説明

汚れ分離除去方法

【課題】種々の汚れ、特に金属加工油の種類に関わりなく、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを効果的に分離除去し、洗浄液中の汚れ濃度を洗浄液の洗浄力が低下する濃度レベル以下に抑えること。
【解決手段】20℃における蒸気圧が1.33×103Pa未満の成分を含有する溶剤(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤(b)とを、質量比(a)/(b)=29/71〜90/10で含む洗浄液を用いて、被洗物の汚れを洗浄した後に、該汚れを含んだ洗浄液の溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を(a)/(b)=10/90〜29/71にすることで、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを分離除去する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機械部品、光学部品、電子部品、プリント基板等の精密工業製品の洗浄において、金属加工油、防錆油、潤滑油、グリース、ワックス、フラックス、インキ、液晶、樹脂等の汚れが溶け込んだ洗浄液中から汚れを分離除去し、洗浄液中に汚れが蓄積することを抑止、低減することができる洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、精密工業製品の洗浄に用いられる洗浄液としては、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、トリクロロエタン、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)のような塩素系溶剤やパラフィン系、ナフテン系の炭化水素系溶剤が知られている。これらを洗浄液として使用した場合、洗浄液中に蓄積する汚れの除去法としては、汚れを含む洗浄液を蒸留することにより、洗浄液と汚れとに分離する蒸留法が用いられている。しかし、蒸留法ではヒーター加熱を必要とするためエネルギー消費量が大きく、洗浄液の沸点によっては減圧で蒸留するための真空装置が必要であり、また熱分解により酸などの金属腐食成分が発生するなどの問題があった。
【0003】
最近では、汚れに対する溶解力の異なる複数の溶剤を混合させることにより、洗浄液中に溶け込んだ汚れを析出させ、分離する方法が提案されている。例えば、蒸気洗浄に利用される二槽式洗浄機において、汚れが溶け込んだ洗浄槽の洗浄液とすすぎに使用されるリンス槽のリンス液を混合して、析出する汚れを除去した後に、汚れを除去した洗浄液を再び洗浄槽に戻す方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、この方法においては、洗浄液とリンス液の混合液中の飽和油分濃度が高く、効率的に汚れを分離させることが出来ず、優れた汚れ分離効果を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−8095号公報
【特許文献2】特開2003−33730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、種々の汚れ、特に金属加工油の種類に関わりなく、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを効果的に分離除去し、洗浄液中の汚れ濃度を洗浄液の洗浄力が低下する濃度レベル以下に抑えることができることを課題とする。この課題を解決することにより、洗浄液の寿命を延ばして洗浄液の廃液量を減らし、環境に対する負荷を低減し、コスト削減できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa未満の成分を含有する溶剤(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤(b)とを含有した洗浄液を用いて、被洗物の汚れを洗浄した後に、該汚れを含んだ洗浄液の溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を特定の比率とすることで、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを分離除去することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記に示す通りである。
1.20℃における蒸気圧が1.33×103Pa未満の成分を含有する溶剤(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤(b)とを、質量比(a)/(b)=29/71〜90/10で含む洗浄液を用いて、被洗物の汚れを洗浄した後に、該汚れを含んだ洗浄液の溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を(a)/(b)=10/90〜29/71にすることで、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを分離除去する方法。
2.溶剤(a)がグリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類及びヒドロキシカルボン酸エステル類から選ばれる一種または二種以上を含む溶剤であり、溶剤(b)が非塩素系フッ素化合物を含む溶剤である、上記1.に記載の汚れを分離除去する方法。
