説明

汚れ防止方法及び貼り紙防止方法

【課題】構造物等の表面を一時的に保護し、汚れや落書き、貼り紙を容易に除去できる汚れ防止方法及び貼り紙防止方法を提供する。
【解決手段】被塗物面に、重量平均分子量が10万以上、最低造膜温度が5℃未満のアクリル共重合体エマルション(A)を含有する可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上になされた汚れ及び/又は落書きを可剥離膜と一緒に除去する。また被塗物面に、重量平均分子量が10万以上、最低造膜温度が5℃未満のアクリル共重合体エマルション(A)を含有する可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離膜と一緒に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物等の表面を一時的に保護し、汚れや落書き、貼り紙を容易に除去できる汚れ防止方法及び貼り紙防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物外壁、電柱、電話ボックス等、屋外構造物の表面に無断で落書きや貼り紙が貼着されることがある。このような落書きを落とす、また貼り紙を剥がす際に多大な労力を要し、また構造物表面にラッカーや油性マーカーによる落書き跡や貼り紙の一部が残存して構造物表面の美観を著しく損ねるため、これらを防止するための種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では構造物表面にプライマー層、表面層及び可剥離層が形成された落書き対策用の構造体が開示されている。この構造体の製造方法では可剥離層が剥がれやすくなるように表面層を設ける必要があり、またその表面層が難接着性であるため、可剥離性材料の塗布が比較的困難であるという問題があった。
【0004】
一方、本出願人は特許文献2で、建築外装面や磁器タイルなどのパック洗浄剤として、また塗装仕上り面の一時保護剤として、伸び率100%以上で、引っ張り強度100kg/cm2以上であるゴム又はその誘導体に基づくエマルジョンを含有する可剥離性水性被覆組成物を提案した。また特許文献3、4では、自動車などの塗装された物品の表面を一時的に保護するのに有用な可剥離性水性被覆組成物として、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分とし、カルボキシル基含有モノマーの含有率が5重量%以下、ガラス転移温度が5〜30℃および重量平均分子量が20,000以上であるアクリル系樹脂、撥水剤および紫外線吸収剤を主成分とする可剥離性水性被覆組成物や、ガラス転移温度が5〜30℃で重量平均分子量が3万〜10万の範囲であるアクリル系エマルジョンを主成分とし、固形分が30〜60重量%でかつ見掛け粘度が300〜4000mPa・sの範囲の水性塗料を提案した。
【0005】
【特許文献1】特開2003−11261号公報
【特許文献2】特開平9−241541号公報
【特許文献3】特開平7−278468号公報
【特許文献4】特開平9−192593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の可剥離性水性被覆組成物を落書き防止や貼り紙防止用途に用いると、特許文献2に開示の組成物では、得られる被膜による保護が長期にわたると、光劣化を起こして被膜強度が低下し剥離の際にちぎれ易くなり、逆に多大な工数がかかる場合があり、特許文献3、4に開示の組成物では低温環境下での造膜性に劣るため、屋外構造物等での使用に問題があった。
【0007】
本発明の目的は、上記不具合を解消し、汚れや落書き、貼り紙を容易に除去できる汚れ防止方法及び貼り紙防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被塗物面に、重量平均分子量が10万以上、最低造膜温度が5℃未満のアクリル共重合体エマルション(A)を含有する可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上になされた汚れ及び/又は落書きを可剥離膜と一緒に除去する汚れ防止方法、及び被塗物面に、重量平均分子量が10万以上、最低造膜温度が5℃未満のアクリル共重合体エマルション(A)を含有する可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離膜と一緒に除去する貼り紙防止方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特別な下層塗膜を設けることなく、可剥離膜を構造物表面等に設けられ、またその表面に落書きや貼り紙がなされた場合にもこれらと共に容易に剥離することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する可剥離膜形成用組成物は、重量平均分子量が10万以上、好ましくは15〜50万、最低造膜温度(MFT)が5℃未満、好ましくは0〜3℃のアクリル共重合体エマルション(A)を含有する。該重量平均分子量が10万未満では、被膜強度が低くなり、一枚の連続膜として剥がすことが困難になる場合があり、また落書き成分が浸透して剥離後に跡が残る恐れがあるので好ましくない。またMFTが5℃以上では、低温環境下での造膜性に劣り、形成被膜がひび割れる場合があるので好ましくない。
【0011】
ここで重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1.0ml/min、測定温度40℃でゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ装置には「HLC8120GPC」(東ソー(株)社製、商品名)が使用でき、溶媒のゲルパーミュエーションクロマトグラフィに用いるカラムとしては、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を使用する。
