説明

汚染地盤の浄化材及び浄化方法

【課題】 高濃度VOCによって汚染された地盤であっても浄化できる汚染地盤の浄化材及び浄化方法を提供する。
【解決手段】 地盤に含まれるVOCの濃度が100mg/L以上であるような高濃度の揮発性有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤に加えられ、前記揮発性有機塩素化合物を分解する嫌気性微生物を活性化させることで、前記汚染地盤を浄化する汚染地盤の浄化材であって、前記嫌気性微生物と共生関係にある共生微生物と、前記嫌気性微生物を活性化する栄養材と、前記嫌気性微生物が生息可能な担体とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のVOC(揮発性の有機塩素化合物)で汚染された汚染地盤の浄化材及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地盤中に常在する微生物によって、TCE(トリクロロエチレン)等のVOCで汚染された汚染地盤を浄化する浄化方法が知られている。この汚染地盤の浄化方法では、地盤に栄養材を注入してVOC分解菌を活性化する。これによって、VOC分解菌によるVOCの分解を促進して汚染地盤を浄化する(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐268450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、地盤に含まれるVOCの濃度が100mg/L以上であるような高濃度VOCによって汚染された地盤は、VOC分解菌の生息に適さず、栄養材を注入してもVOC分解菌を活性化することは難しい。このため、前述した汚染地盤の浄化方法によって、高濃度VOCによって汚染された地盤を浄化することは困難であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高濃度VOCによって汚染された地盤であっても浄化することのできる汚染地盤の浄化材及び浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明は、
地盤に含まれるVOCの濃度が100mg/L以上である高濃度の揮発性有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤に加えられ、前記揮発性有機塩素化合物を分解する嫌気性微生物を活性化させることで、前記汚染地盤を浄化する汚染地盤の浄化材であって、
前記嫌気性微生物と共生関係にある共生微生物と、
前記嫌気性微生物を活性化する栄養材と、
前記嫌気性微生物が生息可能な担体と、
を含有することを特徴とする。
【0007】
本発明では、嫌気性微生物と共生関係にある共生微生物により、高濃度VOCで汚染された地盤中に、嫌気性微生物が活性化するために必要な環境を形成できる。また、栄養材によって、嫌気性微生物を活性化することができる。更に、嫌気性微生物は担体中に生息することができるので、嫌気性微生物が高濃度VOCに直接曝されることを防止できる。以上から、高濃度VOCによって汚染された地盤においても嫌気性微生物によるVOCの分解を促進でき、当該地盤を浄化することができる。
【0008】
また、本発明の汚染地盤の浄化材では、前記栄養材は、グルコン酸及びグルコン酸塩、グルコン酸アミド、グルコン酸エステル、グルコン酸無水物等のグルコン酸誘導体のうち少なくとも1種以上含有することが好ましい。これによって、嫌気性微生物を速やかに活性化及び増殖させることができ、高濃度VOCによって汚染された地盤をより効率よく浄化できる。
【0009】
また、本発明の汚染地盤の浄化材において、前記共生微生物は、水素生成菌、硫酸還元菌、及び、メタン生成菌の少なくとも1種を含むことが好ましい。
嫌気性微生物は、水素を利用してVOCを脱塩素化するので、水素生成菌を汚染地盤に与えることにより、嫌気性微生物に対して水素を供給できる。また、嫌気性微生物は、水素濃度が所定値を超えると成育が阻害されることがある。そこで、水素を消費する硫酸還元菌及びメタン生成菌の何れか一方又は両方を汚染地盤に供給することにより、地盤中の水素濃度を所定値以下に調整できる。
【0010】
