説明

汚れ防止方法

【解決すべき課題】 ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程にジエン化合物の重合およびポップコーン・ポリマーに由来する汚れの発生防止、更にこれまで十分な効果が発揮されていなかったガス状のジエン化合物が接する箇所での汚れの発生防止により、該工程における液相部及び気相部の長期間の連続運転を円滑かつ容易にする汚れ防止方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、酸素存在下で特定のピペリジン−1−オキシル化合物を用いたジエン化合物の重合および残存ポップコーン・ポリマーに由来する汚れの防止方法であり、さらには酸素存在下、特定のピペリジン−1−オキシル化合物と特定のN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を併用するジエン化合物の重合及びポップコーン・ポリマーに由来の汚れの防止方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程における汚れの発生を防止、もって該工程の連続運転を円滑かつ容易にならしめる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、主にラジカル重合反応により生じるジエン化合物の重合体(ポリマー)による汚れが問題となっている。また、ジエン化合物に由来するポリマーは通常のポリマーと異なり、ポップコーン・ポリマーとして知られている。通常のポリマーはある程度成長した段階で、重合の起点となるラジカルが消失して成長を停止するが、ポップコーン・ポリマーは成長の過程でポリマー内部にラジカルが新たに生まれ、モノマーが存在する限り成長を続け、さらにポップコーン・ポリマーの成長に伴って加速度的に成長する性質を有している。そのため、ポップコーン・ポリマーがひとたび生成すると、装置内が急激に汚れ、装置内のプロセス流体の流れを阻害したり、当該装置内の熱移動の悪化を引き起こす。その結果、通常の運転が困難になり、運転効率の低下や装置の稼働率の低下、さらにはポップコーン・ポリマーが成長し続けるために、場合によっては装置の破壊に至ることもある。
【0003】
ポップコーン・ポリマーは、高度に架橋した3次元構造を持ち、ほとんどの溶剤に不溶で加熱しても溶融しないために物理的な方法で除去する以外に方法がなく、一旦、ポップコーン・ポリマーの発生やポップコーン・ポリマー由来の汚れが発生すると装置を停止して物理的な方法(例えば、高圧洗浄水や手作業による汚れの除去など)で汚れの除去を行っている。しかし、物理的な方法では完全に除去し切れず、ポップコーン・ポリマーが装置内に残り、運転を再開したときに残存したポップコーン・ポリマーが再び成長する。このように、ポップコーン・ポリマーが発生すると、「ポップコーン・ポリマーの成長」→「運転障害」→「運転停止」→「装置開放」→「ポップコーン・ポリマーの除去」→「運転再開」→「ポップコーン・ポリマーの成長」の悪循環を繰り返し、ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程における汚れ問題を深刻なものにしている。
【0004】
そこで、ポップコーン・ポリマーの成長を効果的に抑制し、前記の悪循環を断ち切り安定操業を行うことが重要な課題になっており、これまでに種々の汚れ防止方法が提案されてきた。例えば、ラジカルを消失させ、ポップコーン・ポリマーとしての性質をなくす方法として、ビニル化合物に環状アミノ誘導体を用いるビニル重合禁止剤(例えば特許文献1参照)、2、2、6、6−テトラメチル−4−オキソピペリジン−1−オキシルに代表されるオキシル基(−O・)を有する環状アミノ誘導体を用いたビニル重合禁止剤(例えば特許文献2参照)、ジ−t−ブチルニトロオキシド、ピペリジニル−1−オキシル化合物、ピロリジン−1−オキシル化合物又はピロリン−1−オキシ化合物を700ppb未満添加して塔底液によるオレフィン化合物の着き垢(汚れ)を防止する方法(例えば特許文献3参照)、ニトロソフェノール系化合物を有効成分として用いたエチレン製造装置蒸留塔汚れ防止剤(例えば特許文献4参照)、ピペリジン−1−オキシル化合物とN、N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を添加するオレフィン類製造装置あるいは精製工程の汚れ防止方法(例えば特許文献5参照)などがある。一方、ポップコーン・ポリマーの生成を抑制する汚れ防止方法として、イソプレン含有炭化水素を低級アルキルヒドロキシルアミンの存在下の蒸留方法(例えば特許文献6参照)、N−オキシル化合物を用いたα、β−不飽和カルボン酸エステル(アクリル酸エステル等)のポップコーン重合防止方法(例えば特許文献7参照)、モノオレフィン及び(又は)ジオレフィンの回収又は精製系にトリアルキルアミンとN,N−ジアルキルヒドロキシルアミンを添加するポップコーン・ポリマー抑制方法(例えば特許文献8参照)、オレフィン系不飽和有機化合物中に脂肪族アルコールを添加するポップコーン・ポリマー抑制方法(例えば特許文献9参照)等がある。
【0005】
