説明

永久磁石同期電動機のd軸電流を制御するモータ制御装置

【課題】過熱による永久磁石同期電動機の永久磁石の熱減磁が生じる事態を回避することができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】q軸電流及びd軸電流検出部11は、q軸電流Iq及びd軸電流Idを、U相電流IU、V相電流IV及びW相電流IW及びロータ52の回転角度θに基づいて検出する。q軸電流指令値生成部12は、q軸電流指令値Iqcomを速度指令値ωcomに基づいて生成する。d軸電流指令値生成部13は、永久磁石同期電動機5の定常時における永久磁石54a,54b,54c,54dの温度上昇量が最小になるd軸電流指令値Idcomを、ロータ52の回転速度ωに基づいて生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線と永久磁石のうちの一方が設けられた固定子及びその他方が設けられた可動子を有する永久磁石同期電動機のトルクを迅速かつ安定して生成するために、永久磁石同期電動機のq軸電流及びd軸電流を独立に制御するベクトル制御を行うモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベクトル制御を行うモータ制御装置は、例えば、電源(例えば、三相交流電源)からの交流電圧がコンバータ、平滑コンデンサ及びインバータを通じて印加される電動機を制御する。この場合、モータ制御装置は、電動機に流れる電流(例えば、U相電流、V相電流及びW相電流)及び電動機の可動子(例えば、ロータ)の位置(例えば、回転角度)に基づいて永久磁石同期電動機のq軸電流及びd軸電流を検出するとともに、上位制御回路(例えば、CNC(数値制御装置))等からの各種指令等に基づいてq軸電流指令値及びd軸電流指令値を生成する。そして、モータ制御装置は、検出したq軸電流とq軸電流指令値との差並びに検出したd軸電流とd軸電流指令値との差に基づいてPWM信号を生成し、電動機を駆動するためにPWM信号をインバータに出力する。
【0003】
従来、ベクトル制御を行うモータ制御装置において、鉄損が大きくなる高速時でも電動機を高効率で駆動できるようにするために、電動機の鉄損と銅損との合計が最小となるようなd軸電流指令値を生成するモータ制御装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−236948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固定子(例えば、ステータ)と可動子(例えば、ロータ)のうちのいずれか一方に永久磁石を設けた永久磁石同期電動機をモータ制御装置によって制御する場合、過熱による永久磁石の熱減磁が生じ、永久磁石電動機がトルクを迅速かつ安定して生成することができなくなることがある。したがって、過熱による永久磁石の熱減磁が生じる事態を回避するために、永久磁石同期電動機の定常時における永久磁石の温度上昇量をできるだけ小さくする必要がある。
【0006】
しかしながら、鉄損と銅損との合計が最小となるようなd軸電流指令値を生成する従来のモータ制御装置では、永久磁石を設けた固定子又は可動子に損失が集中した場合、永久磁石が過熱状態となり、永久磁石の熱減磁が生じることがある。
【0007】
本発明の目的は、過熱による永久磁石同期電動機の永久磁石の熱減磁が生じる事態を回避することができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるモータ制御装置は、巻線と永久磁石のうちの一方が設けられた固定子及びその他方が設けられた可動子を有する永久磁石同期電動機のq軸電流及びd軸電流を、永久磁石同期電動機に流れる第1の相の電流、第2の相の電流及び第3の相の電流のうちの少なくとも二つ及び可動子の位置に基づいて検出するq軸電流及びd軸電流検出部と、q軸電流指令値を可動子に対する速度指令値に基づいて生成するq軸電流指令値生成部と、永久磁石同期電動機の定常時における永久磁石の温度上昇量が最小になるd軸電流指令値を、可動子の速度に基づいて生成するd軸電流指令値生成部と、永久磁石同期電動機を、q軸電流、d軸電流、q軸電流指令値及びd軸電流指令値に基づいて駆動する駆動部と、を備える。
【0009】
好適には、永久磁石の温度上昇量が最小になるd軸電流指令値は、d軸電流の値に応じて変化する永久磁石の温度上昇量の関数に基づいて設定され、d軸電流の値に応じて変化する永久磁石の温度上昇量の関数は、可動子の速度ごとに設定される。
【0010】
好適には、永久磁石の温度上昇量が最小になるd軸電流指令値は、可動子の速度に応じて変化するd軸電流の値の関数に基づいて設定される。
【0011】
好適には、可動子の速度に応じて変化するd軸電流の値の関数は、永久磁石同期電動機の渦電流損及び銅損に基づいて設定される。
【0012】
好適には、可動子の速度に応じて変化するd軸電流の値の関数は、可動子の速度ごとに測定された永久磁石の温度に基づいて設定される。