また、本発明の汚染地盤の浄化材では、前記担体は、前記共生微生物が生息する黒ボク土であり、前記共生微生物は、前記黒ボク土の添加によって供給されることが好ましい。 黒ボク土は、前述した共生微生物が生息しており、嫌気性微生物も生息可能であるため、嫌気性微生物の良好な繁殖場となる。また、黒ボク土の中に生息することで、嫌気性微生物が汚染地盤中において高濃度のVOCに曝されることを防止できる。また、黒ボク土には、嫌気性微生物の成育に必要な微量要素(無機塩類)が含有されている。このため、高濃度VOCによって汚染された地盤中においても、共生微生物によって嫌気性微生物がVOCを分解するのに適した環境を形成できると共に、嫌気性微生物を増殖させることができる。よって、高濃度VOCによって汚染された地盤を速やかに浄化できる。
【0011】
また、本発明の汚染地盤の浄化材では、前記黒ボク土の存在下で培養された前記嫌気性微生物を、更に含有することが好ましい。
高濃度VOCによる汚染度合いによっては、嫌気性微生物が生息していないか、その生息数が極めて少ないことが想定される。このような汚染地盤に対しては、外部で培養した嫌気性微生物を供給することで、VOCを分解することができ、地盤を浄化できる。そして、黒ボク土の存在下で嫌気性微生物を培養することで、黒ボク土に生息する共生微生物によって、嫌気性微生物の活性化が促進される環境を形成でき、かつ、微量要素をバランスよく供給できる。よって、黒ボク土の存在下で培養された嫌気性微生物は、高濃度VOCの存在下でも効率よく活性化され、地盤を速やかに浄化できる。
【0012】
また、前記課題を解決するための本発明は、
地盤に含まれるVOCの濃度が100mg/L以上である高濃度の揮発性有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤に、前記揮発性有機塩素化合物を分解する嫌気性微生物と共生関係にある共生微生物、前記嫌気性微生物を活性化する栄養材、及び、前記嫌気性微生物が生息可能な担体を含有する浄化材を加える工程と、
前記浄化材によって活性化された前記嫌気性微生物によって、前記汚染地盤に含まれる前記揮発性有機塩素化合物を分解させる工程と、
を行うことを特徴とする汚染地盤の浄化方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高濃度VOCによって汚染された地盤であっても浄化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は、対照区1に初期濃度が100mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(b)は、対照区1に初期濃度が300mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(c)は、対照区1に初期濃度が900mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフである。
【図2】(a)は、試験区1に初期濃度が100mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(b)は、試験区1に初期濃度が300mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(c)は、試験区1に初期濃度900mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフである。
【図3】(a)は、試験区2に初期濃度が100mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(b)は、試験区2に初期濃度が300mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(c)は、試験区2に初期濃度が900mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフである。
【図4】(a)は、試験区3に初期濃度が100mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(b)は、試験区3に初期濃度が300mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(c)は、試験区3に初期濃度900mg/LのTCE溶液を供給した場合のVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフである。