3.溶剤(a)が3−メチル−3−メトシキブタノールと3−メチル−3−メトシキブチルアセテートとを含む溶剤であり、溶剤(b)が2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタン並びに、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテルを含む溶剤である、上記1.に記載の汚れを分離除去する方法。
4.3−メチル−3−メトシキブタノールと3−メチル−3−メトシキブチルアセテートの質量比が80/20〜20/80であり、2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタンと、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテルの混合物の質量比が99/1〜70/30である、上記3.に記載の汚れを分離除去する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の、汚れを分離除去する方法を用いることにより、洗浄液中の汚れ、特に金属加工油の種類に関係なく効果的に汚れを分離することが可能となり、また洗浄液中の汚れ濃度を洗浄液の洗浄力が低下する濃度レベル以下に抑えることができ、洗浄液の寿命が延びる。それによって、ランニングコストが低減され、廃棄物量が減少し、環境の負荷も低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明は、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa未満の成分を含有する溶剤(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤(b)を特定の比率で含有した洗浄液を用いて、被洗物の汚れを洗浄した後に、該汚れを含んだ洗浄液の溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を(a)/(b)=10/90〜29/71にすることで、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを効果的に分離除去するものである。
本発明における汚れとは、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される切削油、プレス油、塑性加工油などの金属加工油類、グリース類、ワックス類や電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類などを意味する。
【0010】
本発明で用いられる、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa未満の成分を含有する溶剤(a)とは、例えば、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物等の化合物である。溶剤(a)に使用するエーテル結合を有する有機化合物とは、分子構造の中にエーテル結合(C−O−C)を少なくとも1個以上含有する化合物であり、エステル結合を有する有機化合物とは、分子構造の中にエステル結合(−COO−)を少なくとも1個以上含有する化合物である。
エーテル結合を有する化合物としては、例えば、下記一般式(1)で特定される化合物を挙げることができる。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1およびR2はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アセチル基、カルボニル基、水酸基、エステル結合およびエーテル結合の中から選ばれる一種以上を有する脂肪族化合物残基、脂環式化合物残基、芳香族化合物残基又は複素環化合物残基を表し、R〜Rは水素またはアルキル基を表す。)
【0013】
好ましいエーテル結合を有する化合物としては、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類が挙げられる。
グリコールエーテル類としては、グリコールエーテルモノアルキルエーテル類やグリコールエーテルジアルキルエーテル類を挙げることができる。
ここで、グリコールエーテルモノアルキルエーテル類とは、2個の水酸基が2個の相異なる炭素原子に結合している脂肪族あるいは脂環式化合物において、該水酸基の1個の水素が炭化水素残基またはエーテル結合を含む炭化水素残基に置換されている化合物である。グリコールエーテルジアルキルエーテル類とは2個の水酸基が2個の相異なる炭素原子に結合している脂肪族あるいは脂環式化合物において、2個の水酸基の水素のいずれもが炭化水素残基またはエーテル結合を含む炭化水素残基に置換されている化合物である。 例えば、下記一般式(2)で特定されるグリコールエーテルモノアルキルエーテル類および下記一般式(3)で特定されるグリコールエーテルジアルキルエーテル類を挙げることができる。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R7は炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基又はシクロアルキル基、R8、R9,R10は水素またはメチル基、nは0〜1の整数、mは1〜4の整数を示す。)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R11は炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基又はシクロアルキル基、R12は炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基、R13、R14、R15は水素またはメチル基、nは0〜1の整数、mは1〜4の整数を示す。)
