説明

汗処理機能に優れた布帛およびアンダーウエアーおよびスポーツウエアー

【課題】汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行可能な汗処理機能に優れた布帛およびアンダーウエアーおよびスポーツウエアーを提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維などの有機繊維を用いて、布帛の一方表面から他方表面に貫通するスリットを有する布帛を得た後、該布帛に撥水加工を施し、次いで、必要に応じて、アンダーウエアーまたはスポーツウエアーを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行可能な汗処理機能に優れた布帛、および該布帛を用いてなるアンダーウエアーおよびスポーツウエアーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汗をかいた際のべとつき感を低減することが可能な布帛としては、メッシュ状布帛に撥水加工を施したもの、凹凸構造を有する布帛に撥水加工を施したものなど種々のものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、これらの布帛では、汗の布帛の一方表面から他方表面への移行拡散性においてまだ満足とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−70939号公報
【特許文献2】特開2006−249610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行可能な汗処理機能に優れた布帛およびアンダーウエアーおよびスポーツウエアーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、布帛の一方表面から他方表面に貫通するスリットを有する布帛に撥水加工を施すと、該布帛を衣料して使用した際、着用者の動作により前記スリットの巾が拡張され、そのポンピング作用によって、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「有機繊維で構成され、織物組織または編物組織を有する布帛であって、撥水加工が施されており、かつ布帛の一方表面から他方表面に貫通するスリットを有することを特徴とする汗処理機能に優れた布帛。」が提供される。
【0007】
その際、前記スリットにおいて、長さが1mm以上であることが好ましい。また、前記スリットにおいて、スリットの長軸方向と直交する方向の巾が0.01mm以上であることが好ましい。また、前記スリットの長軸方向が、布帛のタテ方向またはヨコ方向であり、かつタテ方向またはヨコ方向に隣り合うスリット間距離が2〜50mmの範囲内であることが好ましい。また、布帛をタテ方向またはヨコ方向に50%伸長させたとき、前記スリットの巾が最大部で2mm以上となることが好ましい。また、前記スリットが、織物組織または編物組織により形成されたものであることが好ましい。また、前記スリットが、易溶解繊維を溶解することにより形成されたものであることが好ましい。また、前記スリットが、レーザーまたはカッターを用いて形成されたものであることが好ましい。また、前記有機繊維にポリエステル繊維が含まれることが好ましい。また、前記有機繊維に弾性繊維が含まれることが好ましい。また、布帛の目付けが200g/m以下であることが好ましい。
【0008】
また、本発明によれば、前記の布帛を用いてなるアンダーウエアーが提供される。さらには、前記の布帛に他の布帛を重ね合わせてなるスポーツウエアーが提供される。その際、前記他の布帛に吸水加工が施されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行可能な汗処理機能に優れた布帛およびアンダーウエアーおよびスポーツウエアーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた編物を模式的に示す図である。
【図2】実施例2で用いた編物組織図である。
【図3】実施例2で得られた編物を模式的に示す図である。
【図4】実施例2で得られた編物を模式的に示す図である。
【図5】実施例3で得られたシャツを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の汗処理機能に優れた布帛は、有機繊維で構成され、織物組織または編物組織を有する布帛であって、撥水加工が施されており、かつ布帛の一方表面から他方表面に貫通するスリットを有する布帛である。
【0012】
ここで、布帛に撥水加工が施されていない場合は、布帛が汗(水滴)をはじくことができず、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行しないため好ましくない。なお、撥水加工により布帛の両面に撥水剤が付着していることが好ましいが、布帛の一方表面にのみ撥水剤が付着していてもよい。
【0013】
また、本発明の汗処理機能に優れた布帛において、布帛の一方表面から他方表面に貫通するスリット(直線状または曲線状の切込み)が形成されている。かかるスリットにより、該布帛を衣料して使用した際、着用者の動作により前記スリットの巾が拡張され、そのポンピング作用によって、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行する。
【0014】
ここで、前記スリットにおいて、長さが1mm以上(より好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは1〜10mm)であることが好ましい。スリットの長さが1mm未満の場合は、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行しないおそれがある。
