説明

汚染化学物質の吸着剤

【課題】各種の溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の化学物質に汚染された土壌や水などから、該汚染物質を安全かつ環境に優しく、効率的に吸着できる吸着剤を提供する。
【解決手段】担体に脂質を付着させたもの、特に脱脂した担体に活性汚泥菌体や培養した微生物菌体から抽出したリン脂質を含む脂質を付着させたものを吸着剤として用いることにより、各種の化学物質で汚染された土壌や水などから、二次汚染を起こすことなく容易に該汚染物質を高い比率で吸着除去することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染化学物質の新規な吸着剤に関する。さらに詳しくは、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等を吸着できる、特に水が存在する系で吸着できる、新規な吸着剤に関する。この吸着剤により、これらの化学物質により汚染された土壌、水などを容易にかつ低コストで、安全に環境に優しく無害化することが可能になる。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の化学物質により河川、海、土壌、地下水等が汚染される頻度が増加しており、大きな社会問題となって来ている。これらの物質は一般的に水への溶解度が小さく、水や土壌と分離した形や、或いは水に分散した形で、水上、水中、土壌表面、土壌中、地下水中等に存在しており、これらの物質を環境中から除去するため、種々の吸着法や吸着剤が提案され実行されて来ている。
これらの方法を大別すると、(1)合成ポリマーなどの化学合成吸着剤を使用するもの、(2)無機系吸着剤を使用するもの、(3)有機系吸着剤を使用するもの、(4)吸着剤の容器、包装材を工夫したもの、(5)炭化物を使用したもの、(6)吸着剤表面などを加工したもの、及び(7)その他のもの等に分けられる。
【0003】
(1)の合成ポリマーなどの化学合成吸着剤を使用するものとしては、スルホン化不飽和重合体を使用するもの(例えば、特許文献1参照)、水に不溶なポリビニルアセタールを使用するもの(例えば、特許文献2参照)、ポリメタクリル酸エステルを使用するもの(例えば、特許文献3参照)、オレイン酸と無水マレイン酸の重合物を使用するもの(例えば、特許文献4、5参照)、ビシクロ[2・2・1]ヘプテン−2重合体を使用するもの(例えば、特許文献6参照)等がある。
(2)の無機系吸着剤を使用するものとしては、珪酸マグネシウム水和物を使用するもの(例えば、特許文献7参照)、珪藻土を使用するもの(例えば、非特許文献1参照)、珪素系天然鉱物を使用するもの(例えば、非特許文献2参照)等がある。
(3)の有機系吸着剤を使用するものとしては、リグノセルロースなどの植物系材料の水酸基をエステル化等したもの、油を一部含む農産物残渣等を使用するもの(例えば、特許文献8、9参照)、天然セルロースを使用したもの(例えば、非特許文献3参照)、天然セルロースに油を分解するバクテリアを加えたもの(例えば、非特許文献4参照)、綿とペカンに油を分解するバクテリアを加えたもの(例えば、非特許文献5参照)、ピートモスを使用したもの(例えば、非特許文献6参照)等がある。
(4)の吸着剤の容器、包装材を工夫したものとしては、ビシクロ[2・2・1]ヘプテン−2重合体を表面が親油性でかつ微細孔を有する袋に入れて使用するもの(例えば、特許文献6参照)、吸油性ポリマー、油吸着剤、油ゲル化剤を含む吸油シート(例えば、特許文献10参照)、コーヒー豆の絞り滓を炭化させたものとカポックを撥水性の袋に入れて使用するもの(例えば、特許文献11参照)、天然セルロースを生分解性不織布に付着させたもの(例えば、非特許文献7参照)等がある。
(5)の炭化物を使用したものとしては、古紙製紙スラッジを炭化させたもの(例えば、特許文献12参照)、コーヒー豆の絞り滓を炭化させたもの(例えば、特許文献13参照)等がある。(6)の吸着剤表面などを加工したものとしては、シクロデキストリンを基材に固定化させたもの(例えば、特許文献14参照)、アルキルアクリレートなどを重合して得られた膨潤性吸油剤で基材を被覆したもの(例えば、特許文献15参照)、活性白土など無機多孔質基材の表面に動植物油脂等の油を被覆したもの(例えば、特許文献16参照)、多孔質基材の表面に融点40℃以上の難水溶性親油性有機化合物を被覆したもの(例えば、特許文献17参照)、ピーナッツ殻、コーヒー豆皮等の植物性材料を粒子状にしたものをパラフィンワックス等のワックス類で被覆したもの(例えば、特許文献18参照)、米ぬかに酵母の抽出物を添加して浮遊する油を乳化分散させるもの(例えば、特許文献19参照)(7)のその他のものとしてはリン脂質等の極性脂質を水に分散させたり、有機溶媒に溶解させたものを集油剤として使用するもの(例えば、特許文献20)等がある。
