説明

永久磁石式同期モータ

【課題】永久磁石式の同期モータにおいて、コギングトルクを大幅に低減することができる。
【解決手段】永久磁石を有するロータに、極数及びスロット数の最小公倍数によって決まる基本波を複数分割する段数のスキューを施した永久磁石式同期モータにおいて、スキューの各段間に、各段間の磁束の漏えいを防止する非磁性体材を介在させた。これにより、コギングトルクの基本波を確実に相殺することができ、コギングトルクを大幅に低減することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車の駆動用モータ等に好適な永久磁石式の同期モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石式の同期モータでは、コギングトルクを低減するため、ロータにおける多段の永久磁石の磁極境界を周方向にずらしたスキューを施すことにが、例えば、特許文献1によって開示されている。
【0003】
特許文献1には、モータのトルクリップル及びコギングトルクを低減するため、周方向に磁極対を有するロータを軸方向に3段に分割し、各段を所定角度ずつずらすことによりスキューを施したブラシレスモータが示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−228390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コギングトルクは高次の高調波成分を含むが、電気自動車の場合、極数とスロット数の最小公倍数で決まる基本波のコギングトルクの大きさが問題となる。そのため、この基本波のコギングトルクをスキューにより相殺して低減することが重要である。
【0006】
しかし、例えばロータに3段又は4段という複数段のスキューを施した場合、隣接する段間の磁石の相互作用により、外側に位置する段と内側に位置する段では、コギングトルクの大きさ及びその位相角に差が生じ、コギングトルクの基本波を相殺することによってコギングトルクを大幅に低減することが困難であった。
【0007】
図6は、アウターロータモータに、コギングトルクを除去する目的で3段スキューを施したロータの磁極関係を周方向に展開した模擬図であり、この図6に基づいて具体的に説明する。
【0008】
即ち、スキュー1段目のS極の斜線部分Sの磁束は第2段の斜線部分のN極の斜線の部分Nに直接流れ、これと対向する固定子のティースへは流れないため、実質的には、磁束は斜線部分Sを除いた部分の磁束となり、その分トルクが減少する。また、磁力の中心も斜線部分Sの周方向距離の1/2分右に移動し、その分位相がずれる。
【0009】
次に、スキューの2段目については、1段目のS極の影響による、N極の磁石の右端の斜線部分Nの磁束と、3段目のS極の斜線部分Sの影響による、N極の磁石の左端の斜線部分Nの磁束が無効化される。そのため、固定子のティースに流れる有効磁束はその両側分少なくなる。なお、磁束中心は変わらないため、位相のずれは生じない。
【0010】
また、スキューの3段目については、オーバラップした2段目のN極の影響により、S極の磁石の右端の斜線部分Sの磁束が、固定子のティースに流れないため、実質的な磁束は、斜線の部分Sを除いた磁束となり、その分トルクは小さくなる。また、磁力中心も、斜線の部分Sの周方向距離の1/2分左方向に移動し、その分位相がずれる。
【0011】
従って、スキューの1段目〜3段目それぞれに、磁束及び位相に誤差が生じるため、1段目〜3段目のスキューで発生するコギングトルクは十分に相殺することが出来ず、上記誤差によりコギングトルクの低減効果は小さいものになってしまう。
【0012】
図7は、図6と異なり、4段スキューの効果の例を示すもので、左側の「正常に作用しているとき」の各段のコギングトルクは相殺されて総計は0となる。
一方、右側の、各段の磁極の磁束の干渉により「バランスを欠くとき」は各段のコギングトルクは完全に相殺されず、総計でもコギングトルクは残留する。
【0013】
そこで、この発明はこれらの従来技術を改善すべく、永久磁石式の同期モータにおいて、コギングトルクを大幅に低減することができる同期モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、永久磁石を有するロータに、極数及びスロット数の最小公倍数によって決まる基本波を複数分割する段数のスキューを施した永久磁石式同期モータにおいて、スキューの各段間に、各段間の磁束の漏えいを防止する非磁性体材を介在させた永久磁石式同期モータとした。
【0015】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記非磁性体材は、アルミニウム板、ステンレス板、又は非磁性樹脂のいずれかである、永久磁石式同期モータとした。
【0016】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記スキューの段数は2〜4段である、永久磁石式同期モータとした。
【0017】