【0015】
また、前記スリットにおいて、スリットの長軸方向と直交する方向の巾が0.01mm以上(より好ましくは0.01〜2mm、さらに好ましくは0.01〜1mm)であることが好ましい。スリットの巾が0.01mm未満の場合、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行しないおそれがある。
【0016】
また、前記スリットにおいて、長さと巾との比(長さ/巾)は2以上(より好ましくは2〜20、さらに好ましくは3〜10)であることが好ましい。
なお、スリットの長さおよび巾は、布帛に荷重をかけることなく静置させた状態で測定するものとし、長さの最大部および巾の最大部をそれぞれ測定する。
【0017】
また、前記スリットは、布帛表面において、タテ方向およびヨコ方向に複数形成されていることが好ましい。その際、前記スリットの長軸方向が、布帛のタテ方向またはヨコ方向であり、かつ、スリット間距離(タテ方向またはヨコ方向に隣り合う2個のスリットにおいて一方スリットの端部〜他方スリットの端部までの最短距離)が、2〜50mm(より好ましくは2〜20mm、さらに好ましくは2〜15mm)の範囲内であると、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行しやすく好ましい。
【0018】
また、布帛をタテ方向またはヨコ方向に50%伸長させたとき、前記スリットの巾が最大部で2mm以上(より好ましくは2〜10mm、さらに好ましく2〜5mm)であると、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行しやすく好ましい。
【0019】
本発明の汗処理機能に優れた布帛において、織編組織は特に制限されず、例えば、織物組織としては、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、経二重織、緯二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。編物組織の場合は、よこ編物組織であってもよいしたて編物組織であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも、布帛に伸縮性を付与することにより、布帛を伸長させたときにスリットの巾を容易に拡張させ、汗を布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行させる上で、編物組織が好ましい。
【0020】
また、布帛の織編密度としては、スリット以外における汗の浸透を抑制し、スリットを通して汗を布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行させる上で高密度であるほうが好ましく、例えば編物であれば、40コース/2.54cm以上(より好ましくは40〜100コース/2.54cm)かつ30ウエール/2.54cm以上(より好ましくは30〜90コース/2.54cm)であることが好ましい。また、織物であれば経緯とも80本/2.54cm以上(より好ましくは100〜200本/2.54cm)であることが好ましい。
【0021】
本発明の汗処理機能に優れた布帛を構成する有機繊維としては、合成繊維や天然繊維など特に制限はないが、ポリエステル繊維が含まれることが好ましい。
前記ポリエステル繊維はジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステル樹脂には、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸であってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0022】
前記ポリエステル繊維の形状としては、短繊維でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよいが、ソフトな風合を得る上で長繊維であることが好ましい。さらには、通常の仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸や2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸であってもよい。特に、布帛に伸縮性を付与することにより、布帛を伸長させたときにスリットの巾を容易に拡張させ、汗を布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行させる上で、仮撚捲縮加工糸が好ましい。
【0023】
前記ポリエステル繊維の単繊維繊度、総繊度、単糸数は、単繊維繊度0.1〜10.0dtex、総繊度20〜300dtex、単糸数10〜200本の範囲であることが好ましい。特に、ソフトな風合を得る上で単糸繊維繊度としては2.0dtex以下(より好ましくは0.0001〜2.0dtex)であることが特に好ましく、単糸数としては60本以上(より好ましくは60〜200本)であることが特に好ましい。
【0024】
また、前記ポリエステル繊維において、単糸繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、くびれ付扁平、十字形、六様形、あるいは中空形などの異型断面形状であってもよい。
【0025】