【0013】
好適には、可動子の速度に応じて変化するd軸電流の値の関数は、少なくとも一つの直線によって近似される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、永久磁石同期電動機の定常時における永久磁石の温度上昇量が最小になるd軸電流指令値を、可動子の速度に基づいて生成するので、永久磁石同期電動機の定常時における永久磁石の温度上昇量を最小にすることができる。したがって、永久磁石を設けた固定子又は可動子に損失が集中しないために永久磁石が過熱状態にならず、過熱による永久磁石の熱減磁が生じる事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態のモータ制御装置を有するシステムのブロック図である。
【図2】回転速度と永久磁石の温度上昇量が最小となるd軸電流とのルックアップテーブルの一例を示す図である。
【図3】d軸電流の値に応じて変化する永久磁石の温度上昇量の関数を表すグラフである。
【図4】回転速度に応じて変化する永久磁石の温度上昇量が最小となるd軸電流の値の関数を表すグラフである。
【図5】回転速度に応じて変化する永久磁石の温度上昇量が最小となるd軸電流の値の関数を三つの直線で近似した関数を表すグラフである。
【図6】回転速度に応じて変化する永久磁石の温度上昇量が最小となるd軸電流の値の関数を表すグラフである。
【図7】回転速度に応じて変化する永久磁石の温度上昇量が最小となるd軸電流の値の関数を三つの直線で近似した関数を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるモータ制御装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態のモータ制御装置を有するシステムのブロック図である。図1に示すシステムは、三相交流電源1と、コンバータ2と、平滑用コンデンサ3と、インバータ4と、永久磁石同期電動機5と、被駆動体6と、回転角度検出部7と、回転速度検出部8と、メモリ9と、モータ制御装置10と、上位制御装置21と、を有する。
【0017】
コンバータ2は、例えば、複数(3相交流の場合は6個)の整流ダイオード及びこれらの整流ダイオードのそれぞれに逆並列に接続されたトランジスタによって構成され、三相交流電源1から供給される交流電力を直流電力に変換する。平滑用コンデンサ3は、コンバータ2の整流ダイオードによって整流された電圧を平滑化するためにコンバータ2に並列に接続される。インバータ4は、平滑用コンデンサ3に並列に接続され、例えば、複数(3相交流の場合は6個)の整流ダイオード及びこれらの整流ダイオードのそれぞれに逆並列に接続されたトランジスタによって構成され、後に説明するPWM信号VPWMに基づいてトランジスタのオンオフ動作を行うことによって、コンバータ2によって変換された直流電力を交流電力に変換する。
【0018】
永久磁石同期電動機5は、テーブル、アーム、それらに着脱されるワーク等の被駆動体6が接続され、例えば、工作機械においてワークを保持するテーブルの位置や姿勢を変えるためのもの、ロボットのアームを回転操作させるもの等であってもよい。本実施の形態では、永久磁石同期電動機5を、位置検出部7が取り付けられた回転軸51を有する可動子としてのロータ52と、ロータ52を取り囲むように配置された固定子としてのステータ53とを有する回転型サーボモータとする。
【0019】
ロータ52は、90°間隔で配置された4個の永久磁石54a,54b,54c,54dを有する。永久磁石54a,54b,54c,54dは、ステータ53側の端部がロータ52の回転方向に対して互いに90°ずつ離れるとともに、永久磁石54a,54b,54c,54dの外側の端部が交互にN極、S極、N極及びS極となるように配置される。
【0020】
ステータ53は、120°間隔で配置され、第1の相の電流、第2の相の電流及び第3の相の電流としてのU相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWがそれぞれ供給される3個の巻線55u,55v,55wを有する。したがって、永久磁石同期電動機3は、三相同期電動機として機能する。
【0021】
本実施の形態では、ステータ53が、コイル(巻線55u,55v,55w)を有し、電力を受給する一次側となり、ロータ52が、磁石(永久磁石54a,54b,54c,54d)を有し、一次側から力を受ける二次側となる。
【0022】
回転角度検出部7は、可動子の位置としてロータ52の回転角度θを検出するロータリーエンコーダによって構成される。回転速度演算部8は、回転角度θが入力され、回転角度θを時間で微分することによってU相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWの周波数に相当するロータ52の回転速度ωを演算し、回転速度ωをモータ制御装置10に出力する。
【0023】
