説明

汚損度の分析・評価方法

【課題】電気機器に付着した付着物による汚損度の管理、ならびに、分析・評価の迅速性を有し、高精度の分析・評価が可能な方法を提供する。
【解決手段】電気機器に付着した付着物による汚損度の分析・評価方法であって、付着物の水溶性イオン成分を純水により抽出し、少なくとも、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムまたは硝酸ナトリウムを電気伝導率の測定により検量線化して等価塩分量を求めるとともに、付着物の水溶性イオン成分を純水により抽出し、イオンクロマトグラフィ法により定量分析することで、イオン成分に含まれる塩分量を求め、この等価塩分量と塩分量とを合わせた全塩分量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電気機器に付着した、汚損度の成分の分析・評価方法に関する。 詳しくは、屋内外の電気機器に付着した汚損物の測定において、付着物である水溶性イオン成分から成る無機成分を分析測定する、汚損物である塩分量の分析・評価に関する。
【背景技術】
【0002】
電機設備などの機器は長期に渡り使用されることが多いため、環境条件は信頼性と寿命に影響を与える場合が多く、良好な環境を保つことが重要である。特に機器表面に環境由来のガス成分や無機成分および海塩粒子などが付着し、腐食を促進する事例が報告されている。そのために電気設備の予防・保全には、水溶性イオン成分から成る付着物の「付着塩分量」を把握し、対策することが必要である。これを求める腐食成分などを塩分に換算したものが「等価塩分量」の分析である。
電気機器や設備の老朽化に伴い、「等価塩分量」の分析は、機器の延命化や適正な時期の交換に重要であり、機器の延命化のために設備や機器に対しては環境因子の量に基づいた対策のための環境評価点の検討が研究されている。
【0003】
非特許文献1は、その一つであり、下記の(1)、(2)について記載されている。
(1)汚損を生じさせる腐食性ガスの影響は、等価塩分量として表される。等価塩分量の測定方法は スミヤ法で汚損物を拭き取り、これを所定の純水に溶解して電気伝導率を測定する。これは予め塩化ナトリウム溶液を標準液として、塩化ナトリウムと電気伝導率との関係から、検量線を作成して 先の拭き取り物の等価塩分量としている。
(2)腐食性ガスの影響の分析は、ガス成分を特定して各JIS法による成分のガス分析方法を定めて実施している。
腐食性ガスがどの程度機器を汚損しているかについての、環境のクラス分けは、「等価塩分量(mg/cm2)」を所定の環境評価区分を判定するもので、環境汚染成分の目安とされる。
【0004】
非特許文献1に示される方法は、汚損物である全塩分量が、塩化ナトリウムの「等価塩分量」として求められるが、塩分の他に大気腐食成分やその他の汚染成分が含まれるので、対策する上で環境評価するのに有効なものとは言えない場合がある。
このように汚損度を、機器表面に付着している汚損物に基づいて、
(あ)塩化ナトリウムの量に置き換えたものをイオン全総量とし、電気伝導率から求めた等価塩分量と比較して評価しているものと、
(い)ガス成分を特定して、成分のガス分析方法を定めて塩分の測定を実施するようにな
っているものと、
があり、(あ)と(い)で、「等価塩分量(mg/cm2)」を所定の環境の区分に区分けして判定することで、環境汚染成分の代表のデータとしている。
【0005】
このために設備や機器の環境因子の量に基づいた対策のための環境評価点の検討が研究
されているが、これが塩分の実態とは異なっていて、塩分の種類と量が不明であることが対策の上で問題である。
【0006】
いずれにしても、イオンの総量を塩分の種類と量を明確にする汎用的な評価方法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】電子情報技術産業協会規格 JEITA IT−1004 産業用情報 処理・制御機器設置環境基準 2007年3月改正 電子情報技術産業協会 発行
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−202276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電機設備などの機器は、環境条件や使用条件が信頼性と寿命に影響を与える場合が多く、良好な環境を保つことが重要である。そのために予防・保全には、水溶性イオン成分から成る付着物の「付着塩分量」を把握し、対策することが必要である。
