説明

汗滲みの目立たない繊維製品

【課題】本発明は、衣料が汗を吸った際に発生する繊維の変色(汗滲み)を抑制した、繊維製品の提供するものであって、汗をかきやすい体質の人は、夏場やスポーツウェアでは白か黒の衣料しか着用できず、ファッション面からの不満を解消するものである。
【解決手段】白色顔料を1〜3質量%含有する合成繊維の短繊維を75質量%以上100質量%以下含み、7mm以上の長さの毛羽数が10m当たり平均10個以下である紡績糸からなり、乾燥時のL*値が30〜70の色調で染色された繊維製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料が汗を吸った際に発生する繊維の変色(汗滲み)を抑制した、繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料繊維製品は、暑さや運動により体からでる汗を吸収し、快適性を保つという機能を持っている。しかし、白や黒を以外の中色の場合、汗を吸って濡れると、乾いた状態から色が変わって見えることから、特に汗をかきやすい襟元や腋などが目立って変色するため、外観上不快感、不衛生感がある。このため、汗をかきやすい体質の人は、夏場やスポーツウェアでは白か黒の衣料しか着用できず、ファッション面からの不満もあった。
対策として、特許文献1のように生地表面に撥水層を設け、繊維製品が濡れないようにするという方法があるが、水を吸わないことで衣服内が蒸れるという問題点があり、我慢して着用する必要がある。
また、特許文献2のような汗滲み防止剤をスプレーで吹き付けるという方法もあるが、やはり生地に撥水性を持たせるものであり、また洗濯により効果が落ちてしまうなど耐久性にも問題がある。
さらに、特許文献3のような技術も紹介されているが、セルロース長繊維を使用しているため濡れ状態からの速乾性や水拡散性に劣るため、汗滲みの十分な抑制はされていない。
特許文献4の中に、酸化チタンを練りこんだ短繊維の紡績糸に関する記述があるが、毛羽が多いため汗滲み抑制の効果までは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−182636号公報
【特許文献2】特開平4−348705号公報
【特許文献3】特開2002−275744号公報
【特許文献4】特開平3−167311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、発汗による汗滲みを抑制し、外観上及び衣服内環境上快適な衣料を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、白色顔料を1〜3質量%含有する合成繊維の短繊維を75質量%以上100質量%以下含み、7mm以上の長さの毛羽数が10m当たり平均10個以下である紡績糸からなり、乾燥時のL*値が30〜70の色調で染色された繊維製品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、汗をかいても汗滲みが目立たず、また着用上快適なファッション性のある、紡績糸を使用した繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明に使用する合成繊維は、工程上顔料を練り込めるものであれば良く、ポリエステル、ナイロン、アクリル、アクリル系、ポリプロピレン、セルロース系再生繊維などが挙げられ、好ましくは、速乾性と水拡散性を高めることが可能なポリエステル、アクリル、アクリル系、ポリプロピレンであり、より好ましくは、表面皺があるアクリル、アクリル系である。
【0008】
合成繊維に練りこむ白色顔料は、繊維製造や染色に著しい支障を与えず、繊維に不透明性を与えるものであれば良く、その中でも酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物が好ましい。
合成繊維に対する白色顔料の濃度は、1質量%以上である必要があり、これ以下であれば十分な汗滲み抑制効果が見られない。また、多すぎると繊維製造上の紡糸性や繊維物性、紡績工程通過性が悪くなることから5質量%以下であることが好ましい。
【0009】
白色顔料を練りこんだ合成繊維の繊度はどのようなものでも汗滲み抑制効果はあるが、0.8dtex未満では繊維を製造する工程で紡糸性に支障が生じ、3.3dtexを超えると毛管現象による水拡散性が得られにくいことから、0.8〜3.3dtexが好ましい。
【0010】
本発明に使用する紡績糸は、毛羽が少ないことが好ましく、7mm以上の長さの毛羽が10m当たり平均10個以下である必要がある。10個を超えるような嵩高の紡績糸では水濡れ部分の紡績糸が細く見えてしまい、構造的に汗滲みになることがある。ちなみに、毛羽の測定方法は、速度25m/minで解舒しながら静電式コンデンサを使用して、各々の紡績糸の直径に対して7mm以上はみ出ている表面毛羽本数を数えたものである。このように毛羽を少なくする紡績方法としては、リング紡績、MVS、MJS、コンパクトスピニング、オープンエンド紡績などが挙げられる。
【0011】
白色顔料を練りこんだ合成繊維は、紡績糸に対して混紡率75質量%以上100質量%以下である必要がある。白色顔料を練りこんだ合成繊維以外の繊維を25質量%以上混紡すると、汗滲み抑制効果が低下する。
【0012】
混紡を行う場合の繊維は特に限定されず、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、アクリルなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどの再生セルロース、綿、毛、麻などの天然繊維であっても良い。
紡績糸を使用する布帛の製造方法は、織り、編み、不織布など特に限定されない。単層でなくても良いが、その場合、汗滲み抑制の機能を生かすために表層に使われることが望ましい。また、本発明の紡績糸以外の糸と交織、交編を行うことも可能であるが、その糸が表面に露出していると汗滲み抑制効果が低下することがあるので注意する必要がある。但し、その糸が白や黒など汗滲みが目立たない色であれば、露出していても何ら問題とはならない。
【0013】
