説明

汚染地下水の浄化構造

【課題】透過性反応壁を容易に交換することができる汚染地下水の浄化構造を提供する。
【解決手段】汚染地下水の浄化構造は、汚染物質を含む地下水を原位置で浄化する浄化構造であり、帯水層2の深部を流れる地下水6を該帯水層2の浅部に導く流路を形成する鋼矢板11及び地中壁12と、地下水面2a近傍に設置され、上記鋼矢板11及び地中壁12によって浅部に導かれた地下水6を透過させることにより、地下水6に含まれる汚染物質5と反応して地下水6を浄化する水平型透過性反応壁13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物や重金属等により汚染された土壌又は地下水の浄化構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トリクロロエチレンのような揮発性有機化合物や重金属等で汚染された土壌や地下水を原位置で浄化する方法として、透過性反応壁を用いる方法が知られている。透過性反応壁とは、水に対して透過性を有すると共に、地下水中の汚染物質と反応(不溶化、分解等)する性能を有する構造体である。
【0003】
図3は、透過性反応壁を用いた従来の浄化方法を示す側断面図である。この浄化方法においては、透過性反応壁30を、不飽和帯31から帯水層(飽和帯)32に渡って、粘土や岩盤からなる不透水層33に達するように設置する。このとき、透過性反応壁30は、帯水層(飽和帯)32を流れる地下水36の流向に対して略直交するように立設される。それにより、汚染源34から拡散した汚染物質35を含む地下水36が透過性反応壁30を透過し、その透過の際に、汚染物質35が透過性反応壁30と反応することにより無害化又は除去される。
【0004】
このような浄化方法に関連する技術として、例えば、特許文献1には、地下土壌が汚染された一定の汚染領域に対し、多数本の防護柱を近接させて上記汚染領域を囲むように埋設する汚染拡散防止及び浄化方法が開示されている。上記防護柱は、多数個の貫通孔を設けた管体に濾過材として炭を充填した構造を有しており、汚染領域から地下水等とともに流出する汚染物質を濾過している。また、特許文献2には、透水性を有し、かつ、希土類化合物を担持する汚染拡散防止用の壁体を、汚染土壌と非汚染土壌とを区画するように地中に埋設した汚染拡散防止構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−117237号公報
【特許文献2】国際公開第03/103866号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような透過性反応壁30を用いた浄化方法においては、汚染物質35の濃度や地下水36の流速等に応じて透過性反応壁30の厚さを決定し、地盤を不透水層33まで深く掘削してこの透過性反応壁30を設置する。また、一旦設置された透過性反応壁30は、汚染物質35を含む地下水36が継続的に通過することにより経時的に劣化又は破過するので、浄化作用を維持するために、透過性反応壁30を定期的に交換することが望ましい。しかしながら、上記の通り透過性反応壁30は地中深くに設置されるため、透過性反応壁30の交換は非常に困難であり、多くのコストを要する。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、透過性反応壁を容易に交換することができる汚染地下水の浄化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る汚染地下水の浄化構造は、汚染地下水を原位置で浄化する浄化構造であり、帯水層の深部を流れる地下水を該帯水層の浅部に導く流路を形成する流路形成部材と、地下水面近傍に設置され、前記流路形成部材によって浅部に導かれた前記地下水を透過させることにより、前記地下水に含まれる汚染物質と反応して前記地下水を浄化する透過性反応壁とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記汚染地下水の浄化構造において、前記流路形成部材は、地表から前記地下水の底部より高い高さまでの領域に設置された第1の壁部材と、前記第1の壁部材の下流側の該第1の壁部材から所定の距離だけ隔てた領域であって、前記地下水の底部から前記地下水面より低い高さまでの領域に設置された第2の壁部材とを備え、前記透過性反応壁は、前記第2の壁部材の少なくとも上方の領域に設けられることを特徴とする。
【0010】
上記汚染地下水の浄化構造において、前記第1の壁部材は、前記地表から前記深度まで打設された鋼矢板であり、前記第2の壁部材は、前記地下水の底部である不透水層上に設置された地中壁であることを特徴とする。
【0011】
上記汚染地下水の浄化構造において、前記透過性反応壁は、該透過性反応壁の主面が略水平となるように設置されていることを特徴とする。
【0012】
