説明

汚染土壌の洗浄方法

【課題】既存の分級除去のための装置類を改変することなく利用でき、汚染物質を吸着あ
るいは吸蔵した微粒子が粗大集合体を形成していたり、汚染物質またはその化合物が土壌
の粗大粒子に固着しており、従来の分級除去による浄化効率が低い土壌に適用しても高い
浄化効率を発揮し、かつ洗浄液の浄化処理および再利用が容易な汚染土壌の洗浄方法を提
供すること。
【解決手段】汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有
する微粒子とを混合攪拌する工程と、前記汚染物質を吸着した微粒子を、所定粒径以下の
土壌粒子と共に分級除去する工程からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有害物質により汚染された土壌の洗浄方法に関するものであり、詳しくは、従来の分級除去による浄化効率が低い土壌に適用しても高い浄化効率を発揮し、かつ洗浄液の浄化処理および再利用が容易な汚染土壌の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害物質によって汚染された土壌を浄化する方法として、土壌に水などの液体を添加することにより洗浄する方法が利用されている。この方法では、目的物質の除去は主として2つのプロセスで行われる。
【0003】
ひとつは、添加した液体に除去目的物質を溶解せしめ、添加液体を土壌から分離するというプロセスである(以後このプロセスを必要により「溶解除去」と称する)。
【0004】
もうひとつは、液体を添加して混合するとき、除去目的物質を吸着ないし吸蔵した土壌の微粒子および、除去目的物質自体を、単位粒子あるいは微小粒子として液体中に分散せしめ、添加液体除去時に一定粒径以下の微粒子を懸濁した状態で分離する、というプロセスである(以後このプロセスを必要により「分級除去」と称する)。
【0005】
たとえば、PCBなど水に難溶性の物質で汚染された土壌を浄化する目的で、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を土壌に混合したのち固液分離する場合においては、溶解除去が主たる除去プロセスである(特許文献1)。
【0006】
一方、鉛、ヒ素などで汚染された土壌を浄化するため、土壌に水を添加して混合して土壌の微粒子を分散せしめ、一定粒径以下の微粒子を含む懸濁液を分離除去する場合においては、分級除去が主たるプロセスであるが、同時に溶解除去も進行する。
【0007】
一般に、重金属やヒ素、フッ素、ホウ素などは土壌の微粒子に吸着あるいは吸蔵されて存在したり、それ自身が微粒子状の化合物として存在していることが多いので、これらの物質を除去対象とするときには分級除去を主たるプロセスとする洗浄方法が用いられることが多い。分級除去の対象となる粒子の大きさは任意であるが、重金属などの吸着量、浄化後の土壌の再利用性などを考慮して数十μm程度以下とされ、洗浄液としては水が用いられることが多い。
【0008】
もし、汚染物質(除去対象物質)が、土壌の粒径数十μm以下の微粒子に吸着あるいは吸蔵されて存在したり、それ自身が粒径数十μm以下の微粒子として存在し、洗浄液を添加して混合ないし攪拌することにより、これらの微粒子を単位粒子として完全に分散させることができるのであれば、分級除去によって土壌を浄化することが可能である。
【0009】
しかし、重金属などは、粒径数十μm以下の微粒子に吸着ないし吸蔵されていたとしても、これらの微粒子が、腐植物質、鉄やアルミニウムの酸化物や水酸化物などによって接着され、粗大な集合体として存在し、洗浄液を添加して、混合および攪拌することなどによって、もとの微粒子に完全に分散させられない場合には、分級除去による浄化は不完全となる。
【0010】
また、除去対象物質の化合物が粗大な粒子として存在したり、土壌の粗大粒子の表面に固着しているような場合にも、分級除去による除去は不完全となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−131641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
土壌においては、微粒子が集合して粗大粒子となっていることは普通であり、地盤工学や土壌学における土壌の粒度分析においては、微粒子の集合体を破壊して土壌粒子を単位粒子とするため、分散剤を添加して長時間の振とうや音波処理を行うことが必須となっている。
【0013】
汚染物質(除去対象物質)を吸着あるいは吸蔵した微粒子が上記のような集合体として存在する場合には、分級除去は不完全になる。また、除去対象物質の化合物が粗大な粒子として存在したり、土壌の粗大粒子の表面に固着しているような場合にも、分級除去による除去は不完全となる。
【0014】
このような場合において、所定の基準を満たすように浄化するためには溶解除去に頼らざるを得ない。
