説明

氷蓄熱装置

【目的】 過冷却解消部と蓄熱槽とが分離して配設された氷蓄熱装置に対し、熱損失を伴う手段を用いることなく、熱交換器への氷の進展を抑制する。
【構成】 過冷却解消部(6)の上流側に、管内壁面の形状を変化させる変形部を(7)を備えさせる。前記過冷却解消部(6)の周辺部において循環路(2)の配管内壁に付着した氷が過冷却解消部(6)の周辺部から上流側に向って進展したとき、前記変形部(7)の管内部への膨出による管内壁を変形させて前記氷を剥離させて熱交換器(5)に氷が進展することを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、氷蓄熱装置に係り、特に、水又は水溶液を過冷却状態まで冷却した後、この過冷却状態を解消することによってスラリー状の氷を生成し、該氷を蓄熱槽内に貯留するようにしたものに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、空気調和装置等に設けられている氷蓄熱装置として、冷房負荷のピーク時における電力需要の軽減及びオフピーク時における電力需要の拡大を図ることに鑑みて、例えば、実開平2−34925号公報に開示されるように、冷房負荷のピーク時における冷熱として利用するためのスラリー状の氷を冷房負荷のオフピーク時に生成して蓄熱槽に貯留しておく所謂ダイナミック型の氷蓄熱装置が知られている。
【0003】この種の氷蓄熱装置の一例について説明すると、図9に示すように、水の循環路(a)に、蓄熱槽(b)、ポンプ(c)、熱交換器(d)及び過冷却解消部(e)を備えさせる。そして、図9に矢印で示すように、ポンプ(c)によって蓄熱槽(b)内に貯留されている水を取出して熱交換器(d)に送込み、該熱交換器(d)によってこの水を過冷却状態まで冷却する。その後、この水を過冷却解消部(e)に導入して撹拌などの手段によって過冷却状態を解消させてスラリー状の氷を生成する。そして、この生成された氷を蓄熱槽(b)に回収してこの蓄熱槽(b)に冷熱を蓄熱するようにしている。このように、この種の氷蓄熱装置にあっては過冷却解消部(e)において氷を生成するため、製氷時の冷凍機の効率が高いものである。また、水の代りに水溶液が採用される場合もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような氷蓄熱装置においては、水の過冷却度が大きい場合や循環路(a)における過冷却水の流量が小さいような場合には、図10に示すように、過冷却解消部(e)で生成された氷(I)が管内壁に付着し、この付着した氷の周辺において過冷却状態が解消し、このため氷(I)が水の流れの上流側に向って進展することがある。そして、この氷の進展が熱交換器(d)にまで達した場合には、該熱交換器(d)の冷却管表面に氷が付着することになって熱交換効率が大幅に低下してしまうと同時に冷却管の閉塞を招き熱交換器の破損の虞れさえあって、安定した製氷運転を行うことができないことになってしまう。
【0005】そこで、この氷の進展を防止するために、図10の如く熱交換器(d)と過冷却解消部(e)との間の循環路(a)の一部にヒータ(f)を備えさせて管壁を加熱しておき、該ヒータ(f)の配設位置において氷(I)を融解することによって進展する氷(I)が熱交換器(d)に達することがないようにして該熱交換器(d)への氷(I)の付着を抑制することが考えられる。
【0006】しかしながら、このような構成では、このヒータ(f)が配設されている部分の管壁を常に0℃以上に保っておく必要があり、この管壁部分では常に過冷却水が流れていることから、この部分を0℃に維持するためには多くの熱量を必要とする。このために、消費電力が大きくなってしまい、また、このヒータ(f)によって加熱された水は製氷に寄与しないことになるので製氷効率の低下に繋ってしまうといった不具合があった。