メモリ9は、図2に示すように、回転速度ωk(k=1,2,...n)と、永久磁石同期電動機5の定常時における永久磁石54a,54b,54c,54dの温度上昇量ΔTが最小となるd軸電流値Idk(k=1,2,...n)とのルックアップテーブルを格納する。
【0024】
回転速度ωk(k=1,2,...n)の各々について、d軸電流Idの値に応じて変化する温度上昇量ΔTの関数を、有限要素法(Finite Element Method)解析を用いて算出し、図3に示すようなグラフで表すことができる。したがって、図3に示すようなグラフを用いてd軸電流値Idk(k=1,2,...n)の値を回転速度ωk(k=1,2,...n)の各々について予め求め、求めたd軸電流値Idk(k=1,2,...n)の値を用いて図2に示すルックアップテーブルを構成することができる。なお、図3に示すグラフにおいて、永久磁石同期電動機5のq軸電流Iqの値が一定(例えば、ゼロ)である条件で永久磁石同期電動機5のd軸電流Idの値に応じて変化する温度上昇量ΔTの関数を設定しているが、温度上昇量ΔTはq軸電流Iqの値の変化に対しても変化するので、d軸電流値Idk(k=1,2,...n)の値を求める際にq軸電流Iqの値を考慮してもよい。
【0025】
したがって、d軸電流値Idk(k=1,2,...n)の値は、d軸電流Idの値に応じて変化する温度上昇量ΔTの関数に基づいて設定され、d軸電流Idの値に応じて変化する温度上昇量ΔTの関数は、回転速度ωk(k=1,2,...n)ごとに設定される。
【0026】
一方、ロータ52の鉄損において渦電流損が支配的であり、ステータ53において銅損が支配的である場合、温度上昇量ΔTを、式
【数1】

a,b,c,d:永久磁石同期電動機の形状、材質及び冷却条件に応じて決定される定数
によって表すことができる。
【0027】
定数a,b,c,dを決定する際に、温度上昇量ΔTの計測やシミュレーション(例えば、磁気解析)においてd軸電流Idの値及びq軸電流Iqの値を変えながら温度上昇量ΔTを求め、最小二乗法等の近似を用いることによって、温度上昇量ΔTと式(1)との残差が最小となるような定数a,b,c,dを選択する。
【0028】
式(1)をd軸電流Idで偏微分し、左辺を0にすることによって、永久磁石同期電動機5の定常時における永久磁石54a,54b,54c,54dの温度上昇量ΔTが最小となるd軸電流Idを、式
【数2】

によって表すことができる。
【0029】
式(2)を、図4に示すようなグラフで表すことができ、図4に示すようなグラフを用いてd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を回転速度ωk(k=1,2,...n)の各々について予め求め、求めたd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を用いて図2に示すルックアップテーブルを構成することもできる。
【0030】
したがって、d軸電流値Idk(k=1,2,...n)は、回転速度ωに応じて変化するd軸電流Idの値の関数に基づいて設定され、回転速度ωに応じて変化するd軸電流Idの値の関数は、永久磁石同期電動機5の渦電流損及び銅損に基づいて設定される。
【0031】
なお、図4に示すグラフすなわち回転速度ωに応じて変化するd軸電流Idの値の関数を、図5に示すように3本の直線a1,b1,c1によって表す(近似する)ことができ、図5に示すようなグラフを用いてd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を回転速度ωk(k=1,2,...n)の各々について予め求め、求めたd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を用いて図2に示すルックアップテーブルを構成することもできる。
【0032】
さらに、図6に示すように、回転速度ωk(k=1,2,...n)の各々について、d軸電流Idの値を変化させながら永久磁石54a,54b,54c,54dの温度を測定し、温度が最小となった点(P,P,P等)をプロットすることによって、回転速度ωに応じて変化するd軸電流Idの値の関数を表すグラフを形成することができる。
【0033】
例えば、回転速度ωnのときにd相電流Idの値を変化させ、点Q1において永久磁石54a,54b,54c,54dの温度が200℃になり、点Q2において永久磁石54a,54b,54c,54dの温度が100℃になり、点Pnにおいて永久磁石54a,54b,54c,54dの温度が70℃になり、点Q3において永久磁石54a,54b,54c,54dの温度が100℃になった場合、点Pnを温度が最小となった点として選択する。
【0034】
図6に示すようなグラフを形成するに際し、永久磁石54a,54b,54c又は54dに近接するように温度センサをロータ52に取り付け、温度センサによって検出された温度を永久磁石54a,54b,54c,54dの温度とみなすことによって、永久磁石54a,54b,54c,54dの温度を取得する。