【0015】
しかし、一般に除去対象物質の溶解度は低いことが多く、土壌粒子表面に強く吸着されたり、吸蔵されていることが多いので、洗浄液への溶出濃度は極めて低い。このため非常に多量の洗浄液を用いることが必要になる。
【0016】
たとえば、フッ化カルシウムが土壌の粗大粒子の表面に付着しているような場合、分級除去は困難である。またフッ化カルシウムの水に対する溶解度はフッ素として約8mg/Lであり、土壌1トンに対して10立方メートルの水を洗浄液として用いた場合でも、洗浄1回あたりの最大除去量は約75gにすぎず、溶解除去効率は極めて低い。洗浄水のカルシウム濃度が高い場合には除去効率はさらに低下する。
【0017】
また、前述したように、分級除去過程では、溶解除去も同時進行するため、使用後の洗浄液には基準を上回る有害物質が溶存することもある。このような場合には、洗浄液を放流する前にその物質の除去処理を行う必要がある。また洗浄液の再利用にも不都合である。
【0018】
そこで、本発明の課題は、既存の分級除去のための装置類を改変することなく利用でき、汚染物質を吸着あるいは吸蔵した微粒子が粗大集合体を形成していたり、汚染物質またはその化合物が土壌の粗大粒子に固着しており、従来の分級除去による浄化効率が低い土壌に適用しても高い浄化効率を発揮し、かつ洗浄液の浄化処理および再利用が容易な汚染土壌の洗浄方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0021】
(請求項1)
汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌する工程と、
前記汚染物質を吸着した微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去する工程からなることを特徴とする汚染土壌の洗浄方法。
【0022】
(請求項2)
前記汚染物質を吸着する能力を有する微粒子は、下記(1)又は(2)の何れか1種又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の汚染土壌の洗浄方法。
(1)土壌を含む液体中で、その微粒子自体が該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子
(2)土壌を含む液体中で生成した微粒子であり、且つ該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子
【0023】
(請求項3)
前記分級除去する工程が、高圧水によるすすぎと、分級からなることを特徴とする請求項1または2記載の汚染土壌の洗浄方法。
【0024】
(請求項4)
前記混合攪拌する工程の前に、前記汚染物質により汚染された土壌に対して、水による分級除去を行うことを特徴とする請求項1、2または3記載の汚染土壌の洗浄方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来の分級除去による浄化効率が低い土壌に適用しても高い浄化効率を発揮し、かつ洗浄液の浄化処理および再利用が容易な汚染土壌の洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】水に硫酸アルミニウムを添加し、pHを6−7に調製したときに生成する水酸化アルミニウム粒子の電子顕微鏡写真
【図2】水に塩化第二鉄を添加したときに生成する水酸化鉄微粒子の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
本発明の汚染土壌の洗浄方法は、汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌する工程(以下、第1工程という)と、前記汚染物質を吸着した微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去する工程(以下、第2工程という)からなる。
【0029】
本明細書において、「吸着」という語句は、物理吸着と化学吸着の両方を含み、物理吸着の場合には、固体表面吸着以外に固体内部への吸蔵も含む。
【0030】
また、本発明において、「微粒子」とは、分級除去に用いられる装置において除去画分に分画されうるような大きさ以下であることを意味するが、通常の分級除去においては数十μm以下をさす。
【0031】
さらに本発明に用いられる液体は、水であることが好ましいが、限定されるものではない。なお、以下、水を用いる場合を用いて説明する。
【0032】
<第1工程>