【0012】
またここで、最低造膜温度(MFT;Minimum Filmforming Temperature)は、この温度以上で、本発明組成物がクラックのない均一な被膜を形成する温度と定義され、ISO規格2115に記載された方法及び装置によって測定される温度である。
【0013】
上記アクリル共重合体エマルション(A)としては、上記重量平均分子量及びMFTを満足するものであれば特に制限なく使用でき、例えば(メタ)アクリル酸エステルを必須とし、これに必要に応じて他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を乳化重合して得られるアクリル共重合体エマルションが、形成被膜における長期使用時の耐久性の点から好適である。
【0014】
上記アクリル共重合体の製造に使用される(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の炭素数1〜24個のアルキル又はシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の炭素数2〜8個のヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられる。
【0015】
他の重合性不飽和モノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステル以外の、例えば、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン、クロルスチレン、N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルイソブチルエーテル、メチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレートなどのカルボキシル基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩などのスルホン酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物など;ポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル;1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレートなどの多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらは所望の性能に応じて適宜使用される。
【0016】
上記アクリル共重合体の製造において、(メタ)アクリル酸エステルと他の重合性不飽和モノマーとの混合比率は、特に制限はないが、両成分の合計量に基づいて、(メタ)アクリル酸エステルを1〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、他の重合性不飽和モノマーを99〜0重量%、好ましくは50〜0重量%とするのが適当である。他の重合性不飽和モノマーとして水溶性モノマーを用いた場合には、得られる被膜の耐水性の面からこの使用量を10重量%以下に抑えることが好ましく、特にカルボキシル基含有モノマー及びアミド基含有モノマーの場合は、量が多くなると、保護すべき塗膜との密着性が高く、被膜の剥離が困難となるため2.0重量%未満が好ましい。
【0017】
上記アクリル共重合体としては、通常、非架橋型である共重合体を用いることができるが、さらにカルボニル基含有不飽和モノマーをモノマー混合物中0.1〜30重量%含有せしめたモノマー混合物を共重合してなる、ヒドラジド化合物などと架橋可能な架橋型のアクリル共重合体を用いてもよい。これを用いると得られる被膜には、強度が強く適度な伸びを有し且つ強度や伸びの温度依存性が小さいという特徴を付与できる。
【0018】
該カルボニル基含有不飽和モノマーとしては、例えばアクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等が挙げられる。このうち特にダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミドが好適である。
【0019】
上記アクリル共重合体がカルボニル基を有する架橋可能なアクリル共重合体である場合には、前記他の重合性不飽和モノマーの1つとしてカルボニル基含有不飽和モノマーを用いれば良く、例えばカルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和モノマーを0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜10重量%、(メタ)アクリル酸エステルを99.9〜70重量%、好ましくは99.5〜90重量%、及び他の重合性不飽和モノマーを0〜20重量%、好ましくは0〜5重量%とするのが適当である。
【0020】
アクリル共重合体が、カルボニル基を導入せしめた架橋可能なタイプである場合には、該エマルションに架橋剤としてヒドラジド化合物を含有させることができる。該ヒドラジド化合物としては、1分子中少なくとも2個のヒドラジド基を有するものであり、例えば、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどの2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどのモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸のジヒドラジド;炭酸ジヒドラジド、ビスセミカルバジド、ポリイソシアネート化合物とポリオキシエチレン鎖等の親水性基含有活性水素化合物との反応物にヒドラジン誘導体を反応させてなる水系セミカルバジド化合物(特開平8−151358号参照);フタル酸、テレフタル酸又はイソフタル酸ジヒドラジド、ならびにピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジド又はテトラヒドラジド;ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド;エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジン又はヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させてなるポリヒドラジド(特公昭52−22878号参照)、その他にカルボヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントインなどが挙げられる。