【図5】(a)は、対照区2におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(b)は、対照区3におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(c)は、試験区4におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(d)は、試験区5におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(e)は、試験区6におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(f)は、試験区7におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフである。
【図6】(a)は、対照区4におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(b)は、試験区8におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(c)は、試験区9におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(d)は、試験区10におけるVOC濃度と経過日数の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<<汚染地盤の浄化材について>>>
本実施形態にかかる汚染地盤の浄化材は、黒ボク土と、栄養材とを含有している。そして、VOCの濃度が100mg/L以上の、高濃度のVOCで汚染された地盤に加えられる。
【0016】
尚、VOCには、PCE(テトラクロロエチレン)、TCE、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、Cis−DCE(ジクロロエチレン)、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,3−ジクロロプロペン、トランス1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー等が含まれる。
【0017】
また、VOC分解菌(VOCを分解できる嫌気性微生物)は、嫌気条件下においてPCEやTCEをエチレンにまで分解して無害化できる嫌気性のデハロコッコイデス属細菌を含むことが好ましい。尚、この他のVOC分解菌としては、メタノバクテリウム属、メタノサルシナ属、メタノロブス属、アセトバクテリウム属、デスルフォバクテリウム属、デスルフォモニル属、デハロスピリルム属、デハロバクター属、デハロバクテリウム属、クロストリジウム属等の嫌気性分解菌が挙げられる。
【0018】
これらのVOC分解菌は、水素を利用してVOCを脱塩素化する。これによって、VOC分解菌はエネルギー(ATP)を獲得して増殖すると共に、TCEをシス−1,2−ジクロロエチレン(Cis−DCE)、塩化ビニル(VC)を経てエチレンにまで分解して無害化する。
【0019】
===黒ボク土について===
黒ボク土は、団粒構造(土壌の粒子が集合体をなしている構造)が発達し、有機物を豊富に含んだ黒色を呈する土壌であり、共生菌(共生微生物)が生息している。また、黒ボク土はVOC分解菌が生息可能な担体となる。共生菌としては、水素生成菌、メタン生成菌、硫酸還元菌、好気生菌等が挙げられる。更に、黒ボク土は、VOC分解菌及び共生菌の成育に必要な微量要素を含有している。微量要素としては、マンガン、鉄、モリブデン、銅、亜鉛等の無機塩類が挙げられる。
【0020】
===栄養材について===
栄養材は、グルコン酸及びグルコン酸塩、グルコン酸アミド、グルコン酸エステル、グルコン酸無水物等のグルコン酸誘導体のうち少なくとも1種以上含有し、VOC分解菌の炭素源(C)および水素供与体となってVOC分解菌を活性化させる。尚、グルコン酸ナトリウム(C11Na)は特に、VOC分解菌を増殖させるための炭素源として分解及び吸収されやすいうえに、キレート剤等として工業的に広く普及している。このため、グルコン酸ナトリウムを含有する栄養材を用いることで、より効率よく且つ安価にVOC分解菌を活性化させることができる。
【0021】