【0004】
しかし、これらの方法は何れの方法も完全な方法とは言い難く、より良い吸着剤の開発が望まれている。
例えば、(1)の合成ポリマーなどの化学合成吸着剤を使用するものでは、吸着剤が非天然物であるため、生分解性に問題があるため、使用した後、何らかの方法で自然界から回収する必要があり、回収の手数がかかる問題がある。また、化学合成吸着剤によってはモノマーなどの毒性が問題となるケースも考えられる。
(2)の無機系吸着剤を使用するものでは、吸着効率が悪い場合が多く、さらに、天然物であっても、容易に自然界で分解されるものではないため、使用した後、何らかの方法で自然界から回収しない限り、極めて長い期間に亘ってそこに留まり続ける問題がある。
(3)の有機系吸着剤を使用するものも、吸着力が十分ではなく、目的物を吸着させるためには、多量の吸着剤の使用が必要となる問題がある。
(4)の吸着剤の容器、包装材を工夫したものも種々提案されているが、コストアップになる問題がある。
(5)の炭化物を使用したものは、吸着力が十分ではなく、目的物を吸着させるためには、多量の吸着剤の使用が必要となると共に、合成物ではないものの、自然界で分解されるものではないため、使用した後、何らかの方法で自然界から回収しない限り、極めて長い期間に亘ってそこに留まり続ける問題がある。
(6)の吸着剤表面などを加工したものは、吸着力を向上させ、水が存在する系から各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質を選択的に吸着させる目的で使用されるケースが多い。しかしながら、何れもその効果が十分ではなく、しかも表面加工に使用した物質が逆に自然界へ溶け出して、別な二次汚染を引き起こす場合もある。また、吸着ではなく単にエマルジョンを形成させる方法もあるが、これは単に油を細かく分散させるのみで、汚染を拡大させ、さらには界面活性剤などのエマルジョン化剤による汚染も懸念される等の問題点を有する。
(7)のその他のものとしては、リン脂質などの極性脂質を水に分散させたり、有機溶媒に溶解させたものを集油剤として使用するものが見出されるが、集めた油の回収方法が難しかったり、水に分散させたものについては保存安定性の問題が懸念されること、有機溶媒などに溶解させたものについては使用した有機溶媒による環境への悪影響が懸念される等の問題がある
【0005】
何れにせよ、従来技術に基づくこれらの吸着剤は、吸着剤として未だ満足できるものではなく、特に、水と各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質が混在する系では、まったく、これらの汚染物質を吸着できないか、或いは、その吸着能力が大幅に低下してしまうといった問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭58−214339号公報
【特許文献2】特開平4−222630号公報
【特許文献3】特開平4−305286号公報
【特許文献4】特開平5−9211号公報
【特許文献5】特開平5−9243号公報
【特許文献6】特開平1−270992号公報
【特許文献7】特表昭58−11037号公報
【特許文献8】特開平6−505031号公報
【特許文献9】特開平7−60115広報
【特許文献10】特開平10−15386号公報
【特許文献11】特開平10−99851号公報
【特許文献12】特開平4−77594号公報
【特許文献13】特許第3534553号
【特許文献14】特開2003−80225号公報
【特許文献15】特開平4−100539号公報
【特許文献16】特開平9−299789号公報
【特許文献17】特開2002−316147号公報
【特許文献18】特開2004−167481号公報
【特許文献19】特開昭52−75853号公報
【特許文献20】特開昭53−15275号公報
【非特許文献1】谷口商会株式会社 インターネットホームページ「ACライト」(http://www.taniguti.co.jp/aclight.htm)
【非特許文献2】株式会社パティネ インターネットホームページ「リキッドロック」(http://www.patine−jp.com/epi/index.htm)
【非特許文献3】ユニバース開発株式会社パンフレット「セルソーブ」
【非特許文献4】ユニバース開発株式会社パンフレット「オイルゲーター」
【非特許文献5】加地貿易株式会社パンフレット「エコットスポンジ」及びインターネットホームページ(http://www.bio−ecot.com/)
【非特許文献6】ピートソーブジャパン株式会社 「ピートソーブ」インターネットホームページ(http;//www.cna.ne.jp/ a_buhin/peat−sorb.htm)
