説明

汎血球減少症罹患仔ウシにおけるサーコウイルス(circovirus)の特定

本願発明は、出血性疾患を伴う骨髄形成不全の原因因子である、新規のサーコウイルスに関する。本願発明は、診断および治療用の新規の核酸およびタンパク質配列を、提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシ出血性疾患に伴う骨髄形成不全の原因となる新規の因子としてのサーコウイルス(circovirus, CV)に関するものである。本発明は、診断および治療用の新規の核酸およびタンパク質配列を提供する。
【背景技術】
【0002】
ウシの出血性疾患は、ウイルス感染、遺伝性疾患、免疫介在性疾患、バクテリア性敗血症、および中毒などを含む様々な原因と関連している。出血症状および血小板減少症は、細胞非変性ウシウイルス性下痢ウイルス2(BVDV)の感染と関連している (Ellis et al., 1998, Rebhun at al., 1989)。遺伝し得る出血素因は、ジメンタールウシについて示されている。ジメンタールウシにおけるこの遺伝性血小板無力症は、血小板の機能障害による(Steficek,et al., 1993)。免疫介在性血小板減少症は、ウシにおいて稀にみられることが知られており、原因不明の血小板減少性紫斑またはsecondary entityとして区分され得る(Yeruham, et al., 2003)。バクテリア感染の例には、臨床症状として点状および斑状の出血症状、全身性充血ならびに肺炎を有するウシ出血性敗血症のよく知られた原因である、Pasteurella multocidaを含む(Rhoades, et al., 1967, Rimler, 1978)。
【0003】
いくつかの毒物は、ウシにおける出血症状の原因となる可能性がある。ウシに与えるトリクロロエチレン抽出大豆油(Lock et al., 1996)中のジクロロビニルシステイン(DCVC)および抗生物質フラゾリドン(Hopffman-Fezer, et al., 1974, Hoffman et al., 1974)による中毒は、胎児性再生不良性貧血、顕著な無細胞性骨髄および広範囲出血をひきおこす。ワラビ(Pterridium aquilinum)の経口摂取も同様に、ウシにおいて不可逆的な骨髄形成不全を伴う急性中毒をひきおこす(Maxie and Newman, 2007, Valli, 2007)。さらには、Stachybotrys chartarum(arta)が産生するマイコトキシンによる中毒が、反芻動物において広範な組織での大量出血と細胞壊死に特徴づけられる汎血小板減少症につながることが示されている(Harrach, et al., 1983, Valli, 2007)。
【0004】
ニワトリ伝染性貧血は、ここに報告するウシの出血性疾患に酷似している疾患であり、病原体はニワトリ伝染性貧血ウイルス(CIAV)である。重篤な貧血、重篤な骨髄形成不全、胸腺およびファブリキウス嚢の萎縮ならびに出血は、CIAVに感染したヒヨコにおける知見と一致する(Kuscu and Gurel, 2008, Yuasa, et al., 1979)。実験的にCIAVを接種した生後1日齢の無菌ヒヨコは、特に接種後12日から20日後にはヘマトクリット値の低下を示し、貧血によりるい痩および抑うつ状態に至る(Goryo, et al., 1989)。CIAVはサーコウイルス科(Todd, et al., 2005)に分類され、ニワトリにのみ感染し、唯一のジャイロウイルス属である。しかしながら、サーコウイルスの第二属のいくつかのウイルスは、哺乳類やその他の鳥類にも見出されており、その中にはブタサーコウイルスPCV1およびPCV2が含まれている。サーコウイルス科に属するウイルスは、ノンエンベロープ型正十二面体構造をとり、大きさが1759から2319ヌクレオチド(nt)の環状一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する(Todd, et al., 2005)。サーコウイルス属はアンビセンス構造のゲノムを有しており、センス鎖(open reading frame [ORF]-V1)では複製関連(Rep)タンパクが、相補鎖(ORF-C1)ではカプシドタンパクがコードされている。いくつかのサーコウイルス属では、その他小さなORF(例えば、PCV2感染細胞における細胞死誘導タンパクをコードするORF3)が認識されている(Liu et al., 2005, Timmusk, et al., 2008)。非コード領域では、保存された9量体配列を含むステムループ構造が存在し、ウイルスゲノムの複製開始に関与している(Steinfeldt, et al., 2001)。サーコウイルスの分子生物学は近年概説された(Mankertz, 2008)。
【0005】
PCV1を例外として、すべての既知のサーコウイルスは免疫抑制とリンパ細網組織の障害をひきおこす病原体である(Mankertz, 2008, Segales, et al., 2005, Segales and Mateu, 2006, Todd, 2000)。PCV2はブタにおいて、離乳後多臓器発育不全症候群(PMWS)、呼吸器病症候群(PRDC)、PCV2関連生殖障害、ならびに皮膚炎および腎障害(PDNS)などの様々な異なる疾患および病気の病原体である。しかし、典型的なPMWSの唯一の病状は、初乳欠乏仔ブタおよびPCV2接種ブタに見られていたにも関わらず(Ellis, et al., 1999, Kennedy, et al., 2000)、PMWS以外のブタ疾患におけるPCV2の関与は完全には調査されていなかった(Allan, et al., 2003, Chae, 2005)。
【0006】
ウシにおけるサーコウイルスの感染データは限られている。ウシの呼吸器疾患では100例中6例、ウシ中絶胎児では30例中4例の肺サンプルで、PCRによってサーコウイルスの存在が示された(Nayer, et al., 1999)。仮にウシサーコウイルス(BCV)と命名したこの因子のゲノムは、PCV2のゲノムとほぼ同一であり、ヌクレオチド配列全体の99%がPCV2と同一であった。また、ブタサーコウイルスに対する抗体がヒト、マウス、ウシ中に存在することが報告されている(Tischer, et al., 1995)。しかしながら別の研究では、ウシ、ヒツジ、ウマおよびヒトに由来する血清においても、PCV2に対する抗体は検出されなかった(Allan, et al., 2000, Ellis,et al., 2001 )。また、1個体の血清陰性の新生仔ウシおよび、実験環境下でPCV2感染処理を施した6個体の6か月齢肉用ウシでは、ウイルスに対する抗体を産生することができなかった(Ellis,et al., 2001)。
【0007】
2007年以降、畜産従事者および獣医より、ドイツ全域にわたる原因不明のウシ出血性疾患が報告されてきた。自然発生的な出血性疾患を罹患した56個体の仔ウシがBavarian Animal Health Serviceに提供され、病態の特徴を明らかにし、さらなる研究調査により病因を調査した。この疾患は、生後1か月以内の種々の系統の仔ウシに生じ、感染傾向に性差はなかった。主な所見は出血(特に、皮膚および皮下組織並びに消化管における出血)で、付随所見として炎症性病変も散発的にみられた。組織学的調査では、すべての個体で骨髄低形成および骨髄形成不全が、43%の個体でリンパ球欠乏が見られ、血液分析では5個体で再生不良性の汎血球減少症が見られた。症状の結果として生じるこの血小板減少症は、この出血性疾患症候群(HDS)(出血性素因(HD)とも称される)の主要な病理学機序を表すものであると考えられる。HDS/HDのより一般的で科学的に認知されている名称は、ウシ新生仔汎血球減少症(BNP)である。本出願では、これらの異なる名称と略語を区別しないで用いることとする。バクテリア感染およびウシウイルス性下痢ウイルス、またはブルータングウイルス感染は、この疾患の原因ではない。骨髄形成不全を誘導することが知られている特定の毒素は検出されなかった。系統分析においては、この疾患の遺伝性に関する傾向はみられなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ellis JA et al., Can J Vet Res 62: 161 (1998)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者はbroad spectrum PCRを用い、罹患したウシにおけるサーコウイルスの存在を示すことができた。ウイルスの全ゲノム配列決定によって、ブタサーコウイルス2b型(PCV2b)と高い性を類似示すことが明らかにされた。1頭のウシのひとつひとつの骨髄細胞は、わずかにPCV2抗原に対する免疫反応を示した。
【0010】
本願発明は、このウイルスは、新生仔ウシ汎血球減少症と呼ばれる症状の原因因子として特定された、新規のサーコウイルス(CV)の核酸分子に関する。さらに本発明は、ウイルス核酸によってコードされる新規のポリペプチドと、これらポリぺプチド群を認識する抗体に関する。これらの核酸、ポリペプチド、および抗体は診断および治療用途に適しており、特にHDに対するワクチンの開発に適している。
【0011】
第一の態様においては、本願発明は、
(a)配列番号1で示される配列もしくはその断片、および/または
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列の相補体
を含むサーコウイルス(CV)の核酸分子に関する。
【0012】
他の態様においては、本願発明は、
(a)配列番号7で示される配列もしくはその断片、および/または
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列の相補体
を含むサーコウイルス(CV)の核酸分子に関する。
【0013】
さらに他の態様においては、本願発明は、
(a)配列番号11で示される配列もしくはその断片、および/または
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列の相補体
を含むサーコウイルス(CV)の核酸分子に関する。
【0014】
核酸分子は、1本または2本鎖、環状または線状のDNAまたはRNA分子であり得る。いくつかの実施態様においては、核酸分子はそれ単体、またはさらなる核酸分子に結合して存在し得る(例えば、異種性の発現制御配列に操作的に結合している)。核酸分子はまた、ウイルスのカプシド中に被包され得る。
【0015】
本願発明の核酸分子は、配列番号1で示される全配列、および/または、その相補体、もしくはその断片を含み得る。同様に本願発明の核酸分子は、配列番号7または配列番号11で示される全配列、および/そのまたは相補体もしくはその断片を含み得る。その断片は配列番号1、7、もしくは11に示された、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、もしくは少なくとも50の近接するヌクレオチドまたはその相補体を含むのが好ましい。本願発明におけるサーコウイルス核酸分子は少なくとも、一個のヌクレオチドが近縁のサーコウイルス株(例えば、Gene Accession Numberを図6に示すサーコウイルス株)と異なることが好ましい。
【0016】
本願発明はまた、
(a)配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有する核酸分子、
(b)ストリンジェントな条件下で、配列番号1で示されるヌクレオチド配列にハイブリダイズする核酸分子、または
(c)(a)もしくは(b)の相補体
に関する。
【0017】
本願発明はまた、
(a)配列番号7で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有する核酸分子、
