉庫の建設方法は、堰と地山によって周囲を囲み、前記地山の表面に保護材を設置して、氷層を作る空間を形成する工程と、前記堰内に空洞を設け、前記堰の上部と下部に外部と前記空洞を連通させる通気口を設け、前記空洞内に垂直方向に延びるように多数の枡を設けることによって、アイスタワーを形成する工程と、前記空間に、冷温倉庫の構造部材及び搬入路用骨組を組み立てるとともに、冷温倉庫の内部及び搬入路の内部に相当する部分に断熱材又は土砂を配置する工程と、前記空間に氷層の造成を行う工程と、前記冷温倉庫の内部及び搬入路の内部に相当する部分に配置した断熱材又は土砂を取り出して、冷温倉庫及び搬入路の必要空間を形成する工程とを含み、前記氷層造成工程において、冬期の初期に水を張って薄い氷層を形成することを繰り返し行って所要厚の氷層を形成するとともに、前記アイスタワーの枡に水を張ってアイスタワーの運用を開始し、冬期の終期に、氷層の表面に養生水を湛水して氷層の融解を抑制することを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項3に記載された氷層を活用した冷温倉庫の建設方法は、前記請求項1又は2の方法において、前記地山にヒートパイプを設置する工程を更に含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二酸化炭素の削減等の環境負荷の軽減を維持しつつ、ランニングコストを低廉に抑えた、冷温倉庫の建設方法が提供される。本発明の方法では、厚い氷層の形成、氷層の融解の抑制、融解した氷の作成、倉庫の安全性の確保等の技術的課題を解決することによって、効率的な冷温倉庫の建設・使用方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る、氷層を活用した冷温倉庫の建設方法の実施例について詳細に説明する。図1(a)は、本発明の方法によって建設された冷温倉庫の全体を模式的に示した図、図2は、図1(a)に示した冷温倉庫の建設方法の各工程を示した図である。
【0014】
まず最初に、冷温倉庫の建設地を造成する(図2(a)参照)。建設地は、適当な地山を掘削することによって造成される。なお、建設コストを抑えるためには、後述する堰10の建設量をできるだけ少なくするような箇所(例えば、三方が地山で囲まれ、一方が堰10によって囲まれるような箇所)を選定するのが好ましい。
【0015】
次いで、氷層18を作る空間を形成するため、建設地の地山と対向した箇所に堰10を形成する(図2(b)参照)。堰10は、氷層18を支持するため、及び、後述するアイスタワー12と協働して氷層の融解を抑制するために設けられる。堰10は好ましくは、コンクリートで形成される。堰10のコンクリート躯体は、アイスタワー12を設置するため、内部が空洞になっており、空洞内に通気させるため、下部と上部に通気口10a、10bが設けられている。アイスタワー12は、図3に示されるように、コンクリート躯体の内部の空洞に垂直方向に延びるように配置された多数の升12aによって形成されており、各升12a内に張った水を凍結させておき、升12a内の氷の融解時に発生する潜熱で空洞内を冷却し、これにより堰10の側面における氷層の融解を抑制するようになっている。
【0016】
堰10及びアイスタワー12の形成とともに、建設地の地山の表面を保護する保護材14を設置する(図2(b)参照)。保護材14の氷層側の表面には、断熱材14a及び防水材14bが配置されている(図1(b)参照)。なお、堰10の氷層側の面にも、同様に、断熱材14a及び防水材14bを配置するのが好ましい。
【0017】
次いで、堰10と地山で形成される空間に、冷温倉庫16の構造部材(柱等)16aを組み立てる(図2(c)参照)。また、これとともに、冷温倉庫16への搬入路の骨組16bも設置する。
【0018】
次いで、上記のようにして形成された空間に氷層18の造成を行う(図2(d)〜図2(f)参照)。氷層18の造成は、冬期の初期に開始するが、上述のように、数cmから数十cm程度の水を張って薄い氷層を形成し、これを順次繰り返すことによって行われる。これとともに、アイスタワー12の枡12aにも水を張ってアイスタワー12の運用を開始する。冬期の終期には、氷層18の融解を抑制するため、上述のように、氷層18の表面に養生水20を湛水する。
【0019】
次年度、冬期の初期に養生水20を放流し、氷層18の造成を再開する。これとともに、アイスタワー12の運用も再開する。冬期の終期には、氷層18の表面に養生水20を湛水する。これらの作業を、所要厚の氷層18が得られるまで繰り返す。
【0020】