【0007】本発明は、これらの点に鑑みてなされたものであって、ヒータ等のような熱損失を伴う手段を用いることなく、熱交換器への氷の進展を抑制することができる構成を得ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明では、熱交換器に向って進展する氷に対して管路内形状を変更することによって、配管内壁に付着した氷を融解、剥離するような構成とした。具体的に請求項1記載の発明は、水又は水溶液と該水又は水溶液で生成されるスラリー状の氷とを貯蔵するための蓄熱槽(3)と、冷却装置に接続され、前記水又は水溶液を過冷却状態まで冷却するための熱交換器(5)と、該熱交換器(5)と前記蓄熱槽(3)との間で前記水又は水溶液を強制循環させるための循環路(2)と、該循環路(2)における熱交換器(5)の下流側に配設され、前記熱交換器(5)で冷却された前記水又は水溶液の過冷却状態を解消させて前記水又は水溶液を相変化させてスラリー状の氷にする過冷却解消手段(6)とを備えた氷蓄熱装置を前提としている。そして、前記熱交換器(5)の下流側で且つ前記過冷却解消手段(6)の上流側に、該過冷却解消手段(6)の周辺部から循環路(2)の上流側に向って進展する氷(I)を管内壁面から剥離するように管内壁面形状を変化させる管内壁面変形手段(7)を設けるような構成としている。
【0009】請求項2記載の発明は、前記請求項1記載の氷蓄熱装置において、管内壁面変形手段(7)に、氷(I)の進展が発生したとき、循環路(2)内の水又は水溶液が充填されることによって管内部に向って膨出して管内壁面形状を変化させて循環路(2)の流路面積を小さくする樹脂膜(8)を備えさせるような構成としている。
【0010】請求項3記載の発明は、前記請求項1記載の氷蓄熱装置において、管内壁面変形手段(7)に、氷(I)の進展が発生したとき、該氷(I)の進展に伴う温度変化によって変形して管内壁面形状を変化させる形状記憶材料で成る変形管(7b)を備えさせるような構成としている。
【0011】請求項4記載の発明は、前記請求項1,2又は3記載の氷蓄熱装置において、管内壁面変形手段(7)の下流側で且つ過冷却解消手段(6)の上流側に、氷(I)の進展を検知する氷進展検知手段(11)を配設させる。そして、この氷進展検知手段(11)を、循環路(2)の配管内壁近傍の温度が過冷却温度から過冷却解消温度になった時に管内壁面変形手段(7)を作用させるような構成とする。
【0012】請求項5記載の発明は、前記請求項1,2又は3記載の氷蓄熱装置において、管内壁面変形手段(7)の下流側で且つ過冷却解消手段(6)の上流側に、氷(I)の進展を検知する氷進展検知手段を配設させる。そして、この氷進展検知手段を、電圧が印加された2つの電極(12),(13)を循環路(2)の延長方向に亘って配設し、この電極(12),(13)間を流れる電流が所定値以下に低下したとき、管内壁面変形手段(7)を作用させるような構成とする。
【0013】請求項6記載の発明は、前記請求項1,2,3,4又は5記載の氷蓄熱装置において、循環路(2)の少なくとも一部を2系統に分岐する。そして、各系統に管内壁面変形手段(7),(7´)を夫々配設し、一方の系統において製氷用の水又は水溶液が流通している状態にあっては、他方の系統にあっては、水又は水溶液が流通されないようにする。そして、この動作を所定時間をもって交互に繰返して行わせるような構成としている。
【0014】
【作用】上記の構成により、本発明では、以下に述べるような作用が得られる。請求項1記載の発明では、循環路(2)を強制循環している水又は水溶液が熱交換器(5)によって過冷却状態まで冷却され、この過冷却状態の水又は水溶液が過冷却解消手段(6)において相変化されてスラリー状の氷となる。その後、この氷は循環路(2)を流れて蓄熱槽(3)に達し、該蓄熱槽(3)に蓄冷熱として貯留される。このような製氷動作において、前記過冷却解消手段(6)の周辺部で循環路(2)の配管内壁に氷が付着し、この氷が上流側に向って進展するような場合、管内壁面変形手段(7)の作用によって管内壁面の形状が変化され、これによって、進展する氷は管内壁から剥離されることになる。従って、熱交換器(5)の冷却管表面に氷が付着して製氷能力が大幅に低下したり熱交換器が破損するようなことが回避されることになる。