【0010】
特許文献1には、測定対象間の測定誤差を軽減し、さらに汚損度の測定を簡便かつ迅速に行なうことが報告されている。
その手段は、測定表面の測定位置に設定させる汚損物質採取手段と水溶液の電導度または汚染濃度を測定する手段と汚染度の演算手段と表示手段を具備し、前記手段が可変性を有するものとされている。つまり汚損度を、水溶液の電導度に相当する分を電極で測定する各成分ごとの選択性イオン電極を具備し、汚染度の演算と表示手段を可変性を有するものとしている。
【0011】
しかし、この測定方法は、塩分が実態とは異なっていて、塩分の種類と量が不明であり、イオンの総量を塩分の種類と量とで明確にする汎用的な評価方法ではない。そこで、電気機器の付着物成分分析および汚損度診断の評価方法においては、塩分の種類と量と、イオンの総量の組成分析方法が重要である。
かくして、汚損物由来の抽出液に由来したイオン性成分分析方法と、イオン性成分量からなる塩分量を評価する方法と文献は見当たらなかった。分析方法は、抽出液に溶出するイオン成分を迅速性に高精度分析で分析検査できることが肝要である。
本発明は、汚損度の分析・評価方法を明確にすることで、汚損度の管理と、分析・評価の迅速性を有し、高精度の分析・評価が可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するため、発明者は、抽出液の成分の測定評価を、
・ 硫酸ナトリウムまたは硝酸ナトリウムで検量線化し電気伝導率から求めた等価塩分
量と、
・ イオンクロマトグラフィー法での陰・陽イオンの微量成分分析を確立して、イオン
状の汚損度(塩分量)を分析・評価する方法と、
が必要であり、これは迅速性や高精度分析でも有効であると考え、上記課題を解決しようとするものである。
【0013】
本発明によれば、
(1)電気機器に付着した付着物による汚損度の分析・評価方法であって、
付着物の水溶性イオン成分を純水により抽出し、
少なくとも、抽出した液を、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムまたは硝酸ナトリウムの電気伝導率の測定により検量線化して等価塩分量を求めるとともに、
抽出した液をイオンクロマトグラフィー法により定量分析することで、イオン成分に含まれる塩分量を求め、
この等価塩分量と塩分量とを合わせた全塩分量を求めることとする。
【0014】
また、本発明によれば、
(2)電気機器に付着した付着物による汚損度の分析・評価方法であって、
付着物の水溶性イオン成分を純水により抽出し、
抽出した液をイオンクロマトグラフィー法により定量分析することで、イオン成分に含まれる全塩分量を求めること、
とする。ここで、イオン成分は、フッ素、塩素、亜硝酸、臭素、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、ナトリウム、アンモニア、カリウム、マグネシウム、カルシウムの一部または全てである。
【0015】
さらに、本発明によれば、上記(1)において、
電気伝導率の測定により求めた等価塩分量を、所定の環境評価区分に区分けを行い、環境の汚損度を判定することとする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、付着した汚損度の測定において、検量線による等価塩分量とイオンクロマトグラフィー法による塩分量とから全体の全塩分量を分析・評価できる効果が得られる。また請求項2に記載の発明によれば、イオンクロマトグラフィー法により、全塩分量を得られる効果が有る。請求項3に記載の発明によれば、等価塩分量から環境評価区分を行える効果が得られる。
請求項1の発明は、電気機器に付着した汚損度の分析・評価における付着物の水溶性イオン成分を純水で抽出し、この抽出液を硫酸ナトリウムまたは硝酸ナトリウムで検量線化した電気伝導率から求めた等価塩分量から、汚損度の等価塩分量とした。この測定方法は、塩化ナトリウムと電気伝導率との関係から等価塩分量としており、塩化ナトリウムによる塩分のみでは代表できない場合に有効な効果がある。
また請求項1の発明は、水溶性イオン成分を定量分析することで、イオン成分から求めた塩分量を求めている。塩分は大気腐食成分やその他の汚染成分を把握し、成分としてはNa、ClのほかにNO、SO2−、NHなどが占める場合に効果があり、対策をする上で環境評価するのに有効である。