染色方法は特に限定は無く、原着、ワタ染め、トップ染め、糸染め、生地染め、製品染めなどいずれであっても良い。色調については、ファッション性より白、黒以外の中間色として、乾燥時の布帛の明度L*値が30〜70の色であることが必要である。色相は特に限定は無く、グレー、青、赤、オレンジ、黄、緑などどの色相でも効果が得られ、またミックス杢であっても良い。
【0014】
布帛の仕上げについては、水拡散性を上げるという効果から、撥水加工を行ってはならない。逆に、吸水加工を行うことは効果を向上させるため好ましい。
【0015】
汗滲みの効果については、JISで規定されている堅牢度試験での湿潤状態と乾燥状態の差が変退色3級以上である必要が有り、2−3級以下であると、外観上汗滲みが目立つ。
布帛は、衣服の外側の部位に使用することが外観上好ましく、衣服のデザインにより腋や首など汗をかきやすい部位に部分的に使用することも可能である。
【実施例】
【0016】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
(湿潤状態と乾燥状態の色差の測定)
25℃×60%RHで24時間放置し、乾燥状態とした布帛に対し、スポイトで0.1mlの水道水を滴下する。30秒後、滴下して湿潤状態となった部分と、その周りにある乾燥状態の部分との外観上の色差をJIS L 0804:2004準拠の変退色用グレースケールを使用し目視での級数判定を行った。
(L*値の測定)
布帛を、分光色彩計(株式会社島津製作所製 製品名:CLR−7100F)を使用して測定した。
(7mm以上の長さの毛羽数の測定)
速度25m/minで解舒しながら静電式コンデンサを使用して、各々の紡績糸の直径に対して7mm以上はみ出ている表面毛羽本数を数えることを10m×30回繰り返し、その平均を小数点以下を四捨五入して算出した。
【0017】
(実施例1)
酸化チタン(富士チタン工業株式会社製 製品名:TA210)を2.5質量%含有するアクリル短繊維(単繊維繊度:1dtex、繊維長:38mm)を製造し、100質量%でMJS精紡機(村田機械株式会社製 MJS802型)にて1/52番手での紡績を行った。得られた紡績糸は7mmの毛羽数が10m当たり1個であった。前記紡績糸を、18ゲージの天竺組織で横編みを行い、それをカチオン染料(Nichilon Black KB 0.5%owf)でグレー色に染色した。染色したものの明度L*値は42.1であった。得られた生地に対して湿潤状態と乾燥状態の色差の測定を行ったところ4級判定であった。
【0018】
(実施例2)
酸化チタン(富士チタン工業株式会社製 製品名:TA210)を1.7質量%含有するアクリル短繊維(単繊維繊度:1dtex、繊維長:38mm)を製造し、100質量%でリング紡績にて40/2番手での紡績を行った。得られた紡績糸は7mmの毛羽数が10m当たり0個であった。前記紡績糸を、22ゲージの天竺組織で横編みを行い、それをカチオン染料(Nichilon Blue SNB 0.5%owf)でブルー色に染色したものの明度L*値は48.0であった。得られた生地に対して湿潤状態と乾燥状態の色差の測定を行ったところ3−4級判定であった。
【0019】
(比較例1)
酸化チタン(富士チタン工業株式会社製 製品名:TA210)を0.3質量%含有するアクリル短繊維(単繊維繊度:1dtex、繊維長:38mm)を100質量%でMJSにて1/52番手で紡績を行い、得られた紡績糸は7mm毛羽数3個/10mであった。前記紡績糸を18ゲージの天竺組織での横編みを行い、それをカチオン染料(Nichilon Black KB 0.5%owf)でグレー色に染色したもののL*値は37.7であった。得られた生地に対して湿潤状態と乾燥状態の色差の測定を行ったところ1−2級判定であった。
【0020】
(比較例2)
酸化チタン(富士チタン工業株式会社製 製品名:TA210)を1.7質量%含有したアクリル短繊維(単繊維繊度:1dtex、繊維長:38mm)を60質量%、綿(サンホーキン綿)を40質量%の混紡率で短綿紡リング紡績にて20/2番手での紡績を行った。得られた紡績糸は7mmの毛羽数が10m当たり8個であった。前記紡績糸を18ゲージの天竺組織での横編みを行い、それをカチオン染料(Nichilon Black KB 0.5%owf)でグレー色に染色したもののL*値は44.0であった。得られた生地に対して湿潤状態と乾燥状態の色差の測定を行ったところ2級判定であった。
【0021】
(比較例3)
酸化チタン(富士チタン工業株式会社製 製品名:TA210)を1.7質量%含有したアクリル短繊維(単繊維繊度:3.3dtex、繊維長:76mm〜127mmのバイアスカット)を90質量%、毛(メリノウール64‘S)を10質量%の混紡率で梳毛紡リング紡績にて2/24番手での紡績を行った。得られた紡績糸は7mmの毛羽数が10m当たり14個であった。前記紡績糸を14ゲージの天竺組織での横編みを行い、それをカチオン染料(Nichilon Black KB 0.5%owf)でグレー色に染色したもののL*値は40.4であった。得られた生地に対して湿潤状態と乾燥状態の色差の測定を行ったところ2−3級判定であった。
【0022】
(比較例4)
酸化チタン(富士チタン工業株式会社製 製品名:TA210)を1.2質量%含有したアクリル長繊維の仮撚加工糸を22ゲージの天竺組織での横編みを行い、それをカチオン染料(Nichilon Black KB 0.5%owf)でグレー色に染色したもののL*値は41.6であった。得られた生地に対して湿潤状態と乾燥状態の色差の測定を行ったところ2−3級判定であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色顔料を1〜3質量%含有する合成繊維の短繊維を75質量%以上100質量%以下含み、
7mm以上の長さの毛羽数が10m当たり平均10個以下である紡績糸からなり、
乾燥時のL*値が30〜70の色調で染色された繊維製品。
【請求項2】
白色顔料を含有する合成繊維の短繊維の単繊維繊度が0.8〜3.3dtexである請求項1の繊維製品。

【公開番号】特開2011−127254(P2011−127254A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287226(P2009−287226)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】