【0015】請求項2記載の発明では、氷(I)の進展が発生すると、樹脂膜(8)に循環路(2)内の水又は水溶液が充填されて、この樹脂膜(8)は管内部に向って膨出して循環路(2)の流路面積を小さくする。このため、この流路面積が小さくされた部分で水又は水溶液の流速が上昇し、高速流が進展する氷に作用して該氷が剥離される。これにより、循環路(2)内の水又は水溶液を有効に利用して氷の進展を抑制することができる。
【0016】請求項3記載の発明では、氷(I)の進展が発生すると、この進展に伴う温度変化によって、形状記憶材料で成る変形管(7b)が変形して、進展する氷を剥離する。これにより、氷の剥離動作を確実に行うことができる。
【0017】請求項4記載の発明では、氷進展検知手段(11)の配設位置において過冷却水が流れている状態では、配管内壁近傍の温度が過冷却温度になっているために、該氷進展検知手段(11)は氷が進展していないことを検知し、一方、氷進展検知手段(11)の配設位置に氷が進展すると、配管内壁近傍の温度が過冷却解消温度になるので、該氷進展検知手段(11)によって氷の進展が検知されて、管内壁面変形手段(7)が駆動される。このため、氷が進展した時のみ管内壁面変形手段(7)を駆動させることができる。
【0018】請求項5記載の発明では、2つの電極(12),(13)間に過冷却水が流れている状態では、この電極(12),(13)間を流れる電流が所定値以上となっており、これによって氷が進展していないことを検知し、一方、2つの電極(12),(13)間に氷が進展すると、この電極(12),(13)間を流れる電流が所定値以下になり、これによって氷の進展が検知されて、管内壁面変形手段(7)が駆動される。このため、水と氷の電気抵抗の差を利用することによって氷の進展検知が確実に行える。
【0019】請求項6記載の発明では、2系統のうち一方の系統において製氷動作が行われている際には、他方の系統では、進展した氷で未だ剥離されていない残留した氷が常温に晒されていることによって融解される。そして、このような動作が交互に繰返して行われる。このため、製氷動作と残留した氷の融解動作とが個別の系統において同時に行われていることになるので、連続した製氷動作が可能になり、また、進展した氷の除去が確実に行える。
【0020】
【実施例】
(第1実施例)次に、本発明の第1実施例を図面に基づいて説明する。図1には本例の氷蓄熱装置(1)の全体構成を示している。この図1に示す如く、本例の氷蓄熱装置(1)は、水の循環路(2)に、蓄熱槽(3)、ポンプ(4)、熱交換器(5)、本発明でいう過冷却解消手段としての過冷却解消部(6)が備えられて成っている。以下、各部材について説明する。
【0021】蓄熱槽(3)は略立方体状の箱体であって、その内部には、水及びこの氷蓄熱装置によって生成されたスラリー状の氷が貯留されるようになっている。ポンプ(4)は、配管を介して前記蓄熱槽(3)の側面下端部に接続されており、蓄熱槽(3)内の下層部分に貯留されている水を取出すようになっている。また、熱交換器(5)は、前記ポンプ(4)から導入された水を過冷却状態まで冷却するものであって、本発明でいう冷却装置としての図示しない冷凍機に接続されている。そして、過冷却解消部(6)は前記熱交換器(5)において過冷却状態まで冷却された水の過冷却状態を、撹拌等の手段を用いて解消してこの水を相変化つまり氷化させるようになっている。また、前記循環路(2)の下流端は前記蓄熱槽(3)の上方に位置しており、過冷却解消部(6)において生成された氷を蓄熱槽(3)に貯留させるようにしている。