【0018】
また、溶剤(a)のグリコールエーテルモノアルキルエーテル類やグリコールエーテルジアルキルエーテル類には、親水性のものと疎水性のものがある。親水性グリコールエーテルモノアルキルエーテル類および親水性グリコールエーテルジアルキルエーテル類とは、30℃においてグリコールエーテル類/水を60/40の質量割合で混合した時、水と相分離せず溶解できるグリコールエーテル類である。疎水性グリコールエーテルモノアルキルエーテル類および疎水性グリコールエーテルジアルキルエーテル類とは、30℃において、グリコールエーテル類/水を60/40の質量割合で混合した時、水と相分離するグリコールエーテル類である。ここで、好ましい親水性グリコールエーテルモノアルキルエーテル類および親水性グリコールエーテルジアルキルエーテル類としては、30℃において、水と任意の割合で溶解できるグリコールエーテル類である。また、好ましい疎水性グリコールエーテルモノアルキルエーテル類および疎水性グリコールエーテルジアルキルエーテル類としては、30℃において、水への溶解度が60質量%以下のグリコールエーテル類である。
【0019】
グリコールエーテルモノアルキルエーテル類において、親水性グリコールエーテルモノアルキルエーテルの具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール等を挙げることができる。疎水性グリコールエーテルモノアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等を挙げることができる。
【0020】
ちなみに、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルは、フラックス洗浄における洗浄性に優れている。フラックス洗浄における汚れとは、イオン性残渣の原因となるアミンの塩酸塩や有機酸等の汚れ、及びハンダ付け工程によって生成される白色残渣の原因となる重合ロジン等の汚れである。
さらに、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール等の下記一般式(4)で特定されるグリコールエーテルモノアルキルエーテル類は特に各種汚れに対して良好な洗浄性を有し、優れた洗浄効果の得られる化合物である。
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、R16は炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、またはシクロアルキル基、R17、R18、R19は水素またはメチル基、nは0または1の整数を表す。)
また、グリコールエーテルジアルキルエーテル類において、親水性グリコールエーテルジアルキルエーテルの具体例としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等を挙げることができる。疎水性グリコールエーテルジアルキルエーテルの具体例としては、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等を挙げることができる。ちなみに、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルは、特にフラックス成分に含まれるロジンに対する洗浄性に優れている。
さらに、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル等の下記一般式(5)で特定されるグリコールエーテルジアルキルエーテル類は、各種汚れに対して良好な洗浄性を有し、優れた洗浄効果の得られる化合物である。
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、R20は炭素数4〜6のアルキル基、アルケニル基、またはシクロアルキル基、R22、R23、R24は水素またはメチル基、R21は炭素数3〜6のアルキル基、アルケニル基またはシクロアルキル基、nは0または1の整数を表す。)
また、グリコールエーテルモノアルキルエーテル類とグリコールエーテルジアルキルエーテル類との組み合わせは、各種汚れに対して優れた洗浄効果があるので、より好ましい。
グリコールエーテルアセテート類とは、水酸基を有するグリコールエーテル類をアセチル化した化合物であり、好ましくは下記一般式(6)で特定される。
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、R27は炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基又はシクロアルキル基、R28、R29、R30は水素またはメチル基、nは0〜1の整数、mは1〜4の整数を示す)
【0027】
具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびトリプロピレングリコール等のモノアルキルエーテルのアセテート、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート等を挙げることができる。
本発明に使用するグリコールエーテルアセテート類としては、人体における代謝系でアルコキシ酢酸を生成しないジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテートおよび3−メチル−3−メトキシブチルアセテート等がより毒性が低く好ましい。
