説明

氷結晶化阻害物質

【課題】本発明の課題は、工業レベルで効率良く安価に生産可能であり、十分に高い氷結晶化阻害活性を有し、安全かつ実用にかなう優れた氷結晶化阻害活性を有する氷結晶化阻害物質を提供することである。また、本発明は、当該氷結晶化阻害物質の活性部分であるポリペプチド、並びに当該氷結晶化阻害物質またはポリペプチドを含む抗体、組成物、食品、生体試料保護剤および化粧品を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明に係る氷結晶化阻害物質は、植物由来のものであり、且つ特定のタンパク質を少なくとも一つ含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷結晶化阻害物質、その活性部分であるポリペプチド、並びに当該氷結晶化阻害物質またはポリペプチドを含む抗体、組成物、食品、生体試料保護剤および化粧品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷結晶化阻害物質は、不凍タンパク質やAFPとも呼ばれる物質であり、氷結晶の表面に吸着してその成長を妨げる働きをもつタンパク質であり、生物においては細胞の凍結から身を守るために利用されている。このような氷結晶化阻害物質は、例えば、魚類、昆虫、植物、菌類、微生物などから見出されている(特許文献1〜2,非特許文献1〜4)。
【0003】
しかしながら、これまでに報告されている氷結晶化阻害物質は、魚類、植物、昆虫、菌類、細菌などの生体内に微量しか存在せず抽出効率が非常に悪かったり、多量に存在していても、生物自体の捕獲や培養が難しいといった問題を有し、工業的に生産し食品用途として利用できるものではなかった。
【0004】
そこで、一年中安定かつ安価に不凍活性を有する氷結晶化阻害物質を提供する方法として、低温保存したカイワレ大根を水などにより抽出する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、特許文献3に記載の方法で得られる氷結晶化阻害物質は、氷結晶化阻害活性が必ずしも十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−24237号公報
【特許文献2】特開2004−275008号公報
【特許文献3】特開2007−153834号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】生物物理,第43巻,第3号,第130〜135頁(2003年)
【非特許文献2】Plant Physiology(プラント・フィジオロジー),第119巻,第1361〜1369頁(1999年)
【非特許文献3】Biochem.J.(バイオケミカル・ジャーナル),第340巻,第385〜391頁(1999年)
【非特許文献4】Can.J.Microbiol.(カナディアン・ジャーナル・オブ・ミクロバイオロジー),第144巻,第6頁(1998年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、工業レベルで効率良く安価に生産可能であり、十分に高い氷結晶化阻害活性を有し、安全かつ実用にかなう優れた氷結晶化阻害活性を有する氷結晶化阻害物質を提供することである。また、本発明は、当該氷結晶化阻害物質の活性部分であるポリペプチド、並びに当該氷結晶化阻害物質またはポリペプチドを含む抗体、組成物、食品、生体試料保護剤および化粧品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった。その結果、例えば、カイワレダイコンから得られる特定の分子量を有するタンパク質が、高い氷結晶化阻害効果を有することを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明に係る氷結晶化阻害物質は、植物由来のものであり、且つ下記(1)〜(4)の何れかのタンパク質を少なくとも一つ含有することを特徴とする。
(1) 配列番号1(SEQ ID NO:1)のアミノ酸配列を有し、且つSDS−PAGEで測定した分子量が19,000±200Daであるタンパク質
(2) 配列番号2(SEQ ID NO:2)のアミノ酸配列を有し、且つSDS−PAGEで測定した分子量が22,000±250Daであるタンパク質
(3) SDS−PAGEで測定した分子量が59,000±600Daであり、且つそのN末端が修飾を受けているタンパク質
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかのタンパク質のアミノ酸配列の1または複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたタンパク質であり、且つ氷結晶化阻害活性を有するタンパク質。
