説明

永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機および風力発電装置

【課題】 低速回転でも十分に大きな出力電圧を得ることができ、安価で保守性の高い発電機を提供する。
【解決手段】 円筒状をなす電機子巻線2を有する固定子1と、永久磁石4a、4b、5a、5bにより形成され電機子巻線に隣接して配置された同心の円筒状をなす界磁極を有する回転子3とを備える。界磁極は、同心状に配置された外側界磁極3cと内側界磁極3bから構成され、外側界磁極と内側界磁極の間の間隙内に電機子巻線が配置され、外側界磁極と内側界磁極との間に、前記電機子巻線の円筒壁に対して実質的に直交する方向の磁界であって、周方向において極性の反転を繰り返す多極磁界が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電やマイクロ水力発電等の、自然エネルギーを利用した低速回転の動力に適した発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電やマイクロ水力発電等に用いる発電機としては、ブラシやスリップリングを持たないメンテナンスフリーのアウターロータ、すなわち、永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機が主流になりつつある。アウターロータ発電機は、界磁束を作るための界磁電流を必要としないので、巻線型回転子に比べ損失が少なく、構造も簡素である。
【0003】
アウターロータ発電機の一例として、特許文献1に開示された発電機の構造を図5に示す。図5(a)は断面で示した平面図、(b)は断面で示した側面図である。この発電機は、環状の固定子20と、この環状の固定子20の外側に同心状に配置された円筒型の回転子21とから成る。固定子20は電気子巻線を有し、回転子21は、円周方向に永久磁石22を複数個並べて多極構成としたものである。
【0004】
回転子21を支持するために、回転子21の上部端面に支持枠23が一体的に固定され、一方、回転子軸24に貫通固定されたフランジ25が支持枠23と一体的に固定されている。それにより、回転子21、支持枠23、回転子軸24、フランジ25が一体に形成されている。回転子軸24の下端部にスラスト軸受26を設置することにより、回転子21の推力がスラスト軸受26で支えられ、回転子21は回転自在に支持されている。環状の固定子20は、ブラケット27を介して台座部に支持されている。ブラケット28により、スラスト軸受26が支持されている。回転子軸24は、図示しないガイド軸受により支持されている。
【特許文献1】特開2003−286938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、サボニウス型垂直軸風車やセルウィング水平軸風車など抗力型の風車を動力とする場合、風速比すなわち風速に対する回転数が小さく低速回転であるため、上記従来の発電機では、十分な出力電圧を得ることができない。そのため、このような風車に対しては、機械的な増速機や電気的な昇圧回路が必要となり、保守性の低下や製造コストの増加を招く原因となっていた。
【0006】
本発明は、低速回転でも十分に大きな出力電圧を得ることができ、機械的な増速機や電気的な昇圧回路を必要とすることなく、安価で保守性の高い発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機は、円筒状をなす電機子巻線を有する固定子と、永久磁石により形成され前記電機子巻線に隣接して配置された同心の円筒状をなす界磁極を有する回転子とを備え、前記界磁極は、同心状に配置された外側界磁極と内側界磁極から構成され、外側界磁極と内側界磁極の間の間隙内に前記電機子巻線が配置され、前記外側界磁極と内側界磁極との間に、前記電機子巻線の円筒壁に対して実質的に直交する方向の磁界であって、周方向において極性の反転を繰り返す多極磁界が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、最も周速度の速い外周部に界磁極を配置でき、電機子巻線は界磁極との間で周面を近接して対向させた状態になるので、界磁極の磁束と電機子巻線が効果的に鎖交する状態が得られる。また、界磁極が電機子巻線を挟む状態になっているので、電機子巻線が形成する円筒壁に直交する磁束は十分に集中して、強い磁界が形成される。従って、低速回転でも十分に大きな出力電圧を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機において、前記電機子巻線の各巻線の主要部が、前記回転子の回転軸方向に配列されていることが好ましい。巻線の主要部とは、巻線を形成するために不可避的に形成される折曲部等の部分を除き、界磁極からの磁束と鎖交させるために配置された、電機子巻線としての本来の機能を果たす部分を意味する。
【0010】
また好ましくは、前記外側界磁極と内側界磁極を形成する前記永久磁石は、円筒の径方向にN極とS極が配列されている。
【0011】
また好ましくは、前記回転子と前記固定子は、スラスト軸受けを介して、互いに回転自在に結合された構成とする。前記スラスト軸受けは、少なくとも前記回転子における前記界磁極の二重壁間の間隙の底部と、前記固定子における前記電機子巻線が設けられた円筒壁の端面との間に配置された構成とすることができる。
【0012】
また好ましくは、前記電機子巻線は、フィルム状に樹脂モールドされた構成とする。
【0013】