(b)ストリンジェントな条件下で、配列番号7で示されるヌクレオチド配列にハイブリダイズする核酸分子、または
(c)(a)もしくは(b)の相補体
に関する。
【0018】
本願発明はまた、
(a)配列番号11で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、少なくとも94%、少な
くとも96%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有する核酸分子、
(b)ストリンジェントな条件下で、配列番号11で示されるヌクレオチド配列にハイブリダイズする分子核酸分子、または
(c)(a)もしくは(b)の相補体
に関する。
【0019】
与えられた核酸分子の、参照核酸分子(例えば、配列番号1もしくはその断片)に対する同一性は、以下に従って決定され得る。
I=n/L×100
(式中、Iは同一性のパーセント値であり、
nは与えられた核酸分子およびその参照の同一ヌクレオチドの数であり、およびLは与えられた核酸分子およびその参照が重複する配列の長さである。)
【0020】
好ましくは、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションとは、1×SSC緩衝液および0.1%SDSで50℃、好ましくは55℃、より好ましくは62℃、最も好ましくは68℃で1時間洗浄後、特に0.2×SSC緩衝液および0.1%SDSによって50℃、好ましくは55℃、好ましくは62℃、最も好ましくは68℃で1時間洗浄した後、ハイブリダイゼーションの陽性シグナルが観察されることを意味する。ハイブリダイゼーションの手順は、例えば、Wahl and Berger (Methods Emzymol. 152(1987), 399-407)およびKimmel(Methods Emzymol.152(1987), 507-511)に公開されている。その内容は、本願明細書に参照により挿入する。
【0021】
本願発明のさらなる態様は、サーコウイルスのポリペプチドまたはその断片をコードするCV核酸分子であって、
(a)
(i)ヌクレオチド51-995(Rep)
(ii)ヌクレオチド1034-1735(Cap)
(iii)ヌクレオチド357-671(ORF3)
に由来する配列番号1に示されるヌクレオチド配列領域、または
(b)遺伝暗号の縮重の範囲で(a)に記載の配列に対応するヌクレオチド配列、または
(c)(a)もしくは(b)のヌクレオチドの断片
を含むCV核酸分子に関する。
【0022】
本発明のよりさらなる態様は、サーコウイルスのポリペプチドまたはその断片をコードするCV核酸分子であって
(a)
(i)ヌクレオチド51-995(Rep)
(ii)ヌクレオチド1034-1735(Cap)
(iii)ヌクレオチド357-671(ORF3)
に由来する配列番号7に示されるヌクレオチド配列領域、または、
(b)遺伝暗号の縮重の範囲で(a)に記載の配列に対応するヌクレオチド配列、または
(c)(a)もしくは(b)のヌクレオチド配列断片
を含むCV核酸分子に関する。
【0023】
本発明のよりさらなる態様は、サーコウイルスのポリペプチドまたはその断片をコードするCV核酸分子であって、
(a)
(i)ヌクレオチド51-995(Rep)
(ii)ヌクレオチド1033-1734(Cap)
(iii)ヌクレオチド357-671(ORF3)
に由来する配列番号11に示されるヌクレオチド配列領域、または
(b)遺伝暗号の縮重の範囲で(a)に記載の配列に対応するヌクレオチド配列、または
(c)(a)もしくは(b)のヌクレオチド配列断片
を含むCV核酸分子に関する。
【0024】
前記核酸分子は、Rep(配列番号2)、Cap(配列番号3)、およびORF3(配列番号4)またはその断片から選択されたCVポリペプチドをコードすることが好ましい。前記核酸分子はまた、Rep(配列番号8および12)、Cap(配列番号9および13)、ならびにORF3(配列番号10および14)またはその断片から選択されたCVポリペプチドをコードし得る。前記で示したCVポリペプチドの断片は、配列番号2、3もしくは4、または代替的には8-10もしくは12-14に示されているアミノ酸配列の中の、例えば少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも30の近接するアミノ酸を含み得る。
【0025】
さらに、本願発明は、配列番号2、3、または4に示されたいずれかのアミノ酸配列と、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドをコードする核酸分子に関する。
【0026】
さらに、本願発明は、配列番号8、9、10、12、13または14に示されたいずれかのアミノ酸配列と、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドをコードする核酸分子に関する。
【0027】
与えられたポリペプチドと参照ポリペプチド(例として、配列番号2、3、または4)との同一性の程度は、前記の核酸分子で示されたように決定され得る。
【0028】
本願発明の核酸分子は、異種性の発現制御配列に操作的に結合し得る(例として、安定宿主細胞で発現できる発現制御配列)。本願発明の核酸配列を発現させるための異種性の発現制御配列の例として、哺乳類を含む原核もしくは真核生物の当業者に知られていない発現制御配列が挙げられ、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory Manual, Cold Spring Harbour Press, および Ausubel et al.(1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sonsに記載されている例がある。その内容は本願明細書に参照により挿入する。
【0029】
本願発明はまた、非ヒト型宿主細胞も含む(例として、原核または真核宿主細胞、例えば、前記の核酸分子で形質転換または形質移入した、酵母、昆虫、または哺乳類宿主細胞)。例えば、ベクター(本願発明はまた、非ヒト型宿主細胞も含む(例として、原核または真核宿主細胞、例えば、前記の核酸分子で形質転換または形質移入した、酵母、昆虫、または哺乳類宿主細胞)。例えば、ベクター(例えばウイルスベクターまたはプラスミド)上に存在する核酸分子による宿主細胞の形質転換もしくは形質移入は、当業者によく知られており、例えば、Sambrook et al.(supra)またはAusubel et al(supra)にも、形質転換または形質移入の例が記載されている。
【0030】
本願発明のよりさらなる態様は、前記の核酸分子がコードするサーコウイルス(CV)ポリペプチドである。CVポリペプチドは、
(a)
(i)アミノ酸配列番号2(Rep)
(ii)アミノ酸配列番号3(Cap)
(iii)アミノ酸配列番号4(ORF3)、より選択されたアミノ酸配列、または、
(b)それらの断片
を含み得る。
【0031】
本願発明のよりさらなる態様は、前記の核酸分子がコードするサーコウイルス(CV)ポリペプチドである。CVポリペプチドは、
(a)
(i)アミノ酸配列番号8および12(Rep)
(ii)アミノ酸配列番号9および13(Cap)
(iii)アミノ酸配列番号10および14(ORF3)、より選択されたアミノ酸配列、または、
(b)それらの断片
を含み得る。
【0032】
本願発明は、配列番号2、3、または4、もしくは代替的には、配列番号8-10、もしくは12-14に示されたアミノ酸配列の、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも30の近接したアミノ酸配列を含むCVポリペプチドまたはその断片を含む。本願発明のCVポリペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸が近縁サーコウイルス株(例えば、Gene Accession Numberを図6に示すサーコウイルス株)と異なることが好ましい。
【0033】
本願発明は、配列番号2、3、または4に示されたアミノ酸配列のいずれかと少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドに関する。
【0034】
本願発明は、配列番号8、9、10、12、13、または14に示されたアミノ酸配列のいずれかと少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドに関する。
【0035】
本願発明のよりさらなる態様は、前記のポリペチドに結合する抗体、もしくはそのような抗体の抗原結合断片である。
【0036】
抗体作製方法(例えば、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体)は、当該業界においてよく知られている。例として、様々な宿主動物(例えばマウスまたはウサギ)は、免疫特性を有する本願発明のポリペプチドの接種により、免疫され得る。必要に応じて、本願発明のポリペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)のような担体を結合し得る。免疫された宿主より、よく知られた方法によってポリクローナル抗体または抗体産生細胞を取得し得る。
【0037】
本願発明のポリペプチドに結合するモノクローナル抗体は、既知の方法、例えばB細胞ハイブリドーマ技術(Kohler et al., Nature 256;(1975) 495-497)によって調製され得る。その内容は本願明細書に参照もしくは関連技術により挿入する。
【0038】
本願発明はまた、キメラ、ヒト化もしくはヒト抗体、または既知の技術で得られうるそのような抗体の抗原結合断片を含む。
【0039】
本願発明のよりさらなる態様は、前記のような核酸分子を含むサーコウイルスである。このウイルスは活性化ウイルスであり得る。このウイルスは、不活化もしくは弱毒化ウイルスで代替し得る。不活化および弱毒化は、下記の詳細のように達成され得る。
【0040】
本願発明における核酸分子、ポリペプチド、ウイルスおよび抗体は、診断薬もしくは医薬として用いられ得る(例えば、哺乳類、特にウシおよびとりわけ仔ウシにおけるHDの診断もしくは予防および/もしくは治療)
【0041】
診断実施態様において、核酸分子またはポリペプチドはレポーターグループを保有し得る。(例として、診断方法として適する任意のレポーターグループ、例えば蛍光グループ、発光グループ、染色剤、酵素、ハプテンまたはビオチンがある)。
【0042】
特に診断実施態様において、本願で使用される「核酸分子」という言葉はまた、ペプチド核酸(PNA)のような核酸アナログ、ロックド核酸(LNA:locked nucleic acid)、もしくは当該業界で知られているその他の核酸アナログを含む。
【0043】
従って、本願発明のさらなる態様は、核酸分子、ポリペプチド、前記のウイルスまたは抗体を許容可能な担体と共に含む診断用組成物である。
【0044】
診断用組成物は特にウシにおけるHD診断方法であって、診断対象由来のサンプルを前記の診断用組成物と接触させ、CV、特にPCV2-Ha08株、PCV2-Ha09株、もしくはPCV2-Ha10株、または、CV抗体特に、PCV2-Ha08、PCV2-Ha09、もしくはPCV2-Ha10に対する抗体の、サンプル中の存在および/または量を測定する方法において使用し得る。
前記サンプルは体液サンプル(例えば血液、血清、血漿、唾液、痰、もしくはリンパ液)、または組織サンプル(例えば肝臓、肺、骨髄、もしくはリンパ節由来)であり得る。
【0045】