【0010】
本発明に係る氷結晶化阻害物質を含む植物は、アブラナ科、セリ科、ユリ科およびキク科に属する植物からなる群より選ばれる1以上の植物、または、これらの類縁品種もしくは改良品種がある。また、アブラナ科に属する植物としては、ハクサイ、ダイコン、ブロッコリー、チンゲンサイ、コマツナ、カブ、シロナ、野沢菜、広島菜、ミズナおよびマスタードからなる群より選ばれる1以上の植物、または、これらの類縁品種もしくは改良品種を挙げることができる。さらに、アブラナ科に属する植物としては、ダイコン(Raphanus sativus)、または、これの類縁品種もしくは改良品種を、さらに、ダイコンのスプラウトであるカイワレダイコンを挙げることができる。
【0011】
また、本発明に係る氷結晶化阻害物質として、より具体的には、アセトン分画において、アセトン濃度が30容量%の濃度で沈殿する画分に含まれるものを挙げることができる。
【0012】
本発明に係るポリペプチドは、上記本発明に係る氷結晶化阻害物質を解離して得られるものであり、且つ氷結晶化阻害活性を有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る抗体、組成物、食品、生体試料保護剤および化粧品は、上記本発明に係る氷結晶化阻害物質および/またはポリペプチドを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る氷結晶化阻害物質は、例えば、食品であるカイワレダイコンから安価かつ大量に得ることが可能であり、氷結晶化阻害活性が高い。また、本発明の氷結晶化阻害物質を食品に添加することにより、冷凍食品の品質維持などに役立てることができる。さらに、本発明の氷結晶化阻害物質は、臓器や細胞、血液(血小板)の凍結保存における低温保護剤や化粧品(皮膚の保護剤)にも有効に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る氷結晶化阻害物質は、植物に由来するものであり、SDS−PAGEで分子量19,000±200Da、22,000±250Daまたは59,000±600Daのタンパク質のうち少なくとも1つを含む。
【0016】
本発明において、氷結晶化阻害物質は、氷結晶の成長を阻害する機能を有する物質を広く意味するものであり、熱ヒステリシスの測定、氷結晶構造の観察、氷結晶化阻害活性の測定など公知のいずれかの方法によって氷結晶化阻害活性を示す限りにおいては、本発明に含まれる。熱ヒステリシスとは、氷結晶化阻害物質水溶液中で平衡融点以下の温度であっても氷が成長できない温度域をいい、氷が水溶液中で成長を開始する温度を凝固点と定義すれば、熱ヒステリシスは平衡融点と凝固点の差として検出される。
【0017】
本発明に係る氷結晶化阻害物質は、植物から得ることができる。植物としては、特に限定されるものではないが、例えば、アブラナ科、セリ科、ユリ科またはキク科に属する植物が挙げられる。アブラナ科に属する植物は、ハクサイ、ダイコン、ブロッコリー、チンゲンサイ、コマツナ、カブ、シロナ、野沢菜、広島菜、ミズナ、マスタード等が挙げられる。セリ科に属する植物はニンジン等が、ユリ科に属する植物はネギ等が、キク科に属する植物は春菊等が挙げられる。これらの植物の類縁品種および改良品種も適宜使用することができる。本発明に係る氷結晶化阻害物質は、特に限定されるものではないが、例えばダイコン種から好適に得ることができる。ダイコン種としては、特に限定されるものではないが、例えば、ダイコン、ハマダイコン、ノダイコンが例示できる。また、上記植物のスプラウト、特にダイコンのスプラウトであるカイワレダイコンを用いれば、本発明に係る氷結晶化阻害物質を効率よく得ることができる。
【0018】
これらの植物を低温馴化するなど公知の方法によって植物中の氷結晶化阻害物質を誘導した状態で使用してもよい。低温馴化の温度としては、特に限定されるものではないが、下限温度は0℃以上が好ましく、上限温度は20℃以下が好ましい。また低温馴化の期間としては、特に限定されるものではないが、3日間以上行うことが好ましい。
【0019】
以下、本発明に係る氷結晶化阻害物質の性状について詳細に説明する。氷結晶化阻害物質は、SDS−PAGEで分子量19,000±200Da、22,000±250Daまたは59,000±600Daのタンパク質のうち少なくとも1つを含む。
【0020】