【0022】そして、本例の特徴とする構成の1つとして、前記熱交換器(5)の下流側で且つ過冷却解消部(6)の上流側に位置する配管には本発明でいう管内壁面変形手段としての変形部(7)が配設されている。以下、この変形部(7)及びその周辺の構成について説明する。この変形部(7)は、図2に示すように、管内壁の全周に亘って僅かな深さ寸法をもった凹部(7a)が形成されており、この凹部(7a)内に、該凹部(7a)の深さ寸法と略同寸法の厚さ寸法をもった薄肉で且つ伸縮性を有する樹脂膜(8)が配設されている。また、この樹脂膜(8)は水の流通方向の両端部分において、その全周が前記凹部(7a)の底面に接着されている。つまり、この樹脂膜(8)は、その中央部分にあっては、その全周が凹部(7a)の底面から離隔自在とされており、図3に示すように樹脂膜(8)が膨出された状態では該樹脂膜(8)の外周面が凹部(7a)の底面から離隔されるように成っている。また、図2に示すように樹脂膜(8)が膨出していない状態では、樹脂膜(8)の内周径は循環路配管(2a)の径と同一になっており、この樹脂膜(8)の配設位置において水の流通状態が変化しないようになっている。
【0023】そして、図1の如く、この変形部(7)には、前記ポンプ(4)の下流側に連通する連通管(9)が接続されており、この連通管(9)によって前記ポンプ(4)から導出された水が熱交換器(5)をバイパスして変形部(7)に導入されるようになっている。具体的には、この連通管(9)の下流端は前記凹部(7a)の底面に開口しており、これによって該凹部(7a)の底面と前記樹脂膜(8)との間に水が供給できるように構成されている。従って、この連通管(9)によって変形部(7)に水が供給されると、図3に示すように水が樹脂膜(8)内に充填されて該樹脂膜(8)が伸展して、配管内部空間に膨出するような構成とされている。また、前記連通管(9)には第1バルブ(9a)が介設されている。
【0024】更に、この変形部(7)には、前記凹部(7a)の底面と樹脂膜(8)との間に供給された水を排出するためのドレン管(10)が接続されている。そして、このドレン管(10)の下流端には第2バルブ(10a)が配設されている。
【0025】また、本例の氷蓄熱装置(1)では、図2に示すように、過冷却解消部(6)から上流側へ向って氷(I)が進展することを検知するための本発明でいう氷進展検知手段としての氷進展検知センサ(11)が設けられている。この氷進展検知センサ(11)は、前記変形部(7)の下流端から所定寸法を存した下流側に配設されていて、管内壁近傍の温度を検知しており、この検知している温度が氷点下温度から氷点温度になると、前記各バルブ(9a),(10a)に制御信号を発するように構成されている。つまり、この氷進展検知センサ(11)周辺に過冷却水が流れている場合には、氷が進展していないので制御信号の発信を行わず、図2に仮想線で示すように、氷(I)が進展して、この氷進展検知センサ(11)周辺に達すると制御信号の発信を行うようになっている。そして、前記各バルブ(9a),(10a)は、この制御信号を受けると、第1バルブ(9a)は開状態に、第2バルブ(10a)は閉状態に夫々作動されるような構成とされている。
【0026】次に、上述の如く構成された氷蓄熱装置(1)の製氷動作について説明する。先ず、第1バルブ(9a)及び第2バルブ(10a)を共に閉状態にしてポンプ(4)を駆動させて蓄熱槽(3)内に貯留されている水を取出して熱交換器(5)に送込む。また、このポンプ(4)の駆動開始と同時に図示しない冷凍機が駆動されて、該冷凍機から熱交換器(5)に送込まれた液冷媒が、この熱交換器(5)において水との間で熱交換を行って蒸発し、この熱交換器(5)において前記水が過冷却状態まで冷却される。その後、この過冷却状態となった水は、液相状態を保ったまま変形部(7)を経て過冷却解消部(6)に達する。そして、この過冷却解消部(6)に導入された過冷却状態の水は、撹拌などの手段によって過冷却状態が解消されて相変化し、スラリー状の氷となる。このようにして過冷却解消部(6)で生成されたスラリー状の氷は、この過冷却解消部(6)から更に下流側に流されて、蓄熱槽(3)に回収され、この蓄熱槽(3)に冷熱が蓄熱されることになる。