しかし、これらの提案された汚れ防止方法はポップコーン・ポリマー自体の成長活性を消失する効果はなく、物理的洗浄で除去できなかった汚れが運転再開に伴い成長し始めるため、汚れ問題の根本的な解決策となっていない。さらにこれまで提案されている汚れ防止方法で用いられている有効成分はジエン化合物よりも沸点が高いため、その効果はジエン化合物が液状になっている個所に限られ、ガス状のジエン化合物で満たされ接している部分での汚れ防止及びポップコーン・ポリマーの成長抑制には十分な効果がない。そのために満足しうる汚れ防止方法が強く求められている。
【0006】
【特許文献1】特公昭50−10281号公報
【特許文献2】特公昭51−15001号公報
【特許文献3】特公平4−26639号公報
【特許文献4】特開平5−156233号公報
【特許文献5】特許第3187345号公報
【特許文献6】特開昭50−112304号公報
【特許文献7】特公昭56−38301号公報
【特許文献8】特開昭63−223003号公報
【特許文献9】特開平11−286461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程におけるジエン化合物の重合および残存ポップコーン・ポリマーに由来する汚れの発生防止、さらにこれまで十分な効果が発揮されていなかったガス状のジエン化合物が接する箇所でのジエン化合物の重合およびポップコーン・ポリマーに由来する汚れの発生防止により、該工程における液相部及び気相部の長期間の連続運転を円滑かつ容易にする汚れ防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、ジエン化合物の重合による汚れの発生防止および残存ポップコーン・ポリマーのによる汚れの発生防止いついて鋭意研究を行った結果、ジエン化合物の製造、精製、回収、貯蔵あるいは輸送工程において、酸素存在下でピペリジン−1−オキシル化合物、さらにN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物との併用が液相及び気相におけるジエン化合物の重合の抑制およびポップコーン・ポリマーの成長抑制に有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明はジエン化合物製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、酸素存在下でピペリジン−1−オキシル化合物を用いることを特徴とする汚れ防止方法である。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の汚れ防止方法であり、酸素存在下でピペリジン−1−オキシル化合物と同時に下記一般式(1)(式中R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜10のアルキルフェニル基である)で表されるN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を用いることを特徴とする。
【0011】
【化1】

請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の汚れ防止方法であり、ジエン化合物が1、3−ブタジエン、2−メチル−1、3−ブタンジエン(イソプレン)、1、3−ペンタジエン、クロロプレンから選択される1種以上であることを特徴としている。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか記載の汚れ防止方法であり、ピペリジン−1−オキシル化合物が2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルおよび4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルから選択される1種以上であることを特徴としている。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか記載の汚れ防止方法であり、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物がN,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N,N−ジベンジルヒドロキシルアミン、N,N−ジフェニルヒドロキシルアミンから選択される1種以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法により、ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、汚れの発生の防止による長期間の円滑な連続運転が可能になり、しかも操業時の汚れの急増による緊急停止はなく、操業性が著しく向上した。さらに装置洗浄を行ない、操業再開後の残存ポップコーン・ポリマーの成長が長期間にわたり、抑制され、運転効率の向上に大きく寄与した。さらにこれまで十分な効果が発揮されていなかった蒸留塔や精留塔側壁面の汚れが抑制、防止されたことにより、熱交換器の熱伝導率が向上し、熱エネルギーの節減に大きく寄与した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、酸素存在下で特定のピペリジン−1−オキシル化合物を用いたジエン化合物の重合物由来の汚れの防止方法及びポップコーン・ポリマー由来の汚れの防止方法であり、さらには酸素存在下、特定のピペリジン−1−オキシル化合物と特定のN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を併用するジエン化合物由来の汚れの防止方法及びポップコーン・ポリマー由来の汚れの防止方法である。