【非特許文献7】ユニバース開発株式会社パンフレット「セルシート」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質を土壌中や水中などから低コストで容易に、かつ安全で環境に優しく選択的に吸着できる吸着剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、意外にも、坦体となるべきものへ、脂質、特に培養した微生物菌体や活性汚泥菌体から抽出した脂質、なかでもリンを含む脂質を付着させたものが、また、特に脱脂した担体に前記脂質を付着させたものが、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質を特異的に吸着できること、特に、土壌中や水中などに存在する場合でも特異的に吸着できることを見出した。即ち、本発明は以下の(1)から(26)に示す、坦体となるべきものへ、脂質を添加し付着させることにより得られる、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質の新規な吸着剤に関するものである。
(1)有機系又は無機系坦体に脂質を付着させた、汚染化学物質の吸着剤。
(2)有機系坦体が微生物菌体を含むものである、(1)に記載の吸着剤。
(3)微生物菌体が培養することによって得られたものである、(2)に記載の吸着剤。
(4)微生物菌体が活性汚泥から得られたものである、(2)に記載の吸着剤。
(5)有機系坦体がピーナッツ殻、コーヒー豆殻、おが屑、かんな屑、木材チップ、バーク、おから、水苔、ピートモス、やし殻、もみ殻、米ぬか又はふすまである、(1)に記載の吸着剤。
(6)有機系坦体が溶媒による脱脂処理を行ったものである、(1)に記載の吸着剤。
(7)溶媒が極性有機溶剤を含むものである、(6)に記載の吸着剤。
(8)溶媒が水と極性有機溶剤を含むものである、(6)に記載の吸着剤。
(9)極性有機溶剤がアルコール類、ケトン類から選ばれた一種以上のものである、(7)又は(8)に記載の吸着剤。
(10)アルコール類がメチルアルコール、ケトン類がアセトンである、(9)に記載の吸着剤。
(11)有機系坦体が炭化物を含むものである、(1)に記載の吸着剤。
(12)炭化物が活性炭である、(11)に記載の吸着剤
(13)無機系坦体が微生物の化石を含む鉱物である、(1)に記載の吸着剤。
(14)微生物の化石を含む鉱物が珪藻土由来である、(13)に記載の吸着剤。
(15)脂質がリン脂質を含むものである、(1)に記載の吸着剤。
(16)脂質が微生物菌体から溶媒を用いて抽出されたものである、(1)に記載の吸着剤。
(17)微生物菌体が培養することによって得られたものである、(16)に記載の吸着剤。
(18)微生物菌体が活性汚泥から得られたものである、(16)に記載の吸着剤。
(19)溶媒が極性有機溶剤を含むものである、(16)に記載の吸着剤。
(20)溶媒が水と極性有機溶剤を含むものである、(16)に記載の吸着剤。
(21)極性有機溶剤がアルコール類、ケトン類の中から選ばれる一種以上である、(19)又は(20)に記載の吸着剤。
(22)アルコール類がメチルアルコール、ケトン類がアセトンである、(21)に記載の吸着剤。
(23)有機系又は無機系坦体に溶融又は溶媒に溶解させた脂質を付着させた、(1)に記載の吸着剤。
(24)溶媒で湿潤させた有機系又は無機系坦体に溶融又は溶媒に溶解させた脂質を付着させた、(1)に記載の吸着剤。
(25)脂質付着後に乾燥させた、(23)又は(24)に記載の吸着剤。
(26)脂質を付着させながら乾燥させた、(23)又は(24)に記載の吸着剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着剤を使用すれば、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質を容易に吸着できる。これを、土壌や、河川又は海等の水系へ応用すれば、これらの化学物質で汚染された環境を、容易かつ安価に、元位置で浄化することができるので、産業上極めて有用な吸着剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の吸着剤が吸着する物質は、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の化学物質であり、環境へ漏出することにより環境汚染を引き起こすと考えられる物質である。
【0011】
本発明の吸着剤で使用する坦体としては有機系、無機系の何れも使用可能である。一般的には、粒子状の物が、表面積が大きいため好適である。有機系坦体の場合、ピーナッツ殻、コーヒー豆殻、おが屑、かんな屑、木材チップ、バーク、おから、水苔、ピートモス、やし殻、もみ殻、米ぬか若しくはふすま等、又は活性炭等の炭化物が使用できる他、活性汚泥から得られる微生物菌体やビール酵母をはじめとする各種培養で得られる微生物菌体等が好適に使用できる。一方、無機系坦体の場合、珪藻土等の微生物の化石を主成分とする鉱物が好適に使用できる。