また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、前記永久磁石式同期モータは電気自動車の車輪を駆動するアウターロータ式モータであるものとした。
【0018】
また、請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、前記永久磁石式同期モータは、回転子が内側のインナーロータ式モータであるものとした。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜5の発明によれば、スキューの各段が外側にあるか、中間にあるか、内側にあるに関係なく、固定子のティースを通る磁束が各段で同一となり、かつ、位相誤差も生じないので、スキュー各段のコギングトルクが同一となり、かつ、位相を段ごとに正確にずらせることが出来るので、コギングトルクの基本波を確実に相殺することができ、コギングトルクを大幅に低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明は、永久磁石を有するロータに、極数及びスロット数の最小公倍数によって決まる基本波を複数分割する段数のスキューを施した永久磁石式同期モータにおいて、スキューの各段間に、各段間の磁束の漏えいを防止する非磁性体材を介在させた永久磁石式同期モータとした。
【0021】
これにより、コギングトルクの基本波を確実に相殺することができ、コギングトルクを大幅に低減することが出来る。
【実施例1】
【0022】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。実施例1は、スロット数18、極数12のアウターロータ式同期モータに4段スキューを施したものであるが、図1において、まず、アウターロータ式モータの構成を説明する。
【0023】
当該アウターロータ式モータ1は、ステータ2と当該ステータ2の外側を周方向に回転する円筒状のロータ3から構成されている。前記ステータ2は、所定間隔ごとに放射状に配設された複数本のティース4と、当該ティース4に巻き回されて形成されたコイル5とから成り、前記ロータ3には、当該ロータ3を軸方向に貫通するV字マグネット6が埋設され、当該V字マグネット6はロータ3の周方向に所定間隔毎に複数配設され、前記各V字マグネット6は、2個の平板形状の永久磁石であるマグネット6d、6eから成り、当該マグネット6d、6eの側面の前記ロータ3の内周側である内側縁21がそれぞれ接して形成され、前記マグネット6d、6eは、前記ロータ3の内周に対する接線と平行になるように配設されている。
【0024】
図2は、上記アウターロータ式モータ1に4段スキューを施したロータ3の磁極関係を周方向に展開した模擬図である。このモータ1においては、コギングトルクの基本波はスロット数18と極数12の最小公倍数である36波となる。
【0025】
各段でN極、S極を交互に並べ、1段目、2段目、3段目、4段目の磁極を周方向にずらしたスキューの各段の間に、非磁性体材7を介在させたものである。
【0026】
この様にしたので、各段の破線で示された端部S又はNの磁束が、隣接する段の磁極に流れる事がなく、各段の磁極の磁束が全て対向する固定子のティースに流れるので、各段で発生するコギングトルクが等しく、かつ、位相の誤差も生じないので、コギングトルクの基本波36をスキュー段数の4で割った値、即ち、スキューの段を機械角度で360度÷36÷4=2.5度毎ずらせることによって基本波のコギングトルクを大幅に低減することができる。
【0027】
なお、4段スキューの場合、電気角はスキュー1段当たり360度/4=90度となるため、コギングトルクの基本波のみでなく、2倍波についてもコギンクトルクを相殺して低減することができる。
【実施例2】
【0028】
実施例2は、スロット数、極数は実施例1と同じであるが、スキューの段数を2段としたものである。
【0029】
2段のスキューの場合、1段目と2段目の間に非磁性体材7を設けないと、1段目の各磁極の図の破線で示した左側の部分S又はNと、2段目の図の破線より右側の部分N又はSの間で磁束が直接流れ、これらと対向する固定子のティースには磁束が流れないため、実質的に有効な磁力は、各段とも破線の外側のS又はNを除いた部分となる。そのため、磁力の大きさは1段目と2段目で同じとなるが、磁束(磁力)の中心は、1段目は、図の右方向にずれ、2段目は左方向にずれる。従って、1段目と2段目で位相差に誤差を生じ、コギングトルクを十分に打ち消すことができない。
【0030】
しかし、実施例2のでは、1段目と2段目との間に非磁性体材7を介在させたので、磁極の端部S又はNの磁束も、1段目から2段目に、或いは2段目から1段目に流れることがなく、磁極の磁束を全て有効に利用することができる。さらに、1段目と2段目で位相差の誤差を生じることがないので、1段目と2段目のコギングトルクを十分に相殺することができる。従って、2段スキューによって、コギングトルクの基本波を十分低減することができる。
【0031】