次いで、氷層18の氷を切り出して、冷温倉庫16及び搬入路の必要空間を形成する(図2(g)参照)。これとともに、換気孔16cの設置や内装工事、電気設備工事等の必要工事を行うことによって、冷温倉庫16が完成する。
【0021】
なお、氷層18が融解した場合には、上述のように、冬期初期に養生水20を放流し、アイスタワー12の枡12aの水を交換し、氷層18に水を薄く張って、融解厚に相当する氷層18を再生する。一度に再生するのが困難である場合には、これらの作業を繰り返し行うことによって、氷層18の再生を実現する。
【0022】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0023】
たとえば、前記実施の形態では、保護材14に断熱材14aを設置することにより、氷層18の下面における融解を抑制しているが、図4に示されるように、氷層18の下面の地盤にヒートパイプ22を設置することにより、氷層18の融解の抑制を更に徹底してもよい。なお、ヒートパイプ22は、地盤に多数のパイプを設置し、パイプの上端を地上部に出して放熱フィン22aを取り付けたものであり、パイプ内に封入された熱媒が地中の熱を吸収して気化・上昇し、地上部で寒冷外気により冷却・液化されて下降することにより、地中に冷熱を輸送し、設置箇所周囲の地盤を凍土化するものである。
【0024】
また、前記実施の形態では、氷層18の完成後に冷温倉庫16の必要空間を形成するために氷を切り出しているが、予め必要空間の形成箇所に断熱材や土砂等を配置しておき、氷層18の完成後に断熱材や土砂を取り出して、冷温倉庫16の必要空間を形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(a)は、本発明の方法によって建設された冷温倉庫の全体を模式的に示した図、図1(b)は、図1(a)の部分1aの拡大図である。
【図2】図1に示した冷温倉庫の建設方法の各工程を示した図である。
【図3】アイスタワーの内部を示す拡大図である。
【図4】ヒートパイプを設置した状態を示した模式図である。
【符号の説明】
【0026】
10 堰
10a、10b 通気口
12 アイスタワー
12a 枡
14 保護材
14a 断熱材
14b 防水材
16 冷温倉庫
16a 構造部材
16b 搬入路の骨組
16c 換気孔
18 氷層
20 養生水
22 ヒートパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷層を活用した冷温倉庫の建設方法であって、
堰と地山によって周囲を囲み、前記地山の表面に保護材を設置して、氷層を作る空間を形成する工程と、
前記堰内に空洞を設け、前記堰の上部と下部に外部と前記空洞を連通させる通気口を設け、前記空洞内に垂直方向に延びるように多数の枡を設けることによって、アイスタワーを形成する工程と、
前記空間に、冷温倉庫の構造部材及び搬入路用骨組を組み立てる工程と、
前記空間に氷層の造成を行う工程と、
前記氷層の氷を切り出して、冷温倉庫及び搬入路の必要空間を形成する工程と、
を含み、
前記氷層造成工程において、冬期の初期に水を張って薄い氷層を形成することを繰り返し行って所要厚の氷層を形成するとともに、前記アイスタワーの枡に水を張ってアイスタワーの運用を開始し、冬期の終期に、氷層の表面に養生水を湛水して氷層の融解を抑制することを特徴とする方法。
【請求項2】
氷層を活用した冷温倉庫の建設方法であって、
堰と地山によって周囲を囲み、前記地山の表面に保護材を設置して、氷層を作る空間を形成する工程と、
前記堰内に空洞を設け、前記堰の上部と下部に外部と前記空洞を連通させる通気口を設け、前記空洞内に垂直方向に延びるように多数の枡を設けることによって、アイスタワーを形成する工程と、
前記空間に、冷温倉庫の構造部材及び搬入路用骨組を組み立てるとともに、冷温倉庫の内部及び搬入路の内部に相当する部分に断熱材又は土砂を配置する工程と、
前記空間に氷層の造成を行う工程と、
前記冷温倉庫の内部及び搬入路の内部に相当する部分に配置した断熱材又は土砂を取り出して、冷温倉庫及び搬入路の必要空間を形成する工程と、
を含み、
前記氷層造成工程において、冬期の初期に水を張って薄い氷層を形成することを繰り返し行って所要厚の氷層を形成するとともに、前記アイスタワーの枡に水を張ってアイスタワーの運用を開始し、冬期の終期に、氷層の表面に養生水を湛水して氷層の融解を抑制することを特徴とする方法。
【請求項3】
前記地山にヒートパイプを設置する工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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