【0027】そして、このような製氷動作において水の過冷却度が大きい場合や循環路(2)における過冷却水の流量が小さいような場合には、過冷却解消部(6)で生成された氷が循環路(2)の管内壁に付着し、それが水の流れの上流側に向って進展することになる(図2の仮想線参照)。そして、このように氷(I)が進展するような場合、この進展してきた氷(I)が前記氷進展検知センサ(11)に達すると、該氷進展検知センサ(11)が制御信号を発し、第1バルブ(8a)が開状態とされてポンプ(4)から導出された水の一部が連通路(9)を経て図1に矢印Aで示すように、凹部(7a)と樹脂膜(8)との間の空間に供給される。これによって、図3に示すように、樹脂膜(8)の中央部分が全周に亘って伸展して配管内部空間に膨出されることになる。つまり、この変形部(7)における流路径が小径とされることになって、循環路(2)を流通する水の流速が上昇し、この水が高速流となって進展する氷(I)に向って流れることになる。これによって、進展していた氷(I)は、管内壁から剥離されて下流側へ流されて蓄熱槽(3)に回収される。このため、氷(I)の進展は変形部(7)の下流側までに止められ、熱交換器(5)にまで達するようなことはない。従って、熱交換器(5)の冷却管表面に氷が付着して製氷能力が大幅に低下したり熱交換器が破損したりするようなことが回避されることになって、安定した高効率の製氷動作を継続して行うことができる。また、この氷剥離動作の終了後には、第1バルブ(9a)を閉鎖すると共に第2バルブ(10a)を開放して樹脂膜(8)内の水を排出し、該樹脂膜(8)を再び図2の状態に戻すようにする。
【0028】このように本例の構成は、進展する氷(I)に水を高速流として作用させて、管内壁を進展する氷(I)を剥離するようにして氷の熱交換器(5)への進展を確実に防止して製氷能力を確保するようにしている。また、本例の構成では、循環路(2)内の水を有効に利用して氷の進展を抑制するようにしているので、配管構造の簡略化を図ることもできる。更に、本例の構成では、氷(I)が進展した時のみ進展抑制動作を行わせるようにしているので、無駄な動作が防止できて、効率の良い製氷動作を得ることができる。
【0029】(変形例)次に、請求項5記載の発明に係る変形例について説明する。本例は、氷の進展を検知する氷進展検知手段の変形例である。図4に示すように、変形部(7)の下流端から所定寸法を存した下流側に循環路(2)の延長方向に所定間隔を存して電極(12),(13)を配設し、この電極(12),(13)間に直流電源(14)より電圧を印加しておき、この電極(12),(13)間の電流を測定するような構成とする。具体的には、この電極(12),(13)間に抵抗(R)を介設しておき、この抵抗(R)両端間の電圧を測定する。そして、この電圧が所定値以下になった時に、各バルブ(9a),(10a)に制御信号を発するように構成されている。つまり、この電極(12),(13)に氷が進展しておらず各電極(12),(13)周辺に過冷却水が流れている場合には、電極(12),(13)間の電気抵抗が小さく、一方、氷(I)が進展して、図4に仮想線で示すように、この電極(12),(13)が氷(I)で覆われた際に該電極(12),(13)間の電気抵抗が大きくなり、これに伴って電極(12),(13)間の電流が低下すると各バルブ(9a),(10a)への制御信号の発信を行うような構成とされている。つまり、水と氷との電気抵抗の差を利用して氷の進展を検知するような構成となっている。
【0030】(第2実施例)次に、請求項3記載の発明に係る第2実施例について説明する。本例は、氷進展防止部(7)の変形例であるので、その特徴とする構成のみについて述べるに止める。図5〜図7に示すように、本例の変形部(7)は、氷進展検知手段を兼用した本発明でいう形状記憶材料としての形状記憶樹脂で成る変形管(7b)を備えて成っている。つまり、この変形管(7b)は、雰囲気温度が氷点温度になると収縮して図7R>7に示すような蛇腹形状を呈するように成っており、それ以外の温度では図6に示すような直管形状を呈するように構成されている。また、この変形管(7b)にはスライド機構(7c)が接続されており、このスライド機構(7c)のスライド移動によって変形管(7b)の変形に伴う長さ寸法の変化が可能とされている。
