説明

汚染測定用サンプルの採取方法

【課題】対象物から切削によって切り出した場合においても、深さ方向の汚染程度を正確に把握して除染作業の合理化を図ることができる測定用サンプルの採取方法を提供する。
【解決手段】汚染された対象物を、円筒状の切削工具によって深さ方向に切削することにより円柱状のサンプル母材を切り出し、このサンプル母材を深さ方向の複数部位において円板状に切断した円板状のサンプル母材10の外周部分を切断除去して汚染測定用サンプル11を採取するに際して、円板状のサンプル母材10の外周縁10aと汚染測定用サンプル11の最外周部11aとの間の長さ寸法Lが、対象物の毛細管現象による液体の浸透深さ以上となるように、円板状のサンプル母材10の外周部分10bを切断除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能汚染が浸透したコンクリート造の原子力施設等において、対象物となる上記コンクリートの汚染状況を確認する際等に用いられる汚染測定用サンプルの採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉等を格納した原子力施設や放射線発生装置を収納した施設等は、内部で発生した放射性物質の外部への放出を防止するために、厚さ寸法の極めて大きな鉄筋コンクリート等の構造体によって遮蔽されている。
このような施設においては、原子炉や放射線発生装置の使用に伴って内部で発生する放射性物質に起因して、上記構造体が、ある程度の深さまで放射能が浸透することにより汚染されている可能性がある。また、放射線により上記構造体自体が放射化する可能性もある。
【0003】
このため、上記施設の使用終了や老朽化等により、当該施設を取り壊す際には、予め上記構造体からサンプルを採取し、その深さ方向の汚染程度を測定することにより、放射化あるいは汚染によって放射能を帯びた部位を特定して、別途放射性廃棄物として廃棄・除去する必要がある。
【0004】
また、工場用地を住宅用地等に転用する際にも、土壌が重金属等によって化学的に汚染された可能性のある場合には、地表から所定の深さ部分まで、深さ毎の土壌サンプルを採取して汚染状況を測定し、汚染が特定された深さまで土質改良等を行うといった対策が講じられている。
【0005】
ところで、上記コンクリートや土壌等の対象物に対する汚染測定においては、いずれも上記対象物の各種部位の代表ポイントからサンプルを採取して、汚染の程度(汚染濃度)を測定するものであるが、上記対象物における汚染の程度は、一般的に表面からの深さに応じて変化するために、上記代表ポイントから所定深さ毎の複数のサンプルを採取する必要がある。
【0006】
そこで、従来、上記汚染測定用サンプルを採取する場合には、一般的に図4に示すようなダイヤモンドコア等の円筒状の回転切削工具1によって、対象物2の代表ポイントを深さ方向に円柱状に切削して当該対象物2から引き抜き、図5および図6に示すように、得られた円柱状のサンプル母材3を、深さ方向の複数部位において円板状に切断することにより、円板状の汚染測定用サンプル3aを得ていた。
【0007】
ところが、上記汚染測定用サンプル3aをそのまま測定用に使用すると、上記切削工具1によって対象物2を円柱状に切削する際に、切削工具1の刃によって汚染物質が深さ方向に移行して、汚染のない深さの部位の汚染測定用サンプル3aも汚染されてしまう(クロスコンタミネーション)ために、正確な汚染濃度を評価することができなくなる虞がある。
【0008】
また、下記特許文献1にも従来技術として記載されるように、通常摩擦熱によって切削力が低下しないように、水等の冷媒を切削部に供給してため、円柱状のサンプル母材3の表面は、上記冷媒によって湿った状態になり、この結果対象物2中に含まれる水溶性の汚染物質が、上記湿分に乗って移動し、汚染濃度の評価精度を落とすという問題点もある。
このため、一般に、上記円板状の汚染測定用サンプル3aの外周面を、旋盤やフライス盤等によって削り落としていた。
【特許文献1】特開2003−232880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記従来の測定用サンプルの採取方法にあっては、汚染測定用サンプル3aの外周面を旋盤等によって削り落としているために、上述した円柱状のサンプル母材3の表面におけるクロスコンタミネーションや湿分によって移動した汚染物質は除去することができるものの、特に対象物2がコンクリートやモルタル等の気泡を含む材料である場合には、表面に生じる圧力差によって起こる透水よりも、毛細管現象による浸透の方が影響が大きいため、汚染物質が上記冷媒とともに円柱状のサンプル母材3の内部に浸透することにより、同様に汚染濃度を正確に把握することが難しくなるという問題点があった。