各種培養に使用する微生物種に特に制限はないが、例えばアクロモバクター属(Achromobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、オクロバクトラム属(Ochrobactrum)、クルチア属(Kurthia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、セラチア属(Serratia)、チオバチルス属(Thiobacillus)、バクテリジウム属(Bacteridium)、バチルス属(Bacillus)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、プロタミノバクター属(Protaminobacter)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、ミコプラーナ属(Mycoplana)、メタノモナス属(Metanomonas)、ロツデロマイセス属(Lodderomyces)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、又はロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)等の細菌、パチソレン属(Pachysolen)、
ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)又はサッカロミセス属(Saccharomyces)等の酵母、アスペルギルス属(Aspergillus)、ムコール属(Mucor)又はペニシリウム属(Penicillium)等の糸状菌から選ばれる微生物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
さらに、これらの坦体として、あらかじめ有機溶媒抽出した物を用いることで、脂質を付着させた後の吸着作用を増強することもできる。つまり、上記される担体を脱脂した後、脂質、例えば活性汚泥や、培養した微生物菌体から抽出した脂質、中でもリンを含む脂質を添加することで、本願吸着剤の機能が高度に発現される。
【0013】
活性汚泥菌体やビール酵母を初めとする醗酵・培養によって得られる微生物菌体などから脂質を抽出する方法としては、一般的に用いられる有機溶媒による抽出方法が使用できる。使用する有機溶媒の種類に特に制限はないが、アルコール系溶媒やケトン系溶媒、或いはその混合溶媒が好適に使用される。また、抽出時にこの有機溶媒へ水を添加することにより、吸着力の増強効果が高い脂質を抽出することができる。
【0014】
脱脂方法としては、有機溶媒抽出や圧搾抽出する方法を使用することができるが、脱脂する担体原料の物理的性状及び脱脂効率の点から、有機溶媒抽出を行う方法が簡便で好ましい。使用する有機溶剤の種類としては、脂質、特にリン脂質の抽出性に優れており、しかも抽出後の固液分離性、脱脂された固形物の乾燥性、及び脂質を含む母液の蒸留濃縮等が容易なものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、蟻酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、その他、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤を単独又は混合して使用する方法を挙げることができる。
【0015】
これらの有機溶剤のうち、脱脂段階での操作性、及び脱脂後、脂質を付着させることによって製造される吸着剤の吸着性能の点から、有機溶剤としてアルコール類とケトン類に属する溶剤を混合使用する場合が好ましく、特にメタノールとアセトンを組み合わせて使用する場合がより好ましい。溶剤の混合比率は使用する溶剤の種類によっても異なるが、メタノールとアセトンを例に取れば、重量比で100:0.1から1:1が好ましく、100:1から10:1の範囲がより好ましい。また、抽出原料が水を含む場合、それに由来する水が溶剤中に含まれることになるが、例えば、メタノールとアセトンの混合溶剤を使用する場合、両溶剤を合わせた量に対する水の量が、重量比で100:0.1から10:3となることが好ましく、100:1から10:1のとなることがより好ましい。
【0016】