ある実施態様において、本願発明の診断方法は、例えば、ハイブリダイゼーションおよび、PCRのような核酸増幅法を含み得る核酸に基づくアッセイ中でのCV核酸分子の測定を含み得る。さらに本願発明の診断方法は、例えば、本願発明の抗体を診断薬として用い、CVポリペプチドの免疫複合体を測定し、抗体を検出する免疫測定法中でのCVポリペプチドの測定を含む。一方、本願発明の診断方法は、例えば、前記のCVポリペプチドを検出抗原として用いた、サンプル中の抗CV抗体の測定を含み得る。
【0046】
本願発明のよりさらなる実施態様は、前記の核酸分子、ポリペプチド、ウイルスおよび抗体の、治療適用のための、とりわけ、哺乳類特にウシにおけるHDの治療および/または予防のための使用である。
【0047】
したがって本願発明はまた、前記の核酸分子、ポリペプチド、抗体またはウイルスを、薬剤として許容される担体、希釈液および/またはアジュバントと共に含む治療用組成物を含む。好ましい実施態様においては、組成物は、ワクチンまたは免疫原性の組成物(例えば、核酸ワクチンまたは免疫原性組成物、ポリペプチドワクチンまたは免疫原性組成物、ウイルスワクチンまたは免疫原性組成物またはワクチン抗体)である。特に好ましい実施態様においては、組成物はポリペプチドワクチンまたは免疫原性組成物であり、薬剤として許容される担体、希釈液および/またはアジュバントと共に対象の免疫応答を誘発できるCVポリペプチドを含む。その他の特に好ましい実施態様においては、組成物はウイルスワクチンまたは免疫原性組成物であり、薬剤として許容される担体、希釈液および/またはアジュバントと共に対象の免疫応答を誘発できるサーコウイルスを含む。
【0048】
本願発明はまた、特にウシのような哺乳動物を対象とするHDの予防または治療の方法であって、前記の治療用組成物を、有効量で必要とする対象にする方法を含む。
【0049】
治療への応用のため、核酸分子は核酸ワクチンもしくは免疫原性組成物、またはアンチセンス分子もしくはRNA干渉能を有する分子のような核酸エフェクタ分子の形態の、いずれかで用いられ得る。本願発明のポリペプチドまたはウイルスは、前記のポリペプチドもしくはウイルスワクチンまたは免疫原性組成物の製造へと治療応用され得る。抗体は、すでにCV感染が成立している場合の処置として治療応用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下の定義は、本願発明の実施態様の記述に用いられる用語に適用され得る。以下の定義は、参照によって本願明細書に含まれる個々の参照が含むいかなる矛盾する定義にも優先する。
【0051】
本願明細書に他に定義されない限り、本願明細書に関連して使用される科学的および技術的用語は、当業者に一般的に理解される意味を有するべきである。さらには、文脈で求められない限り、単数形の用語は複数形の意味を含み、複数形の単語は単数形の意味を含む。
【0052】
本願明細書で使用される「アジュバント」という用語は、免疫応答の非特異的な促進因子として働く物質を示す。適切なアジュバントは、RIBI adjuvant system(Ribi Inc.)、ミョウバン、水酸化アルミニウムゲル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン(例えば、Freund’s complete and incomplete adjuvants)、ブロック共重合体 (CytRx, Atlanta Ga)、SAF-M(Chiron, Emeryville Calif.)、 AMPHIGEN(登録商標)アジュバント、イオン性ポリサッカライド、サポニン、Quil A、QS-21(Cambridge Biotech Inc., Cambridge Mass.)、GP-0100(Galenica Pharmaceuricals, Inc., Birmingham, AL)、またはその他のサポニン画分、Procision-A(商標)(Quil A、AMPHIGEN(登録商標)、およびコレステロールの混合物を含むアジュバント)、モノホルホリル脂質A、アブリジン脂質アミンアジュバント、大腸菌(組み換え体またはその他)由来熱不安定性エンテロトキシン、コレラ毒素、またはムラミルジペプチド、その他多くが当業者に知られているが、これらに限らない。
【0053】
イオン性ポリサッカライドへの言及は、正もしくは負電荷のポリサッカライドまたはその誘導体もしくはその相当物への言及であると理解すべきである。前記イオン性ポリサッカライドは、可溶性または不溶性の形態であり得る。好ましくは、前記イオン性ポリサッカライドは、イオン性デキストランである。さらに好ましくは、前記イオン性デキストランは、DEAEデキストラン、デキストラン硫酸塩、またはQAEデキストランである。最も好ましくは、前記イオン性デキストランはDEAEデキストランである。好ましくは、前記イオン性デキストランのデキストラン構成成分は、分子量250,000ダルトンから4,000,000ダルトンの範囲および、より好ましくは500,000ダルトンから1,500,000ダルトンの範囲である。
【0054】
サポニンのアジュバント特性は、抗原に対する抗体の力価を増大させることができるとして、長らく知られている。本願明細書に用いられる場合、「サポニン」という用語は植物由来の界面活性グリコシドであって、親水性領域(普通はいくつかの糖鎖)と、ステロイドまたはトリテルペノイド構造の疎水領域の会合とで構成されるグリコシドのグループを指す。サポニンは多くの様々な原料より利用可能であるが、有用なアジュバント活性を有するサポニンは、南米の樹木Quillaja saponaria(Molina)に由来してきた。この原料に由来するサポニンは、「Quil A」(Dalsgaard, 1974)と表される「均一」な画分を分離するために用いられた。
【0055】
投与部位での反応性(Dose-site reactivity)は、ワクチン調製したQuil Aを使用する際、動物での使用および人間での使用の両方において主な懸念である。Quil Aのこの毒性を回避する一つの方法は、免疫刺激複合体(Iscoms(商標)として知られる、Immuno Stimulating COMplexesの略称)の使用である。これは、Quil Aが免疫刺激複合体に組み込まれた際に、Quil Aと複合体中のコレステロールとの相互作用がQuil Aの細胞膜中のコレステロールへの結合能を低下させ、それゆえにQuila Aの細胞溶解効果が低下することが、第一の理由である。さらには、同程度のアジュバント効果を生み出すのに要するQuil Aも少なくなる。
【0056】
免疫刺激複合体に組み込まれた際のQuil Aサポニンの免疫調節性、および、これらサポニンに由来するその他の利点は、様々な刊行物(例えば、CoxおよびCoulterの1992年の著書(Cox, J.C. and Coulter, A.R., “Advances in Adjuvant Technology and Application”, in Animal Parasite Control Utilizing Biotechnology, Chapter 4, Ed. Yong, W.K., CRC Press (1992))、1972年のDalsgaard、1974年のMoreinら(Morein et al., Australian Patent Specifications Nos. 558258, 589915, 590904 and 632067.))で記述されてきた。
【0057】
本願発明における有効なアジュバントおよび添加物の量および濃度は、当業者によって速やかに決定可能である。ある実施態様において、本願発明ではアジュバントを約50マイクログラムから約2000マイクログラム含む免疫原性組成物およびワクチンを考慮した。他の実施態様においては、アジュバントは、約100マイクログラムから約1500マイクログラム、または約250マイクログラムから約1000マイクログラム、または約350マイクログラムから約750マイクログラム含まれていた。他の実施態様においては、アジュバントは、免疫原性組成物またはワクチン2mlあたり約500マイクログラムの量が含まれていた。
【0058】
本願明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、天然に存在する、および、合成されたアミノ酸、同様に、アミノ酸アナログ、および、天然に存在するアミノ酸と類似の機能を有するアミノ酸模倣体を示す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号でコードされるアミノ酸、ならびに、のちに修飾を受けるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、カルボキグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。D-アミノ酸を例とする20種類の通常アミノ酸のステレオイソマー、α,α-2置換アミノ酸のような非天然アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、乳酸、および、その他の非通常アミノ酸は、本願発明のポリペプチドの適切な構成成分であり得る。例として、非通常アミノ酸は、4-ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、ε-N,N,N,-トリメチルリシン、ε-N-アセチルリシン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリシン、σ-N-メチルアルギニン、ならびに、その他類似のアミノ酸またはイミノ酸、を含む。
【0059】
アミノ酸アナログとは、天然に存在するアミノ酸と同様の基本的な化学構造、すなわち水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基が結合した炭素を有する化合物を示す。典型的なアミノ酸アナログは、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、およびメチオニンメチルスルホニウムを含む。このようなアナログは、ノルロイシンを例とする修飾されたR基や、修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様の、必須の化学構造を保持している。アミノ酸模倣体とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と類似の機能を有するものを示す。
【0060】
アミノ酸は、本願明細書において、一般的に知られている三文字表記、あるいは、IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission で推奨される一文字表記のいずれかで示され得る。
【0061】
本願明細書で使用される「抗体」または「抗体(複数形)」という用語は、エピトープの認識によって抗原に結合することができる免疫グロブリン分子を示す。抗体は、ポリクローナル抗体混合物またはモノクローナル抗体である。
【0062】
抗体は、天然物もしくは組み換え資源由来のインタクトな免疫グロブリン、または、インタクトな免疫グロブリンの免疫活性部位であり得る。抗体は、単鎖ばかりでなく、例えばFv、Fab’、F(ab’)2のような様々な形態で存在し得る。
【0063】
本願明細書で使用される「抗原」という用語は、一つまたは複数のエピトープ(直線、立体またはその両方)を含む分子を示しており、エピトープは抗原特異的な免疫応答を誘導する物質にさらされている。本願明細書で使用される「抗原」という用語は、弱毒化、不活化、および修飾された、生きているバクテリア、ウイルス、菌類、寄生生物、またはその他微生物を示し得る。本願明細書で使用される「抗原」という用語はまた、自然界で抗体と会合する生物個体と別個に離れている、抗原サブユニットを示す。本願明細書で使用される「抗原」という用語はまた、抗体、例えば、抗イディオタイプ抗体またはその断片、および、抗原または抗原認識部位(エピトープ)を模倣し得る合成ペプチドミノトープを示し得る。本願明細書で使用される「抗原」という用語はまた、DNA immunization applicationのような、in vivoで抗原や抗原認識部位を発現するオリゴヌクレオチドやポリペプチドを示し得る。