また、本発明の汗処理機能に優れた布帛を構成する有機繊維として、ポリウレタン繊維やポリエーテルエステル繊維などの弾性繊維が含まれていると、布帛に伸縮性が付与されることにより、布帛を伸長させたときにスリットの巾が容易に拡張し、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行するので好ましい。
【0026】
また、本発明の汗処理機能に優れた布帛において、布帛の目付けが200g/m以下(より好ましくは50〜180g/m)であることが好ましい。該目付けが200g/mよりも大きいと、布帛の重量が重くなりすぎて、布帛を使用する際の着用快適性が損なわれるおそれがある。
【0027】
本発明の汗処理機能に優れた布帛は例えば以下の製造方法により製造することができる。
まず、前記のような有機繊維を用いて織編物を織編成したのち、布帛の一方表面から他方表面に貫通する前記のようなスリットを形成する。
【0028】
ここで、スリットを形成する方法としては、織物組織または編物組織によりスリットを形成する方法、ポリエステル繊維と該ポリエステル繊維よりもアルカリに対して溶解しやすい繊維(例えば、第三成分を共重合させたポリエステル繊維、未延伸ポリエステル繊維、ポリ乳酸繊維など)とを用いて織編物を織編成したのち、アルカリに対して溶解しやすい繊維をアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム溶液)により溶解除去する方法、レーザーなどの熱により加熱溶解させる方法、機械式カッターや刃物などにより物理的にスリットを形成する方法などが例示される。
【0029】
次いで、該布帛に撥水加工を施す。かかる撥水加工は前記スリットを形成する前の工程で行ってもよいし、織編物を織編成する前の工程で繊維に対して行ってもよい。さらには、撥水剤を繊維中に練りこんだ繊維や繊維自身が撥水性を呈する繊維を用いて織編物を織編成した場合も、本発明でいう「布帛に撥水加工を施したもの」に含む。
【0030】
前記撥水加工に用いる撥水剤としては、特に限定されず、フッ素系、シリコン系、ワックス系などの撥水剤が例示される。また、撥水剤をバインダー樹脂とともに布帛に付着させることが、撥水性の耐久性を高める上で好ましい。かかる撥水剤としては、繊維との接触角が90度以下(好ましくは70度以下、さらに好ましくは50度以下)のものが好適である。該接触角が小さい程ぬれ性がよいため、バインダー樹脂が単糸繊維表面に均一に皮膜する。その結果、布帛のソフトな風合いが損なわれることがない。繊維との接触角が90度以下のバインダー樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂などが例示される。
【0031】
また、撥水剤とバインダー樹脂の布帛に対する付着量としては、各々樹脂固形分重量基準で、撥水剤0.01〜40g/m(より好ましくは1〜10g/m)、バインダー樹脂0.01〜40g/m(より好ましくは1〜10g/m)の範囲が適当である。
【0032】
前記の撥水剤とバインダー樹脂とは、通常両者の配合組成物として布帛に付与される。その際、かかる配合組成物は水系、溶剤系のいずれで構成してもよいが、加工工程の作業環境上水系の方が好ましい。なお、溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、メチエチルケトン、酢酸エチルなどが例示される。この配合組成物には、エポキシ系などの架橋剤を併用してもよい。さらに、布帛に対する付着性を向上させる等の目的で適当な添加剤をさらに配合してもよい。
【0033】
前記の撥水剤、または撥水剤とバインダー樹脂とを布帛に付着させる方法としては、例えば、パデング法(含浸法)、グラビアロール法、キスロール法、泡加工法、ロータリスクリーン捺染法、フラットスクリーン法、ローラー捺染法等が例示される。また、撥水剤の塗布に際しては、撥水剤が布帛の反対面までは浸透しないように、撥水剤を含む配合組成物の粘度、スキージ等による布帛への付与圧力、捺染速度を適宜調整する必要がある。
【0034】
前記布帛には、必要に応じて通常の染色加工、アルカリ減量加工が施されてもよい。さらには、常法の起毛加工、紫外線遮蔽あるいは、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0035】
かくして得られた布帛において、該布帛を衣料して使用した際、着用者の動作により前記スリットの巾が拡張され、そのポンピング作用によって、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行する。
【0036】
次に、本発明のアンダーウエアーは、前記の布帛を用いてなるアンダーウエアー(肌と接触する衣料、サポータなど)である。かかるアンダーウエアーは前記の布帛を用いているため、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行するので、特に野球やサッカーなどのスポーツ用アンダーウエアーとして特に好適である。
【0037】
次に、本発明のスポーツウエアーは、前記布帛に他の布帛を重ね合わせてなるものである。その際、前記布帛と他の布帛とを接合する方法としては、縫製、熱接着、接着材料を用いた接着など、いずれでもよい。かかる接合は布帛全面を接合してもよいし、部分的(例えば端部のみ)に接合してもよい。
また、かかるスポーツウエアーにおいて、前記布帛が肌側位置するように配されていることが好ましい。
【0038】
また、かかるスポーツウエアーにおいて、他の布帛としては、ポリエステル繊維などの有機繊維を用いて得られた織物または編物であることが好ましい。特に、他の布帛に吸水加工が施されていると前記布帛のスリットを通して移行した汗がかかる他の布帛に容易に吸収され好ましい。その際、吸水加工としては、布帛にポリエチレングリコールジアクリレートやその誘導体、またはポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの親水化剤を染色時に同浴加工するか、ファイナルセット工程で布帛に付与することが好ましい。また、かかる親水化剤の付着量は、布帛の重量に対して0.25〜0.50重量%の範囲であることが好ましい。