本発明の吸着剤で使用する脂質には特に大きな制限はなく、例えば、サフラワー油、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、綿実油、やし油、米ぬか油、ごま油、ひまし油、亜麻仁油、オリーブ油、桐油、椿油、落花生油、カポック油、カカオ油、木蝋、ひまわり油、コーン油、及び大豆レシチン等の植物性脂質、いわし油、にしん油、いか油、及びさんま油等の魚由来の脂質、さらに、肝油、鯨油、牛脂、馬油、豚油、羊油、鶏油、及び卵黄レシチン等の動物性脂質、パルミチン酸やステアリン酸などの脂肪酸、活性汚泥菌体、培養した菌体やビール酵母等から抽出した脂質及びそれらを精製したものが使用できる。これらのうち、常温で水への溶解度が小さいものでかつ固体状の物が好ましい。特にリンを含む脂質が好適に使用できる。なお、A重油などの石油類などの鉱物油も効果上問題なく使用できるが、生分解性の低い物が多いことから、環境上好ましくない。
【0017】
油脂を付着させる方法に特に制限はなく、脂質を加熱溶解して有機系又は無機系坦体と混合する方法や、脂質を溶媒に溶解して有機系又は無機系坦体と混合した後乾燥する方法や、脂質を溶媒に加熱溶解して有機系又は無機系坦体と混合した後、乾燥する方法や、有機系又は無機系坦体をあらかじめ溶媒で湿潤させた後、溶媒に溶解した脂質を混合しその後乾燥する方法や、有機系又は無機系坦体をあらかじめ溶媒で湿潤させた後、溶媒に加熱して溶解した脂質を混合しその後乾燥する方法などが用いられる。混合及び乾燥方法は既存の装置で可能であり、実験室のロータリーエバポレーターや乾燥機のようなものから、大型装置のスプレードライヤーやパドルドライヤーなどが使用でき、操作も回分又は連続の何れもが適用できる。乾燥温度に特に制限は無いが、坦体及び付着させた脂質が変質しない温度以下とすることが好ましい。
【0018】
これら脂質の添加量には特に大きな制限はなく、脂質の種類により決定すれば良いが、卵黄レシチンや大豆レシチン、活性汚泥菌体、培養した菌体やビール酵母などから抽出した脂質を例に取れば、坦体に対する重量比で0.01:100から1:5が良く、実用上は0.1:100から1:1が好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例及び比較例をもって本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
実施例1
担体の種類(有機系,無機系)
有機系又は無機系の各種坦体10gにメタノール30gを添加し湿潤させたものへ、卵黄レシチン(和光純薬工業株式会社製)1gをメタノールとアセトン(100:8重量比)の混合溶媒20gに溶解したものを添加し混合した後、ロータリーエバポレーターで80℃3時間乾燥させた。
次ぎに、A重油1.5gを蒸留水150gに添加したものへ、上記乾燥物1.5gを添加し8時間攪拌した。攪拌終了後、8時間静置して坦体を自然沈降させた後、上層の油分の状態を目視観察した。なお、目視による油の観察結果は、−:油膜なし、±:油膜かすかにあり、+:油膜あり、++:油膜明らかにあり、+++:油膜多量にありとした。
観察後、上層の油分を傾斜法により回収し、それを2000回転/分の条件で10分間遠心分離してさらに油層と水層に分け、得られた上層の油層部分約5mlの全量を蓋付きの100ml容のガラス容器に移した。これに抽出用溶媒「H−997」(3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン)50mlを加え2時間振盪した後、5分間静置し、A重油を含む下層を50ml容ガラス容器に回収した。これに無水硫酸ナトリウム粉末を1g添加し10分間振盪して脱水した後、アドバンテック東洋株式会社製の濾紙「No.7」で濾過した。濾液を、測定範囲内になるようにH−997で適宜希釈した後、油分濃度計OCMA−355(株式会社堀場製作所社製)にて、同一のA重油を標準物質として定量分析を行い、坦体を添加しない場合を100%として吸着力の相対値を算出した。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
比較例1
坦体の種類(有機系,無機系)
卵黄レシチンを添加しないこと以外は、実施例1と同様に実験を行い、同様に分析を行った。結果を表2に示す。実施例1と比較して、低い吸着率であった。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例2
坦体の種類(有機系その1)
卵黄レシチンの代わりに大豆レシチン(和光純薬工業株式会社製)を使用したこと、大豆レシチンを溶解する溶媒として、メタノールとアセトンの混合溶媒の代わりにジエチルエーテルを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、実験と分析を行った。結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
比較例2
坦体の種類(有機系その1)
大豆レシチンを添加しないこと以外は、実施例2と同様に実験を行い、同様に分析を行った。結果を表4に示す。実施例1と比較して、低い吸着率であった。
【0026】
【表4】