【0010】
また、近年、深部に放射能汚染が認められる構造体の解体事案が増えた背景があることに加えて、上記測定結果によっては除染作業量が大きく変動するために、従来と同様に湿式切削によって対象物からサンプル母材を切り出した場合や、乾式切削によって上記サンプル母材を切り出した後に洗浄する場合においても、高い精度で汚染濃度の評価を行うことができる測定用サンプルの採取方法の開発が要請されている。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、対象物から切削によってサンプル母材を切り出した場合において、湿分よる汚染物質の表面の移動や内部への浸透に起因して汚染濃度の測定精度が低下することが無く、よって深さ方向の汚染程度を正確に把握して除染作業の合理化を図ることができる測定用サンプルの採取方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、汚染された対象物を、円筒状の切削工具によって深さ方向に切削することにより円柱状のサンプル母材を切り出し、得られた円柱状のサンプル母材を上記深さ方向の複数部位において円板状に切断した後に、当該円板状のサンプル母材から汚染測定用サンプルを採取する汚染測定用サンプルの採取方法において、上記円板状のサンプル母材の外周縁と上記汚染測定用サンプルの最外周部との間の長さ寸法が、上記対象物の毛細管現象による液体の浸透深さ以上となるように、上記円板状のサンプル母材の外周部分を除去して上記汚染測定用サンプルを得ることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記汚染測定用サンプルを、その角部と上記円板状のサンプル母材の外周縁との長さ寸法が、上記対象物の毛細管現象による上記液体の浸透深さ以上となるように、上記円板状のサンプル母材の外周部分を直線状に切断して方形板状に形成することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記対象物が、コンクリートであり、かつ上記汚染測定用サンプルの最外周と上記円板状のサンプル母材の外周縁との長さ寸法が10mm以上となるように、上記円板状の母材の外周部分を除去することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、対象物から切削によって切り出した円柱状のサンプル母材を、さらに深さ方向の複数部位において円板状に切断し、得られた円板状のサンプル母材から汚染測定用サンプルを採取するに際して、上記円板状のサンプル母材の外周縁と汚染測定用サンプルの最外周部との間の長さ寸法が、上記対象物の物性によって決定される毛細管現象による液体の浸透深さ以上となるように、上記円板状のサンプル母材の外周部分を切断除去しているために、上記液体によって生じる上記サンプル母材の表面における汚染物質の移動のみならず、毛細管現象による内部への汚染物質の浸透に対する影響も排除することができる。
【0016】
このため、汚染濃度の測定精度が低下することが無く、よって深さ方向の汚染程度を正確に把握して除染作業の合理化を図ることができる。
なお、上記液体とは、水等の切削液を供給する湿式切削によりサンプル母材の切り出しを行った場合には、上記切削液であり、また乾式切削により上記サンプル母材の切り出しを行った場合には、切り出した後の上記サンプル母材を洗浄するための洗浄液が該当する。
【0017】
ところで、上記円板状のサンプル母材の外周部分を除去して汚染測定用サンプルを得る際に、上記円板状サンプル母材を回転させて、その外周を旋盤等の切削刃によって削ることにより円板状の汚染測定用サンプルを採取すると、当該切削刃によって円板状サンプル母材の外周面が連続的にトレースされるために、汚染物質の一部が最終的な汚染測定用サンプルの外周面にも残存する虞がある。
【0018】
このため、上記汚染測定用サンプルを円板状に形成する場合には、上記円板状のサンプル母材を固定し、当該サンプル母材の切り出しに用いたものよりも小径の円筒状の切削工具で、上記円板状のサンプル母材を、同心的にかつ軸心方向に沿って切削して、その外周部分をリング状に除去れば、上記サンプル母材の外周面から汚染測定用サンプルの外周面への汚染物質の移動を確実に防止することができるために好ましい。
【0019】