【0039】
また、他の布帛として、湿潤により自己伸長する糸や湿潤により捲縮率が変化する糸を用いることにより湿潤時に通気性が向上および/または凹凸が発現する布帛(例えば、特開2005−036374号公報、特開2006−97147号公報、特開2006−112009号公報参照)を用いてもよい。
【0040】
かかるスポーツウエアーを使用した際、着用者の動作により前記スリットの巾が拡張され、そのポンピング作用によって、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行するので、優れた着用快適性が得られる。
なお、前記布帛は衣料だけでなく、寝装寝具、カーシート表皮材、帽子などの生活資材など他の用途に用いてもよい。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0042】
<スリットの長さ、巾、隣り合うスリット間距離>
布帛表面を電子顕微鏡により撮影し、スリットの長さ、スリットの最大巾(スリットの長軸方向と直交する方向の巾の最大部)、タテ方向またはヨコ方向に隣り合うスリット間距離(一方スリットの端部〜他方スリット端部までの最短距離)を測定し、それぞれn数5の平均値を求めた。
【0043】
<布帛をタテ方向またはヨコ方向に50%伸長させたときのスリットの最大巾>
タテ10cmヨコ10cmの試料を布帛から切り取り、該試料をスリットの巾方向に50%伸長させ(すなわち、全長が150cmとなるよう伸長させ)、スリットの最大巾を電子顕微鏡により撮影した後、測定しn数5の平均値を求めた。
【0044】
[実施例1]
総繊度84dtex/72filのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸を用いて、フルセットでバック筬に通し、○3○3×1でミドル筬に通し、×6○1でフロント筬に通し、28ゲージのトリコット編機にて、バック01−10、ミドル10−12、フロント10−(23−21)*4−23−(10−12)*4の編物組織で編物を編成した後、常法により130℃の高圧染色加工を行った。
【0045】
次いで、下記の処理液(加工剤)をパッドし、ピックアップ率70%で搾液し、130℃で3分間乾燥後、最終セットとして160℃の乾熱セット行った。
<加工剤組成>
・ふっ素系撥水剤 10.0wt%
(旭硝子(株)製、アサヒガードLS−317)
・メラミン樹脂 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスレジンM−3)
・触媒 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスアクセレレータACX)
・水 89.4wt%
【0046】
得られた編物において、密度は61コース/2.54cm、46ウエール/2.54cm、目付けは160g/mであり、図1のようにヨコ方向の伸長時にスリット巾が拡大する編物であった。また、スリットは一方表面から他方表面に貫通しており、また、スリットは直線状(長さは4.0mm、スリットの巾は0.8mm、長さ/巾が5)であった。また、布帛をヨコ方向に50%伸長させたときのスリットの最大巾は2.3mmであった。
【0047】
また、タテ方向に隣り合う2個のスリットにおいて一方スリットの端部〜他方スリットの端部までの最短距離は6.0mmであり、ヨコ方向に隣り合う2個のスリットにおいて一方スリットの端部〜他方スリットの端部までの最短距離は8.0mmであった。
【0048】
次いで、該編物を用いて半袖アンダーシャツを縫製し、該アンダーシャツの上に市販のポリエステルシャツを重ね着して着用したところ、運動時の体の動きによりタテおよびヨコ方向にアンダーシャツが伸長し、スリットのスリット幅が拡大することで、上に重ね着している市販のポリエステルシャツ側へ素早く汗が移行し、肌側のアンダーシャツへは汗が逆戻りせず、多量発汗時も快適な汗処理機能に優れたシャツであった。
【0049】
[実施例2]
36ゲージの丸編シングル機を使用して、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度56dtex/72fil)と市販のポリウレタン弾性糸(総繊度22dtex/1fil)とを用いて、ポリウレタン弾性糸をドラフト率2.5倍にドラフトしながら図2に示す編組織に従って、天竺リバーシブル編物組織を有する編物を編成した後、常法により130℃の高圧染色加工を施した。
【0050】
次いで、実施例1と同様の撥水加工を施し、最終セットとして160℃の乾熱セットを行った後、該編物にレーザーカッターで部分的に切れ目(スリット)を入れ、図3に示すスリットを形成した。
得られた編物において、80コース/2.54cm、65ウエール/2.54cm、目付けは120g/mであり、図4のようにタテ方向の伸長時にスリット巾が拡大する編物であった。また、また、スリットは一方表面から他方表面に貫通しており、また、スリットは直線状(スリットの長さは6.0mm、スリットの巾は1.2mm、長さ/巾が5)であった。また、布帛をタテ方向に50%伸長させたときのスリットの最大巾は2.8mmであった。
【0051】
また、タテ方向に隣り合う2個のスリットにおいて一方スリットの端部〜他方スリットの端部までの最短距離は9.5mmであり、ヨコ方向に隣り合う2個のスリットにおいて一方スリットの端部〜他方スリットの端部までの最短距離は11.0mmであった。