また、栄養材は、グルコン酸ナトリウムに加えて、VOC分解菌を増殖させるために必要な栄養源である窒素源(N)及びリン源(P)を更に含有することが好ましい。例えば、炭素源のグルコン酸ナトリウムと、窒素源の尿素と、リン源のリン酸二水素カリウムとが配合された栄養材(商品名:クロロクリン)を用いることがより好ましい。これによって、VOC分解菌をより効率よく活性化させて増殖させることができる。
【0022】
===第1確認試験について===
本実施形態にかかる浄化材によるVOC分解効果を確認するべく、第1確認試験を行った。第1確認試験では、VOCとしてTCEを採用し、100mg/L、300mg/L、900mg/Lの高濃度に調整したTCE溶液に対する浄化材の浄化作用について検討した。
【0023】
具体的には、表1に示す作製条件に基づいて対照区1及び試験区1乃至3を作製し、TCE溶液に対して、何も加えない場合(対照区1)、クロロクリンのみを加えた場合(試験区1)、クロロクリン及び酵母エキスを加えた場合(試験区2)、浄化材(クロロクリン及び黒ボク土)を加えた場合(試験区3)についてそれぞれ比較検討を行った。
【0024】
−表1−

【0025】
以下、対照区1及び試験区1乃至3の作製方法について説明する。
【0026】
対照区1は、TCE溶液に、無機塩類溶液とpH調整剤と分解菌液とを添加することで作製される。TCE溶液は、水道水とTCE飽和溶液とをメジューム瓶内に加えることで作製される。ここで、TCE溶液の濃度は100mg/L、300mg/L、900mg/Lとなるように調整される。
【0027】
濃度の異なる3種類のTCE溶液を作製したならば、これらのTCE溶液のそれぞれに無機塩類溶液とpH調整剤と分解菌液とを添加する。
【0028】
無機塩類溶液は、例えば表2に示す無機塩類を水に溶解したものである。具体的には、水1Lあたり、CaClを100mg、MgClを200mg、FeClを400mg、ほう酸を0.1mg、塩化亜鉛を2.87mg、塩化コバルトを0.48mg、モリブデン酸ナトリウムを0.48mg、硫酸銅を1.25mg、硫酸マンガンを2.23mg、及び、ヨウ化ナトリウムを8.3mgの割合で溶解したものである。そして、この無機塩類溶液1mLを各TCE溶液に添加する。
【0029】
pH調整剤は、溶液のpHを6より大きく9より小さい中性範囲に維持するための添加剤である。本実施形態では、6%の重曹溶液を用いている。そして、このpH調整剤4.0mLを各TCE溶液に添加する。
【0030】
分解菌液は、前述のVOC分解菌を培養することで得られた溶液である。本実施形態では、この分解菌液12mL(すなわち、メジューム瓶内の溶液全体の約10%)を各TCE溶液に添加する。
【0031】
−表2−

【0032】
試験区1は、対照区1と同様に調整したメジューム瓶内に、更にクロロクリン(12%溶液)を2.0mL添加することで作製した。尚、クロロクリンは、表2に示すように、グルコン酸ナトリウム(93%)、尿素(6%)、及び、リン酸二水素カリウム(1%)の混合物1000mgを1Lの水に溶解したものである。
【0033】
試験区2は、対照区1と同様に調整したメジューム瓶内に、更にクロロクリン(12%溶液)を1.0mLと、酵母エキス2.0mLとを添加することで作製した。尚、酵母エキスは、たんぱく質やアミノ酸及びビタミン類を含み、VOC分解菌を活性化させる栄養材である。
【0034】
試験区3は、対照区1と同様に調整したメジューム瓶内に更に、クロロクリン(12%溶液)を2.0mLと、黒ボク土懸濁液1.0mLとを添加することで作製した。尚、黒ボク土懸濁液は、黒ボク土と水道水を1対5の割合で混合し、スターラで4時間攪拌したものである。この場合において、黒ボク土の添加量は0.2gに相当する。
【0035】
===第1確認試験の結果について===
作製した対照区1及び試験区1乃至3を静置し、所定日数が経過するごとにそれぞれのメジューム瓶内のVC濃度、Cis−DCE濃度及びTCE濃度を測定した。この測定の結果を、対照区1について図1(a)乃至(c)に、試験区1について図2(a)乃至(c)に、試験区2について図3(a)乃至(c)に、試験区3について図4(a)乃至(c)にそれぞれ示す。尚、VOC分解菌によってTCEが分解されるとCis−DCEを経てVCに分解される。このため、対照区1及び試験区1乃至3のメジューム瓶内のCis−DCE及びVCの濃度をそれぞれ測定することで、VOC分解菌によってTCEが分解されているか否かを確認できる。
【0036】