次に、この発明の上記実施例1を実施した場合の位相角に対するコギングトルクの発生状況の解析データを示す。コギング対策の効果は、スキュー段間に介在させる非磁性体材7の厚さによって変化する。図4は、非磁性体材7の厚さが2mmの場合の解析データである。
【0032】
これによると、非磁性体材7を設けない場合は約20Nmであるのに対し、非磁性体材7を設けた場合は約10Nmとなり、役50%の低減効果がある。また、図4には示していないが、非磁性体材7の厚さを4mmにすると、約70%の低減効果があることが確認されている。
【0033】
また、この発明のアウターロータ式モータを電気自動車のインホイールモータとして適用した時の概略構成図を図5に示す。
【0034】
図示したように、ステータ2とその外側のロータ3から成るアウターロータ式モータ1は、略円筒形状のリム8とディスク9から成るホイール10内に収容されている。ホイール10のディスク9は、シャフト11の端部に備わるフランジ12にボルト13により固定されている。フランジ12はボルト14によりモータ1の外側を被うモータカバー15と固定されている。
【0035】
従って、ロータ3が回転することにより、その回転はモータカバー15、フランジ12、ホイール10の順に伝えられ、リム8に取り付けられたタイヤ16が回転する。ステータ2は、その内側のインナーフレーム17に固定されており、インナーフレーム17とシャフト11の間にはベアリング18が介在されている。インナーフレーム17は、ボルト19によりナックル20に固定される。また、ディスクキャリパー22が前記ボルト19により前記ナックル20に固定され、前記シャフト11の外周に固定されたブレーキディスク23を把持自在となっている。
【0036】
なお、上記実施例ではアウターロータ式モータの例を示したが、この発明は、インナーロータ式モータにも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施例1のアウターロータ式モータの概略正面図である。
【図2】この発明の実施例1の4段スキューを施したロータの磁極関係を周方向に展開した模擬図である。
【図3】この発明の実施例2の2段スキューを施したロータの磁極関係を周方向に展開した模擬図である。
【図4】この発明の実施例1の解析データのグラフ図である。
【図5】この発明の実施例1のロータを使用したアウターローラ式モータを電気自動車のインホイールモータとして適用した概略構成図である。
【図6】従来の3段スキューを施したロータの磁極関係を周方向に展開した模擬図である。
【図7】4段スキューのコギング低減効果の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 アウターロータ式モータ 2 ステータ
3 ロータ 4 ティース
5 コイル 6 V字マグネット
6d マグネット 6e マグネット
7 非磁性体材 8 リム
9 ディスク 10 ホイール
11 シャフト 12 フランジ
13 ボルト 14 ボルト
15 モータカバー 16 タイヤ
17 インナーフレーム 18 ベアリング
19 ボルト 20 ナックル
21 内側縁 22 ディスクキャリパー
23 ブレーキディスク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有するロータに、極数及びスロット数の最小公倍数によって決まる基本波を複数分割する段数のスキューを施した永久磁石式同期モータにおいて、
スキューの各段間に、各段間の磁束の漏えいを防止する非磁性体材を介在させたことを特徴とする、永久磁石式同期モータ。
【請求項2】
前記非磁性体材は、アルミニウム板、ステンレス板、又は非磁性樹脂のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の永久磁石式同期モータ。
【請求項3】
前記スキューの段数は2〜4段であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の永久磁石式同期モータ。
【請求項4】
前記永久磁石式同期モータは、電気自動車の車輪を駆動するアウターロータ式モータであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の永久磁石式同期モータ。
【請求項5】
前記永久磁石式同期モータは、回転子が内側のインナーロータ式モータであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の永久磁石式同期モータ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−31336(P2013−31336A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167365(P2011−167365)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(511073571)株式会社SIM−Drive (8)
【Fターム(参考)】