【0031】従って、本例における氷進展防止動作としては、変形部(7)まで氷が進展すると、変形管(7b)周辺の雰囲気温度が過冷却温度から過冷却解消温度になるので、図7に示すように変形管(7b)が蛇腹状に収縮して管内壁面形状を変化させる。これによって、氷が管内壁面から剥離されて、循環路(2)を流れる水と共に蓄熱槽(3)に回収される。また、このようにして氷が剥離され、変形管(7b)周辺の雰囲気温度が過冷却解消温度から再び過冷却温度になると、変形管(7b)は図6に示すような直管状態に戻ることになる。このような動作が繰返して行われることによって変形部(7)よりも上流側に氷が進展されるようなことがなくなる。また、本例の構成では、上述した第1実施例で示したような連通管(9)やドレン管(10)が不要であるので構成の簡略化を図ることができる。
【0032】尚、本第2実施例において、変形作動温度が氷点温度以外の変形管(7b)を使用し、且つこの変形管(7b)と過冷却解消部(6)との間に上述したような氷進展検知センサ(11)を配設するような構成としてもよい。この場合には、変形管(7b)にヒータを備えさせておき、氷進展検知センサ(11)によって氷の進展が検知されると、ヒータを作動させて変形管(7b)を、その変形作動温度まで上昇させるようにして氷進展防止動作を行わせるようにする。
【0033】(第3実施例)次に、請求項6記載の発明に係る第3実施例について説明する。図8に示すように、本例の氷蓄熱装置(1)は、熱交換器(5)の下流側において循環路(2)が2系統に分岐されており、夫々に変形部(7),(7´)が配設されている。また、第1系統の変形部(7)の上流側には第3バルブ(15)が配設されている一方、第2系統の変形部(7´)の上流側には第4バルブ(16)が配設されている。また、各変形部(7),(7´)の下流側には上述したような氷進展検知センサ(図示省略)が配設されている。そして、循環路(2)は氷進展検知センサの下流側において合流されて再び1系統となり、過冷却解消部(6)に接続されている。また、変形部(7),(7´)の構成としては、上述した第1実施例や第2実施例に示したような構成が採用されている。
【0034】そして、本氷蓄熱装置(1)の製氷時には、先ず、第3バルブ(15)が開状態、第4バルブ(16)が閉状態にされ、製氷用の水は第1系統にのみ供給され(矢印B参照)、この第1系統の変形部(7)を経て過冷却解消部(6)に供給されて所定の製氷が行われる。そして、この場合、氷の進展が発生すると、該氷は第1系統を上流側に向って進展することになるので、この第1系統の変形部(7)の変形動作によって氷が剥離されることになる。そして、このような動作が所定時間行われた後、バルブ(15),(16)が切替えられて第2系統による製氷動作が開始される。つまり、第3バルブ(15)が閉状態、第4バルブ(16)が開状態にされ、製氷用の水は第2系統にのみ供給され(矢印C参照)、この第2系統の変形部(7´)を経て過冷却解消部(6)に供給されて所定の製氷が行われる。そして、この場合、氷の進展が発生すると、該氷は第2系統を上流側に向って進展することになるので、この第2系統の変形部(7´)の変形動作によって氷が剥離されることになる。そして、このような第2系統による製氷動作が行われている間、第1系統には過冷却水が流通されないので、この第1系統において進展していた氷で未だ剥離されていないものは常温に晒されることになって自然融解されることになる。
【0035】そして、このような動作が所定時間をもって交互に繰返して行われることによって第1系統、第2系統共に進展する氷を有効に除去することができて、高い製氷効率でもって製氷動作を行わせることができることになる。
【0036】尚、上述した各実施例では、水によって氷を生成するようにしていたが、循環路(2)にブライン等の低濃度水溶液を流通させるようにしてもよい。