【0028】
また、エステル結合を有する化合物としては、例えば、下記一般式(7)で特定される化合物を挙げることができる。
【0029】
【化7】

【0030】
(式中、R25およびR26はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アセチル基、カルボニル基、水酸基、エステル結合およびエーテル結合の中から選ばれる一種以上を有する脂肪族化合物残基、脂環式化合物残基、芳香族化合物残基および複素環化合物残基を表す。)
【0031】
エステル結合を有する化合物の具体例としては、酢酸−n−ブチル、酢酸イソアミル、酢酸−2−エチルヘキシル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、γ−ブチロラクトン、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。
エステル結合を有する化合物としては、ヒドロキシカルボン酸エステル類が好ましい。ヒドロキシカルボン酸エステル類とは水酸基を有するエステル化合物であり、好ましくは下記一般式(8)で特定される。
【0032】
【化8】

【0033】
(式中、R31は炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基又はシクロアルキル基を示す。)
【0034】
具体例としては、乳酸エステル、リンゴ酸エステル、酒石酸エステル、クエン酸エステル、グリコールモノエステル、グリセリンモノエステル、グリセリンジエステル、リシノール酸エステルおよびヒマシ油等を挙げることができる。
上記、(b)成分の中でも特に乳酸エステル類が好ましく、その具体例としては乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチルおよび乳酸ペンチル等を挙げることができる。
【0035】
溶剤(a)の中でも、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類およびヒドロキシカルボン酸エステル類は、併用するアルコール類の引火性を抑制する効果が特に高いので好ましい。
溶剤(a)としては、エ−テル結合を有する化合物とエステル結合を有する化合物とを含む溶剤が好ましい。具体的には、3−メチル−3−メトシキブタノールと3−メチル−3−メトシキブチルアセテートとを含む溶剤がより好ましく、その好ましい比率は、3−メチル−3−メトシキブタノールと3−メチル−3−メトシキブチルアセテートの質量比が80/20〜20/80である。
【0036】
本発明に用いる溶剤(b)は、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤である。好ましくは、非塩素系フッ素化合物のみからなる溶剤であり、引火点を有さないことがさらに好ましい。
以下に溶剤(b)を化合物の種類ごとに例示する。
非塩素系フッ素化合物とは、炭化水素類やエーテル類の水素原子の一部がフッ素原子のみで置換され、塩素原子を含まないフッ素化合物である。例えば、下記一般式(9)で特定される環状HFC(ハイドロフルオロカーボン)、(10)で特定される鎖状HFC、又は(11)で特定されるHFE(ハイドロフルオロエーテル)の、塩素原子を含まない、炭素原子、水素原子、酸素原子、フッ素原子からなる化合物、及びこれらの中から選ばれる2種以上の化合物の組み合わせ等を挙げることができる。
【0037】
2n−m (9)
(4≦n≦6、5≦m≦2n−1 n、mは整数)
2x+2−y (10)
(4≦x≦6、6≦y≦12 x、yは整数)
2s+1OR (11)
(4≦s≦6、Rは炭素数1〜3のアルキル基)
【0038】
(9)式で特定される環状HFCの具体例としては、3H,4H,4H−フルオロシクロブタン、4H,5H,5H−フルオロシクロペンタン、5H,6H,6H−ノナフルオロシクロヘキサン等を挙げることができる。
(10)式で特定される鎖状HFCの具体例としては、1H,2H,3H,4H−フルオロブタン、1H,2H−フルオロブタン、1H,3H−フルオロブタン、2H,3H−フルオロブタン、4H,4H−フルオロブタン、1H,1H,3H−フルオロブタン、1H,1H,4H−フルオロブタン、1H,2H,3H−フルオロブタン、1H,1H,4H−フルオロブタン、2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタン、1H,2H−フルオロペンタン、1H,4H−フルオロペンタン、2H,3H−フルオロペンタン、2H,4H−フルオロペンタン、2H,5H−フルオロペンタン、1H,2H,3H−フルオロペンタン、1H,3H,5H−フルオロペンタン、1H,5H,5H−フルオロペンタン、2H,2H,4H−フルオロペンタン、1H,2H,4H,5H−フルオロペンタン、1H,4H,5H,5H,5H−フルオロペンタン、1H,2H−フルオロヘキサン、2H,3H−フルオロヘキサン、2H,4H−フルオロヘキサン、2H,5H−フルオロヘキサン、3H,4H−フルオロヘキサン等を挙げることができる。さらに好ましくは、これらの非塩素系フッ素化合物で、その分子内の全アルキル基に対してフッ素を有さないアルキル基が半数以上である化合物が挙げられる。例えば、2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタンが挙げられる。これらは、金属加工油等に対する溶解性が他の非塩素系フッ素化合物よりも高く、その結果優れた洗浄性を有する。