対照区1では、図1(a)乃至(c)に示すように、TCE溶液の初期濃度が100mg/L、300mg/L、900mg/L何れの場合も、Cis−DCE及びVCは発生しておらず、TCEが分解された傾向は見られない。よって、汚染土壌に存在するVOC分解菌だけでは、或いは外部からVOC分解菌のみを加えただけでは、TCE濃度が100mg/L以上であるような高濃度VOCで汚染された地盤の浄化は困難であると考えられる。
【0037】
試験区1では、図2(a)及び(b)に示すように、TCE溶液の初期濃度が100mg/L、300mg/Lの場合、TCE濃度が減少し、Cis−DCEの発生が確認できた。このため、TCEはCis−DCEに分解されたといえる。しかし、図2(c)に示すように、TCE溶液の初期濃度が900mg/Lの場合、Cis−DCE及びVCは発生しておらず、TCEが分解された傾向は見られない。
【0038】
よって、汚染土壌に存在するVOC分解菌にグルコン酸を主成分とする栄養材(すなわちクロロクリン)を与えた場合には、或いは、外部からVOC分解菌と上記の栄養材とを加えた場合には、高濃度のVOCによって汚染された地盤の浄化は困難と考えられる。具体的には、100〜300mg/Lの濃度範囲においては、TCEをCis−DCEにしか分解できず、また900mg/L程度の極めて高濃度の場合には、Cis−DCEへの分解も困難であると考えられる。
【0039】
試験区2では、図3(a)及び(b)に示すように、TCE溶液の初期濃度が100mg/L、300mg/Lの場合、TCE濃度が減少し、Cis−DCE及びVCが発生した後、Cis−DCE濃度及びVC濃度も減少した。すなわち、100mg/L及び300mg/Lの場合、TCEがCis−DCE及びVCを経て分解されたと考えられる。しかし、図3(c)に示すように、TCE溶液の初期濃度が900mg/Lの場合、Cis−DCE及びVCは発生しておらず、TCEが分解された傾向は見られない。
【0040】
よって、汚染土壌に存在するVOC分解菌にグルコン酸を主成分とする栄養材及び酵母エキスを与えた場合には、或いは、外部からVOC分解菌と上記の栄養材と酵母エキスとを加えた場合には、900mg/L程度の極めて高濃度で汚染された地盤の浄化は困難と考えられる。
【0041】
試験区3では、図4(a)及び(b)に示すように、TCE溶液の初期濃度が100mg/L、300mg/Lの場合、TCE濃度が減少し、Cis−DCE及びVCが発生した後、Cis−DCE濃度及びVC濃度も減少した。また、図4(c)に示すように、TCE溶液の初期濃度が900mg/Lの場合、TCE濃度が減少し、Cis−DCEが発生した。
【0042】
よって、汚染土壌に存在するVOC分解菌に本実施形態の浄化材を与えた場合には、或いは、外部からVOC分解菌と本実施形態の浄化材とを与えた場合には、高濃度のVOCによって汚染された地盤を浄化できると考えられる。具体的には、100〜300mg/Lの濃度範囲においては、TCEを完全に分解できると考えられ、900mg/Lの高濃度であっても、TCEをCis−DCEまでは分解できると考えられる。
【0043】
===第2確認試験について===
更に、VOC分解菌によるVOCの分解において、共生菌による効果及び黒ボク土の担体としての効果を確認するべく、第2確認試験を行った。この第2確認試験では、VOCとしてTCEを採用し、800mg/Lの高濃度に調整したTCE溶液に対する浄化作用について検討した。
【0044】
具体的には、表3に示す作製条件に基づいて対照区2、3及び試験区4乃至7を作製し、TCE溶液に対して、何も加えない場合(対照区2)、クロロクリンのみを加えた場合(対照区3)、本実施形態の浄化材を加えた場合(試験区4)、小麦フスマを加えた場合(試験区5)、タキアーゼ(商品名)を加えた場合(試験区6)、山砂及びクロロクリンを加えた場合(試験区7)についてそれぞれ比較検討を行った。
【0045】
−表3−

【0046】
以下、対照区2、3及び試験区4乃至7の作製方法について説明する。
【0047】
対照区2は、TCE溶液に、無機塩類溶液とpH調整剤と分解菌液とを添加することで作製される。TCE溶液は、メジューム瓶内に、濃度が800mg/LとなるようにTCE飽和溶液を加えることで作製される。具体的には、100mLのTCE飽和溶液を加えることで作製される。そして、このTCE溶液に対して、無機塩類溶液1mLと、pH調整剤4.0mLと、分解菌液10mLとを添加する。なお、無機塩類溶液、pH調整剤、及び、分解菌液については先に説明したものと同じものを用いる。
【0048】