【0017】
特許文献1は、汚損物質採取手段と水溶液の電導度または汚染濃度を測定するが、水溶液の電導度に相当分を電極で測る選択性イオン電極で測定している。このため、一部のイオン成分の種類と量から塩分を求めるのみで実態とは異なっている場合がある。
本発明のイオンクロマトグラフ法による方法は、この問題にも効果がある。さらに本法での測定時間は分離分析のため約15分間で多成分のイオンが迅速にでき、分析精度は変動係数が約1%以下で良好である。主成分のイオン成分と微量分析の定量分析評価ができる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電子機器試料の汚染物測定の流れを示す図
【図2】分析試料調製手順を示す図
【図3】NaCl重量 (%)と電気伝導率(mS/m)の関係を示す図
【図4】Na2SO4重量(%)と電気伝導率 (mS/m)の関係示す図
【図5】NaNO3重量(%)と電気伝導率 (mS/m)の関係示す図
【図6】イオンクロマトグラフの概略図
【図7】陰イオンクロマトグラムを示す図
【図8】陽イオンクロマトグラムを示す図
【図9】塩化物イオンの検量線を示す図
【図10】硫酸イオンの検量線を示す図
【図11】硝酸イオンの検量線を示す図
【図12】アンモニウムイオンの検量線示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る電気機器に付着した付着物による汚損度の分析・評価方法を、硫酸ナトリウム(Na2SO4),硝酸ナトリウム(NaNO3)で検量線化した電気伝導率から求めた「等価塩分量」とイオン成分分析方法について説明する。
【0020】
図1は、本発明における電子機器試料の汚染物測定の流れ図で、11は試料(機器部品)、12は試料抽出液部、13は拭き取部(汚損物回収)、14は抽出液(イオン成分の溶出)、15は分析部、16は電気伝導度測定、17はイオン成分の分離定量を示す。
【0021】
図2は分析試料調製手順で、21は拭き取り(汚損物回収)、22は分析試料液の調製を示す。
図3はNaCl重量(%)と電気伝導率 (mS/m)の関係(Sはジーメンス)、図4はNaSO重量 (%)と電気伝導率 (mS/m)の関係、図5はNaNO重量 (%)と電気伝導率(mS/m)の関係を示す。
【0022】
図6はイオンクロマトグラフの概略図で、61は試料導入ハ゛ルフ゛ 、62は溶離液、63はカ゛ート゛カラム、64は分離カラム、65は除去カラム、66は検出セル、67は排液、68はデータ処理装置である。
図7は陰イオンクロマトグラムを示す図、図8は陽イオンクロマトグラムを示す図、図9は塩化物イオンの検量線を示す図、図10は硫酸イオンの検量線を示す図、図11は硝酸イオンの検量線を示す図、図12はアンモニウムイオンの検量線を示す図である。
本発明は、塩分による汚損度測定の「等価塩分量」につき、機器の大気腐食に関与する因子の一つとして塩化ナトリウム(NaCl)に代わり、次の分析方法を確立したものである。抽出液の電気伝導率を前記のNaSOとNaNO検量線で測定し、さらに、イオン抽出成分を同時に分析検査するイオンクロマトグラフィー法で、塩分量を確立した方法について説明する。
【0023】
図1は、本発明における電子機器試料の汚染物測定の流れ図で、汚損物抽出液調製工程および電導度測定とイオン成分の分離定量分析工程からなる。
図2は分析試料調製手順で、21での 拭き取り後は、電気伝導度測定・イオン成分の溶出・測定・イオン成分の分離定量が行なわれる。特に、面積100cm2を脱塩処理し超純水で湿らせたガーゼで拭き取る。
【0024】
拭き取りに使用する水は、高純度の超純水が望ましい。この場合、人体の汗等に含まれる塩化物イオンを付着させないよう素手で実施しない。22の分析試料液の調製は、拭き取り作業で手袋をして、清浄なピンセットにより行なう。イオン成分の溶出は、拭き取り後のガーゼを蓋付きのプラスチック容器に純水とともに入れ、拭き取り物を抽出する。抽出は超音波10分間で行い、分析試料の調製後は、抽出液の電気伝導率を測定し、次にイオンクロマト法で0.2μmのシリンジフィルタにより、固体付着物をろ過し分析する。
図3〜図5に示すのは、抽出液の電気伝導率を測定するための検量線で、図3はNaCl重量(%)と電気伝導率 (mS/m)の関係、図4はNaSO重量(%)と電気伝導率 (mS/m)の関係、図5はNaNO重量(%)と電気伝導率(mS/m)の関係を示すものである。