また、請求項2に記載の発明のように、円板状のサンプル母材を固定し、その外周部分を直線状に切断して方形状の汚染測定用サンプルを採取するようにしても、同様に上記サンプル母材の外周面から汚染測定用サンプルの外周面への汚染物質の移動を確実に防止することができる。この際は、方形状の汚染測定用サンプルの4つの角部と、円板状のサンプル母材の外周縁との長さ寸法が、上記対象物の毛細管現象による上記液体の浸透深さ以上となるように設定すればよい。
【0020】
なお、請求項1または2に記載の発明において、対象物の毛細管現象による液体の浸透深さは、当該対象物の物性により得ることができる。
例えば、一般的なコンクリートに対する毛管上昇試験(4時間)において、10〜20mmの水の上昇が確認されている(雑誌「コンクリート工学」vol.32 No.12 1994年12月)。したがって、最も速い速度で浸透した場合にも、その速度は、5mm/hourである。
【0021】
一方、汚染測定用サンプルを採取する際に要する時間は、円柱状のサンプル母材の切り出し工程、円板状のサンプル母材への切断工程および円板状サンプル母材の外周部分の除去工程を含めて、約1時間である。
したがって、上記対象物がコンクリートである場合には、請求項3に記載の発明のように、汚染測定用サンプルの最外周と円板状のサンプル母材の外周縁との長さ寸法が10mm以上となるように、上記円板状のサンプル母材の外周部分を除去すれば、確実に当該コンクリートの毛細管現象による液体の浸透深さ以上を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る汚染測定用サンプルの採取方法を、コンクリート構造物(対象物)から汚染測定用サンプルを採取する場合に適用した第1の実施形態における特徴部分の工程を示すもので、他の工程については、図4〜図6に示したものと同様である。
すなわち、この採取方法においても、先ず図4に示すように、コンクリート構造物(対象物)2の代表ポイントを、ダイヤモンドコア等の円筒状の回転切削工具1によって深さ方向に円柱状に切削する。この際に、冷却用の水(液体)を切削部に供給する。
【0023】
そして、所定の深さまで切削した後に、切削部分を切削工具1とともに引き抜き、さらに切削孔部1内から抜き出すことにより、図5に示すような、円柱状のサンプル母材3を得る。
次いで、円柱状のサンプル母材3の深さ方向に沿って、所定のサンプリングピッチP毎に、所定の厚さ寸法(例えば、1cm)に切断して円板状のサンプル母材10を得る。
【0024】
そして、図1に示すように、円板状のサンプル母材10の外周縁10aと汚染測定用サンプル11の外周11aとの間の長さ寸法Lが、10mm以上となるように、円板状のサンプル母材10の外周部分10bをリング状に除去して円板状の汚染測定用サンプル11を採取する。
【0025】
(第2の実施形態)
また、図2および図3に示す第2の実施形態は、図6において得られた円板状のサンプル母材10の外周部分10bを直線状に切断することにより正方形の汚染測定用サンプル12を採取する場合を示すものである。
【0026】
すなわち、この実施形態においては、汚染測定用サンプル12の4つの角部12aと円板状のサンプル母材10の外周縁10aとの長さ寸法Lが、10mm以上となるように、円板状のサンプル母材10の外周部分10bを、円盤状のカッター等によって直線状に切断して正方形の板状に形成することにより、上記汚染測定用サンプル12を採取する。
【0027】
例えば、図6に示すように、円柱状のサンプル母材3から、直径D=75mmφの円板状のサンプル母材10を得て、汚染測定用サンプル12の4つの角部12aと円板状のサンプル母材10の外周縁10aとの長さ寸法L=10mmとなるように、直線状に切断すると、一辺の長さL0=39mmの正方形板状の汚染測定用サンプル12を採取することができる。
【0028】
以上のように、上記構成からなる汚染測定用サンプルの採取方法においては、冷却用の水を供給しつつ円筒状の切削工具1を用いた湿式切削によってコンクリート構造物2から切り出した円柱状のサンプル母材3を、さらに深さ方向の複数部位において円板状に切断し、得られた円板状のサンプル母材10から円形板状の汚染測定用サンプル11または正方形板状の汚染測定用サンプル12を採取するに際して、円板状のサンプル母材10の外周縁10aと、汚染測定用サンプル11の外周11aの間の長さ寸法Lあるいは汚染測定用サンプル12の4つの角部12aと間の長さ寸法Lが、10mm以上となるように円板状のサンプル母材10の外周部分10bを切断除去している。
【0029】