対照区3は、対照区2と同様に調整したメジューム瓶内に、更にクロロクリン(12%溶液)を2.0mL添加することで作製される。
【0049】
試験区4は、対照区2と同様に調整したメジューム瓶内に、更に浄化材(黒ボク土2.0g及びクロロクリン2.0mL)を添加することで作製される。尚、メジューム瓶内のクロロクリン濃度は約0.2%である。
【0050】
試験区5は、対照区2と同様に調整したメジューム瓶内に、更に小麦フスマ2.0gを添加することで作製される。小麦フスマは、小麦の皮であり、VOC分解菌を活性化させるための栄養分を含むと共に、VOC分解菌が生息可能となっている。しかし、この小麦フスマに共生菌は生息していない。
【0051】
試験区6は、対照区2と同様に調整したメジューム瓶内に、更にタキアーゼ2.0gを添加することで作製される。タキアーゼは、市販の土壌改良剤であり、VOC分解菌を活性化させるための栄養分を含んでいる。
【0052】
試験区7は、対照区2と同様に調整したメジューム瓶内に、更に山砂2.0gとクロロクリン2.0mLとを添加する。山砂は、団粒構造を形成していないためVOC分解菌の生息が困難であり、VOC分解菌を活性化させる栄養分及び共生菌をほぼ含んでいない。
【0053】
===第2確認試験の結果について===
作製した対照区2、3及び試験区4乃至7を静置し、所定日数が経過するごとにそれぞれのメジューム瓶内のVC濃度、Cis−DCE濃度及びTCE濃度を測定した。この測定の結果を、対照区2について図5(a)に、対照区3について図5(b)に、試験区4について図5(c)に、試験区5について図5(d)に、試験区6について図5(e)に、試験区7について図5(f)にそれぞれ示す。
【0054】
試験区4を除く、対照区2、3及び試験区5乃至7では、Cis−DCE濃度及びVC濃度が上昇することはなく、TCEが分解された傾向は見られない。一方、試験区4では、Cis−DCE濃度が上昇した。よって、TCE溶液に本実施形態の浄化材を添加した場合のみ、TCE濃度が800mg/Lであるような高濃度VOCの存在下で、VOC分解菌によってTCEをCis−DCEまで分解できることが確認された。
【0055】
尚、クロロクリンに対する黒ボク土の添加量は0.2〜2%となる範囲に調整することが好ましい。このように試験区4を調整することで、対照区2、3及び試験区5乃至7と比較して、VOCの分解が好適に促進できる。
【0056】
===考察===
以上の第1、第2確認試験の結果から、グルコン酸を主成分とする栄養材を黒ボク土懸濁液とともに与えることで高濃度のVOCを分解できることが確認できた。その理由として、次のことが考えられる。
【0057】
まず、水素生成菌が水素の供給源として機能したことが挙げられる。前述したように、VOCを嫌気的に分解するVOC分解菌は、水素を利用してVOCを脱塩素化するが、VOC分解菌は水素を生成することができない。黒ボク土に生息する水素生成菌は、有機酸を電子供与体とした脱水素反応によって水素を生成し、かつ、エネルギー(ATP)を獲得して増殖する。そして、グルコン酸は、地盤に供給されると比較的早期に分解されて有機酸(例えば酢酸)を生成する。このため、栄養材を黒ボク土懸濁液とともに与えると、グルコン酸から生成された有機酸を用いて水素生成菌が水素を生成する。この水素をVOC分解菌が利用することでVOCを分解するとともに増殖する。
【0058】
また、硫酸還元菌やメタン生成菌が過剰な水素を消費したことが挙げられる。上記のVOC分解菌は水素濃度が所定値を超えると成育が阻害されるが、黒ボク土に生息する硫酸還元菌やメタン生成菌が余剰な水素を消費する。これにより、地盤中の水素濃度が所定値以下に調整され、VOC分解菌の活動に適した環境が形成されたと考えられる。
【0059】
また、好気性微生物が酸素を消費したことが挙げられる。上記のVOC分解菌は嫌気性であるため、好気性微生物が酸素を消費することで早期に嫌気環境が形成され、活動に適した環境が形成されたと考えられる。
【0060】
また、黒ボク土には、微量要素(無機塩類)も含有されているので、この点でもVOC分解菌の繁殖が促進されると考えられる。
【0061】
さらに、黒ボク土が、VOC分解菌の担体となったことが挙げられる。前述したように、黒ボク土は団粒構造を有しているので、VOC分解菌は団粒構造で形成される隙間に生息することができる。これにより、VOC分解菌が高濃度VOCに直接曝されることを防止できる。また、黒ボク土にはVOC分解菌の共生菌が生息しているので、VOC分解菌の活動に適した環境が形成されやすく、VOC分解菌の良好な繁殖場となる。これらも、高濃度のVOCを分解することに寄与していると考えられる。