分子量19,000±200Daのタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列と実質的に相同なアミノ酸配列を有し、22,000±250Daのタンパク質は、配列番号2と実質的に相同なアミノ酸配列を有し、59,000±600Daのタンパク質は何らかのN末端修飾を受けている。ここでアミノ酸配列が実質的に相同であるとは、アミノ酸配列の少なくとも80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95〜100%が重複することを意味する。
【0021】
また、本発明に係る氷結晶化阻害物質は、上記のいずれかのタンパク質のアミノ酸配列の1または複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたタンパク質であり、且つ氷結晶化阻害活性を有するタンパク質を含むものであってもよい。上記アミノ酸配列において、欠失、置換または付加されるアミノ酸の数としては、1以上、3以下がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。
【0022】
氷結晶化阻害活性を有するとは、そのタンパク質溶液において、氷の結晶化を阻害したり氷結晶形状を制御することによって、氷結晶の成長や粗大化を抑制する活性を有することをいうものとする。
【0023】
本発明の氷結晶化阻害物質は、pH8.0の条件で、陰イオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィーにより吸着画分として得られる。また、アセトン濃度30容量%以下で、好適に沈殿する。ここで陰イオン交換体としては、特に限定されるものではないが、例えば、DEAE(Diethylaminoethyl)やQ(Quaternary Ammonium)などが挙げられる。また、アセトン沈殿の上限濃度は80容量%以下が好ましく、60容量%以下がさらに好ましく、40容量%以下が極めて好ましく、30容量%以下が最も好ましい。
【0024】
本発明に係る氷結晶化阻害物質は、植物からそのまま抽出してもよいし、低温馴化などの方法により植物において氷結晶化阻害物質を誘導した後に抽出してもよい。
【0025】
低温馴化の温度としては、とくに限定されるものではないが、下限温度は0℃以上が好ましく、上限温度は20℃以下が好ましい。また低温馴化の期間としては、特に限定されるものではないが、3日間以上行うことが好ましい。
【0026】
本発明に係る氷結晶化阻害物質は、容易に抽出、精製、回収することが可能である。
【0027】
その抽出方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、水または有機溶媒を用いた公知の抽出法により得ることができる。
【0028】
抽出に用いる植物の形態は、特に限定されるものではなく、種子および植物体の全体でもよく、例えば、種子、芽、葉、葉柄などの一部分でもよい。
【0029】
氷結晶化阻害物質を抽出する溶媒は特に限定されるものではないが、水、親水性有機溶媒、超臨界二酸化炭素、亜臨界水などからなる群より選ばれる1以上の溶媒を好適に組み合わせて使用できる。
【0030】
親水性有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどが挙げられるが、食品加工に使用可能なものであることが好ましく、エタノールなどが例示される。
【0031】
これらの溶媒の中でも水、エタノールが好ましい。また、水と有機溶媒を混合して用いることも可能である。
【0032】
水を用いる場合は、加温した水、特に、熱水を用いることが好ましく、有機溶媒を用いる場合は、加温した有機溶媒を用いることが好ましい。
【0033】
加温した水または有機溶媒の温度は特に限定されない。下限は、0℃以上が好ましく、20℃以上がさらに好ましい。上限は、160℃以下が好ましく、120℃以下がさらに好ましい。その他、水性溶媒としては酢酸ナトリウムなどの種々の緩衝液や、アルコールと水との混合溶媒などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。抽出溶媒の種類や量は、抽出に処する植物体の種類や量などにより適宜選択することができる。
【0034】
精製方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、逆浸透、限外濾過、精密濾過などを好適に組み合わせて用いることができる。
【0035】
膜分離の分画分子量は、特に限定されるものではない。目的物を膜非透過物の中に回収する場合の分画分子量の下限は5,000以上が好ましく、8,000以上がさらに好ましく、10,000以上が極めて好ましく、15,000以上が最も好ましく、上限が19,000を超えない限り好適に用いることができる。
【0036】