上記汚染地下水の浄化構造において、前記透過性反応壁は、重金属を不溶化させる性能を有する第1の透過性反応壁材と、該第1の透過性反応壁材の上流側又は下流側に配置され、揮発性有機化合物を分解する性能を有する第2の透過性反応壁材とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、流路形成部材によって深部の地下水を浅部に導く水流を形成するので、透過性反応壁を地下水面近傍に配置することができる。従って、透過性反応壁が劣化した際に、容易に新たな透過性反応壁と交換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係る汚染地下水の浄化構造を示す側断面図である。
【図2】図2は、図1のA−A断面図である。
【図3】図3は、従来の汚染地下水の浄化方法を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る汚染地下水の浄化構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る汚染地下水の浄化構造(以下、単に「浄化構造」という。)を示す側断面図である。また、図2は、図1のA−A断面図である。図1及び図2に示す浄化構造10は、不飽和帯1と不透水層3との間に存在する帯水層(飽和帯)2を流れる地下水6を原位置で浄化する浄化構造である。この浄化構造10は、揮発性有機化合物や重金属等を含む汚染物質5を拡散する汚染源4よりも下流側に設置される。
【0017】
浄化構造10は、鋼矢板11と、地中壁12と、水平型透過性反応壁13とを備えている。この内の鋼矢板11及び地中壁12は、帯水層2の深部を流れる地下水6を、該帯水層2の浅部に導く流路を形成する流路形成部材を構成する。
【0018】
鋼矢板11は、汚染地下水の浄化地点である水平型透過性反応壁13の上流側に、地表1aから地下水6の底部(即ち、不透水層3の表面)より高い高さ(即ち、地表1aからの深度D)までの領域に打設された壁部材であり、地下水面2aから深度Dまでの領域において地下水6の流通を遮蔽する。好ましくは、鋼矢板11の主面を、地下水6の流向と略直交するように設置すると良い。
【0019】
地中壁12は、鋼矢板11の下流側の領域であって鋼矢板11から所定の距離だけ隔てた領域に設置されている。地中壁12は、地下水6の底部から地下水面2aより低い高さHまでの領域に設置された壁部材であり、鋼矢板11の下方を通過した地下水6の流通を遮蔽することにより、地下水6の流向を自身に沿って上方に変化させる。地中壁12は、例えば、セメント系深層混合処理(CDM)工法等の地盤改良杭の設置工法により、不透水層3上に設置される。また、好ましくは、地中壁12の主面も、地下水6の流向と略直交するように(即ち、鋼矢板11の主面と略平行に)設置すると良い。
【0020】
水平型透過性反応壁13は、水を透過させる性質を有すると共に、所定の汚染物質に対して反応(不溶化、分解等)する性質を有する構造体である。水平型透過性反応壁13は、地下水面2aの近傍に設置されており、鋼矢板11と地中壁12とによって浅部に導かれた地下水6を透過させることにより、地下水6を浄化する。本実施の形態において、水平型透過性反応壁13は、一端が地中壁12上に載置され、自身の上面が地下水面2aを超えるように設置されている。それにより、地下水面2aと地中壁12との間の領域に流れ込む地下水6が、確実に水平型透過性反応壁13に導入される。また、好ましくは、水平型透過性反応壁13を、その主面が略水平になるように設置すると良い。
【0021】
本実施の形態において、水平型透過性反応壁13は、鉛や水銀や砒素等の重金属と反応して不溶化させる性能を有する第1透過性反応壁材(以下、第1反応壁材)13aと、トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物と反応して分解させる性能を有する第2透過性反応壁材(以下、第2反応壁材)13bとを含んでいる。これらの第1反応壁材13a及び第2反応壁材13bは、地下水6の流向に沿って上流側から下流側に順に並べられている。なお、図1及び図2において、第1反応壁材13aが上流側に配置され、第2反応壁材13bが下流側に配置されているが、配置順はその逆であっても良い。
【0022】
次に、浄化構造10の作用について説明する。
図1に示すように、鋼矢板11の底面が地中壁12の上面よりも低くなるように設置すると、鋼矢板11と地中壁12との間に、帯水層2の深部から浅部に向けて上昇する地下水6の流れが形成される。ここで、帯水層2の深部には、汚染プルームと呼ばれる高濃度の汚染物質5が存在しており、この汚染プルームも、鋼矢板11及び地中壁12によって形成された地下水6の流れに乗って浅部に運ばれる。汚染物質5を含む地下水6は、地下水面2a近傍に設置された水平型透過性反応壁13を透過する。その際に、汚染物質5は、第1反応壁材13a及び第2反応壁材13bを順次通過して無毒化又は除去される。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態によれば、鋼矢板及び地中壁を設けることにより深部の地下水を浅部に導く水流を形成するので、透過性反応壁による浄化を地下水面近傍において行うことができる。従って、透過性反応壁が劣化した際に、新たな透過性反応壁と容易に交換することができる。特に、本実施の形態のように透過性反応壁を略水平に配置する場合には、深さ方向の掘削量が少量となるため、透過性反応壁の交換はさらに容易となる。また、汚染物質の濃度等に応じた透過性反応壁の厚さの変更(地下水の流向に沿った方向の長さ)も簡単に行うことができる。或いは、透過性反応壁の劣化の速度が部分ごとに不均一である場合には、劣化状態に応じて透過性反応壁を部分的に交換することも可能である。