【0064】
本願発明のサーコウイルスは、ワクチン使用に先立って、「弱毒化」または「不活化」され得る。弱毒化および不活化の方法は、当業者にはよく知られている。弱毒化の方法は、安定細胞株の細胞の連続継代培養、紫外線照射、および化学的突然変異誘発を含むが、これらに限定されない。不活化の方法は、ホルマリン、ベータプロプリオラクトン(BPL)、もしくはバイナリーエチレンイミン(BEI)を用いた処理、または当業者に知られたその他の方法を含むが、これらに限定されない。
【0065】
ホルマリンによる不活化は、ウイルス懸濁液を37%ホルムアルデヒドと0.05%ホルムアルデヒド終濃度へと混合することで行うことができる。このウイルス-ホルムアルデヒド混合物を、室温でおよそ24時間一定に撹拌することによって混合する。その後、この不活化ウイルス混合物中の残存生存ウイルスを、安定細胞株での成長アッセイによって調査する。
【0066】
BEIによる不活化は、本願発明のウイルス懸濁液を0.1M BEI(0.175N NaOH中の2-bromo-ethylamine)と1mM BEI終濃度へと混合することで行うことができる。このウイルス-BEI混合物を室温でおよそ48時間一定に撹拌することによって混合し、続いて1.0Mチオ硫酸ナトリウムを終濃度0.1mMとなるように加える。さらに続けて2時間混合する。この不活化ウイルス混合物中の残存生存ウイルスを、安定細胞株での成長アッセイによって調査する。
【0067】
本願明細書で使用される「細胞株」または「宿主細胞」という用語は、ウイルスが複製および/または維持可能な、原核または真核細胞を意味する。
【0068】
本願明細書で使用される「免疫原性組成物」という用語は、対象中で免疫または抗原性応答を誘導することができる組成物を意味する。
【0069】
本願明細書で使用される「薬剤として許容される担体」という用語は、医学的判断の範囲で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答等がなく、ヒトまたは動物の組織と接触して使用するのに適し、利点と危険の比率が合理的に釣り合い、および使用目的にかなう効果を有する物質を示す。本願発明のワクチンは、一つまたは複数の薬剤として許容される担体を含み、担体には、あらゆる溶媒、分散媒、被膜、アジュバント、安定化剤、希釈剤、防腐剤、抗生および抗菌剤、等張剤、吸収遅延剤等があり得る。希釈剤には、水、生理食塩水、ブドウ糖、エタノール、グリセロール等が含まれ得る。等張剤には、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、および、ラクトースや、当業者に知られたその他のものが含まれ得る。安定化剤には、アルブミンや当業者たちに知られたその他のものが含まれる。防腐剤には、マーサイアアレイトや当業者に知られたその他のものが含まれる。
【0070】
本願明細書で使用される「ポリヌクレオチドまたは核酸分子」という用語は、鎖状に共有結合したヌクレオチド単量体から構成される有機高分子を意味する。DNA(デオキシリボ核酸)およびRNA(リボ核酸)は、異なる生物学的機能をもつポリヌクレオチドの例である。
【0071】
本願明細書で使用される「予防する」、「予防している」または「予防」等の用語は、微生物の増殖、微生物の感染、または宿主内で微生物の成立を抑制すること意味する。本願明細書で用いられるこれらの用語等はまた、一つまたは複数の感染の兆候または症状を抑制または抑止することを意味し得る。
【0072】
本願明細書で用いられる「治療剤」という用語は、対象に摂取することで免疫応答を誘発する微生物(あるいはその一部)、または抗原サブユニット、またはポリペプチド、またはポリヌクレオチド分子およびそれらの組み合わせを意味する。この免疫応答は、制限なく、細胞性および/あるいは体液性免疫の誘導を含み得る。
【0073】
本願明細書で用いられる「治療する」、「治療している」および「治療」等の用語は、微生物による感染を減らす、または取り除くことを意味する。本願明細書で用いられるこれらの用語等はまた、微生物の増殖、微生物の感染、または宿主内での微生物の成立能を減少させること意味し得る。本願明細書で用いられるこれらの用語等はまた、微生物による感染の、一つまたは複数の兆候または症状を減少、回復、もしくは除くこと、または、微生物感染からの回復を加速させることを意味し得る。
【0074】
本願明細書で用いられる「ワクチン」、「ワクチン組成物」という用語は、感染を予防もしくは減少、または、一つもしくは複数の感染の兆候または症状を予防もしくは減少させる組成物を意味する。通常、病原体に対するワクチン化合物の予防効果は、対象中での、細胞性もしくは体液性免疫応答の誘導またはその両方の組み合わせが誘導されることで達成される。一般的には、感染の発生が消失もしくは減少、兆候もしくは症状からの回復、または感染対象からの微生物排除の加速は、ワクチン組成物の防御効果を示している。本願発明のワクチン組成物は、サーコウイルス(CV)によって引き起こされる感染に対する予防効果を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、罹患仔ウシにおける出血部位を示す。A:頭部皮膚の局所的急性出血。乾燥した血液で、毛が小さな房状に固まっていた。B:下唇および歯肉の粘膜における点状および斑状出血。C:注射箇所および耳へのタグ装着以外に、外傷性の皮膚の傷の形跡がなかった。D:小腸および大腸の腸間膜における中程度の局所的出血。小腸の分節状の暗赤色の変色は、反芻胃内の重篤な出血による。E: 前足関節の皮下組織。皮下組織の出血は、骨の突起部分および身体で機械的に緊張する部位で最も頻繁にみられる。
【図2】図2は、汎血球減少症および出血性疾患(BNP)の仔ウシにおける、さらなる所見の頻度を示す。一部の動物は、いくつかのさらなる病変をしめした。異なる器官での炎症が頻繁にみられたが、調査動物中30%はさらなる病変を示さなかった。GIT:胃腸管。
【図3】図3は、脱灰、HE染色、100倍拡大後の、骨髄(胸骨)の組織学調査を示す。A:いくつかの巨核球(矢印)を含む造血組織を有する、3週齢の仔ウシの正常な骨髄。 B:造血組織の重篤に欠乏している、感染仔ウシの骨髄。ストロマ繊維芽細胞および脂肪細胞のみが残っていた。
【図4】図4は、出血性疾患の仔ウシ由来のサンプルでのサーコウイルスDNAの検出結果を示す。骨髄(lane 3,5,9-12)、血液(lane 4および8)、肝臓(lane 6)、または腎臓(lane 7)の仔ウシから抽出したDNAについて、Nested broad-spectrum PCRを実施した。仔ウシの番号はlane上部に示した。Neg:陰性対照抽出物、Pos:PCR陽性対照、M:分子量マーカーで、大きさは左側にbp単位で示した。二次PCR産物はおよそ350bpで、エチジウムブロマイド染色アガロースゲルで分離した。
【図5】図5は、仔ウシ番号1の胸骨における、免疫組織化学でのPCV2特異的抗原の検出結果を示す。ひとつひとつの骨髄細胞が、低程度から中程度の微細な顆粒状の細胞質染色を示した。バーは100マイクロメートル。
【図6】図6は、ドイツの仔ウシで検出されたサーコウイルスPCV-HA08と、ブタサーコウイルス2型系統との系統学的関係を示す。系統樹はPCV2a、PCV2bおよびPCV2c(太字)、カナダウシサーコウイルス(BCV)、ならびに、BLAST検索でPCV2-Ha08と最も密接に関連することが判明した10種類のサーコウイルスで構築された。PCV2-HA08は、矢印で印をつけている。配列のGeneBank accession numberは括弧内に示す。系統樹の縮尺は、ヌクレオチドの置換を単位としている。
【図7】図7は、非公表のGeneBank entry Accession No.FJ804417による、PCV2系統Ha08のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を示す。
【図8】図8は、非公表のGeneBank entry Accession No.HQ231329による、PCV2系統Ha09のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を示す。
【図9】図9は、非公表のGeneBank entry Accession No. HQ231328による、PCV2系統Ha10のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を示す。
【図10】図10は、プロトタイプ種非依存的PCV2酵素結合免疫測定法(ELIZA)による血清分析結果を示す。実線はブタPCV2陰性血清、破線はブタPCV2陽性血清、点線はウシBNP血清を表している。
【実施例】
【0076】
<材料と方法>
<事歴>
2007年10月から2009年5月の間、ドイツのバイエルンの45の乳牛酪農場で、56個体の仔ウシに出血性疾患が発生したことが、死体解剖によって示された。医療記録では、年齢、性別、および系統を精査されていた。畜産従事者は、仔ウシの過去の病気や過去の病気治療、仔ウシの給餌、カビでの飼料の汚染またはワラビの汚染、および殺鼠剤の使用について質問を受けた。
【0077】
HDS(BNP)症例と対照動物群は、表1によって番号付けされる。対照群の動物は、文中でそのように明記されている。
【0078】
出血性疾患以外の理由で病理学検査に送られた8個体の仔ウシは、対照群として、サーコウイルス特異的PCR(表1に列挙)に含まれている。対照番号1は、2例の出血性疾患として同一の家畜類に属し(番号11および15)、出生後まもなく不明の理由で死亡した。この症例においては、感染性因子が検出されなかった。7個体のウシは、日齢によって対照群に含まれており、重篤な多発性関節炎または腸炎を患い、1か月以内に死亡した。対照群の個体にはいずれも、骨髄欠乏の兆候は見られなかった。
【0079】
<組織病理学>
死体解剖検査を受けたすべての個体、並びに、大腿骨および胸骨の骨髄、肺、肝臓、腎臓、脾臓、および、リンパ節を含む標準的な一連の組織が、組織病理学調査のために収集された。さらなる組織病理学的発見次第で、必要に応じてさらなるサンプルが収集された。器官組織標本は、10%ホルマリンバッファーで固定した。胸骨の骨髄標本は、Ossa Fixona(登録商標)(Waldeck, Munster, Germany)で一晩脱灰した。続く行程で、パラフィン浸透、4マイクロメートル厚切片の作製および、ヘマトキシリン-エオシン(HE)染色を行った。
【0080】
<免疫組織化学>
免疫組織化学(IHC)は、4ミリメートルのパラフィン切片をSuperfrost(登録商標) Plus glass slidesにマウントして行われた。2個体の感染仔ウシの骨髄、脾臓、およびリンパ節に対し、PCV2のVP2タンパク質(ORF2)に結合するマウスモノクローナル抗体36A9(Ingenasa, Madrid, Spain)を用いた。抗体の反応性は、免疫組織化学試験とPCRによってPCV2感染が確認されたブタより採取した、リンパ節およびPeyers Pitxhesの切片で毎回評価した。染色前処理は、切片からの脱パラフィンのためのキシレン洗浄、および、内在性の組織ペルオキシターゼ活性を停止させるための、3%過酸化水素処理に続いて、再水和のための一連の段階的エタノール洗浄を含む。染色は、Histstain(登録商標)-Plus Bulk Kitおよびクロモゲン試薬であるAEC Single Solution (Invitrogen(商標), Camarillo, CA, USA) を、使用説明書に従って用いて行った。最後に、Mayer’s haematoxylinを用いて、切片をカウンターステインした。