膜分離法では分子量の小さい成分が選択的に膜を透過し、その結果、溶液中の分子量の大きい成分の精製、濃縮が達成されるが、実際には溶液中の溶質の膜表面付近への蓄積(濃度分極)や膜表面や細孔内への吸着などにより経時的にその透過性能は低下する。
【0037】
本発明の氷結晶化阻害物質を高分子側に回収する場合、使用する膜の分画分子量が5,000未満では溶液中の夾雑成分の除去が不充分であり、また膜が目詰まりを起こしやすくなるため好ましくない。また、分画分子量が19,000を超えると分子量が約19kDaである当該氷結晶化阻害物質の精製、回収が実質的に困難となる。
【0038】
本発明の氷結晶化阻害物質は、必要に応じて、さらに精製を行ってもよい。例えば、デカンテーション、濾過、遠心分離等を好適に組み合わせて夾雑成分を除去してもよい。また例えば、塩析や有機溶媒による沈殿や、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過等による精製、透析や限外濾過などによる濃縮を好適に組み合わせて行ってもよい。
【0039】
さらに必要により、粉末状または顆粒状など任意の形態に固形化してもよい。固形化の方法は特に限定されないが、例えば、上記の抽出物を噴霧乾燥や凍結乾燥などの常法に従って粉末化する方法や、抽出物を賦形剤に吸着、担持させて粉末または顆粒状に固形化する方法などを挙げることができる。これらの操作は当業者に公知のものであり、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0040】
本発明に係る氷結晶化阻害物質は、水が氷結晶化することで障害が生じる様々な分野において、この障害を抑制する目的で利用可能である。例えば、食品分野、機械分野、土木分野、化粧品分野、生体試料を用いる医療分野等で利用可能である。
【0041】
食品分野では、食品に含まれる水の氷結晶化を抑制することで、当該食品の味の劣化などを防ぐことができる。例えば、澱粉老化を防止したり、食品中の水が氷結晶化して、タンパク質や油脂成分などを物理的に圧迫し、その構造を変化させることによる味や品質などの劣化を、抑制したりすることができる。
【0042】
機械分野、土木分野では、機械の可動部、道路、地盤などの凍結防止剤として利用できる。
【0043】
化粧品分野では、化粧品の品質の劣化などを防ぐための添加剤として利用できる。例えば、油脂成分を含む化粧品を凍結させると、当該化粧品に含まれる水が氷結晶化して、当該油脂成分を物理的に圧迫してその構造を壊すことがあり、品質と使用感が劣化する。本発明に係る氷結晶化阻害物質を用いれば、水の氷結晶化を防ぐことで油脂成分の構造が保持されるため、品質の劣化などを抑制することができる。
【0044】
医療分野では、生体試料を凍結保存する際の保護剤として用いることができる。例えば、細胞、血液、臓器などの組織等の生体試料を従来公知の保存液に入れて凍結保存すると、保存液中の水分が凍結して氷結晶を生じ、当該氷結晶により生体試料が損傷することがある。しかし、本発明に係る抽出物を添加すれば、氷結晶の発生や成長を抑制することができるので、生体試料を氷結晶による損傷から保護することができる。
【0045】
本発明の氷結晶化阻害物質の形態は、その用途に応じて様々であり、そのまま、溶液、濃縮液、懸濁液、凍結乾燥物、粉末、顆粒、錠剤などであってもよい。
【0046】
また、本発明に係る抗体は、上記氷結晶化阻害物質および/または上記ポリペプチドと特異的に反応するものであり、植物における当該氷結晶化阻害物質とポリペプチドの有無を試験したり、タンパク質混合物から当該氷結晶化阻害物質とポリペプチドを特定したりするために用いることができる。
【0047】
本発明に係る抗体の調製は常法に従えばよい。例えば、上記氷結晶化阻害物質やポリペプチドを用いてマウスやラット等を免疫し、その抗体産生細胞や脾細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを得る。このハイブリドーマをクローニングし、上記氷結晶化阻害物質またはポリペプチドへ特異的に反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングする。このクローンを培養し、分泌されるモノクローナル抗体を精製すればよい。
【0048】
次に、本発明に係る氷結晶化阻害物質の活性測定法とタンパク質量の測定法について説明する。
【0049】