【0017】
本発明の汚れ防止方法は、酸素存在下で特定のピペリジン−1−オキシル化合物あるいは酸素存在下で特定のピペリジン−1−オキシル化合物と特定のN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物の併用により、酸素単独、ピペリジン−1−オキシル化合物単独、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物単独に比べて、相乗効果を発揮してより優れたジエン化合物の重合に由来する汚れの防止方法、およびポップコーン・ポリマーの成長活性を消失させた当該ポップコーン・ポリマー由来の汚れの防止方法である。また、従来の汚れ防止方法は、液相部におけるジエン化合物の重合の汚れ防止方法およびポップコーン・ポリマー由来の汚れ防止方法であったが、本発明の汚れ防止方法は、液相部だけでなく、気相におけるジエン化合物由来の汚れの防止およびポップコーン・ポリマー由来の汚れ防止方法である。
【0018】
本発明におけるジエン化合物は、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数4〜7の2つの不飽和二重結合を持ったジエン化合物である。具体的には、1、3−ブタジエン、2−メチル−1、3−ブタンジエン(イソプレン)、2、3−ジメチル−1、3−ブタジエン、1、3−ペンタジエン、1、4−ペンタジエン、2−メチル−1、3−ペンタジエン、2−メチル−1、3−ペンタジエン、2、3−ジメチル−1、3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレンなどがあり、好適には1、3−ブタジエン、2−メチル−1、3−ブタンジエン(イソプレン)、1、3−ペンタジエン、クロロプレンである。
【0019】
本発明において対象となる工程は、前記ジエン化合物を製造する製造工程、製造したジエン化合物を精製する精製工程、製造あるいは精製したジエン化合物を回収してジエン化合物及びその原料と製品に分離しそれぞれ回収する回収工程、製造あるいは精製したジエン化合物を保管、貯蔵する貯蔵工程、および製造・精製したジエン化合物を保管、移送し、輸送する輸送工程である。さらに各工程でジエン化合物を含むプロセス液と接する周辺設備・機器を含む循環系や回収系も包含する。また、ジエン化合物を用いた重合反応により共重合体を得る場合において、未反応のジエン化合物の回収工程も含まれる。具体的には、ブタジエン製造プラント、イソプレン製造プラント、クロロプレン製造プラント等における各ジエン化合物の合成反応塔および反応後の反応物排出ラインや回収循環ライン、精製工程における精製塔へのジエン化合物及びそのフィード配管や予熱ライン、冷却ライン、循環ライン、蒸留塔(及び精留塔)頭頂部や塔底部および蒸留塔(及び精留塔)中間部側内面、蒸留塔貯蔵工程における保管タンクや貯蔵タンク、輸送工程における移送タンクおよび輸送タンクさらにその移送ラインなどがある。また、スチレン−ブタジエン共重合体製造プラントにおけるブタジエン回収工程がある。更にこれらの工程内および装置内の気相部及び液相部も対象として含まれる。
【0020】
本発明で用いるピペリジン−1−オキシル化合物(以下、「ピペリジン−1−オキシル化合物」とする)は、安定なN−オキシラジカル基を有するピペリジン−1−オキシル化合物である。具体的には、N−オキシラジカル基を取り囲んで複数の置換基を持ち、立体障害性を成して安定なN−オキシラジカル基を有するピペリジン−1−オキシル化合物となるものであり、例えば2、6位に置換基を有する2、6−置換ピペリジン−1−オキシル化合物である2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルがあり、中でも好ましくは2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルである。これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ピペリジン−1−オキシル化合物の添加量は、プロセス液中のジエン化合物量及び目的とする汚れ防止の程度に応じて適宜決定されればよいが、通常、プロセス液中のジエン化合物量に対し0.1〜200ppm、好ましくは1〜100ppm、さらに好ましくは5〜50ppmである。ピペリジン−1−オキシル化合物の添加量が0.1ppm未満では、十分な効果が発揮されない場合がある。また、ピペリジン−1−オキシル化合物の添加量が200ppm以上では、十分な効果が得られるが、添加量に見合うだけの効果の向上が無く、経済的なメリットが少ない場合がある。
【0022】