該ヒドラジド化合物は、疎水性が強すぎると水分散化が困難となり、均一な架橋塗膜が得られないことから適度な親水性を有する比較的低分子量(300以下程度)の化合物を使用することが好適であり、上記例示中では、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのジカルボン酸のジヒドラジドが好適である。
【0021】
上記ヒドラジド化合物の添加量は、前記カルボニル基を含有するアクリル共重合体中のカルボニル基1当量に対し、ヒドラジド基の量が0.02〜3.0当量、好ましくは0.1〜2.0当量となる量が適当である。
【0022】
本発明で使用する可剥離膜形成用組成物は、上記アクリル共重合体エマルション(A)を被膜形成成分として含有するものであり、さらに落書き成分等の浸透防止等保護性向上の点から、重量平均分子量が10万以上、好ましくは15〜50万、最低造膜温度(MFT)が5℃以上、好ましくは20〜50℃の共重合体エマルション(B)を全樹脂固形分中に60重量%以下、好ましくは10〜55重量%、さらに好ましくは20〜40重量%の範囲内に含有することができる。また上記共重合体エマルション(B)は、また形成被膜の強度向上、被塗面への密着力の調整等の点からガラス転移温度が5℃以上、好ましくは20〜50℃のであることが望ましい。
【0023】
上記共重合体エマルション(B)としては、上記重量平均分子量及びMFT、さらにはガラス転移温度を満足するものであれば特に制限なく使用でき、例えば(メタ)アクリル酸エステルを必須とし、これに必要に応じて他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を乳化重合して得られるアクリル共重合体エマルションが例示できる。
【0024】
また上記可剥離膜形成用組成物は、落書き成分等の浸透防止等保護性向上の点から体質顔料(C)を含有することが望ましい。該体質顔料(C)としては、例えばタルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、クレ−、マイカなどの体質顔料が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上併用して用いることができる。これらのうち特に薄片板状のタルク、シリカ、マイカなどが好適に使用できる。
【0025】
上記体質顔料(C)の含有量は、組成物中の樹脂固形分100重量部に対して2〜50重量部、好ましくは10〜30重量部の範囲内が適当である。
【0026】
さらに上記可剥離膜形成用組成物は、形成被膜の屋外での長期使用時における耐久性向上の点から、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤よりなる耐候性助剤(D)を含有することが望ましい。
【0027】
紫外線吸収剤としては従来から公知のものが使用できる。このものの具体例としてはフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレートなどのサリチル酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2´−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノントリヒドレート、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、ナトリウム2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2´,4,4´−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジベンゾイルレゾルシノール、4,6−ジベンゾイルレゾルシノール、ヒドロキシドデシルベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系及びその他(シュウ酸アニリド、シアノアクリレートなど)の化合物などが挙げられる。
【0028】
光安定剤としては従来から公知のものが使用できる。主としてヒンダードアミン誘導体であるが、具体的にはビス−(2,2´,6,6´−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテート、4−ベンゾイルオキシ−2,2´,6,6´−テトラメチルピペリジンなどが好適である。
【0029】
上記紫外線吸収剤及び光安定剤は、夫々単独でまたは併用して用いることができる。
【0030】
上記耐候性助剤(D)の配合量は目的に応じて任意に選択できるが、組成物中の樹脂固形分100重量部に対して、紫外線吸収剤が0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、光安定剤が0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部が適当である。
【0031】
さらに上記可剥離膜形成用組成物は、被塗面への適度な密着性の付与及び長期使用後でも容易に剥離可能とする点から、剥離助剤(E)を含有することが望ましい。該剥離助剤(E)としては、ワックス系、シリコーン系、フッ素系などから選ばれる少なくとも1種以上の化合物が好適に使用できる。これらは水に溶解、もしくは分散化されたもの、もしくは粉末状のいずれのものであっても使用できる。これらのうちポリエーテル変性シリコーンオイルが好適に使用できる。