該編物を用いて半袖アンダーシャツを縫製し、該アンダーシャツの上に市販のポリエステルシャツを重ね着して着用したところ、運動時の体の動きによりタテおよびヨコ方向にアンダーシャツが伸長し、スリットのスリット幅が拡大することで、上に重ね着している市販のポリエステルシャツ側へ素早く汗が移行し、肌側のアンダーシャツへは汗が逆戻りせず、多量発汗時も快適な汗処理機能に優れたシャツであった。
【0052】
[実施例3]
36ゲージの丸編シングル機を使用して、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/72fil)を用いて天竺編地を編成した。得られた編地を130℃の高圧染色と共に吸水加工を施し、最終セットとして160℃の乾熱セットを行い、目付80g/mの編物を得た。なお、かかる吸水加工としては、親水化剤(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体)を編物に編物重量に対して0.30重量%付着させた。
【0053】
次いで、該編物と実施例1で得られた編物とを図5に示すように、実施例1で得られた編物が肌側になるように部分的に縫製し重ね合わせた半袖シャツを縫製した。
得られたシャツは、運動時の体の動きによりタテおよびヨコ方向にシャツが伸長し、肌側のスリットのスリット幅が拡大することで、外側の吸汗加工した編物へ素早く汗が移行し、肌側のスリットつき編物へは汗が逆戻りせず、多量発汗時も快適な汗処理機能に優れたシャツであった。
【0054】
[比較例1]
実施例1で編成した編物を撥水加工しないこと以外は実施例1と同様にして着用試験をしたところ、肌側のアンダーシャツにも汗が残り、多量発汗時は十分な快適性が得られなかった。
【0055】
[比較例2]
実施例2で用いた編物にレーザーカットでスリットを設けないこと以外は実施例2と同様にして着用試験をしたところ、汗が外側の市販シャツに移行せず、肌に多量の汗が残り不快であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、汗が布帛の一方表面から他方表面に速やかに移行可能な汗処理機能に優れた布帛およびアンダーウエアーおよびスポーツウエアーが提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維で構成され、織物組織または編物組織を有する布帛であって、撥水加工が施されており、かつ布帛の一方表面から他方表面に貫通するスリットを有することを特徴とする汗処理機能に優れた布帛。
【請求項2】
前記スリットにおいて、長さが1mm以上である、請求項1に記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項3】
前記スリットにおいて、スリットの長軸方向と直交する方向の巾が0.01mm以上である、請求項1または請求項2に記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項4】
前記スリットの長軸方向が、布帛のタテ方向またはヨコ方向であり、かつタテ方向またはヨコ方向に隣り合うスリット間距離が2〜50mmの範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項5】
布帛をタテ方向またはヨコ方向に50%伸長させたとき、前記スリットの巾が最大部で2mm以上となる、請求項1〜4のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項6】
前記スリットが、織物組織または編物組織により形成されたものである、請求項1〜5のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項7】
前記スリットが、易溶解繊維を溶解することにより形成されたものである、請求項1〜5のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項8】
前記スリットが、レーザーまたはカッターを用いて形成されたものである、請求項1〜5のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項9】
前記有機繊維にポリエステル繊維が含まれる、請求項1〜8のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項10】
前記有機繊維に弾性繊維が含まれる、請求項1〜9のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項11】
布帛の目付けが200g/m以下である、請求項1〜10のいずれかに記載の汗処理機能に優れた布帛。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の布帛を用いてなるアンダーウエアー。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の布帛に他の布帛を重ね合わせてなるスポーツウエアー。
【請求項14】
前記他の布帛に吸水加工が施されている、請求項13に記載のスポーツウエアー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−52275(P2012−52275A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197662(P2010−197662)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】