説明

永久磁石型回転子

【課題】永久磁石カバーを外嵌する際の組付け公差を大きく取り、なおかつ各回転子構成部品に過大な力をかけることなく、更に温度変化に応じて熱膨張や熱収縮を繰り返す環境下に置かれても永久磁石や永久磁石カバーの破損を防ぎ、かつ永久磁石の飛散を防ぐことが可能な永久磁石型回転子を提供する。
【解決手段】永久磁石カバー5は、永久磁石4の外周に組み付ける前の内径が、永久磁石4の外径より小径な環状に形成されており、かつ、周方向に1つまたは複数の伸縮可能な伸縮部5aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に用いられる永久磁石型回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機にはロータとステータが設けられている。ステータには、モータコイルがインシュレータを介してティース部に巻きつけられるステータコアが設けられている。
例えばインナーロータ型のブラシレスモータの場合、モータの回転子ヨークの外周面にセグメントに分割された複数の永久磁石を接着剤を介して接着したり、回転子ヨークと永久磁石を一体にモールドしたりすることにより組み付けることが行われている。
【0003】
また、永久磁石の固定及び飛散防止として、回転子ヨークに組み付けられた永久磁石の外周面を覆う円筒状カバーが設けられている。例えば永久磁石の外径より大きな内径を有する非磁性体の円筒状カバーを外嵌させた後、隣接する永久磁石の外周面の間に形成された溝状凹部に対向する円筒状カバーを径方向内側へ塑性変形させて永久磁石に密着させる組立方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
或いは、ロータをとり囲む非磁性体の筒状カバーに、隣接する永久磁石間に介在し、ロータの周方向に関する永久磁石の間隔を規制する複数の凸条を設けて永久磁石どうしの周方向の相対移動を規制した電動モータが提案されている。凸条には軸方向に一端側が幅広となるテーパー面が形成されており、該テーパー面の楔作用で永久磁石を周方向に位置決めするようになっている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−284650号公報
【特許文献2】特開2009−171736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した回転子ヨークに永久磁石を接着剤で固定する場合、接着は強度のばらつきを生じ易いうえに、湿度や薬品の影響や経年変化を起こしやすく、また100℃を超えるような環境下では、一般的に接着強度の低下がみられるため、固定強度を維持することが難しい。
また、モールドによる固定方法も、温度変化によってモールド樹脂の膨張や強度などの特性が変化し、回転子が何らかの薬品、油脂等に触れる場合には膨潤やケミカルアタックを起こす可能性があり、信頼性の確保が難しい。
特に、車載用モータにおいては、過酷な使用環境を想定して−40℃から150℃の温度変化に耐え得る性能が求められる場合もある。
【0007】
また、上述した引用例1においては、円筒状カバーを塑性変形させているため、材料の伸びやスプリングバックなどにより永久磁石との間に隙間が発生し易い。
また、円筒状カバーを溝状凹部に向けて塑性変形させる際に強く押し潰すと永久磁石が欠けたり割れたりするおそれもある。
また、引用例2においては、永久磁石を凸条に軸方向に一端側が幅広となるテーパー面の楔作用で周方向に位置決めしているが、温度変化によって回転子を構成する部品間に熱膨張差が生じた場合、筒状カバーの幅広の一端側は周方向に伸縮することができず、内部応力が永久磁石やカバーに対して部分的に強まって永久磁石やカバーの破損を起こすおそれがある。
【0008】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、永久磁石カバーを外嵌する際の組付け公差を大きく取り、なおかつ各回転子構成部品に過大な力をかけることなく、更に温度変化に応じて熱膨張や熱収縮を繰り返す環境下に置かれても永久磁石や永久磁石カバーの破損を防ぎ、かつ永久磁石の飛散を防ぐことが可能な永久磁石型回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
回転子ヨークの外周にセグメントに分割された複数の永久磁石が配置され、前記永久磁石の外周に環状に形成された非磁性材よりなる永久磁石カバーに覆われて一体に組み付けられたインナーロータ型モータの永久磁石型回転子であって、前記永久磁石カバーは、前記永久磁石の外周に組み付ける前の内径が、前記永久磁石の外径より小径な環状に形成されており、かつ、周方向に1つまたは複数の伸縮可能な伸縮部が形成されていることを特徴とする。