このため、上記冷却用の水によって生じるサンプル母材3の表面における汚染物質の移動のみならず、毛細管現象による内部への汚染物質の浸透に対する影響も排除することができる。この結果、汚染濃度の測定精度が低下することが無く、よって深さ方向の汚染程度を正確に把握して除染作業の合理化を図ることができる。
【0030】
また、特に第2の実施形態において示した汚染測定用サンプル12の採取方法においては、円板状のサンプル母材10を固定し、その外周部分を円盤状のカッター等によって直線状に切断して方形板状に形成しているために、円板状のサンプル母材10の外周面10aから汚染測定用サンプル12の外周面への汚染物質の移動を確実に防止することができる。
【0031】
なお、上記実施の形態においては、いずれも汚染測定用サンプル11、12を採取する対象物が、コンクリート構造物2である場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、本発明は、他の対象物、例えば重金属等によって化学的に汚染された土壌から、その地表から所定の深さ部分までの土壌サンプルを採取して汚染状況を測定する場合にも同様に適用することができる。
【0032】
また、上記実施形態においては、冷却用の水(液体)を切削部に供給する湿式切削によって円柱状のサンプル母材3を切り出す場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、乾式切削によって上記サンプル母材3を切り出した場合においても、通常外周面に付着した粉状の切り屑を液体によって洗浄しているために、当該洗浄液が毛細管現象によって内部に浸透する虞があり、よって同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態において円板状のサンプル母材から円形板状の汚染測定用サンプルを採取する状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第2の実施形態において円板状のサンプル母材から正方形板状の汚染測定用サンプルを採取する状態を示す斜視図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】対象物から円柱状のサンプル母材を切り出す状態を示す縦断面図である。
【図5】図4に示す工程によって切り出された円柱状のサンプル母材を示す斜視図である。
【図6】図5に示す円柱状のサンプル母材を切断して円板状のサンプル母材を得る状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 円筒状の切削工具
2 コンクリート構造物(対象物)
3 円柱状のサンプル母材
10 円板状のサンプル母材
10a 外周縁
10b 外周部分
11、12 汚染測定用サンプル
11a 外周
12a 角部
L 円板状のサンプル母材の外周縁と汚染測定用サンプルの最外周部との間の長さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された対象物を、円筒状の切削工具によって深さ方向に切削することにより円柱状のサンプル母材を切り出し、得られた円柱状のサンプル母材を上記深さ方向の複数部位において円板状に切断した後に、当該円板状のサンプル母材から汚染測定用サンプルを採取する汚染測定用サンプルの採取方法において、
上記円板状のサンプル母材の外周縁と上記汚染測定用サンプルの最外周部との間の長さ寸法が、上記対象物の毛細管現象による液体の浸透深さ以上となるように、上記円板状のサンプル母材の外周部分を除去して上記汚染測定用サンプルを得ることを特徴とする汚染測定用サンプルの採取方法。
【請求項2】
上記汚染測定用サンプルを、その角部と上記円板状のサンプル母材の外周縁との長さ寸法が、上記対象物の毛細管現象による上記液体の浸透深さ以上となるように、上記円板状のサンプル母材の外周部分を直線状に切断して方形板状に形成することを特徴とする請求項1に記載の汚染測定用サンプルの採取方法。
【請求項3】
上記対象物は、コンクリートであり、かつ上記汚染測定用サンプルの最外周と上記円板状の母材の外周縁との長さ寸法が10mm以上となるように、上記円板状のサンプル母材の外周部分を除去することを特徴とする請求項1または2に記載の汚染測定用サンプルの採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−150824(P2009−150824A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330340(P2007−330340)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】