〔図3〜図5における電気伝導率について〕
電気伝導率の測定は電気伝導率計で測る。
従来は、塩分量を、電気伝導率とNaCl重量(%)で評価し、その場所の環境評価のクラス分け区分を、予め定めた基準により行なっていた。しかし抽出液の水溶性イオン成分は、SO2−とNOを定量分析することが多いことから、本発明では、NaSOとNaNOの検量線を求め、等価塩分量を測定する。
従来のNaClと、本発明のNaSO,NaNO検量線による測定結果を表1に示す。すなわち、表1は、NaCl、NaSO、NaNOでの電導度と等価塩分量(mg/cm)の関係を示すものである。
【0025】
【表1】

【0026】
表1によって、従来のNaClに加え、硫酸ナトリウム(NaSO),硝酸ナトリウム(NaNO)で検量線化した電気伝導率から求めた「等価塩分量(mg/cm))」が求められる。
さらに、抽出液の水溶性イオン成分を定量分析することで、汚損度の全塩分量とする。水溶性イオンを含めた成分は、フッ素,塩素,亜硝酸,臭素,硝酸,硫酸,リン酸,酢酸,ギ酸,ナトリウム,アンモニア,カリウム,マグネシウム,カルシウムで、陰・陽イオンの14成分のその一部か、又は全イオン量を定量分析して、全塩分量とする。イオン成分量は、前記の成分をイオンクロマトグラフ法で行なう。
〔図6〜図12に関係する イオンクロマトグラフィー法について〕
イオンクロマトグラフィーを用いて前記の試料溶液中のイオン成分濃度を測定する。本測定器は装置条件により、陰イオンおよび陽イオン成分を含む14成分が可能であり、有機酸(カルボン酸:−COOH基の例があり)やその他の有機酸の一部が分析可能である。
図6は、イオンクロマトグラフの概略図で、弱電解質の溶離液とともに試料を注入(抽出試料)し、イオン交換樹脂製の分離カラムを通して、カラム内では水和半径の大小、Van der Waals 力の相互作用によってイオン種の相互分離を行ない、サプレッサーを通すことによりバックグラウンドの電導度を下げ、目的とするイオン種を高感度でクロマトグラムとして得るものである。分離カラムは、一般に目的のイオン成分によって交換可能である。
【0027】
試料量が数μlを用いて、1回の測定で数種の陰イオン成分を同時に測定することができ、分別定量分析を行うことができる方法である。検出器にはフローセル型の電導度検出器を用いており、各イオン成分の電導度に基づくイオンクロマトグラムのピーク面積や高さから目的とする分析試料溶液中のイオン成分濃度が求められる。
また分析装置,カラム,溶離液はすべてDIONEX社製のものを用いた。
測定装置は、「イオンクロマトグラフ:DIONEX社製 DX-320、グラジェント法適用タイプ」であり、主に陰イオン・陽イオン分析用〔分離カラムIon Pac AS17C、Ion Pac CS14溶離液KOH・EG40溶離液シ゛ェネレータ使用〕の装置である。
【0028】
図7は、陰イオンクロマトグラムを示す図であり、図8は、陽イオンクロマトグラムを示す図である。定量分析は、検出イオン種の電導度からなるピーク面積と濃度(例:ppm)との関係を検量線化し、これを適用して行う。汚損物の主成分は、Cl、NO、SO2−、NHイオンなどで、図9は塩化物イオンの検量線、図10は硝酸イオンの検量線、図11は硫酸イオンの検量線、 図12はアンモニウムイオンの検量線、である。他のいずれも定量下限の濃度が1ppbである。
このようにして、汚損物の分析評価ができる陰・陽イオンおよび有機酸イオンの分析方法をイオンクロマトグラフィー法で14成分の分離を確立した。
【0029】
以上の分析試料は、汚損物抽出液のイオン成分を、無機化合物や有機陰イオンの水溶性イオン成分をイオンクロマトグラフィー法で同時に分析測定することであり、イオン種を分離し定量分析する。一般に、汚損物の主成分(Cl、NO、SO2−、NH)など14成分の分析方法を提供する効果が得られる。
図7、図8のクロマトグラムは、イオン成分を含む試料を予め指定成分の標準試料液で装置の分離カラム・溶離液濃度・流量・電気伝導度で検出する分離条件を検討する。
図6のイオンクロマトグラム流路図で、測定は61の試料導入ハ゛ルフ゛、62の溶離液、63のカ゛ート゛カラム、64の分離カラム、65の、除去カラム、 66の検出セル、67の排液、 68のデータ処理装置を経て、イオンクロマトグラム(溶離時間とピーク面積のチャート)を計測する。
〔分析精度について〕