【0024】
また、本実施の形態によれば、高濃度の汚染プルームを地下水の浅部に導いて浄化するので、浄化効率を向上することが可能となる。
【0025】
さらに、本実施の形態によれば、互いに異なる性能を有する2種類の透過性反応壁を並べて地下水を順次透過させるので、汚染物質である重金属等と揮発性有機化合物との両方を同時に浄化することが可能となる。また、2種類の透過性反応壁の劣化速度が異なる場合には、必要に応じて、いずれか一方のみを交換することも可能である。
【0026】
以上説明した本実施の形態においては、鋼矢板及び地中壁を設けることにより、深部の地下水を浅部に導く水流を形成したが、このような水流を形成することができれば、鋼矢板及び地中壁を用いる構成に限定されない。
【0027】
また、上記実施の形態においては、2種類の透過性反応壁によって水平型透過性反応壁を構成したが、汚染物質の種類に応じて、いずれかの1つのみを用いても良いし、別の種類の透過性反応壁をさらに追加しても良い。
【0028】
さらに、上記実施の形態においては、図1に示すように、水平型透過性反応壁13の一端を地中壁12上に載置することにより水平型透過性反応壁13を支持しているが、水平型透過性反応壁13を支持する支持柱等を別途不透水層3に設置しても良い。この場合、地中壁12の上部を通過した地下水6が確実に水平型透過性反応壁13に導入されれば、水平型透過性反応壁13の一端を必ずしも地中壁12上に載置する必要はない。例えば、水平型透過性反応壁13の左端面の下端部と地中壁12の右端面の上端部とが当接するように、各部材の配置を決定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る汚染地下水の浄化構造は、汚染地下水を原位置で浄化する場合に有用であり、特に汚染プルームが深部に存在する地下水を浄化する場合に有用である。
【符号の説明】
【0030】
1、31 不飽和帯
1a 地表
2a 地下水面
2、32 帯水層(飽和帯)
3、33 不透水層
4、34 汚染源
5、35 汚染物質
7、37 地下水
10 浄化構造
11 鋼矢板
12 地中壁
13 水平型透過性反応壁
13a 第1透過性反応壁材(第1反応壁材)
13b 第2透過性反応壁材(第2反応壁材)
30 透過性反応壁
32a 地下水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染地下水を原位置で浄化する浄化構造であり、
帯水層の深部を流れる地下水を該帯水層の浅部に導く流路を形成する流路形成部材と、
地下水面近傍に設置され、前記流路形成部材によって浅部に導かれた前記地下水を透過させることにより、前記地下水に含まれる汚染物質と反応して前記地下水を浄化する透過性反応壁と、
を備えることを特徴とする汚染地下水の浄化構造。
【請求項2】
前記流路形成部材は、
地表から前記地下水の底部より高い高さまでの領域に設置された第1の壁部材と、
前記第1の壁部材の下流側の該第1の壁部材から所定の距離だけ隔てた領域であって、前記地下水の底部から前記地下水面より低い高さまでの領域に設置された第2の壁部材と、
を備え、
前記透過性反応壁は、前記第2の壁部材の少なくとも上方の領域に設けられることを特徴とする請求項2に記載の汚染地下水の浄化構造。
【請求項3】
前記第1の壁部材は、前記地表から前記深度まで打設された鋼矢板であり、
前記第2の壁部材は、前記地下水の底部である不透水層上に設置された地中壁であることを特徴とする請求項2に記載の汚染地下水の浄化構造。
【請求項4】
前記透過性反応壁は、該透過性反応壁の主面が略水平となるように設置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の汚染地下水の浄化構造。
【請求項5】
前記透過性反応壁は、
重金属を不溶化させる性能を有する第1の透過性反応壁材と、
該第1の透過性反応壁材の上流側又は下流側に配置され、揮発性有機化合物を分解する性能を有する第2の透過性反応壁材と、
を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の汚染地下水の浄化構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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