【0037】
【発明の効果】上述してきたように、本発明によれば、以下に述べるような効果が発揮される。請求項1記載の発明によれば、熱交換器(5)の下流側で且つ前記過冷却解消手段(6)の上流側に、管内壁面形状を変化させる管内壁面変形手段(7)を設けるような構成とし、過冷却解消手段(6)の周辺部で循環路(2)の配管内壁に氷が付着し、この氷が上流側に向って進展するような場合、管内壁面の形状を変化させて進展する氷を管内壁から剥離するようにしたために、熱交換器(5)の冷却管表面に氷が付着して製氷能力が大幅に低下するようなことが回避され、従来のヒータ等のような熱損失を伴う手段を用いることなく、熱交換器への氷の進展を抑制することができ、また、熱交換器の冷却管の閉塞が防止されて、その破損の防止を図ることもできる。
【0038】請求項2記載の発明によれば、管内壁面変形手段(7)に、氷(I)の進展が発生したとき、循環路(2)内の水又は水溶液が充填されることによって管内部に向って膨出して管内壁面形状を変化させて循環路(2)の流路面積を小さくする樹脂膜(8)を備えさせるような構成とし、流路面積が小さくされた部分で水又は水溶液の流速を上昇させて、高速流を進展する氷に作用させ該氷を剥離するようにしたために、循環路(2)内の水又は水溶液を有効に利用して氷の進展を抑制することができ、構造の簡略化を図ることができる。
【0039】請求項3記載の発明によれば、管内壁面変形手段(7)に、氷(I)の進展が発生したとき、該氷(I)の進展に伴う温度変化によって変形して管内壁面形状を変化させる形状記憶材料で成る変形管(7b)を備えさせるような構成とし、氷の進展に伴う温度変化によって、形状記憶材料で成る変形管(7b)を変形させて進展する氷を剥離するようにしたために、氷の剥離動作を確実に行うことができ、装置の信頼性の向上を図ることができる。
【0040】請求項4記載の発明によれば、過冷却解消手段(6)の上流側に、氷(I)の進展を検知する氷進展検知手段(11)を配設し、該氷進展検知手段(11)を、循環路(2)の配管内壁近傍の温度が過冷却温度から過冷却解消温度になった時に管内壁面変形手段(7)を作用させるような構成としたために、氷が進展した時のみ管内壁面変形手段(7)を駆動させることができ、該管内壁面変形手段(7)の無駄な動作が防止できて、効率の良い製氷動作を得ることができる。
【0041】請求項5記載の発明によれば、過冷却解消手段(6)の上流側に、氷(I)の進展を検知する氷進展検知手段を配設し、該氷進展検知手段を、電圧が印加された2つの電極(12),(13)を循環路(2)の延長方向に亘って配設して成し、この電極(12),(13)間の電流が所定値以下に低下したとき、管内壁面変形手段(7)を作用させるような構成としたために、水と氷の電気抵抗の差を利用することによって氷の進展検知を確実に行うことができる。
【0042】請求項6記載の発明によれば、循環路(2)の2系統のうち一方の系統において製氷動作が行われている際には、他方の系統では、進展した氷で未だ剥離されていない残留した氷を常温に晒して融解するようにしているために、製氷動作と残留した氷の融解動作とが個別の系統において同時に行われていることになるので、連続した製氷動作が可能になり、また、進展した氷の除去を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例における氷蓄熱装置の配管系統図である。
【図2】変形部周辺の縦断面図である。
【図3】変形部の作動状態を示す縦断面図である。
【図4】氷進展検知手段の変形例を示す図である。
【図5】第2実施例における氷蓄熱装置の配管系統図である。
【図6】変形部周辺の縦断面図である。
【図7】変形部の作動状態を示す縦断面図である。
【図8】第3実施例における氷蓄熱装置の配管系統図である。
【図9】従来例における氷蓄熱装置の配管系統図である。
【図10】従来の氷進展抑制構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