本発明の氷結晶化阻害物質の氷結晶化阻害活性の測定方法は、植物の種類などに応じて適宜適したものを用いる。例えば、熱ヒステリシスの測定、氷結晶構造の観察、氷結晶化阻害活性の測定などの公知の方法にて行うことができ、何れかの方法で氷結晶化阻害活性の向上が認められる場合は、本発明範囲に含まれるものとする。氷結晶化阻害活性の測定は、例えば、ショ糖を30w/v%含む植物抽出物溶液を−40℃に冷却した後に−6℃まで温度を上げ、顕微鏡により観察した氷結晶の平均面積を測定することにより行うことができる。氷結晶化阻害活性が強いほどこの氷結晶の平均面積は小さくなることから、この数値を指標として、植物抽出物の氷結晶化阻害活性を定量的に評価することができる。対照に比べて、氷結晶化阻害物質を添加したときに氷結晶の形成が少しでも阻害されれば、氷結晶化阻害活性を有すると判断する。
【0050】
本発明の氷結晶化阻害物質におけるタンパク質量の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えばLowry法やビシンコニン酸(BCA)法、Bradford法(Coomassie法)などの公知の方法にて行うことができる。標準タンパク質としては、特に限定されないが、例えばウシ血清アルブミン(BSA)を好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献および非特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0052】
製造例1 抽出
カイワレダイコン抽出物乾燥粉末300mgをTris−HCl(5mM,pH8.0)60mlに溶解し、粗抽出液とした。
【0053】
製造例2 遠心分離
製造例1で得られた粗抽出液60mlを300ml容ビーカーに入れ、ウォーターバス(EYELA社製)を用いて50℃で30分間熱処理した後、15分間遠心分離を行った(10,000×g)。遠心分離後の上清を回収した。
【0054】
製造例3 アセトン分画
製造例2で得られた遠心分離後の上清56mlに−30℃に冷やしたアセトンを少量ずつ滴下し、終濃度が30容量%となるまで加え続けた。15分間遠心分離を行い(10,000×g)、沈殿物を回収した。得られた沈殿物を凍結乾燥し、Tris−HCl(5mM,pH8.0)6mlに溶解した。
【0055】
製造例4 イオン交換カラムクロマトグラフィー
製造例3で得られた濃縮液をTris−HCl緩衝液(10mM,pH8.0)50mlでメスアップした。この溶液50mlを同緩衝液で平衡化したDEAEカラム(1.6×10cm,GEヘルスケア社製)にチャージし、0〜0.5MのNaCl勾配をつけて、流速5ml/minの条件で溶出し、吸着画分を回収した。
【0056】
製造例5 ゲル濾過カラムクロマトグラフィー
上記製造例4で得られたDEAE非吸着の活性画分52mlの溶媒を、Tris−HCl(5mM,pH8.0)2mlに置換した。この溶液をゲル濾過カラム(Superdex200,GEヘルスケア社製)にチャージし、流速1.3ml/minの条件で溶出した。その結果、25kDa付近にピークが見られるタンパク質が得られた。
【0057】
試験例1 タンパク質濃度と氷結晶化阻害活性の測定
製造例1〜4のそれぞれの溶液について、タンパク質濃度と氷結晶化阻害活性を測定した。
【0058】
(1)タンパク質濃度の測定
BCA法により行った。
【0059】
(2) 氷結晶化阻害活性の測定
製造例1〜4のそれぞれの溶液に、30w/v%の割合でショ糖を加えた。冷却調節機能が付いたステージを有する顕微鏡下で、当該溶液を−40℃に冷却した後に−6℃まで温度を上げ、−6℃を保った状態で30分間顕微鏡により観察した氷結晶の平均面積を測定した。対照として、30w/v%ショ糖溶液を同様に測定した。結果を表1に示す。なお、表中の値は対照の氷結晶面積を1.0とした時の相対面積を示しており、この氷結晶の平均面積が小さいほど、氷結晶化阻害活性が強いことを示している。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より、製造例4のタンパク質あたりの活性は製造例1の活性より上昇しており、氷結晶化阻害物質が濃縮されたことは明らかである。
【0062】
試験例2 SDS−PAGEによる分子量測定
製造例4のDEAEカラムクロマトグラフィー活性画分を、SDS−ポリアクリルアミドゲル(12.5%ゲル,アトー社製)を用い、20mAにて90分間電気泳動した。電気泳動後のゲルを銀染色し、タンパク質のバンドを視覚化した。ゲルの染色結果から、約19kDa、約22kDaおよび約59kDaのタンパク質が含まれていることが確認された。
【0063】
試験例3 アミノ酸配列の決定