第1の工程において、汚染物質を吸着する能力を有する微粒子は、(1)土壌を含む液体中で、その微粒子自体が該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子、又は(2)土壌を含む液体中で生成した微粒子であり、且つ該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子の何れか1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0033】
上記(1)の「土壌を含む液体中で、その微粒子自体が該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子」は、汚染物質によって異なる。
【0034】
たとえば、汚染物質が、無機ヒ素化合物である場合には、微粒子状酸化鉄、水酸化鉄、マグネシア、酸化セリウム、マグネシウム‐アルミニウム層状複水酸化物などのうちの1種又はこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0035】
汚染物質が、無機フッ素である場合には、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、マグネシアなどの1種又はこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0036】
汚染物質が、鉛など陽イオンとして溶出しやすい物質の場合には、酸化鉄、水酸化鉄、水酸化アルミニウム、微粒子状ゼオライト、微粒子状陽イオン交換樹脂などの1種又はこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0037】
汚染物質が、非イオン性の有機化合物である場合には、微粒子状活性炭、微粒子状ゼオライトなどの1種又はこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
上記の微粒子の水への添加にあたっては、あらかじめこれらの物質を水に混合しておき、それを土壌に加えるのでもよいし、あらかじめ土壌と水を混合しておき、それにこれらの微粒子を添加するのでもよい。
【0039】
微粒子の添加量は、浄化対象となる汚染土壌に含まれる除去対象物質の含有量および微粒子の吸着あるいは吸蔵能力に依存するので、あらかじめ決めることはできず、施工前に予備試験を行って決定すべきであるが、水1Lに対し、1〜100g添加することが好ましく、より好ましくは、1〜20g、更に好ましくは2〜6gである。
【0040】
また、上述の例として挙げた微粒子状物質の吸着あるいは吸蔵能力はそれと接する溶液の条件に依存することがある。たとえば鉛を除去するため、水酸化鉄微粒子を添加する場合においては、水酸化鉄微粒子の鉛イオン吸着能力はそれが懸濁する水のpHに大きく依存し、pHの高い方が吸着能力が大きい。同様に土壌鉱物による鉛イオン吸着能力もpHが高くなるほど向上する。
【0041】
このような場合、添加微粒子の吸着能が十分増加するが、土壌鉱物の吸着能の増加はそれほどでもないようなpHを見出すことができる場合には、酸またはアルカリを添加して洗浄液のpHを制御することが有効である。すべての事例を列挙することはできないが、微粒子を添加するとともに、添加微粒子の吸着ないし吸蔵能力が相対的に向上するように洗浄用の水のpH条件を制御するための物質を添加することは有効である。
【0042】
添加する物質の選択に当たっては、添加微粒子の、除去目的物質に対する吸着あるいは吸蔵能力に加えて、分級除去された画分の処分に当たって順守すべき法令などを考慮しなければならない。
【0043】
上記(2)の「土壌を含む液体中で生成した微粒子であり、且つ該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子」は、(A)土壌を含む液体中で微粒子を生成する物質の1種又は複数種を用いて液体中で生成した微粒子であってもよいし、あるいは、(B)汚染物質と反応して溶解度の低い微粒子(化合物)を生成する物質の1種又は複数種を用いて液体中で生成した微粒子でもよい。
【0044】
上記の物質の添加にあたっては、あらかじめこれらの物質を水に混合しておき、それを土壌に加えるのでもよいし、あらかじめ土壌と水を混合しておき、それにこれらの物質を添加するのでもよい。
【0045】
上記(A)の「土壌を含む液体中で微粒子を生成する物質」は、水中で、除去対象物質を吸着あるいは吸蔵する能力を持つ微粒子を生成するような物質であり、例えば除去対象物質が陽イオンとして溶出する鉛、カドミウムおよびその化合物、オキソ酸イオンとして溶出しやすいヒ素、六価クロム、フッ素およびその化合物の場合には、多価金属(典型的には鉄およびアルミニウム)の塩、その溶液あるいはこれらの金属の水酸化物クラスターの溶液、モノケイ酸およびポリケイ酸塩やそれらの溶液を用いることが適当であるがこれらに限定されるものではない。
【0046】
特に、フッ素を除去対象とする場合には、硫酸アルミニウムを用いることが好ましい。
【0047】