(1) 氷蓄熱装置
(2) 循環路
(3) 蓄熱槽
(5) 熱交換器
(6) 過冷却解消部(過冷却解消手段)
(7) 変形部(管内壁面変形手段)
(8) 樹脂膜
(11) 氷進展検知センサ(氷進展検知手段)
(12),(13) 電極(氷進展検知手段)
(I) 氷

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水又は水溶液と該水又は水溶液で生成されるスラリー状の氷とを貯蔵するための蓄熱槽(3)と、冷却装置に接続され、前記水又は水溶液を過冷却状態まで冷却するための熱交換器(5)と、該熱交換器(5)と前記蓄熱槽(3)との間で前記水又は水溶液を強制循環させるための循環路(2)と、該循環路(2)における熱交換器(5)の下流側に配設され、前記熱交換器(5)で冷却された前記水又は水溶液の過冷却状態を解消させて前記水又は水溶液を相変化させてスラリー状の氷にする過冷却解消手段(6)とを備えた氷蓄熱装置において、前記熱交換器(5)の下流側で且つ前記過冷却解消手段(6)の上流側には、該過冷却解消手段(6)の周辺部から循環路(2)の上流側に向って進展する氷(I)を管内壁面から剥離するように管内壁面形状を変化させる管内壁面変形手段(7)が設けられていることを特徴とする氷蓄熱装置。
【請求項2】 管内壁面変形手段(7)は、氷(I)の進展が発生したとき、循環路(2)内の水又は水溶液が充填されることによって管内部に向って膨出して管内壁面形状を変化させて循環路(2)の流路面積を小さくする樹脂膜(8)を備えて成っていることを特徴とする請求項1記載の氷蓄熱装置。
【請求項3】 管内壁面変形手段(7)は、氷(I)の進展が発生したとき、該氷(I)の進展に伴う温度変化によって変形して管内壁面形状を変化させる形状記憶材料で成る変形管(7b)を備えて成っていることを特徴とする請求項1記載の氷蓄熱装置。
【請求項4】 管内壁面変形手段(7)の下流側で且つ過冷却解消手段(6)の上流側には、氷(I)の進展を検知する氷進展検知手段(11)が配設されており、該氷進展検知手段(11)は、循環路(2)の配管内壁近傍の温度が過冷却温度から過冷却解消温度になった時に管内壁面変形手段(7)を作用させるように構成されていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の氷蓄熱装置。
【請求項5】 管内壁面変形手段(7)の下流側で且つ過冷却解消手段(6)の上流側には、氷(I)の進展を検知する氷進展検知手段が配設されており、該氷進展検知手段は、電圧が印加された2つの電極(12),(13)が循環路(2)の延長方向に亘って配設されており、この電極(12),(13)間を流れる電流が所定値以下に低下したとき、管内壁面変形手段(7)を作用させるように構成されていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の氷蓄熱装置。
【請求項6】 循環路(2)の少なくとも一部は2系統に分岐されており、各系統に管内壁面変形手段(7),(7´)が夫々配設されており、一方の系統において製氷用の水又は水溶液が流通している状態にあっては、他方の系統にあっては、水又は水溶液が流通されないようになっており、この動作が所定時間をもって交互に繰返して行われるように構成されていることを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の氷蓄熱装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平5−340563
【公開日】平成5年(1993)12月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−145600
【出願日】平成4年(1992)6月5日
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)