【0027】
実施例3
坦体の種類(有機系その2)
表5に示した坦体を使用したこと以外は実施例1と同様にして、卵黄レシチンを使用し実験と分析を行った。結果を表5に示す。
【0028】
【表5】

【0029】
比較例3
坦体の種類(有機系その2)
卵黄レシチンを添加しないこと以外は、実施例3と同様に実験を行い、同様に分析を行った。結果を表6に示す。実施例3と比較して、低い吸着率であった。
【0030】
【表6】

【0031】
実施例4
坦体の有機溶媒抽出
培養分離し乾燥させたバクテリア(シュードモナス フルオレッセンス)菌体10gに、表7に示した各種有機溶媒50gを添加し、50℃で1時間振盪抽出した後、3000回転/分で遠心分離し上清を除いた。再度、同種の有機溶媒で同様の操作を、合計5回繰り返した後、得られた沈殿物を50℃で乾燥させて有機溶媒抽出した坦体を得た。この坦体を使用した以外は実施例1と同様にして、卵黄レシチンを使用し、実験と分析を行った。結果を表7に示す。
【0032】
【表7】

【0033】
実施例5
坦体の有機溶媒抽出(混合有機溶媒)
表8に示した各種の有機溶媒50gを使用した以外は実施例4と同様にして、有機溶媒抽出した坦体を得た後、実験と分析を行った。結果を表8に示す。
【0034】
【表8】

【0035】
比較例4
坦体の有機溶媒抽出
培養分離し乾燥させたバクテリア(シュードモナス フルオレッセンス)菌体10gを有機溶媒による抽出操作せずにそのまま使用したこと以外は実施例4と同様に操作し、実験と分析を行った。結果を表9に示す。有機溶媒抽出操作を行った、表8の試験1から15と比較して低い収率であった。
【0036】
【表9】

【0037】
実施例6
有機溶媒抽出坦体へ付着させる脂質の種類
実施例5の試験9の坦体及び表10に示した脂質を使用した以外は実施例1と同様にして、実験と分析を行った。結果を表10に示す。なお、試験例12の脂質は実施例5の試験9の坦体調製時に得られた抽出溶媒の濃縮物を使用した。
【0038】
【表10】

【0039】
比較例5
有機溶媒抽出坦体へ付着させる脂質の種類
脂質を添加しないこと以外は、実施例5と同様に実験を行い、同様に分析を行った。結果を表10に示す。実施例5と比較して、低い吸着率であった。
【0040】
【表11】

【0041】
実施例7
有機溶媒抽出坦体へ付着させる脂質の量
担体として試験9で使用したものを、脂質として卵黄レシチン、大豆レシチン、又は実施例5の試験9の坦体調製時に得られた溶媒抽出液の濃縮物を使用し、実施例1と同様にして、脂質の添加濃度を変化させて実験と分析を行った。結果を表12に示す。
【0042】
【表12】