【0032】
上記剥離助剤(E)の配合量は目的に応じて任意に選択できるが、組成物中の樹脂固形分100重量部に対して、0.1〜15重量部、好ましくは0.5〜10重量部が適当である。
【0033】
上記の体質顔料(C)、耐候性助剤(D)、剥離助剤(E)は、必要に応じて予め水性エマルションとした上で、前記エマルション(A)に配合するのが望ましい。これら成分の水性エマルション化には機械的分散、乳化剤による分散などの方法が実施できる。
【0034】
上記可剥離膜形成用組成物には、さらに必要に応じてチタン白、カーボンブラック、フタロシアニンブルー等の着色顔料;ポリマー粒子、塗面調整剤、消泡剤、増粘剤などを含有することができる。
【0035】
本発明方法は、特に屋外構造物などの被塗物面に、上記可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上になされた煤塵や排気ガス、タバコ等による汚れや、ラッカーや油性マーカー等による落書きを可剥離膜と一緒に容易に除去するものであり、また屋外構造物などの被塗物面に、上記可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離膜と一緒に容易に除去するものである。
【0036】
被塗物面としては、例えば、建物外壁、橋脚、トンネル内面、ガードレール、電柱、電話ボックス等の屋外構造物の表面(素材面や塗膜面等);二輪、四輪などの自動車車両、鉄道車両、飛行機、鋼製家具、建材、家電製品、厨房機器等の工業製品の表面(素材面や塗膜面等)などが挙げられる。
【0037】
塗布方法としては、例えばローラー、刷毛、スプレーなど従来公知の方法が特に制限なく採用できる。塗布時には粘度を0.3〜4Pa.s(20℃)、好ましくは1〜3Pa.s(20℃)の範囲に調整することが望ましい。塗布膜の乾燥は、通常、約40℃以下程度の常温乾燥であることが望ましい。
【0038】
可剥離膜の膜厚は、乾燥膜厚で30〜200μm、好ましくは50〜120μm、さらに好ましくは60〜100μmであることが、保護性確保及び剥離時の容易性、さらに塗布作業性の点から好適である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「重量部」及び「重量%」を示す。
【0040】
アクリル共重合体エマルションの製造例
製造例1
還流冷却器、撹拌器、温度計、滴下ロートを装備した容量2リットルの4つ口フラスコに脱イオン水356部、「Newcol 707SF」(日本乳化剤社製、商品名、アニオン性乳化剤、固形分30%)2.6部を加え、窒素置換後、80℃に保った。この中に過硫酸アンモニウム0.2部を添加し、添加15分後から下記組成をエマルション化してなるプレエマルションを3時間にわたって滴下した。
【0041】
脱イオン水 416部
メチルメタクリレート 380部
n−ブチルアクリレート 416部
アクリル酸 4部
30% Newcol 707SF 50.6部
過硫酸アンモニウム 0.8部
滴下終了後、さらに2時間80℃に保持した。その後40〜60℃に温度を下げ、アンモニア水でpH7〜8に調整し、不揮発分50.2%、MFT約2℃のアクリル共重合体エマルション(A−1)を得た。
【0042】
製造例2〜5
製造例1において、モノマー組成を表1に示す配合比とする以外は製造例1と同様の方法でアクリル共重合体エマルション(A−2)〜(A−3)及び(B−1)〜(B−2)を得た。表1に各エマルションの特数値を併せて示す。
【0043】
尚、各共重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121に準じて、示差走査熱量測定(DSC)により求めた。具体的には、アクリル共重合体エマルションを容器(直径5mmのアルミニウム製サンプルパン)に乾燥後の重量が約10mgとなるように入れ、容器ごと105℃で1時間乾燥させて試料とし、「SSC/5200」(Seiko Instruments社製、熱分析システム装置)を用いてDSC曲線を描き、検出されるピークからガラス転移温度を求めた。
【0044】
【表1】

【0045】
体質顔料(C)の調整
タルクMA(タルク、日本タルク社製)100部にポリカルボン酸ナトリウム塩の40%水溶液3部、水100部を加えてよく撹拌し、サンドミル分散機で25ミクロン以下の粒度に分散して、タルクの水分散体(C−1)を得た。
【0046】
耐候性助剤(D)の調整
紫外線吸収剤「チヌビン1130」(ベンゾトリアゾール誘導体、液状、チバスペシャルティケミカルズ社製)は、この30部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート5部、水65部を加えてよく撹拌し、固形分30%の紫外線吸収剤エマルション(D−1)とした。
【0047】
光安定剤「サノールLS−292」(ヒンダードアミン誘導体、液状、三共社製)は、この50部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート5部、水45部を加えてよく撹拌し、固形分50%の光安定剤エマルション(D−2)とした。
【0048】
剥離助剤(E)の調整
変性シリコーンオイル「TSF4445」(東芝シリコーン製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)30部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート2部、水68部を加えてよく撹拌し、固形分30%のシリコーンオイルのエマルション(E−1)を得た。
【0049】
可剥離膜の形成
実施例1〜10及び比較例1〜5