上記永久磁石型回転子を用いれば、永久磁石カバーは伸縮可能、すなわちバネ性を持っているため、永久磁石外周より小径なカバーを組み付ける際も過大な力をかけることなく嵌め込むことができ、永久磁石を永久磁石カバー内壁面と回転子ヨーク外壁面との間に挟み込んで固定することができる。また、隣り合う永久磁石間に形成される空間部のいずれかに伸縮可能な伸縮部が形成されているので、温度変化による部品間膨張差が生じて永久磁石カバーと永久磁石の径寸法に差が生じたとしても伸縮部が伸縮しても永久磁石カバーや永久磁石に過大な応力がかかることがなく、回転子構成部品の破損等を防ぐことができる。また回転子構成部品に緩みを生ずることもない。
【0010】
また、前記伸縮部は、隣接する前記永久磁石どうしの隙間に回転子の径方向内側若しくは外側に折れ曲がり状に形成されていることを特徴とする。
これにより、組付け及び温度変化による部品間膨張差で永久磁石カバーに過大な引張り力がかかった場合、伸縮部の折れ曲がり角度が大きくなることにより永久磁石カバーの伸びを許容し、永久磁石に作用する内部応力を緩和することができる。逆に熱膨張差で回転子構成部品間に緩みが生じるような場合は、伸縮部の折れ曲がり角度が小さくなることにより永久磁石カバーの縮小を許容するので、固定力の減少を抑制することができる。
【0011】
また、前記伸縮部は、少なくとも軸対称となる位置に一対設けられていることを特徴とする。
これによれば、永久磁石は周方向には伸縮部の弾性によって磁石カバーと平面部との間に挟み込まれて位置決めされるので、遠心力等の負荷が小さな電動機においては接着剤によらないで永久磁石を組み付け固定することができる。
【発明の効果】
【0012】
上述した永久磁石型回転子を用いれば、永久磁石カバーを外嵌する際の組付け公差を大きく取り、なおかつ各回転子構成部品に過大な力をかけることなく、更に温度変化によって熱膨張や熱収縮を繰り返す環境下に置かれても永久磁石や永久磁石カバーの破損を防ぎ、永久磁石の飛散を防ぐことが可能になるという有用な永久磁石型回転子を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】永久磁石型回転子の正面図である。
【図2】永久磁石型回転子の一部拡大斜視図である。
【図3】永久磁石型回転子の組み立て構成を示す説明図である。
【図4】永久磁石型回転子の組み立て構成を示す説明図である。
【図5】永久磁石型回転子の組み立て構成を示す説明図である。
【図6】他例に係る永久磁石型回転子の正面図である。
【図7】他例に係る永久磁石型回転子の斜視図である。
【図8】他例に係る永久磁石型回転子の一部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る永久磁石型回転子の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本実施形態では、車載用のインナーロータ型DCブラシレスモータに用いられる永久磁石型回転子について説明する。
【0015】
図1及び図2を参照して、インナーロータ型DCブラシレスモータの概略構成について説明する。
永久磁石型回転子1は、シャフト2に磁性体である回転子ヨーク3が一体に組み付けられている。この回転子ヨーク3の外周面は多角形に加工された平面部3aが形成されている。この平面部3aにセグメントに分割された永久磁石4が組み付けられている。永久磁石4は、その外周側を筒状の永久磁石カバー5に覆われて一体に組み付けられている。永久磁石4は、回転子ヨーク3の平面部3aに吸着するが、信頼性確保のため接着剤を塗布して組み付けられる。また、永久磁石カバー5は、回転子ヨーク3の周囲に組み付けられた永久磁石4の飛散を防ぐため設けられている。
【0016】
上記永久磁石型回転子1の周囲には、環状に形成されたステータコアから径方向中心に向けて突設されたティース部(磁極部)が各々対向配置されている。ステータコアはインシュレータに覆われており、インシュレータを介して各ティース部にはモータコイルが各々巻き付けられている。
【0017】
ここで永久磁石型回転子1の構成について図3乃至図5を参照して組立構成と共に説明する。
図3において、永久磁石カバー5は、永久磁石4の外径より小径な環状に形成されている。永久磁石カバー5は、隣り合う永久磁石4間に形成される空間部6のいずれかに伸縮可能な伸縮部5aが形成されている。本実施例では各空間部6に対応して複数の伸縮部5aが設けられている。
【0018】