【0043】
実施例8
吸着物の使用量
比較例4で使用した乾燥バクテリアに実施例5の試験9の坦体調製時に得た抽出溶媒の濃縮物を10%添加したもの、及び市販吸着剤であるリキッドロック、エコットスポンジを使用して、実施例1と同様にして、添加する吸着物の量を変化させて実験と分析を行った。結果を表13に示す。
【0044】
【表13】

【0045】
比較例6
吸着物の使用量
実施例5の試験9の坦体、市販吸着剤であるリキッドロック、エコットスポンジを使用して、実施例1と同様にして、添加する吸着物の量を変化させて実験と分析を行った。結果を表14に示す。
【0046】
【表14】

【0047】
実施例9
脂質中のリン含量分析
実施例5で使用した脂質中のリン含量を、硫酸−硝酸により湿式分解した後、誘導結合型プラズマ発光分析法(ICP)で分析することにより測定した。結果を表15に示す。なお、表右端に各々の脂質を使用した際のA重油の残存率を示す。
【0048】
【表15】

【0049】
実施例10
脂質担持担体の調製条件(その1)
担体として、実施例5の試験9の方法で、培養バクテリア(比較例4で使用したシュードモナス フルオレッセンス)を乾燥後、有機溶媒抽出し乾燥したもの10gへ、下表16に示す、脂質1gを80℃に加熱したもの、脂質1gを有機溶媒20gに溶解したもの、脂質1gを有機溶媒20gに溶解後80℃に加熱したものを添加混合し、ロータリーエバポレーターで80℃3時間乾燥させた。得られた脂質を担持させた乾燥物1.5gに、蒸留水150gへA重油1.5gを添加したものをマグネチックスターラーで混合しながら、実施例1と同様にA重油の吸着試験を行った。なお、脂質をより完全に溶解させる目的で、脂質1gを有機溶媒20gに溶解後80℃に加熱したが、これを使用した時の吸着量を100%とし、各々の吸着率を相対表示した。結果を表16に示す。
【0050】
【表16】

使用溶媒
(1):メタノール:アセトン(100:8)
(2):ジエチルエーテル
(3):メタノール:アセトン:ジエチルエーテル(50:4:50)
【0051】
実施例11
脂質担持担体の調製条件(その2)
担体として、実施例5の試験9の方法で、活性汚泥菌体、培養酵母(サッカロミセス セレビシエ)を抽出操作した物を未乾燥のまま乾燥重量で10g取り、これに対して、表17に示した脂質1gを有機溶媒20gに溶解し80℃に加熱した物を添加混合した後、ロータリーエバポレーターで80℃3時間乾燥させた。蒸留水150gへA重油1.5gを添加した物をマグネチックスターラーで混合しながら、上記乾燥物1.5gを添加し、実施例1と同様にA重油の吸着試験を行った。なお、脂質1gを有機溶媒20gに溶解後80℃に加熱した物を使用した時の吸着量を100%とし、各々の吸着率を相対表示した。結果を表17に示す。
【0052】
【表17】

溶媒種
(1):メタノール:アセトン(100:8)
(2):ジエチルエーテル
(3):メタノール:アセトン:ジエチルエーテル(50:4:50)
【0053】
実施例12
吸着剤の種類(その1)
実施例5の試験9の方法で、汚泥菌体、培養バクテリア(ミクロコッカス ルテウス)を抽出操作し、乾燥重量10g相当分を未乾燥のまま取り、これに対して、バクテリア抽出脂質をメタノール:アセトン(100:8)20gに溶解後80℃に加熱したものを添加混合し、ロータリーエバポレーターで80℃3時間乾燥させた。蒸留水150gへ表18に示した物質0.15gを添加した物をマグネチックスターラーで混合しながら、前記乾燥物1.5gを添加し8時間攪拌した。攪拌終了後、8時間放置して坦体を自然沈降させた後、傾斜法によって得られた上清液をトルエンで抽出し、濃縮後GC−MSによりTEQ(毒性等量)換算で濃度測定を行い、処理前後の値から吸着率を算出した。結果を表18に示す。
【0054】
【表18】