【0035】
図6に示すようなグラフを用いてd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を回転速度ωk(k=1,2,...n)の各々について予め求め、求めたd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を用いて図2に示すルックアップテーブルを構成することもできる。
【0036】
したがって、d軸電流値Idk(k=1,2,...n)は、回転速度ωに応じて変化するd軸電流Idの値の関数に基づいて設定され、回転速度ωに応じて変化するd軸電流Idの値の関数は、回転速度ωごとに測定された永久磁石54a,54b,54c,54dの温度に基づいて設定される。
【0037】
なお、図6に示すグラフすなわち回転速度ωに応じて変化するd軸電流Idの値の関数を、図7に示すように3本の直線a2,b2,c2によって表す(近似する)ことができ、図7に示すようなグラフを用いてd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を回転速度ωk(k=1,2,...n)の各々について予め求め、求めたd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を用いて図2に示すルックアップテーブルを構成することもできる。
【0038】
モータ制御装置10は、永久磁石同期電動機5のトルクを迅速かつ安定して生成するために、永久磁石同期電動機5のq軸電流及びd軸電流を独立に制御するベクトル制御を行う。このために、モータ制御装置10は、q軸電流及びd軸電流検出部11と、q軸電流指令値生成部12と、d軸電流指令値生成部13と、駆動部14と、を備える。
【0039】
本実施の形態では、回転速度演算部8、メモリ9、q軸電流及びd軸電流検出部11、q軸電流指令値生成部12、d軸電流指令値生成部13、並びに駆動部14は、入出力ポート、シリアル通信回路、A/D変換器、タイマ等を備えたプロセッサによって実現され、図示しないメモリに格納された処理プログラムに従って後に説明する処理を実行する。
【0040】
q軸電流及びd軸電流検出部11は、q軸電流Iq及びd軸電流Idを、永久磁石同期電動機5に流れる三相のU相電流IU、V相電流IV及びW相電流IW及び回転角度θに基づいて検出する。このために、q軸電流及びd軸電流検出部11は、回転座標変換及び三相−二相変換を行う座標変換器によって構成される。したがって、q軸電流及びd軸電流検出部11は、静止座標系(UVW座標系)の三相のU相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWを、静止座標系(αβ座標系)に対して回転角度θだけ回転する回転座標系で表される二相のq軸電流Iq及びd軸電流Idに変換し、q軸電流Iq及びd軸電流Idを駆動部14に出力する。
【0041】
この場合、三相のU相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWは、インバータ4の出力線に設けられた電流検出器4U,4V,4Wによって検出され、電流検出器4U,4V,4Wが出力する電流検出信号は、図示しないA/D変換器に入力されてデジタルデータに変換する。なお、電流検出器4U,4V,4Wは、例えばホール素子によって構成される。
【0042】
q軸電流指令値生成部12は、q軸電流指令値Iqcomを、可動子に対する速度指令値としての回転速度指令値ωcomに基づいて生成する。このために、q軸電流指令値生成部12は、減算器12aと、PI制御部12bと、を有する。
【0043】
減算器12aは、回転速度指令値ωcomが入力される非反転入力部と、回転速度ωが入力される反転入力部と、回転速度指令値ωcomと回転速度ωとの減算結果である回転速度偏差Δωを出力する出力部と、を有する。PI制御部12bは、回転速度偏差Δωが入力され、回転速度偏差Δωの比例積分演算を行うことによってq軸電流指令値Iqcomを生成し、q軸電流指令値Iqcomを駆動部14に出力する。
【0044】
d軸電流指令値生成部13は、回転速度ωが入力され、永久磁石同期電動機5の定常時における永久磁石54a,54b,54c,54dの温度上昇量が最小になるd軸電流指令値Idcomを、回転速度ωに基づいて生成し、d軸電流指令値Idcomを駆動部14に出力する。例えば、d軸電流指令値生成部13に回転速度ωk(k=1,2,...n)が入力された場合、d軸電流指令値生成部13は、回転速度ωk(k=1,2,...n)に対応するd軸電流値Idk(k=1,2,...n)を、メモリ9に格納されたルックアップテーブルから読み出し、d軸電流値Idk(k=1,2,...n)に相当するd軸電流指令値Idcomを駆動部14に出力する。
【0045】