【0062】
そして、現場においては、本実施形態の浄化材を汚染地盤に加える工程と、この浄化材によって活性化されたVOC分解菌によって汚染地盤に含まれるVOCを分解させる工程とを行うことで、高濃度VOCによって汚染された地盤中においても、VOCを分解できると共に、微量要素及び栄養材によってVOC分解菌を活性化させることができる。その結果、高濃度VOCによって汚染された地盤を一層効率よく浄化できると考えられる。
【0063】
<<<他の実施形態にかかる汚染地盤の浄化材について>>>
前述した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0064】
例えば、前述した汚染地盤の浄化材は、汚染地盤に加えられることで汚染地盤に常在するVOC分解菌を活性化させていたが、これに限定されるものではない。
【0065】
例えばVOC分解菌が生息していない又は生息数が少ない汚染地盤においては、培養されたVOC分解菌を含有させてもよい。すなわち、浄化材に、黒ボク土と、栄養材と、VOC分解菌とを含有させるようにしてもよい。このように構成すると、VOC分解菌が生息していない又は生息数が少ないような、高濃度VOCによって汚染された地盤であっても、その浄化を行うことができる。
【0066】
そして、このVOC分解菌に関しては、黒ボク土の存在下で培養されたものが好ましい。これは、黒ボク土中に生息している共生菌が、VOC分解菌の活性化が促進されるような環境を形成すること、及び、黒ボク土に含まれる微量要素(無機塩類)がVOC分解菌の活性を促すからである。
【0067】
===第3確認試験について===
外部からVOC分解菌を導入する場合、雑菌の悪影響を抑制するためVOC分解菌を継代培養することが行われる。そして、この継代培養でVOC分解菌をより多く増殖させるためには、共生菌の存在が必要となる。換言すると、VOC分解菌を継代培養する過程で共生菌の数が減少してしまうと、VOC分解菌を活性化させることが困難になる。この場合、継代培養されたVOC分解菌を汚染地盤に供給しても、VOCを速やかに分解できない虞がある。
【0068】
そこで、継代培養する過程で黒ボク土を添加することを考え、黒ボク土の存在下で継代培養されたVOC分解菌を含有する浄化材の浄化作用を確認するべく、第3確認試験を行った。
【0069】
この第3確認試験では、先ず、培地に5回の植え継ぎを行ってVOC分解菌を継代培養し、5回目の植え継ぎが終わった後の分解菌液を用いて、表4に示す条件に基づき対照区4及び試験区8乃至10を作製した。
【0070】
−表4−

【0071】
対照区4は、黒ボク土を添加せずに継代培養したVOC分解菌を用いた浄化材である。試験区8は、3回目の植え継ぎの際に培地に対して黒ボク土懸濁液を1%(黒ボク土として0.2%相当)添加して培養したVOC分解菌を用いた浄化材である。試験区9は、3回目及び4回目の植え継ぎの際に培地に対して同様に黒ボク土懸濁液を添加して培養したVOC分解菌を用いた浄化材である。試験区10は、3回目乃至5回目の植え継ぎの際に培地に対して同様に黒ボク土懸濁液を添加して培養したVOC分解菌を用いた浄化材である。
【0072】
そして、対照区4及び試験区8乃至10について、それぞれ10mg/Lに調整されたTCE溶液に対するVOC分解試験を行った。
【0073】
VOC分解試験では、対照区4及び試験区8乃至10に対して、地下水90mLと、分解菌液10mLとを添加した。そして、pH調整剤として炭酸水素ナトリウムを0.4g添加して、溶液のpHを7.5〜8に調整した。また、表2のクロロクリン及び無機塩類を添加した。さらに、TCE飽和溶液(100mg/L)を500μL添加して、TCE溶液の濃度が10mg/Lとなるように調整した。
【0074】
===第3確認試験の結果について===
作製した対照区4及び試験区8乃至10を静置し、所定日数が経過するごとにそれぞれのメジューム瓶内のVC濃度、Cis−DCE濃度及びTCE濃度を測定した。この測定の結果を、対照区4について図6(a)に、試験区8について図6(b)に、試験区9について図6(c)に、試験区10について図6(d)にそれぞれ示す。
【0075】