【0081】
PCV2陽性として分類されるスライドは、顆粒状に鮮やかな赤色の細胞質内が観察され。
【0082】
<血液学>
EDTA血液サンプルは5症例(番号2, 53-56)より利用可能で、血液分液は採取後48時間以内に行われた。全血球数計算は、白血球数計算、血小板計算、ヘモグロビン値、および、CELL-DYN(登録商標)3500装置(Abbot, Wiesbaden, Germany)を用いた赤血球のパラメーター測定を含んだ。顕微鏡法は、血球計算器状の血小板数を特定するために用いた。
【0083】
<毒性学>
以下のサンプルを特定の毒物について試験した。症例番号21および22の尿および血液サンプルを、ジクロロビニルシステイン(DCVC)とその代謝を検出するための特定の方法で分析した。ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー(GC-MS)法は、症例番号25の尿サンプルおよび症例番号8の腎組織中において、揮発性有機化合物、クマリン誘導体お、および、スルホアミドのような化学療法薬の検出、に用いられた。3症例(番号23、34、および36)の尿および肝臓サンプルでは、GC-MS法およびハイパフォーマンスリキッドクロマトグラフィー(HPLC)法を用いて、医薬の試験が行われた。飼料サンプル(サイレージ、乾草、大豆抽出飼料および麦わら)は、2症例(ウシ番号1および2)の酪農場より採取された。麦わらのサンプルは灰色がかった変色とカビ臭があったため、疑わしかった。Aflatoxin B1およびStachybotrys chartarum毒に関して、マイコトキシン調査および細胞傷害性試験を行った。マイコトキシンの存在を明らかにする試み(Fumitrenmorgen C、 Verrucologen、 Aflatoxin B1、 Fumagillin、 Gliotoxin、 Verrucarol NH4+、 Deoxynivalenol、 Nivalenol、 Zearalenon、 Satratoxin G、 Satratoxin H、 Verrucarin A、 Roridin A、 Roridin L、 Satratoxin F、 およびVerrucarin J)は、LC-MS/MS分析を用いており、近年出版された(Gottschalk, et al., 2008)行った。細胞傷害性(MMT)分析は、Reubel et al.,(1987)の方法に従って行った。
【0084】
<微生物培養>
本調査におけるすべての動物および対照群の標準的な一連の器官(肺、肝臓、脾臓、腎臓、および、小腸)、および、組織病理学的発見に伴う追加のサンプルで、バクテリアの存在を調査した。各サンプルに、5%脱線維ヒツジ素血とColumbia blood agar、および、Water-blue-metachrome-yellow lactose agarを接種することによって調査した。Brain-heart-infusion-agarおよびchocolate-agarは、肺中の微好気性細菌の検出に用いた。嫌気性試験には、Zeissler agarを用いた。サルモネラは、ペプトン水およびXylose lysine deoxyxholate agarで前濃縮後、Rappaport-Vassilioadis培地で単離された。
【0085】
<ウイルス学>
すべての感染動物の腎および甲状腺組織について、診断キット(Bio-X Diagnostics, Jemelle, Belgium)を使用説明書に従って用いた直接免疫蛍光分析によって、BVDVの存在を試験した。BVDVの単離のため、単層のウシKOP-R細胞(RIe244, CCLV Federal Research Centre for Virus Diseases in Animals, Island of Riema, Germany)に、器官破砕物を接種した。細胞変性によって細胞は日常的に選別された。2継代目の後、BVDV特異的抗原(SERELISA BVD p80 Ag Mono Indirect, Synbiotics, Lyon, France)の検出のため、記述通りに直接免疫蛍光分析、および、間接ELISAで試験した。BVDV特異的nt配列の証明のため、RNeasy Mini Kit(Qiagen, Hilden, Germany)を用いて組織よりRNAを抽出し、および、市販のリアルタイムPCRプロトコール(Viotype BVDV Kit; Labor Diagnostik Leipzig, Leipzig, Germany)を、使用説明書に従って行った。
【0086】
BTV特異的配列の検出のため、24すべてのBTV血清型(Toussaint, et al., 2007)に及ぶリアルタイムPCRを、すべての感染仔ウシの脾臓組織から抽出したRNAについて行った。
【0087】
PCV2を含む哺乳類および鳥類のサーコウイルス群の検出のため、調査群の合計56個体の仔ウシから、25個体(症例番号1、2、4-13、5-22、31、34、41、42、45)を無作為に選択した。対照群のすべての仔ウシ(対照番号1、2、その他、とする)についても調査した。High Pure PCR Template Preparation Kit (Roche, Mannhein, Germany)を用いて血、骨髄、脾臓、胸腺、腎臓、および肝臓を含む組織からのDNAを抽出し、近年記述されたように(Halami, et al., 2008)nested broad spectrum PCRの手順を用いた。PCV2の特異的検出に日常的に適用された、さらなるPCR手順は、Bogner et al.(2005)に従って行った。PCR分析の間、実験室のDNA汚染を除くための事前予防を行った。DNA抽出、PCR mastermixの調製、および、PCR産物の分析は、分かれた部屋で異なるピペットのセットと専用のフィルターチップにて行った。各々の一連の反応は、汚染を選別するために、陰性の対照試薬および陰性の対照抽出物を用いて行った。当該実験室では、本調査の開始に先立ってPCV2感染の日常的なPCR診断を行ったことはない。
【0088】
<サーコウイルス全ゲノムの増幅>
検出されたサーコウイルスの完全なゲノム配列は、一対の逆向きのプライマー(5’-AGC TCC ACA CTC GAT CAG TAAG-3’(配列番号5))および5’-CCT AGA TCT CAG GGA CAA CGG AG-3’ を用いて、PCRで増幅した。このプライマーは、nested broad spectrum PCRによって増幅した配列に従って設計した。増幅は、High Fidelity PCR Enzyme Mix(Fermentas, St. Leon-Rot, Germany)を用いて以下のサイクル条件で行った。最初の変性が95℃で5分間、続いて95℃で30秒間、58℃で30秒間、70℃で4分間を35サイクル、および最後の伸長は70℃で10分間行った。DNA配列決定および系統学的な分析には、GeneJET PCR Cloning Kit (Fermentas, St. Leon-Rot, Germany)を用いてPCR産物をクローン化した。プラスミドの挿入配列は、pJet1 forward およびpJet2 reverse(Fermentas, St. Leon-Roth, Germany)、または、特異的プライマーを用い、ABI Prismの装置(Applied Biosystems)で配列決定した。検出されたサーコウイルスの完全なゲノム配列を、EditSeq module of the Lasergene DNASTAR ソフトウェアパッケージ(DNASTAR, Inc., Madison, WI, USA)を用いて配列断片から再構成し、続いてGeneBankデータベースにて、受入番号FJ804417で保管した。配列の類似性検索は、BLAST 2.2.14検索機能を用いて行った。配列のアラインメントおよび系統樹の構築は、前記で述べたソフトウェアパッケージのMegAlignモジュールを用いて、CLUSTAL W法(Thompson, et al., 1994)にて行った。株表示およびGeneBank受入番号は、図6に表した。
【0089】
<系統分析>
すべてのウシ及びその両親は、耳のタグによって特定および追跡した。すべての症例の系統は、ドイツおよびオーストリアのjoint breeding evaluation に使用された系統より構築した。系統のグラフィック表示は、Pedigraph TMソフトウェアで行い、一度より多く雄親となった個体を特定した。
【0090】
<結果>
調査した仔ウシの86%(n=48)はジメンタールウシ、4%(n=2)がホルスタインフリージアンウシ、および、11%(n=6)が雑種または不明の系統であった。死亡時の日齢は7から32日(平均17日)であった。85%の仔ウシが、生後2週から3週で発病した。雌雄の仔ウシは等しい割合で感染した。病歴のレトロスペクティブ分析で、仔ウシは出生時および産後1日間は健康であったことが分かった。畜産従事者と担当医は、何ら明らかな外傷のない自然発生的な経皮性出血および粘膜表面での出血、ならびに、外傷、または、耳へのタグ装着もしくは注射等の標準的管理に関連する過剰出血をいくつか報告した。発熱、下痢、または呼吸困難のようなさらなる兆候が時々記録された。出血は、酪農場内の1頭または2頭の仔ウシに、不定期現れるように思われた。医学的処置は成功しなかった。ほとんどの仔ウシは、数日中に死亡(n=50)、または失血の結果安楽死処置された(n=6)。
【0091】
すべての仔ウシは、出生後初日に初乳を摂取している。その後、殆どの畜産従事者は、自らが所有するウシ由来の全乳を餌として与えた。概して、出血の最初の兆候が表れえるまで、仔ウシは治療されず放置されたままであった。何頭かの仔ウシは、予防薬を与えられたか、または、急性の下痢のため、Cryptosporidiaに対するハロフジノンでの治療を受けた。ドイツでは、ワラビは、穀物飼料のごく少ない割合の成分に過ぎないため、ワラビの汚染による問題は報告されたことがなかった。殺鼠剤は酪農場で使用されていたが、畜産従事者らはウシまたは仔ウシによる経口摂取の可能性を排除していた。わずか一人の畜産従事者が、カビの生えた飼料による仔ウシの健康問題を経験したことに言及したにすぎなかった。
【0092】
<系統分析>
すべての仔ウシの系統図を構築した。仔ウシの家系は様々で、疾患の遺伝的単一要因(劣性または優性)はなかった。例え何頭かの雄親が数回示されても、仔ウシの数が少なすぎたため、この分析から意味のある結果を得ることはできなかった。
【0093】
<肉眼所見>
死体解剖において、調査群の56個体の仔ウシは、日齢によって体重38から72kgの間(平均53kg)で、栄養状態はよかった。ほとんどの動物は、第四胃に凝固した乳が含まれており、および、第一胃にいくらかの麦わらが見られた。ワラビのような有毒植物の接取を示すものは全くなかった。56すべての症例の重要な病理組織学的所見は、様々な器官や組織での重篤な急性の出血であった。動物の88%は、多発性の点状から斑状の出血が、皮膚や皮下組織にみられた。胃腸管の粘膜および漿膜表面での出血は、いくつかの場合は重篤なメレナの症状とともに、かなりの頻度で起こった(98%)。さらには、心臓、髄膜、骨格筋での出血はよくみられる所見であった(84%以下)。出血の例を図1に示している。長骨および胸骨の骨髄は淡赤色であった。出血の長さや激しさによっては、死体は貧血のように見えた。
【0094】
炎症性病変はさらなる散発的な所見である。線維性または化膿性肺炎(合計27%)、および、口腔の局所的な潰瘍性から壊死性炎症(合計11%)は最も頻繁に観察された。さらなる病理学および組織学的な所見を、図2に挙げる。