【0055】
実施例13
吸着剤の種類(その2)
実施例5の試験9の方法で活性汚泥菌体及び培養バクテリア(シュードモナス フルオレッセンス)を抽出処理した後、乾燥重量10g相当分を未乾燥のまま取り、これに対してバクテリア抽出脂質をメタノール:アセトン(100:8)20gに溶解後80℃に加熱したものを添加混合し、ロータリーエバポレーターで80℃3時間乾燥させた。蒸留水150gにダイオキシン類を含む廃油0.15gを添加した物をマグネチックスターラーで混合しながら、前記乾燥物1.5gを添加し8時間攪拌した。攪拌終了後、8時間放置して坦体を自然沈降させた後、傾斜法によって得られた上清液をトルエンで抽出し、濃縮後GC−MSによりTEQ(毒性等量)換算で濃度測定を行い、処理前後の値から吸着率を算出した。結果を表19に示す。
した。
【0056】
【表19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系又は無機系坦体に脂質を付着させた、汚染化学物質の吸着剤。
【請求項2】
有機系坦体が微生物菌体を含むものである、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
微生物菌体が培養することによって得られたものである、請求項2に記載の吸着剤。
【請求項4】
微生物菌体が活性汚泥から得られたものである、請求項2に記載の吸着剤。
【請求項5】
有機系坦体がピーナッツ殻、コーヒー豆殻、おが屑、かんな屑、木材チップ、バーク、おから、水苔、ピートモス、やし殻、もみ殻、米ぬか又はふすまである、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項6】
有機系坦体が溶媒による脱脂処理を行ったものである、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項7】
溶媒が極性有機溶剤を含むものである、請求項6に記載の吸着剤。
【請求項8】
溶媒が水と極性有機溶剤を含むものである、請求項6に記載の吸着剤。
【請求項9】
極性有機溶剤がアルコール類、ケトン類から選ばれた一種以上のものである、請求項7又は8に記載の吸着剤。
【請求項10】
アルコール類がメチルアルコール、ケトン類がアセトンである、請求項9に記載の吸着剤。
【請求項11】
有機系坦体が炭化物を含むものである、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項12】
炭化物が活性炭である、請求項11に記載の吸着剤
【請求項13】
無機系坦体が微生物の化石を含む鉱物である、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項14】
微生物の化石を含む鉱物が珪藻土由来である、請求項13に記載の吸着剤。
【請求項15】
脂質がリン脂質を含むものである、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項16】
脂質が微生物菌体から溶媒を用いて抽出されたものである、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項17】
微生物菌体が培養することによって得られたものである、請求項16に記載の吸着剤。
【請求項18】
微生物菌体が活性汚泥から得られたものである、請求項16に記載の吸着剤。
【請求項19】
溶媒が極性有機溶剤を含むものである、請求項16に記載の吸着剤。
【請求項20】
溶媒が水と極性有機溶剤を含むものである、請求項16に記載の吸着剤。
【請求項21】
極性有機溶剤がアルコール類、ケトン類の中から選ばれる一種以上である、請求項19又は20に記載の吸着剤。
【請求項22】
アルコール類がメチルアルコール、ケトン類がアセトンである、請求項21に記載の吸着剤。
【請求項23】
有機系又は無機系坦体に溶融又は溶媒に溶解させた脂質を付着させた、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項24】
溶媒で湿潤させた有機系又は無機系坦体に溶融又は溶媒に溶解させた脂質を付着させた、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項25】
脂質付着後に乾燥させた、請求項23又は24に記載の吸着剤。
【請求項26】
脂質を付着させながら乾燥させた、請求項23又は24に記載の吸着剤。

【公開番号】特開2011−212676(P2011−212676A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119372(P2011−119372)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【分割の表示】特願2006−235369(P2006−235369)の分割
【原出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】