本発明の風力発電装置は、前記タワーの上部に設置された風車と、前記タワーのいずれかの位置に設置された発電機と、前記風車の回転軸の回転を前記発電機の回転子に伝達する回転伝達機構とを備え、前記発電機として上記構成の回転界磁型の同期発電機を用いたた構成とする。
【0014】
以下本発明の実施の形態における永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機について、図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態における回転界磁型の同期発電機の構造を示す断面図である。図2は、同発電機の平面構造を断面で示した平面図である。
【0016】
固定子1は、全体として概略円筒形状をなし、円板部1aと環状部1bとからなる。環状部1bには、電機子巻線2が固定されている。電機子巻線2は、主として固定子1の円筒形状の軸方向に延在するように配置され、フィルム状に樹脂モールドされている。回転子3も全体として円筒形状をなし、円板部3aと、二重の円筒状界磁極を形成する内側環状部3b、及び外側環状部3cとからなる。内側環状部3b、及び外側環状部3cは、固定子1の環状部1bに対して、それぞれ内周面及び外周面に対向して配置されている。すなわち、固定子1の環状部1bが、回転子3の内側環状部3bと外側環状部3cの間の間隙内に挟まれて配置されている。内側環状部3b、外側環状部3cにはそれぞれ、界磁極を形成する永久磁石4a、4b、5a、5bが固定されている。永久磁石4a、4b、5a、5bとしては、例えばネオジウム磁石等を用いることができる。
【0017】
図2に示すように、電機子巻線2を挟んで対向する、内側環状部3bの永久磁石4aと、外側環状部3cの永久磁石5aとは、各々S極及びN極を互いに対向させている。従って、内側環状部3bと外側環状部3cとの間に、電機子巻線2に直交する方向に貫通する磁界、すなわち径方向磁界が形成されている。そして、内側環状部3bにおいては、隣接する永久磁石4aと4bが、交互にS極とN極を繰り返して配列され、外側環状部3cにおいても、隣接する永久磁石5a、5bが、交互にN極とS極を繰り返して配列されているので、円周方向において向きが交互に反転する径方向磁界が形成されて、多極構造となっている。通常、抗力型の風車の回転数は1分間に数10回転程度の低速であるため、回転子の界磁極を多極構造にして、固定子の電機子巻線から誘起される交流電力の周波数を高めることが望ましい。
【0018】
なお、永久磁石4a、4b、5a、5bの磁極は、回転子3の径方向に配列されれいる。永久磁石4a、4bの電機子巻線2に対向する側の磁極は、それぞれS極、N極であり、電機子巻線2から遠い側が、それぞれN極、S極である。同様に永久磁石5a、5bの電機子巻線2に対向する側は、それぞれN極、S極であり、電機子巻線2から遠い側が、それぞれS極、N極である。
【0019】
この界磁極および電機子巻線の構造においては、電機子巻線2の各巻線は、回転子3の回転軸方向に延在している部分が多いので、界磁極からの磁束と鎖交する長さが十分に長く、発電の効率上有利である。
【0020】
回転子3と固定子1とは、スラスト軸受け6a、6bを介して、互いに回転自在に結合されている。上側のスラスト軸受け6aは、回転子3における内側環状部3bと外側環状部3cの二重壁間の間隙の底部と、固定子1における環状部1bの上端面との間に配置されている。下側のスラスト軸受け6bは、固定子1における環状部1bの下端面と、回転子3における外側環状部3cの下端部との間に配置されている。スラスト軸受け6bを保持するために、外側環状部3cの下端部には、軸受け支持部材7が、例えばボルト等の固定部材8により固定されている。それにより、環状部1bの下端面と、軸受け支持部材7の間に、スラスト軸受け6bが保持されている。回転子3の内側環状部3bの内部は、中空の内部空間9を形成している。
【0021】
以上のような構成の回転界磁型の同期発電機によれば、回転子3の界磁極が、発電機全体の円筒形状の最外周部において、固定子1の電機子巻線2を挟んで配置されている。従って、界磁極の周速が最も大きい状態を、すなわち、界磁極と電機子巻線2の相対速度が最も大きい状態を得ることができる。しかも、界磁極が形成する磁界は、内側環状部3bと外側環状部3cの間の間隙を隔てて近接して対向する永久磁石4a、4b、5a、5bにより形成されるので、電機子巻線2に直交する径方向磁界として、磁束が十分に集中した状態が得られる。従って、これに鎖交する電機子巻線2には、低速回転でも十分に大きな起電力が発生し、大きな出力電圧を得ることができる。
【0022】
さらに、回転子3の内側環状部3bと外側環状部3cの直径を大きくしても、回転子3の内部空間9は中空であるため、内部空間9における質量が増大することはない。従って、回転子3の回転駆動負荷の増大をそれ程伴わずに、回転子3の直径を大きくし、回転子3の界磁極の磁束と電機子巻線2が鎖交する速度を高めて、容易に出力電圧を高めることができる。
【0023】
さらに、発電機の高さhを、発電機半径rに対して大きくとることも容易である。それにより、電機子巻線2における磁束に直交する巻線長さを、発電機半径rに依存することなく大きくとることができ、発電電圧を容易に高めることが可能となる。
【0024】
回転子3と固定子1とを、スラスト軸受け6a、6bを介して結合した構造は、軸ぶれに強いので、大型化の際の構造として有利である。また、図1に示すように、回転軸を持たない構造とすれば、発電機を風車のブレードとを一体化した構造を容易に実現できる。すなわち、回転子3に直接ブレードを結合させて構造とすればよい。但し、必要に応じて、後述する図3、4に示すような回転軸を有する構造としてもよい。