(11)式で特定されるHFEの具体例としてはメチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル、メチルパーフルオロペンチルエーテル、メチルパーフルオロシクロヘキシルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル、エチルパーフルオロペンチルエーテル等を挙げることができる。
【0039】
本発明において、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤(b)として、非塩素系フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。好ましい例としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類等の高極性溶剤に対する溶解性が高く、地球温暖化係数の低い環状HFC、HFE、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。より好ましくは、4H,5H,5H−フルオロシクロペンタン、メチルパーフルオロブチルエーテルとメチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびその混合物、エチルパーフルオロブチルエーテルとエチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびその混合物を挙げることができる。さらに好ましくは引火点抑制効果に優れるメチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびその混合物を挙げることができる。
溶剤(b)としては、2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタンと、メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルを含む溶剤がより好ましい。さらに、その好ましい質量比率は、2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタンと、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテルの混合物の質量比が99/1〜70/30である。
【0040】
さらに、洗浄液は、引火点が出現しない範囲でアルコール類、ケトン類、エステル類および炭化水素類よりなる群から選ばれる一種または二種以上の化合物を、含有しても良い。これらの化合物類ごと以下に例示する。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等を挙げることができる。
ケトン類としては、アセトン,メチルエチルケトンを挙げることができる。
エステル類としてはギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等を挙げることができる。
炭化水素類としては、n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、2−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,4−ジメチルペンタン、イソオクタン等が挙げられる。
【0041】
本発明の汚れを分離除去する方法としては、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa未満の成分を含有する溶剤(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤(b)とを、質量比(a)/(b)=29/71〜90/10で含む洗浄液を用いて、被洗物の汚れを洗浄した後に、該汚れを含んだ洗浄液の溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を(a)/(b)=10/90〜29/71にすることで、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを分離除去する方法である。
被洗物の汚れを洗浄する洗浄液の、質量比(a)/(b)は、(a)/(b)=29/71〜90/10とすることが必要である。好ましくは、(a)/(b)=35/65〜80/20である。さらに好ましくは、(a)/(b)=40/60〜60/40である。
【0042】
また、該汚れを含んだ洗浄液から、汚れを分離除去する際には、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を(a)/(b)=10/90〜29/71にすることが必要である。(a)/(b)=10/90よりも溶剤(a)の割合が低いと、汚れを含んだ洗浄液中での溶剤(a)の割合が低く、循環式の洗浄をする上で効率が悪くなるため望ましくない。一方、(a)/(b)=29/71よりも溶剤(a)の割合が高いと、汚れを含んだ洗浄液中において、汚れを溶解する成分である溶剤(a)の割合が高く、洗浄液の汚れの飽和溶解濃度が上がる。そのため、汚れを分離させることが難しくなるため望ましくない。洗浄液の汚れの飽和溶解濃度は、洗浄液中の溶剤(a)の割合で決定される。つまり、溶剤(a)の比率が低いほど、汚れの飽和溶解濃度が低くなり、汚れが析出・分離しやすくなるのである。
【0043】
汚れを含んだ洗浄液から汚れを分離除去する際、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比率を前記範囲にする方法としては、添加後の液中の、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比率が前記の範囲であれば良く、汚れを含んだ洗浄液に、