本実験では例として、液中濃度(10〜100ppb)の標準液でCl、NO、SO2−、NH の例を表2に示す。分析精度は、繰り返し測定した時の変動係数(CV%)が1%以下で良好である。
[変動係数(CV%)=(標準偏差/平均値)×100]で求める。
表2が分析精度の検討結果である。
【0030】
【表2】

【0031】
元素分析のJIS法での分析精度は、一般に変動係数で2%〜10%とされている。これに比べて本法の分析精度は良好であり高精度であることが分かった。また、JIS法での分析精度を十分満足していることが分かる。このようにして、イオンクロマトグラフィー法による陰・陽イオンの14微量成分の同時分析方法を確立した。
これにより、本発明の一実施形態に係る汚損度の分析・評価方法を各イオン成分によって「塩分量」で求められる。
〔汚損度(等価塩分量)の測定方法について〕
(1)補集用具
脱塩処理し純水を浸みこませたガーゼおよびプラスチック製容器,スケール,プラスチック製手袋を用意する。
(2)汚損物の採取
上記ガーゼを用いて電子機器表面の一定面積(通常50〜100cm)の汚損物を拭いとる。なお,汚損物の採取時、ガーゼを直接手でふれないようにプラスチック製手袋を着用する。
(3)汚損物の溶解
採取した汚損分の水溶性成分を100mlの純水に溶解する。ガーゼは純水に浸したままでよい。
(4)電導度測定
上記汚損液の電気電導率を電導度計を用いて測定する。電導度計は自動校正機能により,水温25℃時の電気電導率に換算した値を表示するので,それを読みとる。
(5)食塩濃度算出
25℃における食塩濃度と抵抗率との関係を示す検量線を作成する。(4)で求めた電気電導率に相当する食塩濃度を,その検量線から求める。
(6)等価塩分量算出
単位面積あたりの塩分付着量は次式で求める。
D=A×B×10/S
ここで、
D:等価塩分量(mg/cm
A:純水の容量(ml)
B:食塩濃度(%)
S:採取面積(cm
である。
【0032】
さらに、イオン成分を分析しSO2−、NOから硫酸ナトリウム,硝酸ナトリウムの量を求める。図3は従来のNaClの検量線で、図4はNaSOの図5はNaNOの検量線であり、重量 (%)と電気伝導率 (mS/m)の関係を示す。NaCl(係数=1)として、NaSO(係数=2.3258)とNaNO(係数=1.7434)を用いて、等価塩分量(mg/cm)を求めるようにする。
これによって、従来の塩化ナトリウム(NaCl)からのみならず、硫酸ナトリウム(NaSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)で検量線化した電気伝導率から求めた「等価塩分量(mg/cm)」が求められる。
[環境のクラス分け・区分について]
JEITA IT−1004は、クラス分けならびに環境区分の詳細と等価塩分量とを、食塩(塩化ナトリウム溶液)濃度と電導度特性から検量線を作成して等価塩分量(mg/cm)を算出して汚損度とする方法であり、等価塩分量により環境評価区分を行っている。
【0033】
この基準では、ガス成分の分析によって、等価塩分量を求め次の環境評価区分によっている。
JEITA IT−1004に記載されたNaCl参考値と、本発明のNaSOとNaNOの環境の評価のクラス分け・区分を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
また本発明の適応例では、海塩粒子の塩素の分析をイオンクロマトグラフィー法により(Cl)を定量分析した。海塩粒子は機器の腐食要因となり、機器の汚損度は海から飛来する量でほぼ決められ代替評価尺度にしている。塩分量は、塩化ナトリウム(NaCl:mg/cm)に換算して求める。同時にNaSOおよびNaNOについても求めた。この方法では、Cl、SO2−およびNOの分析結果を基に微量の塩分量が求められる。
以上のことから、次による方法で試料(抽出液)を調製し (1)等価塩分量 (2)海塩粒子の塩分量を求め、汚損物の目安にした。
[適応例]
試料は、IT工場の現地機器からの汚損物採取品(溶解抽出液)である。電導率測定により、等価塩分量[mg/cm]の分析を行う。
この分析は、現状での設置環境を把握し、変電所点検周期の適正化を決定する基礎データとするために行うもので、環境のクラス分けの評価を行う。
【0036】
・分析試料:工場の現地機器から採取した汚損物を純水(100ml)に溶解抽出させた液試料。
・IT工場変電所:IT-A、IT-B、IT-C、IT-D、IT-F、IT-E、IT-G。