【0095】
<組織病理学>
主な組織病理学的所見は、56の動物個体各々の、骨髄における顕著な低細胞-無細胞造血組織である。造血系はすべて同様に感染していた。いくつかの症例では、小島状の造血組織が残っていた(図3)。これらの場所には、局所的な変性や前駆細胞のアポトーシスがしばしば存在した。ストロマ細胞間の間隙は、充血、または、均一な好酸性物質が詰まっていたか、または造血組織が脂肪組織に置き換わっていた。56症例中、わずか5例(9%)で、髄膜外での造血の徴候が示された。出血箇所は、さらなる変化を何ら示さず、このことは、血管炎、炎症反応、または組織破壊などの、先の組織傷害による出血傾向を説明し得るものであった。症例の43%(n=24)では、リンパ濾胞におけるアポトーシスリンパ球の増加、または、小濾胞を伴う脾臓ならびに、リンパ節の低細胞密度として、リンパ組織の病変が明らかになった。これらの変化は、リンパ球減少と、まとめられる。偶発的および稀な所見は、リンパ管組織の少数の多核巨細胞の存在であった(n=2)。いくつかの口腔内潰瘍性病変における細胞の炎症性反応は、ほとんど全く好中球がなく、主に単核細胞から構成される。同様に、いくつかの線維性肺炎の症例では、炎症性滲出物はほとんど好酸球がない大量のフィブリンから成っていた。また、さらなる組織学的所見を図2に示す。黄疸または溶血の徴候はなかった。封入体は、造血組織またはリンパ組織中に認められなかった。
【0096】
<血液学>
EDTA血液は5症例より利用可能であった(番号2、53から56)。血液分析では、重篤な血小板減少症(12.5-82×103細胞/マイクロリットル)、中程度の白血球減少症(285-1.470細胞/マイクロリットル)、および、中程度の相対的リンパ球増加症が5症例すべてで明らかになった。さらには、これらのうち4症例は、好酸性顆粒の顕著な減少(顆粒球減少症、1-4%)を示していた。3症例は貧血であった。2症例のヘマトクリット値は、生理学的な限度の範囲内であった。詳細な血液学検査の結果は、表2に示す。
【0097】
<毒性学>
症例番号8および25の尿および腎組織の毒性学的スクリーニングは、トリクロロエチレン、抗凝固剤またはスルホアミドなどの物質の摂取の徴候を示さなかった。症例番号23、24、および36の尿および肝臓サンプルでは、抗生物質フラゾリドンはHPLC法で検出されなかった。しかしながら、症例番号23および24ではメタミゾールが、ならびに、症例番号36では、スルファメサジンおよびトリメトプリムの組み合わせが発見された。これらの結果は、死亡直前の治療投与の結果であると解釈される。加えて、DCVCの特定のための特殊な方法を用いた、2症例より採取した尿および血液サンプル、ならびに、その代謝物であるN-acetyl-DCVCの分析は、陰性の結果であった。
【0098】
ある酪農場より収集した麦わらの状態は、カビ汚染の可能性を示唆したが、マイコトキシンは検出されなかった。細胞毒性分析もまた、陰性の結果を示した。
【0099】
<微生物培養>
出血性疾患のすべての仔ウシで、潜在的な病原性バクテリアの存在を試験した。いくつかの症例において、一つ以上の病原体が検出された。大腸菌(E. Coli)(n=29)が最も頻繁に検出され、続いてC. perfringens(n=14)が腸およびその他の器官で検出された。P. multocida(n=3)およびP. aeruginosa(n=3)が少数の症例で検出された。M. haemolytica、Pseudomonas spp.、Staphylococci、Nocardia spp.、および、Salmonella entericaは、1個体にのみ発見された(各々n=1)。16症例では、バクテリア性病原体は全く検出されなかった。
【0100】
出血性疾患の仔ウシの26症例は、さらなる炎症性病変を示した(図2)。肺炎が最も頻繁に見られた(n=15)。ここで、大腸菌(E. coli)は、9症例の肺組織から分離された。P. multocidaおよびP. aeruginosa、S.aureusおよびS.uberis、または、Nocardia spp.は1症例の肺組織で検出された。肺炎のその他3症例の肺組織においては、病原体は単離されなかった。大腸菌(E. coli)(n=2)およびC. perfringens(n=1)の感染による腸炎が、3症例で診断された。
【0101】
<ウイルス学>
出血性疾患のすべての動物について、BVDVとBTVを試験した。これらのウイルス因子いずれについても、ウイルス抗原もウイルスゲノムの存在も、示すことができなかった(データは非公表)。
【0102】
25症例(番号1、2、4-13、5-22、31、34、41、42、45)より採取された器官組織で、サーコウイルスゲノムのORF-V1の結合サイトに対するプライマーを使用した、nested broad-spectrum PCRによってサーコウイルスDNAの存在を調査した。試験したいくつかのサンプルは陽性で、アガローズゲル電気泳動で、予想されるおよそ350bpの長さのバンドが明らかになった。図4では、症例2の陰性の骨髄サンプル(lane 3)を示している一方、血液サンプルの分析時には予想される大きさのはっきりしたバンドが形成された(lane 4)。
【0103】
症例4では、骨髄、肝臓、腎臓、および、血液が陽性であった(lanes 5-8)。その他の仔ウシより採取したサンプルを調査した際には、より弱いバンドが検出された(lanes 9、10、および12)。その他は陰性のままであった(lane 11)。
【0104】
合計で、調査群の25症例中5症例(番号2、4、5、7、17)、および、8の対照群中1例がサーコウイルスPCRで陽性であった。3サンプル(仔ウシ番号2、4および17)のPCR産物の配列を決定し、Genebankデータベース上に存在するPCV2のヌクレオチド配列と比較して、99%の同一性を得た。調査中の25サンプルの中からサーコウイルス特異的PCRの陽性の5サンプル、さらに陰性のサンプルから無作為に選んだ4つを別の実験室に送付した。通常使用されていたPCV2特異的PCRのプロトコールでは、すべての症例で陰性の結果となることが明らかになった(データは非公表)。
【0105】
<PCV2-08系統の全ゲノム配列分析>
PCR産物の配列に基づき、骨髄、肝臓、腎臓、および、血液で陽性であった症例4のサンプルにおいて存在する、サーコウイルスの全ゲノムを増幅することができる逆方向のプライマーを創出した。この系統をPCV2-Ha08であるとし、完全に配列を決定した。PCV2-Ha08ゲノムは1768ヌクレオチドの長さである。配列分析では、PCV2 Repおよびカプシドタンパク質およびORF3産物と類似性のある3つのORFが明らかになった。ステムループ構造は11bpの大きさで、保存された9量体の配列を含んでおり、明らかに非コード領域1(NCR1)である。
【0106】
PCV2-Ha08ゲノム配列とGeneBankデータベース上の配列との配列類似性検索では、デンマークのブタに由来するPCV2単離体DK558control(EF565365)との最高度の同一性(99%)が明らかになった。Rep、Cap、およびORF3産物の推定アミノ酸配列と、選択されたブタおよびウシのサーコウイルスのアミノ酸配列の比較では、68.5%から100%の同一性が明らかになった(表3)。すべての症例において、PCV2-Ha08はPCV2b系統と密接に関わっており、単離体DK558control(EF565365)との最も高い割合の同一性を示した。
【0107】
系統分析を、PCV2-Ha08の全ゲノム配列、ウシサーコウイルス(AF109397)、最も高い配列類似性を共有する10種類のサーコウイルス(BLAST検索によって決定)、ならびにサブタイプPCV2a、PCV2b、および、PCV2cと定めた3つの参照系統を用いて行った(Segales, et al., 2008)。系統樹に示すように(図6)、PCV2-Ha08は明らかにPCV2bサブタイプ内のクラスターであるが、しかしながらこのグループ内とは別の枝を形成する。一方、以前にカナダでウシでの感染が記述されていたウシサーコウイルス(AF109397)は、PCV2aと同じクラスターである。
【0108】
PCV2-Ha08の3つのオープンリーディングフレーム(open reading frame)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を図7および配列表に示す(配列番号1、2、3、および4)。
【0109】
< PCV2-Ha09およびPCV2-Ha10の単離>
二つのさらなる単離体を前記に記述されたプロトコールに従って得た(「サーコウイルス全ゲノムの増幅」の節を参照)。
【0110】
一つの単離体は、ウシ新生仔汎血球減少症(BNP)の徴候で死亡したバイエルンの仔ウシの血液から得られており、PCV2-Ha09とし、完全に配列決定した。PCV2-Ha08系統に類似して、PCV2-Ha09ゲノムは1768ヌクレオチドの長さで、PCV2-Repおよびカプシドタンパク質およびORF3産物に類似した3つのORFを含む。
【0111】
同様にBNPで死亡したサクソニアの仔ウシの肺および脳由来の単離体を、PCV2-Ha10とし、完全に配列決定した。PCV2-Ha10ゲノムは1767ヌクレオチドの長さで、PCV2-Ha08およびPCV2-Ha09のように、PCV2-Repおよびカプシドタンパク質およびORF3産物に類似した3つのORFを含む。
【0112】
PCV2-Ha09およびPCV2-Ha10のヌクレオチド配列、ならびに、PCV2-Ha09およびPCV2-Ha10各々の3つのオープンリーディングフレームのアミノ酸配列を、図8および図9、ならびに、配列表に示す(PCV2-Ha09:配列番号7、8、9、および、10、PCV2-Ha10:配列番号11、12、13、および、14)。
【0113】
<免疫組織化学>
免疫組織化学(IHC)は、2症例(番号1および3)の骨髄、脾臓、肝臓、リンパ節の組織切片について、PCV2抗原を検出するために行った。症例1のひとつひとつの骨髄細胞が、中程度の免疫応答性を示した。症例3のすべての組織、および、症例1リンパ組織はPCV2抗原陰性であった。
【0114】
<ウシにおけるPCV2抗体の検出>
ウシ新生仔汎血球減少症(BNP)感染した仔ウシにおける、PCRによるPCV2の検出で、BNP発病機構におけるPCV2の役割に疑問が生じた。もしPCV2がBNP発病における主要なプレーヤーであれば、感染群においてPCV2特異的抗体応答を検出することができるべきである。我々は、競合的アプローチ、すなわち、PCV2-ORF2抗原で覆ったELISAプレートを、血清/PBS希釈液(1/2、1/20、1/200、1/2000、1/20000)と共に、37℃、90分間加湿チャンバー内でインキュベートし、ウシにおけるPCV2特異的抗体の検出を試みた。試験プレートはPBSで3回洗浄した。抗PCV2モノクローナル抗体(mab)ホースラディッシュペルオキシターゼコンジュゲートをPBSで1/500希釈し、試験プレートに加えた。さらに37℃、90分間、加湿チャンバー内でインキュベートした。試験プレートをPBSで洗浄後、基質(TMB/H2O2)を加えた。H2SO4の添加によって発色を停止し、450nmにおける吸光度(OD)を測定した。参照として、二つの市販の試験キットの陽性対照を含んでいた(Synbiotics, Ingenasa)。血清なし(PBS)のウェルを陰性の参照とした。PCV2陰性の仔ブタ由来の2つの血清、PCV2陽性の仔ブタ由来の5つの血清、および、BNP感染群由来の3つのウシ血清が含まれた。結果を図10にまとめる。1/20希釈以降のPCV2陰性および陽性ブタ血清は、明らかに区別できた。BNP感染群のウシ由来の3つの血清は、用量依存的にPCV2特異的mabへの結合を阻害した。ブタ血清に関しては完全な阻害は観察されなかったが、阻害はその陽性対照を超えた(e.g. Ingenasa PC OD=0.343)。これらのデータは、ウシにおけるPCV2特異的免疫応答を強く示唆する。