1)溶剤(b)を添加する方法、
2)溶剤(a)と溶剤(b)を添加する方法、
3)溶剤(a)と溶剤(b)を混合した混合液を添加する方法、
4)溶剤(a)と溶剤(b)を混合した混合液Aと、溶剤(a)と溶剤(b)を混合した混合液Bを、それぞれ添加する方法、
5)溶剤(a)と溶剤(b)を混合した混合液Aと、溶剤(a)と溶剤(b)を混合した混合液Bを混合して添加する方法、
のいずれの方法でも良い。
【0044】
本発明の汚れを分離除去する方法の一例を、図1を用いて具体的に説明する。
まず、初めに溶剤(a)と溶剤(b)とを、質量比(a)/(b)=29/71〜90/10で含む洗浄液が入った洗浄槽1に、被洗物を投入して、被洗物の汚れを洗浄する。次に、溶剤(b)が入ったリンス槽2で、被洗物をリンスする。
洗浄槽1の汚れを含んだ洗浄液は、洗浄液送液用配管12を通して、混合槽4に送液される。また、洗浄槽1に備えられているヒーター19により、蒸気圧が高い溶剤(b)が蒸発し、冷却管7によって、溶剤(b)は凝縮される。その凝縮された溶剤(b)も、凝縮液用配管8から、水分離器3を経て、混合槽4へ送液される。ちなみに、リンス槽2から溶剤(b)を混合槽4へ送液しても良い。
【0045】
そして、混合槽4において、汚れを含んだ洗浄液と溶剤(b)の凝縮液とを混合して、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を、(a)/(b)=10/90〜29/71にすることにより、該汚れを含んだ洗浄液中に溶解していた汚れが、溶剤(a)から析出することになる。ちなみに、図に示してはいないが、析出した汚れは、混合槽4から系外に放出してもよい。
その後、汚れが析出した洗浄液を分離槽5に送液する。この洗浄液中には、汚れが溶解せず微分散しており、この汚れを除去するために、フィルターを通して、汚れを該洗浄液から分離除去する。分離槽内で浮遊し、上層に分離した汚れは、ある一定量溜まると電磁弁6が働き系外に放出される。そして、汚れが除去された清浄な洗浄液は、送液用配管16から再び洗浄槽1に戻されることになる。
【0046】
本発明の洗浄方法は、各種フラックス洗浄や基板表面に塗布される各種ソルダーレジストインキ等の熱硬化性インキやUV硬化性インキ等の洗浄および液晶洗浄、各種電気および電子部品の接着や封止等に使用されるエポキシやウレタン系の2液性樹脂の混合吐出機(ディスペンサー)ミキサー部やノズル部、液晶等の洗浄分野に適している。さらには、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に用いられる種々の加工油類、例えば、切削油、プレス油、引抜き油、熱処理油、防錆油、潤滑油等や、グリース類、ワックス類等の洗浄分野に対して、特に適している。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、本発明に用いられる評価方法及び測定方法、及び各試験条件に用いた試験油および評価の油分離率は下記の通りである。
【0048】
<洗浄液>
溶剤(a): 3−メチル−3−メトキシブタノールと3−メチル−3−メトキシブチルアセテート(質量比率が、3−メチル−3−メトキシブタノール/3−メチル−3−メトキシブチルアセテート=40/60)
溶剤(b):2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタンと、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテル(質量比率が、HFC365mfc/HFE7100=90/10、HFC365mfc:2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタン、HFE7100:メチルパーフルオロブチルエーテルとメチルパーフルオロイソブチルエーテルの混合物)
洗浄液:溶剤(a)と溶剤(b)を50:50で混合したものを用いる。
【0049】
<試験油>
A:切削油(ユニカットテラミAM30(商標)、新日本石油(株)製)
B:プレス油(ユニプレステラミDP68(商標)、新日本石油(株)製)
C:塑性加工油(ユシロンフォーマーFM220(商標)、ユシロ化学工業(株)製)
D:引抜き油(マスタードロー533WD(商標)、出光興産(株)製)
【0050】
<油分離率>
洗浄液100mlに油を5mlを投入し、1時間オートシェーカーで振とうし、汚れを含んだ洗浄液とする。そこに、溶剤(b)を加えて、溶剤(a)/溶剤(b)質量比を変えて、試験液とする。この試験液を、1時間オートシェーカーで振とうし、振とう直後の分散液および振とう後1時間放置させた分散液を各々5mlサンプリングする。これらの分散液をアルミカップに入れ、真空乾燥機で80℃、1時間、0torrの条件で乾燥させ、乾燥残分を求め、これを油分とし、油分離率を下記の式により計算した。
W1(g):振とう直後の分散液5mlの乾燥残分
W2(g):振とう後1時間放置させた分散液5mlの乾燥残分
油分離率(%)=(W1−W2)/W1×100
評価は以下の基準による。
◎:油分離率 60%以上
○:油分離率 40%以上60%未満
×:油分離率 40%未満
【0051】
[実施例1]
試験液に、溶剤(b)を、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比10/90がとなるように添加し、試験液とした。この試験液を用いて上記の操作により油分離率を測定した。各試験油の油分離率は切削油79%、プレス油79%、塑性加工油89%、引抜き油82%であり、非常に良好な結果を示した。