イオンとして溶出しやすい化合物が除去対象である場合には、マグネシウム-アルミニウム複水酸化物を焼成したものも有効である。
【0048】
また、土壌に添加したとき微粒子を生成しにくい場合には、酸、アルカリ等を添加して、微粒子が生成しやすい条件とすることが有効である。
【0049】
除去対象物質を吸着あるいは吸蔵する能力を持つ微粒子を生成するような物質を添加して分級除去を行う場合においても、当該物質の添加量は、浄化対象土壌に含まれる除去対象物質の含有量および微粒子の吸着あるいは吸蔵能力に依存するのであらかじめ決めることはできず、施工前に予備試験を行って決定すべきであるが、水1Lに対し、1〜100g添加することが好ましく、より好ましくは、1〜20g、更に好ましくは2〜6gである。
【0050】
水中で吸着あるいは吸蔵能力のある微粒子を生成しうる物質を添加することにより、あらかじめ微粒子を製造する作業を省略することができる。
【0051】
次に、上記(B)の「汚染物質と反応して溶解度の低い微粒子(化合物)を生成する物質」は、除去対象物質と反応して、溶解度の低い微粒子状化合物を生成する能力をもつ物質であり、除去対象が難溶性硫化物形成しやすい物質である場合には硫化物塩を用いることが有用である。また、難溶性のキレート化合物を生成する有機化合物、例えば2個のジチオカルボキシ基を有するキレート剤、なども有効である。除去対象物質が六価クロムおよびその化合物である場合には、第一鉄塩も有効である。
【0052】
この場合、除去目的物質と直接反応して、溶解度の低い微粒子状物質を生成することにより洗浄用の水中の同物質の濃度は上昇しない。このため洗浄用水溶液は当該物質によって飽和することなく、土壌の粗大粒子に固着した物質からの溶出が継続する。また土粒子に吸着ないし吸蔵された物質の脱着および溶出も継続する。その結果、粗大粒子を除去することなく土壌を浄化することが可能になる。
【0053】
生成したものは微粒子であるため、分級過程で土壌から除去される。水中の除去対象物質濃度は低く抑えられているので、水溶液は固液分離後ただちに放流あるいは再利用することが可能となる。さらに、分級除去された画分においては、有害物質は不溶化されているので、処分に好都合である。
【0054】
土壌に、除去対象物質と反応して、溶解度の低い微粒子状化合物を生成する能力をもつ物質を含む水を添加して分級除去を行う場合においても、当該物質の添加量は、浄化対象土壌に含まれる除去対象物質の含有量および微粒子の吸着あるいは吸蔵能力に依存するのであらかじめ決めることはできず、施工前に予備試験を行って決定すべきであるが、水1Lに対し、1〜100g添加することが好ましく、より好ましくは、1〜20g、更に好ましくは2〜6gである。
【0055】
第1工程は、汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌する工程であり、この混合攪拌により、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子は、汚染された土壌中の汚染物質を吸着する。
【0056】
換言すれば第1工程は、土壌中の汚染物質を微粒子に吸着させ、汚染物質を吸着した微粒子を生成させる工程である。
【0057】
液体と微粒子は、あらかじめ液体と微粒子を混合してから土壌に添加しても良いし、あらかじめ土壌に液体を混合しておき、それに微粒子を添加するのでもよいが、前者は、液体と微粒子の混合物を洗浄液として扱うことができるので、土壌への混合性に優れ、取扱いが容易である。
【0058】
液体と微粒子を土壌に添加した後は、30分以上、好ましくは30分〜5時間、より好ましくは1時間〜3時間、接触時間を設けることが好ましい。この接触時間の間は、添加した液体及び微粒子が土壌全体に行き渡るように軽く攪拌した後、静置してもよく、攪拌機などにより機械攪拌を加えても良い。
【0059】
<第2工程>
次に、本発明の第2工程について説明する。
【0060】
第2工程は、前記汚染物質を吸着した微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去する。
【0061】
ここで、所定粒径未満というのは、180μm未満、好ましくは150μm未満、より好ましくは125μm未満であるが、本実施例においては、粒子径が125μm未満、あるいは75μm未満である。
【0062】
分級方法は、格別限定されず、湿式振盪篩機、ハイメッシュセパレータ、サイクロン等を用いて分級する。最小の画分には、最小の篩の孔径より小さい、すなわち所定粒径以下の、元から土壌に含まれていたの微粒子のほかに、汚染物質を吸着した微粒子が含まれるので、これを除去することで土壌から汚染物質を分離することができる。
【0063】
分級の後は、必要により脱水をしても良い。
【0064】