【0115】
<考察>
ここで、我々は仔ウシにおける出血性素因(HD, 出血性疾患症候群(HDS)またはウシ新生仔汎血球減少症(BNP)としても表される)について記述する。この出血性疾患は、以下の臨床的、病理学的、および、組織学的診断基準によると、他の出血性疾患とは区別することができた。つまり最も顕著な臨床的徴候は、明らかな外傷のない自然発生的な経皮性の出血、粘膜表面の出血、および、標準的管理手順に関連した大量出血であった。一貫して、出血性疾患は、生後一か月以内の若い仔ウシで表れることが明らかになった。重篤な骨髄低形成から形成不全がすべての症例で見られた。これらの5個体で再生不良性の汎血球減少症の徴候を示しているという血液学的結果は、この所見を支持するものである。結果として起こる血小板減少症は出血性疾患を引き起こし、疾患の主要な病理学的機構を表していると考えられる。さらには、血液学的結果は、中程度から重度の白血球減少症および顆粒球減少症を明らかにした。この所見は、すべての動物で見られた重篤な骨髄欠乏、および、43%の動物で見られたリンパ組織の欠乏と一致する。増殖性のリンパ球欠乏は、免疫抑制をひきおこすと考えられる。このことは、肺炎および潰瘍性口内炎などの病変、ならびに、これらの病変組織でのいくつかの症例における炎症性細胞の欠乏が頻繁に起こることを説明し得る。
【0116】
骨髄破壊に続く、臨床的徴候の始まりは、血液循環中の血球特に血小板の半減期に大きく依存する。ウシ赤血球は120日間という長い寿命のため(Leosch, et al., 2000, Valli, 2007)、出血によって悪化しない限りは、貧血は著しくは重要ではない。血液循環中の血小板の寿命はわずか9日、および、好中球の半減期はわずか8-9時間で、さらに短い(Paape, et al., 2003, Valli, 2007)。これらの要因を考慮に入れ、我々は、破壊的損傷が新生仔ウシに起こっているという仮説を立てた。
【0117】
HDの病因を評価するため、血小板減少症による、仔ウシにおける出血のいくつかの原因を調査した。遺伝性の出血素因はジメンタールウシについて記述されており、ジメンタール遺伝性血小板減少症として知られている。これは血小板の明らかな機能不全によって引き起こされる(Steficek, et al., 1993)。ここで、ほとんどの症例でジメンタール仔ウシが感染していたが、2個体のホルスタインフリージアンウシも同様の病変を示した。南ドイツでは、ジメンタールウシは最も一般的な系統であり、そのために、本調査では大きな比率を占めた可能性がある。別個の系統における、疾患の特徴的な臨床像および系統分析の結果、常染色体上の優性または劣性の遺伝性疾患の徴候は全く示されなかった。しかしながら、本調査の動物数は、現在のところ最終的見解を下すには不十分である。
【0118】
細胞非壊死性の2型BVDVの感染は、血小板減少症による重篤な出血傾向をもたらし得る(Ellis, et al., 1998, Rebhun, et al., 1989)。現在の見解は、骨髄細胞のmaturation poolの減少、血液循環する血小板数の減少、および、出血の一因となる血小板機能の変化、である(Ellis, et al., 1998, Walz, et al., 2001, Wood, et al., 2004)。しかしながら、BVDV感染では、骨髄細胞質は減少していない。一方、重篤な骨髄欠乏は、本調査で報告された症例において一定の所見であった。さらには、調査中のどの仔ウシでもBVDVは検出されなかった。この点から、BVDV感染は除外するのが妥当であると思われる。
【0119】
いくつかの毒物およびマイコトキシンは、仔ウシにおける出血を引き起こすことが知られている。罹患牛の病歴および飼育の情報からは、個々の症例における中毒、例えばマイコトキシンまたは薬物による、の可能性を示唆するものをいくつか得た。しかしながら、感染がおこったすべての酪農場に適用できて、特定の毒物を疑うことのできる情報には、一貫性がなかった。それにもかかわらず、いくつかの無作為な毒物テストが実施され、依然として陰性であった。特に、S-(1,2-Dichlorovinyl)-L-cysteine(DCVC)またはフラドリゾンによる中毒は、両方とも骨髄形成不全および出血を引き起こし、観察された病変に合致する。仔ウシに餌として与えられるトリクロロエチレン抽出大豆油飼料は、高い摂取量で、致命的な再生不良性貧血および腎障害を引き起こす。DCVCはトリクロロエチレンの代謝物であり、このentityにおける毒物の要素である。実験的には、低用量DCVCの10日間の投与(一日当たり0.4mg/kgの静脈内投与)は、顕著な無細胞骨髄および過剰出血をもたらした(Lock et al., 1996)。現在は、大豆油の抽出には、トリクロロエチレンの代わりにヘキサンが用いられている。合計4個体の、血液、腎組織および尿におけるトリクロロエチレン、DCVCおよびその代謝産物であるN-acetyl-DCVCの血液試験は、陰性の結果であった。抗生物質フラゾリドンは、ヒトおよび動物において、バクテリアおよび原虫の感染を治療または予防するために用いられる。実験的には、一日当たりの用量で、体重1キログラム当たり4.0から8.0mgのフラゾリドンをミルク食の仔ウシに投与すると、重篤な骨髄欠乏による、致命的な出血素因が引き起こされる(Hoffman-Fezer, et al., 1974, Hofman, et al., 1974)。国際評議会の規則によれば、食料生産動物へのフラドゾリドンの投与は禁止されている。いずれにせよ、3個体のウシが調査され、フラゾリドンに関しては陰性のであることが証明された。
【0120】
ワラビの経口摂取(Peteridium aquilinum)は、草食動物において中毒徴候を引き起こす。仔ウシにおける急性ワラビ中毒は、再生不良性の汎血球減少症につながる不可逆的な骨髄形成不全を引き起こす。常習的な摂取は風土病の血尿につながり、ならびに、下部尿路および消化管の腫瘍に関連している(Maxie and Newman, 2007, Valli, 2007)。また、Stachybotrys chartarumのマイコトキシンでの中毒も、反芻動物およびウマにおける汎血球減少症でとして記述されている (Harrach, et al., 1983、Valli, 2007)。ワラビ中毒およびStachybotrys中毒は、これらの症例には当てはまらないと考えられ、それは、あらゆる日齢、および、特に食物繊維を含む餌を与えられている動物に徴候が現れるはずだからである。本調査において、飼料のサンプルは試験でマイコトキシン陰性であり、仔ウシおよびウシによるワラビ摂取の徴候は見られなかった。
【0121】
特発性の血小板減少性紫斑病は、ウシにおいて稀な状態であることが記述されている(Yeruham, et al., 2003)。この自己免疫疾患の原因は、免疫介在性血小板破壊であり得る(Lunn and Butler, 1991)。報告された血小板減少性紫斑病の症例は、パピローマウイルスおよびクロストリディアそれぞれに対する、近年の多価ボツリヌス毒素ワクチン接種、または、不活化ワクチンと関連していた(Lunn and Butler, 1991, Yeruham, et al., 2003)。本調査の仔ウシはワクチン接種していなかった。さらには、骨髄破壊の発生は、記述されている、ウシにおける免疫介在性血小板減少症とは一貫性がなかった。P.multocida BまたはE型の感染は、仔ウシにおいて出血性敗血症を引き起こすことが知られている(Rimler , 1978)。内毒素は、この感染の発症に主要な役割を果たす(Horadagoda, et al., 2001)。本調査において、P.multocidaはわずか3個体の仔ウシに存在するのみであった。型の分類は行われなかった。我々に調査において、器官サンプルの微生物学調査では、罹患ウシには広範囲の病原菌が潜在的に存在することが明らかになった。しかしながら、特定の病原菌が出血性疾患に関与しているという一貫した証拠を見つけることができなかった。全症例中29%(n=16)では、病原菌が検出されなかった。単離されたバクテリアが17個体では、肺炎または腸炎などのさらなる炎症性病変と関連していた。これらの仔ウシにおけるリンパ組織および骨髄の欠乏は、免疫抑制や二次感染に関連する、重篤な白血球減少症および顆粒球減少症につながると推測される。
【0122】
臨床的に罹患した何頭かの仔ウシから、PCRを用いてサーコウイルスを検出した。仔ウシにおけるサーコウイルス感染は、現在までのところ納得できる記述はなされていない。サーコウイルス特異的抗体を用いた血清学調査では、矛盾する結果となった(Allan, et al., 2000, Ellis, et al., Tischer, et al., 1995)。PCV2に密接に関連しているサーコウイルスが、ウシの肺組織および胎児で検出することができたことを示しているのは、わずかひとつの出版物だけである(Nayar, et al., 1999)。PCR結果の解釈は、特にDNA汚染の点においてしばしば困難である。しかしながら、本調査において、我々は、実験室DNA汚染を除くために、厳密な管理体制を実施した。一つのサンプルからPCV2全ゲノムの増幅に成功したことは、短いPCR産物による汚染に反論するものである。日常的PCV2特異的PCRプロトコールでの陰性の結果は、broad spectrum PCRのnestedプロトコールと比べてこのプロトコールの感度が低いことで説明され得る。
【0123】
サーコウイルスPCV2-Ha08の全ゲノム配列の分析で、PCV2bとの密接な関連が明らかになった。GeneBankデータベースで利用可能であり、ウシ組織に由来する唯一のサーコウイルス配列(Nayar, et al., 1999)は、PCV2とも密接に関連していた。しかしながら、詳細な解析では両系統が異なるサブタイプにクラスター化されることが明らかとなり、それゆえに、仔ウシに感染することのできる特有のPCV2系統の存在を除外する。一方、さらに2つの系統であるPCV-Ha09およびPCV-Ha10が単離されている。サーコウイルスは一般的に宿主の範囲が狭いと考えられており、詳細な系統分析では、サーコウイルスとその宿主の厳密な共進化が明らかにされた(Johne, et al., 2006)。しかしながら、PCV2に関しては、やや異なる進化的および疫学的パターンが記述されており、このウイルスの、過去長期間の限定的な感染とそれに続く近年の世界的規模での感染拡大に一致する(Hughes and Piontkivska, 2008)。このことは、PCV2が、迅速な拡大を許容する特徴的な性質を獲得した、および、稀な場合ではあるが、感染が種の障壁を超えた、と推測し得る。
【0124】
さらに、PCV2は対照群の1個体の仔ウシからも検出された。対照群の動物は、出血性疾患以外の理由で病理学検査に送られていた。PCV2はブタにおいて、異なる徴候や疾患にも関連している。このことによれば、サーコウイルスは仔ウシにおいて、いくつかの疾患に寄与していると推測し得る。また、HDの仔ウシにおける免疫抑制が、ほかの疾患に対する感受性を促進したとも考えられる。この症例では、仔ウシからのPCV2検出は、日和見性の感染を反映しているのかもしれない。最後に、サーコウイルスの感染は、様々な時期、または、各感染個体の生涯にわたってでさえ、臨床的に不明のままであり得ることが広く知られている。
【0125】
サーコウイルスの多くがリンパ球欠乏を引き起こし、そして、近縁のCIAVもまた感染したニワトリで再生不良性貧血および出血を引き起こすので、サーコウイルスの感染は、観察された臨床所見の多くと一致する。しかしながら、我々の調査では、すべての臨床症例において、利用可能な診断方法を用いてPCV2が検出されたわけではなかった。また、PCRによる検出は、増殖しているウイルスの感染を必ずしも意味しない。しかし、いくつかの各々の骨髄細胞での免疫組織化学によるPCV2抗原の検出は、ウイルスゲノムの発現と複製の指標となる。