・分析結果:電導度から求めた単位面積当りの等価塩分量結果を表4に示し、等価塩分量
結果から、環境のクラス分けを示した。また、塩分量から求めた単位面積当
りの等価塩分量を表5に示した。なお、電導度の等価塩分量結果から、環境
のクラス分けができる。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
表6は、抽出液のイオン成分分析結果である。
【0040】
【表6】

【0041】
(ア)表4による7試料のNaClから求めた等価塩分量は、0.0099〜0.0833[mg/cm]である。
環境のクラス分けでは区分1〜3に相当する環境である。
(イ)表5のCl、SO2−、NOの塩分量から求めた等価塩分量は、塩化ナトリウ
ム(NaCl)に比べて硫酸ナトリウム(NaSO)や硝酸ナトリウム(NaNO)
の値が大きくなっている。
【0042】
・ 表6の抽出液のイオン成分分析結果から、SO2−が大きく硫酸ナトリウム(NaSO)が主体であることが分かる。
これにより、IT工場の場合の現地機器からの汚損物は、電導率測定による、塩化ナトリウム(NaCl)と硫酸ナトリウム(NaSO)と硝酸ナトリウム(NaNO)の等価塩分量[mg/cm]の測定で、分析測定ができることが分かる。
特に、表4ならびに表5に記載した硫酸ナトリウムと硝酸ナトリウムとのイオン成分による等価塩分量と、表6で求めた他のイオン成分から求められる塩分量とを合計して全塩分量とすると、機器に付着した付着物の全てのイオン成分を分析できるので、格段の効果が有る。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の利用例として、設置環境の汚損度を把握し,変電所点検周期の適正化を決定する基礎データとすることが挙げられる。
さらに汚損の原因となるイオン成分の検知は環境対策にも効果があり、電機設備などの予防・保全の対策に反映させることができる。
【符号の説明】
【0044】
11 試料(機器部品)
12 試料抽出液部
13 拭き取部(汚損物回収)
14 抽出液(イオン成分の溶出)
15 分析部
16 電気伝導度測定
17 イオン成分の分離定量
21 拭き取り(汚損物回収)
22 分析試料液の調製 電気伝導度測定 イオン成分の溶出・測定(イオン成分の分離定
量)
61 試料導入バルブ
62 溶離液
63 ガードカラム
64 分離カラム
65 除去カラム
66 検出セル
67 排液
68 データ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器に付着した付着物による汚損度の分析・評価方法であって、
付着物の水溶性イオン成分を純水により抽出し、
少なくとも、抽出した液を、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムまたは硝酸ナトリウムの電気伝導率の測定により検量線化して等価塩分量を求めるとともに、
抽出した液をイオンクロマトグラフィー法により定量分析することで、検量線化した以外のイオン成分に含まれる塩分量を求め、
この等価塩分量と塩分量とを合わせた全塩分量を求めること、
を特徴とする汚損度の分析・評価方法。
【請求項2】
電気機器に付着した付着物による汚損度の分析・評価方法であって、
付着物の水溶性イオン成分を純水により抽出し、
抽出した液をイオンクロマトグラフィー法により定量分析することで、イオン成分に含まれる全塩分量を求めること、
を特徴とする汚損度の分析・評価方法。
ここで、イオン成分は、フッ素、塩素、亜硝酸、臭素、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、ナトリウム、アンモニア、カリウム、マグネシウム、カルシウムの一部または全てである。
【請求項3】
請求項1に記載の、電気伝導率の測定により求めた等価塩分量を、所定の環境評価区分に区分けを行い、環境の汚損度を判定すること、
を特徴とする汚損度の分析・評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−63250(P2012−63250A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207751(P2010−207751)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】