【0052】
[実施例2]
試験液に、溶剤(b)を、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比25/75がとなるように添加し、試験液とした。それ以外は実施例1と同様に行い、油分離率を測定した。油分離率はいずれの試験油においても50%以上であった。試験結果を表1に示す。各試験油の油分離率は切削油61%、プレス油63%、塑性加工油80%、引抜き油72%であり、非常に良好な結果を示した。
【0053】
[実施例3]
溶剤(a)と溶剤(b)を質量比40/60で混合し、混合液Aとする。そして溶剤(a)と溶剤(b)を質量比10/90で混合し、混合液Bとする。これらの混合液A、混合液Bを、試験液に、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比25/75がとなるように添加し、試験液とする。それ以外は実施例1と同様に行い、油分離率を測定した。試験結果を表1に示す。各試験油の油分離率は切削油62%、プレス油64%、塑性加工油83%、引抜き油75%であり、非常に良好な結果を示した。
【0054】
[比較例1]
試験液に、溶剤(b)を、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比30/70がとなるように添加し、試験液とした。それ以外は実施例1と同様に行い、油分離率を測定した。油分離率はいずれの試験油においても40%以上であった。試験結果を表1に示す。各試験油の油分離率は切削油40%、プレス油44%、塑性加工油65%、引抜き油57%であり、良好な結果を示した。
【0055】
[比較例2]
試験液に、溶剤(b)を、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比50/50がとなるように添加し、試験液とした。それ以外は実施例1と同様に行い、油分離率を測定した。油分離率はいずれの試験油においても40%未満であった。試験結果を表1に示す。各試験油の油分離率は切削油2%、プレス油10%、塑性加工油38%、引抜き油32%であり、油分離率は低かった。
【0056】
[比較例3]
試験液に、溶剤(b)を、溶剤(a)と溶剤(b)の質量比70/30がとなるように添加し、試験液とした。それ以外は実施例1と同様に行い、油分離率を測定した。各試験油の油分離率は切削油0%、プレス油0%、塑性加工油21%、引抜き油11%であり、油分離率はさらに低い結果を示した。切削油、プレス油は完全に溶解し分離は全く認められなかった。
【0057】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の汚れを分離除去する方法に用いられる洗浄装置の一例である。
【符号の説明】
【0059】
1洗浄槽
2リンス槽
3水分離器
4混合槽
5分離槽
6電磁弁
7冷却管
8凝縮液用配管
9水分離後の凝縮液用配管
10凝縮液送液用
11送液用ポンプ
12洗浄液送液用配管
13送液用ポンプ
14送液用配管
15送液用ポンプ
16送液用配管
17送液用ポンプ
18超音波
19ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における蒸気圧が1.33×103Pa未満の成分を含有する溶剤(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×103Pa以上の成分を含有する溶剤(b)とを、質量比(a)/(b)=29/71〜90/10で含む洗浄液を用いて、被洗物の汚れを洗浄した後に、該汚れを含んだ洗浄液の溶剤(a)と溶剤(b)の質量比を(a)/(b)=10/90〜29/71にすることで、汚れを含んだ洗浄液から、汚れを分離除去する方法。
【請求項2】
溶剤(a)がグリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類及びヒドロキシカルボン酸エステル類から選ばれる一種または二種以上を含む溶剤であり、溶剤(b)が非塩素系フッ素化合物を含む溶剤である請求項1に記載の汚れを分離除去する方法。
【請求項3】
溶剤(a)が3−メチル−3−メトシキブタノールと3−メチル−3−メトシキブチルアセテートとを含む溶剤であり、溶剤(b)が2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタン並びに、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテルを含む溶剤である請求項1に記載の汚れを分離除去する方法。
【請求項4】
3−メチル−3−メトシキブタノールと3−メチル−3−メトシキブチルアセテートの質量比が80/20〜20/80であり、2H,2H,4H,4H,4H−フルオロブタンと、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテルの混合物の質量比が99/1〜70/30である請求項3に記載の汚れを分離除去する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−116909(P2011−116909A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277167(P2009−277167)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】