このように、永久磁石カバー5は、永久磁石4の外径より小径な環状に形成されているので、図4に示すように回転子ヨーク3の接着剤が塗布された平面部3aに永久磁石4を各々吸着したまま軸方向に嵌め込むことで、図5に示すように永久磁石4を永久磁石カバー内壁面5bと回転子ヨーク外壁面(平面部3a)との間に挟み込んで固定することができる。また、隣り合う永久磁石4間に形成される各空間部6に伸縮可能な伸縮部5aが形成されているので、永久磁石カバー5が熱膨張及び熱収縮しても伸縮部5aが伸縮して永久磁石カバー5や永久磁石4に過大な応力がかかることがないので、回転子構成部品の破損等を防ぐことができる。
【0019】
また、伸縮部5aは、隣接する永久磁石4どうしの空間部6に回転子の径方向内側に折れ曲がり状(リブ形状)に形成されている。
これによれば、組付け及び温度変化による回転子構成部品間の膨張差で永久磁石カバー5に過大な引張り力がかかった場合、伸縮部5aの折れ曲がり角度が大きくなることにより永久磁石カバー5の伸びを許容し、永久磁石カバー5及び永久磁石4に作用する内部応力を緩和することができる。逆に熱膨張差で回転子構成部品間に緩みが生じるような場合は、伸縮部5aの折れ曲がり角度が小さくなることにより永久磁石カバー5の縮小を許容するので、永久磁石4に作用する内部応力を緩和することができる。
【0020】
また、伸縮部5aは、少なくとも軸対称となる位置に一対設けられているのが望ましく、本実施例では五対設けられている。これによれば、永久磁石4は周方向には伸縮部5aの弾性によって平面部3aと永久磁石カバー5との間に挟み込まれて位置決めされるので、遠心力等の負荷が小さい場合には接着剤によらないで永久磁石4を組み付け固定することができる。
【0021】
次に、永久磁石カバー5の他例について図6乃至図8を参照して説明する。
本実施例は、永久磁石カバー5の形成される伸縮部5aは、隣接する永久磁石4どうしの空間部6に回転子の径方向外側に折れ曲がり状(リブ形状)に形成されている。この伸縮部5aの回転子外周からの突出量は、図示しないステータコアのティース部と干渉しない程度の突出量に設定される。
【0022】
永久磁石カバー5は、永久磁石4の外径より小径な環状に形成されており、回転子ヨーク3に永久磁石4を吸着したまま軸方向に圧入することで、当該永久磁石4を永久磁石カバー内壁面5bと回転子ヨーク外壁面(平面部3a)との間に挟み込んで固定する点は同様である。
【0023】
永久磁石カバー5は非磁性の金属材(例えばSUS304;ステンレススチール)が好適に用いられる。伸縮部5aの形態、即ちリブ状は特に限定されないが、複数箇所であって好ましくは対向位置で少なくとも一対形成されているとばね性を有しているので、永久磁石カバー5が永久磁石4の外径より小径な環状に形成されていても圧入力が過大となることはない。よって回転子構成部品の破損や作業性への負担も軽減することができる。
また、部品寸法公差を厳しくして圧入代を管理する負担も軽減される。また、遠心力の付加が小さい回転子においては接着剤によらない固定方法も可能になる。
【0024】
上記実施例は車載用のインナーロータ型のDCブラシレスモータについて説明したが、他の用途の電動機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 永久磁石型回転子
2 シャフト
3 回転子ヨーク
3a 平面部
4 永久磁石
5 永久磁石カバー
5a 伸縮部
5b 永久磁石カバー内壁面
6 空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子ヨークの外周にセグメントに分割された複数の永久磁石が配置され、前記永久磁石の外周に環状に形成された非磁性材よりなる永久磁石カバーに覆われて一体に組み付けられたインナーロータ型モータの永久磁石型回転子であって、
前記永久磁石カバーは、前記永久磁石の外周に組み付ける前の内径が、前記永久磁石の外径より小径な環状に形成されており、かつ、周方向に1つまたは複数の伸縮可能な伸縮部が形成されていることを特徴とする永久磁石型回転子。
【請求項2】
前記伸縮部は、隣接する前記永久磁石どうしの隙間に回転子の径方向内側若しくは外側に折れ曲がり状に形成されている請求項1記載の永久磁石型回転子。
【請求項3】
前記伸縮部は、少なくとも軸対称となる位置に一対設けられている請求項1又は請求項2記載の永久磁石型回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−16236(P2012−16236A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152919(P2010−152919)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】