本発明における酸素は、純酸素、空気、あるいは酸素と不活性ガスとの混合ガスであっても良い。本発明ではピペリジン−1−オキシル化合物を酸素の存在下で用いることによって顕著な汚れ防止効果が達成できる。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどがあり、窒素が最も安価で好ましい。酸素の添加量は、目的とする汚れ防止の程度に応じ、さらにピペリジン−1−オキシル化合物添加量及び/又はN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物添加量を考慮し、適宜決定されればよいが、通常、プロセス液中のジエン化合物及び/又はその誘導体量に対し0.1〜100ppm、好ましくは0.5〜50ppm、さらに好ましくは1〜25ppmである。酸素の添加量が0.1ppm未満では、十分な効果が発揮されない場合がある。また、酸素の添加量が100ppm以上では、ジエン化合物の重合を促進し汚れを増加させる場合があり、好ましくない場合がある。
【0023】
ジエン化合物への酸素の添加は、従来よりジエン化合物の重合を促進し、装置の汚れを助長するものと見なされ、好ましい行為ではなかった。しかし、本発明者の研究により、特定量の酸素の添加とピペリジン−1−オキシル化合物の併用、さらには酸素、ピペリジン−1−オキシル化合物、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物との併用により、ジエン化合物の重合による汚れの防止と、ポップコーン・ポリマーの成長活性を消失させる汚れの防止に予想し得ない相乗効果を発揮することが分かった。
【0024】
本発明で用いるN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物(以下「N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物」とする)は、一般式(1)で表され、ヒドロキシル基が結合した窒素に2つの置換基を持つヒドロキシルアミン化合物である。式中、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜10のアルキルフェニル基である。具体的には、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N,N−ジプロピルヒドロキシルアミン、N,N−ジブチルヒドロキシルアミン、N,N−メチルエチルヒドロキシルアミン、N,N−エチルプロピルヒドロキシルアミン、N,N−プロピルブチルヒドロキシルアミン、N,N−ジデシルヒドロキシルアミン、N,N−ジフェニルヒドロキシルアミンおよびN,N−ジベンジルヒドロキシルアミンがあり、好ましくはN,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N,N−ジベンジルヒドロキシルアミン、N,N−ジフェニルヒドロキシルアミンである。これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物は、ピペリジン−1−オキシル化合物と酸素と併用することにより、相乗効果により予想外の汚れ防止効果を得ることができる。N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物の添加量は、目的とする汚れ防止の程度を考慮し、適宜決定されればよいが、通常、プロセス液中のジエン化合物量に対して0.1〜200ppm、好ましくは1〜100ppm、さらに好ましくは5〜50ppmである。N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物の添加量が0.1ppm未満では、十分な効果が発揮されない場合がある。また、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物の添加量が200ppm以上では、十分な効果が得られるが、添加量に見合うだけの効果の向上が無く、経済的なメリットが少ない場合がある。
【0026】
また、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物とピペリジン−1−オキシル化合物を併用する場合の両者の添加量の比(重量比)は、通常、10:90〜90:10、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは30:70〜70:30である。
【0027】
ピペリジン−1−オキシル化合物、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物及び酸素の添加場所は、特に限定されるものではないが、ジエン化合物及びその誘導体が重合し汚れとなって付着する箇所および工程内で汚れが問題となる箇所、更にはジエン化合物及びその誘導体由来のポップコーン・ポリマーが生じ、付着し汚れとして成長する箇所に直接添加する、あるいは汚れが問題となる箇所の上流部に添加する。例えば、ブタジエンプラントの場合、予備蒸留塔の原料供給ライン、予備蒸留塔のリフラックスライン(一部の液が蒸留塔の塔頂部へ戻されるライン)、ブタジエン精留塔の原料供給ライン、ブタジエン精留塔のリフラックスラインがピペリジン−1−オキシル化合物あるいはピペリジン−1−オキシル化合物とN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物をそれぞれ添加し、酸素を各蒸留塔の原料供給ライン、各蒸留塔の塔底部に注入することが適している。