【0126】
【表1A】

【表1B】

【表1C】

【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
[参考文献]







【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1で示される配列もしくはその断片、および/または
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列の相補体
を含むサーコウイルス(CV)の核酸分子。
【請求項2】
(a)配列番号7で示される配列もしくはその断片、および/または
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列の相補体
を含む請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
(a)配列番号11で示される配列もしくはその断片、および/または
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列の相補体
を含む請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記断片が、配列番号1、7もしくは配列番号11で示される、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、もしくは、少なくとも50の近接するヌクレオチドまたはその相補体を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項5】
(a)配列番号1、7もしくは配列番号11で示されるヌクレオチド配列と、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有する核酸分子
(b)ストリンジェントな条件下で、配列番号1、7もしくは配列番号11で示されるヌクレオチド配列にハイブリダイズする核酸分子、または
(c)(a)もしくは(b)の相補体
である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項6】
(a)
(i)ヌクレオチド51-995(Rep)
(ii)ヌクレオチド1034-1735(Cap)
(iii)ヌクレオチド357-671(ORF3)
に由来する配列番号1に示されるヌクレオチド配列領域、および/もしくは、(i)、(ii)、および/もしくは(iii)の相補体
(b)遺伝暗号の縮重の範囲で(a)に記載の配列に対応するヌクレオチド配列、または
(c)(a)もしくは(b)に記載のヌクレオチド配列の断片
を含む、CVポリペプチドまたはその断片をコードするCV核酸分子。
【請求項7】
(a)
(i)ヌクレオチド51-995(Rep)
(ii)ヌクレオチド1034-1735(Cap)
(iii)ヌクレオチド357-671(ORF3)
に由来する配列番号7に示されるヌクレオチド配列領域、および/または、(i)、(ii)、および/もしくは(iii)の相補体、
(b)
(i)ヌクレオチド51-995(Rep)
(ii)ヌクレオチド1033-1734(Cap)
(iii)ヌクレオチド357-671(ORF3)
に由来する配列番号11に示されるヌクレオチド配列領域、および/もしくは、(i)、(ii)、および/もしくは(iii)の相補体、または
(c) 遺伝暗号の縮重の範囲で(a)もしくは(b)に記載の配列に対応するヌクレオチド配列、または

(d) (a)、(b)もしくは(c)に記載のヌクレオチド配列の断片
を含む、請求項6に記載のCV核酸分子。
【請求項8】
前記ポリペプチドまたはその断片が、配列番号2-4、8-10、もしくは12-14のいずれかに示されたアミノ酸配列の、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも30の近接したアミノ酸配列を含む請求項6または7に記載の核酸分子。
【請求項9】
配列番号2-4、8-10、もしくは12-14に示されたアミノ酸配列のいずれかと、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドをコードする、請求項6〜8のいずれか一項に記載のCV核酸分子。
【請求項10】
異種性の発現制御配列に操作的に結合している請求項1〜9のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の核酸分子を形質移入し、形質転換された非ヒト宿主細胞。
【請求項12】
診断剤として使用するための請求項1〜10のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項13】
レポーターグループを保有する請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
出血性疾患(HD)の診断のための請求項12または13に記載の核酸分子。
【請求項15】
HDの診断のための請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
治療剤として使用するための請求項1〜10のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項17】
仔ウシのHDの予防および/または治療のための請求項16に記載の核酸分子。
【請求項18】
仔ウシのHDの予防および/または治療のための請求項16または17に記載の核酸分子。
【請求項19】
核酸ワクチンとして、またはポリペプチドワクチンの生産のための請求項16〜18のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチド。
【請求項21】
(a)
(i)アミノ酸配列番号2(Rep)
(ii)アミノ酸配列番号3(Cap)
(iii)アミノ酸配列番号4(ORF3)、より選択されたアミノ酸配列、または、
(b)それらの断片
を含むサーコウイルス(CV)ポリペプチド。
【請求項22】
(a)
(i)アミノ酸配列番号8および12(Rep)
(ii)アミノ酸配列番号9および13(Cap)
(iii)アミノ酸配列番号10および14(ORF3)、より選択されたアミノ酸配列、または、
(b)それらの断片
を含む、請求項21に記載のサーコウイルス(CV)ポリペプチド。
【請求項23】
配列番号2-4、8-10、もしくは12-14に示されたアミノ酸配列のいずれかと、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも30の近接したアミノ酸配列を含む請求項20〜22のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項24】
配列番号2-4、8-10、もしくは12-14に示されたアミノ酸配列のいずれかと、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有する請求項20〜23のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項25】
診断剤として使用するための請求項20〜24のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項26】
レポーターグループを保有する請求項25に記載のポリペプチド。
【請求項27】
特に仔ウシにおけるHDの診断のための請求項25または26に記載のポリペプチド。
【請求項28】
免疫原として使用するための請求項20〜24いずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項29】
抗CV抗体生産のための請求項28に記載のポリペプチド。
【請求項30】
特に仔ウシにおけるHDの予防、および/または、治療のための請求項20〜24のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項31】
ワクチンとして使用するための請求項30に記載のポリペプチド。
【請求項32】
請求項20〜24のいずれか一項に記載のポリペプチドに結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項33】
CV系統PCV2-Ha08に特異的な請求項32に記載の抗体。
【請求項34】
診断剤として使用するための請求項32または33に記載の抗体。
【請求項35】
特に仔ウシにおけるHDの予防、および/または、治療のための請求項32または33に記載の抗体。
【請求項36】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の核酸分子を含むサーコウイルス。
【請求項37】
不活化された、請求項36に記載のウイルス。
【請求項38】
弱毒化された、請求項37に記載のウイルス。
【請求項39】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の核酸分子もしくは請求項20〜24のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項32または33に記載の抗体、もしくは請求項36〜38のいずれか一項に記載のウイルスを、許容可能な担体、希釈液、および/またはアジュバントと共に含む組成物。
【請求項40】
ワクチンである、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
ポリペプチドワクチンである、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
ウイルスワクチンである、請求項40に記載の組成物。
【請求項43】
免疫原性組成物である、請求項39に記載の組成物。
【請求項44】
ポリペプチド免疫原性組成物である、請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
ウイルス免疫原性組成物である、請求項43に記載の組成物。
【請求項46】
診断に使用するための請求項39〜45のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項47】
治療に使用するための請求項39〜45のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項48】
請求項46に記載の診断用組成物と、診断されるべき対象に由来するサンプルを接触すること、ならびに、前記サンプルにおけるCVもしくは抗CV抗体の存在または/および量を決定すること、
を含む、特に仔ウシにおけるHD診断方法。
【請求項49】
請求項47に記載の治療用組成物を、有効量で必要とする対象に投与すること、
を含む、特に仔ウシにおけるHD予防または治療方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−507944(P2013−507944A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534712(P2012−534712)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065983
【国際公開番号】WO2011/048215
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(512104801)ウニヴェルシテート・ライプツィヒ (1)
【出願人】(512104812)
【Fターム(参考)】