駆動部14は、永久磁石同期電動機5を、q軸電流Iq、d軸電流Id、q軸電流指令値Iqcom及びd軸電流指令値Idcomに基づいて駆動する。このために、駆動部14は、減算器14a,14bと、PI制御部14c,14dと、指令電圧生成部14eと、PWM信号生成部14fと、を有する。
【0046】
減算器14aは、d軸電流指令値Idcomが入力される非反転入力部と、d軸電流Idが入力される反転入力部と、d軸電流指令値Idcomとd軸電流Idの値との減算結果である電流偏差ΔIdを出力する出力部と、を有する。減算器14bは、q軸電流指令値Iqcomが入力される非反転入力部と、q軸電流Iqが入力される反転入力部と、q軸電流指令値Iqcomとq軸電流Iqの値との減算結果である電流偏差ΔIqを出力する出力部と、を有する。
【0047】
PI制御部14cは、電流偏差ΔIdが入力され、電流偏差ΔIdの比例積分演算を行うことによってd軸電圧指令値Vdを生成し、d軸電圧指令値Vdを駆動部14に出力する。PI制御部14dは、電流偏差ΔIqが入力され、電流偏差ΔIqの比例積分演算を行うことによってq軸電圧指令値Vqを生成し、q軸電圧指令値Vqを駆動部14に出力する。
【0048】
指令電圧生成部14eは、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqに基づいてU相電圧指令値VU、V相電圧指令値VV及びW相電圧指令値VWを生成する。このために、指令電圧生成部14eは、回転座標変換及び二相−三相変換を行う座標変換器によって構成される。したがって、指令電圧生成部14eは、静止座標系(αβ座標系)に対して回転角度θだけ回転する回転座標系で表される二相のd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、三相のU相電圧指令値VU、V相電圧指令値VV及びW相電圧指令値VWに変換し、U相電圧指令値VU、V相電圧指令値VV及びW相電圧指令値VWをPWM信号生成部14fに出力する。
【0049】
PWM信号生成部14fは、U相電圧指令値VU、V相電圧指令値VV及びW相電圧指令値VWに基づいてPWM信号VPWM(この場合、インバータ4の各トランジスタに対応するVPWM1,VPWM2,VPWM3,VPWM4,VPWM5及びVPWM6)を生成し、永久磁石同期電動機5を駆動するためにPWM信号VPWMをインバータ4に出力する。
【0050】
上位制御装置21は、CNC(数値制御装置)等によって構成され、回転速度指令値ωcomを減算器12aの非反転入力部に入力する。
【0051】
本実施の形態によれば、永久磁石同期電動機5の定常時における永久磁石54a,54b,54c,54dの温度上昇量ΔTが最小になるd軸電流指令値Idcomを、回転速度ωに基づいて生成するので、永久磁石同期電動機5の定常時における永久磁石54a,54b,54c,54dの温度上昇量ΔTを最小にすることができる。したがって、永久磁石54a,54b,54c,54dを設けたロータ52すなわち二次側に損失が集中しないために永久磁石54a,54b,54c,54dが過熱状態にならず、過熱による永久磁石54a,54b,54c,54dの熱減磁が生じる事態を回避することができる。また、本実施の形態では、過熱による永久磁石54a,54b,54c,54dの熱減磁が生じる事態を回避するために磁力の弱い磁石の使用、磁気ギャップの拡大等のハードウェアの変更を必要としない。
【0052】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。例えば、上記実施の形態において、永久磁石同期電動機5として、ロータ52に永久磁石54a,54b,54c,54dが設けられた回転型サーボモータを用いた場合について説明したが、ステータに永久磁石が設けられた回転型サーボモータ、ステータとスライダのうちのいずれか一方に永久磁石が設けられたリニアサーボモータ、ステータとバイブレータのうちのいずれか一方に永久磁石が設けられた振動型サーボモータ等を、永久磁石同期電動機5として用いることができる。
【0053】
また、回転速度検出部7を、ロータリーエンコーダ以外の部品(例えば、ホール素子又はレゾルバ)によって構成することができる。また、回転速度検出部7を省略し、永久磁石同期電動機5に供給される交流電流及び交流電圧に基づいて回転角度θ及び回転速度ωを演算することもできる。
【0054】
また、上記実施の形態において、メモリ9をプロセッサの一部として説明したが、メモリ9をプロセッサ外の部品として構成することもできる。また、メモリ9を磁気生成電流指令値生成部13内に設けることもできる。
【0055】
また、上記実施の形態において、q軸電流Iq及びd軸電流Idを検出するために三相のU相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWを用いる場合について説明したが、三相のU相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWのうちのいずれか二相(例えば、V相電流IV及びW相電流IW)を用いてq軸電流Iq及びd軸電流Idを検出することもできる。