試験例2で得られた精製カイワレ不凍タンパク質50μgを含む溶液20μlとサンプルバッファー(ATTO社製,EzApply)20μl(溶量比1:1)とを混合し、99℃で3分間熱処理を行った。15%ポリアクリルアミドゲル(ATTO株式会社製,e‐Pagel)にサンプルをアプライし、20mAで90分間SDS−PAGEを行った。セミドライ法にてSDS−PAGE後のゲルをPVDF膜(ミリポア社製,イモビロンPSQ)に転写し、CBB染色を行った。染色されたスポットを切り出し、N末端アミノ酸配列をエドマン法により決定した(島津製作所製,プロテインシーケンサPPSQ−33A)。得られた配列は、以下のとおりであった。
【0064】
配列番号1(約19kDa):Gly−Phe−Glu−Ser−Thr−Lys−Cys−Met−Cys−Thr
配列番号2(約22kDa):Met−Ala−Lys−Glu−Ala−Gln−Lys−Cys−Gln−Cys
【0065】
一方、約59kDaのタンパク質は配列が得られなかった。これは、当該タンパク質のN末端が何らかの修飾を受けているためであると考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のものであり、且つ下記(1)〜(4)の何れかのタンパク質を少なくとも一つ含有することを特徴とする氷結晶化阻害物質。
(1) 配列番号1のアミノ酸配列を有し、且つSDS−PAGEで測定した分子量が19,000±200Daであるタンパク質
(2) 配列番号2のアミノ酸配列を有し、且つSDS−PAGEで測定した分子量が22,000±250Daであるタンパク質
(3) SDS−PAGEで測定した分子量が59,000±600Daであり、且つそのN末端が修飾を受けているタンパク質
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかのタンパク質のアミノ酸配列の1または複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたタンパク質であり、且つ氷結晶化阻害活性を有するタンパク質
【請求項2】
植物が、アブラナ科、セリ科、ユリ科およびキク科に属する植物からなる群より選ばれる1以上の植物、または、これらの類縁品種もしくは改良品種である請求項1に記載の氷氷結晶化阻害物質。
【請求項3】
アブラナ科に属する植物が、ハクサイ、ダイコン、ブロッコリー、チンゲンサイ、コマツナ、カブ、シロナ、野沢菜、広島菜、ミズナおよびマスタードからなる群より選ばれる1以上の植物、または、これらの類縁品種もしくは改良品種である請求項2に記載の氷結晶化阻害物質。
【請求項4】
アブラナ科に属する植物が、ダイコン(Raphanus sativus)、または、これの類縁品種もしくは改良品種である請求項3に記載の氷結晶化阻害物質。
【請求項5】
アブラナ科に属する植物がカイワレダイコンである請求項4に記載の氷結晶化阻害物質。
【請求項6】
アセトン分画において、アセトン濃度が30容量%の濃度で沈殿する画分に含まれるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の氷結晶化阻害物質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の氷結晶化阻害物質を解離して得られるものであり、且つ氷結晶化阻害活性を有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の氷結晶化阻害物質および/または請求項7に記載のポリペプチドと特異的に反応することを特徴とする抗体。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の氷結晶化阻害物質および/または請求項7に記載のポリペプチドを含む組成物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の氷結晶化阻害物質および/または請求項7に記載のポリペプチドを含む食品。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の氷結晶化阻害物質および/または請求項7に記載のポリペプチドを含む生体試料保護剤。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の氷結晶化阻害物質および/または請求項7に記載のポリペプチドを含む化粧品。

【公開番号】特開2011−231089(P2011−231089A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105847(P2010−105847)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(505453789)有限会社ビック・ワールド (3)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】