【0025】
本実施の形態における発電機は、例えば、図1に示す回転子3の半径rを100〜300mm、高さhを50〜300mmとすることができる。その場合、電機子巻線2の線幅(線の太さ)は、例えば0.1〜0.5mmとし、フィルム状に樹脂モールドしたものを用いることができる。界磁極を形成する磁石の周方向における配列は、36〜48極とすることが好ましい。
【0026】
図3に、上記構成の発電機を用いた風力発電装置の構造の一例を示す。この風力発電装置は、基礎部から垂直に建てられたタワー10と、タワー10の頂上部に設置された垂直軸型風車であるサボニウス式風車11とを備えている。風車11のブレードが固定された回転軸12の回転力により発電機13が駆動される。発電機13は、図1及び2に示したものと同様の構成を有する。なお、発電機13から出力される交流電力を送電するための電力ケーブル、変圧器、スイッチ等の変電機器等は、図示が省略されている。
【0027】
タワー10の頂上部を拡大して、図4に示す。タワー10の先端にブラケット14が設置され、ブラケット14上に、発電機13の固定子1が固定されている。回転軸12の下端に発電機13の回転子3が固定されている。従って、回転軸12の回転に伴い回転子3が回転して、固定子1の電機子巻線2に対する界磁極の相対的な運動が発生し、発電が行われる。
【0028】
なお、図3及び図4の風力発電装置においては、発電機13は、回転子3の回転軸が垂直方向になるように配置されているが、回転軸が水平方向になるように発電機を配置することもできる。その場合は、サボニウス式風車11に代えて、回転軸が水平方向に配置されるプロペラ式風車を用いることもできる。
【0029】
さらに、本発明の発電機は、風力発電装置に限らず、水力発電装置や、その他の自然エネルギーを利用した低速回転の動力に有効に適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機は、風力発電やマイクロ水力発電等の、自然エネルギーを利用した低速回転の動力に適した発電機として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態における永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機の構造を示す断面図
【図2】同発電機の平面構造を断面で示した平面図
【図3】同発電機を用いた風力発電機を示す正面図
【図4】同風力発電機の要部を示す断面図
【図5】従来のアウターロータ発電機の一例を示し、(a)は断面で示した平面図、(b)は断面で示した側面図
【符号の説明】
【0032】
1 固定子
1a 円板部
1b 環状部
2 電機子巻線
3 回転子
3a 円板部
3b 内側環状部
3c 外側環状部
4a、4b、5a、5b 永久磁石
6a、6b スラスト軸受け
7 軸受け支持部材
8 固定部材
9 内部空間
10 タワー
11 風車
12 回転軸
13 発電機
14 ブラケット
20 固定子
21 回転子
22 永久磁石
23 支持枠
24 回転子軸
25 フランジ
26 スラスト軸受
27、28 ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状をなす電機子巻線を有する固定子と、永久磁石により形成され前記電機子巻線に隣接して配置された同心の円筒状をなす界磁極を有する回転子とを備えた永久磁石を用いた回転界磁型の同期発電機において、
前記界磁極は、同心状に配置された外側界磁極と内側界磁極から構成され、外側界磁極と内側界磁極の間の間隙内に前記電機子巻線が配置され、
前記外側界磁極と内側界磁極との間に、前記電機子巻線の円筒壁に対して実質的に直交する方向の磁界であって、周方向において極性の反転を繰り返す多極磁界が形成されていることを特徴とする回転界磁型の同期発電機。
【請求項2】
前記電機子巻線の各巻線の主要部が、前記回転子の回転軸方向に配列されている請求項1に記載の回転界磁型の同期発電機。
【請求項3】
前記外側界磁極と内側界磁極を形成する前記永久磁石は、円筒の径方向にN極とS極が配列されている請求項1に記載の回転界磁型の同期発電機。
【請求項4】
前記回転子と前記固定子は、スラスト軸受けを介して、互いに回転自在に結合されている請求項1に記載の回転界磁型の同期発電機。
【請求項5】
前記スラスト軸受けは、少なくとも前記回転子における前記界磁極の二重壁間の間隙の底部と、前記固定子における前記電機子巻線が設けられた円筒壁の端面との間に配置されている請求項4に記載の回転界磁型の同期発電機。
【請求項6】
前記電機子巻線は、フィルム状に樹脂モールドされている請求項1に記載の回転界磁型の同期発電機。
【請求項7】
タワーと、前記タワーの上部に設置された風車と、前記タワーのいずれかの位置に設置された発電機と、前記風車の回転軸の回転を前記発電機の回転子に伝達する回転伝達機構とを備えた風力発電装置において、
前記発電機は、請求項1に記載の回転界磁型の同期発電機により構成されたことを特徴とする風力発電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−94645(P2006−94645A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277683(P2004−277683)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】