本発明の洗浄方法は、所謂「不溶化」により汚染物質の溶出量を低減させるものとは異なり、汚染物質を吸着した微粒子を土壌中に残留させないことが必要である。したがって微粒子の分級除去の精度を上げるために、第2工程において、分級の前にすすぎを行うことも本発明の好ましい態様である。
【0065】
「すすぎ」は、第1工程後の汚染土壌、液体、微粒子の混合物に対し、水を添加して、微粒子を水中に拡散もしくは分散させることである。
【0066】
水は、高圧ポンプなどで0.5〜10MPa程度の圧力を付加した水(高圧水)として土壌に噴射しながら添加することが好ましい。
【0067】
本発明の微粒子は、汚染物質を化学的に吸着するので、高圧水を噴射しても汚染物質と微粒子の吸着は、圧力水の物理的作用により破壊されることはほとんど無く、吸着した状態を維持することができる。一方で、圧力水の物理的作用により攪拌されるので、微粒子は効率よく水中に拡散もしくは分散する。
【0068】
すすぎを行うことにより、土壌粒子と汚染物質を吸着した微粒子が離れ、微粒子が水中に拡散もしくは分散するので、後段の分級において微粒子が分離しやすくなる。
【0069】
<原理>
本発明の微粒子が、高い洗浄効果をもつのは、次のような機構が考えられる。
【0070】
洗浄用の水中で吸着あるいは吸蔵能力を持つ微粒子は、土壌から溶出してきた汚染物質を吸着あるいは吸蔵によって除去するため水中の同物質の濃度は上昇しない。
【0071】
このため水溶液は当該物質によって飽和することなく、むしろ水溶液中の濃度が低下するので、土壌の粗大粒子に固着した物質からの溶出が継続する。また土粒子に吸着ないし吸蔵された物質の脱着および溶出も継続する。難溶性の化合物についても、溶解が促進される。
【0072】
これにより、粗大粒子を除去することなく洗浄が可能で、粗大な土粒子に固着しているような難溶性化合物や、汚染物質を吸着した微小粘土粒子が集合して粗大粒子化したものにも対応して、土壌を浄化することが可能になる。
【0073】
添加したものは微粒子であるため、分級過程で土壌から除去される。
【0074】
また、汚染物質は微粒子に吸着あるいは吸蔵されて存在するので、洗浄用の水溶液中に溶解している汚染物質濃度は低く、洗浄後に固液分離して微粒子を除けば、液体分はただちに放流あるいは再利用することが可能となる。
【0075】
以上述べた分級除去においては、最初から、微粒子、洗浄用の水溶液中で微粒子を生成する物質を添加してもよいが、最初はこれらの物質の添加なしで通常の分級除去処理あるいは本発明の第2工程に示されるすすぎ及び分級からなる分級除去処理を行い、2度目以降にこれらの物質を添加した分級除去処理を行ってもよい。
【0076】
汚染土壌は、土壌粒子表面に汚染物質が吸着あるいは吸蔵されている他、土壌の間隙水に汚染物質が溶出していることが多いが、これは微粒子がなくても水などによる分級除去処理を行うことで除去することができる。
【0077】
したがって、第1工程の前に通常の分級除去処理あるいは本発明の第2工程に示されるすすぎ及び分級からなる分級除去処理を水のみにより行えば、微粒子、洗浄用の水溶液中で微粒子を生成する物質の使用量を削減することができる。
【実施例】
【0078】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0079】
参考例1
水に硫酸アルミニウムを添加し、pHを6−7に調製して水酸化アルミニウム粒子を生成させた(図1)。粒子は50nm以下の大きさである(スケールは50nm)。
【0080】
土のpHが6以上であれば、土自体の緩衝作用により、アルミニウム塩を添加するだけでpH調製することなく水酸化物微粒子が生成した。
【0081】
参考例2
水に塩化第二鉄を添加し、水酸化鉄微粒子を生成させた(図2)。生成した粒子の粒径は5nm以下である(スケールは50nm)。
【0082】
鉄イオンは水酸化物になりやすいので水に添加しただけで水酸化物を生成する。
【0083】
<混合攪拌→分級により洗浄を行ったケース>
実施例1
高濃度のフッ素汚染のある土壌(フッ素溶出量9.6mg/L)を200g採取し、洗浄液(硫酸アルミニウム水溶液(アルミニウム濃度:酸化アルミニウムとして8%))を土壌試料に対して5重量%となるように添加して60分浸漬した後、水2000gで洗浄、分級し、75μm篩を通過した75μm未満分画を除去した。
【0084】
その後、75μm未満分画を除去した土壌(洗浄土壌)のフッ素溶出量を測定したところ0.5mg/Lであり、溶出量基準値0.8mg/L以下になった。
【0085】
なお、以後の実施例および比較例におけるフッ素溶出量の測定は、「土壌溶出量調査に係る測定方法を定める件(平成15年3月6日環境省告示第18号)」に従って測定した。
【0086】
実施例2
中濃度のフッ素汚染のある土壌(フッ素溶出量1.8mg/L)について、実施例1と同様に洗浄し、フッ素溶出量を測定したところ、0.1mg/L未満であった。