【0056】
また、上記実施の形態において、d軸電流値Idkを取得するためにルックアップテーブルを用いる場合について説明したが、図3、図4、図5、図6若しくは図7の関数のグラフを表す式又は図3、図4若しくは図6の関数のグラフを表す式から容易に想到できる近似式(例えば、図3、図4又は図6の関数のグラフを表す式に影響の小さい定数項を加えただけの近似式)をメモリ9に予め格納し、これらの式のうちの一つに回転速度ωを代入してd軸電流値Idkを演算することによってd軸電流値Idkを取得することもできる。
【0057】
また、上記実施の形態において、図4又は図6の関数のグラフを3本の直線によって表す(近似する)場合について説明したが、図4又は図6の関数のグラフを少なくとも一つの直線又は平滑線によって表す(近似する)こともできる。
【0058】
さらに、上記実施の形態において、回転速度指令値ωcomを出力するために上位制御装置21を用いる場合について説明したが、回転速度指令値ωcomを出力するために上位制御装置21以外の制御装置を用いることもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 三相交流電源
2 コンバータ
3 平滑用コンデンサ
4 インバータ
4u,4v,4w 電流検出部
5 永久磁石同期電動機
6 被駆動体
7 回転角度検出部
8 回転速度演算部
9 メモリ
10 モータ制御装置
11 q軸電流及びd軸電流検出部
12 q軸電流指令値生成部
12a,14a,14b 減算器
12b,14c,14d PI制御部
13 d軸電流指令値生成部
14 駆動部
14e 指令電圧生成部
14f PWM信号生成部
21 上位制御装置
d d軸電流
dcom d軸電流指令値
dk 永久磁石の温度上昇量が最小となるd軸電流値
q q軸電流
qcom q軸電流指令値
U U相電流
V V相電流
W W相電流
d d軸電圧指令値
q q軸電圧指令値
U U相電圧指令値
V V相電圧指令値
W W相電圧指令値
PWM PWM信号
ΔId,ΔIq 電流偏差
θ 回転角度
ω 回転速度
ωcom 回転速度指令値
Δω 回転速度偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線と永久磁石のうちの一方が設けられた固定子及びその他方が設けられた可動子を有する永久磁石同期電動機のq軸電流及びd軸電流を、前記永久磁石同期電動機に流れる第1の相の電流、第2の相の電流及び第3の相の電流のうちの少なくとも二つ及び前記可動子の位置に基づいて検出するq軸電流及びd軸電流検出部と、
q軸電流指令値を前記可動子に対する速度指令値に基づいて生成するq軸電流指令値生成部と、
前記永久磁石同期電動機の定常時における前記永久磁石の温度上昇量が最小になるd軸電流指令値を、前記可動子の速度に基づいて生成するd軸電流指令値生成部と、
前記永久磁石同期電動機を、前記q軸電流、前記d軸電流、前記q軸電流指令値及び前記d軸電流指令値に基づいて駆動する駆動部と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記永久磁石の温度上昇量が最小になるd軸電流指令値は、前記d軸電流の値に応じて変化する前記永久磁石の温度上昇量の関数に基づいて設定され、前記d軸電流の値に応じて変化する前記永久磁石の温度上昇量の関数は、前記可動子の速度ごとに設定される請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記永久磁石の温度上昇量が最小になるd軸電流指令値は、前記可動子の速度に応じて変化する前記d軸電流の値の関数に基づいて設定される請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記可動子の速度に応じて変化する前記d軸電流の値の関数は、前記永久磁石同期電動機の渦電流損及び銅損に基づいて設定される請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記可動子の速度に応じて変化する前記d軸電流の値の関数は、前記可動子の速度ごとに測定された前記永久磁石の温度に基づいて設定される請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記可動子の速度に応じて変化する前記d軸電流の値の関数は、少なくとも一つの直線によって近似される請求項3から5のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−102671(P2013−102671A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194184(P2012−194184)
【出願日】平成24年9月4日(2012.9.4)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】