【0028】
従来の汚れ防止剤および汚れ防止方法では、効果を発揮する有効成分がジエン化合物よりも沸点が高いため、汚れ防止効果はジエン化合物が液状になっている箇所に限られ、ガス状になっている箇所ではほとんど汚れ防止効果が発現しない。具体的には、ブタジエンプラントの場合、原料である粗ブタジエンは予備蒸留塔の塔頂部からブタジエンよりも低沸点の軽質分が除かれ、塔底部にブタジエン濃度が高い塔底液が残る。この塔底液は次のブタジエン精留塔に導かれ、ここで高純度のブタジエンが塔頂部から回収される。ポップコーン・ポリマーは、ブタジエンが濃縮される予備蒸留塔では塔底部、ブタジエン精留塔では塔頂部で生成しやすい。これまで提案されている汚れ防止剤および汚れ防止方法は、予備蒸留塔の塔底部に発生するポップコーン・ポリマーに対して、ある程度の成長抑制効果が認められるが、ブタジエン精留塔の塔頂部に発生するポップコーン・ポリマーに対してはほとんど効果を示さない。しかし、本発明の汚れ防止方法によって、予備蒸留塔の塔底部、ブタジエン精留塔の塔頂部に発生するブタジエン由来の汚れの防止やポップコーン・ポリマー由来の汚れの防止ができる。
【0029】
ピペリジン−1−オキシル化合物及びN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物の添加方法は、特に限定されるものではないが、ピペリジン−1−オキシル化合物及びN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を直接、添加する方法、ピペリジン−1−オキシル化合物及びN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物をそれぞれ溶剤に溶解して添加する方法、あるいはピペリジン−1−オキシル化合物及びN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を共に溶剤に溶解させて添加する方法等がありいずれを用いても良い。用いられる溶剤としては、ピペリジン−1−オキシル化合物及びN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物が溶解する溶剤であれば、特に限定されるものではなく、対象とする工程や対象とするジエン化合物を考慮して適宜選択されればよいが、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼンのような炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサンのような含酸素溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、水などが挙げられ、これらの溶剤の1種あるいは2種類以上を組み合わせた混合溶剤を用いることもできる。
【0030】
ピペリジン−1−オキシル化合物及び/又はN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を溶解する場合の濃度は、対象とする工程や対象とするジエン化合物および要求される汚れ防止の程度、更には使用上の便利さを考慮して適宜選択されればよく、通常0.1〜50重量%の溶液にして使用される。
【0031】
本発明において、ピペリジン−1−オキシル化合物及び酸素を組み合わせて用いるが、それ以外に本発明の目的を損なわない範囲で公知の重合禁止剤、重合抑制剤、連鎖移動剤、酸化防止剤などを添加使用することに何ら制限を加えるものではない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
(ピペリジン−N−オキシル化合物)
TEMPO:2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル
HTEMPO:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル
OTEMPO:4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル
【0034】
(N、N−ジ置換ヒドロキシアミン化合物)
DEHA:N,N−ジエチルヒドロキシルアミン
DBHA:N,N−ジベンジルヒドロキシルアミン
DPHA:N,N−ジフェニルヒドロキシルアミン
【0035】
(その他)
TBC:p−tert−ブチルカテコール
【0036】
〔ポップコーン・ポリマー成長抑制試験〕
ステンレス製オートクレーブ(内容量0.1L)に2個の200メッシュのステンレス製カゴに実機より採取した1,3−ブタジエンのポップコーン・ポリマー(0.2g)を入れ、1個は気相部につるし、他の1個は液相部に浸漬した。オートクレーブを窒素置換した後、真空ポンプで十分脱気し、所定量のピペリジン−N−オキシル化合物(あるいはピペリジン−N−オキシル化合物とN、N−ジ置換ヒドロキシアミン化合物)を精製1,3−ブタジエン(15g)に添加し、オートクレーブに入れた。更に純酸素と純窒素の混合ガス(酸素濃度100ppmに調整)を圧入し、ガス相の酸素濃度を5ppmに調整した。オートクレーブを65℃に加熱し、この温度を68時間加熱、維持した後、冷却してオートクレーブ中の気相部、液相部のポップコーン・ポリマーの重量を測定して成長倍数(試験開始前のポップコーン・ポリマー重量0.2gに対する試験後のポップコーン・ポリマー重量の比)を求め、ポップコーン・ポリマー成長抑制効果を評価した。