【0087】
実施例3
低濃度のフッ素汚染のある土壌(フッ素溶出量0.8mg/L)について、実施例1と同様に洗浄し、フッ素溶出量を測定したところ、0.2mg/Lであった。
【0088】
実施例1〜3の結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
<混合攪拌→すすぎ→分級により洗浄を行ったケース>
実施例4
あらかじめ2mm篩でふるい、2mm以下の粒子のみにした汚染土壌試料(フッ素溶出量2.6mg/L)を、洗浄液(硫酸アルミニウム水溶液(アルミニウム濃度:酸化アルミニウムとして8%))を土壌試料に対して5重量%となるように添加して60分浸漬した後、高圧水ですすぎを行い、流水しながら湿式振盪篩機で分級し、125μm篩を通過した125μm未満分画を除去した。
【0091】
その後、125μm未満分画を除去した土壌(洗浄土壌)のフッ素溶出量を測定したところ、0.1mg/Lであった。
【0092】
比較例1
実施例4において、硫酸アルミニウム液を水に代えた以外は同様にして、洗浄土壌のフッ素溶出量を測定したところ、2.8mg/Lであった。
【0093】
実施例5
フッ素溶出量1.0mg/Lの別の汚染土壌試料について、実施例4と同様に洗浄、分級して得られた洗浄土壌のフッ素溶出量を測定したところ、0.1mg/Lであった。
【0094】
比較例2
実施例5において、硫酸アルミニウム液を水に代えた以外は同様にして、洗浄土壌のフッ素溶出量を測定したところ、1.3mg/Lであった。
【0095】
実施例6
フッ素溶出量0.6mg/Lの別の汚染土壌試料について、実施例4と同様に洗浄、分級して得られた洗浄土壌のフッ素溶出量を測定したところ、0.1mg/Lであった。
【0096】
比較例3
実施例6において、硫酸アルミニウム液を水に代えた以外は同様にして、洗浄土壌のフッ素溶出量を測定したところ、1.2mg/Lであった。
【0097】
実施例4〜6及び比較例1〜3の結果を表2に示す。
【0098】
【表2】


【0099】
<水のみによるすすぎ、分級を行い、洗浄液を添加して混合攪拌、すすぎ、分級を行ったケース>
実施例7
あらかじめ2mm篩でふるい、2mm以下の粒子のみにした汚染土壌試料(フッ素溶出量3.6mg/L)対して、微粒子を添加せずに高圧水によるすすぎを行い、流水しながら湿式振盪篩機で分級し、125μm篩を通過した125μm未満分画を除去した。
【0100】
この125μm未満分画を除去した土壌(A)に、洗浄液(硫酸アルミニウム水溶液(アルミニウム濃度:酸化アルミニウムとして8%))を土壌試料の乾燥重量に対して1重量%となるように添加した後、高圧水によりすすぎを行い、流水しながら湿式振盪篩機で分級し、125μm篩を通過した125μm未満分画を除去した。
【0101】
その後、125μm未満分画を除去した土壌(洗浄土壌)のフッ素溶出量を測定したところ、0.22mg/Lであり、洗浄液の添加量を減らしても高い洗浄効果が得られた。
【0102】
実施例7の結果を表3に示す。
【0103】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌する工程と、
前記汚染物質を吸着した微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去する工程からなることを特徴とする汚染土壌の洗浄方法。
【請求項2】
前記汚染物質を吸着する能力を有する微粒子は、下記(1)又は(2)の何れか1種又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の汚染土壌の洗浄方法。
(1)土壌を含む液体中で、その微粒子自体が該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子
(2)土壌を含む液体中で生成した微粒子であり、且つ該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子
【請求項3】
前記分級除去する工程が、高圧水によるすすぎと、分級からなることを特徴とする請求項1または2記載の汚染土壌の洗浄方法。
【請求項4】
前記混合攪拌する工程の前に、前記汚染物質により汚染された土壌に対して、水による分級除去を行うことを特徴とする請求項1、2または3記載の汚染土壌の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−183380(P2011−183380A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27932(P2011−27932)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(510019794)株式会社アステック東京 (3)
【Fターム(参考)】