上記の通り製造したアクリル共重合体エマルション(A−1)〜(A−3)、(B−1)〜(B−2)を表2に示す組合せ及び配合量(固形分)で夫々混合し、これらの樹脂固形分100部に対して上記の通り調整した剥離助剤、紫外線吸収剤、光安定剤及び体質顔料を表2に示す種類及び配合量(固形分)で夫々添加し、撹拌混合して、各可剥離膜形成用組成物を得た。
【0050】
これらの組成物に、必要に応じてポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル及びパーフルオロアルキルアミンオキサイドなどを添加して表2に示す粘度に調整した後、表3に示す被塗板((1)軟鋼板にプライマーを塗装した後、上塗りに2液のウレタンを塗装したものと、(2)上塗りにエマルジョンペイントを塗装したもの、さらには(3)塗装を施さないスレート板の3種類)に上記で得られた可剥離膜形成用組成物を乾燥膜厚が80μmとなるように塗布し、下記評価方法に従って落書きまたは貼り紙を施した後に剥離し、保護性の評価を行った。結果を表2に併せて示す。尚、比較例5は造膜不良のため、剥離、保護性の評価ができなかった。
【0051】
(*1)粘度:塗液の粘度は(株)東京計器製のB形粘度計を用いて測定した。測定条件は塗液温度20℃、ローター回転数6rpmとした。
【0052】
(*2)造膜性:乾燥膜厚が80μmになるようにアプリケーターで塗装してから直ちに雰囲気温度5℃、風速0.5〜0.7m/sの条件下で1時間放置した後、塗面状態を観察した。
【0053】
○:異常なし。連続被膜が形成されている
△:ヒビ割れ状の異常が塗面の30%未満に認められる
×:ヒビ割れ状の異常が塗面の30%以上に認められる
【0054】
(*3)剥離性(初期):被膜形成後、5℃で1日放置した後、試験板に塗布した剥離性被覆組成物被膜を端部から、手で1m/30秒の速度ではがした場合の剥離し易さを被膜温度が5℃において試験し、下記基準で評価した。
【0055】
◎:極めて容易に剥離できる
○:容易に剥離できる
△:重いが剥離できる
×:被膜が脆くシート状に剥離しにくい
××:剥離不能である
【0056】
(*4)剥離性(促進耐候性):被膜形成後、20℃で1日放置した後、Qパネル社製促進耐候性試験機を用いたQUV促進バクロ試験により、紫外線照射(70℃)16時間、水凝結(50℃)8時間を1サイクルとして480時間(20サイクル)試験した後に(*3)と同様の方法で剥離し易さを被膜温度20℃の条件で試験した。
【0057】
(*5)保護性(落書き):被膜形成後、20℃で1日放置した後、落書きを施し、6時間後に剥離し、落書き跡の有無を観察した。落書きは市販の溶剤タイプ黒色ラッカースプレー(溶剤タイプ)を50×90mmの面積に約25cm離れた位置から、3秒間吹き付けることによって施した。
【0058】
○:異常なし
△:やや落書き跡が残っている
×:落書き跡が残っているまたは剥離不可
【0059】
(*6)保護性(貼り紙):被膜形成後、20℃で1日放置した後、貼り紙を施し、6時間後に剥離し、貼り紙跡の有無を観察した。貼り紙は市販のスプレーのり(住友スリーエム社製、商品名「スプレーのり77」)を用いてカラー印刷されたB5サイズのコート紙を貼りつけて施した。
【0060】
○:異常なし
△:やや貼り紙が残っている
×:貼り紙が残っているまたは剥離不可
【0061】
(*7)長期保護性(落書き):被膜形成後、20℃で1日放置した後、(*3)と同様の促進耐候性試験に供し、その後で落書きを施し、(*5)と同様の方法及び評価基準で落書き除去の評価を行なった。
【0062】
(*8)長期保護性(貼り紙):被膜形成後、20℃で1日放置した後、(*3)と同様の促進耐候性試験に供し、その後で貼り紙を施し、(*6)と同様の方法及び評価基準で貼り紙除去の評価を行なった。
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物面に、重量平均分子量が10万以上、最低造膜温度が5℃未満のアクリル共重合体エマルション(A)を含有する可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上になされた汚れ及び/又は落書きを可剥離膜と一緒に除去する汚れ防止方法。
【請求項2】
被塗物面に、重量平均分子量が10万以上、最低造膜温度(MFT)が5℃未満のアクリル共重合体エマルション(A)を含有する可剥離膜形成用組成物を塗布し、可剥離膜を形成した後、該膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離膜と一緒に除去する貼り紙防止方法。
【請求項3】
可剥離膜形成用組成物が、さらに重量平均分子量が10万以上、最低造膜温度が5℃以上の共重合体エマルション(B)を、組成物中の全樹脂固形分中60重量%以下含有する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
可剥離膜形成用組成物が、さらに体質顔料(C)を該組成物中の樹脂固形分100重量部に対して2〜50重量部含有する請求項1又は記載の方法。
【請求項5】
可剥離膜形成用組成物が、さらに耐侯性助剤(D)を含有する請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
可剥離膜形成用組成物が、さらに剥離助剤(E)を含有する請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
可剥離膜の膜厚が、乾燥膜厚で30〜200μmである請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項記載の方法に用いられる可剥離膜形成用組成物。


【公開番号】特開2006−159079(P2006−159079A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353727(P2004−353727)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】