同様に表1記載のピペリジン−N−オキシル化合物および酸素あるいは従来の汚れ防止剤を添加してポップコーン・ポリマー成長抑制効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0037】
【表1】


ピペリジン−1−オキシル化合物と酸素の併用、およびピペリジン−1−オキシル化合物とN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物と酸素の併用によるポップコーン・ポリマーの成長抑制効果は、気相部、液相部ともピペリジン−1−オキシル化合物の単独使用(比較例3)、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物の単独使用(比較例4)、N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物と酸素の併用(比較例5)、従来多用されたTBCの使用(比較例8,9)を上回る効果を発揮し、それぞれ単独よりも高い相乗効果を発揮していることが分かる。
【0038】
〔ポップコーン・ポリマー重合活性抑制試験〕
「ポップコーン・ポリマー成長抑制試験」において、冷却したオートクレーブ中の気相部分の壁面および液相部分の底部あるいは壁面からポップコーン・ポリマーを採取し、その重量を測定して、新たな2個の200メッシュのステンレス製カゴに入れて、オートクレーブに設置した。新たにピペリジン−N−オキシル化合物(あるいはピペリジン−N−オキシル化合物とN、N−ジ置換ヒドロキシアミン化合物)を添加せず、さらに酸素を圧入することなく、精製1,3−ブタジエン(15g)のみをオートクレーブに入れ、「ポップコーン・ポリマー成長抑制試験」と同様の手順でオートクレーブを65℃に加熱し、この温度を68時間維持した後、冷却してオートクレーブ中の気相部、液相部のポップコーン・ポリマーの重量を測定して成長倍数を求め、ポップコーン・ポリマー成長抑制効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0039】
【表2】


ピペリジン−1−オキシル化合物と酸素の併用、およびピペリジン−1−オキシル化合物とN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物と酸素の併用により成長が抑制されたポップコーン・ポリマーは、新鮮なブタジエンと接しても気相部、液相部のいずれにおいてもポップコーン・ポリマーの更なる成長が抑制され、ポップコーン・ポリマーの重合活性点が消失したと予測される。特に、気相部のポップコーン・ポリマーの成長抑制効果は、従来多用されたTBC(比較例8,9)に比べてはるかに優れた効果を発揮していることが分かる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン化合物の製造工程、精製工程、回収工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、酸素存在下でピペリジン−1−オキシル化合物を用いることを特徴とする汚れ防止方法。
【請求項2】
酸素存在下でピペリジン−1−オキシル化合物と同時に下記一般式(1)(式中R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜10のアルキルフェニル基である)で表されるN,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物を用いることを特徴とする請求項1記載の汚れ防止方法。
【化1】

【請求項3】
ジエン化合物が1、3−ブタジエン、2−メチル−1、3−ブタンジエン(イソプレン)、1、3−ペンタジエン、クロロプレンから選択される1種以上である請求項1又は2記載の汚れ防止方法。
【請求項4】
ピペリジン−1−オキシル化合物が2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルおよび4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルから選択される1種以上である請求項1乃至3のいずれか記載の汚れ防止方法。
【請求項5】
N,N−ジ置換ヒドロキシルアミン化合物がN,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N,N−ジベンジルヒドロキシルアミン、N,N−ジフェニルヒドロキシルアミンから選択される1種以上である請求項1乃至4記載の汚れ防止方法。



【公開番号】特開2007−63237(P2007−63237A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255190(P2005−255190)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】