また、VOC分解試験後のメジューム瓶内のVOC分解菌(デハロコッコイデス属細菌)の菌数を検出した。尚、このVOC分解菌数の検出は、遺伝子(16SrDNA)をリアルタイムPCR法により定量検出することで行った。この検出の結果を、表5に示す。
【0076】
−表5−

【0077】
図6(a)に示すように、対照区4では、VOCがCis−DCE、VCを経て完全に分解されるまでに49日を要した。これに対して、図6(b)乃至(d)に示すように、試験区8乃至10では、VOCが分解されるまでの期間は15〜22日であり、対照区4と比較してVOC分解期間を約半分に短縮できたといえる。表5に示すように、特に試験区10におけるVOC分解菌数は対照区4及び試験区8、9におけるVOC分解菌数と比較して約1/100であるにもかかわらず、VOC分解期間は21日に短縮されている。つまり、VOCを効率よく分解するためには、VOC分解菌と共生菌とをバランスよく汚染地盤に供給することが重要であるといえる。
【0078】
===補足===
尚、前述した汚染地盤の浄化材は、黒ボク土を含有していることとしたが、特にこれに限定されるものではなく、VOC分解菌が生息可能な担体であればよい。また、浄化材は、黒ボク土とは別に微量要素が添加されてもよい。
【0079】
また、前述した汚染地盤の浄化材に含まれる共生菌は、水素生成菌、メタン生成菌、硫酸還元菌、好気生菌に限らず、VOC分解菌の活性化を促進する菌であればよい。
【0080】
また、浄化材に含まれる黒ボク土の添加量は、栄養材(クロロクリン)に対して0.2〜2%と少量であり、黒ボク土に他の雑菌が含まれていた場合であっても、これらの雑菌数はごく僅かである。また、高濃度VOCの存在する環境はこれらの雑菌の生息に適していない。よって、黒ボク土に含まれる共生菌以外の雑菌が増殖することによる影響は考慮する必要がないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に含まれるVOCの濃度が100mg/L以上である高濃度の揮発性有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤に加えられ、前記揮発性有機塩素化合物を分解する嫌気性微生物を活性化させることで、前記汚染地盤を浄化する汚染地盤の浄化材であって、
前記嫌気性微生物と共生関係にある共生微生物と、
前記嫌気性微生物を活性化する栄養材と、
前記嫌気性微生物が生息可能な担体と、
を含有することを特徴とする汚染地盤の浄化材。
【請求項2】
前記栄養材は、グルコン酸及びグルコン酸塩、グルコン酸アミド、グルコン酸エステル、グルコン酸無水物等のグルコン酸誘導体のうち少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の汚染地盤の浄化材。
【請求項3】
前記共生微生物は、水素生成菌、硫酸還元菌、及び、メタン生成菌の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染地盤の浄化材。
【請求項4】
前記担体は、前記共生微生物が生息する黒ボク土であり、
前記共生微生物は、前記黒ボク土の添加によって供給されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の汚染地盤の浄化材。
【請求項5】
前記黒ボク土の存在下で培養された前記嫌気性微生物を、更に含有することを特徴とする請求項4に記載の汚染地盤の浄化材。
【請求項6】
地盤に含まれるVOCの濃度が100mg/L以上である高濃度の揮発性有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤に、前記揮発性有機塩素化合物を分解する嫌気性微生物と共生関係にある共生微生物、前記嫌気性微生物を活性化する栄養材、及び、前記嫌気性微生物が生息可能な担体を含有する浄化材を加える工程と、
前記浄化材によって活性化された前記嫌気性微生物によって、前記汚染地盤に含まれる前記揮発性有機塩素化合物を分解させる工程と、
を行うことを特徴とする汚染地盤の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−231144(P2011−231144A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99890(P2010−99890)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】